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(生体医用光学ブレークスルー技術)

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(1)

2004FY−013−1

生体医用光学研究の現状と将来展望Ⅱ

(生体医用光学ブレークスルー技術)

2 0 0 5 ( 平 成 1 7 ) 年3 月

財団

法人

光産業技術振興協会

(2)
(3)

序 文

(財)光産業技術振興協会では,1996年度より光エレクトロニクスの分野におけるブレークスルーを目指し

て,大学における先端的基礎研究の現状と産業界の研究開発の現状とを紹介しあい,それを出発点として,

共通の議論の場を作り上げて今後の展開と進むべき方向の道筋を探るために「光エレクトロニクスのブレー クスルー技術フォーラム」を企画運営してきた。これまでに相互量子制御による極限光エレクトロニクスや 有機非線形光学による光波マニピュレーションに関連したテーマでのフォーラムを開催してきた。また,こ

れに続いて,新しい潮流として世界的にも注目を集めているフォトニックバンド結晶について,1998年度よ

りフォーラムのテーマとして取り上げ,大学や国立研究機関が中心の理論的,実験的研究をさらに進めて産 業に発展させて行くという観点から運営してきた。昨年度は,これに加え,光技術の医療応用が国内の個別 の大学あるいは研究機関での基礎研究が進められているにもかかわらず,産業化への展開あるいは産業界で

の保有技術が有効に利活用されていないのではないかとの認識に基づき,「生体医用光学」について交流の場

を設けることを目的として「生体医用光学ブレークスルー技術委員会」を設置した。このような活動を通し て,産・学・官の議論の中から,光でなければ実現できない将来のターゲットを探索し,核となる基礎技術 とその応用のギャップを埋めてゆく道筋,研究戦略が示されることを期待している。

今年度の委員会活動としては,光技術を医療分野に利活用すべく基礎研究に取り組んでいる医学界,光学 界の研究者と光デバイス・機器等の開発に関係している企業研究者との交流,意見交換の場を提供すべく心 がけた。また,今年度は,生体や医療に関する光計測技術が食品や農作物の品質管理における計測技術とも 共通する部分があり,かつまたLEDが植物工場の光源として用いられていること等から,調査を食と農の分

野にも拡大し,2回のフォーラムを計画,実施した。1回は,「生体医用光学-躍進する光-」と題してフォ

ーラムを,2回目は,日本光学会,近赤外研究会との共同主催で「光と食・農」講演会を開催した。

本報告書は,上記2回のフォーラムでの重要なテーマを中心に「医療・生体観察」「光と食」「光と農」の

各分野について,基礎から応用まで一貫性を重視した記述をお願いし,医学・バイオ・光学界での光関係研 究に係わる研究者と共に,現在の光通信・光センシング等のデバイス・システム研究者,開発者にとっても お役に立てるのではないかと期待している。

最後に報告書作成にあたって,ご執筆頂いた各機関の方々や貴重なご意見をいただいた企業等の皆様に深 く感謝すると共に,本報告書が我が国の光エレクトロニクス全体の発展に向けての一助となれば幸いと考え ている。

2005(平成17)年3月 財団法人 光産業技術振興協会 会長 金杉 明信

(4)

平成 16 年度 生体医用光学ブレークスルー技術委員会名簿

(敬称略,順不同)

委 員 伊 藤 雅 英 筑波大学大学院 数理物質科学研究科 助教授 委 員 岩 井 俊 昭 北海道大学 電子科学研究所 助教授

付属ナノテクノロジー研究センター ナノ材料研究分野 委 員 田 村 守 北海道大学 電子科学研究所 超分子分光研究分野 教授 委 員 津 村 徳 道 千葉大学 工学部 情報画像工学科 助教授

委 員 藤田 克昌 大阪大学大学院 工学研究科 応用物理学専攻 助手

事 務 局 田口 剣申 財団法人 光産業技術振興協会 開発部 主幹 (主担当)

事 務 局 北 山 賢 一 財団法人 光産業技術振興協会 開発部 主査 (副担当)

(5)

委員以外の執筆者名簿(役職・敬称略,順不同)

菊地 和也 東京大学大学院 薬学系研究科 助教授 薬品代謝化学教室

松田 武久 九州大学大学院 医学系研究科 医用工学分野 教授 島田 順一 京都府立医科大学 呼吸器外科

橋本 守 大阪大学大学院 基礎工学研究科 助教授

岡本 隆之 独立行政法人 理化学研究所 河田ナノフォトニクス研究室 先任研究員

秋元 浩一 名古屋学院大学大学院 経済経営研究科・商学部 教授

魚住 純 北海学園大学 工学部 電子情報工学科 教授

石田 信昭 独立行政法人 食品総合研究所 分析科学部 品質情報解析研究室長 藤井 正司 東芝 IT コントロールシステム株式会社 CAT 事業部 技術部長 前田 弘 株式会社果実非破壊品質研究所 代表取締役社長

森本 進 株式会社クボタ 久宝寺事業センター 制御システム部

河野 澄夫 独立行政法人 食品総合研究所 分析科学部 非破壊評価研究室長 尾崎 幸洋 関西学院大学 理工学部化学科 教授

本多 嘉明 千葉大学 助教授 環境リモートセンシング研究センター 亀岡 孝治 三重大学 理事 副学長 付属図書館長

高辻 正基 東海大学 開発工学部 教授 岡本 研正 香川大学大学院 工学研究科 教授

平間 淳司 金沢工業大学 工学部 電気系 電気電子工学科 教授 渡邊 博之 玉川大学 農学部 応用生物化学科 助教授

(6)

審議経緯概要

第 1 回委員会

・ 平成 16 年 6 月 11 日(金)14:00~16:00,於:(財)光産業技術振興協会

・ 審議:

① 昨年度の活動総括と自己紹介

② 今年度の活動計画・方針の検討,審議

③ 「光とアグリ,光と環境」(仮称)フォーラム開催・運営の検討

第 2 回委員会

・ 平成16年 8月 6日(金)14:00~16:00,於:(財)光産業技術振興協会

・ 審議:

① 共催講演会「光と食・農」(改称)開催に向けて講師の選任など

② 1月19日「小フォーラム」に向けての講演分野・題目の選定等

③ 報告書の作成について

第3回委員会

・ 平成17年 1月19日(水)12:00~13:00,於:(財)光産業技術振興協会

・ 審議:

① 講演会「生体医用光学ブレースルーフォーラム-躍進する光-」総括

② 大フォーラム「光と食・農」準備に関連して

③ 報告書目次・著者の検討と審議

4回委員会

・ 平成16年 2月22日(火)17:30~20:00,於: みらいCANホール(日本科学未来館)

・ 審議:

① 講演会「光と食・農」開催の中間総括

② 報告書目次の検討・審議

③ 次年度に向けて

(7)

総 目 次

1. はじめに 1 はじめに...1

2. 光と医療・生体観察 2.1 生体可視化用蛍光センサー分子の開発...3

2.2 微細加工材料で組織を再生...8

2.3 白色発光ダイオードの基礎と応用-医工連携による ベンチャーへのアプローチ...16

2.4 無染色で生体を見る顕微鏡(SHG, CARS顕微鏡)...23

2.5 表面プラズモン共鳴アフィニティーセンサー...28

3. 光と食 3.1 可視光による食品の非破壊検査の原理と応用事例...33

3.2 近赤外光を用いた食品非破壊検査...53

3.3 電磁波を用いた食品非破壊検査...61

3.4 X線を用いた食品非破壊検査 ...66

3.5 果実非破壊品質選別機の動向...74

3.6 ハンディ型NIR装置の開発とその応用 ...81

3.7 光を用いた食品非破壊検査...93

3.8 生体分光分析と多変量解析...98

4. 光と農 4.1 衛星リモートセンシングによる植生物理量推定と 現地観測...107

4.2 フィールドにおける光センシング...112

4.3 都市型農業の一環としての植物工場...122

4.4 医学,農学,水産学分野におけるLEDの新利用...126

4.5 光線利用(LED光源)による物理的害虫防除...132

4.6 LED光源を用いた植物栽培と野菜工場の実用化の現状...140

5.まとめ 5.まとめ...149

(8)

更新日: 2005/04/23 現在

目 次

序文 委員会名簿

1. はじめに...1

2. 光と医療・生体観察 2.1 生体可視化用蛍光センサー分子の開発...3

2.1.1 はじめに...3

2.1.2 FRET型蛍光センサー分子の開発 ...3

(1) レシオ測定の重要性 ...3

(2) FRETの原理...4

(3) 距離変化型FRETセンサー分子 ...4

(4) 重なり積分変化型FRETセンサー分子 ...5

2.1.3 おわりに...6

2.2 微細加工材料で組織を再生...8

2.2.1 はじめに...8

2.2.2 2次元微細加工表面技術と細胞形態制御...8

2.2.3 3次元微細加工と組織再生 ...11

(1) 小口径人工血管 ... 11

(2) 高機能ステント工学 ...13

2.2.4 おわりに...14

2.3 白色発光ダイオードの基礎と応用-医工連携によるベンチャーへのアプローチ...16

2.3.1 はじめに:21世紀の照明革命に向けて...16

2.3.2 白色LEDを用いたゴーグルライトの開発...16

(1) 無影灯の歴史 ...16

(2) 白色LEDゴーグルライトの誕生 ...17

(3) 世界初のLED照明のみでの外科手術 ...17

2.3.3 パワー発光ダイオードモジュール: 大学等発ベンチャー創出支援制度...18

2.3.4 第3世代ゴーグルライト デザイナーデザイン...19

2.3.5 あたらしい照明への挑戦 ...20

(1) LEDによるお花見 ...20

(2) 2004年夏 祇園祭 ...20

2.3.6 内視鏡手術への応用 ...21

(1) 内視鏡手術の現状 ...21

(2) 究極のLED超局所照明 ...21

2.3.7 おわりに...22

2.4 無染色で生体を見る顕微鏡(SHG, CARS顕微鏡)...23

2.4.1 はじめに...23

2.4.2 SHG顕微鏡...23

2.4.3 CARS顕微鏡...24

2.5 表面プラズモン共鳴アフィニティーセンサー ...28

2.5.1 はじめに...28

(9)

2.5.2 伝搬型表面プラズモンセンサー...28

(1) 全反射型 ...28

(2) 回折格子型 ...29

(3) ファイバー型 ...29

(4) アレー型 ...29

(5) 蛍光増強型 ...29

2.5.3 局在プラズモンセンサー ...30

(1) 孤立粒子型 ...30

(2) 帽子状粒子型 ...30

(3) 会合型 ...30

2.5.4 共鳴透過センサー ...31

3. 光と食 3.1 可視光による食品の非破壊検査の原理と応用事例 ...33

3.1.1 はじめに...33

3.1.2 可視光線利用の原理 ...33

3.1.3 選別への可視光利用 ...34

3.1.4 内部品質評価への可視光利用...35

3.1.5 遅延残光(DLE)の特徴...35

3.1.6 DLEによる品質評価法...36

3.1.7 DLEの利用可能分野 ...36

3.1.8 可視透過法を用いた渋柿判定装置...37

(1) はじめに ...37

(2) 材料および方法 ...37

(3) 結果および考察 ...37

3.1.9 カキ果実‘西村早生’の自動渋果判定装置...40

(1) 施設の概要 ...40

(2) 調査方法 ...41

(3) 調査結果 ...42

(4) 課題と方策 ...44

3.1.10 ミカン選果場の事例 ...44

(1) 施設の概要 ...44

(2) 調査方法 ...45

(3) 調査結果 ...45

(4) 要約 ...48

3.1.11 異物選別装置 ...48

(1) 材料 ...48

(2) 試験方法 ...48

(3) 選別原理 ...49

(4) 供試異物選定の理由 ...49

(5) 結果 ...49

3.2 近赤外光を用いた食品非破壊検査...53

3.2.1 はじめに...53

3.2.2 NIRSの発展 ...53

3.2.3 NIRSの原理 ...54

3.2.4 データ処理...55

(10)

(1) 前処理 ...55

(2) 回帰分析 ...56

3.2.5 応用例...59

3.2.6 おわりに...59

3.3 電磁波を用いた食品非破壊検査...61

3.3.1 はじめに...61

3.3.2 NMRとMRI...61

3.3.3 MRIの与える情報...61

3.3.4 食品のMRI...62

(1) 生物活性の変動とMRI ...62

(2) 化合物の分布 ...63

(3) プロトン量の違い,及び形態観察...64

3.3.5 おわりに...64

3.4 X線を用いた食品非破壊検査...66

3.4.1 はじめに...66

3.4.2 X線を用いる非破壊計測...66

3.4.3 X線II(エリアセンサ)を用いる食品の検査...68

3.4.4 ラインセンサを用いる食品の検査...69

3.4.5 X線CTによる食品中の異物検出と解析...71

3.4.6 食品の解析 ...72

3.4.7 あとがき ...73

3.5 果実非破壊品質選別機の動向...74

3.5.1 はじめに...74

3.5.2 選果場の機能...74

3.5.3 内部品質測定装置(近赤外分光分析装置)...75

3.5.4 ポータブル型測定器(FQA-NIRGUN)について...80

3.6 ハンディ型NIR装置の開発とその応用...81

3.6.1 はじめに...81

3.6.2 近赤外分光(NIR)法について...82

(1) NIR法の原理 ...82

(2) SW-NIRの特長...82

3.6.3 K-BA100の開発課題 ...83

3.6.4 K-BA100の要素技術 ...84

(1) K-BA100の概要 ...84

(2) 分光計 ...84

(3) 検量線 ...85

(4) 基本仕様 ...87

3.6.5 応用例...88

(1) K-BA100の活用例 ...88

(2) その他の応用例 ...89

3.6.6 最後に...90

3.7 光を用いた食品非破壊検査...93

3.7.1 はじめに...93

3.7.2 非破壊法の種類と特徴 ...93

3.7.3 光学的方法...95

(1) 紫外線の利用 ...95

(11)

(2) 可視光線の利用 ...95

(3) 近赤外線の利用 ...95

(4) 赤外線の利用 ...95

3.7.4 その他の非破壊検査法 ...96

(1) 放射線的方法 ...96

(2) 力学的方法 ...96

(3) 電磁気学的方法 ...96

3.7.5 おわりに...96

3.8 生体分光分析と多変量解析...98

3.8.1 はじめに-なぜ多変量解析が必要か...98

3.8.2 生体系の近赤外スペクトルの特徴...99

(1) スペクトルそのものの複雑さ...99

(2) 試料の物理化学的性質と妨害物質...99

(3) 環境変動などの外乱 ...100

3.8.3 分子スペクトルと多変量解析...100

4. 光と農 4.1 衛星リモートセンシングによる植生物理量推定と現地観測...107

4.1.1 はじめに...107

4.1.2 研究の流れ...107

4.1.3 実施内容...108

(1) 実証的な検証情報の取得手法開発...108

(2) 衛星観測によるバイオマスを推定するのに最も効率的な植生被覆状態指標の開発 ...110

4.1.4 結果...110

(1) 数万平方キロでのバイオマス推定...110

(2) 数平方キロでのバイオマス推定...111

4.2 フィールドにおける光センシング...112

4.2.1 はじめに...112

4.2.2 BIXプロジェクトの概略...112

4.2.3 マルチバンド光を用いたセンシング技術...114

(1) 蛍光X線分光分析と赤外分光分析を併用した作物栄養バランス計測...114

(2) 色彩画像解析システム ...115

(3) 果実の着色過程における色発現空間の解析...115

(4) レーザー誘起蛍光分光法を用いた農作物生育診断に関する基礎研究 ...116

(5) 近赤外分光画像測定 ...117

(6) 簡易型光学式水分センサ ...118

4.2.4 おわりに...118

4.3 都市型農業の一環としての植物工場...122

4.3.1 新しい都市型農業 ...122

4.3.2 植物工場とは...122

4.3.3 栽培用光源...123

4.3.4 植物工場の現状と課題 ...123

4.3.5 未来の植物工場...123

4.3.6 新しい都市型農業ビル内田園化の例...124

4.4 医学,農学,水産学分野におけるLEDの新利用 ...126

4.4.1 LEDを用いた光空間通信...126

(12)

4.4.2 LED太陽電池 ...126

4.4.3 LED/LED光空間通信...126

4.4.4 LED/ LEDセンシング ...126

4.4.5 LED植物栽培装置 ...127

4.4.6 植物成育状況監視機能付LED栽培装置...127

4.4.7 LED新生児黄疸光線治療器...128

4.4.8 LEDによるアオカビ抑制...128

4.4.9 LEDによる白血病細胞破壊...128

4.4.10 LEDと希少糖によるガン細胞の抑制...129

4.4.11 青色LED集魚灯の開発...129

4.5 光線利用(LED光源)による物理的害虫防除...132

4.5.1 はじめに...132

4.5.2 各種光刺激に対する害虫の網膜電位(ERG信号)の測定...132

(1) 波長依存特性 ...133

(2) 周波数応答特性 ...133

4.5.3 実験結果および考察 ...134

(1) 波長依存特性 ...134

(2) 周波数応答特性 ...134

(3) 光刺激の網膜電位応答特性と害虫の行動との関係 ...135

(4) 閉鎖系の網室内や一般の農地での行動観察...135

(5) 本学キャンパス内での検証実験...137

(6) 黄色光が植物体の成長へ及ぼす影響...137

4.5.4 まとめ...138

4.6 LED光源を用いた植物栽培と野菜工場の実用化の現状...140

4.6.1 はじめに...140

4.6.2 植物栽培光源としてのLEDの特徴...141

(1) 植物栽培光源としてのLEDの利点 ...141

(2) LED植物栽培光源の課題 ...142

4.6.3 他の植物栽培光源との比較...143

4.6.4 植物栽培用LED水冷パネル光源...145

4.6.5 LED光源を用いた大規模野菜工場...146

5.まとめ ...149

(13)

1.はじめに

(14)

1. はじめに

2003年のヒューマンゲノムプロジェクトの終了後,生命科学は次の目標である全遺伝子の機能解明-機能 ゲノム学(Functional Genomics)-へ向かおうとしている。それは生命科学にたずさわる全ての人達,共 通の夢の解明でもある。

物理学において,20 世紀が量子力学の発見による電子の時代とすれば,21 世紀は光の時代であろう。生 物学もまた,20 世紀半ばの二重らせんの発見から分子生物学が生まれ,21 世紀初頭,一つの頂点として人 のゲノムの完全解読が完了した。この成果は医療分野に革命を引き起こしつつあり,遺伝子に基づく病態の 将来予測が可能となる。その一例として乳がん遺伝子,BRCA1 による遺伝子診断が挙げられる。それでは 予測された病態を症状が現れる以前にどのような手段で見つけられるだろうか?この“超早期診断”に“光”

が登場する。この場合,光の持つ生体に対する無侵襲性と一個の光子,言い換えると一個の分子をとらえ得 る超高感度検出能力が結びついて,ここに新しい“光診断学”が生まれつつある。

すでに欧米の巨大医療機器メーカーであるジェネラルエレクトリック,フィリップス,シーメンス等と巨 大製薬メーカー(例えばファイザー,ロッシュ等)が結びついた新しい市場,分子イメージング,あるいは 光イメージングが動き出している。この光とバイオの結合は,医療分野のみならず,農薬や食品評価,環境 計測などにも大きな拡がりを見せている。この拡がりは,米国がポストゲノムの次の目標として全遺伝子の 機能を生きた細胞,組織,個体で明らかにする“光イメージング,あるいは分子イメージング”を決定した ことにより,ますます加速されるであろう。

米国において,光とバイオ,すなわちバイオフォトニクスはすでに一つの産業を形成しつつあり,例えば NSFはカリフォルニア大学にResearch Center for Biophotonics Science and Technologyを設立。スタンフ ォード大もBioimage Lab.をつくり,NASAのAmes研究所及びシリコンバレーの持つ光技術,情報技術と バイオを融合したバイオフォトニクスバレー構想が米国西海岸で動き出した。東海岸ではボストンを中心に,

ハーバード大,マサチューセッツ工科大,そしてマサチューセッツ・ジェネラル・ホスピタル(MGH)を 中心とした拠点が作られている。勿論,NIH(米国立衛生研究所)のワシントンは最大の“光とバイオ”の 拠点である。

ひるがえって本邦を見る時,日本は完全にこの流れから取り残されており,旧来の“光産業”から今後10 年の世界のすう勢である医療を含む巨大なマーケット,“光とバイオ”へのシフトが必須である。今回のシン ポジュームがその幕開けの第一歩である。光科学・光技術が次へ進むのは私達人の生命であることは言うま でもない。

(田村 守)

(15)

2.光と医療・生体観察

(16)

2.1 生体可視化用蛍光センサー分子の開発

2.1.1 はじめに

生化学の発展とゲノム解読の進行により細胞内での情報伝達物質やその物質を認識する分子が次々に同定 され,試験管内での性質が明らかにされるようになった。現在ではポストゲノムと言う言葉が汎用されるが この時代には,次の目標である生理的条件での機能の解明が重要視されるようになってきている。このため には細胞をすりつぶさないで,生きたまま機能を調べることができれば多くの情報が得られると考えられる。

この目的のため,細胞内分子と特異的に反応して可視化することができるセンサー分子をデザイン・合成し 直接細胞に応用することを試みた。この結果,生体内分子の空間的・時間的な変化を解析する手法を創り出 すことが可能となる。本稿では成功例として,蛍光共鳴エネルギー移動(Fluorescence Resonance Energy

Transfer, FRET)を応用したチロシンホスファターゼセンサー分子と亜鉛イオン(Zn2+)センサー分子につい

て紹介する。

2.1.2 FRET型蛍光センサー分子の開発

(1) レシオ測定の重要性

蛍光センサー分子を用いて可視化解析を行う際の最大の利点は高感度である点である。しかし,実際に生 物応用を行う際には,この高感度のため測定誤差が生じやすいという問題点が挙げられる。細胞に応用する 際には,蛍光センサー分子周囲の環境の変化(pH,極性の変化,温度等),細胞の厚さによる強度変化,セ ンサー分子の局在による濃度の違い等の影響を受けて測定誤差を生じる。これらの要因による測定誤差を減 少し,定量性の高い測定法として,レシオ測定(ratiometric measurement)が報告されている1)。レシオ測定 とは,蛍光スペクトルまたは励起スペクトルにおいて,異なる2波長での蛍光強度を同時に測定し,その比

(レシオ)を計算する手法である。Fura-2等のCa2+蛍光センサー分子はCa2+配位前後において励起光波長 が変化するものが報告されている。これらのセンサー分子を生細胞内に応用するためレシオ測定が考案され た1)。レシオ測定を可能とするためには,測定対象分子との反応あるいは分子認識によって励起光波長ある いは蛍光波長が変化するセンサー分子が必要となる2)。このレシオ測定用センサー分子の波長変化メカニズ ムは2通りに分類される。それらは

1)測定対象分子によって,蛍光センサー自身の蛍光・励起波長が変化するもの2), 3)

2)蛍光共鳴エネルギー移動(fluorescence resonance energy transfer : FRET)の効率変化によって,分子 全体としての蛍光・励起波長が変化するもの

である。1)にはfura-23)やindo-1等のCa2+センサー分子が含まれる。この場合ほとんどの分子では励起光 波長が変化する。これは,分子認識や反応によって基底状態のエネルギー変化が起こる場合がほとんどであ るためである。2)のFRETを利用したセンサー分子として初めて報告されたものは,cAMPセンサー分子

であるFlCRhR(フリッカー)である4。FlCRhRはcAMP依存性タンパク質リン酸化酵素のユニットに蛍

光ラベルを導入し,cAMP結合により複合体が解離することで分子間の距離を変化させることを原理として いる。その後,1994年以降はグリーン蛍光タンパク質(Green Fluorescent Protein, GFP)の生物応用5が盛 んになり,1997年にCa2+結合によるタンパク質のコンフォメーション変化をFRET効率変化に変換できる cameleonが報告され6,これ以降GFPを用いたFRETセンサーが多く報告されている。

FRETとは,ドナーである蛍光色素を励起したとき,励起エネルギーが近傍に存在するアクセプター分子

(17)

に移動する現象である。アクセプターが蛍光分子であれば,アクセプターからの蛍光が観測される。FRET は分光学定規(Optical Ruler)とも呼ばれ,FRET効率はドナー分子とアクセプター分子の距離を反映する。

この現象は,1970年前後にプロリンを用いたペプチド鎖に蛍光色素を2つ導入することで実証された7

(2) FRETの原理

まずFRETの原理について紹介し,デザインをする際の着目点について説明したい。FRETとはドナーの 蛍光団と特定の条件を満たすアクセプターの蛍光団が近傍にある場合,ドナーを励起すると一重項状態のエ ネルギーがアクセプターに移動し,アクセプターが励起される現象である。FRET過程はドナー自身の発光 遷移,無放射遷移と競合するので,それぞれの速度定数をkT,kf,knrとするとFRETのエネルギー移動の 効率ETは(1)式に表される。

ET = kT / ( kT + kf + knr ) (1)

つまり,励起エネルギー移動速度が,発光遷移速度,無放射遷移速度よりも速ければ,FRET効率も大きく なる。この場合のエネルギー移動は分子間の接触を必要としない比較的長距離で起こる。この様な空間を介 して起こるエネルギー移動は次に示すFörsterの関係式(2)に従い移動速度定数kTが成り立つ8)

kT = {9000 (ln10) κ2J / 128 π5n4 NAr6} kf (2)

(nは溶媒の屈折率,NAはアボガドロ数)

FRETの起こりやすさはkTの大きさに依存するが,分子デザインを行う際,以下の3つの因子(κ2,J,r) を変化させることでkTを変化させ,センサー分子の波長変化をもくろむことができる9)

1)κ2:配向因子(orientation factor)。ドナーとアクセプターのモーメントの相対的な向きを表す。0から4 に値をとり,両モーメントが直交している場合には0,平行の場合は4の値をとる。合成小分子を用いた場 合は,両モーメントが自由回転していると考え2/3に近似している。現在までに,κ2を変化させ得るセンサ ー分子は報告されていない。

2)J:重なり積分(overlap integral)。ドナーの蛍光スペクトルとアクセプターの吸収スペクトルの重なりを 示し,Jの値にkTは比例する。アクセプター分子の量子収率によって影響されないため,重なり積分のみ存 在すればエネルギーは移動する。つまり,光らないアクセプターへのエネルギー移動も起こりうる。ドナー とアクセプターの組み合わせによって変化する値である。

3)r :ドナーとアクセプターの間の距離。kTは1/r6に比例する。よって,距離が大きくなるとkTは小さくな る。この変化をもとに波長変化をもくろんだセンサー分子が最も多く報告されている。

以下に,rとJを変化させることでセンサーデザインを行った例を紹介する。

(3) 距離変化型FRETセンサー分子

50%のFRET 効率を与える距離はFörster半径(R0)と呼ばれ,ドナー・アクセプターの組み合わせ(重な り積分)によって決まる値である。ドナー・アクセプター間距離rETの間には(3)の関係式が成り立つ。

ET = R06 / (r6 + R06) (3)

このR0は通常の小分子ペアでは5 – 10 nm程度となる。このR0を越えて距離変化が起こればETが変化 し,測定蛍光波長が変化するはずである。

単純にペプチド鎖等のflexibleなリンカーの両端に2つの色素を導入した場合,水溶液中では消光する。

蛍光色素は一般に疎水的な構造を有しているため,水溶液中では基底状態で無蛍光性の会合体を形成するこ

(18)

とが報告されている 8)。しかし,プローブとして細胞や生体組織で応用するためには,水溶液中で機能しな ければならない。このため,ドナーとアクセプターを繋ぐリンカー部分を非会合性にデザインすることで水 溶液中での色素会合を防ぐことに成功した10-14)

(4) 重なり積分変化型FRETセンサー分子

次に,標的酵素との反応によって重なり積分が変化するFRETセンサーのデザインを行った。フルオレセ インはラクトン型とキノイド型の2つのコンフォメーションをとり,それぞれが大きく異なる吸収スペクト ルを示すことが知られている。この性質を利用して,重なり積分をスイッチとしたセンサー分子をデザイン した。キノイド型のフルオレセインは490 nm付近に強い吸収ピークを示すが,ラクトン型フルオレセイン の吸収はUV領域のみである。クマリンをドナーとした場合,キノイド型は大きな重なり積分を持つのに対 し,ラクトン型ではスペクトルの重なりは存在しない。従って,水酸基に置換基を導入してラクトン型とな ったフルオレセインとクマリンを分子内に導入した場合,スペクトルの重なりがないためにエネルギー移動 は起こらない。このため,クマリンの励起エネルギーは,そのままクマリンの蛍光として観測される。この センサー分子が標的酵素の基質となり置換基が加水分解を受けると,フルオレセインがキノイド型に変換さ れてFRETが起こり,ドナーを励起することでアクセプター蛍光が検出されるようになる。この検出原理を 使って,タンパク質チロシンホスファターゼ(PTP)活性によって波長変化するセンサー分子をデザイン・

合成した。PTP はチロシンの脱リン酸化を行う酵素であり,インスリンシグナル伝達,細胞の分化・成長,

神経系等生理過程において重要な役割を果たしている。PTP蛍光センサー分子として2つのリン酸基を導入 したラクトン型フルオレセインを,リンカーを介してクマリンと結合させた化合物 1 をデザインした(図 2.1.2.1)。

リンカーには,色素の会合によって消光しないようにシクロヘキサン構造が選択されている。水溶液中で化 合物1をドナーの励起波長400 nmで励起したところ,450 nm付近のドナー蛍光を示した。PTPの一種で

あるPTP1Bを添加すると,450 nm付近のドナー蛍光が減少し。515 nm付近のアクセプター蛍光が増大し

15)(図2.1.2.2)。

図2.1.2.1 PTPセンサー分子の構造式

(19)

この結果は,重なり積分をスイッチとした検出原理が機能することを示している。エチレン鎖をリンカー に持つ化合物2では蛍光強度は弱く,この場合も色素会合を妨げるためにrigidなリンカーが必要であった。

特筆すべき結果として,上記センサー分子1を用いて生物応用に成功し,細胞増殖時の PTP活性の変化 を初めて可視化できたことが挙げられる。通常の細胞では細胞増殖時は細胞内の酸化ストレスが強くなり,

PTP活性は抑えられている。しかし,細胞が増殖し接触阻害を起こした場合はPTP活性が高くなり増殖阻 害が起こることが初めて明らかになった。この場合,レシオ測定によって細胞内に導入したセンサー分子の 濃度差を補正できることが特に有効であった。

2.1.3 おわりに

本稿では,生物応用に成功した2例のセンサー分子の開発過程について紹介した。ここで特に,センサー 分子のターゲット選びが開発成功に最も重要であることを強調しておきたい。ターゲット選びには,どのよ うなセンサーを作製すればどの生物現象が明らかになるかという生物学上の疑問点が重要なのである。この 対象設定によって研究全体の方向性が決まる。そして,この生物学の問題点解決のための新しい化学研究が 生まれる。

重なり積分をスイッチとしたセンサー分子の設計方法は,フルオレセインに導入する置換基だけを変える ことで,他の加水分解酵素にも応用できると考えられる。

前述の通り現在ではポストゲノム時代の研究目標に生きた状態の作用解析が挙げられるようになっている。

この目的にセンサー分子のデザイン・合成はまさに合致している。この背景も追い風になっており,現在で はセンサー分子についての報文が多く見られるようになってきている。今後,さらに巧妙な分子デザインが 登場し生物応用が進行することが大いに期待できる分野であると考えている。

(菊地 和也)

参考文献

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(5) M. Chalfie, D.C. Prasher, et al. Science, 263, 802 (1994)

1 2

Wavelength (nm)

Fluorescence Intensity

Wavelength (nm)

440 480 520 560 600 440 480 520 560 600

0 100 200 300 600

400 500 700

100 200 300 600

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0

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図2.1.2.2 PTPセンサー分子のスペクトル変化

(20)

(6) A. Miyawaki, R.Y.Tsien, et al. Nature, 388, 882 (1997) (7) L. Stryer, Annu。 Rev. Biochem., 47, 819 (1978)

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(13) Y. Kawanishi, K. Kikuchi, et al. Angew. Chem. Int. Ed., 39, 3438 (2000) (14) H. Takakusa, K. Kikuchi, et al. J. Am. Chem. Soc., 124, 1653 (2002) (15) H. Takakusa, K. Kikuchi, et al. Chem. Eur. J., 9, 1479 (2003)

(21)

2.2 微細加工材料で組織を再生

2.2.1 はじめに

組織を構成しているおのおのの細胞の形態は機能に関与していることが古くから指摘されている。この形 態は細胞外の局所的な環境(たとえば,細胞外マトリックスの超分子構造化や増殖因子とマトリックスとの ダイナミックな複合化と解離・徐放)に加えて,生体組織がおかれている力学場(流体力学のせん断応力,

拍動圧などによる伸縮や圧縮応力)による力学的刺激によって変化し,適応制御を受けて恒常性を発現する ことが明らかにされつつある1)。たとえば,動脈血管を内張りしている内皮細胞は,高い血流速度の血管で は血流方向に紡錘状に配向し,せん断応力が小さいところや分岐部の乱流域では敷石状形態をとっている。

一方,血管の中膜層では平滑筋細胞が円周方向に輪状に高度に延伸・配向しており,この形態はホルモンに よる収縮・弛緩によって血管径を調節して血圧・血流量を調節している。このような形態制御を生体外で実 現できれば,生体組織の構造的・機能的再構築ができることになり,病変あるいは欠失した組織の代替組織 として医療に提供できるものと考えられる。このような細胞と人工基材を組み合わせたハイブリッド組織は 組織工学(tissue engineering)とよばれている2)

このためには,細胞形態を制御できる細胞外環境の整備が必須である。本稿では,細胞形態や機能を制御 しうる人工基材の微細加工とこれに基づく生体外細胞操作と生体内における組織の再生について,筆者らの 研究を中心に概説する。

2.2.2 2次元微細加工表面技術と細胞形態制御

古くはFolkmanらによって親水性高分子[poly(hydroxyethyl methacrylate)]をコートした培養皿に,

接着性蛋白質であるフィブロネクチンを密度を変えて吸着させると,低密度では接着せず,密度が高くなる につれて細胞数が増大し,形態は円形(round-shape)

から扁平に伸展(spread)し,これと符合して増殖性が 高まった。蛋白質の表面密度が高いところでは,経時 的に2次元組織が形成された3)。この研究が細胞の接 着形態と細胞機能の関係を表わした最初の報告である と思われる。

2 次元表面に細胞が接着できる部位と非接着部位を 表面加工すると,細胞は接着部位のみに接着・遊走・

増殖し,接着・非接着の領域に対応して2次元パター ン化組織が形成される。神経細胞を用いればニューロ ナル・ネットワークの人工モデルが作製できることに なる。このような2次元パターン組織作製の表面加工 技術については,いろいろな微細加工技術が開発され ている。まず,半導体チップ製造時に使用するリング ラフィ技術を用いるきわめて精密なる方法が1980 年 代後半に提出されたが4),筆者らは光反応によって簡 便にかつ再現性よく微細加工する技術をほぼ同時に提

図2.2.2.1 細胞接着・非接着を可能にする表面微

細加工技術。(a)両末端フェニルアジド化ポリエチ レングルコース(PEG),(b)加工操作(塗布,紫外 光照射,及び洗浄によるPEGの表面固定化)

(22)

出し,実現してきた 5)。非接着部位は血清中の蛋白質を吸着しにくい非イオン性の高分子を表面に化学固定 すればよい。このために光照射で発生するラジカル反応を利用すると,効率よく照射部位のみの表面に高分 子を共有結合で修飾できる。図 2.2.2.1 に光反応性親水性高分子ポリエチレングリコールを用いる表面修飾 法を示した。この接着部位を細胞サイズにまで小さくすると,細胞は非接着の辺縁までは伸展するが,それ 以上はできない。円形の接着領

域を設定すると,領域サイズが 小さくなるにつれて,細胞集団 は小さくなり,2,3個の細胞の みのコロニーの場合には敷石状 であり,それ以下に小さくする と細胞1個は大幅な伸展が抑制 されて円形になった。また接着 部位の形状を反映して形態が制 御される。図2.2.2.2に正方形,

ひし形,長方形状に細胞が伸展 した形態を示した。

このような細胞形態は細胞の構造や機能に 影響を与えているはずと考えられる。細胞形 態を規制する骨格蛋白質アクチン繊維を染色 すると,辺縁部に沿って繊維束が局在化・配 向化した。細長い(約20μm幅)ストライプ状 の接着部位を作製すると,細胞密度が小さい ときには,細胞は高度に延伸した。原子間力 顕微鏡のプロープで短軸方向に一定間隔で圧 縮応力-距離関係を測定して,細胞の硬さ (stiffness)を見積もると(図2.2.2.3),辺縁部が 最も硬く,中央部にいくに従い,柔らかい力 学的性質を有していることがわかった(図

2.2.3のX 軸はブロープと細胞表面との垂直

距離,Y軸は圧縮応力を示し,ΔXはブロー プが細胞表面と接触し,細胞表面から反発カ を受けている距離,X=0におけるΔYは圧縮 変形応力であり,ΔXが小さく,ΔYが大き いほど硬いといえる)。このようにアクチン繊 維の局在・配向化した部分は硬く,内部では 柔らかい結果が得られた。人工基材の微細加 工によって,巨視的な細胞形態が変わったが,

細胞内の骨格蛋白質の空間的構造化に大きく

図2.2.2.2 光微細人工基材表面における単一細胞の形状制御技術

正方形,長方形,ひし形のshape-engineered cell。走査型電子顕微鏡。

図2.2.2.3 微細加工した人工基材上で高度に延伸した内皮

細胞の原子間力顕微鏡による力学的性質の短軸方向の位 置依存性。 圧縮力―距離相関。ΔX:細胞表層とプロー 日間の距離,ΔY:圧縮応力。細胞周縁で硬く,中央部で は柔らかい(アクチン繊維の局在・配向の位置と一致)。

(23)

変化を与えているといえる。

一方,骨格筋細胞と同様に 細胞融合性を示す筋芽細胞

(myoblast)の樹立細胞株 (C2C12)を前記の細長いス トライプ状の表面で接着さ せると,細胞は幅約10μm,

長さ数十μm くらいに伸 びた。細胞密度を大きくす ると,細胞は融合して長さ

が約 600μm の多核細胞(筋管細胞,myotube)に変換した(図 2.2.2.4)。これは人工基材による細胞融合に

よる方向性のある組織の形成例であり,このような細胞接着の形態をあらかじめ設定すると,細胞融合と配 向化が高効率で起こるといえる。なお,血管内皮および平滑筋細胞も単一細胞自体が大きく延伸され,約50

~60μm(通常は15~20μm)に針状に引き伸ばされた。このように形態を大きく変えると,機能も変わるの ではないかと考え,次のような実験を行なった。

動脈では血管内皮細胞は血流下で高度に紡錘型形態を有している。この流体力学的ストレスの受容体の存 在が明らかにされつつあり,拍動圧の変動が細胞内Ca動態の変動を起こすこと,また白血球の粘着に関与 する細胞表面に発現される細胞接着因子ICAM-1(inter-cellular adhesion molecule-1),VCAM-1(vascular

cell adhesion molecule-1)が前者では数倍,後者では数分の1にせん断応力の負荷によって増減することが

明らかにされている1)。筆者らは図2.2.2.5に示したように流体力学的ストレスによって誘導される形態変化 を人工基材表面の修飾によって誘起し,これが上記の細胞接着因子の発現にどのような変化を起こすかを mRNAレベルで調べた。紡錘状に延伸した細胞(ストライプ状表面)ではICAM-1の発現が通常の培養皿上で の扁平な細胞や光表面加工により伸展が制御された敷石状の円形細胞より有意に大きく(図2.2.2.6),一方,

VCAM-1では逆に円形細胞よりも低下した。このように,流体力学的ストレスによる形態と人工基材によっ

て誘導される形態が同じ場合には,ICAM-1およびVCAM-1のmRNA発現の傾向が一致しており,前述の 流体力学的ストレスの効果に加えて,人工基材による形態形成の効果も,少なくとも一部mRNA 発現に寄 与しているものと考えている6)

以上のように,2 次元表面光加工技術は細胞の形態を制御して機能発現を調整する。このような領域制御 による細胞機能は細胞成長

因子の表面固定によるマト リクリン効果およびハーバ ード大学の Ingber のアポ トーシスおよび肝細胞機能 と微細領域の相関に関する 研究が報告されている8)

図 2.2.2.4 筋芽細胞株(C2C12)の微細加工表面での延伸と融合による多核

筋官細胞の形成と配向化。 接着領域:20μm。

図 2.2.2.5 光微細加工した人工基材表面で高度に延伸した内皮細胞と伸展

が制御された円形の内皮細胞。 TCPS:市販培養皿。

(24)

2.2.3 3次元微細加工と組織再生

細胞を3次元的に分布,配列,構造化して組織をつくるためには,組織としての力学的構造体および細胞 の足場(人工骨格:scaffold)の設計がとくに重要である。多孔質構造体(メッシュ状あるいはフォーム状)に細 胞をあらかじめ注入し,増殖させてから生体内に移植すると,経時的に組織が再構築される。用途に応じて 生分解性(たとえば,ポリ乳酸)や非分解性の生体適合材料が用いられている。このような方法,材料,アセ ンブル化技術は細胞を主役にした再生組織工学と医療に用いられ,米国においてはすでに多数のベンチャー 企業が参入し新しい医療産業としての期待がかけられている。

一方,筆者らが開発している微細立体加工した人工骨格は光反応を利用するものである。ひとつは,高エ ネルギーのパルス紫外光(エキシマレーザ:248nm)を照射して爆蝕(ablation)して微細孔を薄膜にあけるもの であり,コンピュータと連動させると自動的にあらかじめ設定されたとおりに微細孔のパターンが形成され る(CAD; computer-assisted design9))。もうひとつは逆に,光を照射することによって液状単量体が重合し て表面に層を形成し,これをくり返すことによって重層構造を形成するものである10)。光照部のみに重合反 応が起こるので,先述のCADと組み合わせると任意の微細立体構築体が形成できることになる。いずれも 開発途上のものであるが,前者の例として微細多孔化小口径人工血管9),後者の例として高機能ステント(狭 窄血管を拡張するデバイス10))を紹介する。

(1) 小口径人工血管

内径6mm以上の人工血管は臨床に用いられており,開存性(血栓形成および内膜肥厚によって閉塞せずに,

導管として機能していること)に問題がないが,これ以下の口径では,初期の血栓形成および慢性期の内膜肥 厚のため閉塞する。多大の努力と試みが開存性を上げるためになされたが,臨床応用できる市販品はない。

低い開存性は血栓の形成に加えて,生体血管との力学的な不適合性(compliance mismatch)のためと考えら れている。

筆者らは,動脈の生体力学場を感受して,一心拍ごとの変動による壁伸縮を可能にする力学的性質を有す

図2.2.2.6 細胞形態と接着分子(ICAM-1)のmRNA発現。市販培養皿(TCPS),ストライプ状

(幅 20μm)および円形(直径 25μm)の微細加工表面(ストライプ状に延伸した細胞は円形や

伸展細胞に比べてICAM-1)のmRNA発現が有意に高い。

(25)

る小口径人工血管を開発しつつある 9)。 市販の人工血管は合成繊維で編んだ管 状体であるが,開発している人工血管

(図2.2.3.1)は,セグメント化ポリウ

レタン(高い弾性性質と耐久性がある エラストマーで人工心臓の膜に用いら れている)を薄膜チューブに成型して から,エキシマレーザで微細加工した もので,微細孔密度の増加とともに柔 軟性が高まり,生理的圧力領域(70~

140mmHg)では動脈血管と同じ圧-

径相関を与えるように設計できる。合 成した光反応性ゼラチンとヘパリンお よび細胞成長因子を混合した溶液を塗 布し光照射すると,生理活性分子が包 埋されたゼラチンゲル層が形成され,

人工基材に固定された。

この小口径人工血管(内径1.5mm,長さ20mm)を移植すると,閉塞することなく経時的に経吻合的組織侵 入(transanastomotic tissue ingrowth,吻合部で生体組織から人工血管側に組織が侵入して血管壁を再構築 すること)が起こり,また成長因子(bFGF,VEGFなど)のパラクリンおよびマトリクリン効果による外壁か ら内腔への新生血管の誘導を伴う経壁的組織侵入(transmural tissue ingrowth,人工血管の外壁から内膜に 組織が侵入して再構築されること)が促進され,血管組織が再構築された。平滑筋細胞の異常増殖および細胞 外マトリックスの過剰産生による内膜肥厚は起こらなかった。移植された人工血管は動脈圧に感応して壁伸 縮した。内皮細胞,平滑筋細胞,線推芽細胞の棲み分けを有する階層性構造(内膜・中膜・外膜)の形成が速 やかに起こった。内皮細胞は流れの方向に配向し,平滑筋細胞は円周方向に配向していた。移植期間ととも に,合成型(増殖型)から収縮型への平滑筋細胞の形質変換,および細胞外マトリックス産出量の経時的な増 加にひき続く縮退,コラーゲンおよびエラスチンの超分子構造化と円周方向への配向が起こっており,くり 返し負荷される力学的刺激が細胞およびマトリックスレベルに大きな影響を与えているものといえる。

この平滑筋細胞の形質変換については,3 次元コラーゲンゲル内に包埋した平滑筋細胞がくり返し受ける 伸縮ストレスによってin vitroにおいても経時的に起こることを見いだしており,また内皮細胞のNO(一酸 化窒素:平滑筋細胞の強力な増殖抑制剤)産生は伸縮刺激によって大幅に増大することが報告されていること から,血管壁の人工骨格としては,生体力学場を考慮した設計,すなわち,一心拍ごとに動脈圧を感受して,

また宿主血管との力学的適合性を有することが重要であると考えられる。

しかしながら,前記の微細加工した人工血管では,低圧領域および高圧領域での,生体血管の力学的挙動 を模倣できていない。すなわち,生体動脈では,低圧では大きく拡張し,中圧では拡張性は圧とともに減少 し,高圧では拡張はほとんどしない(圧-径相関における“J”カーブとよばれている)。生理的圧領域では前 述の単筒モデルの場合は生体血管とほぼ類似できる圧-径相関を作製できたが,上記の低圧と高圧領域の性 質が組み込めず,この点で,生体血管と大幅に異なる。より一歩,生体血管の圧-径相関を低圧から高圧領

図2.2.3.1 エキシマレーザで微細加工した小口径人工血管。

セグメント化ポリウレタン100μm厚,孔サイズ1.5μm,走査 型顕微像,バーは500μm。

(26)

域までを忠実に実現するために,筆者

らは図 2.2.3.2 に示した同軸の二筒式

モデルを考案した。内筒は小さい圧力 で大きく拡張するように設計されてお り,一方,外筒は拡張性が小さいもの である。圧-径相関は内筒が拡張し,

外筒と接触したあとは,内外筒が一体 化して拡張するものであり,これによ って低圧から高圧までを生体血管と同 様な力学的性質を与えるモデルを提出 できた(図 2.2.3.2)。この二筒モデル の力学的性質は材料の膜厚およびエキ シマレーザによる微細多孔化によって 調整した。血栓形成の抑止および内・

外筒の組織侵入による接着を避けるた めに表面光加工によって内筒および外 筒の内外面を修飾して細胞・組織の接

着を防止した。現在まで 6 カ月の実験では,この“J”ヵーブは維持されている。このように生体力学場を 感受できる人工骨格を整備すれば,正常組織の再構築が大幅に促進されることになるものと考えている。

(2) 高機能ステント工学 病変血管の狭窄部位を金 属コイルで機械的に拡張す る血管内手術が約 10 年ほ ど前に医療に導入され,そ の効果と簡便さから爆発的 に普及した。しかし,経時 的に起こる内膜肥厚による 再狭窄率は約 2~3 割であ り,再狭窄率の低減が強く 要望されている。これに対 する筆者らのアプローチは,

金属ステントの外面に前述 の人工血管のフィルムを用 い,内・外面を加工して内 膜肥厚と血栓形成を抑止す るものである(図2.2.3.3)。 微細加工したエラストマー

図2.2.3.2 同軸二筒型コンプライアント人工血管の模式図

高い圧拡散性の内筒と低い圧拡散性の外筒から構成され,おのお のの内外面は光反応性のマトリックスで表面修飾されている。

図2.2.3.3 立体微細加工したカバード・ステント。

金属ステントの巻き付けた微細孔を有するエラストマー薄膜フィルム(セグメ ント化ポリウレタン;SPU)をエキシマレーザで微細孔をあけ,外面に液状の光 反応性プレポリマーで光造形技術で重合してマイクロニードル(微小針)を立体 構築したものである。動脈硬化の病変部位で拡張すると,マイクロニードルが 血管中膜層に挿入され,そこで生分解とともにあらかじめ包没してあった増殖 抑制剤が徐放される。

(27)

の薄膜を被せ,人工血管とステントを一体 化したもので,薄膜によって組織の侵入を 大幅に阻止し,微細孔からの細胞侵入なら びに平滑筋細胞の増殖を抑制するものであ る。微細加工の密度が大きくなると,内膜 肥厚は小さくなった。血栓形成の度合は表 面ヘパリン化によって大きく減少した。現 在,ステントの外面に平滑筋細胞の増殖を 抑制する遺伝子を組み込んだアデノウイル スなどを徐放するシステムを搭載すること を計画している。一方,動脈硬化巣(血管中 膜)へ外面から薬の浸透を直接行なうため に,外面に微小針状にマイクロアレイを光

造形した(図 2.2.3.4)。このマイクロアレイは液状の生分解性で,かつ光反応性の高分子を合成し,これを 先述のポリウレタン薄膜に塗布したのちに,CADを用いて光照射すると,あらかじめ入力したとおりに自動 的に立体微細加工できた。液状物質にあらかじめ薬を混合しておいて作製し,カバード・ステントを血管内 で拡張すると,この針状構造が中膜層に押し込まれ,経時的な生分解に伴って薬が動脈硬化巣に直接導入で きることになる。

2.2.4 おわりに

生体組織は多糖類の物質と細胞が漫然と込み合っているのではなく,物質レベルでは超分子構造,配向・

集合化,細胞レベルでは階層化による棲み分けがなされ,機能発現しやすいように分布されている。したが って,このような分布(パターン)や棲み分けあるいは生体内における超分子構造化を生体外で模倣したり,

あるいは生体内で大きく促進する技術のひとつとして,人工骨格の精密設計が重要である。

本稿では,筆者らが 10 年ほど前から開発してきた光照射によって駆動する表面加工技術を紹介した。2 次元表面では,細胞の接着・伸展・増殖を制限し,細胞形態と機能の相関をより明確にするリサーチ・ツー ルとして,また細胞チップの作製に寄与するものと考えている。3次元レベルでは,微細加工(削孔や積層化) による立体微細加工技術は,組織工学の基盤技術のひとつとなりうるものと考えている。原理的には光はミ クロン・レベルまで照射部を限局できるので,生体のもつ精密な組織を再生する人工骨格の要素技術となる ものと考えている。

(松田 武久)

参考文献

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図2.2.3.4 生分解プレポリマーによる光立体微細構造。

カバード・ステントの外側の構造体。病変血管内膣より拡散 することにより病変部位の組織に押し込まれ,経時的な生分 解とともに薬を徐放するシステム。バーは1mm。

(28)

M243-M247(1992) ;松田武久 :生体材料, 12, 187-195, 232-243(1994); Matsuda, T., Sugawara, T.: J.

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Res., 32, 165-173(1996)

(6) Kato, S., Ando, J., Matsuda, T.: J. Biomed. Mater. Res., in press (7) 伊藤嘉浩:蛋白質 核酸 酵素,45,727-734(2000)

(8) Singhvi, R., Kumar, A., Lopez, G.P., Stephanopoulos, G.N., Wang, D.I., Whitesides, G.M., Ingber, D.E.: Science, 264, 696-698(1994)

(9) Doi,K., Nakayama,Y., Matsuda,T. :J. Biomed. Mater. Res., 31, 27-33(1996); ibid, 31, 235-242(1996);

ibid, 34, 361-370(1997); ibid, 37, 573-584(1997); Kobashi, T., Matsuda, T., : Cell Transplant., 9, 93-105(2000)

(10) Matsuda, T., Mizutani, M., Arnold, S.C.:Macromolecules, 33, 791-794; 795-800(2000)

(29)

2.3 白色発光ダイオードの基礎と応用 - 医工連携によるベンチャーへのアプローチ

2.3.1 はじめに:21世紀の照明革命に向けて

窒化物半導体系の可視短波長発光ダイオード(LED:

light emitting diode)の波長域の拡大,高輝度化,高効 率化等の性能向上は近年めざましいものがある。それ を用いた白色LED も開発され,従来の電球や蛍光灯 をこれら固体発光素子で置き換えて行こうという照明 革命が始まろうとしている。しかしながら,白色LED の効率は,市販のもので30 lm/W,実験室レベルのト ップデータで60 lm/W程度であり,電球の効率は凌駕 しているものの,蛍光灯の効率(100lm/W程度)には 及ばず,効率向上へ向けた研究が重要な課題となって いる。しかも,1 lmあたりのコストは,旧来のガラス 管タイプのランプ光源の方が圧倒的に安価であり,現 状では白色 LED が一般照明に参入して行くには価格 的には,時期尚早の段階にある。しかしながら,イノ ベーションといいながら,既存の電球の価格体系と使 用用途を,まだ,駆け出しの超高額照明デバイスの「パ ワー発光ダイオードモジュール」で市場を奪い去るの は,到底不可能であろう。まずは,世の中に認知され るとともに,あたらしい固体照明デバイスでしかなし 得ない高付加価値のニッチの市場に,じっさいに使用 してみてえられる経験を集積しつつ前に進む,挑戦的

な創造なしには LED 照明の実用の世界は拓けないと考えている。本稿では,現状をふまえつつ,1)白色 LEDを用いたゴーグルライトの開発, 2) あたらしい照明への挑戦, 3) 内視鏡手術への応用の3点にしぼって,

報告したい。

2.3.2 白色LEDを用いたゴーグルライトの開発

(1) 無影灯の歴史

ことのはじまりは,1999年の京都大学VBL(当時:

松重和美 施設長:現京都大学副学長)の忘年会にお いて京都大学の川上養一,藤田茂夫の両先生にであっ たことから始まった。小生は,外科医として体の奥の 方を見ることが必要なときに,図 2.3.2.1 のように天 井のライトだけでは,なかなか,十分な光が得られず,

手術対象が確認しにくいことを感じていた。このこと を両先生に話すと,「白色LEDという明るい電球みた

図2.3.1.1

図2.3.1.2

図2.3.2.1

(30)

いなものがあって...まあ,21世紀の照明革命や」と教わったことから,小生のLED人生が始まる。手術室 の照明の歴史は古く,クリミヤ戦争後に1860 年にナイチンゲール看護婦学校が併設されたロンドンの聖ト マス病院では,1860 年代には,手術室の高い天井から木製の手術台の上に,大きな 2 つの燭台がつり下が っていた。このころから, 天井から手術台へ光をもたらす考え方は,一般の家屋の照明の延長で常識として,

うけいれられてきた。現在は,キセノンランプやメタルハライドランプから構成される天井付近に設置され た照明装置を用いて行われる。この装置は,無影灯と呼ばれているにもかかわらず,実際の手術現場では,

外科医の頭が照明を遮り,術野を視認しにくいことが多い。しかも,低侵襲手術術式の台頭で,患者さんの 手術創を小さくする傾向があり,このため,さらに手術術野に十分な光が届きにくくなっている。手術中の 照度は,あらゆる分野で最も高い値が要求されており,日本では厚生労働省から20,000 lxが義務づけられ ているが,これは何も障害物がない場合の手術台上の鉛直照度値であり,実際はこれよりもずっと低い値で 手術が行われているのが現状である。

(2) 白色LEDゴーグルライトの誕生

さて,実際にLEDを装備したゴーグルを誰が作れるのか?

とはなしていたところ,京都大学 川上養一先生が3ミリ径 の白色LED とホビーセンターで購入したプラスチックゴー グルの両サイドに粒々LED をびっしり実装して,初代の LEDゴーグルは誕生した。実際の手術時の光の問題を解決す るには,「プラスチックゴーグルの両端にコンパクトな発光 体を取付け,しかもその発光体からのビーム方向を人間の視 線方向と一致するよう制御する機構を付加すれば大変便利な 機能となるであろう。」というのが,この装置を開発するに至 った発想である。と言うより,できあがったLED ゴーグル を前に喜んでいたところを,関西TLO(株)の斎田雄一氏に みそめられ?特許出願となり,既に米国特許は成立取得して,

現在に至っている。透明なプラスチックゴーグルの両端に各 56個(総数112個)の白色LEDが実装されている。用いた 白色LEDは,InGaNを活性層とする青色LEDの上にYAG 系 の 蛍 光 体 を 塗 布 し た タ イ プ の 素 子 ( 日 亜 化 学 製 NSPW310AS)を用いた。この素子の発光効率は,定格駆動

(3.5 V, 20 mA)時に約15lm/Wであり,ビームの広がり角 は60°である。LEDの駆動には,商用電源をAC / DC変換し

て用いることも可能であるが,持ち運びができるよう充電可能なLiイオン電池(SONY製,NP-F960)を 用いて試作した。LEDに常に一定の電力を供給するために,DC / DCコンバーター(ETA製,SVM-15SC12)

を用いて光出力を設定した1-4

(3) 世界初のLED照明のみでの外科手術

実際このゴーグル装置を用いた世界初のLED照明のみでの外科手術を2000年9月11日に京都府立与謝 図2.3.2.2

図2.3.2.3 図2.3.2.2

図 2.2.3.4  生分解プレポリマーによる光立体微細構造。
図 2.4.3.2 に直径 1 ミクロンのポリスチレンビー ズ像と酵母菌の像を示す。ポリスチレンの観測にお いてはラマン強度が弱い 1030cm -1 (a)と強いラマン バンドがある 990cm -1 (b)で観測を行った。図を見て 分かるように強度差があり分子振動に合わせること で選択的にイメージが得られることが分かる。 また, (c)に酵母菌の像を示すが,アミド III のバンドがあ る 1215 cm -1 で観測することで酵母菌内部の信号 が大きくなっていることが分かる 7) 。  最近我々は,
表 3.1.8.2   渋果と脱渋果の吸光度比( He-Ne/Ar )   軟 X 線やレーザ光線利用による渋果の判定は実用可能であるものの農業現場での反応は鈍かった。 そこで, さらに検討を行った。レーザ光線利用の理由は,透過強度が大きいことに期待してのことであった。その後, 試行錯誤の末, スライド映写横を使ってみた結果, ハロゲン球から出る光が果実を透過することを発見した。 600W 以上のスライド映写機で実用的光強度が得られることが分かり,研究室で簡単な試作を行って無償提 供した。岐阜大学に勤務して
図 3.3.4.3  各種ソーセージの NMR イメージ (左)と水・油の分布(右) 。右のイメージは 横軸が化学シフト縦軸が対応するNMRイメ ージの縦位置でNMRイメージ上の四角で囲 った部分を測定している。  水  油サラミソーセージ 粗挽きソーセージ 魚肉ソーセージ 図3.3.4.1 にミニトマトの成育過程におけるイメージ変化を示した 8) 。上の NMR イメージは水の量を表し下は縦緩和時間(T1)の値をイメージ強度として表したもので,白いところほど緩和時間が長く水の運動性が高いことを示している。
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参照

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