博 士 ( 薬 学 ) 庄 司 隆 行
学 位 論 文 題 名
Receptor Functions and Transduction lVIechanisms in Olfactory Systems
( 嗅 覚 器 の 各 種 刺 激 物 質 に 対 す る 応 答 機 能 と 情 報 変 換 機 構 )
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
現 在 ま で に 得 ら れ て い る 知 見 か ら、 それ ぞれcAMP、IP|が 関与 す るふ たっ の経 路 の ニ オ イ 受 容 メ カ ニ ズ ム が 提 唱 さ れ て い るo cAMP経 路 で は 、 ニ オ イ 分 子 が 嗅 線 毛 膜 上 の レ セ プ タ ー タ ン パ ク に 結 合 す る とG一 夕 ン パ ク を 介し て アデ ニレ ート シ ク ラ ー ゼ が 活 性 化 さ れ 、cAMP濃 度 の 上 昇 に と も な い 嗅 線 毛 膜 上 に 高 密 度 に 存 在 す るcAMP依 存 性 カ チ オ ン チ ャ ネ ル が 活 性 化 さ れ 、 受 容 器 電 位 が 発 生 す る 。 一 方IP,依 存 性 経 路 で は 、 ニ オ イ 分 子 が 嗅 線 毛 膜 上 の レ セ プ タ ータ ン パク 質に 結合 す る とGTP結 合 タ ン パ ク 質 を 介 し て ホ ス ホ リ パ ー ゼCが 活 性 化 さ れ 、 産 生 さ れ た IP8に よ り 嗅 線 毛 膜 上 のIP,依 存 性 カ チ オ ン チ ャ ネ ル が 活 性 化 さ れ 、 受 容 器 電 位 が 発 生 す る 。 ま た 、 こ れ ら の カ チ オ ン チ ャ ネ ル か ら 流 入 し たCaz゛ によ るCaz+依 存 性Cl― チ ャ ネ ル の 活 性 化 も 、 受 容器 電位 の発 生に 寄与 して いる と いう 報告 もあ る 。 以 上 の 機 構 に 共 通 の こ と は 、 外 界 と 接 し て い る 嗅 線 毛 膜 の イ オ ン 透 過 性 が 変 化 す る こ と が ニ オ イ 応 答 発 現 の 要因 であ ると いう 点で ある `。 そ こで 、本 研究 で は 、 ニ オ イ 刺 激 に よ っ て 活 性 化 さ れ るcAMP依 存 性 お よ びIP,依 存 性カ チオ ンチ ヤ ネ ル 、Ca'+依 存 性Cl− チ ャ ネ ル が、 実際 にニ オイ 応答 発現 に寄 与 して いる かど う か を 調 べ た 。 ま た 、 嗅 細 胞 が 本 来 持 っ て い る ニ オ イ 物 質 以 外 の 刺 激 に 対 す る 応 答 性 を 調 べ る 目 的 で 、 種 々 の 味 物 質 に 対 す る ク サ ガ メ 嗅 覚 器 の 応 答 に っ い て の 実 験 を 行 い 、 他 の 動 物 の 味 覚 器 で 得 ら れ て い る 味 応 答 の 性 質 と 比 較 し た 。
(1) ク サ ガメ 嗅 受容 膜に おけ るイ オン 透過 性変 化は ニオ イ応 答発 現に 寄 与す るか ニ オ イ 応 答 が 、 嗅 線 毛 上 のcAMP依 存 性 カ チ オ ン チ ャ ネ ル やIP3依存 性 カチ オン チ ャ ネ ル の 活 性 化 に よ っ て 発 現 す る な ら ば 、 受 容 膜 上 に 存 在 す る 塩 を 完 全 に 除 い た 場 合 、 ニ オ イ 応 答 は 消 失 す る は ず で あ る 。 し た が っ て 、 嗅 受 容 膜 上 の 塩 環 境 を 変 化 さ せ た と き の ニ オ イ 応 答 に 与 え る 影 響 を 調 べ れ ぱ 、 こ れ ら の カ チ オ ン チ ャ ネ ル が 関 与 し て い る か ど う か を 知 る こ と が で き る 。 本 実 験 で は 、 嗅 上 皮 を 種 々 の 塩 濃 度 の 溶 液 で 濯 流 し た と き の ニ オ イ 応 答 を 測 定 し 、 嗅 受 容 膜 に お け る カ チ オ ン チ ャ ネ ル の 活 性 化 が ニ オ イ 応 答 発 現 に 寄 与 す る か を 調 べ た 。 二 オ イ 物 質 を100 mM NaCl溶 液 に 溶 か し た 場 合 とsalt free溶 液 に 溶 か し た 場 合 の 濃 度 一 応 答 曲 線 を 比 較 し た と こ ろ 、 両 者 は ほ ば 同 じ 曲 線 で あ る こ と が わ か っ た 。 こ の こ と は 、Naイ オ ン が 存 在 し な く と も い ず れ の ニ オ イ 物 質 濃 度 で も ニ オ イ 応 答 が 発 現 す る こ と を 示 し て い る 。 ま た 、 応 答 の 大 き さ は 、Naイ オ ン の 濃 度 変 化 に よ り ほ と ん ど 影 響
を 受 け な か っ た 。 さ ら に 、13種 の ニ オ イ 物 質 に 対 す る 応 答 のNaCl依 存 性 を 調 べ た 。 そ の 結 果 、 刺 激 溶 液 に 塩 が 合 ま れ な い 場 合 の 応 答 の 大 き さ と100 mM NaClが 合 ま れ る 場 合の 応答 の大 きさ の比 は0.83か ら1. 26の間 の値 であ り、 刺 激液 中か
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ら 塩を除い てもニオ イ応答の 大きさは ほとんど影響を受けないことが明らかに な った。ま た、刺激 液中に含まれるCaClz濃度を、Oから10 mMまで変化させた場 合 でも、ニ オイ応答 の大きさ はほとん ど変化しなかった。以上の結果は、嗅受 容 膜表面か ら塩を除 いた状態 でも、通 常と同じ大きさのニオイ応答が発現する こ とを示し ている。 このこと は、嗅線 毛膜上のcAMP依存性カチオンチャネルや IP3依 存性カチ オンチャネルがニオイ応答の発現には寄与していないことを示し て いる。ま た、ニオ イ応答の 大きさが 、刺激液中 に含まれ るCaClz濃度の 変化 にほとんど影響を受けないことから、Ca2゛依存性CI−チャネルの活性化もまたニ オ イ応答の 発現には 寄与しな いと考え られる。したがって、ニオイ応答の発現 に は、嗅線 毛を含む 嗅受容膜 における イオン透過性変化は寄与していないこと が示唆された。
(Z) ク サ ガ メ 鋤 鼻 器 に お け る ニ オ イ 応 答 感 度 と 情 報 変 換 機 構 鋤鼻器は 多くのほ 乳類やは 虫類、両 生類などにみられる化学受容器であり、
性行動や 索餌行動 に重要な 役割を果 たしてい ると考えられている。鋤鼻器受容 細胞には嗅細胞のようナょ線毛はみられず、受容膜は微絨毛構造を形成している。
リンガ一 液に種々 のニオイ 物質を溶 かして刺 激液としたときの、鋤鼻器および 主嗅覚器のニオイ応答の濃度一応答曲線を比較したところ、鋤鼻器は、主嗅覚器 とほば同 じ閾値濃 度から応 答を発現 すること がわかった。嗅覚器のニオイ受容 において は、線毛 構造の役 割の重要 性が強調 されているが、線毛を持たない鋤 鼻器受容 細胞が嗅 細胞と同 等の感度 を有する ことから、線毛構造の有無は、少 ナよくとも応答感度には影響しないものと推測される。また、鋤鼻器のニオイ応 答も、主 嗅覚器の 場合と同 様にNaClの有 無にかかわらず、応答の大ききはほぼ 一定であった。さら、に、刺激液中のCaCl2濃度をOから10 mMまで変化させても、
ニオイ応 答の大き さはほと んど変化 しなかっ た。このことは、Caイオンも、Na イオンと 同様にニ オイ応答 発現に必 須ではな いことを示している。以上の結果 から、鋤 鼻器にお けるニオ イ応答発 現には、 受容膜表面のイオン透過性変化は 寄与しないことが示唆された。
(3)各種味物質に対するクサガメ嗅覚器の応答
クサガ メ嗅覚器 は、5基本味のうち塩味、酸味、苦味に対して味覚器と同等の 応答性 を示した 。塩応答 において は、味覚 器とほば同じか、より高い感度で応 答し、 多価陽イ オンの塩 は、一価 陽イオン の塩よりも大きな応答を発現した。
また、 味覚器で 報告され ている陰 イオン効 果も観察された。チャネルを通過し にくい と考えら れる有機 陽イオン も、大き な応答を引き起こした。さらに、am ilorideによる 抑制効果 を種々の 塩応答に っいて調べたところ、amilorideはNa 応答だけでなく他の塩応答も非特異的に抑制することがわかった。この結果は、
イヌ味 覚器の実 験結果と 一致する 。種々の 苦味物質に対して、クサガメ嗅覚器 は敏感 に応答し た。中性 で正電荷 をもっキ ニーネ、ストリキニーネ、パパベリ ンに対 する応答 は、100 mM NaClの存在により完全に抑制された。一方、電荷を 持たないカフェインなどに対する応答は全く影響を受けなかった。この結果は、
ウシガェル味覚器での実験結果と一致する。種々の酸に対する応答の大きさを、
pHに対し てプロッ トしたと ころ、ヒ ト味覚器 、ラット味覚器と同様に陰イオン の種類 によって 応答の大 きさが変 化するこ とがわかった。また、応答は味覚器 よりも より高いpHから発現 した。し たがって 、嗅細胞は味細胞よりも酸に対す る感度 が高いこ とが明ら かになっ た。塩、 酸、苦味物質に対する応答の温度依 存性を 調べたと ころ、20〜30℃にピー クをもっ曲線を描いた。この結果は、ラ ット味覚器、イヌ味覚器の実験結果と一致する。
以上の 結果から 、クサガ メ嗅覚器 の味物質 (塩、酸、苦味物質)に対する応 答の感 度は一般 に味覚器 よりも鋭 敏であり 、その性質は味覚器で報告されてい る味応 答の性質 ときわめ て類似し ているこ とがわかった。このことは、嗅細胞
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がニオイ物質以外の種々の刺激に対しても応答する機能を有しており、塩、酸、
苦味物質の受容には、味細胞と嗅細胞に共通の構造が関与している可能性を示 している。
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学位論文審査の要旨 主 査 教 授 栗 原 堅 三 副 査 教 授 野 村 靖 幸 副 査 教 授 加 茂 直 樹 副査 助教授 三宅教尚
学 位 論 文 題 名
Receptor Functions and Transduction Mechanisms in Olfactory Systems
( 嗅 覚 器 の 各 種 刺 激 物 質 に 対 す る 応 答 機 能 と 情 報 変 換 機 構 )
申 請 者 は 、 長 年 嗅 覚 受 容 機 構 に 関 す る 研 究 を 行 っ て き た 。 現 在 ま でに 得 ら れ て い る 知 見か ら、cAMP、お よびIPユ がセ カン ドメ ッセ ンジ ャー と して 関 与 す る ふ た っ の 経 路 の ニ オ イ 受 容 メ カ ニ ズ ム が 提 唱 さ れ て い る 。 こ れら の 機 構 で は 、 最 終的 にセ カ. ンド メッ セン ジャ ーに 依存 した カテ オン チ ャネ ル の 開 口 に よ っ て 受 容 器 電 位 が 発 生 す る 。 ま た 、 こ れ ら の カ チ オ ン チ ャネ ル か ら 流入 したCaz゛に よっ てCl− チャ ネル が活 性化 され ると の説も提唱されて い る 。 っ ま り 、 こ れ ら に 共 通 し て い る の は 、 外 界 と 接 し て い る 嗅 線 毛膜 の イ オ ン 透 過 性 が 変 化 す る こ と が ニ オ イ 応 答 発 現 の 要 因 で あ る と い う 点で あ る 。 そ こ で 、 本 研 究 で は 、cAMP依 存 性 お よびIP3依存 性カ チオ ンチ ャ ネル 、 Caz゛依 存性Clー チャ ネル が、 実 際に ニオ イ応 答発 現に 寄与 しているかどうか を 調 べ た 。 ま た 、 嗅 細 胞 が 本 来 持 っ て い る ニ オ イ 物 質 以 外 の 刺 激 に 対す る 応 答 性 を 調 べ る 目 的 で 、 種 々 の 味 物 質 に 対 す る ク サ ガ メ 嗅 覚 器 の 応 答に つ い て の 実 験 を 行 い 、 他 の 動 物 の 味 覚 器 で 得 ら れ て い る 味 応 答 の 性 質 と比 較 し た 。
(1) クサ ガメ 嗅受 容膜 にお け るイ オン 透過 性変 化は ニオイ応答発現に 寄与す る か
ニ オ イ応 答が 、嗅 線毛 上のcAMP依 存性 カチ オン チャ ネル やIP|依 存性 カチ オ ン テ ャ ネ ル の 活 性 化 に よ っ て 発 現 す る な ら ば 、 受 容 膜 上 に 存在 する 塩を 完 全 に 除 い た 場 合 、 ニ オ イ 応 答 は 消 失 す る は ず で あ る 。 し た がっ て、 嗅受 容 膜 上 の 塩 環 境 を 変 化 さ せ た と き の ニ オ イ 応 答 に 与 え る 影 響 を調 べれ ば、
こ れ ら の カ チ オ ン チ ャ ネ ル が 関 与 し て い る か ど う か を 知 る こ とが でき る。
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本実 験では、 嗅上皮を種々の塩濃度の溶液で濯流したときのニオイ応答を 測定 し、嗅受 容膜におけるカチオンチャネルの活性化がニオイ応答発現に 寄与 するかを 調べた。その結果、受容膜上に塩が存在しなくとも通常と同 様の ニオイ応 答が発現し、また、NaイオンおよびCaイオンの濃度を変化さ せても、ニオイ応答はほとんど変化しナょいことが明かとナよった。このこと は、嗅線毛膜上のcAMP依存性カテオンチャネルやIP3依存性カチオンチャネ ルが ニオイ応 答の発現には寄与していないことを示している。また、ニオ イ応 答の大き さが、Caイオン濃度の変化にほとんど影響を受けないことか ら、Caz゛依存性Clーテャネルの活性化もまたニオイ応答の発現には寄与しナよ いと考えられる。
( Z) ク サ ガ メ 鋤 鼻 器 に お け る ニ オ イ 応 答 感 度 と 情 報 変 換 機 構 鋤鼻器は多くのほ乳類やは虫類、両生類ナょどにみられる化学受容器であ り、 性行動や索餌行動に重要な役割を果たしていると考えられている。鋤 鼻器 受容細胞には嗅細胞のような線毛はみられず、受容膜は微絨毛構造を 形成 している。リンガ一液に稜々のニオイ物質を溶かして刺激液としたと きの、鋤鼻器および主嗅覚器のニオイ応答の濃度―応答曲線を比較したとこ ろ、 鋤鼻器は、主嗅覚器とほば同じ閾値濃度から応答を発現することがわ かっ た。嗅覚器のニオイ受容においては、線毛構造の役割の重要性が強調 され ているが、線毛を持たない鋤鼻器受容細胞が嗅細胞と同等の感度を有 する ことから、線毛構造の有無は、少なくとも応答感度には影響しないも のと 推測きれる。また、鋤鼻器のニオイ応答も、主嗅覚器の場合と同様に Naイオ ン、Caイオンの有無にかかわらず、応答の大きさはほぼ一定であつ た。 この結果から、鋤鼻器におけるニオイ応答発現には、受容膜表面のイ オン透過性変化は寄与しないことが示唆された。
(3)各種味物質に対するクサガメ嗅覚器の応答
クサガメ 嗅覚器は‑5基本味のうち塩味、酸味、苦味に対して、味覚器よ りも高感 度で応答 した。塩応答においては、ー価よりも多価イオンの方が より閥値 が低く、 いわゆる陰イオン効果も観察された。チャネルを通過し にくいと考えられる有機陽イオンも、大きな応答を引き起こした。さらに、
amilorideはNa応答だけでなく種々の塩応答も非特異的に抑制した。種々の 苦味応答 において は、中性で正電荷をもっ物質に対する応答は、NaClによ り完全に 抑制され た。ー方、電荷を持たない物質に対する応答は全く影響 を受けな かった。 種々の酸に対する応答の大きさを、pHに対してプロット したとこ ろ、陰イ オンの種類によって応答の大きさが変化することがわか った。塩 、酸、苦 味物質に対する応答の温度依存性を調べたところ、20〜 30℃にピー クをもつ曲線を描いた。これらの結果は、ほ乳類の味覚器やカ エルの味 覚器で得 られた実験結果とよく一致する。以上の結果から、嗅覚
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器の味物質に対する応答感度は一般に味覚器よりも鋭敏であり、その性質 は味覚器で報告されている味応答の性質ときわめて類似していることがわ かった。このことは、嗅細胞がニオイ物質以外の種々の刺激に対しても応 答する機能を有しており、塩、酸、苦味物質の受容には、味細胞と嗅細胞 に共通の構造が関与している可能性を示している。