著者 神尾 陽子
雑誌名 東京家政大学附属臨床相談センター紀要
巻 13
ページ 1‑11
発行年 2013‑03
出版者 東京家政大学附属臨床相談センター
URL http://id.nii.ac.jp/1653/00010073/
第 3 回 日本小児心身医学会関東甲信越地方会
(東京家政大学附属臨床相談センター 第 14 回 臨床心理教育研修会)
子どもから大人への精神病理の連続性と不連続性
神尾 陽子
Continuity and discontinuity in psychopathology from childhood into adulthood Yoko KAMIO
ご紹介いただきました神尾でございます。
1児童精神科医という立場で長らく臨床をして いて、現在の国立精神・神経医療研究センターに 移って、より地域の中で子どもにサービス提供す るかというように、少し視点は変わってきてはい ますが、そういった意味では今、近喰先生がおっ しゃった家族だけではなく(神様が育てる)地域 の中で親というのは biological(バイオロジカル)
な親だけではなくて、皆で育てていくという観点 からしたら少し近いかなと思って、今日は「子ど もから大人への精神病理の連続性と不連続性」と いうことでお話しさせていただきます。
家族も親も色々ですね。私は大人の精神科もし ていたもので、親の精神病理というものは本当に 前面に出ないです。一般に子どもを産んだからに はサポートを受けて普通に子育てをするのが当 然という誤解があるような気がしてならないの ですが、子どもが色々なように親も色々なので、
親へのサポートも一つではなくて、沢山選択肢が あればいいのかなとこの頃思います。しかも、さ らに加えて多くの精神疾患や性格は遺伝的要因
1
独立行政法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 児童・思春期精神保健研究部
がそれほど高くはないのですが、たとえば性格が 3 割、自閉症で 9 割くらいです。やはりそういう 意味でも環境だけでなくても遺伝と環境の双方 を切り離せないことがわかります。そういう意味 では、親もサポートを必要としているという観点 でお話させていただきたいと思います。
児童のメンタルヘルス全般の話をいたします。
ここにいらっしゃる先生方は第一線で臨床をな さ っ て お ら れ ま す が 、 子 ど も の 精 神 障 害 は ICD-10 や DSM に準拠すると約 20%の報告があり ます-この割合は昔からあまり変わっていませ んが、大人で発症する精神疾患はきわめて重篤な ものがあるのに対して、子どもに限定した障害は、
比較的一時的だと考えられてきました。しかし、
実際には子どもから大人への連続性というのは まだよくわかっていなかったというところです。
精神障害の中でも子どもに一番多いのは不安障 害です。その次に行為障害といって、親に反抗し たり、社会のルールをわかっていて反抗するとい うものがあります。非行だとか大人になった時の 反社会的パーソナリティの人は遡っていくと、子 どもの時からこういう行動があることがわかり、
注目されています。逆にこういう行動を示す子ど
もが大人になって皆、反社会的になるわけではな いというところが、治療に関わる者にとっては意 欲の湧くところではあります。次が ADHD (注意 欠陥多動性障害) 、自閉症です。私は発達障害、
とりわけ自閉症を専門としていますが、これも数 はどんどん増えてきて、最新の報告では有病率は 2.6%と非常に多いです。そして気分障害、うつ の他に少ないですけれど、双極性障害が入ってき ます。そして今、大人の精神医学の中でも、若い 人に対する関心がとても高まっています。統合失 調症に始まる 18 歳を超えて発症すると考えられ ていたものが、今はより低年齢に発症していると いうことがわかってきています。また、うつの増 加は社会問題になってきていますけれど、後ろ向 きに調べると実は大部分の人の初発は 14 歳以前 だったということがわかってきました。
このように大人の中心的な精神疾患・・・統合 失調症、うつとか不安障害や、社交不安・・・こ れはそのために外に出られないという重篤な障 害ですが、約半数が子どもの時期に始まっていま す。詳細はわからないのですが、その時から専門 家の支援を受けていれば予防はできるかもしれ ないのです。やはり発症から治療までの期間が短 いほど予後がいいと言われていますので、そうい う意味で注目されています。ただ、どんな形で連 続するのかどうかはわからないのです。それで、
近年は子どもの専門家だけではなく、成人の専門 家も、予防的観点から同じ方向を見るようになっ てきていると思います。
もうひとつ、日本でも世界でもトピックになっ ている発達障害と、メンタルヘルスが、別々の問 題ということではなくて、とても密接な関係があ るということを、今日の話の中心にしたいと思い ます。
発達障害に関しては、2002 年に文部科学省は
小中学校に、特別な支援を必要とする児童生徒が どれくらいいるのかを調べましたが、約 6%と報 告しました。それをもとにして今、全国でシステ ム作りに取り組んでいるところです。
一方、今度は臨床現場では、実際にクリニック 受診者で発達障害とか自閉症とか ADHD の数は 増えていて、どこもパンク状態です。もうひとつ 重要なのは、受診ケースでは、非常に高率に他の 精神障害の診断がつくことです。DSM による診 断名がクリニックの報告だとどうしても専門機 関に紹介されている対象であるというバイアス がありますが、報告は 100%合併があるというも のから過半数というものもあります。いずれにし ても、クリニックに来る発達障害の子どもという のは、発達障害のことで受診するのではなく、一 般的なうつや不安などを主訴としています。逆に 見方を変えると不安とか、うつとかで来ている人 の中で発達障害はどのくらいかというデータは 今のところまだありません。そして、精神症状に 発達障害があったとしたらその影響が非常に大 きいことがわかっています。
自閉症スペクトラムあるいは、 ADHD だけある 人、単独発症の人というのは研究が進んできてい て、成人になったらどうかという報告も最近では エビデンスがあるのですが、合併については色々 な組み合わせがあるので、まだよくわかっていな いのです。非常に適応が悪いということは多くの 人々が同意しているところです。大人になっても 自閉症有病率は変わりませんが、 ADHD は成人に なったら約半数は診断レベルで症状は残ります。
自閉症や ADHD の診断名がはずれてもある程度
症状は残ります。さらに合併があるともっと適応
が悪くなる。そして ADHD 或いは自閉症スペク
トラムの症状が軽くても合併があることでさら
に、適応が悪くなるということもわかっています。
児童期の頃に、ここにいらっしゃる先生方の所に 行くと、多面的な診断をされると思います。発達 の軸もそうですし、精神症状面とか行動面とかも そうだと思うのですが、そうすると、子どもは治 療によってよく反応する子どももいればずっと 続く人もいます。健康な大人になる人もいますけ れども、良くなったと思ってもまた再発する人も たくさんいます。例えば小児科受診年齢の範囲を 超えて青年、成人で再発してしまう場合というの もあるので、本当の意味での子どもから大人への 連続、続いているのかと言われればなかなか難し い。そういう計画で追跡のデザインをしなければ いけないのでフォローするのも非常に難しいで すね。ただ、子どもの特徴としては大人と比べて、
一般的には環境リスクに弱い、環境の影響を受け やすい。半面、最近レジリエンスという概念が注 目されているように、同じ逆境にあっても、遺伝 的特性の影響と環境との相互作用で可塑的にダ メージから回復する人の存在も知られています。
それなので、良くも悪くも環境は重要ですし、そ ういう意味では治療介入も最先端の遺伝的治療 でない限り、環境を調整していくという意味では このレジリエンスに働きかけていくとも言えま す。
もうひとつ子どもでわかっていることは、大人 の場合、うつ患者の治療研究では再発率とか回復 率だとか、あくまでもうつの範囲で治療効果を考 えますが、子どもの場合はうつの症状で初発した 子どもは大人になってうつになるとは限りませ ん。これは良く知られたことで、うつの長期予後 は多様なんですね。子どもの時はうつで、大人に なってから統合失調症になる人もいれば、不安障 害に移る人もいるし、双極性障害に移行する人も います。もちろん回復する人もいますけれども、
複数の障害が重なっていく場合も非常に多いの
です。また、その経過には環境の影響が非常に大 きく作用し、軽減したり持続したり増悪を繰り返 したりします。やはり子どもの間に何らかのスト レスが長時間かかると人格形成に影響を及ぼし たり、結婚して大人として自立が果たせても、子 育ての多様性とか個人差とかに反映される可能 性は大きいのです。ようやく最近子育ての多様化 が科学的に注目されてきていると思います。それ で、子どもの治療では長期予後を見立てることは 大切ですが、非常に難しいし、それを予測できる エビデンスも非常に少ない。そこで今わかってい ることを紹介したいと思います。
この図 1 は何かというのを説明しなければな らないのですが、連続不連続というのはわかりに くいのですけれど、連続の例としては子どもの時 の「○○」が将来大人になる、というパターンも ありますし、大人になった時にうつになるパター ンもありますし、子どもの時にこういう障害があ って不連続だと、意外な事に今までは子どもで反 抗的だった子どもは大人になっても反ソーシャ ルだろうと言われているかもしれませんが、うつ になる人も多いですね。
そしてさらに、パーソナリティ障害を合併する人
もいれば、物質依存とかアルコールとか薬物、こ
れはやはり病気というよりかは自分で選択して
いるように見えます。ある種、自己治療的な面が
あって慢性的な不安があったり、うつがある人は
特に自己治療的にこれらを選びやすいところも
あるのでちょっと多いですね。だから子どもの時
の症状をもちろん対処療法をして、治療可能なも
のはまずターゲットにすることが鉄則だと思う
のですが、対症治療をした症状がよくなったら終
わりではなくて、経過も色々なので長期的な見通
しを持てるまで、ある程度モニターしてチェック
していけたらいいなと思います。
不連続な例として有名なのは子どもの頃が ADHD で、やがて ADHD により怒られてばっか りだし何も達成感がない人の一部が反抗的に親 の言うことも聞かないし先生の言うことも聞か ない、社会的ルール違反をあえて起こすようなト ラブルの元になって反社会的行動をとるように なることがあります。こうした経過は一般的な経 過のように誤解されている面もありますが自然 な経過では決してありません。そして最近ある遺 伝的背景を持つサブタイプだろうということも わかってきています。そういう意味でもやはり最 初に家族構成員の特性を把握しておくことも大 事で、予後が良くないサブタイプは子どもの頃に ADHD に加えて行動の問題や自閉症状を持って いて、家族も同じような特性を持っていることが 多いのです。また、不連続の例として、完全に診 断カテゴリー自体が変わってしまうというのも あります。幼児期の頃は自閉症と診断されたけれ ど、自閉症の症状が消退して ADHD の症状が前 面に出てきたり、逆のパターンも報告されていま す。実際には経験しますけれど、判断が難しいと ころです。
また言語障害と自閉症に関しましても、同じよ うに子どもの頃は明らかに言語障害で、大人にな ったら言語が伸びて対人的な問題がなかなか克 服できず、自閉症が目立つようになったとか、子 どもの頃に自閉症スペクトラムだったけど要治 療を受けて対人関係ではずいぶん改善して、ただ、
言語の使い方の問題が残っているというケース がありますね。これらは ADHD でも、自閉症に しても言語障害にしてもそれぞれのプロトタイ プは独特の遺伝的背景を持っていて、それぞれが 症状の弱いものから濃いものまで連続していま す。年齢による変化を症状レベルで考えると、連 続的に捉えることができます。だから診断は難し
いですね。DSM-5 などでは自閉症に連続的な評 価も入れていこうということで、アスペルガー障 害などの細分類は取り払っていこうとしている 感じです。
今日のトピックで一番話をしたいのは、自閉症 は増えているといってもたかだか 1%~2‐3%で すけれども、もっと多い自閉症スペクトラムにつ いてです。自閉症スペクトラムには、自閉症的特 性が弱いものから強いものまで、身長が高い人か ら低い人がいるように分布しています。連続して いるのでカットオフ何点というふうに恣意的に 私たちが決めてもあまり意味はないですよね(図 2) 。なだらかに切れ目なく続いているので、平均 から比べて高い人たちのメンタルリスクについ て今日はお話します。はっきり自閉症スペクトラ ムと診断名がつく人はやるべきことがわかって いるのですが、診断閾下でややそういう傾向があ るという人の場合が難しいのです。診断がつかな いからよいのかというと実はそうではないので はないかと思っています。
図 3 は、一般の大人の精神病院で高機能の自閉 症スペクトラム(ASD・・・PDD と同義で使って います) 、高機能、知的に遅れのない人の受診者 が増えています。それで一般精神科医療も自閉症 スペクトラムの症例が今まであまりなかったの が、今ではとても注目しているところです。
本年度(平成 23 年度)から精神障害福祉手帳 の書式が変わって、今までの自閉症とか発達障害 の方、中核症状で来ている人も診断書が書けるよ うになったこともあって診断書を求めて来られ る方が増えたことをこのグラフは明示していま す。
これは、大人についての報告はあまりないので、
大規模な多施設のヨーロッパからの報告で、成人
の知能がノーマルな自閉症スペクトラム障害の
成人の中の精神医学的な問題の、かつ DSM の一 軸というと精神障害と(図 4) 、二軸はパーソナ リティ障害(図 5)の多い順番から並べたものを 図示したものです。やはり気分障害、不安障害、
OCD・・・。OCD というのは強迫性障害です。
順にチック、薬物依存ですね。そして精神病、妄 想など衝動を抑制できない障害とか摂食障害、身 体化障害と続きます。昔から摂食障害とアスペル ガー障害と合併する人は知られていて、身体化障 害という、病気はないというのに病気があると信 じている人もいたり、特に心療内科にいる共感で きないというタイプに高い割合のアスペルガー 障害の人がいるのではないかと思います。
次に、こういったパーソナリティの異常ですけ れど、一つのパーソナリティの異常がある人(図
5)は 62%で、2 つ持っている人は 35%,3 つ持
っている人は 15%とありますけれど、とにかく カウントすると、いっぱい合併を持っている人が いるということがわかるかと思います。社会不安 障害(Social Anxiety Disorder) 、日本では若干対 人恐怖に近い障害ですけれども、これについては 薬物も出ていますし、認知行動療法も開発されて いるので、今までは何となく軽い障害と思われて いたのですが、実は適応が難しいということで最 近注目されてきています。
こういうようなことが大人でわかっていて、子 どもではどうかについて、まだエビデンスが少な いので、私たちが地域で協力していただき、小学 校の通常学級にいる全児童を対象にした調査を 行いました。子どもたち全員にスクリーニングを して面接を行い、通常学級にいる子どもたちの中 に、どれだけ自閉症スペクトラムの診断がつく人 がいるのかということと、その子どもたちの合併 精神障害の割合を調べました。その結果(図 6)
ですが、協力学校は 3 校で、対象集団が 775 人く
らいです。そのうち完全にきちんと診断に合致す る人は 7 名、その 7 名について多面的に構造化面 接で診断すると 72%に DSM の何らかの診断が見 られます。合併障害がなくて自閉症スペクトラム だけの診断がつく子どもは 3 割弱で、何らかの合 併精神障害の診断がついた子どもは約半分以上、
2 つ以上ついた子どもも一部いるということです。
診断のカットオフというのは絶対ではないです ので、閾下もとっています。閾下というのは、診 断には満たないけれども一定の基準以上の症状 がある場合をさします。
ASD(自閉症スペクトラム)と ASD 閾下も含
めると、この子どもたちに 100%の併存がありま した。その中で最多は不安障害でした。この調査 の規模は小さいですが、自閉症スペクトラムがあ ると高率に合併精神障害をもっているというこ とが分かったのです。これは単年度だけの結果で すが、経過がとても大事です。
たまたま一時的に情緒的に不安でも、すみやか に回復すれば健康だと考えられるのですが、一年 経っても持続していたり、さらに重くなっている 場合、しかも未治療の場合は、子どもはストレス 下にいて何の支援もなく生活しているというこ とを意味します。今日はその追跡の結果をお見せ できないのですが、 ASD の多くの子どもは情緒や 行動の症状が持続する傾向があります。このこと はまた後でお話をしますが、 ASD のお子さんの中 で合併は ADHD が多いですし、恐怖症も多いで すね。例えば暗いところが怖いとか、恐怖の対象 が具体的で、犬や狭い所が怖いというのも子ども の特徴です。大人になっても犬が恐いままという ようなことは全然ないのです。不安障害に関して しても年齢に伴って不安の対象が広がっていく 場合があります。
これまでの話はあくまでも自閉症スペクトラ
ムと診断がついた臨床ケースのお子さんについ てですが、一番お話ししたいことは、特性を持っ た正常範囲の子どもについてです。
今度は全国の小中学校の児童生徒 42 都道府県 で行った調査で、2 万 5 千人分の保護者回答につ いてお話します(図 7) 。ここで用いた調査票は 今お話しした情緒や行動の症状を調べられ、しか も閾値を越えた臨床レベルだけでなく、正常範囲 の子どもの特性の程度もわかるような質問をし ています。ADHD、一般的な情緒、行動の問題、
不器用の問題、睡眠の問題について尋ねています。
これがその結果の図です(図 7) 。まず横の軸、
こ こ で あ げ た の は SRS (Social Responsiveness
Scale :対人応答性尺度)で自閉的特性を量的に調
べるものです。高いほど自閉症程度が強くなるの ですね。この黒と白 2 つの棒は全国の一般の標準 母集団の男女です。黒く塗りつぶされているのは 男子で、グレーが女子です。はっきりしたカット オフがないという点が重要と思います。赤の帯は 臨床レベルの人達を示しています。黄色の帯は自 閉症スペクトラムと診断がつかないけれども、症 状を軽~中度にもつ人達の分布です。
SRS をスクリーニングとして使うとしたら、
100 点くらい以上だと精度が高いと思います。一 般の学校とか地域とか、学校で一次的スクリーニ ングをやるとすれば、この 50 点から 55 点の間を 一つのカットオフとして薦めています。この得点 を超えたからといって、自閉症ではない人達、他 の疾患の人達、ノーマルな人も結構含まれますが、
次の段階でのスクリーニングで絞り込むと診断 のつく人は特定されます。なので、複数のカット オフを提案して、目的に応じた使用をすすめます。
高い方のカットオフ値以上の人は、大体 2.6%
くらいですが、低いカットオフ値以上、高いカッ トオフ値以下の人は 10%います。 1 割というとす
ごく多いと思いますが、その人達はかなり平均か らすると、逸脱した自閉的特性をもっています。
しかし、自閉症スペクトラム、アスペルガーの診 断はつかないという人達です。
先生方はご存知かもしれないのですが、CBCL
(Child Behavior Checklist:子どもの行動チェッ クリスト)は項目数が多いので、それを短くした、
SDQ(Strengths and Difficulties Questionnaire)と いう、日本でも標準化されていて割とよく使われ る質問紙があります。子どもの情緒の問題とか注 意や不注意の問題も含んでいるものです。図 7 は、
これを臨床レベルの範囲になる程度に得点が高 いケースは赤で示して、ボーダーラインを黄色、
ノーマルレンジを緑で示しています。これも、慣 例にならって上から 10%を臨床レンジにしてい るということですね。図 7 の右側の円グラフを見 ると、診断がつく自閉症スペクトラムで合併が多 いとさっき話しましたけれど、 ASD-probable 群と 呼んでいる 77%は SDQ でも臨床レンジに入って くるということがわかります。
次に、自閉症特性が全然弱いごくごく平均的な 子ども(ASD-unlikely 群)も情緒や行動の問題が 起きている方も当然いらっしゃるとは思うので す が 、 そ れ は 少 数 の 4 % で し た 。 そ し て 、
ASD-possible 群と呼んだ自閉症の特性も一定程
度で臨床レンジの情緒や行動の問題を持ってい る人は 3 分の 1 で、ボーダーラインの人も合わせ ると過半数の人に少しメンタルな支援がいるだ ろうということでした。
それで、同じデータですけれども、ちょっと見 方を変えて今度はクリニックの視点で見てみま す(図 8) 。SDQ 得点で 3 群に分けています(3 つの棒) 。そしてその中に自閉症的特性の強さ、
SRS 得点に応じて高いものから赤・黄・青色で示
しています。
この一番上の棒で示した群は、先生方のクリニ ックに来る人たちだと思うのですけれども、この 中で ASD と診断されるのは大体 21%で、44%の 人達は診断がつかない、少し対人関係が不器用と いう人だと思います。先程の中間に位置するよう な子どもたちになります。そして全く発達的な問 題を持たない人も 3 分の 1 いらっしゃいます。こ ういう子ども達の治療はピタッとはまると思う のですが、やはり自閉症的なコミュニケーション の問題の偏りがあるとなかなか通常の効果的な 治療がしっくりこなかったり、修正しないといけ ないことがあります。自閉的特性があると、良い 変化であっても変化に抵抗があり、慢性化し治療 が長期化することがあります。このように児童精 神科を受診する子どもの中で発達の偏りを持っ ている人は、ボーダーラインの人も含めると半数 以上いるということを念頭に置いていただくと、
生育歴で確認した上で治療的な環境調整のあり 方とか、認知の偏りに応じた治療法のアレンジを 必要に応じて工夫していただくと良いと思いま す。
継続的に見ているわけではないのですが、年齢 別に傾向をみると ASD-probable 群の子どもは、
どの年齢でも ASD-unlikely 群、 ASD-possible 群と 比べて、情緒や行動の問題が高率にみられます。
そして ASD-likely 群では、年齢が上がるにつれて、
臨 床 レ ベ ル の 子 ど も の 割 合 が 減 り ま す が 、 ASD-probable 群、 ASD-possible 群の子どもたちは それとは違って、発達に伴って減らないというこ とがわかりました。これについては英国の研究も 同様に ASD 児の合併障害の年齢による変化は独 特であると指摘しています。中学生は ASD の思 春期を越えてからの行為の問題についてイギリ スの児童精神科医が追跡研究を行い報告をして います。その人はスーラ・ヴォルフという女性で、
70 年代に情緒の問題とか、行動の問題とかで児 童精神科に来た女の子たちの中で ASD のごく軽 症群を「シゾイドな子ども」と定義してその子ど もたちの 20 年後を追跡しました。今で言えば
PDD-NOS に相当します。その女の子たちの予後
が悪かったのです。女性には発達障害が少ないと されていますが、軽い人たちは予後が悪かったの ですね。たとえば結婚して子どもを産んでいるの だけれども、育児ができなくて、里子に出す率が 高い、うつで精神科を受診する率が高い、虚言な どの反社会的な行動が多いなど社会的予後の悪 さに注意を喚起しました。
まとめとしては、発達の特性を診断の有無でみ るのではなく、自閉症的特性を量的にとらえる視 点が重要だということです。そして発達特性とし て自閉症的特性を持っている人は、どの年齢で起 こっても情緒の問題や行動の問題を併発する率 が高く、その有症率は、年齢によって変わらない 点、つまり自然回復しにくいことに注意する必要 があります。そのことは、早期介入の必要性と関 連すると思います。自閉症状の一つに変化を好ま ないというのがあります。変化が不安になってし まうわけですね。言葉で言える人は、 「薬を飲ん だら不安がなくなって楽になって色々な事がで きる。でも自分の中でそれが嬉しい半面怖い、だ から薬を飲んでいなかったのです」という人もい らっしゃいます。言語化できない知的な遅れがあ る人の施設で合併の症状、発症率を調べた研究で は、自閉症のない知的障害の人は、問題行動や精 神障害の発症率が高いのですが、回復率も高い。
自閉症のある知的障害の人は、発症率は変わらな
いのですが、回復率は非常に悪い。つまり慢性化
しやすいということで、そこは介入していかなけ
ればならないところだと思っています。
実際の支援、しかも息の永い支援を考えた時に は、あまりカットオフにこだわることも良くない、
むしろ閾下といった問題を含めて発達の連続性 の特性を見ていくことが有益ではないか、という ことです。そして、障害の中でも身体障害、感覚 障害と発達障害、知的障害はそれぞれ異なるもの ですけれども、実際は一人の子どもが全部持って いることがとても多いということがはっきりし ていますので、一人の子どもがどういう問題をも っているのか、という視点で見ることが必要だと 思います。地域の中で多くの職種が連携して支援 していく必要があると思います。そして子どもの 心の問題というのは、やはり何らかのモニターを していくというのが大事だと思います。長い人生 で色々な転機があって、そこで今までこんなにう まくいっていたのに、職場で配置転換があってう まくいかなかった、ちょっとそこに専門家の支援 があれば違ったのではないかなと思うこともあ ります。
駆け足でお話しましたけれども、ほぼ前半の話 が終わって、前半のところを、この研究会の問題 のテーマの、家族を育てるという見方で言えば、
リスクのあるメンタルな情緒の問題を持ってい る人というのは発達の問題や偏りをもっている 人が多い、とお話しました。私たちの調査では自 閉症スペクトラム障害と診断がつく人は、 2~3%
いるのですが、その人たちの大半は未診断なんで す。やはりまだ、顕著な障害じゃないと幼児期に 診断される人は少ないということです。
親御さんも何か気になるなと思ってはいるの だけれども、親の葛藤もあって、問題を認めたく ない、できたら後回しにしたい、言葉も進んだじ ゃないか、賢くなったんじゃないか、テストもで きるじゃないか、英語の塾でも上手くいっている じゃないか、となると判断を先伸ばしにしたいと
いう心理状態、これはどうしても避けられないこ とです。加えてさっきも話したことですが、多様 性は親についても言えることで、自閉症の場合、
多発家系となります。自閉症の子どもが一人いら っしゃると、その子どもの両親とか兄弟姉妹に診 断がつかなくても、自閉症的な特性、認知特性を 普通よりは高く持っている人がとても多いこと がわかっています。ただ、親にもその特性が強く、
環境的な柔軟性に欠けている場合だと子どもの 養育がむずかしいことがあります。そういう場合 は、やはり家庭の価値観を尊重しつつ、子どもに とって何が一番いいか、ということを話し合うと いうことはそんなに簡単じゃないですね。
両親の組み合わせを考えたらどっちかだけそ うだという人も両方そうである場合もあるでし ょう。こちらが良かれと思ってやっていることが 思いがけず拒否につながってしまうと、こちらと しても次の手が出せなくて意欲をくじかれてし まうかもしれません。また逆に罪の意識をもって しまう。あんなこと言ったからこういう経過にな ったのではないかとか、これも次の支援への動機 づけがくじかれます。ここはこれからの課題だと 思っています。専門家がどんなに素晴らしい物差 しだと勝手に思っても、家族に受け入れられなか ったり、家族に直に接する学校の先生方や保育士 さんが萎縮するようなものであってはいけない ので、そういう意味で診断ではなく特性という切 り口というものが希望がもてるのではないかと 思います。
最後にレジリエンスについて触れたいと思い
ます。最近、注目されていますように、立ち直り
とか、バウンド、跳ね返す力などと訳されていま
す。たとえばどんな激しい虐待を受けても、必ず
しもみなが PTSD やうつになるわけではないので
す。
マイケル・ラター(イギリス、児童精神科医)
の定義では、レジリエンスは個人の特性ではなく、
個人の遺伝的なものと、環境との interactive ・・・
相互作用で、ですね。レジリエンス尺度もあるの ですけれど個人としては、やはりそこは弱いかも しれないのですが、環境との組み合わせによって それが跳ね返されるものになるというそのプロ セスというのを知ることが大事であると彼はず っ と 言 っ て い て 、 こ の た び の 東 日 本 大 震 災
(H23.3.11)の場合も、それでも前向きになれる ようなそういうダイナミックなプロセスという ものを明らかにすることが大切と考えます。
例えば,こういうことがわかっています。
ある遺伝子を持っている人が皆、良くないかと いうとそうではなくて、そういう人がたまたまあ る悪い環境だった時に行動や精神機能に悪い影 響が現れる。逆の場合もあります。ある遺伝子を 持っていると、ネガティブな環境という研究もあ ります。まだ、予備的で追試されているというわ けではないですけれども、ストレスホルモンのコ ルチゾールホルモン受容体の遺伝子、児童虐待と の関係では、その遺伝子バリアントを持っている ことが悪いのではなくて、虐待経験がある人たち の中でもその遺伝子のバリアントを持っている 人は、成人になった時のうつ病発症が少ないとい うことです。具体的には、CR、HRI の TAT ハプ ロタイプのコピー数に注目するとその数は児童 虐待の程度と成人期うつ病の発症しやすさにそ の影響がありませんでした。同じ研究で別の調べ 方をするとコピー数が多い場合、厳しい虐待経験 からの保護作用が認められました。この環境で決 定的に悪いだけということはないし、この遺伝子 だと決定的に悪いだけということがないという のがレジリエンスです。興味深い事実と思います ね。環境の人の人格への影響を決定的だとみる立
場では、ジョン・ボウルビィ(John Bowlby) (イ ギリス 医師 精神分析家)の愛着理論があり、
幼児期がいかに大事だということが強調されま した。それは運命決定論的といえますが、そうで はなくプロセス的に変わってくると提唱したの がマイケル・ラター(Michael Rutter)なんです。
それと、今、ご紹介したように見方を変えて環 境要因と遺伝子の組み合わせによっては、ネガテ ィブな環境から保護する遺伝子もあれば逆にネ ガティブな影響がより強くでてしまう、というの もあります。これらの複雑な相互作用が背景にあ って人の行動が人格の多様性が生まれるんだろ うということを示唆しています。
最後に、こういう個人差を生む背景にはそうい った複雑なメカニズムがあるということが少し ずつわかってきていますが、私たちはそれを予言 することはできません。予防に関して今、私たち は目の前にある問題を後のばしにせず、ベストを 尽くして治療するべきでしょう。将来、成人後の 予測に基づいて子どもの時に最も効果的な対応 をするためには長期的な追跡研究、コホート研究 が必要です。今私たちに出来ることは継続的にみ ることが大事なのではないかと思います。いった ん回復したようでも年に一回のチェックでも大 事なのかと思います。臨床では、主訴がどうであ ってもいろんな可能性を考えて、多面的な情報を 集めて、常に多面的な評価や診断が重要でしょう。
ある診断に特定の診断法は原則的にはあります
が、原則から外れるケースが沢山ありまして、そ
れは先生方の個々のケースの臨床的判断として
経験値にはあっても、それは教科書に書いてはい
ない。そこに関わる人たちが経験値を共有して個
別の子どもに合った治療を明らかにできたらい
いなということを考えています。
図 1 図 2 児童期から成人期への連続・不連続
成人期 不安障害 連続的
児童期
行為障害 妄想性人格障害
成人期 不安障害
物質依存 児童期
不安障害
不連続的 成人期
気分障害 成人期 気分障害 不連続的
対症療法だけでなく、個々の子どものケースについて 長期的な見通しを持ち、治療に活かせる
地域の子ども集団:いろいろな程度に自閉的特性を持つ
重度 (ASDが疑われる)
2.5%の子どもが相当。
軽・中等度 以上も含めると 約
10%の子どもが相当
SRS(Social Responsiveness Scale)(神尾, 2009) 対人応答性尺度 日本語版65項目4件法により自閉症的行動特徴の程度を定量的に測定
通常学級に在籍する小中学生を対象とした全国調査
(H20-22厚生労働科学研究)からわかったこと:自閉症的特性は、なめらかに途切れることなく分布する。
カットオフで区分するのは難しい
図 3 図 4
高機能PDD患者の主訴と目的
0 5 10 15 20 25 30 35
平成11年 度
平成 12年
度 平成13年
度 平成14年
度 平成1
5年度 平成16年
度 平成17年
度 平成18年
度 平成
19年 度
平成20年 度
年度 患者数(人)
二次障害,合併精神症状 中核症状 治療目的 診断,手帳目的
高機能自閉症スペクトラム障害初診患者数の 年次推移(主訴別)
大阪府立精神医療センター
(神尾と井口, 2009)
(%) (n=122; autistic disorder 5, AS 67, PDD-NOS 50)
DSM-IV Axis I
(Hofvander et al., 2009)
図 5 図 6
(%) (n=117)
Axis II Personality disorders
地域ベースの研究結果 (神尾ら, 2010)
28%
58%
14%
地域サンプル中、ASD児(n=7)が同定され、その72%
になんらかの、DSMの精神障害の併存が認められた。
DSM診断のカットオフを閾下まで広げると、ASD児の100%
に併存障害があった。
なかでも不安障害は 最多であった。
疫学的アプローチでASD児の合併精神
障害の頻度を明らかにしたわが国で最初の
研究である。不安障害からADHD・反抗
挑戦性障害の合併までの情緒と行動の双方
にわたる多様なメンタルニーズを有するこ
とがわかった。
図 7 図 8
通常学級に在籍の 自閉症的特性の高い 子どもは情緒・行動 の問題併発リスクが 自閉症的特性のない 子どもと比べて高い ことに留意する必要 がある。
normal range borderline range clinical range
10 13
77 ASD-probable
(n=607)
44
23 33
ASD-possible (n=3061)
90 7 4 ASD-unlikely
(n=21407) 子どもの情緒・行動の問題
(森脇ら, 2011)
93 64 35
7 32 44
0 4 21
0% 20% 40% 60% 80% 100%
normal range borderline range clinical range