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Title オントロジー工学に基づく、ものづくり職人の共通概念分析
Author(s) 桑原, 賢司; 古川, 柳蔵
Citation 年次学術大会講演要旨集, 36: 666-669
Issue Date 2021-10-30 Type Conference Paper Text version publisher
URL http://hdl.handle.net/10119/17807
Rights
本著作物は研究・イノベーション学会の許可のもとに掲載す るものです。This material is posted here with
permission of the Japan Society for Research Policy and Innovation Management.
Description 一般講演要旨
2F02
オントロジー工学に基づく、ものづくり職人の共通概念分析
○桑原賢司,古川柳蔵(東京都市大学)
1.背景及び研究目的
江戸時代の江戸のまちは、資源が様々なビジネスを通して無駄なく循環していた1)。また昭和初期の 日本では、職人だけでなくものづくりを生業にしていない人々もものをつくり、破損した場合には自 ら繰り返し修理し、別のものに替えて使い続けていた2)。しかしながら現在、過去から引き継いできた 伝統ものづくり職人は年々減少し、特に伝統的工芸品の従業者数は、1979 年の 28.8 万人をピークに 2015 年には 6.5 万人にまで減少している 3)。今、蓄積されてきた技術、知恵、精神が失われつつある。
まちの中の職人は、生業にしていない人々と同様、身近なその地の自然の資源を使用し、技術を身 につけ自らものづくりをしていた4)。始めは生活のためなど必要がありものづくりをしたが、技術を習 得するにつれ楽しみに変わり、そして自分がつくったものに愛着が生まれ、心豊かになる。さらには、
人々のものづくりが循環型社会に対して重要な役割を担っていたと考えられる。このような暮らしの 中のものづくりと心の豊かさの関係はこれまで指摘されてきている4)。このものづくりと心豊かな暮ら しがどのような関係か具体的に明らかになれば、現在の大量生産、大量消費、大量廃棄の社会から脱 却し、環境制約下の中で最大限心豊かになるライフスタイルを示すことが出来るであろう。
近年、ライフスタイルの分析手法にオントロジー工学が利用されている。オントロジー工学とは、
「その世界には『何が存在している』とみなしてモデルを構築したかを(共有を指向して)明示的に したものであり、その結果得られた基本概念や概念間の関係を土台にしてモデルを記述することがで きるようなもの」と定義されている5)。オントロジー工学は、人工物の機能的知識に潜む概念の明示化 やその再利用などに応用されており6)、岸上らはこのオントロジー工学の手法の一つである人工物の機 能分解木に、新たにライフスタイル独自の心の豊かさの表現を加えた行為分解木により、ライフスタ イルの構造を明示化できる可能性を示した 7,8)。さらに、ライフスタイルに影響を及ぼす社会的・文化 的背景や環境の制約など暗黙の前提となっている概念も抽出することで、行為との関係性を明示化で きる可能性を示した 7,8)。このオントロジー工学を応用した手法を用いれば、ものづくり職人の概念構 造を明示化することで、ものづくりと心豊かな暮らしとの関係が明らかになる可能性がある。
そこで本研究では、職人たちがどのような概念を持ってものづくりをしているのか、それらの概念 はなぜ生まれ、ものづくりにどのように影響を及ぼしているかなど、ものづくり職人の共通概念をオ ントロジー工学の手法の一つである行為分解木を用いて明示化すると共に、共通概念のモデル化を行 った後に、ものづくりと心豊かな暮らしとの関係を明らかにすることを目的とする。
2.方法
2.1.職人の選定と職人のものづくりのプロセスに含まれる概念抽出のインタビュー
伝統ものづくりをみると、農家の閑散期などに藁細工、竹細工などを行うものから、陶磁器などの ように固有技術を持って行うものまで様々なものがある。また身近な資源を用いて単独で自らものを つくるものや、分業制でものを完成させていくものづくりもある9)。本研究では、周りの身近な自然資 源を使用し、技術を習得し、単独でものづくりを行っている職人であり、概念が固まっていると思わ れる経験豊富な職人、そして企業の工場ではなく手仕事のものづくりの現場で働いている職人の中か ら2名を選定した。具体的には、和菓子屋職人と匠の陶芸品職人である。
職人のものづくりのプロセスに含まれる概念の抽出は、職人に対して個別にインタビューを行い、
職人がものづくりに関して行ってきたことについて、職人が使用した言葉に基づき、上位の目的(ゴ ール)やその目的を達成するための行為(中間ゴール)に分解し、さらに中間ゴールを達成するため に行為と方式に分解することを繰り返すことで概念構造を明示化した。
インタビューの進め方は、インタビューを行う前に事前に聞きたい項目を決め、まず、ものづくり の内容から質問し始め、ものづくりを始めたきっかけや目的など、ものづくりについて話をしてもら いながら、徐々に概念について深く質問する半構造化インタビューを用いた。
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2.2.行為分解木の記述
行為分解木の記述には、OntoGear SIR10)を用いた。これは人工物における技術知識統合管理プラ ットフォームを具現化するシステムとして開発された OntoGear11)を、ライフスタイル設計の社会実 装版に拡張したものである。本行為は楕円形ノードを用い、行為を達成するための方式は正方形ノー ドを用いて記述した。行為の目的となるゴールを、行為と方式により全体行為から部分行為に分解し、
このプロセスを下に繰り返して記述した。行為の記述は、一番下の左隅の行為が一番初めに起こり、
その後右に順次推移するように記述した(図 1、2、3、4、5)。本行為に影響を及ぼす負の制約影響と 正の最適影響は、それぞれ不具合ノードと副作用ノードを用いて記述し、本行為に向けた矢印で示す ことで各影響を明示した(図 1、2、3、4)。行為間の関係を記述する場合には、上記の不具合ノード もしくは副作用ノードを用いて、破線矢印の因果関係、点線矢印の影響関係、一点鎖線矢印の解消関 係により、その矢印の向きで関係性を明示した12)(図1、2、3、4)。
3.結果と考察
3.1.ものづくり本行為と不具合行為との関係 職人のものづくり
行 為 の 中 に は 、 知 識・技術が身につい ていないなどのため に、無意識に正しい 手順の本行為から逸 れ、望ましくない行 為をしてしまう場合 がある。例えば、和 菓子屋職人の場合、
急ぐあまりあずきを
高火力で煮てしまい、あずきが爆ぜて灰汁が出て、こくが強いあずきを煮てしまう話があった。つま りマイルドなお店の味をつくることから逸れて不良品をつくってしまい、その後の行為が停止してし まったのである。このことから、不具合行為をゴールとした行為分解木(面取り四角形ノードの行為 と正方形ノードの方式で記述)をあずきを煮る行為分解木と別に記述し、不具合行為と本行為間を不 具合ノードと本行為に向けた因果関係の破線矢印で結び付けることで、望ましいものづくり行為と望 ましくない行為の概念構造を明示化できたと考えられる(図 1)。この記述は、OntoGear の応用とし て試行された「建築不具合統合知識管理システム」の記述方法を用いた11)。
3.2.ものづくり本行為間の関係 職人のものづくり
インタビューの中で、
近くの住民から和菓 子づくりの先生とし て声がかけられた時 の話があった。これ については、職人の 匠技を身に付ける本 行為から和菓子づく りの先生として声が かかる本行為に向け て、副作用ノードと 影響関係の点線矢印 で結び付けることで、
行為分解木を記述する
ことができた。これにより職人の本行為が別の本行為の最適化に寄与するという意味の影響関係の概 念構造を明示化できたと考えられる(図2、影響関係(a))。
図2. あずきづくりの行為分解木中の本行為間の関係
図1. 和菓子屋職人のあずきを煮る行為分解木と不具合行為分解木の関係
また、和菓子屋職人があずきをつくる時、季節、天候の外部因子により製造条件が安定せず、狙い の味のあずきが出来ない基礎習得レベルの時期の話があった。この製造条件が外部因子により安定化 しないという制約は、匠技を身に付ければ解消されるが、匠技を身に付ける本行為から不具合ノード に向けた解消関係の一点鎖線矢印で結び付けることで、ここでの行為と制約との解消関係を記述する ことができた(図2、解消関係(b))。
3.3.ものづくり本行為と知識蓄積行為との関係 ものづくり職人は
始めは誰しも技術が 未熟で知識も不足し ている。そのため師 匠に付いて失敗を経 験しながらものづく りを覚えていく。こ の知識・技術を覚え る行為は、例えば知 識蓄積箱の中に知 識・技術を仕舞い込 む行為と同じで、和 菓子屋職人のあずき づくりの本行為と知 識を蓄積する行為間 とを、副作用ノード と影響関係の点線矢 印を知識蓄積の方式 に向けて結び付ける
ことで記述することができた。これにより行為分解木の副作用ノードを用いて、インタビューの内容 の概念構造を明示化できたと考えられる。またこの匠技を身に付ける行為は、周りに聞く、試行錯誤 しながらつくる、そして繰り返し行うといった方法により身に付けていくことも明示化することがで きた(図3)。
3.4.ものづくり本行為と学びの行為の関係 陶芸品職人へのイ
ンタビューから、周 りの自然の美しさや 自然の摂理、宇宙の ことなども独自で勉 強し、ものづくりに 生かしている話があ った。職人は常に興 味あることを学び続 け、それを頭の中に イメージし、ものづ くりに生かしている。
これについては、副 作用ノードと影響関 係の点線矢印を用い て、学びの本行為か
ら陶芸品づくりの各方式に向けて結び付けることで、インタビューの内容の概念構造を明示化するこ とができた(図4)。
図4. 陶芸品づくりの行為分解木と学びの行為分解木の関係 図3. あずきづくりの行為分解木と知識蓄積の行為分解木の関係
3.5.ものづくり職人の上方の概念とものづくりのプロセスの概念構造の明示化における課題 陶芸品職人はインタビューの中
で、「何をつくりたいか、何を表 現したいか、どのような形で表し ていくか、その工程を考えること が重要である」と、自分の思いを 形にしてものをつくることの重要 性が述べられた。これについては 行為分解木の記述より、ものづく りの上方の概念の一部を明示化す ることができた(図 5)。また、イ ンタビューの中で、30歳までのも のづくりのプロセスの最上位のゴー ルは、「自分を表現する」であった
のに対し、現在のゴールは「社会貢献する」に変化していた。これについても、行為分解木の記述に より現在の最上位のゴールを明示化することができたが、失敗の制約を乗り越え、知識を蓄積し、自 ら興味あることを学び、匠職人に成長していくプロセスの中で変化した最上位のゴールを、一つの行 為分解木の中で記述することはできない。行為分解木の記述方法において時間の表現に課題があるこ とは既に指摘されているが 7,8)、このように過去から連続的に繋がりを持ち、上方のゴールが時間によ り変化していくものづくりのプロセスの概念構造を複数の行為分解木を記述する方法はあるとしても、
理解しやすく一覧できるようには明示化できないという課題が残されている。
4.結論
和菓子屋職人と陶芸品職人のインタビューに基づき、ものづくり職人が失敗を経験し、師匠から学 び知識を蓄積し、自ら学ぶといったものづくりのプロセスの概念構造について、行為分解木を用いて 明示化することができた。
参考文献
1) 蒲生孝治, 京都に息づくサスティナブルものづくり~匠の現場より学んだ環境経営~, 京都女子大 学現代社会研究, 15(2012-12-26), 2012
2) 古川柳蔵、第 8 回暮らし方を見直す―知恵を働かせて無駄なく循環させる―、PEN(Public Engagement with Nano-based Emerging Technologies) Newsletter, February 2015, Volume 5, Number11, p.28-34.
3) 株式会社日本政策投資銀行地域企画部、株式会社日本経済研究所地域本部, 地域伝統ものづくり産 業の活性化調査<概要版>, 2018
4) 古川柳蔵、第 5 回暮らし方を見直す-ものつくりが引き出す地域の美しさ-、PEN(Public Engagement with Nano-based Emerging Technologies) Newsletter, November 2014, Volume 5, Number8, p.32-37
5) 溝口理一郎, オントロジー工学, オーム社, 2011
6) 來村 徳信, 笠井 俊信,吉川 真理子,高橋 賢,古崎 晃司,溝口 理一郎,オントロジーに基づく機能的知 識の体系的記述とその機能構造設計支援における利用, 17(1), 73-84, 2002
7) 岸上祐子, 古川柳蔵, 須藤祐子, 石田秀輝, 溝口理一郎, オントロジー工学に基づく心豊かなライフス タイルの構造の明示化―第一報:手法の提案―, 環境科学会誌, 31, 89-102, 2018
8) 岸上祐子, 古川柳蔵, 須藤祐子, 石田秀輝, 溝口理一郎, オントロジー工学に基づく心豊かなライフス タイルの構造の明示化―第二報:手法の検証―, 環境科学会誌, 31, 103-122, 2018
9) 吉田光邦, 日本の職人, 講談社, 1976
10) 岸上祐子, 古川柳蔵, 溝口理一郎, ライフスタイル標準語彙の構築とその評価―持続可能なライフス タイルデザインにおける発想支援を目指して―, 環境科学会誌, 32, 11-25, 2019
11) 高橋淳, 來村徳信, 溝口理一郎, オントロジー工学とXML技術に基づく技術知識統合管理プラット フォームの構築, 人工知能学会論文誌, 23, 424-436, 2008
12) 溝口理一郎, 因果とは-オントロジー工学的解答, 人工知能学会論文誌, 35, 1-13, 2020 図5. 陶芸品職人の上方の概念と現在の最上位のゴール