自分の名前は自分と他者を区別する上で非常に重要 な情報の 1 つであり,他者の名前とは異なる意味を持 つと考えられる。Moray(1959)は,実験参加者の両 耳に異なるメッセージを提示し,片方の耳から聞こえ てくるメッセージを追唱させ,もう片方の耳から聞こ えるメッセージは無視させる実験を行った。その際, 無視するよう教示された方の耳に一般的な単語を提示 したときにはその単語を認識することはできなかった が,実験参加者の名前を提示したときには実験参加者 は自分の名前を聞きとることができた。この結果は, 自分の名前が注意を引きつける特別な刺激であること を示している。その後,Wood & Cowan(1995)はよ り統制された環境下で Moray(1959)の実験結果を確 かめている。
Moray(1959)の研究をうけて,自分の名前に対し
て視覚的な注意が向けられるか否かを扱った研究が行 われている。Shapiro, Caldwell, & Sorensen(1997)は 高速逐次視覚提示法(Rapid Serial Visual Presentation: 以下 RSVP とする)を用いて実験を行った。RSVP 課 題では,個々の刺激が同位置に高速提示され,実験参 加者はある特定の特徴手掛かりによって定義された ターゲットを検出することが求められる。例えば,緑 色の文字刺激(妨害刺激)系列の中に赤色の文字刺激 (ターゲット刺激)を挿入し,実験参加者は赤色の文 字を報告する。この課題においてターゲットを 2 つ設 定した場合,そのターゲットの時間間隔が短くなると 1 つ目のターゲットは高い確率で報告できるにもかか わらず,2 つ目のターゲットに対する検出率が低くな ること(注意の瞬き)が知られている(河原, 2004)。 Shapiro et al.(1997)は,検出率が低くなるとされる 2 つ目のターゲットとして自分の名前を提示した場合 に注意の瞬きが生起するのか否かを検討した。その結 果,2 つ目のターゲットが自分の名前の場合の検出率 は他者の名前が 2 つ目のターゲットである場合よりも 高く,注意の瞬き効果の減少が見られ,自分の名前に 対して視覚的な注意が向けられることが明らかにされ
名前の視覚的処理過程
1 ―メンタルローテーション課題を用いた検討
―熊谷 佐紀
子ども発達支援センター愛小野 史典
山口大学福田 廣
山口東京理科大学Visual processing of names in mental rotation tasks
Saki Kumagai (Child Development Support center Ai), Fuminori Ono (Yamaguchi University), and Hiroshi Fukuda (Tokyo University of Science, Yamaguchi)
In this study, we examined the difference in the processing of one’s own name and other people’s names using a mental rotation task. In Experiment 1, the observer’s own name and other common names were presented visually. In Experiment 2, the observer’s name and the names of people who were familiar to the observer were presented. The observer saw the name and judged whether it was mirror-reversed or not. The results show that reaction times and error rates were shorter, when the observer processed his/her own name compared to when processing others names. These findings might be due to peculiarities and familiarity of one’s own name. Key words: mental rotation, name, visual process.
The Japanese Journal of Psychology
2016, Vol. 87, No. 5, pp. 457–462 J-STAGE Advanced published date: September 10, 2016, doi.org/10.4992/jjpsy.87.14070 Correspondence concerning this article should be sent to: Fuminori Ono, Faculty of Education, Yamaguchi University, Yoshida, Yamaguchi 753-8511, Japan. (E-mail: [email protected]) 1 本論文は山口大学教育学部に提出した第 1 著者の卒業論文 の一部を加筆・修正したものである。
た。しかしながら,自分の名前は注意を引きつけない とする研究もある。Bundesen, Kyllingsbaek, Houmann, & Jensen(1997)は画面に 4 人の名前を提示し,赤色 で提示されるターゲットを報告する課題を行った。そ の結果,妨害刺激として自分の名前が含まれていても 課題の成績に違いは認められなかった。Kawahara & Yamada(2004)は,自分の名前に対して注意が向け られるかどうかは,観察者の課題に対する心的な「構 え」の違いによって説明できるとしている。 また,自分の名前について注意とは異なる観点で行 われた研究もある。塩田・堀内(2008)は自分と他者 の顔および名前の知覚について,プライミング課題を 用いて検討した。実験では,ターゲットを自分と有名 人の顔とし,プライムを自分と有名人の顔および名前 として課題を行った。実験参加者はプライム刺激の後 に提示されるターゲットに対して性別判断課題を行 い,ターゲットが提示されてから判断に要した時間を 測定した。その結果,プライムがターゲットと同一人 物である場合に反応時間が促進されるという反応パ ターンに自己と他者の違いはなく,自分と他者の顔お よび名前の知覚に質的相違がないことが示唆された。 しかし,プライムが黒色の四角形であったときには自 分の顔と名前に対する反応時間が最も短くなったこと から,処理にかかる時間という量的相違があるのでは ないかと結論づけられた。 以上に述べたように,自分の名前の知覚について 様々なアプローチによる研究がなされてきた(注意の 瞬き,プライミング)。しかしながら,これまでの研 究では,主に自分の名前に対する注意の向きやすさや 知覚しやすさに焦点が当てられており,自分の名前の 処理過程や操作過程に焦点を当てた研究は少ない。そ こで本研究では,メンタルローテーション課題を用い て,自分の名前の処理過程が他者の名前と異なるのか 否かを調べることを目的とする。 メンタルローテーションとは心的イメージ操作の 1 つである。Shepard & Metzler(1971)は,2 つの 3 次 元図形を異なる角度で提示し,それらが同じ物体か, 鏡映像の関係にある物体かを判断させた。その結果, 判断に要する時間は,2 つの図形の角度差が大きくな るにつれて直線的に延長した。このような結果が生じ るのは,方向にずれのある図形の心的イメージを実験 参加者が回転させるという心的操作を行った後に,2 つの図形の形態比較を行っているためだと考えられ る。回転角度の増加に伴う反応時間の増加は,2 次元 図形や文字などを刺激として用いた場合にも見られる ことが報告されている(Cooper & Shepard, 1973; 海老 原・岩永, 1994)。また,手や足といった身体部位の メンタルローテーションの場合は,その身体部位の生 体力学的な制約が影響することが明らかにされている (Parsons, 1987; Sekiyama, 1982)。さらに,刺激の複雑 性といった性質がメンタルローテーションに影響を与 えることも示されている(海老原・岩永, 1994; Koriat & Norman, 1985; Yuille & Steiger, 1982)。本研究におい て,もしも自分の名前と他者の名前の処理過程に何ら かの違いがあるならば,その違いは反応時間や誤反応 率に反映されると考えられる。例えば,我々の日常生 活では,自分の持ち物を確認する際に,様々な角度か ら持ち物に表記された自分の名前を確認する作業を繰 り返し行ってきた。従って,本研究において自分の名 前は他者の名前と比較してメンタルローテーションが 速くかつ正確に行われると考えられる。なお,本研究 では名字のことを「名前」と呼ぶこととする。 実 験 1 実験 1 では,実験参加者の名前と日本で世帯数の多 い名前を刺激として,自分の名前と他者の名前の視覚 的な処理過程の違いを検討した。 方 法 実験参加者 大学生および大学院生22名(男性4名, 女性 18 名,平均年齢 20.09 歳,SD = 1.16)。参加者の 選定に関しては,名前が漢字 2 文字の人物であり,半 数の参加者(11 名)の名前には左右対称文字が 1 文 字含まれるようにした。 刺激と装置 実験参加者の名前と他者の名前 6 人分 の計 7 人分の名前を刺激とした。刺激は全て 2 文字の 漢字からなる名前であった。他者の名前を選ぶ際には 左右対称文字の有無と名前を構成する漢字の画数につ いて考慮した。左右対称文字の有無については,例え ば「田中」のように名前の漢字が 2 文字とも左右対称 文字である場合,鏡映像は「中田」となり,鏡映像で ありながら正像とも考えられるために正像か鏡映像か の判断を行うことができない。したがって 2 文字とも 左右対称文字である名前は使用しなかった。同じ理由 により,名前の漢字が 2 文字とも左右対称である人物 を実験参加者としては選ばなかった。そして,2 文字 のうちのどちらかが左右対称文字である場合を左右対 称文字有りとし,左右対称文字がない場合を左右対称 文字無しとした。画数については画数が 10 画以上を 多い,5 画以下を少ないとして,2 文字とも画数が多 い場合,2 文字とも画数が少ない場合,画数が多い文 字と少ない文字で構成される場合の 3 パターンを想定 した。最終的に左右対称文字の有無(有,無)×画数 (多多,少少,多少)の 6 条件について,実験参加者 自身および実験参加者と同じ教室の同学年の学生の名 前を除いた名前の中から,条件ごとに日本で最も世帯 数の多い名前をそれぞれ選び,他者の名前とした(栗 原,高橋,鈴木,渡辺,山下,井上:高橋の「高」は 最後の 1 画に跳ねがあるため,左右対称ではないとし た)。参加者と他者の名前の画数の平均は 16.75 画(SD
= 5.88)であった。 1 人分の名前刺激において正像と鏡映像の 2 種類を, それぞれ 0°,45°,90°,135°,180°の 5 段階で回転さ せた,計 10 種類の刺激を作成した。文字のフォント は HGP ゴシック M,サイズは 72 ピクセル,文字の色 は黒色,背景は白色とした。実験機器は TOSHIBA 製 PC および心理学実験用ソフト SuperLabPro 4.5 を使用 した。 手続き 角度 5(0°,45°,90°,135°,180°)×像 2(正像,鏡映像)×名前 7(自分,他者 6 人分)の 70 種類の刺激が 1 回ずつ無作為な順に提示される 70 試行を1ブロックとし,3 ブロック行った(計 210 試 行)。 実験参加者に対しては,「これから画面中央に注視 点(+)が 500 ms 提示されます。そのあとに 2 文字の 漢字からなる日本人の名前が提示されます。提示され た文字が正像であればキーボードの“J”を,鏡映像 であればキーボードの“F”をできるだけ速くかつ正 確に押してください。キーを押すとまた注視点が 500 ms 提示され,次の刺激が提示されます」と教示した。 本試行を行う前に 2 種類の 2 文字つづりのアルファ ベット(AK と RF)を使って練習試行を 20 試行行った。 練習試行が終わると,次にエンターキーを押すことで 本試行が始まることを教示し,実験参加者のタイミン グで本試行を始めた。実験終了後に,参加者から内省 報告を取り,課題内容に誤解が無いか確かめた。 結 果 平均反応時間 名前 2(自分の名前,他者の名前) ×角度 5(0°,45°,90°,135°,180°)のそれぞれの 組み合わせについて平均反応時間を算出した(Figure 1)。他者の名前に関しては 6 人分の名前の反応時間の 平均を算出した。また,誤反応における反応時間は計 算から除外した。 平均反応時間について 2 要因分散分析を行った結 果,名前の主効果(F (1, 21) = 22.48,p < .001)と角 度の主効果(F (4, 84) = 28.18,p < .001)および交互 作用(F(4, 84) = 12.32,p < .001)が有意であった。 角度について多重比較(Ryan 法:Ryan, 1960)の結果, 0°と 45°の間以外,すべての条件間で有意差が認めら れた(p < .05)。単純主効果の検定を行った結果, 135°と 180°における名前の効果が有意であり(135°: F (1, 105) = 12.92,p < .001; 180°: F (1, 105) = 65.39, p < .001),自分の名前と他者の名前における角度の 効果がそれぞれ有意であった(自分の名前 : F (4, 168) = 8.90,p < .001; 他者の名前 : F (4, 168) = 38.56, p < .001)。 誤反応率 名前 2(自分の名前,他者の名前)×角 度 5(0°,45°,90°,135°,180°)のそれぞれの組み 合わせについて誤反応率を算出した(Table 1)。算出 した誤反応率を角変換した値について,2 要因分散分 析を行った結果,名前の主効果(F (1, 21) = 27.41,p < .001)と角度の主効果(F (4, 84) = 18.14,p < .001) が有意であった。交互作用は有意でなかった(F (4, 84) = 1.65,p = .17)。本研究の表中の括弧内の数値は 全て標準偏差を示す。 考 察 実験の結果,自分と他者の名前のいずれにおいても, 回転角度が大きくなるに従い反応時間が長くなったこ とから,刺激が名前の場合でも心的回転が行われてい ることが確認された。さらに,本研究では反応時間お よび誤反応率において自分の名前と他者の名前の間に 有意な差が見られ,他者の名前よりも自分の名前に対 する反応時間は短く,また誤反応率も低くなることが 示された。このことから,自分の名前は他者の名前よ りも速くかつ正確に処理されることが示唆された。 本研究では,他者の名前として,左右対称文字の有 無や画数を考慮した上で,日本でなるべく世帯数の多 い名前を使用したが,実際の生活場面において,自分 の周りに実験で使用した名前の人間が必ずしも多いと は限らない。そこで実験 2 では,他者の名前を,実験 Table 1 自分の名前と他者の名前に対する角度別の誤反応率 回転角度 0° 45° 90° 135° 180° 他者の名前 (2.73)3.91 (2.89)2.15 (2.55)3.16 (6.60)7.58 (10.80)14.78 自分の名前 (7.61)2.27 (6.43)3.03 (3.47)0.76 (6.43)3.03 (20.40)15.91 注) ( )内は標準偏差を示す。 0 45 90 135 180 700 800 900 1,000 1,100 1,200 1,300 1,400 回転角度(°) 他者の名前 自分の名前 平 均 反 応 時 間 (ms) Figure 1. 自分の名前と他者の名前に対する角度別の平均 反応時間。
参加者にとって熟知性の高いと思われる名前を使用す ることによって,実験 1 で示された,自分の名前の処 理過程を検証することを目的として実験を行った。 実 験 2 実験 2 では,実験参加者の名前と実験参加者にとっ て熟知性の高いと思われる名前を刺激として,自分の 名前と他者の名前の視覚的な処理過程の違いを検討し た。 方 法 実験参加者 大学生 10 名(男性 4 名,女性 6 名, 平均年齢 18.56 歳,SD = 0.67)。参加者の選定に関し ては,名前が漢字 2 文字の人物であり,半数の参加者 (5 名)の名前には左右対称文字が 1 文字含まれるよ うにした。 刺激と装置 実験参加者の名前と他者の名前 5 人分 の計 6 人分の名前を刺激とした。実験 2 では他者の名 前として実験参加者と同じ教室の同学年の学生の名前 を使用した(1 学年の人数は約 10 名)。従って,実験 参加者ごとに使用した名前刺激は異なるが,その際, 実験 1 と同様,文字数と左右対称文字の有無を考慮し た。参加者と他者の名前の画数の平均は 16.61 画(SD = 4.50)であった。その他の刺激および装置は実験 1 と同じであった。 名前の熟知性の違いを確認するために,実験 2 の実 験参加者に対して,実験 1 と実験 2 で使用した他者の 名前に対する熟知性を 10 件法(1: 全く知らない─ 10: とても良く知っている)にて調べた結果,実験 1 の他 者の名前に対する熟知度は平均 6.38(SD = 1.69)であ るのに対し,実験 2 の他者の名前に対する熟知度は平 均 7.96(SD = 1.91)であり,有意な差が認められた (t (9) = 2.47,p < .05)。 手 続 き 実 験 は, 角 度 5(0 °,45 °,90 °,135 °, 180°)×像 2(正像,鏡映像)×名前 6(自分,他者 5 人分)の 60 種類の刺激が 1 回ずつランダムに提示 される 60 試行を1ブロックとし,3 ブロック行った(計 180 試行)。その他の手続きについては実験 1 と同じ であった。 結 果 平均反応時間 実験 1 と同様に,名前 2(自分の名前, 他者の名前)×角度 5(0°,45°,90°,135°,180°) のそれぞれの組み合わせについて平均反応時間を算出 した(Figure 2)。他者の名前に関しては 5 人分の名前 の反応時間の平均を算出した。また,誤反応における 反応時間は計算から除外した。平均反応時間について 2 要因分散分析を行った結果,名前の主効果(F (1, 9) = 7.75,p < .05)と角度の主効果(F (4, 36) = 8.86,p < .001)が有意であった。角度について多重比較(Ryan 法:Ryan, 1960)の結果,180°と他の角度の間で有意 差が認められた(p < .05)。交互作用は有意でなかっ た(F (4, 36) = 0.83,p = .51)。 誤反応率 実験 1 と同様に,名前 2(自分の名前, 他者の名前)×角度 5(0°,45°,90°,135°,180°) のそれぞれの組み合わせについて誤反応率を算出した (Table 2)。算出した誤反応率を角変換した値について, 2 要因分散分析を行った結果,名前の主効果(F (1, 9) = 2.57,p = .14)と角度の主効果(F (4, 36) = 0.68,p = .61),および交互作用は有意ではなかった(F (4, 36) = 0.28,p = .89)。 考 察 実験 2 では,実験参加者の名前と実験参加者にとっ て熟知性の高いと思われる名前を刺激として,実験 1 と同様の実験を行った。その結果,他者の名前が熟知 性の高い場合においても,実験 1 と同様に自分の名前 に対する反応時間は他者の名前に対する反応時間より も短かった。誤反応率においては自分の名前と他者の 名前に違いは見られなかったが,反応時間において違 いが見られたことから,自分の名前は熟知性の高い他 Table 2 自分の名前と熟知性の高い他者の名前に対する 角度別の誤反応率 回転角度 0° 45° 90° 135° 180° 他者の名前 (3.24)3.33 (2.50)3.61 (3.56)3.89 (3.82)3.06 (7.88)7.22 自分の名前 (7.64)5.00 (8.16)6.67 (6.67)3.33 (10.67)5.00 (11.06)6.67 注) ( )内は標準偏差を示す。 0 45 90 135 180 600 700 800 900 1,000 1,100 1,200 1,300 回転角度(°) 他者の名前 自分の名前 平 均 反 応 時 間 (ms) Figure 2. 自分の名前と熟知性の高い他者の名前に対する 角度別の平均反応時間。
者の名前よりも速く処理されることが示唆された。し かしながら,反応時間の結果において,実験 1 で見ら れた名前と角度の交互作用が,実験 2 では認められな かった。 総 合 考 察 本研究では,名前の視覚的処理過程において,自分 の名前と他者の名前に違いがあるのか否かを検討する ことを目的として,名前を刺激としたメンタルロー テーション課題を用いて実験を行った。実験 1 では自 分の名前と日本で世帯数の多い他者の名前を用いて, 実験 2 では自分の名前と参加者にとって熟知性の高い 他者の名前を用いて実験を行った。実験 1 の結果,反 応時間および誤反応率において,他者の名前よりも自 分の名前に対する反応時間は短く,また誤反応率も低 くなることが示された。この結果は,自分の名前は他 者の名前よりも速くかつ正確に処理されることを示唆 している。また,実験 2 の結果,他者の名前が熟知性 の高い場合においても,自分の名前に対する反応時間 は他者の名前に対する反応時間よりも短かった。 本研究の実験 1 と実験 2 の違いは使用した他者の名 前であった。具体的には,実験 1 では日本で世帯数の 多い他者の名前を使用し,実験 2 では参加者と同じ教 室の同学年の学生の名前を使用することで,参加者に とって熟知性の高い他者の名前を使用した。その結果, 実験 1 では名前の主効果に加え,名前と角度の交互作 用が認められた。しかしながら,他者の名前を参加者 にとって熟知性の高いものに変えた実験 2 では,名前 の主効果のみが認められ,名前と角度の交互作用は認 められなかった。この結果は,メンタルローテーショ ンにおいて,熟知性が大きな役割を担っている可能性 を示唆している。また,実験 2 で用いた他者の名前は, 実験参加者と日常生活で関わりのある人物の名前を使 用していたため,実験参加者と友人関係であった可能 性がある。Sugiura et al. (2008)は,顔や名前を見た 際の脳活動を調べ,親しい友人の名前を見た時は,親 しくない他者の名前を見た時に比較して,前頭前皮質 内側部での活動が高くなることを示している。 Dalecki, Hoffmann, & Bock(2012)は,メンタルロー テーション課題において,3 つの異なる提示刺激(文 字,手の画像,複雑なシーンの画像)を用いて比較を 行っている。実験の結果,全ての刺激において,刺激 の回転と共に反応時間が増加したが,増加の傾きに関 しては,手の画像と複雑なシーンの画像の間に有意な 相関が認められたが,文字と他の刺激の間に相関は認 められなかった。この結果は,文字の処理メカニズム が手やシーンの処理とは異なる可能性を示唆してい る。Dalecki et al.(2012)は,認識の座標系が,文字 が対象中心座標系であるのに対し,手やシーンは自己 中心座標系であると述べている。本研究の実験 1 では, 自分の名前と他者の名前の反応時間において交互作用 が見られた。この結果が認識の座標系の違いによるも のか否かを明らかにするためには,他の刺激(文字, 手の画像,複雑なシーンの画像)との比較検討が必要 であると考えられる。 本研究では,自分と他者の名前の視覚的処理過程を, メンタルローテーション課題を用いて調べたが,使用 した名前は 2 文字の漢字で構成されている名字とし た。本研究で示した効果の汎用性を明らかにするため には,名前を平仮名やカタカナで表記した場合にも同 様の効果が得られるのか否かを示す必要がある。さら に,他者として想定した人物に対する好悪感情を調べ ることで,名前の処理過程における感情の影響を調べ る研究として発展させることができると考える。 引 用 文 献 Bundesen, C., Kyllingsbaek, S., Houmann, K. J., & Jensen, R. M. (1997). Is visual attention automatically attract-ed to one’s own name? Perception & Psychophysics,
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