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6 製作技術からみた龍文透彫帯金具の成立 岩本崇 1 はじめに 帯金具の古墳への副葬は 僅かな例外を除けば 日本列島における金工技術史上の画期をなす古墳時代中期中葉のいわゆる 鋲留技法導入期 阪口 2008 に始動する それゆえ その画期とともに出現した帯金具の製作技術を明らかにすることは 列島での

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  1 はじめに

岩本 崇  

 帯金具の古墳への副葬は、僅かな例外を除けば、日本列島における金工技術史上の画期をなす古墳時 代中期中葉のいわゆる「鋲留技法導入期」〔阪口 2008〕に始動する。それゆえ、その画期とともに出 現した帯金具の製作技術を明らかにすることは、列島での金工技術の受容とその後の展開過程を探り、

製品と技術がもたらした変革の意義を考究する上での足がかりとなるはずである。

 本稿ではこうした点を念頭に、古墳から出土する帯金具を製作技術の異同という点から整理し、「鋲 留技法導入期」における金工品と金工技術の受容・展開の実態に迫るための基礎的な材料を整備するこ とをめざす。そのうえで、帯金具の受容過程を把握する上で鍵となりうる奈良県五條猫塚古墳例の位置 づけを確認することを主たる論点とし、この帯金具が持つ史的意義に迫ることを試みる(1)

  2 課題と論点の整理

 古墳出土の帯金具を分類し、その異同の背景を明らかにしようとした先行研究では、文様や構造さら には製作技術というおおむね三つの着眼点が示され、検討が深められてきた。以下では、主に本稿が視 点とする製作技術に根ざした先学の成果を概観し、取り組むべき課題と論点を明らかにする。

(1)研究動向

 研究の萌芽期には、まず文様を中心とした検討によって帯金具に関する基本的な認識が固められた

〔齋藤 1941、樋口 1950、梅原 1964〕。その後、帯の構造をもとに様式的な観点から整理される中で製 作技術にも一定の注意が払われ、個別の技術属性が分類指標として取り上げられるようになった〔町田 1970・1980〕。ただし、技術属性の細かな分析には検討の余地を残す部分もあり、製作技術と文様が 構造と有機的に結びつく体系的な分類の枠組みとして示すには至らなかった。

 細かな技術属性を製作工程の中で把握しようとする方向性も示されたが、第一に個別事例の詳細な検 討を要するという分析方法上の制約もあり〔小林 1982〕、なかなか体系的な分類にまでは結びつかな かったところがある。また、製作の諸工程の順序がかならずしも一様ではなく、資料ごとに異なるとい う指摘もあり〔杉山 1991〕、技術的な異同を分類研究に有意なものとして活用するには取り扱う属性 を吟味する必要性があった点も、この視点を生かした研究があまり進展しなかった一要因といえるかも しれない。

 そうした中、資料を緻密に観察し、個別の技術属性の内容を明らかにするという試みが実践されたこ

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とは、当該期の金工技術の実態に迫るうえで重要な視点と方向性をもたらした。特に、彫金技法の中で も線彫技術と立体表現技術の解明を中心に、古墳出土帯金具の系統的な異同を追認した鈴木勉の分析〔鈴 木・松林 1996、鈴木 2003〕、藤井康隆による施文に用いた彫金技法の詳細な検討や、彫金技法の異同 を踏まえた帯金具の分類・分析には〔藤井 2001・2002・2006・2014〕、参考とすべきところが多い。

とはいえ、鈴木の視点は技法の違いにより抽出した帯金具群の関係性を追究するには至らず、個々の技 法の複合的な結びつきがいかなるものであったかなどさらなる整理が必要であると考える。一方の藤井 の研究は、製作技術とはいいながらも分類指標を文様表現の方法の差に置く点や、取り上げた要素が多 様な製作技術の中でも限定的であるなど、体系的な製作技術の分類・整理による分析をもとにした議論 に論点があるわけではないと理解される。製作技術が帯金具の分析において部分的ながらも有効な視点 であることが確認されたが、その製作に注ぎ込まれた多様な技術の実態はなお不明なところが多く、そ うした成果を踏まえた分析についても検討の余地が大いに残されているというのが実態だといえよう。

(2)課題と論点

 以上、古墳出土の帯金具の製作技術に着目した先行研究の方法と、そこから導出された成果とその意 義について略述した。それを踏まえた上で、製作技術に関する研究の課題は、多様な技術を総合的に把 握し、それを基礎研究として活用しうるかという点にあると考える〔古谷 2013〕。

 製作技術を総体化した研究を実践するには、なによりもまず個々の技術属性を把握する必要がある。

特に、個別の技術属性の中でも主要なものについては、運用するにあたっての有効な分類案が不可欠で ある。そして、個別の技術属性の有機的な関連性から、体系的な技術のまとまりを抽出することが、帯 金具を製作技術という視点から説明する上での足がかりになると考える。

 本稿では、上述した基礎的ともいえる作業を踏まえたうえで、五條猫塚古墳出土の帯金具の位置づけ を明らかにすべく、関連する論点を交えながら検討を進めることとしたい。

  3 古墳出土帯金具の製作技術

 帯金具製作における個別の技術属性の中でも主要な属性となりうるのは、「成形技法」と「彫金技法」

である。さらに、「成形」や「彫金」が、「鍍金」処理や全体の「製作工程」上においていかなる関係に あるのかといった点も検討を要するところであろう。

 そこで以下では、「成形技法」・「彫金技法」・「製作工程」という3点の基本的な内容を把握し、それ ぞれの分類案を示す。なお、技術的な所見の大枠については、金工技術の中でも板金加工に関する古谷 毅の整理を〔古谷 2013〕、さらに個別の技術的な内容については、鈴木勉と藤井康隆の研究成果を主 に参考し〔鈴木・松林 1996、鈴木 1997・2003・2004、諫早・鈴木 2012、藤井 2002〕、実際の帯金 具の観察結果を踏まえながら整理する。

(1)成形技法

 い板や垂飾、帯先金具、蛇尾など帯金具を構成する主要部品の形状を作出する工程を成形とする。製

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作の中でも最終工程でおこなわれた場合には、整形とみることも可能であるが、いわゆる「仕上げ」を 整形段階とし、それより先行する部品の全形製作は成形段階と評価する。

 帯金具の主要部品については、鍛造・切断による「分割」加工が第一次成形の基本となる。あるいは、

第一次成形を「分割」ではなく、「鋳造」とする例もある。

 さらに、第2次成形は、「打ち出し」や「型鍛造」に代表される塑性加工と、「透彫り」や「鋤彫り」といっ た切削加工〔鈴木・松林 1996、鈴木 1997〕の二者が存在する。

 したがって、成形の最終工程には、①分割、②鋳造、③打ち出し、④型鍛造、⑤透彫り、⑥鋤彫り、

という違いが生ずることとなる。以下、個別の技術内容を確認する。

 分  割 金属板を鍛造切断技術により分割し、端面をヤスリがけで仕上げて部品とする〔古谷 2013〕。

 鋳  造 部品の大まかな形状を笵型を用いた鋳造によって作出する〔鈴木 1997・2003〕。湯廻り 不良などの鋳造欠陥にともなう凹凸を残す例や(第 206 図1)、まれに鋳かけをほどこして鋳造欠陥の 補修をおこなった例もある(第 206 図2)。

 打ち出し 板材を表裏から叩いてくぼませる、あるいは膨らませて成形する〔鈴木 1997〕。薄い材 を使用する例が多く、打ち出しにともなって材が薄くなった部分に亀裂を確認できる例もある(第 206 図3)。なお、打ち出しは、型を使用しておこなう場合には、後述の型鍛造に区分されることになる。

 型 鍛 造 板材に型をあてて、鍛造することで変形させて目的の形を作出する〔古谷 2013〕。材の 端部を屈曲させる例などは型鍛造によるものと考えられる(第 206 図4)。型鍛造の導入によって、同 形同大の部品の量産も可能となる。

 透 彫 り 板材の不要部分を切断し、切り抜くことにより成形する。要所に孔をあけ、タガネで切断 し、ヤスリなどで仕上げたものと想定される〔鈴木・松林 1996〕。ヤスリがけなどの仕上げがあまい 場合には、透彫りされた材の端面部分に切断にともなう痕跡を明瞭に観察できる(第 206 図5)

 鋤 彫 り 板材の不要部分を削り取ることによって成形する〔鈴木 1997〕。いわゆる削り出しであり、

凹部に残る加工痕跡は多数の条線で構成される(第 206 図6)。おおまかに立体形状を作出した板材を 作業台上で、強い圧力をかけて削り出して整形する。そのため、切削される部分の裏面は作業台に押し 付けられるために平坦となるが、その一方、切削されない部分は平坦となった部分よりくぼんだ状態と なる(第 206 図7)。

(2)彫金技法

 彫金技法は、線彫り技術と立体表現技術の総体として捉えることが可能であり、相互に一定の関連性 を想定できる。古墳時代の線彫り技術は「点打ち」、「蹴り彫り」、「なめくり打ち」、「毛彫り」の4種 類に整理され、前三者は塑性加工、後一者は切削加工と区別される〔鈴木・松林 1996、鈴木 1997・

2003・2004〕。さらに、金工品には立体的に表現する手法として「鋳造」、「打ち出し」、「彫りくずし」

があり〔鈴木 2003〕、彫金技法には後二者が該当することとなる。「打ち出し」は塑性加工、「彫りくずし」

は切削加工である。したがって、彫金技法については、塑性加工の「点打ち」・「蹴り彫り」・「なめくり 打ち」・「打ち出し」、切削加工の「毛彫り」・「彫りくずし」という分類が可能である。

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第 206 図 帯金具の製作技術(1)

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第 207 図 帯金具の製作技術(2)

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第 208 図 帯金具の製作技術(3)

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 なお、蹴り彫りについては、藤井康隆や鈴木勉・諫早直人らの分析によって、細分の余地を考慮しう る〔藤井 2002、諫早・鈴木 2012〕。ただし、先行研究の細分案はそれぞれ分類方針を異にしているた め、それらを整合的に取りまとめることは容易ではない。例えば、藤井の分類は極めて論理的に説明さ れる内容だが、資料が良好に遺存するという条件を要し、実際に個々の資料を細分形式に比定すること の難しい場合も多い。一方、鈴木・諫早の研究の論点は、細分ではなくむしろ一括資料を相対的に把握 するところにあり、分類基準の適用範囲は限られる。

 ただし、鈴木・諫早の指摘は五條猫塚古墳においても適用が可能であり、蒙古鉢形小札鋲留眉庇付冑 の庇の彫金はタガネの打ち込みの痕跡が三角形状になるのに対し(第 206 図8)、帯金具では線状にな るという違いがみられる(第 207 図4)。五條猫塚古墳の冑庇にみる蹴り彫りは月岡古墳の葉文帯金具 に、それぞれの古墳の龍文帯金具どうしは類似性が強く、タガネの打ち込み痕跡の形状の異同は分類に 活用しうる視点になると考える。

 以上に確認した点に加えて、五條猫塚古墳の帯金具を技術的に位置づけるという本稿の論点を踏ま え、ここでは彫金に使用したタガネの痕跡をもとに蹴り彫りについての相対的な細分案を示しておく。

 点 打 ち 先端に丸みのある針状のタガネを打ち込むもの(第 207 図1)。打ち込まれたタガネの痕 跡は、一つ一つが独立しており、連続的にほどこすことによって線彫りとなる〔鈴木 1996〕。列点文 や円文(魚々子文)も点打ちによってほどこされる文様である。

 蹴り彫り 先端が直線的な横一文字の刃部を持つタガネを斜めに打ち込み、連続させることによって 線彫りとする〔鈴木 1996〕。鏨の打ち込みの痕跡が連続・重複する状況を観察できるのが特徴である。

本稿では、製品に残るタガネの痕跡の違いから a 〜 d 類までの4類型に細分する。細分形式の異同は、

使用する工具とその打ち込み方の違いにもとづくものである。

 a 類 タガネの痕跡が明瞭であり、細かく短い三角形が密に連続するもの(第 207 図2)。

 b 類 タガネの痕跡がやや細長い三角形を呈し、不均等に連続する部分を含むもの(第 207 図3)。

 c 類 タガネの打ち込み痕跡が細かく重複して線状となる。なめくり打ちに近い(第 207 図4〜7)。

 d 類 タガネの打ち込み痕跡の重複が顕著だが、線状とはならない。太い蹴り彫り(第 207 図8)。

 なめくり打ち 刃部先端が直線的ではなく、弧を呈する形状のタガネを打ち込み、これを重複させて 線状とする(第 208 図1)。打ち込みの痕跡の一つ一つは、細長い楕円形を呈する。蹴り彫りとは異なっ て、ほどこされた線はなめらかな形状であり〔鈴木 1996〕、打ち込み痕跡の重複はほとんどみえない。

 毛 彫 り 彫刻刀に類した刃部形状のタガネ(刃鏨)を用いて、材の表面を削ることによって線彫り とする(第 208 図2)。蹴り彫りやなめくり打ちと異なるのは、材を圧力によって変形させる塑性加工 ではなく、材の一部を除去する切削加工にあたる点である〔鈴木 1996〕。

 打ち出し 薄い材を表裏から敲打して凹凸をつけ、立体表現するもの〔鈴木 2003〕。い板の裏面の 凹凸が顕著である(第 208 図3)また、鋳造によって成形されたと考えうるやや厚みのある材でも、

全体ではなく部分的に加圧することで打ち出し、細部の調整をほどこしたものがある(第 208 図4)。

 彫りくずし 厚みのある材の不要部分を除去して、立体表現するもの(第 208 図5・6)〔鈴木 2003〕。刃鏨を使用するなど毛彫りとの共通点があり、相互に関連性の深い技術といえる。

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(3)製作工程

 製作工程に関わる研究は、小林謙一の分析を嚆矢とする〔小林 1982〕。その中では、特に「鍍金」→「彫 金」→「透彫り」、「透彫り」→「彫金」→「鍍金」という二者の存在が想定された。さらに、杉山晋作 の実験を含めた詳細な検討によって、「彫金」→「鍍金」→「透彫り」という製品の存在も指摘される に至り〔杉山 1991〕、製作工程は一様でないことが明らかとなった。

 金工品の中でも金銅製品の場合、「鍍金」を工程中のどの段階でおこなうかは、「彫金」でほどこした 文様の視覚的効果という点を踏まえるならば、製作時に強く意識される可能性が高いと考えられる。そ れだけに、製作工程の違いが存在するのであれば、それは金銅製品の製作技術を系統的に把握するうえ では極めて重要な要素となる。

 そこで本稿でも先行研究を参考に、特に「鍍金」が「成形」や「彫金」とどのような関係にあるのか を把握することを主眼として、製作工程の異同を分析する。「成形」は「打ち出し」・「型鍛造」・「透彫り」・

「鋤彫り」による成形の最終段階の技術を、「彫金」は「点打ち」・「蹴り彫り」・「なめくり打ち」・「毛彫 り」・「打ち出し」・「彫りくずし」といった技術に対して使用する。以下、それらの前後関係の認定に際 しての基準を示す。

 鍍金と成形 まずは、成形が切削加工による透彫りと鋤彫りから検討する。切削加工が鍍金に先行す る場合は、切削面に鍍金がみられるため、その認定は容易である。透彫りであれば透彫り部分の端面に(第 208 図7)、鋤彫りであれば切削された凹部に(第 208 図8)、それぞれ鍍金がほどこされる。透彫り 後の鍍金の場合、透彫りされた部分の端面はヤスリがけによって整えられることが多いようである。対 して、鍍金が切削加工に先行するのであれば、切削面に鍍金は確認されないはずである。なお、鍍金が 成形に先行したと判断される例でも、周縁端面には鍍金を確認できる点から、まずい板の外形を銅板か ら切り出したのち、鍍金がほどこされ、透彫りや鋤彫り、打ち出しなどの成形がなされると製作工程を 復元できる。

 前後関係の把握がもっとも困難な透彫りの場合、鍍金後の透彫りであれば、鍍金膜は周縁の端面には みえるが、透彫り部の端面にはまったく確認できないことになる。遺存する確率を考えても、透彫り部 の端面と周縁の端面では、より磨滅しやすい周縁の方が状態が悪くなると予測できる。したがって、周 縁の端面に鍍金が残るにも関わらず、透し彫り部の端面では一切観察されなければ、鍍金後に透彫りさ れた可能性が高いと想定されよう。なお、鍍金後に切断作業をおこなうと、鍍金膜が突出する状況とな り、明瞭な切断面が形成される(第 206 図5)。この切断面の有無は鍍金工程の前後関係を認定する際 に重要な指標となるので、特に注目しておきたい。

 塑性加工の成形では、変形にともなって鍍金の表面状態に影響が及ぶ可能性がある。しかし、観察し えた対象資料では、鍍金の表面状態の不均質性など二次的変化を確認できた例はない。したがって、塑 性加工による成形では原則的に成形後に鍍金をほどこしたものと理解しておく。

 鍍金と彫金 彫金が切削加工である毛彫りや彫りくずしでは、切削面の鍍金の有無によって工程の前 後関係を把握できる。検討を要するのは、塑性加工による彫金の場合である。この点については、実験 を踏まえた杉山晋作の検討が参考となる〔杉山 1991〕。それによれば、鍍金前の彫金では彫金部分が ほかとは表面状態が変わらず、鍍金後の彫金では彫金部分がより明瞭になってきわだつという。具体的

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には、彫金を鍍金後におこなうと、彫金による凹部には擦痕が生じ、研磨がかかったようになる。また、

タガネの痕跡が鍍金後の彫金ではシャープであるのに対し、鍍金前ではあまい形状となる。

 また、彫金の中でもなめくり打ちは、彫りくずしとともに個別的ではなく複合的にほどこされること が多い。彫りくずしは切削加工であり、観察した資料ではいずれにおいても切削した部分に鍍金がみら れる(第 208 図8)。したがって、帯金具のなめくり打ちは、鍍金に先行するのが原則であったと判断 する。

 なお、打ち出しについても、鍍金の表面に二次的な変化が認められない点を重視して、鍍金に先立っ てなされたものとみておきたい。

 成形と彫金 成形と彫金の前後関係の把握には、さまざまな制約がともなう。いずれかの切削加工が 先行する加工に重複する場合、つまり実際の資料では透彫りが彫金後におこなわれる場合のみ認定が可 能である。このほか、鍍金がこれらをほどこす段階の間に介在する場合も、前後関係を特定できる。

 ただし、成形と彫金が一体的になされる場合もあるため、かならずしも前後関係の把握が有効な視点 になるとは限らない点にも注意が必要である。

  4 古墳出土帯金具の諸相

 古墳出土帯金具および関連する資料のうち、筆者が観察により製作技術の詳細を検討しえた資料を中 心にその一覧を示す(第9表)。なお、本稿で主たる検討対象となりうる獣文を持つい帯金具以外の、

葉文帯金具や無文帯金具についても参考までに併記した。表から、文様・形態・構造の異同から抽出さ れる形式ごとに、主体となる技術的特徴が大まかながら対応する状況を確認できるだろう。

 以下、多様な製作技術の有機的な結びつきを重視して主要な帯金具群を設定し、帯金具群の様相と諸 関係を把握することとしたい。ただし、表からもうかがえるように、五條猫塚古墳から出土した2種の 帯金具は、主要な帯金具群とではやや異質なところもある。したがって、本稿ではその位置づけを探る ために、主要な帯金具群の中でも特に関連性を議論すべき5群に限定した分析をおこなう。

(1)主要な帯金具群の実態

 金銅製三葉文・龍文透彫帯金具 いわゆる「晋式帯金具」に相当する一群である。帯先金具と鉸具 にあたる透彫飾板に龍文、い板に三葉文を主として配する。先学の分類では、町田「帯金具Ⅰ」〔町田 1970〕、早乙女「帯金具Ⅰ a 類」〔早乙女 1990〕、坂「A 類」〔坂 1991〕、田中「Ⅰ類」〔田中 1998〕、

宇野「Ⅰ類」〔宇野 2000〕、藤井「Ⅰ群帯金具」〔藤井 2002〕にあたる一群である。

 先学の検討成果〔小林 1982、杉山 1991〕と筆者の観察によれば、製作工程には四つの類型が想定され、

多様な製作技術を基盤に三葉文・龍文透彫帯金具が製作されたことがうかがわれる。すなわち、

 ① 「成形(透彫り)」→「鍍金」→「彫金」

 ② 「成形(透彫り)」→「彫金」→「鍍金」

 ③ 「彫金」→「鍍金」→「成形(透彫り)」

 ④ 「鍍金」→「彫金」→「成形(透彫り)」

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第9表 古墳出土の主な帯金具とその関連資料

出土古墳など 形  式

銙  板

形態・文様 成形・構造 彫金技法

周縁文様 主文様 工  程 伝・中国京都大学蔵 金銅製三葉文・龍文透彫帯金具勝形三葉文

山形龍文 金銅板透彫 蹴彫 a +点打

蹴彫 a 蹴彫 a +点打

蹴彫 a +点打 鍍金→彫金→成形 奈良新山 金銅製三葉文・龍文透彫帯金具勝形三葉文

円盤

金銅板透彫 鋳造

蹴彫 a なし

蹴彫 a +点打 なし

鍍金→彫金→成形 鍍金→彫金→成形 兵庫行者塚 金銅製三葉文・龍文透彫帯金具 勝形三葉文 金銅板透彫 蹴彫 a 蹴彫 a +点打 成形→鍍金→彫金 奈良五條猫塚 金銅製三葉文透彫帯金具 勝形三葉文 金銅板透彫 蹴彫c 蹴彫 c +点打 成形→鍍金→彫金 奈良五條猫塚 金銅製龍文透彫帯金具1類 方形龍文 金銅板透彫 蹴彫 c +点打 蹴彫 c +点打 鍍金→彫金→成形 江陵草堂洞A1 金銅製龍文透彫帯金具1類 方形龍文 金銅板透彫 蹴彫 ? +点打 蹴彫+点打

伝・朝鮮半島菊隠コレクション 金銅製龍文透彫帯金具1類 方形龍文 金銅板透彫 蹴彫 b +点打 蹴彫 b 井邑雲鶴里 C 号 金銅製龍文透彫帯金具1類 方形龍文 金銅板透彫 蹴彫 c? 蹴彫 c?

大阪七観 金銅製龍文透彫帯金具1類 方形龍文 金銅板透彫 蹴彫 c +点打 蹴彫 c +点打 鍍金→彫金→成形 福岡月岡(A) 金銅製龍文透彫帯金具1類 方形龍文 金銅板透彫 なし 蹴彫 c +点打 鍍金→彫金→成形

燕岐羅城里KM004 金銅製龍文透彫帯金具1類 方形龍文 金銅板透彫 蹴彫 b +点打 蹴彫 b +点打

慶山林堂7B号 金銅製龍文透彫帯金具1類 方形龍文 金銅板透彫 蹴彫 b? +点打 蹴彫 b? +点打 慶州皇南大塚南(金銅製) 金銅製龍文透彫帯金具1類 方形龍文 金銅板透彫 蹴彫 b +点打 蹴彫 b +点打

奈良新沢126 金銀製龍文透彫金具 方形龍文 金板透彫 なし なし 成形

慶州皇南大塚南(銀製) 金銀製龍文透彫帯金具 方形龍文 銀板透彫 なし なし 成形

大阪長持山 金銅製龍文透彫帯金具2類 ? 方形龍文 ? 金銅板透彫+金銅裏当板 蹴彫 c +点打 蹴彫 c +点打 鍍金→成形・彫金 埼玉埼玉稲荷山 金銅製龍文透彫帯金具2類 方形龍文 金銅板透彫+金銅裏当板 蹴彫c 蹴彫c 鍍金→成形・彫金 伝・朝鮮半島小倉コレクション(TJ5102)金銅製獣文透彫帯金具1類 方形鳳凰文 金銅板透彫+鉄地金銅裏当板 なめくり なめくり 成形・彫金→鍍金 伝・朝鮮半島小倉コレクション(TJ5107)金銅製獣文透彫帯金具1類 方形鳳凰文 金銅板透彫+鉄地金銅裏当板 なめくり なめくり

愛知青塚 金銅製獣文透彫帯金具2類 方形龍文・虎文 金銅板透彫 蹴彫 d +点打 蹴彫 d +なめくり+彫崩 成形・彫金(主)→鍍金→彫金(周) 京都穀塚 金銅製獣文透彫帯金具2類 方形龍文・虎文 金銅板透彫+金銅裏当板 なめくり なめくり+彫崩 成形・彫金(主)→鍍金→彫金(周)?

熊本江田船山 金銅製獣文鋤彫帯金具 方形龍文 金銅板鋤彫 ( 鋳造) なめくり なめくり+彫崩 成形・彫金→鍍金 福井西塚 金銅製獣文鋤彫帯金具 方形龍文・鳳凰文 金銅板鋤彫 ( 鋳造) なめくり なめくり+彫崩 成形・彫金→鍍金 大阪荒神塚 金銅製獣文鋤彫帯金具 方形鳳凰文 金銅板鋤彫 ( 鋳造)? なめくり ? なめくり+彫崩 ?

和歌山大谷 金銅製獣文鋤彫帯金具 方形龍文系 金銅板鋤彫 ( 鋳造) なめくり なめくり+彫崩+点打 成形・彫金→鍍金 大阪峯ヶ塚 金銅製獣文鋤彫帯金具 方形獣文 金銅板鋤彫 ( 鋳造) なめくり なめくり+彫崩 成形・彫金→鍍金 伝・朝鮮半島小倉コレクション(TJ5108)金銅製獣文鋤彫帯金具 方形龍文 金銅板鋤彫 ( 鋳造) なめくり なめくり+彫崩 成形・彫金→鍍金 奈良新沢126 金銅製葉文透彫帯金具 方形双葉文 金銅板透彫 蹴彫 c +点打 蹴彫c 鍍金→成形・彫金 福岡月岡(B) 金銅製葉文透彫帯金具 方形双葉文 金銅板透彫 蹴彫 b +点打 蹴彫 b 鍍金→成形・彫金 伝・陝川玉田小倉コレクション(TJ5101)金銅製葉文透彫帯金具 方形双葉文 金銅板透彫 なし なし 鍍金→成形 陝川玉田M1 金銅製葉文透彫帯金具 方形双葉文 金銅板透彫 蹴彫+点打 蹴彫

岡山一本松 金銅製葉文透彫帯金具 方形葉文 金銅板透彫 蹴彫+点打 蹴彫

滋賀新開 1 号 金銅製葉文透彫帯金具 方形葉文 金銅板透彫・型鍛造 なし なし 鍍金→成形→型鍛造 兵庫宮山( 第 2 主体) 金銅製葉文透彫帯金具 方形葉文 金銅板透彫・型鍛造 なし なし 鍍金→成形→型鍛造

福岡櫨山 金銅製葉文透彫帯金具 方形葉文 金銅板透彫・型鍛造 なし なし 鍍金→成形→型鍛造

慶州皇南大塚南(金製) 金銀製葉文透彫帯金具 方形葉文 金板透彫・型鍛造 なし なし 成形→型鍛造 慶州皇南大塚南(銀製) 金銀製葉文透彫帯金具 方形葉文 銀板透彫・型鍛造 なし なし 成形→型鍛造 慶州皇南大塚南(銀製) 金銀製葉文透彫帯金具 方形葉文 銀板透彫・型鍛造 なし なし 成形→型鍛造 慶州皇南大塚南(銀製) 金銀製葉文透彫帯金具 方形葉文 銀板透彫・型鍛造 なし なし 成形→型鍛造 慶州皇南大塚北(金製) 金銀製葉文透彫帯金具 方形葉文 金板透彫・型鍛造 なし なし 成形→型鍛造 慶州皇南大塚北(銀製) 金銀製葉文透彫帯金具 方形葉文 銀板透彫・型鍛造 なし なし 成形→型鍛造 慶州皇南大塚北(銀製) 金銀製葉文透彫帯金具 方形葉文 銀板透彫・型鍛造 なし なし 成形→型鍛造

長野八丁鎧塚 2 号 金銅製獅噛文帯金具1類 方形獅噛文 金銅板鋤彫(鋳造) 蹴彫 b +点打 なめくり+彫崩 成形・彫金(主)→鍍金→彫金(周) 公州水村里 1 号 金銅製獅噛文帯金具1類 山形獅噛文

逆心葉形獅噛文金銅版鋤彫(鋳造) なめくり+彫崩 ? 成形・彫金→鍍金 ? 清州新鳳洞B-1 金銅製獅噛文帯金具1類 逆心葉形獅噛文? − ( 鋳造 )? なし

陝川玉田M1 金銅製獅噛文帯金具1類 山形獅噛文

逆心葉形獅噛文金銅板鋤彫(鋳造)? − なめくり+彫崩 ? 成形・彫金→鍍金 ? 奈良真弓鑵子塚 金銅製獅噛文帯金具1類 ? 方形獅噛文 金銅板鋤彫(鋳造)? なし なめくり+彫崩 ? 成形・彫金→鍍金 ? 岡山牛文茶臼山 金銅製獅噛文帯金具2類 方形獅噛文 金銅板打出 蹴彫c 打出+なめくり+点打 成形→鍍金→彫金 鳥取高山 金銅製獅噛文帯金具2類 方形獅噛文 金銅板打出 なめくり 打出+なめくり+点打 成形→鍍金→彫金 福井十善の森 金銅製獅噛文帯金具2類 方形獅噛文 金銅板打出 なし 打出+なめくり+点打 成形→鍍金→彫金 公州水村里 4 号 金銅製獅噛文帯金具2類 方形獅噛文 金銅板打出 なめくり ? 打出+なめくり+点打 ? 成形→鍍金→彫金 ? 公州宋山里古墳群 金銅製獅噛文帯金具2類 方形獅噛文 金銅板打出 蹴彫 ? +点打 打出+なめくり+点打 ? 成形→鍍金→彫金 ? 高霊池山洞47 金銅製獅噛文帯金具2類 方形獅噛文 金銅板打出 なめくり ? 打出+なめくり+点打 ? 成形→鍍金→彫金 ? 陝川玉田M3 金銅製獅噛文帯金具2類 方形獅噛文 金銅板打出 なし 打出+なめくり+点打 ? 成形→鍍金→彫金 ? 咸安道項里54 金銅製獅噛文帯金具2類 隅丸方形獅噛文 金銅板打出 なし 打出+なめくり+点打 ? 成形→鍍金→彫金 ? 伝・慶尚南道小倉コレクション(TJ5110)金銅製獅噛文帯金具2類 方形獅噛文 銅板打出+金張 なめくり 打出+なめくり+点打 金張→成形→彫金 伝・朝鮮半島小倉コレクション(TJ5111)金銅製獅噛文帯金具2類 方形獅噛文 金銅板打出 なめくり 打出+なめくり+点打 成形→鍍金→彫金 伝・朝鮮半島小倉コレクション(TJ5112)金銅製獅噛文帯金具2類 方形獅噛文 金銅板打出 なめくり 打出+なめくり+点打 成形→鍍金→彫金 奈良掖上鑵子塚 金銅製無文帯金具 方形無文 金銅板分割 蹴彫 c +点打 なし 成形→鍍金→彫金

奈良掖上鑵子塚 金銅製無文帯金具 方形無文 金銅板分割 なし なし 成形→鍍金

愛知志段味大塚 金銅製無文帯金具 方形無文 鉄地金銅張 蹴彫+点打 なし 成形→鍍金→金銅張→彫金

石川狐山 銀製逆心葉形帯金具 逆心葉形無文 銀板型鍛造(鋳造)? なし なし 成形  〔凡 例〕一項目で2行にわたる記述は、別部品についての個別説明であることをあらわす。+は同一部品内での要素の併存を示す。

      成形・彫金・工程:本文中の分類と対応。表記にあたっては略称を使用。−:不明。?:不確定であるが、可能性のあるもの。(主):主文様。

:

) (

         

(11)

323

鉸  具 垂  飾

帯本体との接合方法 出土古墳 構 造 刺 金 接続

方法 成形・構造 形 態 彫 金

龍文透彫 (あり) 直接 鋳造? 金銅板透彫

素環 方形龍文

蹴彫 a +点打 蹴彫 a +点打

銙板下端折曲+不明 銙板下端部分折曲+不明

伝・中国

龍文透彫 (あり) 直接 間接

鋳造 鋳造?

素環 遊環

毛彫 なし

銙板下端折曲+円形留具 円形留具〔銅〕

新山 龍文透彫 (あり) 直接 鋳造

金銅板透彫 素環

二重心葉 なし

蹴彫 a 銙板下端折曲+鋲・円形留具〔銅〕 行者塚

間接 − 五條猫塚

D字形縁金〔鉄〕 あり 間接 金銅板透彫あるいは分割? 鋲脚折曲 五條猫塚

D字形縁金〔金銅〕 あり 間接 金銅板透彫 三重心葉 蹴彫+点打 草堂洞A1

D字形縁金〔金銅〕 あり 間接 − 伝・朝鮮半島

間接 − 雲鶴里C

D字形縁金〔金銅〕 あり 直接 金銅板透彫 二重心葉 蹴彫 c +点打 銙板下端部分折曲+円形留具〔銅〕 七観

(D字形縁金〔金銅〕) (あり) 直接 金銅板透彫 二重心葉 なし 銙板下端部分折曲+円形留具〔銅〕 月岡(A)

直接 金銅板透彫 類二重心葉 銙板下端部分折曲+不明 羅城里KM004

D字形縁金〔金銅〕 あり 直接 金銅板透彫 三重心葉 蹴彫b?+点打 銙板下端部分折曲+円形留具 林堂7B

D字形縁金〔金銅〕 あり 直接 金銅板透彫 一重心葉 蹴彫 b +点打 銙板下端部分折曲+円形留具 皇南大塚南(金銅)

新沢126

D字形縁金〔銀〕 あり なし − 銙板下端部分折曲+円形留具〔銀〕 皇南大塚南( 銀)

長持山

横Ω字形縁金〔金銅〕 なし 間接 金銅板打出 なし 円形留具〔銅〕 埼玉稲荷山

D字形縁金〔金銅〕 あり 間接 − 伝・朝鮮半島

D字形縁金〔金銅〕? あり 間接? 円形留具〔鉄〕 伝・朝鮮半島

なし 間接 − 青塚

横Ω字形縁金〔金銅〕 なし 間接 金銅板鋤彫+鋳造 心葉+鈴 なめくり+彫崩 穀塚

間接 − 江田船山

間接 金銅板打出 なし 円形留具〔銅〕 西塚

荒神塚

間接?金銅板鋤彫? 方形龍文系?なめくり+彫崩? 大谷

大阪峯ヶ塚

間接 − 伝・朝鮮半島

D字形縁金〔金銅〕 あり 直接 金銅板透彫 一重心葉 なし 銙板下端部分折曲+円形留具〔銅〕 新沢126

(D字形縁金〔金銅〕) (あり) 直接 金銅板透彫 一重心葉 なし 銙板下端部分折曲+形状不明留具〔銅〕月岡(B)

直接 金銅板透彫 一重心葉 なし 銙板下端部分折曲+円形留具〔銅〕 伝・陝川玉田

横Ω字形〔金銅〕 なし 間接 金銅板彫金 心葉 蹴彫+点打 円形留具? 玉田M1

直接 金銅板透彫 一本松

D字形縁金〔金銅〕 あり なし − 円形留具〔銅〕 新開1

D字形縁金〔金銅〕 あり 直接 金銅板透彫 一重心葉 なし 銙板下端部分折曲+円形留具〔銅〕 宮山( 第2)

D字形縁金〔金銅〕 あり 直接 金銅板透彫 一重心葉 なし 銙板下端部分折曲+円形留具〔銅〕 櫨山

D字形縁金〔金〕 あり 直接 金板透彫 一重心葉 なし 銙板下端部分折曲+円形留具〔金〕 皇南大塚南( 金)

D字形縁金〔銀〕 あり 直接 銀板透彫 一重心葉 なし 銙板下端部分折曲+円形留具〔銀〕 皇南大塚南( 銀)

D字形縁金〔銀〕 あり なし − 上下端断面 U 字金具〔銀〕 皇南大塚南( 銀)

D字形縁金〔銀〕 あり なし − 上下端断面 U 字金具〔銀〕 皇南大塚南( 銀)

横Ω字形〔金〕 あり 直接 金板透彫 一重心葉 なし 銙板下端部分折曲+円形留具〔金〕 皇南大塚北( 金)

D字形縁金〔銀〕 あり 直接 銀板透彫 一重心葉 なし 銙板下端部分折曲+円形留具〔銀〕? 皇南大塚北( 銀)

偏 D 字形縁金〔銀〕 あり 直接 銀板透彫 一重心葉 なし 銙板下端部分折曲+円形留具〔銀〕 皇南大塚北( 銀)

八丁鎧塚2

横Ω字形縁金〔金銅〕なし 直接

直接 −

遊環 銙板下端部分折曲+不明

水村里1

新鳳洞 B-1

直接

直接

遊環 銙板下端部分折曲+不明

玉田M1

横Ω字形縁金〔金銅〕 あり なし − 真弓鑵子塚

横Ω字形縁金〔金銅〕 なし 間接 金銅板打出 なし 鋲・方形留具〔銅〕 牛文茶臼山

鋲・方形留具〔銅〕 高山

横Ω字形縁金〔金銅〕 あり なし − 十善の森

間接 − 円形 水村里4

宋山里

池山洞47

玉田M3

道項里54

伝・慶尚南道

伝・朝鮮半島

伝・朝鮮半島

直接 金銅板透彫 二重心葉 蹴彫 c 銙板下端部分折曲+円形留具〔銅〕 掖上鑵子塚

直接 金銅板分割 心葉 蹴彫b 銙板下端部分折曲+方形留具〔銅〕 掖上鑵子塚

横Ω字形縁金〔金銅〕 なし − 志段味大塚

D字形縁金〔銀〕 あり 直接 銀棒鍛造 遊環 銙板下端部分折曲+円形留具〔銀〕 狐山

部分名称については鈴木 2014、藤井2014を参考に一部改変。

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(12)

という製作工程があり、特に鍍金をいずれの段階にほどこすかが大きな違いとなる。

 詳細な検討の準備が現段階では整っていないために深く立ち入ることはしないが、日本列島で出土し た2例にも製作工程には違いがあり、技術的な差は大きい。それぞれの製品の流入に際しては、製作系 統あるいは時期を異にするといった個別の契機を想定できよう。なお、新山古墳の素環の垂飾は、鋳造 後に毛彫りで彫金したのちに鍍金をほどこすものであり、帯先金具や鉸具にあたる透彫飾板さらにはい 板とは製作工程を異にする。三葉文・龍文透彫帯金具が多様な製作技術を基盤として、技術を選択しな がら製品の製作にあたった可能性をうかがうことができる。

 金銅製龍文透彫帯金具 技術的には、鍍金後に成形および彫金をほどこす工程を一貫して採用し、金 銅板に透彫りと蹴り彫りによって文様を表現する点を特徴とする。帯金具を様式に整理した上野祥史の

「新羅第1様式」〔上野 2014〕のうち、主として龍文を配する資料群が該当する。また、い板の文様表 現から分類した藤井康隆の「透彫雲気禽獣文帯金具」〔藤井 2014〕の多くが該当する。ここでは、構 造の違いから2類型に細分する。

 1類は、い板の周縁に波状列点文、中央に龍文をあらわし、い板に裏当板が付属しない形式である。

蹴り彫りには二者が存在する。2類は、い板に金銅裏当板が付属する形式である。1類とは龍文を中央 に表現する点は共通するが、周縁文様が波状列点文だけでなく、綾杉文もみられるという差がある。

 1類は町田「帯金具Ⅱ− a」〔町田 1970〕、早乙女「帯金具Ⅰ b 類」〔早乙女 1990〕、小浜「Ⅰ式」〔小 浜 1993〕、宇野「Ⅱ a 類」〔宇野 2000〕、高田「a 式」〔高田 2014〕、2類は町田「帯金具Ⅱ− a」〔町 田 1970〕、早乙女「帯金具Ⅰ b 類」〔早乙女 1990〕、小浜「Ⅱ式」〔小浜 1993〕、宇野「Ⅱ d 類」〔宇 野 2004〕におおむね該当する。

 1類と2類はいずれも透彫りという技術的特徴が共通するが、い板の裏当板の有無という構造上の違 いがある。資料数としては1類が多く、主体をなす。2類は、現状ではごく僅かしか存在せず、採用さ れる文様にもばらつきがあるなど、客体的なあり方といえよう。

 出土地をみると、1類は日本列島と韓半島の双方で確認されている。韓半島では類する透彫製品を含 めて新羅での出土例が目立つが、百済でも確認例が少数ある。また、関連するとみられる金銅製葉文透 彫帯金具は大加耶にも分布する。列島出土例は3例のみだが、これらはその龍文表現や彫金の特徴が極 めて共通する。大局的には同一あるいは近しい系統における短期間の製品である可能性が高いとみてよ いだろう。その製作地をいずれに求めうるかは別として、特定の製作系統の製品が列島内で流通し、近 接した時期の古墳に副葬されるという共通の背景を想定できる点が重要である。2類については、日本 列島でしか出土が確認されておらず、1類とは製作状況が異なる可能性も想定されよう。

 金銅製獣文透彫帯金具 上述した金銅製龍文透彫帯金具と構造における共通点があるが、明らかな技 術的な違いのある一群を別のまとまりとして抽出する。その注目すべき技術的特徴とは、成形(透彫り)

後に鍍金をほどこすという製作工程と、なめくりによる彫金を採用するという点である。藤井康隆の

「浮彫禽獣文帯金具 A 式」がおおむね該当する〔藤井 2014〕。中央の文様も龍文に限定されることなく、

虎や鳳凰をもモチーフとし、先述した金銅製龍文透彫帯金具とは大きな差がある。技術的な特徴と構造 の異同から、細分が可能である。

 1類は、彫金をなめくり主体とし、い板の裏当板が鉄地金銅張となる形式である。2類は、彫金にな

(13)

325

めくりだけでなく、彫りくずしをあわせて採用する一群である。両者には彫金技法に明らかな差があり、

系統を異にする可能性を想定できよう。1類は鳳凰文を中央にあらわし、2類では龍文あるいは虎文を 表現するという違いもある。

 1類はいずれも朝鮮半島から出土したと伝えられる資料しか存在しないが、2類は日本列島での出土 に限られる。なお、列島出土の2例は、ほどこされる文様の種類と表現方法には差が目立ち、い板の裏 当板の有無など相違点もある。強いまとまりをなす資料群ではなく、異なる系譜の帯金具を対象に模倣 製作したものと理解すべきかもしれない。金銅製獣文透彫帯金具の中では1類が主体となる可能性が高 いが、資料数が少ないため確実な判断は下しがたい。

 金銅製獣文鋤彫帯金具 製作技術という点では、これまでの3群とは大きく異なり、成形技法に鋤彫 りという切削技法を採用する。また、成形・彫金ののちに鍍金をほどこすという一貫した製作工程を採 用し、彫金もなめくりと彫りくずしを徹底する。技術的に強いまとまりを保持する点が特徴である。

 上野祥史の「大加耶・倭様式」〔上野 2014〕、藤井康隆の「浮彫禽獣文帯金具 B 式」〔藤井 2014〕に あたる資料群である。また、厳密には対応しないが、町田「帯金具Ⅱ− b」〔町田 1970〕、早乙女「帯 金具 Ⅰ c 類」〔早乙女 1990〕、小浜「Ⅴ式」〔小浜 1993〕、田中「Ⅲ類」〔田中 1998〕、宇野「Ⅴ類」〔宇 野 2004〕、高田「b 式」〔高田 2014〕の多くが該当する。

 日本列島での出土が目立ち、1例のみ朝鮮半島から出土したと伝えられるものがある(2)

 金銅製獅噛文帯金具 獣面帯金具とも呼称される、獣像の顔面をい板全体にあらわす帯金具の一群で ある。製作技術の異同から、2類に区分できる。町田「帯金具Ⅲ− b」〔町田 1970〕、早乙女「帯金具Ⅴ類」

〔早乙女 1990〕、坂「G 類」〔坂 1991〕、高田「e 式」〔高田 2014〕にあたる帯金具である。

 1類は、い板の裏面が平滑な面をなし、い板表面に彫りくずしとなめくりによって施文するもので ある。比較的厚い材からなり、表面に凹凸を有しながらも、裏面は平滑な面をなすことから、大まか に鋳造によって成形したものと考える。ただし、部分的に表面の膨らみと対応する窪みが裏面にもみ られる点から、打ち出しによる成形を併用したものとみられる(3)。藤井康隆も指摘するように〔藤井 2014〕、1類は技術的には先述した金銅製獣文鋤彫帯金具と共通するところがある。

 2類は、材となる金銅板の厚みが 0.5㎜程度と薄く、裏面からの打ち出しにより成形されたと判断で きるものである。文様細部は表面には鋭い屈曲による凹凸がみられる一方、裏面は凹凸が曖昧となって おり、主文様の彫金が主に表面側からなめくりと打ち込みによってなされたものと判断できる。

 1・2類とも韓半島と日本列島の双方で出土し、韓半島では百済と大加耶を中心に分布する。

(2)帯金具群の諸関係

 次に、検討対象とした大別5群8類型からなる帯金具の関係性について、製作技術という観点を軸に 分析し、そのほかの要素も含めて整理する。

 技術群と主体となる帯金具 まず、成形と彫金という技術面の異同を検討する。上述した5群8類型 の帯金具の成形技術と彫金技法は、次のように四つの技術群(成形技法+彫金技法)に整理しうる。

 ①第1技法 透彫り+蹴り彫り  ②第2技法 透彫り+なめくり

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(14)

 ③第3技法 鋳造・鋤彫り+なめくり・彫りくずし  ④第4技法 打ち出し+なめくり

 すなわち、金銅製三葉文・龍文透彫帯金具と金銅製龍文透彫帯金具が第1技法、金銅製獣文透彫帯金 具が第2技法、金銅製獣文鋤彫帯金具と金銅製獅噛文帯金具1類が第3技法、金銅製獅噛文帯金具2類 が第 4 技法によって製作される。

 四つの技術群は、その技術属性の構成から、透彫り成形主体の第1技法と第2技法から、鋤彫り成形 の第3技法、さらに打ち出し成形の第 4 技法へと、系統的に推移したとみることもできるが、実態は それほど単純ではなかろう。四つの技術群でも、資料が一定数存在し、技術内容も安定的であるのは、

第1技法の中でも金銅製三葉文・龍文透彫帯金具と金銅製龍文透彫帯金具1類、第3技法の金銅製獣文 鋤彫帯金具・金銅製獅噛文帯金具1類、第4技法の金銅製獅噛文帯金具2類である。これらが主体をな す一方、ほかの類型の帯金具は数が限定的である。また、第2技法の金銅製獣文透彫帯金具2類にあた る、愛知県幸田青塚古墳例と京都府穀塚古墳例は、同じ類型といっても構造や文様表現という点では共 通点よりも相違点が目立つ。それぞれは主体をなす帯金具をそれとは異なる技術群によって模倣製作し たものとみることも可能である。第1技法の金銅製龍文透彫帯金具2類も、第2技法の金銅製獣文透彫 帯金具や第3技法の金銅製獣文鋤彫帯金具を、第1技法によって模倣した可能性を想定できよう。

 以上のような点を踏まえ、ひとまず第1技法の金銅製三葉文・龍文透彫帯金具および金銅製龍文透彫 帯金具1類、第3技法の金銅製獣文鋤彫帯金具と金銅製獅噛文帯金具1類、第4技法の金銅製獅噛文帯 金具2類を主体となる帯金具群と評価し、これ以外の類型の帯金具を中間的な形式と位置づけたい。つ まり、少なくとも第1技法と第3技法、第4技法については、技術系統を大きく異にする帯金具群であ ると考える。

 技術群の系譜 第1技法としては、金銅製三葉文・龍文透彫帯金具と、金銅製龍文透彫帯金具1類と いう二つの主体をなす帯金具群がある。同じ技術群に帰属する帯金具ではあるが、両者には決定的な技 術差があるという点を強調しておかねばならない。すなわち、金銅製三葉文・龍文透彫帯金具では垂飾 に限定されるが、鋳造技法に加えて毛彫りという切削加工にあたる彫金技法が採用される一方、金銅製 龍文透彫帯金具1類では鋳造での成形を要するような厚みのある部品は使用せず、蹴り彫りという塑性 加工にあたる彫金技法を駆使する。ここに、同じ第1技法の帯金具であっても、両者には明らかな系統 差のある点を指摘できる。

 第3技法については、モチーフを異にする帯金具群が属する一方で、それらには鋳造・鋤彫り成形に 加えて、彫りくずしによる彫金という、切削加工に属する技法を採用するという共通点がある。具体的 には、藤井康隆も指摘するように〔藤井 2014〕、長野県八丁鎧塚古墳例では鋳造後に鋤彫りし、彫り くずしとなめくりによる彫金を観察できる点から、金銅製獅噛文帯金具第1類は金銅製獣文鋤彫帯金具 と技術的に深く関連するものと位置づけうる。

 この第3技法に属する金銅製獅噛文帯金具第1類を、鋳造ではなく打ち出しという成形技法によって 製作したものが第4技法とした金銅製獅噛文帯金具第2類である。一概には決定しがたいところもある が、製作技術の省力化や文様の精粗により、金銅製獅噛文帯金具は1類から2類へと時間的な流れの中 で推移したものとみられる。ただし、この金銅製獅噛文帯金具の推移は、同一系統の中でも変遷という

(15)

327

よりはむしろ、異なる技術による帯金具群の交替として理解すべきであろう。

 なお、第3技法については、第1技法に属する三葉文・龍文透彫帯金具との共通点を考慮に入れる必 要がある。い板ないしは垂飾の立体形状を造り出すにあたって鋳造を主体とした技法を採用する点、彫 金技法に毛彫りあるいは彫りくずしという切削加工を取り入れる点は、技術系統的にみて強い関連性を うかがわせる。第3技法の技術系譜を考える上で、第1技法の存在は極めて重要である(4)

 小 結 以上、主要な帯金具群として、第1技法の金銅製三葉文・龍文透彫帯金具と金銅製龍文透 彫帯金具1類、第3技法の金銅製獣文鋤彫帯金具と金銅製獅噛文帯金具1類、第4技法の金銅製獅噛文 帯金具2類という5群を抽出した。

 そして、製作技術上の特徴にみる異同から、同じ第1技法でも金銅製三葉文・龍文透彫帯金具と金銅 製龍文透彫帯金具1類、第3技法の金銅製獣文鋤彫帯金具(5)と金銅製獅噛文帯金具1類、さらには第 4技法の金銅製獅噛文帯金具2類は、それぞれ異なる系統に位置づけうることを確認した。

 文様モチーフの類似性から、第1技法の金銅製三葉文・龍文透彫帯金具と金銅製龍文透彫帯金具1類、

第3技法の金銅製獅噛文帯金具1類と第4技法の金銅製獅噛文帯金具2類は、それぞれ後者が前者を模 倣したものと想定できるが、技術的には飛躍があるという点には留意しておきたい。

 日本列島出土の帯金具という点で重視すべきは、帯金具群という複数のまとまりを見出しうるにも関 わらず、それらの系統的なつながりや系列的な変遷をうかがうことが難しいという点にあると考える。

すなわち、列島社会が帯金具という器物を受容しながらも、それぞれの帯金具の製作の背後にある技術 基盤は個別的なまとまりでしかなく、そこに体系的な技術の導入・受容は想定できない。要するに、古 墳時代社会における帯金具の受容は、継続的というよりはむしろ断続的なあり方あるいは個別的なまと まりを基本とするものであったと評価しうるのである。そしてその具体的な背景としては、列島内での 生産ではなく〔小浜 1993・2002、橋本 1995、田中 1998、宇野 2000〕、外部からの製品の搬入〔坂 1991、藤井 2001、高田 2006、早乙女 2007〕を想定するのが資料の実態に即していよう。また、そ の搬入のあり方も固定的な窓口によるものではなく、連続性の乏しい、限られた契機によるものであっ たと推測する。

  5 龍文透彫帯金具の成立

―五條猫塚古墳出土帯金具の位置とその史的意義―

 これまでの分析を踏まえて、五條猫塚古墳古墳から出土した帯金具の位置づけについて検討を試み る。まずは、五條猫塚古墳例の大まかな位置づけを他例との共通点から示し、類例を抽出する。その上 で、類例との比較検討を通して、より詳細な位置づけを探ることにする。

(1)五條猫塚古墳出土帯金具の類例 

 五條猫塚古墳出土の帯金具の2種について、まずは共通点から類例を探索するとともに、大まかな位 置づけを明らかにする。2種の帯金具とは、一つは金銅製三葉文透彫帯金具であり、いま一つは金銅製 龍文透彫帯金具である。

 金銅製三葉文透彫帯金具 金銅製三葉文透彫帯金具については、形態および文様構成がいわゆる晋式

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参照

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