博士論文審査報告書
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(2) 鉄鋼材料は安価で、かつ多様な性質を示すことから、これまでに種々の 構造物に対して大量の利用がなされている。しかし、その結果として鉄スクラ ップの量は近年大幅に増加しており、省資源,地球温暖化や廃棄物問題等の観 点から、その利用について積極的な対応が望まれている。また最近では、鉄ス ク ラ ッ プ の 量 の 問 題 に 加 え 、 精 錬 で 除 去 し 難 い Cu と Sn が 鉄 ス ク ラ ッ プ 中 に 順 次濃縮し、表面赤熱脆性を生じるというリサイクル上の問題も生じている。こ のため、鉄スクラップに対するリサイクル率向上を目的とした、表面赤熱脆性 の抑制は、現在の鉄鋼材料分野における重要な検討課題の一つとなっている。 鉄スクラップを鉄源とした際に発生する熱間加工割れ、すなわち表面割 れ は 、 Cu や Sn に よ る 表 面 赤 熱 脆 性 を そ の 起 源 と し て い る 。 こ こ で 、 鋼 材 を 加 熱 す る と 鉄 が 選 択 酸 化 さ れ , 酸 化 物 を 生 成 し 難 い Cu や Sn は 酸 化 層 で あ る ス ケ −ルと地鉄の界面に濃化する。従来の研究から、本研究で取り上げた表面割れ は 、 1100℃ 付 近 に お い て 液 相 の こ れ ら Cu と Sn が 、 熱 間 加 工 に よ り ス ケ − ル / 地鉄界面から結晶粒界へ浸入し、粒界強度を弱めることによって生じると指摘 されている。また、このように指摘されている表面割れの機構解明に加え、工 業的には、現場の熱間圧延プロセスでの熱履歴および加熱雰囲気の水蒸気濃度 を考慮して表面赤熱脆性を再現し,その影響の理解を通して表面割れ抑制の方 策を見出すことも現在重要な課題である。そこで、本博士論文では、実用的な 見地に立ち、現場操業の条件下で発生する表面割れを再現し,その発生条件と 要因を明らかにするとともに、表面割れ抑制のための方策を検討している。特 に、要因については、競合する拡散場に基づいた新たな機構の提案も行ってい る。これらの結果をまとめた本論文は、以下の 7 章から構成されている。 第 一 章 「 緒 言 」 で は 、 鋼 材 の 表 面 赤 熱 脆 性 、 お よ び Cu と Sn に よ る 表 面 赤熱脆性に関する従来の研究を総括し、これらの報告に基づいた本研究の背景 と研究目的が述べられている。 第 二 章 「 実 験 方 法 」 で は 、 本 研 究 に お い て 実 験 に 供 し た 0.3%Cu-0.05%Sn 含 有 鋼 の 作 製 方 法 、こ れ ら 供 試 鋼 を 用 い て 行 っ た 熱 間 加 工 割 れ 再 現 実 験 の 手 順 、 さらに表面割れの評価方法およびスケ−ル/地鉄界面の観察方法の詳細につい て述べられている。 第 三 章 「 表 面 赤 熱 脆 性 に お よ ぼ す 熱 履 歴 の 影 響 」 で は 、 0.3%Cu-0.05%Sn 含 有 鋼 を 1250℃ に 加 熱 後 、 冷 却 途 中 で の 等 温 保 持 に よ っ て 生 じ る 表 面 割 れ の 特 徴について、熱間加工割れ再現実験により調べた結果が述べられている。再現 実 験 の 結 果 、表 面 割 れ は 1 2 0 0 、1 1 5 0 、 お よ び 1 1 0 0 ℃ で の 等 温 保 持 に お い て 発 生 し て い る 。 そ の 特 徴 に つ い て は 、 高 温 域 の 1200℃ と 1150℃ 保 持 の 場 合 、 割 れ は 5 分 以 下 の 短 時 間 に 集 中 し 、 10 分 以 上 の 長 時 間 保 持 で は 減 少 す る こ と 、 一 方 低 温 域 の 1100℃ 保 持 で の 割 れ は 、 5 分 以 下 に お い て そ の 個 数 は 少 な い も の の 、 時 間の経過とともに増加することが示されている。さらに、スケ−ル/地鉄界面 の 観 察 か ら 、多 数 の 割 れ が 観 察 さ れ た 試 験 材 で は 、ス ケ − ル / 地 鉄 界 面 に 加 え , 1.
(3) 地 鉄 表 層 部 分 の 結 晶 粒 界 に 沿 っ て も Cu-Sn 濃 化 相 の 存 在 が 見 出 さ れ て い る 。 こ れ ら の 実 験 結 果 か ら 、 表 面 割 れ は 、 1250℃ か ら の 冷 却 に 伴 う Cu 固 溶 量 の 低 下 に よ り 、 液 相 の C u( S n ) 濃 化 相 が 地 鉄 表 層 部 分 の 結 晶 粒 界 に 沿 っ て 析 出 し 、 そ の結果、粒界強度を弱めることにより生じると推察される。そこで、結晶粒界 へ の Cu( Sn) 濃 化 相 の 析 出 に 注 目 し 、 競 合 す る 拡 散 場 を モ デ ル 化 し た 後 、 Cu 原子の定常拡散を考えることによりその詳細について速度論的に検討している。 具体的に考慮した競合する 2 つの流れは、希釈に関係する鋼中へのフラックス と 表 面 割 れ の 要 因 と な る 結 晶 粒 界 へ の フ ラ ッ ク ス で あ る 。 検 討 の 結 果 、 1250℃ からの冷却の際に生じる表面赤熱脆性の要因は、実際、地鉄表層部に存在する 結 晶 粒 界 へ の Cu( Sn) 濃 化 相 の 析 出 に よ る こ と 、 さ ら に 高 温 域 で あ る 1200〜 1150℃ で の 長 時 間 保 持 は 割 れ の 抑 制 に 対 し て 有 効 な 手 段 で あ る こ と を 明 ら か に している。これら成果は、鋼の表面赤熱脆性の発生機構に対して新たな視点を 提供するものであり、さらにその対策の有効性は、工学的な視点からも重要な 意義を持つものである。 第四章「水蒸気含有雰囲気加熱における表面赤熱脆性」では、現場加熱 炉 の 水 蒸 気 酸 化 雰 囲 気 を 再 現 し , こ の 雰 囲 気 で の 表 面 割 れ の 特 徴 、 さ ら に は Si や Ni の 微 量 添 加 に よ る そ の 影 響 に つ い て 調 べ た 結 果 が 述 べ ら れ て い る 。 ま ず 、 水 蒸 気 濃 度 20〜 30%の 場 合 に は 、 大 気 中 に 比 べ 大 き な 割 れ が 生 じ る こ と を 明 ら か に し て い る 。そ こ で 、ス ケ − ル / 地 鉄 界 面 近 傍 の 組 織 を 調 べ た と こ ろ 、1 2 5 0 ℃ に 加 熱 し た 試 料 片 で の 地 鉄 界 面 は 平 滑 で 、 C u( S n ) 濃 化 相 は 基 本 的 に ス ケ ー ル 内には存在しないことが分かった。このため、水蒸気酸化雰囲気での脆化の促 進 は 、 平 滑 な ス ケ − ル / 地 鉄 界 面 に お け る C u( S n ) 濃 化 液 相 の 生 成 の し や す さ に よ る と 結 論 さ れ る 。 一 方 、 S i と N i の 微 量 添 加 の 影 響 に つ い て は 、 0.1%Si 鋼 お よ び 0.14%Ni 鋼 を 用 い て 水 蒸 気 酸 化 雰 囲 気 で の 脆 化 を 検 討 し 、 こ れ ら の 添 加 が実際割れの抑制にとって有効な手段であることを明らかにしている。具体的 な 要 因 に つ い て は 、 0.1%Si 鋼 が 水 蒸 気 酸 化 雰 囲 気 で の 内 部 酸 化 、 0.14%Ni 鋼 で は 不 均 一 酸 化 に よ り 、 ス ケ − ル / 地 鉄 界 面 が 凹 凸 化 し , C u( S n ) 濃 化 液 相 が ス ケ − ル 中 へ 取 り 込 ま れ る た め で あ る と 推 察 し て い る 。 ま た 、 0.14%Ni 鋼 に お い て は 、 地 鉄 界 面 の 凹 凸 化 が 生 じ な い 、 酸 化 増 量 の 少 な い 1 % O 2 - b a l . N2 の 酸 化 条 件 下 で も 、 地 鉄 界 面 が 液 相 の Cu-Sn-Ni 濃 化 相 に よ っ て 覆 わ れ 、 脆 化 は む し ろ 促 進することを明らかにしている。すなわち、脆化抑制元素として知られる. Ni. の 脆 化 抑 制 の 要 因 は 、 ス ケ − ル / 地 鉄 界 面 の 凹 凸 化 に よ る 、 ス ケ − ル 中 へ の Cu ( Sn) 濃 化 相 の 排 出 に よ る も の で あ る と 結 論 し て い る 。 こ れ ら の 成 果 は 、 鋼 の 現場製造における工学的因子の理解に対して、重要な貢献が期待される。 第 五 章 「 Cu 含 有 フ ェ ラ イ ト 系 ス テ ン レ ス 鋼 に お け る 表 面 赤 熱 脆 性 の 抑 制 」 で は 、 熱 間 加 工 割 れ 再 現 実 験 に よ り 、Cu 含 有 ス テ ン レ ス 鋼 で の 表 面 赤 熱 脆 性 抑 制 の 起 源 に つ い て 検 討 を 行 っ て い る 。 こ こ で ス テ ン レ ス 鋼 で は 、C u 含 有 量 が著しく多い場合でも、炭素鋼に比べて表面赤熱脆性は生じにくいことが知ら 2.
(4) れ て い る 。 再 現 実 験 の 結 果 、 0.3%Cu 炭 素 鋼 に お い て 大 き い 割 れ が 生 じ る 熱 履 歴 ・ 酸 化 増 量 に 対 し て も 、 16%Cr -2.4%Cu ス テ ン レ ス 鋼 で は 、 割 れ が 全 く 生 じ な い こ と を 明 ら か に し て い る 。 ま た 組 織 観 察 か ら 、 ス テ ン レ ス 鋼 で の Cu 濃 化 領域は、スケ−ルの内方成長により、スケ−ル/地鉄界面ではなく,多孔質の 内層スケ−ル中に多数存在すること、またスケ−ル/地鉄界面の凹凸化も顕著 なものであることが指摘されている。本論文では、これら実験事実に基づき、 C u 含 有 フ ェ ラ イ ト 系 ス テ ン レ ス 鋼 で の 脆 化 抑 制 の 起 源 が 、① ス ケ − ル の 内 方 成 長 に よ る 内 層 ス ケ − ル 中 へ の Cu 濃 化 相 の 残 留 , ② 複 雑 な 形 態 を 有 す る 地 鉄 界 面 で の C u 濃 化 相 の 残 留 の 困 難 さ ,③ フ ェ ラ イ ト 母 材 中 へ の C u 原 子 の 拡 散 に よ る 大 き な 希 釈 作 用 、の 3 つ の 因 子 に よ っ て 説 明 さ れ る こ と を 明 ら か に し て い る 。 すなわち、ステンレス鋼に関するこれらの研究結果は、表面赤熱脆性の対策と し て 、 ス ケ − ル 中 へ の Cu 濃 化 相 の 排 出 が 如 何 に 重 要 な も の で あ る か を 示 し て いる。よって、これら成果は、炭素鋼における脆性対策への理解に対して重要 な意義を持つものである。 第六章「総合考察」では、現場条件を再現して得られた本研究成果と従 来の成果とを比較し、その相違を基に表面赤熱脆性に及ぼす現場製造条件とそ の対策について検討している。 第七章「総括」では、現場操業条件下で発生する表面割れの要因とその 抑制に関して、本研究で得られた成果の総括を行っている。. 以 上 、 要 す る に 本 論 文 で は 、 1250℃ 加 熱 後 の 冷 却 の 際 に 生 じ る 鋼 の 表 面 割れの特徴について、現場熱履歴を再現した熱間加工割れ再現実験を通して、 その要因と対策を検討している。その結果、表面割れの要因は地鉄表層部に存 在 す る 結 晶 粒 界 へ の C u( S n ) 濃 化 相 の 析 出 に よ る こ と 、 高 温 域 で の 長 時 間 保 持 により割れは抑制されること、さらに現場加熱炉での水蒸気酸化雰囲気におけ る 脆 化 抑 制 に は 、 Si お よ び N i の 微 量 添 加 が 特 に 有 効 な 手 段 で あ る こ と を 明 ら かにしている。これらの成果は、鋼の表面赤熱脆性の要因に関して新たな視点 を提供し、材料工学の発展に寄与するものであると同時に、鋼の表面赤熱脆性 抑制という応用的な側面へも多大な貢献が期待される。よって、本論文は、博 士(工学)の学位論文として価値あるものと認める。. 2005 年 6 月 審査員 (主査)早稲田大学教授. 工学博士(東京工業大学). 小山. 泰正. 早稲田大学教授. 工学博士(東京大学). 伊藤. 公久. 早稲田大学助教授. 博士(工学)(早稲田大学). 3. 吉田. 誠.
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