岡山大学算数 ・数学教育学会誌
『パピルス』第11号 (2004年)15頁〜19頁
「 見当づけ」を筆算 に生かす授業
4年 rわ り算 (2)」の実践 を通 して
杉 能 道 明 岡山大学教育学部附属/小学校
‑日日一一・‑ ‑ ‑一一一日一日一一一一一一一‑ 一一一研究の事約 ‑‑‑‑‑ ‑‑ ‑‑‑‑ ‑‑‑‑ 一一一一一一一一一一一一日 平成9年に実施 した算数学力診断調査 によると.2桁でわる筆算の計井技能 については 通過率が高いが, 2桁 でわるわ り算 の式 を見て
,
「商は○桁だ。」 と商を見当づ けるこ と ができる子 どもは少 ないことが分かるOこれは,筆算の計算技能についての習熟は図 られてい るが,商を見当づけることの指導 が不十分なためと考 えられ る。
見当づけは,商の大き さを見積 もるこ とであ り,子 どもの 「数感覚」を豊かにす ること につながる大切な力であると考 えるQいたず らに隼井技能の習熟ばか りに力 を入れ るので はなく,数感覚の豊かな子 どもを育てていきたい。
そこで,本研究では.商の見当づけを筆算 に生かす指導について,授業実践 を行い.蘇 果 を考察する。
1 単元名 4年 rわ り算 (2)」
2 授業改善の視点 と方法
(1)今までの指等の問題点
本単元では,商の見当づ け と筆算のアル ゴ リ ズムを結びつけて, 2けたでわ るわ り算の隼井 の仕方 を兄いだ し,手際 よく計算がで きるよ う になることをね らっている。
岡山大学算数 ・数学教 育学会 算数学力診断 調査プ ロジェク トが平成9年 に行 った,算数学 力診断調査 によると,第4学年 (調査対魚児童 数 867名)の調査で次の よ うな結果が得 られ た。
6 次の計算を筆算で しま しょ う。
(3) 252÷ 36 陸成率 86%l (4) 672÷ 32 陸成率 86%l
7 次の計算の うち,ぱっ と見て答 えが2 けたになるわ り算は どれで しょう。答 え が2けたになると思 うものに みんなO
をつ けま しょうB
項 目6の調査で, 252÷ 36, 672÷
3 2を筆算で正確 に計算できた児童 は,それぞ れ 86%であったQ項 目7の調査で,答 えが 2 けたにな るわ り算 を全 て間違 いな く答 えた児童 は 22%であったO以上のこ とか ら, 2けたで わ る筆算 の計算技能面 につ いては習熟 が図 られ てい るが,商の見当づ けについては,指導 が不 十分であることが うかが える。
子 どもは,商がたつ位 置,商の見 当づ け,仮 商の修正の ところでつまず きやすい。これ は,r商 をたてる」見当づ けの指導が不十分で,「たて る」
「かける
」
「ひ く」
「お ろす」 とい う筆算 の手順 の形式化 を急 ぎす ぎるか らではないか と考 え ら‑ 15‑
れる。
(2) わ り算の辛井の基串 ・基本 を定着 させ る新 しい指導
わ り算の筆算の学習では,見当づけを生か し て筆算の仕方を兄いだす ことが大切であると考 える。わ り算の筆算 の基礎 ・基本 を定着 させ る ために次のような新 しい指導を考 えた。
①10円玉を操作 して考える活動を取 り入れ る 80÷ 20な どの何十でわるわ り算の仕方 を 考 える際には, 10円玉 を換作 しなが ら考える 活動にす る。 これにより, 10を単位 に して8
÷ 2な どの九九1回で商を求め られ るわ り葬に 帰着 して考 えやす くする。
②見当づけの浩巣 を隼算のアル ゴ リズム と漉 び つける
商の見当づけを通 して正 しい商 を見つけるま での手順を明確 に整理 し,筆算のアル ゴリズム
と結びつけるよ うにする。
酎 匪要
①90÷ 30や100 ‑ (Dたてる。
÷30などの大まか な計算で,商を予想 する。
②わる数 と商をかけ合 一 ②かける わせて,わ られる数
と比べ る。
③予想 した商が正 しか ‑ ③引 く(比べ る) ったか どうかを確か
める。
( ④お ろす )
商の見当づけをす る際には,まず, 96÷
32な どの式だけを見て帝の結果の見通 しをも たせ るようにす る。 これによ り,商の結果の見 通 しをもとに見当づけの仕方 を考 えやす くす る。
③筆算に吹き出しをつける活動を取 り入れる 筆算に吹 き出 しをつける活動 を取 り入れるO これにより,計算の仕方や商の見当づけの仕方 に目を向けてそれ らを書きやす くする。
④よさに目を向けやすい式で計算す る活動を収
り入れる
「頭の位だけをみて計算すれば よい」 ことに 目を向けやす くす るために.四捨五入の方法で は商の修正が必要 になる, 36÷ 12や96÷
24などの計算をする活動を取 り入れ る。
3 単元の評価規革
0
2位数でわる計算が,見当づ けや除数 が1 位数の計算 をもとに してできる とい うよさに 気づき,計算の仕方 を進んで考 えようとする。(関心 ・意欲 ・態度)
○ 何十でわる暗算 を, 10を単位 に して簡単 な式に直 して考えた り,2位数でわる筆算 を, 見当づ けと筆算のアル ゴ リズムを結びつ けて 考えた りするO (数学的な考え方)
○ 何十でわる暗算や, 2位数でわる筆算が確 実にできるO (表現 ・処理)
○ 何十でわる暗算を, 10を単位 に して簡単 な式に直 して考えた り,2位数でわる筆算 を, 見当づ けと筆算のアル ゴリズムを結びつ けて 考えた りすればよいことが分かるO
(知識 ・理解)
4 単元計画 (全9時間) 第一次
第1時 2けたでわるわ り算の課題 をつかみ.
80÷ 20や80÷ 30の暗算 の仕 方を考える0
第2時 120÷ 20や150÷ 20の暗算 の仕方を考える。
第二次
第1時 96÷ 32な どの筆芽 の仕方を考 え
る。 (本 時)
弟 2時 175÷ 35な どの筆算の仕方 を考 える。
第3時 252÷ 36な どで見当をつけた商 の直 し方を考えるO
第4時 商が1けたにな るわ り算 の計算 を習 熟する。
第3次
第1時 552÷ 24な どの筆算 の仕方 を考 える0
第2時 863÷37な どの筆算の仕方 を考 える。
第3時 2けたでわるわ り算の閉居づ く りを
する。
5 授業の実除
(1) 本時の評価競市
96÷32の商の見当づけと筆算のアル ゴ リ ズムを結びつけて, 2けた÷ 2けたの筆算の仕 方を説明す ることができる。
(2) 本時の展開 (本時は第二次第 1時)
学習活動1
T (間
庸 r
96このあめを1箱に32こずつ 入れると何箱できるで しょう。」を横手。) 開壇が脊けた ら,式をノー トに書きま しょう。T 式はどうな りま したか。
C 96÷32です。
C 式のわけは,96このあめを32こずつ箱 に入れたか らです。
C 賛成。 96このあめを32こずつ分 けるか らです。
C (拍手多数)
こ うして,96÷32の式になるわけをはっ きりさせた子 どもたちに
,
「答えもす ぐに求め ら れるかな。」 と問いかけると,一瞬静かにな り, 答えがす ぐには求め られないわけを次のよ うに 発言 してきた。C わる数が32で,2けただか ら。
C 前は. 90とか30だったけど,今 日のは 違 うか ら。
C 前は1けた 目が 0だった。
C ‑の位が 0じゃないから難 しいです。
「も うお手上げですね。でも,見当 ぐらいは つけられないかな。答えは100ぐらいかなあC」
とゆさぶると.子 どもは次のように商の見通 し をもっていった。
C えー,それはあ りえないよ。
C ぼくは10より下だと思 う。
C 賛成o 1Oより上にはならないよ。
C (うなず く子 どもが多い。)
T じゃあ,答えは 1けたってことかな.
C うんQ (うなず く子が多いO)
T きちん とした答 えは出ないけ ど,だいたい 1けた くらいってこ とは分 かったね。式はみ んなす ぐに分かったけど,今 日のめあては何 かな。
C 96÷32の計算 の仕方 を考 えよ うです。
T 計算の仕方 を考えるんだ け ど,見当をつけ た ことを うまく使 って考 えま しょう。みんな は,計算の仕方でいい方法 を知っているよね。
C 筆算だ。
C 筆算の仕方を考えるんだ。
こ うして.子 どもは本時のめあて 「見当を う まく使 って,96÷32の筆算 の仕方 を考 えよ
うQ」をつかんでいったo
学習活動2 96÷32の筆算の仕方を
指導 の工夫①
l筆算に吹き出しをつ ける活動 を取 り入れる 96÷32の筆算のかき方 を確認 した後
,
「商 を立てて,その商をど うや って立てたのか,考 え方 を『吹き出 し』の中に書いておきま しょうO」と助言 した。
子 どもは,ノー トに筆算 をか き,96÷32 の商をそれぞれ 自分の考えた方法で見当をつけ て,筆算 の手順を思い出 しなが ら計算 していっ た。
子 どもは,吹き出 しの中に,次のA児や B児 のような考 えを着いていった。
<A
児の考え>96を100.32を30とみて, 100÷
30で3と見当をつける。
<B児の考え>
96を90,32を30とみて, 90÷30 で3と見当をつけるO
‑ 17‑
学習活動3 96÷32の筆算の仕方 を
指導の工夫②
見当づけの結果 を筆算のアルゴ リズム と 結びつける
T 商は何が立ちま したか。
C 3です。 (拍手多数)
T 3‑ 3はここに書けばいいのかな0 32) 96
C 違います0 6の上ですo C 9の中に32はないか らです。
C 96の中に32が3こあるか ら, 6の上に 書きますo
T 3 こ うですね。 じゃあ, どんな 32) 96 方牡で3を見つけたのかな。
C ぼ くIL 96を90にして, 32を30に して,「90÷30」で3と出 しま した。
C 賛成O‑の位 をのけて,十の位 だけで考 え ま した。
C 私は, 96を90ではな くて100に して rlOO÷30」でだいたい3に しま したo c ぼ くもそ うしま した。‑の位 を四捨五入 し
て考えま した。
C どちらの考えも,商が 3になっています。
こ うして,子 どもは繭をどのよ うに3と見 当 づけたのかを説明 していった。
T 3をたてた後は どうするの。
C かけます。
C 3
32)96
96‑これは32×3です。
C 次は,ひいて 0です。
T 答えは3でいいかな。
C 32×3‑96であっています。
T や っぱ り3になったね。みんながつけた見 当はあっていま したね。 96÷32の筆算が 商の見当をつけるとうま くできるよ うになっ たね。
96÷32の筆算ができるよ うになった子 ど もに
,「
『十の位だけをみて』の方法 と 『四捨五 入 して』の方法が あったけ ど, どち らの方牡が いいのかな。」 と問いかけると,C 十の位だけをみての方法は9÷ 3でで きる ので簡単です。
C ぼくは,四捨五入がいい と思いますO習っ た四捨五入が使 えるか らです。
などとそれぞれのよさを発言 してきた。
指導の工夫③
よさに目を向けやすい式で計算す る活動を
「でも, 96÷32だか ら, うま く筆算でき たんだね。」と意地悪 く問いかけると,子 どもは, 次のように発言 してきた。
C ほかのわ り算でも筆井できますD
c 今は, 2けたでわ るわ り井の勉 強を Ltい るんだか ら,ほかの2けたでわるわ り算 もで きます。
そこで,36÷ 12や96÷24の式 を提示 し.筆算の計算をす る活動 を取 り入れたD
「十の位だけをみて」の方法で見 当をつ けた 子 どもは
,
「す ぐできる。」な どとつぶや きなが ら筆算を していた。 「四捨五入 して」の方法で見 当をつけた子 どもは,筆算 をしなが ら,
「おか し いなあ。」 と首をか しげなが ら商を修正 して計算 を進めていた。全員の子 どもが肇算 を事き終えた ところで, まず,36÷ 12か ら, どんな方法で見当をつ けたのか問いかけると,子 どもは,次のよ うに 発言 してきた。
C 3÷ 1で しましたD十の位だけを見て, 36を 30, 12を 10とみて, 30÷ 10 になって. 3÷ 1で 3としま した。
T 頭の位だけをみたんだね。
C ぼ くは.四捨五入 してみたんだけ ど, 40
÷ 10ですると4にな りま した。 12×4は 48で 36をこえるので,商は 3に しま した。
T 商を直 したんだね。
C 商 を直 さなくていいので,頭の位だけをみ る方がいいと思います。
C 賛成.次の 96÷ 24も. 9÷ 2で 4とす ぐできま した。 (拍手多数)
C 頭の位だけをみて見当をつ けると,筆算が す ぐできます。 (拍手多数)
学習活動 4 本時のまとめをす る.
T きちん とした答えが分か らないか ら見当を つけたんだけど,見当のつけ方 にもいろい ろ あったねbいろいろな問題 を してい くうちに
どの方法がいいと思いましたか。
C 頭の位だけを見てする方法です。(全員拍手) T それでは.「84÷ 21」の商の見当がす ぐ
につ く人 ? (84÷ 21と板脊す るC) C (多数挙手)
C 80÷ 20で4ですo (拍手多数)
C 21×4‑ 84だか らあっていると思いま す。
T 75÷ 25ならどうかな。
C 70÷ 20で 3です。 (拍手多数)
こ うして,子 どもは,頭の位 だけをみて見当 をつければよいことをつかんでいった。
本時のまとめとして,分かった ことをノー ト に書かせると, 「96÷ 32は 96を90, 32 を 30とみて, 90÷ 30, 9÷ 3で 3oJ とか
「頭の位だけを見て計算すれば商がす ぐ分かる。」
などの記述が見 られた。
6 考鼻
授業実践を通 して,子 ども札 96÷ 32な どのわ り算の筆算は 「頭の位だけをみて」見当 づければよいことをつかんでいった。
見当づけについては
,
「頭の位 をみて」 (フロ ン ト・エン ド),
「上か ら1けたの概数 をして」(フォーマル ・ナ ンバー)な どの方法があ り, 根拠があれば どの見 当づけを してもよい し,商 が違 えば,商の修 正 をすればよい とい う考 えも ある。単元を通 して
,
「見当づけをして,商が違 っていれば修 正す る」力をつけていけばよい と い うことである。しか し,本実践では,第二次の1時 目か ら 「頭 の位 をみて」の方法に収束 させ ることをね らっ た。それは
.r
頭の位 をみて」の方法は 「仮商の 修正が少な くなる」 とい う特徴か ら,単元の早 い時期によりよい方法 に触れ させたい とい う意 図があった。見当づけ臥 商の大 きさを見積 もることであ り,子 どもの 「数感覚」を豊かにす ることにつ ながる大切な力であると考える。今後 も,いた ず らに筆算技能の習熟 ばか りに力を入れ るので はな く,数感覚の豊かな子 どもを育てていきた
い。
(平成16年10月2日受理)
引用.鯵考文献 啓林館 井数4年 下
文部省 小学校学習指導要領解説 算数編 岡山大学算数 ・数学教育学会 井数学力診断調 査プロジェク ト 算数学力診断評価 を生かす「数
と計算」の指等
‑19‑