1 耐震改修促進計画の概要
(1) 計画策定の趣旨 ○平成7年1月の阪神・淡路大震災では、地震により 6,434 人の尊い命がうばわれ、このうち、4,831 人が住宅・建築物の倒壊等によるものでした。 また、近年、平成 16 年 10 月の新潟県中越地震、平成 17 年3月の福岡県西方沖地震、平成 19 年3 月には能登半島地震、7月には新潟県中越沖地震など大地震が頻発しており、全国のいつどこで発 生してもおかしくない状況にあると考えられます。 岩手県周辺でも、日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震や宮城県沖地震の発生の切迫性が指摘されて おり、建築物の耐震診断や耐震改修の推進は、本市においても取り組むべき重要な課題です。 ○「建築物の耐震改修の促進に関する法律(平成7年法律第 123 号):以下「耐震改修促進法」とい う。」が平成 17 年 11 月7日改正、平成 18 年1月 26 日に施行され、都道府県が「都道府県耐震改 修促進計画」を策定することとするとされ、平成 19 年1月に岩手県において「岩手県耐震改修促 進計画」が策定されました。 ○以上のことから、市では計画的に建築物の耐震診断や耐震改修の促進を図ることを目的に、「北上 市耐震改修促進計画」を策定しようとするものです。 (2) 計画の期間 平成 20 年度~平成 27 年度の8年間とします。2 住宅・建築物の耐震化を取り巻く状況
(1) 想定される地震の規模と建物被害の状況 ○地震調査研究推進本部地震調査委員会によると、次の「宮城県沖地震(1978 年に宮城県沖で発生し たマグニチュード(M)7.5 の地震に代表される、陸寄りの海域を震源域として繰り返し発生する大 地震)」が発生する確率は、平成 20 年1月から 10 年以内では 60%程度、30 年以内では 99%となっ ています。岩手県南部を中心に、県内の広い地域において震度5弱から震度6弱の強い揺れが想定 されています。 ○日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震に係る地震防災対策の推進に関する特別措置法第3条第1項の 規定に基づき、岩手県においては、沿岸を中心として 14 市町村が、地震防災対策推進地域に指定 されています。また、岩手県がこれまで行った地震被害想定調査等によれば、活断層による内陸直 下型地震や三陸沖北部の地震では、全市町村において、震度5弱から震度6弱の強い揺れが想定さ れています。 ○特に、北上市では、北上低地西縁断層群北部地震及び北上低地西縁断層群南部地震を想定した内陸3 耐震化の現状及び目標
(1)住宅の現状と目標 ①耐震化の現状(平成 18 年度) 住宅総数 31,310 棟のうち 22,454 棟(約 72%)が耐震性有りと推計されます。 H18(予測) 北上市 総 数 耐震化率 旧 耐 震 基 準 に よる建築物 うち耐震性あ り 新 耐 震 基 準 に よる建築物 (~S55) (S56~) A B C D E 31,310 9,340 484 21,970 72% ※耐震化率 E=(C+D)/A ②耐震化の目標 耐震化率80%(岩手県目標)とすることを目標とします。 H27(予測) 北上市 総 数 耐震化率 旧 耐 震 基 準 に よる建築物 うち耐震性 あり 新 耐 震 基 準 に よる建築物 (~S55) H27 年度ま でに改修 (S56~) F G H I J K 33,065 7,090 345 132 25,975 80% ※耐震化率 K=(H+I+J)/F ③耐震診断の目標 平成 17 年度から平成 19 年度までに 150 戸実施され、平成 20 年度から平成 27 年度までに 160 戸実施することを目標とします。(2) 公共建築物の現状と目標 ①耐震化の現状(平成 20 年度) 市営住宅及び小中学校はすべて耐震診断済み。市営住宅はすべての建物が耐震性有りと推計され ます。小中学校総数 53 棟のうち 42 棟(約 79%)が耐震性有りと推計されます。 H20(現状) 総 数 旧 耐 震 基 準 に よ る 建築物 新 耐 震 基 準 に よ る 建築物 耐 震 性 あ り の 建 築 物 耐震化率 (~S55) 耐震診断 済 う ち 耐 震 性あり (S56~) (推計値) (推計値) A B C D E F G 市営住宅 24 8 8 8 16 24 100% 小中学校 53 31 31 20 22 42 79% 庁 舎 3 2 0 0 1 1 33% ※耐震化率 G=F/A ※単位:棟 ※規模要件 小中学校 階数2以上かつ 1,000 ㎡以上 市営住宅、庁舎 階数3以上かつ 1,000 ㎡以上 ②耐震化の目標 ○市営住宅 ・耐震化率100%を維持することを目標とします。 ○小中学校 ・耐震化率を100%とすることを目標とします。 ○庁舎 ・耐震化率を63%(岩手県目標)とすることを目標とします。 ③耐震診断の目標 平成 27 年度までに耐震診断率を100%とすることを目標とします。
4 建築物の耐震診断等の促進を図るための施策
(1) 市民の役割 ・住宅の耐震化の促進のためには、市民が地域防災対策を自らの問題、地域の問題として意識し、 第一義に耐震化に取り組む必要があります。 (2) 市の役割 ・住宅の耐震診断を行いやすい環境の整備に取り組みます。 ・市の施設が防災対策上重要な位置づけにあること、市の施設の耐震化に対する積極的な取り組み が普及啓発の観点からも重要であることから、率先して耐震診断、耐震改修に取り組みます。 (3) 市の取り組み方針 ①住宅に対する耐震診断・耐震改修のための環境づくり ・「木造住宅耐震診断支援事業」を創設し、市民にとって最も身近で生活の基本となる木造住宅に 対する耐震診断を行ってきました。今後も診断実績を踏まえながら耐震診断を積極的に促進して いきます。 ・耐震診断により耐震改修が必要な木造住宅の所有者の改修費用の負担軽減のため「木造住宅耐震 改修支援事業」を創設し、事業主体として取り組みます。 ②市の施設の耐震診断、耐震改修の率先実施 ・市の施設は、率先して耐震診断、耐震改修に取り組みます。特に、地震発生時に避難場所や防災 活動の拠点となる学校や庁舎を優先的に耐震診断、耐震改修を進めます。 ③耐震対策推進に向けた建築関係団体等との連携による普及・啓発 ・県、市に加え、建築関係団体等と協力した体制を構築し、一丸となって普及・啓発を行います。 ・市民に対して、地域の防災性、耐震対策の重要性、必要な対策などの情報提供を行い、市全体の 耐震化への意識を高めるための活動を推進していきます。 ④緊急輸送道路の確保への取り組み ・地震時の建築物の倒壊等による道路への影響の調査に取り組んでいきます。(4)市が取り組む具体的施策 ①住宅に対する耐震診断等のための環境づくり ・木造住宅耐震診断支援事業(重点項目) 市が事業主体となり、旧耐震基準による木造住宅を対象に、耐震診断士を派遣し、耐震診断を行 います。 <イメージ> 【国】 (住宅・建築物耐震改修等事業) 【北上市】 事業主体 【岩手県】 (木造住宅耐震診断支援事業) 耐震診断士 【業務受託者】 耐震診断士の所属する建築関係団体、設計事務所等 【耐震診断希望者】 旧耐震基準木造住宅所有者 助成 認定 助成 依頼 診断実施 申込 ・耐震診断実施の推進を図るため、リーフレットを作成するとともに、広報等に記事を掲載し、当 該事業の内容を広く市民に周知していきます。 ・木造住宅耐震改修支援事業(重点項目) 耐震診断により耐震改修が必要とされた木造住宅を対象に、耐震改修工事への助成に取り組みま す。 <イメージ> 【国】 (地域住宅交付 金制度) 【北上市】 事業主体 【岩手県】 (木造住宅耐震 改修支援事業) 【耐震改修希望者】 耐震診断の判定値が 1.0 未満の木造住宅所有者 申込 助成 【請負者】 【設計事務所】 【施工業者】 助成 改修実施 助成 依頼 事業者(請負者)の情報提供 ・「いわて木造住宅耐震改修事業者登録台帳」の閲覧等により、安心して住宅の耐震設計や耐 震改修を行えるよう情報提供をしていきます。 ②市の施設の耐震診断、耐震改修の率先実施 ・市立小中学校については、耐震診断の結果を踏まえ、個々の立地状況や今後の建替え予定の有無 等を勘案しながら、率先して耐震改修を進めます。 ・市営住宅については、耐震診断を実施した結果、対象となったすべての市営住宅において、耐震 性ありと診断されましたが、住民の生活の基本の場になるものであることから、今後とも適切な 維持管理に努めます。
③耐震対策推進に向けた建築関係団体等との連携による普及・啓発 ・岩手県、社団法人岩手県建築士会、社団法人岩手県建築設計事務所協会等関係機関と連携を図り、 木造住宅耐震診断士の育成や地域に密着した耐震化の普及に自治会等と協力し、積極的に取り組 んでいきます ・耐震診断や耐震改修の重要性及びリフォームに併せた耐震改修を紹介するパンフレットを最新情 報を踏まえつつ作成し、市民に効果的に配布します。 ・北上地区消防組合等と連携し、防災の日に合せた広報の特集記事等において市の取り組みを紹介 し、耐震化の必要性を周知していきます。 ・岩手県耐震改修促進協議会の耐震改修の普及・啓発活動に協力して実施していくこととします。 また、県が行う、旧耐震基準により建築された多数の者が利用する建築物に対する耐震診断や耐 震改修の指導等の実施に協力していくこととします。 ④緊急輸送道路の確保への取り組み ・市では災害時、緊急輸送道路を指定することとなっています。震災時に建築物の倒壊による道路 閉塞が生じる恐れの有無等を判断する際に必要となる現況の調査を行うことにより、道路の安全 性の確保に役立てるとともに、耐震化の必要性を住民に周知していきます。
5 市民の意識
(1) アンケート調査結果 ■ 実施方法 ○ 北上市における住まいの住宅の耐震性についてのアンケート調査を行いました。 ○ 対象者は北上市に在住で、20 歳以上の市民 1,000 名を住民基本台帳により無作為抽出。郵送に て調査を行いました。 ○ 期間については、平成 19 年 11 月 15 日に発送し、11 月 30 日を回答期限としました。 ○ 回答率 399 通/1,000 通 (39.9%) 1) 昭和 56 年以前(築 25 年以上)に建築された住宅では、大きな地震の際に住宅が倒壊し、命を失う 可能性があります。このようなことを知っていましたか。 1.住宅の倒壊可能性について 265 104 0 50 100 150 200 250 300 ①知っていた ②知らなかった ・住宅の耐震性については「知っていた」が 66%(265 人)と関心は高い。 2) あなたがお住まいの住宅は、耐震性が十分にあると思いますか。 2.耐震性がある 134 127 42 6 62 0 20 40 60 80 100 120 140 160 ①耐震性は十分あると思う ②耐震性は不足していると思う ③耐震性については考えたことがない ④その他 ⑤わからない ・耐震性については、「十分あると思う」が 34%(134 人)、「不足していると思う」が 32%(127 人)と、3) 現在、北上市では、昭和 56 年以前(築 25 年以上)に建築された木造住宅について耐震診断を進め ていますが、耐震性の判断のために、診断を受けたいと思いますか。 3.診断を受けたいと思いますか 36 50 191 22 57 0 50 100 150 200 250 ①すぐ診断したい ③診断は考えていない ②診断したいが相談するところがわからない ④その他 ⑤わからない ・「診断は考えていない」が 48%(191 人)と一番多いが、診断を受ける意思のある人(「診断したい」 「診断したいが相談するところが分からない」)も 22%(86 人)となっている。 ・「わからない」と回答した記述には、診断する時の経費等を上げている人もいる。 4) 仮に、あなたがお住まいの住宅の耐震性が不足していると分かった場合、どのくらいまでなら対 策をとろうと思いますか。 4.どのような対策を考えますか 49 54 36 92 35 20 32 11 15 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 ①大地震が発生しても全く壊れないような改修をしたい ②大地震発生時に家が壊れても倒れない程度の改修をしたい ③改修はしないが簡単な補強や日曜大工程度の補強はしたい ④特に改修や補強はしないが就寝時の安全は確保したい ⑤今の住宅に対策を取るのではなく新築や住み替えをしたい ⑥借家のため耐震性のある借家に引越ししたい ⑦特に対策を取るつもりはない ⑧その他 ⑨わからない ・「補強まではしないが就寝時の安全を確保」が一番多く 23%(92 人)となっている。 ・耐震改修をする意思のある人(「壊れないような改修」「倒れない程度の改修」)が 26%(103 人)とな っている。
5) 問4.で①または②と回答された方にお聞きします。あなたは、いつ頃住宅の耐震改修をしたい と思いますか。 5.いつ頃耐震改修しますか 11 54 14 1 17 0 10 20 30 40 50 60 ①すぐにでも耐震改修したい ②改修できる条件が整ったら耐震改修をしたい ③リフォームの際にあわせて耐震改修をしたい ④その他 ⑤わからない ・「改修できる条件が整ってから改修を行う」のが最も多く 52%(54 人)であった。 6) 住宅の耐震化を進めるに当たり、県や市がやるべきだと思うことは何ですか。 6.行政がやるべきことは 171 45 16 26 38 8 18 18 0 20 40 60 80 100 120 140 160 180 ①耐震改修費用の負担(補助や低利融資、税金の減免など) ②耐震改修した住宅が地震で被害を受けた場合の損失補填 ③耐震改修を行う技術者や相談窓口の紹介 ④住宅内で身を守るのに役立つ器具の紹介 ⑤マップの公表など危険な地域に関する情報の提供 ⑥その他 ⑦特にない ⑧わからない ・行政の役割として、「耐震改修費用の負担」が最も多く、42%(171 人)の人が望んでいる。
・地震による住宅の倒壊の危険性を認識している人は多く、地震の被害に対する関心は高くなって きていると思われる。(設問1) ・耐震性の有無を知ることが、耐震化を考えることの第一歩となるが、現在、耐震性のある家に住 んでいるか「わからない」と答えた人は多く、「考えたことはない」と答えた人も1割強いること から、耐震診断実施の周知等情報提供がまだ不足していると思われる。(設問2) これは、「耐震診断をしたいが相談するところがわからない」と答えている人が 50 人もいること、 診断を考えていない人が 191 人もいることからも窺える。(設問3) ・耐震改修をする意思のある人(「壊れないような改修をしたい」「倒れない程度の改修をしたい」) が 103 人と耐震改修への認識は徐々に浸透してきている(設問4)が、改修を考えている人でも、 時期が定まっていない人が多く(設問5)、行政の役割として、耐震改修費用の補助や、地震ハザ ードマップや耐震改修業者の情報提供を望む声が多いこと(設問6)から耐震化の重要性、耐震 改修などの具体的な対策の情報提供等、耐震化への環境を整えることが必要と推察される。