与論島の農業従事者におけるライフスタイルと健康

著者

青山 公治

雑誌名

南太平洋海域調査研究報告=Occasional papers

巻

42

ページ

56-61

別言語のタイトル

Questionnaire survey on the relationship

between lifestyle and health in agriculture

workers RESIDING IN YORON ISLAND

与 論 島 の 農 業 従 事 者 に お け る ラ イ フ ス タ イ ル と 健 康 青 山 公 治 鹿 児 島大 学大学 院 医歯 学総合 研究 科健康 科学専 攻人 間環境 学講座 環境 医学分野 要 旨 主観 的健康感 は、生命予後 との 関連 性が認 め られてい る健康指標 のひ とつ であ る。そ こ で、与論 島の農 業従事者 の200名 を対象 に、主観的健康感お よび身体 的健康 とライ フス タ イル との関連 性を検討 するた めに、質 問紙調査 を実施 し、以下の結果 が得 られ た。1)健 康 習慣 は、男女それぞれ69.5、83.7%が 「普通 ∼良い」で あった。2)主 観 的健康感 は、 60歳 未満 の男 性 と全女 性で は、健康群 が80%を 超 えた。3)肥 満者率 は、男女 、それぞ れ33.3、32.4%で あ り、肥満群 にお いて高い血圧 レベルの割合が有意 に高かった。4)主 観 的健康感 と健 康習慣 との 間には、直接的 な関連 性はみ られなかったが、主観 的健康感 は、 健康 に対す る不安(健 康不安)お よび 身体 的健康度(血 圧)と 、 また健康不安 は、ス トレ スの有無 お よびス トレス処理の状況 と有意 な関連 が認 め られた。 これ らの結果 か ら、与論 島の農 業従 事者 は概 ね良好 な主観 的健康感 を もってい るこ とが分 かった。主観 白腱 康感 は、 ライ フスタイルあ るいは身体的健康度 の認知 に よる健康不安お よび ス トレス対 処の有無 に よって影響 され ることが示唆 され 、心身 の相 関作用の認識の上 にたった、包括 的な地域保 健活 動 が重 要 と思 われ た。 キー ワー ド:ラ イ フス タイル 、主観 的健康 感 、身体 的健康 、農業従 事者 、与論 島

Questionnaire survey on the relationship between lifestyle and health

in agriculture workers RESIDING IN YORON ISLAND

AOYAMA

Koji

Department of Environmental Medicine, Laboratory of Human and Environmental

Abstract

The questionnaire survey for analyzing the relationship

among subjective

health status, physical

health and lifestyle in agriculture

workers

residing in Yoron Island was carried out. The results are as

follows. 1) Of the subjects, 69.5% of the men and 83.7% of women reported moderate and good

health practices.

2) Of the subjects,

more than 80% of the women and men (under the age of 60 years)

recognized their subjective

health status as good. 3) The proportion of the men and women who

were decided as their obesity were 33.3%, 32.4%, respectively. The status of obesity was

significantly

associated with the levels of blood pressure. 4) Although the correlation between

subjective health status and health practices and was not detected, subjective health status was

significantly

associated

with the anxiety over health and the levels of blood pressure. Further, the

anxiety over health was significantly

related to the status stress and coping with stress. These results

indicated that subjective health status was affected by individual lifestyles, the anxiety over health

and the unsuccessful

coping with stress, and that the necessity of conceptualizing

health in a broader

way and incorporating

mental health care in community health activity.

Keywords : Lifestyle, Subjective

health status, Physical health, Agriculture

workers,

Yoron Island

は じ め に 健康 とは、身 体的側面だ けで な く、精神 的 ・社 会的な要素 をも含む こ とは、広 く受 け入 れ られ てはい るが、 これ まで は とか く客観 的な身体的健康状態 に重 点がお かれ て きた よ う に思 われる。 地域活 性の原動力 となる住民 の活 力は、単 に身体的 な健康 だけでな く、心の 健康 か ら発 生す るもので ある。身体 、精神 、社 会の3側 面か ら構成 され る個 人の総合的 な 健康感 を主観的健康感 あるい は 自覚 的健 康感 と してい る。 この主観 的健康感 は、生命 予後 との強い関連性 が明 らか にされ 、客観 的健康状 態 とは独立 した健康指標 としての重要 性が 認識 されてい る 1・2。そ こで 、与論 にお ける農業従 事者の主観 的健康 感 と、ライ フス タイ ル 、 と りわけ健 康習慣お よび 自己評価 できる身 体的健康度 との 関連 性を検討 し、主観的健 康感 の影響要 因を明 らか に し、住民 の健康保持 増進 の方策 を提示す る ことを本研 究の 目的 と した。 調 査 対 象 と方 法 与論 町農協組 合員の うち畜産、花卉 、野菜 、サ トウキ ビ、果樹 の5作 目部 会に所 属す る 200名 を対 象に、留 め置 き法 による 自記入式 質問紙調査 を行 った。質 問紙 は各部 会 に配布

イ ル 、農 作 業 、 歯科 保健 及 び 農 業 災 害 と した。 本 報 告 で は 主 観 的 健 康 感 、身 体 的 健康 状 態 とライ フ ス タイ ル との 関 連 につ い て述 べ る。 主 観 的 健 康 感 は、 現 在 健 康 で あ るか ど うか を 選 択 肢 形 式 で 問 うた 。 ライ フス タイ ル 、 と りわ け健 康 習慣 は、 主 に 「森 本 の8つ の 健康 習 慣 」3の 指 標 に も とづ き評価 した 。 そ の指 標 は 、 毎 日朝 食 を 食 べ て い る 、1日 平 均7∼8 時 間 は 眠 っ て い る、 栄 養 摂 取 バ ラ ン ス を考 え て 食 事 を して い る、 タバ コは 吸 わ な い 、 運 動 や 定期 的 な ス ポ ー ツ を して い る 、毎 日そ ん な に 多 量 の 酒 は 飲 ん で い な い 、 労働 時 間 は1日 9時 間 以 内 に と どめ て い る、 自覚 的 な ス トレス は そ ん な に多 くない 、 の8項 目か らな る。 各 項 目が 守 られ て い れ ば1点 と し、合 計 点 が6点 以 上 の場 合 を 「良い 健 康 習慣 」、4∼5点 を 「普通 の健 康 習慣 」、3点 以 下 を 「悪 い 健 康 習慣 」 と した。 統 計 学 的 手 法 は 、比 率 の 検 定 に は カ イ二 乗 検 定 ま た はFisherの 直 接 確 率 法 を用 い た 。 有 意 水 準 はp<0.05と した 。 調 査 結 果 及 び 考 察 1.対 象 者 の 概 要 質 問紙 の 回収 率 は53%で あ っ た。 対 象 者 は 、男 性69名 、 女 性37名 、計106名 で 、 平 均 年 齢 は そ れ ぞ れ 、56.2±11.8、52.4±8.3で あ っ た。 専 業農 家 が56.6%、 兼 業農 家(主 農 業)が24.5%で 、兼 業 農 家(主 非 農 家)が18.9%で あ っ た。 従 事 作 目は 、 畜 産(牛)と サ トウキ ビで そ れ ぞ れ 全 体 の60∼70%の 対 象 者 が従 事 して い た 。 つ い で サ トイ モ 、野 菜 、 花 卉 、 果 樹 で あ っ た 。 表1年 齢構 成別の健 康習慣(男 性)  ()内:% 年齢構成 健康習慣 計 悪い 普通 良い 無回答 40歳 未 満 5(71.4) 1(14.3) 1(14.3) 0(0.0) 7(100.0) 40∼49歳 4(30.8) 7(53.8) 2(15.4) 0(0.0) 13(100.0) 50∼59歳 7(43.8) 5(31.3) 4(25.0) 0(0.0) 16(100.0) 60∼69歳 5(19.2) 12(46.2) 9(34.6) 0(0.0) 26(100.0) 70歳 以 上 0(0.0) 2(28.6) 5(71.4) 0(0.0) 7(100.0) 計 21(30.4) 27(39.1) 21(30.4) 0(0.0) 69(100.0) 2.ラ イ フ ス タ イ ル 健 康 習慣 は 、 年 齢 構 成 別 にみ る と、男 性 は 加齢 と共 に 「良い 」 の割 合 が 高 くな る傾 向 が み られ 、男1生全体 で は 、69.5%が 「普 通 ∼ 良い 」 で あ っ た(表1)。40歳 未 満 で は 「悪 い 」 が70%を 越 え、 内 容 的 に は 、 労働 時 間 が9時 間 以 上 、 ス トレス あ り、 多 量 飲 酒 、 喫 煙 な ど が悪 い 要 因 とな っ て い た 。 若 い 世 代 の ライ フ ス タイ ル の 改 善 が 必 要 と思 われ た。 一 方 、 女 性 は年 齢 構成 間 で は 大 き な差 異 はみ られ ず 、43.2%が 「普 通 」、40.5%が 「良 い 」で あ っ た 。

自 らを健 康 だ と感 じて い る 対 象 者 は 、年 齢 構成 別 にみ る と、 男性 で は60歳 未 満 で は 、 80%以 上 が健 康 と回 答 した 。60歳 以 上 に な る とそ の 割 合 は50%と 低 下 した(表2)。 女 性 は全 年 齢 構成 で86.5%が 健 康 と回 答 した 。一方 、対 象 者 の うち、男 女 それ ぞ れ60.9、62.2% が健 康 不 安 を もっ て い た 。 主 観 的健 康 感 の 不健 康 群 で 、 健 康 不 安 を もっ て い る割 合 が 男 性 で 有意 に 高 か っ た(p<O.Ol)。 また 健 康 群 で も健 康 不 安 を もつ 割 合 は 、男 性 で は43.6%、 女 性 で は60.0%で あ っ た 。 ま た 、 ス トレス を感 じて い る男 女 は、 そ れ ぞ れ49.3%、59.5%と お り、年 齢 構成 別 に み る と、男 性 で は50歳 代 の62.5%、 女 性で は40歳 代 の90.9%が 最 も 高 か っ た。 健 康 不 安 と、 健 診 受 診 や 健 康 へ の気 遣 い な どの 健 康 行 動 との 関連 は 認 め られ な か っ た 。 表2  年 齢構成 別の主観 的健康感(男 性)  ()内:％ 年齢構成 主観的健康感 計 健 康  不健康 無回答 40歳 未満 6(85.7)  0(0.0) 1(14.3) 7(100.0) 40∼49歳 12(92.3  )1(7.7) 0(0.0) 13(100.0) 50∼59歳 13(81.3)  3(18.8) 0(0.0) 16(100.0) 60∼69歳 14(53.8)  12(46.2) 0(0.0) 26(100.0) 70歳 以 上 4(57.1)  3(42.9) 0(0.0) 7(100.0) 計 49(71.0)  19(27.5) 1(1.4) 69(100.0) 4.身 体 的健 康 状 態 本 研 究 で は 、 身 体 的 健 康 状 態 の指 標 と して 、 自己 申告 に よ る身 長 、体 重 を も と に算 出 し たBMI(肥 満 度)と 血 圧 レベ ル を用 い た。 男 性 の33.3%が 肥 満 と判 断 され 、女 性は32.4%で あ っ た。 年 齢構 成 別 には 、男 性 の50歳 代 で最 も高 く43.8%で あ っ た。 血 圧 レベ ル は 、男 女 と も40歳 以 上 の ほ とん どが 自 己の 血 圧 レベ ル を認 識 して い た 。肥満(BMI>25)の 男 女 に お い て 、血 圧 レベ ル の 高 い 者 の割 合 が 非肥 満 群 に比 べ て 有 意 に高 く(p<O.Ol,p<O.05)、 そ れ ぞれ60.0%、54.5%で あ った 。 女 性 で は 、健 康 習慣 の 悪 い 群 に肥 満 の害1」合 が 高 か し傾 向 が み られ た。 5.主 観 的健 康感 に影 響す る要 因 主観 的健康感 と 「森本の8つ の健康 習慣 」に よる健康習慣 との 間には、直接 的な関連 性 はみ られなかったが、主観的健康感 と健康 不安 との間の有意 な関連 が男性 において認 め ら れ(p<O.05)、健 康不安が主観 的健康感 を低 め るこ とが示峻 され た(表3)。 主観的健 康感 と 身体 的健康 度(血 圧 レベル)と 有意 な 関連 が男 性におい て認 め られ(p<O.05)、 血圧 等の 身体 的健康度 が低 い と主観的健康感 も低 くなる ことが示 された(表4)。 また身体 的健康度 (肥満 と血圧)が 低 い と健康 不安 が増す傾 向が男女 でみ られ た。

表3健 康 に 対 す る 不 安 と 主観 的 健 康 感(男 性:40-69歳)  ()内:% 健康不安 主観的健康感 計 健 康 不健康 無回答 不安である 不安 はない 計 17(53.1) 21(95.5) 38(70.4) 15(46.9) 1(4.5) 16(29.6) 0( 0.0) 0( 0.0) 0( 0.0) 32(100.0) 22(100.0) 54(100.0) 有意 差あり(p<0.01).検定には無 回答は含めてい ない 表4血 圧 レベ ル と主 観 的健 康 感(男 性:40-69歳)()内:% 血圧 レベ ル 主観的健康感 計 健 康 不健康 無回答 普 通 29(82.9) 6(17.1) 0(0.0) 35(100.0) 高 い 10(50.0) 10(50.0) 0(0.0) 20(100.0) 計 39(70.9) 16(29.1) 0(0.0) 55(100.0) 有 意 差 あ り(p<O.05).検 定 に は 無 回 答 は 含 めて い な い 健 康 不 安 とス トレス の 有 無 との 間 に有 意 な 関連 が 男 女 で認 め られ(p<0.05,p<0.05)、 ス トレス 処 理 が で き て い る と健 康 不 安 も低 い とい う有 意 な 関連 が 男 性 で み られ た(p<0.05)。 さ らに ス トレス 処 理 が 不 十 分 で あ る と主観 的健 康 感 が 低い傾 向 も女 性 でみ られ た 。健 康 習 慣 が悪 い と、 ス トレス(表5)と 健 康 不 安 が増 す傾 向が み られ た 。 ス トレス を感 じて い る 男 女 の うち 、 そ れ ぞ れ 約25%、33%が 、 「余 り処理 で きて い な い 」 と回答 した。 ス トレス の処 理 が 不 十 分 な 群 の ライ フス タイ ル を分 析 した と こ ろ、 自由時 間 の過 ご し方 に お い て 、 「余 り処 理 で きて い な い 」 群 は 、 「何 とか ・十 分 で き て い る」群 に比 べ て 、 「自由 時 間 が な い 」、 「教 養技 術 向上 」 を挙 げ る者 が 多 く、反 対 に 「地 域 社会 との交 流 」、 「家 族 団 らん」、「疲 れ を と る 」 が 少 な か っ た 。 表5健 康 習 慣 とス トレス 状 況(男 性:40-69歳) ()内:% 健康習慣 ス トレス 状 況 計 ある  あま りない 無回答 悪い 12(75.0)  4(25.0) 0( 0.0) 16(100.0) 普 通 10(41.7)  13(54.2) 1( 4.2) 24(100.0) 良 い 6(40.0)  9(60.0) 0( 0.0) 15(100.0) 計 28(50.9)  26(47.3) 1( 1.8) 55(100.0) 有 意 差 な し(p=0.085).検 定 に は 無 回 答 は含 め て い な い

っ た。 主 観 的健 康感 は 、 健 康 診 断 な どに よる身 体 的 健 康 度 の 認 知 とそ れ に伴 う健 康 に対 す る不 安 の影 響 を 受 けて い る と思 われ た。 ま た 、 健 康 習 慣 を初 め とす る ライ フ ス タイ ル に よ る 、 あ る い は健 康 不 安 等 に よ る ス トレス の増 大 が 十 分 に対 処 され ず 、 主 観 的健 康感 を低 下 させ て い る か も しれ な い 。 主 観 的健 康 感 と健 康 不 安 が 有 意 に 関連 して い た こ と も考 え合 わ せ る と、 心身 の 相 関 作 用 の 認 識 の上 に た っ て 、個 人 の ライ フス タイ ル や 生 活 の 質 を考 慮 し た 、 包 括 的 な 地 域 保 健 活 動 の 重 要 性 が 示 唆 され た 。 謝 辞 本 調査 に御 協 力 頂 きま した 与 論 町農 協 ス タ ッフ の 関係 者 の 方 々 を は じめ 、組 合 員 の 皆様 方 に 心 よ り感 謝 申 し上 げ ま す 。 文 献

1.Singer E. et al.:Mortality and mental health-evidence from the midtown

Manhattan restudy. Social Science and Meidicine1976;10:517-25

2.Ider EL, Kasl S. Health perceptions and survival: do global evaluations of health status really predict mortality? J Geronology 1991;46:S55-65