対人的な不安の生起する自他関係に関する考察
著者 角尾 美奈
雑誌名 東京家政大学附属臨床相談センター紀要
巻 3
ページ 69‑76
発行年 2003
出版者 東京家政大学附属臨床相談センター
URL http://id.nii.ac.jp/1653/00010017/
対人的な不安の生起する自他関係に関する考察
角尾 美奈
AStudy of Self−Other Relations in Which Interpersonal Anxiety is Experienced
Mina TSUNOO
要約
本稿は、対人的な不安の生起に関わる要因について、自己と他者の関係性に注目し考察することを目的とする。
まず、対人的な不安に関する2つの概念一対人状況において不安を感じやすい個人傾向としての「対人恐怖症」、
「対人恐怖的心性」と、対人状況において一般的に経験される不安としての「対人不安」一について述べた。次に、
先行研究をそのアプローチの方法から、個人の内的状態や傾向、状況・他者、自他関係の3っに分類して検討し、
対人的な不安の生起に関わる自他関係の要因として、「関係の拘束力」および「課題の共有」を仮説的な概念とし て提出した。
キー一ワード:対人的な不安、自他関係、関係の拘束力、課題の共有
はじめに
本稿は、対人的な不安の生起に関わる要因にっ いて、自己と他者の関係性に焦点を当て検討する ものである。そこでまず、対人的な不安に関する 2っの概念について紹介する。次に、先行研究を そのアプローチの方法から3っに分類し検討しな がら、本稿の考察を述べることにする。
対人恐怖症および対人恐怖的心性と対人不安 対人的な不安にっいては、大きく分けて2つの 概念があるといえる。1っは、対人状況において 不安を感じやすい個人傾向である。これは、「対 人恐怖症」、「対人恐怖的心性」、「対人不安傾向」、
「対人不安意識」などと呼ばれている。もう1つ は、対人状況において一般的に多くの人々が経験 する状況反応としての不安である。これは、「対 人不安」と呼ばれている。
心理教育学科 心理教育学科資料室
まず、対人恐怖症であるが、これは「他者と居 合わせる場所で、不当に強い不安と精神的緊張が 生じ、そのため他人に軽蔑されるのではないか、
他人に不快な感じを与えるのではないか、嫌がら れるのではないかと案じ、対人関係からできるだ け身を引こうとする神経症の一型(鍋田)」Dであ る。対人恐怖症の研究と治療は、森田療法の創始 者である森田正馬を初めとする森田学派を中心に 発展し、戦後1960年代から1970年代にかけて、比 較精神医学的観点から代表的な日本的神経症類型 として関心が高まり、精神病理と治療にっいての 研究が発表され、理解が深められた2)。対人恐怖 症は日本だけに見られる病理ではないが、日本に おける発症率が諸外国に比べ高いことが指摘され ており3)、日本に特徴的な症状として文化的観点 からの検討も多くなされている。小川4)は、「日 本人は大袈裟に言えば誰でも対人恐怖的心性を持っ ており、日本人の対人関係の持ち方のある側面が 対人恐怖症者には拡大・増幅されているので、対
角尾 美奈
人恐怖症者を通して日本人の対人意識の本質に迫 れるのではないか」と述べている。小川・林・永 井・白石5)の調査では、日本人学生の対人恐怖的 悩みは、アメリカ人学生と対人恐怖症者のほぼ中 間の高さであることが明らかにされている。また、
笠原6)は、対人恐怖症を症状の程度によって4っ に分類しているが、その第1段階を平均者の青春 期という発達段階において一時的にみられるもの とみなしており、青年期においては、病態に至ら なくとも対人恐怖的な傾向を持っことが多いと指 摘している。このような知見を背景に、一般の人々 にも見られる対人恐怖的な傾向は、対人恐怖的心 性、対人不安傾向、対人不安意識などのように概 念化され、今日では臨床場面はもとより、社会、
認知、人格、発達など様々な視点から広く研究が 進められるようになっている。なお、本稿では対 人恐怖的心性の用語を用いる。
また近年では、青年期の対人不安意識にっいて 1981年と1994年とでの比較の結果、対人不安意識 の低下が明らかにされており、日本人に見られる 対人恐怖的な傾向が時代とともに変化していると
の報告もある7)。
一方、対人状況において多くの人々が経験する 状況反応である対人不安については、「他者から の詮索や注目、あるいは単なる他者の存在によっ て引き起こされる動揺や混乱(Buss)」8)、「現実 の、あるいは想像上の対人場面において、他者か らの評価に直面したり、もしくはそれを予測した りすることから生じる不安状態(Leary)」9)、
「対人的場面に遭遇したり、あるいはそれを予測 したりすることによって起こる個人の不安反応
(松尾・新井)」10)などの定義が提出されている。
大勢を前にしてスピーチを行う場面や、人前で自 己紹介をする場面などが、対人不安の高まる状況 の例としてよく挙げられる。
本稿では以上のように、個人傾向としての対人 恐怖症および対人恐怖的傾向と、状況反応として の対人不安というように、2つの概念に区別して 紹介した。しかし、個人傾向と状況反応の両方を 含めて対人不安とされたり、個人傾向を指して対 人不安とされることもあり、用語の使用にっいて は必ずしも統一されてこなかった状況がある。こ れに対し、菅原11)は、特定の対人場面における情 緒的反応あるいは状態を対人不安とし、個人特性 を対人不安傾向とするとして区別を行っている。
松尾・新井12)も、対人不安を個人の不安反応とし、
対人的場面における不安の感じやすさの個人特性 を意味する場合は対人不安傾向の用語を使用する としており、研究間で用語を統一する試みが進め られてきているといえるだろう。本稿では、個人 傾向と状況反応の両方を包括して、「対人的な不 安」と呼ぶことにする。
対人的な不安についての3つのアブo一チ それでは次に、対人的な不安に関する先行研究 を整理しながら、本稿の仮説について述べてみた い。これまでに蓄積されてきた知見を明確にいく っかのタイプに分類することはできないが、対人 的な不安にっいてどのような検討がなされてきた のかを理解するために、そのアプローチの方法か ら大きく3っに分けて捉えてみたい。まず1っめ は、対人的な不安と、個人の内的状態や傾向すな わちパーソナリティ特性、認知傾向、行動的特徴 などとの関連にっいて検討したものである。2っ めは、対人的な不安が喚起されやすい状況や他者 の特徴にっいて検討したものである。最後に3っ めは、対人的な不安が喚起されやすい自他の関係 にっいて検討したものである。本稿の関心は3っ めの自他関係にあるため、1および2のアプロー チにっいては簡単に述べ、3のアプローチに重心
を置いて論を進めていく。
個人の内的状態や傾向
対人的な不安について、おそらく最もよく研究 者の関心を集め研究がなされているのは、個人の 内的状態や傾向すなわちパーソナリティ特性、認 知傾向、行動的特徴などとの関連であろう。中で も、対人場面で自己を意識することが、不安の生 起と強く関わる要因として注目を集めてきた。こ れは、既述のBussやLearyによる対人不安の定 義にも含まれる要因である。Buss13)が、社会的 対象としての自己を意識することである公的自己 意識の高まりが対人不安を高めるということを その著作で論じたことが、対人的な不安に関心を 集める契機となったといえるだろう。公的自己意 識にっいては更に検討が進められ、公的自己意識 の高さに対人的自己効力感の低さという条件が重 なったときに、最も対人不安傾向が高くなること が明らかにされている14)。
また、近年の対人的な不安についての多くの研 究に影響を与え、基本的な理論の1つとされてい るものに、Schlenker&Leary15)の自己呈示理 論(Self−Presentaion Theory)がある。このモデ ルは、「特定の印象を呈示しようとする動機づけ」
と「自己呈示に成功するかどうかの主観的確率」
の関数として不安の強さを表す。すなわち、自己 呈示の動機づけが高まっているがそれに成功する 確率が低いほど、対人的な不安が高まると予想さ れる。佐々木・菅原・丹野16)は、自己呈示理論を 発展させ、自己呈示欲求が高くなる場合として、
他者からの肯定的な評価を得ようとする欲求であ る賞賛獲得欲求と、他者からの否定的な評価を避 けようとする欲求である拒否回避欲求を取り上げ、
対人不安傾向と賞賛獲得欲求とは負の相関、拒否 回避欲求とは正の相関にあることを明らかにし、
更に、拒否回避欲求が高く賞賛獲得欲求が低い場 合に有意に対人不安傾向が高いことを明らかにし
た。
他にも様々な個人特徴との関連が検討されてい るが、中でも特にネガティヴな側面との関連が明 らかにされている。例えば、自己評価の低さと対 人恐怖症が関連するという臨床的知見の実証を試 みた岡田・永井17)は、対人恐怖的心性が年代と共 に上昇すること、中学生と大学生では自己評価と 対人恐怖的心性に負の相関が見られることを明ら かにした。また、自己像に着目した木村18)は、対 人恐怖的心性の高い者は、他者から見た自分の姿 を比較的肯定的に捉えているのに対して、現実の 自己像が理想像に比べ不完全であるという意識の 葛藤を持っことを示唆している。
状況・他者
次に、対人的な不安が喚起されやすい状況や他 者の特徴にっいて検討するアプローチがある。古 くからよく知られる知見に、笠原19)による対人恐 怖の症状が生じる場面と、Buss20)による対人不 安の起こりやすい場面および起こりにくい場面に ついての記述がある。丹野・坂本21)を参考にこれ らを整理したものをTable 1に示す。 Table 1か らは、両者の見解がかなり異なることがわかる。
そこで、角尾・坂本22)、坂本・角尾23)は、これら の中で集団の大きさを取り上げ、投影法的手法を 用いて検討を行った。具体的には、自己を投影す る対象である赤い魚と共在する他者である青い魚 がいくっかのパタンで泳ぐアニメーション刺激を 提示し、これに対する反応を分析した。この結果、
2人集団ならびに3人集団に比べ11人集団でより 不安が高いことが示され、Bussを支持する結果
となった。
また、状況の曖昧さとの関連も多く指摘されて
角尾 美奈
Table 1
対人的な不安の生じやすい状況や他者の特徴
笠 原 Buss
特 徴 対人恐怖の生じる場面 対人不安の起こりやすい場面 対人不安の起こりにくい場面
集団の大きさ 3 人 大勢 2 人
注意の量 壇 上 ギヴ・アンド・テイク
人物の熟知度 少し知っている 新 奇 熟知・親密
公 式 性 インフオーマル フォーマル インフオーマル
評価の程度 評価的 中立的
いる。Dibner24)は、インタヴュー場面にっいて、
被験者が自由に話す条件(曖昧条件)とインタビュ アーが質問する条件(構造化条件)とで様々な指 標により不安の程度を比較し、状況の構造化と不 安とが部分的に負の関係にあることを明らかにし た。同様に、Pilkonis25)は、シャイネスが行動に 与える影響について、異性との相互作用(非組織 的状況)とスピーチ(組織的状況)とを比較し、
スピーチ場面の方が相互作用場面よりもシャイ傾 向の高い人と低い人の行動面での差異が小さいこ
とを明らかにしている。
また、対人的な不安が経験されやすい他者の特 徴にっいて、伊藤26)が、対人恐怖的経験において、
恐怖・不安を感じさせる他者の自己に対する関係 を見積もること、すなわち他者認知をどのように 行っているのかを分析する視点が必要であるとし、
対人恐怖的他者認知尺度を作成した。この尺度で は、恐怖や不安を感じさせる他者の特徴にっいて、
「強圧介入」、「理解不能」、「感情爆発」、「拒否態 度」、「劣等看破」の5因子が抽出された。
自他の関係
最後に、本稿の関心の中心である自他関係にっ いてである。対人恐怖症、対人恐怖的心性、対人 不安は、その名の示す通り、ほかならぬ他者の存 在というものが不安を生起させる前提となってい
る。そして、自己と他者との関係の重要性が、臨 床的知見において多く指摘されている。「対人恐 怖症とは、いわば、対人関係の在り方が端的に症 状の中核となっている神経症であり、症者は対人 状況において他者との関係に悩むのである」とい う田中・小川27)の記述は、対人関係そのものを問 題とする必要性を示唆している。内沼28)による
「対人恐怖は単なる人間恐怖ではなく対人恐怖で あるという意味において、対人関係自体の問題が 症状の中核になっている」という指摘も、同様の 内容を意味していると言えるであろう。
これに関連して、臨床的観察からの興味深い指 摘がある。内沼29)によると、「対人恐怖は人前な らばいっでも同じように生じるのではなく、特有 の構造を持った対人関係で初めて症状が起こる」、
すなわち発生場面に限局性があることが指摘され ているのである。更に、「対人恐怖症状を起こし やすい場とは、自分の家族、親戚、親しい友人な どの親密な間柄と全然見知らぬ人たちとの中間に 位する人たち、たとえば自分の学校、会社、近所 の人たちなどと接する状況である」とし、「患者 が苦手とするこのような人たちや状況を、以下便 宜上、『中間群の人たち』あるいは『中間状況』と 呼ぶことにしよう」と述べている。このような対 人恐怖症が発生する関係としての「中間的関係」
の考察は村瀬30)においても見られ、「他者を怖れ
るといっても、家族や親しい友人のように、ごく 身近な熟知している人や、その反対に全く見知ら ぬ他所の人、道で出会う人などは概して問題にな らず、それら両極の中間の、半ば知り合いといっ た程度の関係が一番の苦手」と指摘している。特 に笠原31)は、対人恐怖を訴える青年が症状の生じ る間柄を表現した言葉から、中間的な関係に「半 知り」という名称を与えている。既述のように、
欧米においては新奇な相手に対して対人不安が高 まるという指摘があるが、それに対し本邦の臨床 家たちの多くは、「中間的関係」あるいは「半知 り」を不安の高まる自他関係として指摘している。
さて、我々の日常生活を振り返るに、親しくは ないが無関係でもない人たちとの関わりで不安や 緊張を感じるということは、誰しも身に覚えのあ る現象として非常に理解しやすい指摘であると思 われる。しかしながら、ここで不明な点が1っあ る。それは、「中間的」あるいは「半知り」の関 係とは、一体どのような性質のものであるかとい う問いである。「中間的」というからには、ある 基準に基づいた上で関係を分類するものであろう が、ここで分類の基準は示されておらず、従って
「中間的関係」が何を意味するのかは明らかでな い。関係の分類において基準とされているのが、
仮に自他の親密さの程度や知識量という軸である とするならば、軸上のどの時点で関係が変容する のかということが検討すべき点となってくるだろ う。「中間状況といっても、現実にはその人によっ て異なり、状況次第によっても流動的である。人 によっては、あまり親密でなければ、親戚との対 面でさえ中間状況となる。親友でも、しばらくぶ りに会うと『日々にうとし』で、同じく中間状況 と化す。また見知らぬ他人でも、…(中略)…相手 は親密と疎遠の中間に位置する人となる。電車の なかで見知らぬ老人に席をゆずっただけでも、そ
の老人はもはや見知らぬ人ではない。そればかり か、その周辺の乗客も心理的には相互に見知った 人たちと化し、その状況はただちに中間状況へと 変貌する。逆にまた、自分の家族であっても家庭 の外で出会ったとき、その状況次第では、中間状 況となりうる。私たちが友人と街を歩いていて、
たまたま自分の家族に出会ったとき、多かれ少な かれ間のわるい思いにおそわれるものである」と いう指摘にも32)、関係を捉える基準の曖昧さが表 れているといえるだろう。
対人的な不安の生起する自他関係の条件
それでは、対人的な不安の喚起される自他関係 の条件とは何であるだろうか。この問題を考える には、例えば「友達」、「先輩」、「目上の人」など のような記述レベルでの検討ではなく、関係を構 成する変数についての検討を行う必要があると考 えられる。なぜなら、「友達」、「先輩」、「目上の 人」などのように記述的に表される関係の内容は 様々であり、どのような性質の結びっきを持って いるかが明らかでないと考えられるからである。
自他の関係は、その関わりに完結するものでは なく、何らかの集団の一部として存在するもので あるだろう。従って、ある人が当該の集団に所属 し続けることを望む、あるいは何らかの理由によ りその必要性がある場合、程度に差があれ相手と の関わり合いは避けられないだろう。自己呈示理 論では、不安を高める条件の1っに自己呈示欲求 が高まることを挙げているが、自己の姿をこう見 られたいという欲求が高まるのはそもそもどのよ うな関係においてであるのかということを考える と、両者の関わりがその場限りのものではなく、
これから先も続いていくと予測されているという 推測が導き出される。このように、自他の関係が ある程度将来的に継続していく、あるいは継続せ
角尾 美奈
ざるを得ないという自己の認知を、本稿では仮説 的に「関係の拘束力」として概念化したい。
更に、もうひとっの条件が、不安の生起する状 況で頻繁に見られる行動的な特徴から考察される。
Buss33)は、対人不安の原因の1っとして、どう 反応すべきかということに関する曖昧さを挙げて いる。同様に菅原34)も、対人不安の類型論におい て、「他者と場を共有し人間関係は成立している が、その中で具体的にどう行動すればよいかわか らずとまどっている場面」で不安が生起すること を指摘している。これらの知見から、振る舞い方 の不明確さが不安の生起と関係していると考えら れる。相手について、性格、考え方、好き嫌い、
その人の持っ人間関係といった知識が少ないこと は、相手に対してどのような態度をとればいいか をわからなくさせるだろう。「自己に対する役割 期待が部分的にしか解らなかったり、完全に不明 であったり、また『知り得ざるもの』であったな らば、その個人はびくびくとかっ不確かに動かな ければならない(Sarbin)」35)のである。ここで、
相互に知り合うのに必要な条件は何かということ について、本稿では「何かを一緒に行う経験」を 取り上げたい。ただしそれは、ただ同じことを一 緒にすれば知り合うに十分ということではない。
何らかの課題について協力し合う過程の中で、相 手に対する自己の立場や相手が自己に何を要求し ているのかといったことを手がかりにしてそれに 応じた行動を取るというように、相互に行動を調 整し合う必要性のある課題であると考える。この ような考えに基づき、本稿では、「課題の共有」
を仮説的な概念として提出したい。振る舞い方の 不明確さは、対人的なスキル不足などの個人要因 のみならず、相手との関係の構造にもその要因が あると考えられるのである。以上の議論を踏まえ ると、「関係の拘束力」が高く「課題の共有」の
経験が少ない他者との関わりにおいて不安が高ま るという仮説が成り立っ。今後、実証的な検討を 行いたい。
以上のように考えると、対人的な不安は決して 特別なものではなく、誰もが経験する可能性のあ る情動であるという考えに至る。他者は自分とは 異なる考え方や行動をとる可能性があり、その心 の中を全て知ることは不可能である以上、他者が 存在する場合に自分1人でいる場合とは異なる情 動が生じることは当然であると思われる。そのよ うな他者の中で親しい存在が生まれてくることが、
むしろ特別なことであるように思われる。既述の
「中間的関係」や「半知り」の例をとれば、多く の人にとって親しい人とみなせる存在はそう多く はなく、日々関わり合う他者のほとんどは、「知 り合いだが親しくもない」人たちなのではないだ ろうか。そして、個人内において相対的に、親し い人に比べ一緒にいると不安や緊張を感じる相手 なのではないかと考えられる。
我々は現実の生活の中で、実在する対象である 他者と接している。個人の内的状態や傾向、状況 や他者の特徴だけではなく、自他の関係の特徴に っいて注目することは、対人的に経験される情動 にっいて検討する上で有益なアプローチであると 思われる。本稿は、先行研究をもとに、対人的な 不安に関わる要因について仮説的に考察した。勿 論、自他関係は固定されたものではなく、様々な 要因により変容するものであるだろう。また、そ の変容の中で、不安を生じる条件もまた異なると 考えられる。今後、本稿で提出した仮説的概念に っいての実証的検討とともに、自他関係の様々な 側面と不安との関連についての検討が必要となる であろう。
文 献
1)鍋田恭孝 1986 日本的対人関係の病理 悩める 心の深層 馬場謙一(編) 日本人の深層分析7 有斐閣
2)飯田 真(編) 1981 対人恐怖一人づきあいが苦 手なあなたに一 有斐閣選書
3)笠原 嘉 1972 正視恐怖・体臭恐怖一主として 精神分裂病との境界例について一 医学書院
4)小川捷之 1978 対人恐怖 現代のエスプリ
127至文堂
5)小川捷之・林 洋一・永井 徹・白石秀人 1979 対人恐怖症者に認められる対人不安意識に関する 研究(1)一比較文化的視点から一 横浜国立大学 教育紀要,19,205−220.
6)前掲書 3)
7)田中康裕・穂刈千穂・福田周・小川捷之 1994 青年期における対人不安意識の特性と構造の時代 的推移 心理臨床学研究,12,121−131.
8)Buss, A. H. 1980 Self−consciousness and social anxiety, San Francisco:Freeman.
9)リアリィ,M. R.生和秀敏(訳) 1990 対人不安 北大路書房(Leary, M. R.1983 Understanding social anxiety:Social, personality, and, clinical perspectives. California:Sage Publications.)
10)松尾直博・新井邦二郎 1998 児童の対人不安傾 向と公的自己意識対人的自己効力感との関連 教育心理学研究,46,21−30.
11)菅原健介 1992 対人不安の類型に関する研究 社会心理学研究,7,19−28.
12)前掲書10)
13)前掲書8)
14)前掲書10)
15) Schlenker, B. R.&Leary, M, R. 1982 Social anxiety and self−presentation:Aconceptualiza−
tion and mode1. Psychological Bullen,92,641−
669.
16)佐々木淳・菅原健介・丹野義彦 2001対人不安 における自己呈示欲求にっいて一賞賛獲得欲求と 拒否回避欲求との比較から一 性格心理学研究,
9, 142−143.
17)岡田 努・永井 徹 1990 青年期の自己評価と 対人恐怖的心性との関連 心理学研究,60,386−
389.
18)木村法子 1983青年期における対人恐怖的心性 にっいて一自己像との関連から一 心理臨床学研 究,1,7−17.
19)笠原 嘉1977青年期精神病理から 中公新書 20)前掲書8)
21)丹野義彦・坂本真士 2001 自分のこころからよ む臨床心理学入門 東京大学出版会
22)角尾美奈・坂本正浩 2002 特性相互作用不安と 曖昧な対人場面の認知との関連(1)一共在他者数 および自他の行動パタンにっいての検討一 日本 心理学会第66回大会発表論文集,137.
23)坂本正浩・角尾美奈 2002 特性相互作用不安と 曖昧な対人場面の認知との関連(2)一共在他者数・
自他の行動パタンおよび系列位置の効果一 日本 社会心理学会第43回大会発表論文集,568.
24)Dibner, A. S. 1958 Ambiguity and anxiety.
Journal of Abnormal and Social Psycholigy,
56,165−174.
25)Pilkorlis, P. A. 1977 The behavioral conse−
quences of shyness. Journal of Personality,45,
598−611.
26)伊藤直樹 1997 対人恐怖的他者認知尺度作成の 試み 心理臨床学研究,15,309−316.
27)田中裕之・小川捷之 1992 対人恐怖症論一その 文献的考察一 上智大学心理学年報,16,7−18.
28)内沼幸雄 1977対人恐怖の人間学一恥・罪・善 悪の彼岸一 弘文堂
29)前掲書28)
30)村瀬孝雄 1983 青年の心理と対人恐怖 青年心 理 特集対人恐怖一他人の眼一 41
31)笠原 嘉 1977青年期一精神病理から一 中公 新書
32)前掲書28)
33)前掲書8)
34)前掲書11)
35)サービン,T. H.土方文一郎(訳) 1956 役割 (ロール)の理論社会心理学講座1基礎理論(3)
みすず書房(Sarbin, T, H.1954 Role theory.
In Lindzey (Ed.), The handbook of social psychology.)
角尾 美奈
Abstract
The purpose of this study was to discuss the factors related to interpersonal anxiety,
f。,ussing。n self−。ther rel・ti・n・. Fi・・t, tw…ncept・whi・h reg・・d t・interper・・n・l anxi・ty−1)
・・≠獅狽?窒盾垂盾垂?盾b奄=C・and anthropophobic tendency ;the tendency to experience anxiety in social situations and 2) social anxiety ;the anxiety experienced generally in social situations−were discussed. Second,3approaches to interpersonal anxiety were discussed. Finally, the concepts of restrictions to self−other relations and task sharing were introduced as self−other relation factors which relate to interpersonal anxiety.
Key words:interpersonal anxiety, self−other relations, restrictions to self−other relations,
task sharing