1
博士論文(要旨)
リスク計測手法の多様化に伴う銀行行動の変化
~地方銀行を取り巻く環境および規制枠組みが銀行経営に与える影響について~
4006004 安井 進
バブル崩壊後の不良債権処理およびリーマンショック、欧州債務問題などをふまえ、地方 銀行は近年、ますますリスクを考慮した銀行行動となっている。他方で、リスクを計測・認 識・管理するにあたっては、リスク計測手法の選択やそのモデル化、内部のリスク管理の方 法など、各銀行の裁量による部分が増えている。
金融危機が発生する度に、規制によるリスクのカバレッジが拡大されるとともに、より高 度化されたリスク計測手法が導入されるなど、今日まで規制の枠組みは絶えず変化し、複雑 なものとなってきている。
一方で、将来の人口動態の変化あるいは高齢化社会の到来から、特に地域経済の縮小が予 想されている。地方に拠点を置く地方銀行の経営は、必然的に地域経済との連動性が高い。
今後地方銀行は、人口減少、高齢化、市場規模の縮小などによる負の連鎖から疲弊する地域 とともに沈むのか。あるいは、外部環境が変化する社会にあって、果敢にリスクマネーを供 給する(リスクテイクする)ことにより、地域とともに発展する道筋を示せるのか、重要な 分岐点に差し掛かっていると考えられる。
本論文においては、上記のような環境認識のもと、リスク計測手法あるいは規制が多様 化・複雑化する中にあって、銀行行動の変化やリスク選好の面から地方銀行の存在意義を検 証するものである。
規制・環境の変化に対して、各行がどのようなリスク計測・管理方法を採用し、またどの ようなリスク選好をとっているのかを検証すること、加えて将来の地域社会の状況を鑑み、
積極的にリスクマネーを供給できるような状況にあるか、一律の規制対応となっていない か検証する。リスク計測手法の選択および適用される規制が地方銀行の銀行経営に与える 影響を検証する。
序章においては、なぜ地方銀行が近年になって、リスク感応的な銀行行動をとるようにな ったのか、その理由、背景について、バーゼル規制の変遷を中心に整理する。1980 年代後
2
半のバーゼル規制導入およびその後の改訂(バーゼルⅡ、バーゼルⅢへ)と、リスクのカバ レッジの範囲が信用リスクからマーケットリスク、オペレーショナルリスク、流動性リスク と拡大している。そうした中、金融技術の進展からリスク計測手法も適宜見直し高度化され ることにより、例えば自己資本比率規制において内部格付手法の利用など、規制の枠組みが 実際の業務運営に近づいてきた。このことが、より規制(リスク)を意識したリスク感応的 な業務運営となっている可能性がある。また従来、地方銀行においては預金・貸出金を中心 に伝統的な商業銀行をベースとしていたものの、近年においては趨勢的に預貸ギャップが 拡大し有価証券運用の重要性が高まるなど、ポートフォリオが変化していることも、リスク 感応的な銀行行動となる要因の 1 つと考えられる。
第 1 章では、地方銀行の現況を確認するにあたり、リスクの状況およびその管理・計測手 法について整理する。その際、多くの銀行で採用されている統合リスク管理の開示情報をも とに業態内の比較を行う。リスクを計測するにあたり、計測手法や前提条件、またその考え 方の違いなど、各行の状況・地域・経営戦略からその特徴を明らかにする。
第 2 章においては、2008 年夏の世界的な金融市場の混乱(所謂、リーマンショック)前 後を例にとって、自己資本比率規制における信用リスク計測手法の違いが、地方銀行の銀行 行動(リスクテイクの状況)にどのような相違・影響・変化を与えたか検討する。リスク計 測手法によって、ストレス期における自己資本比率の水準および資本施策など自己資本管 理が異なることを明らかにする。加えて、内部データがより詳細に開示されている内部格付 手法行を中心に、リスクテイクの状況・銀行行動を分析し、リスク感応的な銀行行動につい て明らかにする。
第 3 章においては、銀行勘定の金利リスク(所謂、アウトライヤー基準)とコア預金モデ ルの導入影響について検討する。アウトライヤー基準を計測する際、流動性預金の取り扱い として、コア預金の概念が適用されている。このコア預金については「合理的に預金者行動 をモデル化」することが可能であれば、流動性預金の満期やキャッシュフローを内部モデル により計測することが認められている。このことは、各銀行の採用するモデルによっては、
金利リスクテイクできる上限が変化することになる。各銀行の導入状況を探るとともに金 利リスクテイクへの影響について分析する。また、預金者行動の特徴を捉える方法として、
預金者の限定合理性に係る留意点について述べたい。
続いて第 4 章においては、リーマンショック時の金融危機をふまえて導入が予定されて いる流動性カバレッジ比率について、その特徴と規制として導入された際の影響を分析す
3
る。当該指標では、流動性預金の資金流出を計測することが求められており、どのような預 金が安定的に銀行に歩留まるのか判定し(預金保険の対象か否か、銀行と預金者の取引状 況)、異なる流出率が適用される。これらの新たな規制に対し将来の人口動態をふまえたう えで、銀行経営に与える影響を分析する。
第 5 章では全体のまとめとして、複雑化する規制の枠組みにあって、多様化するリスク計 測手法やリスク管理方法、また各銀行のリスク選好が銀行経営の巧拙の大きな決定要因と なってくる可能性について述べる。本稿でとりあげた統合リスク、信用リスク(自己資本比 率規制)、金利リスク(アウトライヤー基準)、流動性リスク(流動性規制)の4つの視点か らリスクを包括的に捉え、今後地方銀行のあるべき姿を展望する。
【学位論文の構成】
序 章 規制の枠組み・環境の変化と銀行行動 第1章 統合リスク管理およびリスク量の状況 第2章 信用リスク計測手法の違いによる銀行行動 第3章 銀行勘定の金利リスクとコア預金モデル 第4章 流動性規制における預金の取り扱い 第5章 おわりに