• 検索結果がありません。

土壌の物理性

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "土壌の物理性"

Copied!
46
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

145cover3 (2020-09-29 11:01)

土壌の物理性 第 145 号 令和 2 年9 月 20 日発行(年 3 回発行) 昭和 45 年 7月 31 日 学術刊行物承認 ISSN 0387‑6012

土壌の物理性 第 145 号 2020年 9月

Journal of the Japanese Society of Soil Physics

土壌物理学会

Japanese Society of Soil Physics

(2)
(3)

土壌の物理性

第 145 号  2020 9

目 次

巻頭言

小林政広 . . . 1

論文

ELPIS-JPを用いた畑地土壌水分の将来予測

辻 卓弥·藤井理樹·坂口 敦 . . . 3

講座

土壌中における溶質の吸着移動現象の基礎理論 III.協同吸着·多層吸着·選択係数

石黒宗秀 . . . 11

土粒子

私の放浪旅 久保田富次郎 . . . 23

会務報告

 . . . 27

編集後記

 . . . 29

② ③

表紙写真の説明

① 「ボーリング調査による不攪乱地質コア」鹿児島県鹿屋市旭原の調査で採取したボーリングコア066 mのうち010 mおよび5065 mを抜粋して示した.54.564.7 mには主帯水層を構成する大隅降 下軽石層が出現した.ボーリング孔を利用した地下水の水質観測は現在も続けている.今号掲載の土粒 子「私の放浪旅」をご参照下さい.

② 「ボーリング調査の様子」鹿児島県農業開発総合センター大隅支場内(鹿児島県鹿屋市)においてボーリ ング調査を実施した(20051018日撮影).今号掲載の土粒子「私の放浪旅」をご参照下さい.

③ 「観測機器の設置」調査圃場の土壌深さ20 cm40 cmに圧力センサーを接続したテンシオメータを埋 設し,土壌水の吸引圧の経時変化をロガーで記録した.今号掲載の論文「ELPIS-JPを用いた畑地土壌水 分の将来予測」をご参照下さい.

④ 「調査圃場の土壌断面」山口大学内畑地圃場の黄色土(砂質埴壌土)の断面を示した.今号掲載の論文

「ELPIS-JPを用いた畑地土壌水分の将来予測」をご参照下さい.

(4)
(5)

135 号の訂正とお詫び

土壌物理学会編集委員長

江口の総説「農業環境中における放射性セシウムの挙動」において,下記のような誤りがありま した.お詫び致しますとともに訂正をお願いいたします.

Fig. 6

(誤)

Max.

0.0001 0.001 0.01 0.1 1

1950 1960 1970 1980 1990 2000 2010

Min.

Mean

水稲玄米への移行係数TF

西暦年 0.00001

0.0001 0.001 0.01 0.1 1

1950 1960 1970 1980 1990 2000 2010

Max.

Min.

Mean

⋞⡿࡬ࡢ⛣⾜ಀᩘTF

すᬺᖺ

(正)

(6)

出版企画案募集のお知らせ

企画準備委員会委員長 長 裕幸

先の土壌物理学会総会(令和元年 10 月 26 日)にて企画準備委員会の設置が承認されました.

企画準備委員会では,昨年度に引き続き学会活動の更なる活性化を期し,下記の要領で会員の 皆様より出版企画を公募いたします.採用された企画に対しては,出版時に学会より 50 万円(最 大)の助成を行います.応募を希望される場合は下記要領に従い,出版企画書を学会事務局へ提 出してください.

1. 出版企画の条件

〇 土壌物理学に関係するもの(教科書,解説書,啓蒙書,あるいは学会誌に掲載された特集,

古典を読むなどの記事を書籍としてまとめたもの)であること.

〇 土壌物理学会編を謳うこと(編著者,著者は別途定めて良い).

〇 著者は学会員であること.

2. 出版企画書(形式自由,以下の内容を記載してください)

2.1 タイトル 

2.2 著者(出版責任者)(分担執筆者がいる場合は執筆陣全員)

2.3 出版物の概要,内容,分量など 2.4 出版の意義

2.5 出版スケジュール

2.6 見積もり(出版社との打ち合わせにもとづいて発行すること)(退職記念などの予算を充 当する場合はいわゆるマッチングファンドを考慮することができる)

2.7 締め切り  2021 年 1 月 31 日 2.8 提出先 土壌物理学会事務局

   3. その他

3.1 助成金は出版時に支出します. 

3.2 出版の体裁については企画準備委員会と調整させていただくことがあります.

3.3 採用予定件数  1 2 件 応募状況等を考慮しながら次年度以降の予定を決めます).尚,

提出された出版企画書については企画準備委員会(委員長 長 裕幸(佐賀大学名誉教授),

委員 常田岳志(農研機構 · 農環研) )および評議委員会にて,審議を行い,採否を決定い たします.

3.4 本件についてのご質問は企画準備委員会(土壌物理学会事務局)あてメールでご質問願い ます.

企画準備委員会では,この他,出版以外の企画等についても広く公募いたしますので,アイデア

をお持ちの方は企画準備委員会(土壌物理学会事務局)に是非ご一報下さい.

(7)

「土壌の物理性」の J-STAGE 登載 · 公開のお知らせ

土壌物理学会編集事務局

学会誌「土壌の物理性」は令和 2 年度より,独立行政法人 科学技術振興機構( JST )が運営する 電子ジャーナルの公開システム「 J-STAGE 」でも閲覧可能となりました.現在,土壌の物理性第 143 号の登載が完了し公開されています.新刊については発行され次第,順次登載 · 公開していき ます.

登載 · 公開内容

投稿論文,研究ノート,総説,解説,研究紹介,資料,土粒子,講座,特集,書評,巻頭言,編集 後記(会告は記事の訂正に関してのみ,また,会務報告関連は登載していません)

URL

J-STAGE における「土壌の物理性」の URL は以下のとおりです.

https://www.jstage.jst.go.jp/browse/jssoilphysics/-char/ja

PDF ファイルの閲覧について

公開から 1 年以内の本文 PDF を閲覧するには,オープン記事以外,購読者認証が必要です.その 際,購読者番号(会員番号)とパスワード(会員苗字のアルファベット)をご入力下さい.

バックナンバーの J-STAGE 登載について

土壌物理学会のホームページで公開しているバックナンバーについても,順次 J-STAGE への登載

· 公開を進めていきます.

(8)
(9)

J. Jpn. Soc. Soil Phys.

土壌の物理性 No. 145, p.1 (2020)

変化の中で

小林 政広

1

近年,自然災害が私たちの想像を超える規模で次から次へと発生していると感じる.2011年3月の東北地方太平 洋沖地震では,沿岸部に壊滅的な津波被害が生じた.加えて東京電力福島第一原子力発電所事故が発生し,放射能汚 染による被害が広域に及んだ.多くの人々の努力で復興が進められているが被害はまだ解消していない.そのような 中ここ数年,国内各地で観測記録を塗り替えるような豪雨が発生し,これによる激甚な土砂災害や洪水災害が続いて いる.このような豪雨の頻発は地球温暖化の影響と考えられており,世界全体でも,豪雨による洪水,乾燥による大 規模森林火災などによる被害が毎年伝えられている.地球のシステムが変わっている.

かつて土壌中の水移動の研究で散水実験を行っていたころ,降雨強度を100 mm h−1に設定しようとは考えなかっ た.むしろ10 mm h−1以下の雨を一様に降らせる降雨装置の制作が課題であった.しかし今,100 mm h−1の降雨下 での土壌中の水移動を予測することが私たちの課題である.水と空気の置き換えと言った方がよいのかもしれない.

このような豪雨時の水流出量,輸送される溶存物質や土砂の量を測ることも私たちの課題である.身近な流域試験地

では50 mm h−1程度の降雨イベントで堰が埋まり,採水装置が何度も流された.観測そのものから新しくする必要が

あるのだろう.

この文章を執筆している現在,世界は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の猛威にさらされている.近年の 自然災害では,被災地の困っている人々を支援するため,多くの人が家を飛び出して現地に駆けつける行動が広がっ た.しかし,感染症の基本対策は「ステイホーム」である.多くの経済活動が停止し,深刻な影響が始まっている.

身近な研究の場でも,学術大会の中止が相次ぎ,教室や研究室で研究活動をすることができない状況が続いている.

この事態で世界は変わり,元には戻らないという.

変化を受け入れてできることをやっていくしかない.様々な分野で,インターネットを活用して人とつながる工夫 がなされている.オンラインのセミナーや学術大会など,技術の向上や利用の仕方が急速に進化している.このよう なコミュニケーションを自分がすることは想像していなかったが,上手く活用できるかは別として,コロナ後も定着 していそうである.実験室でのデータ取りが制限される状況で,数値モデリングを研究手法にする人が増えるかもし れない.数値モデリングは実験の代替にもなるが,重要なのは,今起きている自然の変化,社会の変化とその影響の 予測への応用を今以上に進めることであろう.高度な予測を支えるデータベースの整備を推し進めることも同時に必 要となる.モデリングを行う研究者と実験や観測を行う研究者のつながりを強めることが特に望まれる.生産と流通 が縮小する状況では,食料とエネルギーの確保は感染症対策と同様に重要な事項である.日本が今までのように外国 から食料やエネルギーが買えない事態は考えておかなければならない.世界中で国外に出せるものがなくなる場合を まず想定するが,日本が国外からものを買う力を失っていくことも想定するというのは行き過ぎであろうか.生産基 盤を再整備する必要が生じた際,今進めている大規模化の延長では小回りが利かないので対応できず,古い農法と新 しいセンシング手法を組み合わせたコンパクトな技術が有効かもしれない.このような技術は海外支援でも大いに役 立ちそうである.

できることを考えて実行することが大切なことは言うまでもないが,このような変化の中では「できないこと」に 思いを巡らすことも必要であろう.拡大して「知らないこと」とすべきか.必要であるが方法が分からなくてできな いことは,各人がいくつか持っているものと思う.このできないことは,他分野ではできている,ということもよく あることで,つながりを作って共同研究に発展させればよい.これとは別に,それはできないと言い表したこともな い新たな必要なこと,知りたいことが認識されるプロセスもあり,科学の枠組みはこのプロセスの積み重ねの歴史と もいえるのではないだろうか.そのような新しい発想が生まれ,コロナ後の世界に科学の積み重ねが増えていること を願う.

1国立研究開発法人 森林研究·整備機構 森林総合研究所

(10)

バイアル瓶脱気装置セット(アクリル製)

EN-1004

特 徴

・100mLまでのバイアル瓶を素早く容易に減圧状態にする事ができます

(例:15mLバイアル瓶だと、約30本を同時に処理できます)

・消耗品はほとんど無く、破損時も部品交換ができます セット内容

・バイアル瓶脱気装置本体(真空ゲージ・ミニボールバルブ×2付)

・真空ポンプセット(真空ホース・オイル・オイルミストトラップ付)

ディスクパーミアメーターは、土壌表面に負圧 をかけ、フィールドの浸入現象を明らかにする 装置です。測定原理に忠実に、持ち運びが容易 で安価な製品を提供します。

ディスクパーミアメーターの特長

・亀裂の影響のない浸入現象を測定できる

・短時間、少量の水で測定が終わる

・飽和近くの不飽和透水係数が予測できる

製造・販売元

(有)エンドウ理化

〒001-0910 北海道札幌市北区新琴似10条7丁目3-16

☎(011)763-1088 FAX (011) 763-1667 Mail:[email protected]

ディスクパーミアメーター(負圧浸入計)

EN-2002

(11)

J. Jpn. Soc. Soil Phys.

土壌の物理性

No. 145, p.3102020

ELPIS-JP を用いた畑地土壌水分の将来予測

辻 卓弥

1

· 藤井理樹

1

· 坂口 敦

2

Future prediction of field soil moisture using ELPIS-JP

Takuya TSUJI1Toshiki FUJII1and Atsushi SAKAGUCHI2

Abstract:To examine the effect of climate change on fluc- tuations of soil water, we estimated the future soil water conditions of two fields in Yamaguchi, Japan. Firstly, we observed the suction of soil water at the fields in Yam- aguchi for two years and modeled the soil water flux by using the observed data and HYDRUS-1D. Next, we ap- plied future weather data of ELPIS-JP to the atmospheric boundary conditions of the field models and estimated the soil water conditions of those fields under climate change.

As a result of the estimation, the number of days when the soil at a depth of 20 cm becomes drier than49 kPa, de- creases in the future as compared to the present time in the summer. However in the future, the number of days in- creases in the winter due to aridification, which reflects the increase in the amount of evaporation. The number of days when the soil at a depth of 20 cm becomes wetter than3 kPa, decreases in the future over a year at both fields of Gray Lowland soil and Yellow soil. It was predicted that the fields in Yamaguchi would be drier than present soil water conditions.

Key Words: climate change, soil moisture, HYDRUS, fu- ture prediction, ELPIS-JP

1. はじめに

2014 年に公表されたIPCC: Intergovernmental Panel on Climate Change(気候変動に関する政府間パネル)の 第5次評価報告書では気候システムの温暖化には疑う余 地がないと断定された.我が国においても年平均気温は 過去100年間で約1.15C上昇し,降水傾向も変化して いること(気象庁, 2017)から,気候変動が農業生産に 影響を与えることが危惧されている.近年,世界的に大 気大循環モデル(GCM)の開発が進んでおり,農業分野 においても将来の気候変動による影響の評価が盛んに行 われている.例えば,気候変動が農業に与える影響の予 測として,気候変動後の冷夏年では現在気候下の冷夏年

1Facultyof Agriculture,YamaguchiUniversity. Yoshida1677-1Yamaguchi, 753-8515, Japan. Corresponding author:坂口 敦,山口大学創成科学研 究科.

2Graduate School of Sciences and Technology for Innovation,Yamaguchi University. Yoshida 1677-1 Yamaguchi, 753-8515, Japan.

201963日受稿 20191225日受理

と比較して日本全域で冷害による被害が軽減されること

(飯泉ら, 2007)やCO2濃度の上昇が水稲に増収効果を 与えること(辰巳, 2013)などが示されており,気温や CO2濃度の上昇に対する作物生育の応答については多く の研究が行われている.気候変動が土壌水分に与える影 響についての研究例として,加藤·西村(2015)はGCM 予測値に対し適切な時間ダウンスケーリングを施し,そ れらを土壌水分解析の境界条件にすることで,将来にお ける土壌が過湿あるいは乾燥状態になる期間や頻度を予 測できることを示している.また,正木ら(2018)は気 候変動が水文循環に及ぼす影響について,土地利用に注 目して気象条件や土壌水分の変化を評価している.この ように,気候変動が土壌水分に与える影響についての研 究はいくつか行われているものの,現状では多くの知見 が得られているわけではない.気候変動に伴う気象条件 の変化として,一般に大雨による降水量の増加や無降雨 日の増加といったいわゆる極端現象が進むことが予測さ れているが(環境省, 2014),これらの変化が土壌水分に 与える影響は不明瞭である.気象条件の変化に伴う土壌 水分状態の予測は単純な水収支ではなく,複雑な土壌水 の再配分過程の結果であるため,シミュレーションによ る解析が有効であると考えられる.

そこで本研究では,将来の気候変動下における畑地土 壌の水分状態を予測し,気候変動による気象条件の変化 が土壌水分に与える影響の明瞭化を目的とした.まず,

将来予測対象圃場において土壌水の吸引圧の経時変化を 観測した.次に,観測データをもとにHYDRUS-1Dを用 いて対象圃場の土壌水分移動をモデル化した.現在様々 な気候変動予測モデルが利用されているが,本研究では ELPIS-JP(Iizumi et al., 2012)を援用し,土壌水分状態 の将来予測を行った.ELPIS-JPはGCM予測値に対し て時空間的にダウンスケーリングを行った気候変化シナ リオデータセットであり,アメダス地点における7種類 の気象要素(日平均·最高最低気温,降水量,積算日射 量,相対湿度,風速)の日単位気象予測データが利用可 能である.これらの気象予測データを圃場モデルの大気 条件とし,将来の気候変動下における山口市内の畑地の 土壌水分状態の予測を試みた.

(12)

4 145 2020

2 . 研究方法

2.1研究対象地及び吸引圧観測

本研究では,山口県農林総合技術センター及び山口大 学内の畑地圃場を対象とした.両圃場間の距離は約1.8 kmであり,土壌種はそれぞれ灰色低地土(埴壌土),黄 色土(砂質埴壌土)であった.

観測は両圃場の一角で行い,20 cm深と40 cm深にテン シオメータを埋設し,土壌水の吸引圧の経時変化を1時 間間隔で観測した(Fig. 1).観測機器の構成については 大起理化工業株式会社製のテンシオメータ(DIK-8333) に株式会社センシズ製圧力センサー(HTVN-100KP)を 接続し,センサーの値を乾電池駆動の ArduinoとSD シールドで作成したロガーを用いて記録した.山口県農 林総合技術センター内の圃場では2016年7月30日から 2018年6月6日,山口大学内の圃場では2016年7月30 日から2018年7月3日までの期間で観測を行った.両 圃場とも灌水は行わず,水分補給は降雨のみとした.降 雨時の表流水の移動を防ぐために観測機器の周囲を1 m 四方の木枠で囲い,さらに3 m四方の範囲を除草し裸地 状態に維持した.なお,両圃場とも観測機器の周囲は畝 立てはせず,平坦にした.

2.2土壌中の水分移動支配方程式

本研究では,土壌水分移動予測モデルとしてHYDRUS -1D(ˇSim˚unek et al., 2013)を用いた.HYDRUS-1Dで は,土壌中の水分移動の支配方程式はRichards式で表現 される.

∂θ

t =

z [

Kh) (∂h

z+1 )]

(1)

ここで,θ は体積含水率(cm3cm−3),t は時間(d),

Kh)は不飽和透水係数(cm d−1),hは圧力水頭(cm H2O),zは深さ(cm)である.

水分特性を求める土壌水分移動特性関数として,団粒 構造が発達した土壌においても水分特性を表現できる Durner-Mualemモデル(Durner, 1994)を適用した.

Fig. 1 観測機器の設置位置と土壌試料サンプリング位置.

Locations of tensiometers and soil sampling.

Se= θθr

θsθr

=w1 1+|α1h|n1−m1+w2 1+|α2h|n2−m2 (2)

K(Se) =

Ks

(w1Se1+w2Se2)l

w1α1

1

1S m11 e1

m1

+w2α2

1

1S m12 e2

m2

2

(w1α1+w2α2)2

(3)

ここで,Seは有効飽和度(–),θrは残留体積含水率(cm3 cm−3),θsは飽和体積含水率(cm3cm−3),Ksは飽和透 水係数(cm s−1),l(–)は間隙結合係数,αi(cm−1),ni

(–),mi(=11/ni)は実験パラメータ(i=1, 2),wi は重み付け係数であり,w1+w2=1である.

2.3土壌の物理性の測定

100 cm3の採土円筒を用いてテンシオメータの埋設深

度である深さ20 cm及び40 cmとその上下の深さ5 cm 及び60 cmの4深度から土壌試料を不攪乱採土した(Fig.

1).採土後,試料の飽和透水係数,水分特性,間隙率を計 測した.水分特性は0 kPaから9.8 kPaまでを吸引法,

9.8 kPa以降を蒸発法(Peters and Dunner, 2008)によ り計測した.蒸発法は上記の不攪乱試料の1.65 cm深と

3.65 cm深にテンシオメータを底面から垂直方向に挿入

し吸引圧を計測した.また,円筒全体を電子天秤(株式 会社エー·アンド·デイ社製EK-4100i)の上に設置し,

重量変化から積算蒸発量を求めた.1.65 cm深のテンシ オメータの吸引圧が78 kPa程度に達した時点で実験を 終了した.山口県農林総合技術センター内の圃場につい

ては,60 cm深の試料を飽和させた際,試料が原形を保

てず水分特性計測が困難であったため3深度のみ計測し

た.HYDRUS-1Dを用いて蒸発実験のモデル化を行い,

吸引法及び蒸発法のデータに基づきDurner-Mualemモ デルのパラメータを決定した.

2.4圃場のモデル化

HYDRUS-1Dの逆解析機能を用いて,1時間単位で観

測した吸引圧を日単位に平均したデータに基づき水分特 性パラメータのキャリブレーションを行った.観測デー タは1年目(2016年7月30日から2017年7月30日)

の20 cm深と40 cm深の吸引圧観測値を用いた.なお,

62 kPa以下のデータはテンシオメータの測定限界を考

慮して,キャリブレーションの対象となる観測データか ら除いた.土壌水分移動予測領域は地下水位を200 cm 以深と仮定して,土壌深さ200 cmとした.土壌を山口 県農林総合技術センター内の圃場は,深さ0から10 cm, 10から30 cm,30から200 cmの3土層に,山口大学内 の圃場は,0から10 cm,10から30 cm,30から50 cm,

50から200 cmの4土層に分けた.各土層の水分特性パ

ラメータの初期値は前節で決定したDurner-Mualemモ デルのパラメータを与えた.計算は2015年7月30日か

(13)

論文:ELPIS-JPを用いた畑地土壌水分の将来予測 5

自由排水境界 大気境界

10cm 20cm

10cm

170cm

20cm

150cm 40cm20cm

観測点設置位置 山口県農林総合

技術センター 山口大学

20cm

Fig. 2 圃場モデルの断面と境界条件.

Dimension and boundary conditions of the field models.

ら2017年7月30日までを日単位で行い,2015年7月 30日から2016年7月30日までを初期化期間とした.

境界条件は,両圃場とも上方境界を大気境界条件,200 cm深の下方境界を自由排水境界条件とした(Fig. 2).

大気境界条件では,各圃場地点で観測した降水量データ

(2016年7月30日2017年7月30日)とMeteoCrop DB(農研機構, 2010)から引用した山口市地点のポテン シャル蒸発速度を与えた.なお,初期化期間の降水量に ついてはアメダス山口市地点の観測値とした.

2.5圃場モデルの検証

キャリブレート後の圃場モデルを用いて,HYDRUS- 1Dの順解析機能により2016年7月30日から2018年 7 月31日までの 20 cm深と40 cm深の吸引圧を推定 し,同深度の吸引圧観測値と比較することで検証を行っ た. 計算は2015年7月30日から2018年7月31日ま でを日単位で行い,2015年7月30日から2016年7月 30日までを初期化期間とした.大気境界条件では,各 圃場地点で観測した降水量データ(2016年7月30日 2018年7月31日)とMeteoCrop DBから引用した山口 市地点のポテンシャル蒸発速度を与えた.なお,初期化 期間の降水量についてはアメダス山口市地点の観測値と した.

2.6将来予測の比較対象とする過去10年間分の土壌 水分の推定

本研究において,実際に吸引圧観測を行ったのは2016 年7月30日から2018年7月3日までの約2年間のみ である.より正確に現在気候における土壌水分の変動傾 向を把握し将来気候における土壌水分の変動傾向と比較 するために,両圃場モデルを用いて2009年1月1日か ら2018年12月31日までの10年間の吸引圧の変動を HYDRUS-1Dにより推定した.計算期間は2008年1月 1日から2018年12月31日までを日単位で行い,2008

年1月1日から2008年12月31日までを初期化期間と した.大気境界条件は,アメダス山口市地点の降水量と

MeteoCrop DBから引用した山口市地点のポテンシャル

蒸発速度を与えた.

2.7土壌水分の将来予測

圃場モデルの大気境界条件をELPIS-JP内の気象デー

タとし,HYDRUS-1Dを用いて将来の土壌水分状態を日

単位で推定した.加藤·西村(2015)の研究においては

ELPIS-JP内の日単位気象データをさらに細かい時間単

位にダウンスケーリングして土壌水分の予測を行ってい る.一般にGCM予測値に対しダウンスケーリングを施 すと不確実性が増すことが知られている(飯泉ら, 2010) ため,本研究では日単位予測値を用いて土壌水分の変 動傾向を予測した.ELPIS-JP内には複数の気候モデル が存在するが,本研究では気象庁気象研究所が開発した MRIを選択し,排出シナリオは二酸化炭素の排出が最 多の場合であるA2シナリオを選択した.ELPIS-JPに

はAMeDAS地点における日単位の気象データセットが

50時系列分存在し,1つの時系列は統計的に起こり得る 気候シナリオの1つに相当するため,これらの50時系 列は気象の変動性の幅を表している.本研究では50時 系列の内10時系列を無作為に選び,10時系列分の土壌 水分の計算を各圃場モデルで行った.土壌の水分特性は 現在から将来にかけて変化しないと仮定し,現在の圃場 モデルと同じ各土層の水分特性パラメータで予測を行っ た.計算期間は2080年1月1日から2090年12月31 日までの10年間を日単位で行い,2080年1月1日から 2080年12月31日までを初期化期間とした.大気境界

条件はELPIS-JPアメダス山口市地点の降水量,及び平

均気温,平均風速,平均湿度,全天日射量から近藤·

(1997)の式で算出したポテンシャル蒸発速度を与えた.

3. 結果と考察

3.1土壌水分観測結果

山口県農林総合技術センター内圃場と山口大学内圃場

の20 cm深及び40 cm深における吸引圧の観測値の日平

均の推移をFig. 3,Fig. 4に示す.グラフの欠落部分は 観測装置のエラーにより観測値を得られなかったため空 白とした.観測値の上限について,土壌の吸引圧がテン シオメータの測定限界に達したため,85 kPa程度までし か計測できなかった.両圃場の20 cm深の吸引圧を比較 すると,前者の方が後者に比べて土壌の吸引圧が49.1 kPa以下となる日数は約1.7倍,3.1 kPa以上となる日 数は約3.7倍多く,灰色低地土圃場の方が乾燥状態,過 湿状態になりやすい傾向にあった.また,灰色低地土圃

場の40 cm深の吸引圧の推移は比較的安定しているの

に対し,黄色土圃場は40 cm深の吸引圧の変動幅が大き かった.

3.2圃場モデルのキャリブレーション及び検証結果

Table 1に両圃場の水分特性パラメータ計測値及び圃

(14)

6 145 2020

0 50 100 150 200 250 300 350 400 0

20 40 60 80 100

7 10 1 4 7 10 1 4 7 降水量(mmd-1

吸引圧(kPa

日付

降水量 20cm 40cm

2016 2017 2018

Fig. 3 山口県農林総合技術センター内の圃場の20 cm

深及び40 cm深における吸引圧の観測値.

Observed suctions at depths of 20 cm and 40 cm in the field of Yamaguchi Prefectural Agriculture & Forestry General Technology Center.

0 50 100

0 20 40 60 80 100

7 10 1 4 7 10 1 4 7 降水量(mmd-1

吸引圧(kPa

日付

降水量 20cm 40cm

2016 2017 2018

Fig. 4 山口大学内の圃場の20 cm深及び40 cm深に おける吸引圧の観測値.

Observed suctions at depths of 20 cm and 40 cm in the field of Yamaguchi University.

050 100150 200250 300350 400450 500550 600 0

20 40 60 80 100

7 10 1 4 7 10 1 4 7 降水量mmd-1

吸引圧kPa

日付

降水量 観測値 推定値 Validation Calibration

2016年 2017年 2018年

20cm

050 100

0 20 40 60 80 100

7 10 1 4 7 10 1 4 7 降水量mmd-1

吸引圧kPa

日付

降水量 観測値 推定値 Validation Calibration

2016年 2017年 2018年

40cm

Fig. 5 山口県農林総合技術センター内圃場の深さ20 cm深及び40 cm深の吸引圧の観測値と推定値.

Observed and simulated suctions at depths of 20 cm and 40 cm in the field of Yamaguchi Prefectural Agriculture & Forestry General Technology Center.

050 100150 200250 300350 400450 500550 600 0

20 40 60 80 100

7 10 1 4 7 10 1 4 7 降水量mmd-1

吸引圧kPa

日付

降水量 観測値 推定値 Validation Calibration

2016 2017 2018

20cm

050 100150 200250 300350 400450 500550 600 0

20 40 60 80 100

7 10 1 4 7 10 1 4 7 降水量mmd-1

吸引圧kPa

日付

降水量 観測値 推定値 Validation Calibration

2016年 2017年 2018年

40cm

Fig. 6 山口大学内の圃場の深さ20 cm深及び40 cm深の吸引圧の観測値と推定値.

Observed and simulated suctions at depths of 20 cm and 40 cm in the field of Yamaguchi University.

(15)

論文:ELPIS-JPを用いた畑地土壌水分の将来予測 7

Table 1 水分特性パラメータ計測値(上段)及びキャリブレート後の水分特性パラメータ(下段).

Measured physical properties of each soil layer (upper table) and Calibrated physical properties of each soil layer (lower table).

(A) 山口県農林総合技術センター

深さ θr θs α1 n1 l w2 α2 n2 Ks[cm d1]

0 – 10 cm 0.091 0.446 0.124 2.46 0.0232 0.918 0.0243 1.25 871 10 – 30 cm 0.266 0.446 0.0965 4.59 0.0159 0.839 0.0173 2.25 499 30 –200 cm 0.285 0.561 0.217 3.51 0.00161 0.917 0.0237 1.63 298

深さ θr θs α1 n1 l w2 α2 n2 Ks[cm d1]

0 – 10 cm 0.024 0.446 0.0432 2.46 0.023 0.715 0.0494 1.25 330.0 10 – 30 cm 0.138 0.446 0.167 4.59 0.016 0.997 0.0173 2.25 685.0 30 –200 cm  0.270 0.561 0.196 3.51 0.002 0.568 0.0246 1.63 198.0

(B) 山口大学

深さ θr  θs α1 n1 l w2 α2 n2 Ks[cm d1]

0 – 10 cm  0272 0.527 0.077 3.87 0.133 0.889 0.0364 1.41 647.0 10 – 30 cm 0.000 0.502 0.084 2.05 3.440 0.882 0.0051 1.03 146.0 30 – 50 cm 0.170 0.536 0.021 1.98 2.980 0.566 0.0002 3.42 7.3 50 –200 cm  0.000 0.560 0.040 3.63 0.5 0.880 0.0054 2.92 107.0

深さ θr  θs α1 n1 l w2 α2 n2 Ks[cm d1]

0 – 10 cm 0.227 0.772 0.018 3.8 0.403 0.816 0.0471 1.34 402.5 10 – 30 cm 0.010 0.440 0.014 3.23 0.010 0.691 0.0054 2.70 1015.5 30 – 50 cm 0.083 0.468 0.024 2.03 2.982 0.566 0.0004 3.42 5.0 50 –200 cm  0.001 0.590 0.001 5.24 0.5 0.880 0.0090 2.92 38.3

Table 2 20 cm深及び40 cm深の吸引圧の観測値と推定値

間のRMSE.

The value of RMSE between observed and simulated suctions at the depths of 20 cm and 40 cm.

山口県農林

総合技術センター   山口大学 20 cm深 40 cm深 20 cm深 40 cm深 キャリブレー

ション期間 9.75 kPa 5.83 kPa 6.99 kPa 2.83 kPa 検証期間 5.8 kPa 4.01 kPa 7.56 kPa 8.55 kPa

場におけるキャリブレート後の水分特性パラメータを示 す.山口県農林総合技術センター内圃場及び山口大学内 の圃場の深さ20 cm深及び40 cm深の吸引圧の観測値 と圃場モデルのシミュレーションにより得られた推定値 をFig. 5,Fig. 6に示す.山口県農林総合技術センター

の圃場モデルについては20 cm深の推定値が観測値より 若干大きくなる傾向にあった.また,40 cm深はキャリ ブレーション期間の5,6月頃の乾燥時期の再現性は低 かった.どちらの圃場モデルも推定値と観測値に多少の 乖離がみられるが,検証期間はキャリブレーション期間 と気象条件が大きく異なっていたにも関わらず,両圃場 とも土壌水分の変動傾向をよく再現出来ていた.Table 2

に20 cm深及び40 cm深の吸引圧の観測値と推定値間

のRMSEを示す.どちらの圃場もRMSEは10 kPa以 下であり,十分な精度で土壌水分状態を再現できたと判 断し,これらの圃場モデルを将来予測に用いることとし た.また,地下水位を200 cm以深とした仮定に関して,

推定値は観測値をよく再現できていたため計算領域およ び下方境界条件は適当なものであったと判断した.

3.3気象予測データの変動傾向

過去10年間分(2009 – 2018年)の土壌水分の推定に 用いたアメダス山口市地点の降水量及びポテンシャル蒸

(16)

8 145 2020

Table 3 現在気候と将来気候における各季節の無降雨日の平

均値と標準偏差.

Seasonal mean number and standard deviation of clear days in the present and the future.

無降雨日数 春 夏 秋 冬

現在 60.3±4.5 56.5±5.2 62.6±5.6 51.9±4.8 将来 58.3±3.6 58.1±7 57.7±7.1 55.7±5.2

発量と将来予測に用いたELPIS-JP内の10年間分(2081

– 2090年)×10時系列の降水量及びポテンシャル蒸発量

を比較し,将来にかけての気象条件の変動傾向を調べた.

Table 3に現在気候と将来気候における季節毎の無降雨

日の平均値を示す.なお,季節については1 – 2月,12 月を冬,3 – 5月を春,6 – 8月を夏,9 – 11月を秋とした.

現在と将来の無降雨日の日数を比較すると信頼度水準5

%で秋の期間は有意に減少,冬の期間は有意に増加して いた.一般に無降雨日の年間日数は将来にかけて増加す ると予測されているが(環境省, 2014),本研究において は無降雨日の年間日数に差は見られなかった.Fig. 7に 現在と将来における各季節の降水量とポテンシャル蒸発 量の平均値を示す.降水量は秋を除いて将来は現在より も概ね減少する傾向にあり,年降水量は約150 mm減少 していた.ポテンシャル蒸発量は春と夏の期間で減少傾 向,秋と冬の期間は増加傾向にあった.正木ら(2018) は気候変動が水文循環に及ぼす影響の評価において内水 等の割合が低い土地の蒸発散量については夏の期間は減 少傾向,その他の季節は増加傾向にあることを報告して おり,本研究のポテンシャル蒸発量の変動傾向と概ね一 致していた.

3.4土壌水分将来予測結果

山口県農林総合技術センター内圃場の将来予測結果の 例をFig. 8の(a),(b)に示す.(a)がELPIS-JP内の時 系列2の気象予測データを,(b)が時系列12の気象予 測データを大気境界条件としたときの2090年の吸引圧 の推定値である.時系列2においては1月から5月の期 間で吸引圧が高く推移し,時系列12においては6月か ら10月の期間で吸引圧が高く推移している.前述の通

り,ELPIS-JPは50時系列分の気象予測データにより変

動性の幅を示しており,1つの時系列は統計的に起こり 得る気候シナリオの1つに相当するため,どの時系列を 大気条件とするかにより,土壌水分の予測結果も変わっ てくる.Fig. 8の(c)に山口大学内の圃場の時系列2に おける2090年の吸引圧の推定値を示す.Fig. 8の(a) と比べると,両圃場とも同じ気象条件で計算を行ったが,

山口県農林総合技術センター内圃場は20 cm深と40 cm 深の吸引圧の差が山口大学内圃場に比べて大きい.この 傾向は現在(2016年– 2018年)の吸引圧の観測結果の 傾向と同じであり,土壌種(土性)の違いによる水分移 動の差異を表すことができたと考えられる.

0 200 400 600 800 1000 1200

᫓ 䚷 䚷 㻌 ኟ 䚷 䚷 㻌 ⛅ 䚷 䚷 㻌 ෤ 㝆Ỉ㔞

㝆Ỉ㔞(mm/d)

⌧ᅾᖹᆒ ᑗ᮶ᖹᆒ

0 100 200 300 400 500 600

䝫䝔䞁䝅䝱䝹⵨Ⓨ㔞

(mm/d)

ᶆ‽೫ᕪ

᫓ 䚷 䚷 㻌 ኟ 䚷 䚷 㻌 ⛅ 䚷 䚷 㻌 ෤

Fig. 7 現在と将来における各季節の降水量とポテンシャル

蒸発量の平均値.

Seasonal mean precipitation and potential evaporation in the present and the future.

(a)

(b)

(c)

Fig. 8 2090年の吸引圧の予測値の例. (a)山口県農林総合技

術センター内の圃場の時系列2, (b)山口県農林総合技術セン ター内の圃場の時系列12,山口大学内の圃場の時系列2 Examples of predicted suctions in 2090.

(17)

論文:ELPIS-JPを用いた畑地土壌水分の将来予測 9

10

‐5 0 5 10 15 20 25 30

灰色低地土 黄色土

日数

現在平均 将来平均

標準偏差

Fig. 9 20 cm深の吸引圧が−49.1 kPa以下となる日数.

Number of days when the soil at a depth of 20 cm becomes drier than−49.1 kPa.

5 0 5 10 15

灰色低地土 黄色土

現在平均 将来平均

標準偏差

Fig. 10 20 cm深の吸引圧が3.1 kPa 以上となる日数.

Number of days when the soil at a depth of 20 cm becomes wetter than−3.1 kPa.

本研究では,吸引圧が49.1 kPa以下の乾燥状態とな る日数及び圃場容水量を上回る(3.1 kPa以上)日数の 現在平均と将来平均を季節ごとに比較することにより,

気候変動が土壌水分へ与える影響を調べた.2009年1 月1日から2018年12月31日までの10年間の49.1 kPa以下となる日数及び3.1 kPa以上となる日数の年 平均値を現在平均,2081年1月1日から2090年12月 31日までの10年間(10時系列分)日数の年平均値を 将来平均とした.Fig. 9に各圃場の20 cm深の吸引圧が

49.1 kPa以下となる日数の現在平均と将来平均を示す.

現在平均と将来平均を比較すると,冬の期間においては 山口県農林総合技術センター内圃場(灰色低地土),山口 大学内圃場(黄色土)ともに12日程度増加しており,将 来においては現在よりも冬の期間の乾燥が進むことが予 想される.一方,夏の期間においては両圃場とも乾燥状 態となる日数は現在の半分以下の日数に減少しており,

将来においては夏の期間の干ばつは緩和されると予想さ

れる.春と秋の季節においては両圃場とも現在と将来で ほとんど差は見られなかった.Fig. 7より将来の冬の期 間において降水量はほとんど変化していないが,ポテン シャル蒸発量が大きく増加したために乾燥状態となる期 間が増加したものと考えられる.また,冬の期間の無降 雨日の増加も土壌の乾燥日数の増加の要因の一つだと考 えられる(Table 3).夏の期間について,将来は降水量 とポテンシャル蒸発量のどちらも減少しているが,降水 量の減少よりもポテンシャル蒸発量の減少が圃場の水収 支に大きな影響を与えたために乾燥状態となる日数が減 少したと推察される.Fig. 10に両圃場の20 cm深の吸

引圧が3.1 kPa以上となる日数の現在平均と将来平均

を示す.現在平均と将来平均を比較すると,両圃場とも 春と夏の期間において圃場容水量を上回る日数が減少す る傾向が見られた.これは春と夏の期間は降水量が減少 傾向にあるために,土壌が過湿状態となる頻度が減少し たからだと考えられる.加藤·西村(2015)は現在と将 来の1か月間の最大降水量に着目し,将来は現在と比較 して月最大降水量の増加が見込まれ,土壌水分が圃場用 水量を上回る頻度が高くなる傾向にあることを報告して いる.加藤·西村の研究においては一か月間の降水量が 最大となる時系列について将来予測を行っているが,本 研究では無作為に抽出した時系列について年間を通した 予測を行ったため,土壌が過湿となる頻度においては異 なる結果になったと考えられる.

4. おわりに

本研究では,将来の気候変動下における山口市の畑地 土壌の水分状態を予測し,気候変動による気象条件の変 化が土壌水分に与える影響を調べた.まず,山口市の畑 地圃場において2年間の土壌水の吸引圧を観測した.観 測データをもとにHYDRUS-1Dを用いて水分特性パラ メータのキャリブレーションを行い,対象圃場の土壌水 分移動をモデル化した.圃場モデルは気象条件の違いに 関わらず実際の土壌水分移動をよく再現することができ た.その後,キャリブレート後の圃場モデルの大気条件

をELPIS-JPの将来の気象データとし,複数の時系列に

おいて気候変動下における山口市内の畑地の土壌水分状 態を予測した.予測結果について季節ごとに一定の吸引 圧を超えるもしくは下回る日数で評価した.土壌が49 kPa以下の乾燥状態となる日数を現在と将来で比較する と夏の期間は減少し,冬の期間は顕著に増加することが 示された.冬の乾燥については主に蒸発量の増加による ものであることが推察された.また,将来において土壌 水分が圃場容水量を上回る日数については年間を通じ て,両土壌種とも減少することが示され,湿害は緩和さ れる傾向にあることが分かった.本研究では山口市内の 畑地圃場を将来予測の対象とし,土壌種による将来予測 の違いを比較したが,ELPIS-JP内の他のアメダス地点の 気象予測データを利用することにより,地域間での予測 の違いも比較できると考えられる.今後の課題として,

(18)

10 145 2020

本研究では土壌水分移動解析のみで土壌水分の将来予測 を行ったが,気候変動が土壌環境へ与える影響を正しく 評価するためには同時に熱移動解析を行う必要があるこ とも報告されているため(Kato et al., 2011),熱移動解 析も含めた土壌水分移動の検討が必要であると考えられ る.また,GCMを用いた気候変動の影響予測は不確実 性の影響を受けるため,今後より多くの種類のGCMや 排出シナリオを用いた影響評価を行うことが望まれる.

謝辞

国立研究開発法人 農研機構·農業環境変動研究セン ターの飯泉仁之直博士にはELPIS-JPのデータ利用につ いてご助言を頂き,また同センターの桑形恒男博士には ポテンシャル蒸発量の計算についてご助言を頂きまし た.ここに記し,謝意を表します.

引用文献

Durner, W. (1994): Hydraulic conductivity estimation for soil with heterogeneous pore structure. Water Resour. Res., 30(2): 211–223.

Iizumi, T., Semenov, M.A., Nishimori, M., Ishigooka, Y. and Kuwagata, T. (2012): ELPIS-JP: A dataset of local-scale daily climate change scenarios for Japan. Philosophical Transactions of the Royal Society A, 370: 1121–1139.

飯泉仁之直, 林 陽生,木村富士男(2007): 温暖化後の冷夏 と暑夏による日本の水稲生産への影響.農業気象, 63(1):

11–23.

飯泉仁之直,西森基貴,石郷岡康史,横沢正幸(2010):統計的 ダウンスケーリングによる気候変化シナリオ作成入門. 農業気象, 66(2): 131–143.

環境省(2014):日本国内における気候変動予測の不確実性を

考慮した結果について.

http://www.env.go.jp/press/files/jp/25593.pdf.

Kato, C., Nishimura, T., Imoto, H. and Miyazaki, T.(2011):

Predicting soil moisture and temperature of Andisols un- der a monsoon climate in Japan. Vadose Zone Journal, 10 :541– 551.

加藤千尋,西村 拓(2015): 農地土壌水分状態予測に向けた

GCM予測値の時間ダウンスケーリング手法の検討. 村工学会論文集, 83(1): 11–19.

気 象 庁(2017): 気 候 変 動 監 視 レ ポ ー ト. http://www.data.

jma.go.jp/cpdinf/monitor/2017/pdf/ccmr2017 chap2.pdf.

近藤純正,徐 健青(1997):ポテンシャル蒸発量の定義と気候

湿潤度.天気(Tenki), 44(12): 875–883.

正木隆大,田中賢治,田中茂信(2018):気候変動が日本の水

文循環に及ぼす影響評価と要因分析.水文·水資源学会 研究発表会要旨集, 31.

農研機構(2010): MeteoCrop DB.

https://meteocrop.dc.affrc.go.jp/top.php.

Peters, A. and Durner, W. (2008): Simplified evaporation method for determining soil hydraulic properties. Journal of Hydrology, 356: 147–162.

ˇSim˚unek, J., Sejna. M., Saito, H., Sakai, M. and van Genuchten, M.Th. (2013): The Hydrus-1D software pack- age for simulating the movement of water, heat, and multi- ple solutes in variably saturated media, version 4.17, HY- DRUS software sSeries 3, p. 342. Department of Environ- mental Sciences, University of California Riverside, River- side, California, USA.

辰巳賢一(2013):気候変動が圃場における水稲生産に与え

る影響とその適応策に関する研究.環境情報科学論文集, 27: 43–48.

要 旨

本研究では,気候変動下における山口市の畑地土壌の水分状態を予測し,気候変動による気象条件の変 化が土壌水分変動に与える影響を調べた.まず,山口市の畑地圃場において2年間の土壌水の吸引圧を 観測し,観測データをもとにHYDRUS-1Dを用いて対象圃場の土壌水分移動をモデル化した.その後,

圃場モデルの大気条件をELPIS-JPの将来の気象データとし気候変動下における山口市内の畑地の土壌 水分状態を予測した.予測の結果,土壌が乾燥状態(49 kPa以下)となる日数を現在と将来で比較す ると夏の期間は減少し,冬の期間は顕著に増加することが示された.冬の乾燥については主に蒸発量の 増加によるものであることが推察された.また,将来において土壌水分が圃場容水量を上回る(3 kPa 以上)日数については年間を通じて灰色低地土圃場,黄色土圃場ともに減少傾向にあることが示され,

将来の山口市の畑地は現在よりも乾燥化する傾向にあることが予測された.

キーワード:気候変動,土壌水分,HYDRUS,将来予測,ELPIS-JP 

(19)

J. Jpn. Soc. Soil Phys.

土壌の物理性

No. 145 p.1120 (2020)

ㅮᗙ

Lectures

土壌中における溶質の吸着移動現象の基礎理論 III .協同吸着 · 多層吸着 · 選択係数

石黒宗秀

1

Basic theories of solute transport and adsorption in soils,

III. Multilayer adsorption, cooperative adsorption and selectivity coefficient

Munehide ISHIGURO1

1. はじめに

固体表面の1吸着サイトに1分子が直接吸着し,隣接 する吸着分子間に相互作用が無い,単純な場合の吸着式 が、前回紹介したラングミュア吸着式であった.ここで は、吸着分子同士が相互作用を及ぼす場合や,表面の1 層目だけでなく、2層目以上の吸着を示す場合の吸着式 とその理論について記述する.

複数の吸着分子が互いに引力を及ぼし合う場合は,吸 着が進行しやすくなる.特に,分子が多数で集団を形成 して吸着する場合を協同吸着と言う.この現象を例えて 言えば,1人1人の力は弱くても,大衆扇動によって強 大な権力を形成するファシズムのように,ひとつひとつ の力は弱くても,集団で協同的に急激に吸着が進行する のである(早川·Kwak, 1985).このような吸着反応を表 現する吸着式として,ヒルの式,Zhu and Guの式,横相 互作用のモデルを紹介する.ヒルの吸着式は,質量作用 の法則あるいはボルツマン分布の式から導かれる.Zhu

and Guの式は,質量作用の法則あるいはラングミュアの

式を基本とする競合吸着の式から導かれる.横相互作用 のモデルは,ボルツマン分布の式から導かれる.

多層吸着は,固体表面へのガスの吸着や溶液中の固 体上への表面沈殿に見られる.多層吸着にはBET吸着 式が良く利用される.1層目の吸着は,固体表面と吸着 分子の相互作用,2層目以降の吸着は,吸着分子間の相 互作用としてボルツマン分布を用いてモデル化される.

Brunauer Emmett Teller(BET)の吸着式は,粘土鉱物の 比表面積測定に良く用いられる.

選択係数は,競合する2種類のイオンの土壌への吸着 力の相違を見たり,吸着量を推定する際に用いられる.

1Hokkaido University, Kita 9, Nishi 9, Sapporo, 600-8589, Japan. Corre- sponding author:石黒宗秀,北海道大学.

2020219日受稿 2020315日受理

選択係数は,質量作用の法則あるいはラングミュアの式 を基本とする競合吸着の式から導かれる係数である.

2. 協同吸着

2.1ヒルの吸着式

複数の分子が,集団で固体表面に吸着する場合を,協 同吸着と呼ぶ.界面活性剤の腐植物質への吸着や(Yee et al., 2006),酸素分子の赤血球中ヘモグロビンへの吸着

(早川·Kwak, 1985)がこの例として挙げられる.ある

濃度になると,集団を形成して急激な吸着が進行する特 徴がある吸着現象である.界面活性剤は,親水基と疎水 基を持つ(Fig. 1),水にも油にも溶解する両親媒性物質 で,疎水基同士が水中で疎水性相互作用により集合しや すい性質があるため,協同吸着を起こしやすい.界面活 性剤は,農薬の展着剤,肥料の固結防止剤,洗剤等とし て利用され,また,土壌中の腐植物質も天然の界面活性 剤であり,名前の通り界面の性質に大きな影響を及ぼす 物質である(Ishiguro and Koopal, 2016).

協同吸着現象には,ヒルの式を適用してその協同性を 評価することが多い.吸着物質Aと吸着サイトSは,次 の関係式で表せる.

S+nA→←SAn (1)

CH2 CH2 CH2 CH2 CH2 CH2

CH3 CH2 CH2 CH2 CH2 CH2 SO4-

Na+

疎水基

親水基

Fig. 1 a)界面活性剤の模式図(ドデシル硫酸ナトリウム).

(20)

12 145 2020

θ/ (1−θ)

C (μM)

⭉᳜㓟

ࣇࣝ࣎㓟 100

10 1 0.1

0.011 10 100 1000 10000

Fig. 2 カチオン性界面活性剤のフルボ酸および腐植酸への

吸着における界面活性剤濃度Cθ/(1−θ)の関係.直線 は,ヒルの式による計算値(Yee et al., 2006を改変).

0.01 0.1 1 10 100

吸着量mol/kg

界面活性剤平衡濃度 (M) ヒルの式

n=3

ラングミュア の式 n=1

10-6 10-5 10-4 10-3 10-2

Fig. 3 カチオン性界面活性剤(デシルピリジニウムクロラ

イド)のアニオン性高分子(ナトリウムポリスチレンスルホ ネート)への吸着等温線(Ishiguro and Koopal, 2009のデー タを使用).

ここで,nは集団となる個数,Anは吸着したAの集合体 を表す.質量作用の法則により,次式を得る.

K= aa

aSan (2)

ここで,Kは平衡定数,aaは吸着集合体の吸着サイトに おける活量,aSは空き吸着サイトの活量,aは溶液中の 分子Aの活量で,低濃度においてはほぼ溶液中濃度Cに 等しい.aaaSは,近似的に次式で示される.

aa/n (3)

aS= (Γmax−Γ)/n (4)

ここで,Γは濃度Cにおける分子Aの吸着量,Γmaxは 最大吸着量を表す.したがって,(2)式は

K= Γ

maxΓ)Cn (5)

となる.この式を書き直すと,次のヒルの式となる.

Γ Γmax

=1+KCKCn n (6) あるいは

θ

1θ =KCn (7)

(7)式の両辺を対数にして,次式を得る.

log θ

1θ =nlogC+const. (8) この式から,θ/(1θ)vsCの図を両対数目盛で描いた 線の傾きが,集団数nとなる.Fig. 2に,カチオン性界面 活性剤のフルボ酸と腐植酸への吸着例を示す(Yee et al., 2006).両対数グラフ中で,直線状になることがわかる.

フルボ酸では,n=2.69と傾きが大きいのに対し,腐植 酸ではn=1で緩やかな傾きとなっている.(6),(7)式 で表されるヒルの式は,吸着率を表す式なので,最大吸 着量は実測により求める必要がある.

Fig. 3に,カチオン性界面活性剤のアニオン性高分子

への吸着等温線を示す.前前回の「I.いろいろな吸着 式」3.1単層吸着の式および前回の「II.ラングミュアの 吸着式」2.5分配係数で述べたと同じように,両対数の図 上では,吸着物質濃度が低濃度領域において,吸着等温 線の傾きがヒルの式のnの値となる.この例の場合,最 も低濃度側において界面活性剤分子が独立に吸着するた め傾きが1のラングミュアの式に一致し,濃度が上昇す ると傾きが大きくなり(n=3)ヒルの式が適用出来て,

協同吸着が生じていることがわかる.更に吸着が進むと 吸着サイトが減少するため傾きが小さくなる.ここで用 いられた界面活性剤は,炭素が10個の直鎖状であるが,

炭素が16個の直鎖状界面活性剤を用いると,相互作用 がより強くなり,その吸着等温線は更に急な勾配を示す

n=8)(Ishiguro and Koopal, 2009).

(7)式は,前回示したのと同様に,次のボルツマン分 布の式を用いても導出できる.

θ

1θ =exp (εS

kBT )

(9)

ここで,εSは吸着したサイトと空きサイトのエネルギー 差,kB はボルツマン係数,T は絶対温度を示す.ボル ツマン分布は,吸着サイトと空きサイトの割合をエネル ギー状態の差で表せるため,(9)式が得られる.溶液中 で1分子は化学ポテンシャルµのエネルギーを持ち,吸 着した1分子はエネルギーεを持つとすると,協同吸着 ではn分子吸着するから,(9)式中のεSは,次の式で表 せる.

εS=n(εµ) (10)

Table 1 水分特性パラメータ計測値(上段)及びキャリブレート後の水分特性パラメータ(下段).
Table 3 現在気候と将来気候における各季節の無降雨日の平
Fig. 6 シリカゲルへのカチオン性界面活性剤吸着の測定
Fig. 11 モンモリロナイト質土壌の Na + – K + 交換等温線( Jensen and Babcock, 1973 )( a )と,モンモリロナイ トの NH + 4 – Mg 2+ 交換等温線( Landelout et al., 1968 )( b )(日本粘土学会編, 2009 ). Ca の吸着 ᙜ㔞ศ⋡0.40.20.00.6 0.8 1.0ln KVMgCa1.00.50.01.52.0Aridisol Fig

参照

関連したドキュメント

In this paper, we study the generalized Keldys- Fichera boundary value problem which is a kind of new boundary conditions for a class of higher-order equations with

Theorem 4.2 states the global existence in time of weak solutions to the Landau-Lifshitz system with the nonlinear Neumann Boundary conditions arising from the super-exchange and

In this work, we present an asymptotic analysis of a coupled sys- tem of two advection-diffusion-reaction equations with Danckwerts boundary conditions, which models the

Keywords: continuous time random walk, Brownian motion, collision time, skew Young tableaux, tandem queue.. AMS 2000 Subject Classification: Primary:

Ntouyas; Existence results for a coupled system of Caputo type sequen- tial fractional differential equations with nonlocal integral boundary conditions, Appl.. Alsaedi; On a

There are many exciting results concerned with the exis- tence of positive solutions of boundary-value problems of second or higher order differential equations with or

In Subsection 1.2 we prove the existence theorem under an assumption on the boundary data g that is reminiscent of the compatibility conditions in the theory of 1st

This paper develops a recursion formula for the conditional moments of the area under the absolute value of Brownian bridge given the local time at 0.. The method of power series