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ヨーロピアン・オプション・アプローチによる企業の倒産確率推定 

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Academic year: 2021

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ヨーロピアン・オプション・アプローチによる企業の倒産確率推定 

00D8103005L  星  里佳

中央大学理工学部情報工学科  田口研究室 2004 年 3 月

あらまし:本研究では,倒産の法律上の定義である「負 債を現有資産の売却によっても返済できない」 という点 に着目し, 企業のバランスシート上において資産価値が 負債価値以下になった場合を倒産と定義して, 企業資産 を原資産,負債価値を行使価格,企業の資本をヨーロピ アン型のコール・オプションとみなし,倒産確率を推定 する.

キーワード:倒産確率,ヨーロピアン・コール・オプシ ョン,株価ボラティリティ

1   はじめに

「大企業は潰れない」というのが,長い間日本では常 識だった.しかし,近年では,長引く不況の中で上場企 業の倒産は後を絶たない.それゆえに,人々は企業の状 態に関心があるが, 専門知識がないと企業の状態を把握 することは難しい.そこで,倒産確率を時系列で計算し て,企業の状態を簡易的に評価する.

2   企業の評価 2.1  格付け

格付けとは企業の支払い能力の程度を表すものであ る.特定の企業を対象に,支払い能力の高い段階から低 い段階までグループに分け, それを分かり易い符号で示 している.

2.2  倒産確率の推定方法

倒産確率推定には様々な方法があり, 格付けデータを 用いるアプローチ,財務データを用いるアプローチ,オ プションモデルを用いるアプローチ等に分類される [1] . 3   オプション・アプローチによる倒産確率 推定モデル

3.1  オプション

オプションとは,ある目的物 (原資産 )を一定の期日 (権 利行使日 )に特定の価格 (権利行使価格 )で買い付ける,又 は売りつける「権利」をいう.買う権利をコール・オプ ションといい, 満期日にしか権利行使ができないものを ヨーロピアン・オプションという.

3.2  ヨーロピアン・オプション・アプローチ 企業のバランスシート上で,ヨーロピアン・コール・オ プションにおける原資産に企業資産を,権利行使価格に負 債価値を,権利行使日に倒産確率推定日をそれぞれ対応さ せ,倒産確率を推定する.ある時点から見た将来時点 T の 資産価値を ,負債価値を としたとき,負債価 値が資産価値を上回る,つまり になるよう なときを倒産とみなし,その確率 を推定する.

A

T

B

T

T

T

B

A <

) Pr( A

T

< B

T

3.3  定式化

3.3.1  企業資産の確率過程

原資産の動きには, 基本的な方向性を示す動きがまず あり, これと短期的なブラウン運動との合成として捉え ることが妥当である.このような運動を,幾何学的ブラ ウン運動という.ヨーロピアン・コール・オプションの オプション価値を求めるブラック=ショールズモデル

[2]では,原資産が,幾何学的ブラウン運動の確率過程 に従うことを想定している.よって,本研究では,企業 資産価値の変動を幾何学的ブラウン運動と捉えて, 確率 過程を仮定する.

3.3.2  ヨーロピアン・オプション・アプローチ

の定式化

資産価値 A

t

( 0 ≤ tT ) が,

t t A t A

t

A t A Z

A d d

d = µ + σ (1)

µ

A

:資産価値の期待収益率(定数)

σ

A

:資産価値のボラティリティ(定数)

Z

t

:ウィナー過程

のような確率微分方程式で表される幾何学的ブラウン 運動の確率過程に従うと仮定する.また,負債価値

( t T )

B

t

0 ≤ ≤ は, B

t

B

0

のように一定値と仮定する.

以上の仮定の下,時点 T における資産価値 は, (1) 式を解くことにより,

A

T

( )

{

A A A T

}

T

A T Z

A =

0

exp µ − σ

2

2 + σ d (2) となる.また,この式の両辺の対数値をとると

(

A A

)

A T

T

A T Z

A ln 2 d

ln =

0

+ µ − σ

2

+ σ (3)

となる. 幾何学的ブラウン運動の確率分布は対数正規分 布であることが分かっているため,資産価値 の対数 値が,分散 ,平均

A

T

T

A

σ

2

ln A

0

+ ( µ −

A

σ

A2

2 ) T の正規分 布に従うことを意味する.したがって,時点 0 から見 た時点 T での期待倒産確率(

Expected Default Probability,

EDP

)は,

( )

( )

( ) ( )

⎟⎟ ⎠

⎜⎜ ⎞

⎛ + −

=

=

<

=

T

T B

N A

A A f

A B A

A A A T B

T T

T T T

σ σ

µ 2

1 ln

ln d ln

ln

| ln ln Pr EDP

2 0

ln 0

0

(4)

と求まる[3].ただし, f (x ) は正規密度関数, N (• ) は累積標準正規密度関数である.

3.4  パラメータ

3.4.1  パラメータの推定

(4.4)式の方法で倒産確率を求めるには,パラメータ

, ,

A

0

B

T

µ

A

, σ

A

T に値を与える必要がある.以 下にパラメータの与え方を示す.

(1)時点 T

=

T 1 年とする.

(2)時点 T における負債価値 B

T

=

= B

0

B

T

「直近の負債の簿価」とする.

(3) 時点 0 における資産価値 A

0

自己資本の時価 は,時点 0 における株価 に発行 済み株式数 を乗じることによって得られる. したがっ て,時点 0 における資産価値は, とする.

E

0

S

0

n

0 0

0

B nS

A = + (4)資産価値期待収益率 µ

A

一年物国債金利 r を利用し, µ

A

= r とする.

(2)

(5)資産価値ボラティリティ σ

A

株価,自己資本価値,資産価値の間に幾つかの関係を 仮定することにより,

( )

1 0

0

N x A

E

A

E

σ

σ = (5)

が成り立つ.この式を σ

A

について解く.

3.4.2  株価ボラティリティ

株価ボラティリティは,株価(終値)の過去 日分の 日次対数収益率を年率換算して得られる,ヒストリカ ル・ボラティリティとする.本研究では 60 とした.

n

= n 4  実証分析

4.1   NEEDS-Financial QUEST

NEEDS-Financial QUEST は日経メディアマーケ ティング株式会社が提供している,証券,財務,マクロ 経済等のデータベースである.この中から,企業データ を抽出して利用した.

4.2 倒産企業の倒産確率推移

2000 年〜 2003 年に倒産した上場企業21 社の倒産確 率を算出した.対象期間は 1998 年 4 月〜 2002 年 12 月である. 2002 年までに倒産した企業のうち, 3 社の 倒産確率は倒産する数ヶ月前から急激に高い値を示す ようになった.しかし,その他 17 社に関しては,倒産 する 1 年以上前から,倒産確率が 15%以上もの高い値 を示している.このことから,企業の倒産を予測する際 に, 1 年以上前から 15%以上の値を示すということが1 つの基準になると思われる.

図1 に 2002 年 10 月に倒産した企業の倒産確率推移 を示す.図1 において倒産確率が急激に下降している部 分がある.これは,大きな変動と小さな変動を繰り返し ながら下降する株価特有の動きにより, 株価ボラティリ ティが急激に下降する場合があり, 株価ボラティリティ に依存している倒産確率も下降するためである.

X X

XXXX X

XXXX X

X X

X XX

XX

XX X

XX XX

X XX

XX X

XXX X

XXXX XX

XX X

XXX

X X

XXX X

X

1998/04 1998/07 1998/10 1999/01 1999/04 1999/07 1999/10 2000/01 2000/04 2000/07 2000/10 2001/01 2001/04 2001/07 2001/10 2002/01 2002/04 2002/07 2002/10

0 0 .0 5 0 .1 0 .1 5 0 .2 0 .2 5 0 .3 0 .3 5 0 .4

倒産確率

図 1  倒産確率推移(ニッセキハウス工業)

4.3  倒産企業と現存企業の倒産確率推移

同業種かつ同資産規模の,倒産企業と現存企業との 倒産確率推移を比較した.図 2 において,ニコニコ堂 は倒産企業,東急ストアは現存企業である.

図 2 をみると,倒産時点よりかなり前から倒産企業 の方が現存企業より高い倒産確率を示す傾向がある. し たがって, 倒産企業と現存企業の判別を倒産時点より前 にできる可能性があることを示している.

4.4  倒産企業と株価

図3 をみると,株価/ TOPIX が大きく上昇(下降)して いるときに,倒産確率も追って下降(上昇)している傾 向がみられる.これは株価/ TOPIXが企業の状態をみる にあたり,重要視すべき指標であるということを意味し ている .

XXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXX XX

X XXXXX

XXX XXXXXXXX

XXX XX

XX XX

XX XXX

X XXXX

X XX

XX X

X XXXX

1998/04 1998/07 1998/10 1999/01 1999/04 1999/07 1999/10 2000/01 2000/04 2000/07 2000/10 2001/01 2001/04 2001/07 2001/10 2002/01 2002/04 2002/07 2002/10

0 0 .0 5 0 .1 0 .1 5 0 .2 0 .2 5 0 .3 0 .3 5 0 .4

倒産確率

   

ニコニコ堂 

   

東急ストア

図 2  倒産確率推移(ニコニコ堂,東急ストア)

0 0.1 0.2 0.3 0.4

199 8/04

1998/

07 1998/10

1999/01 1999/04

199 9/07

1999/

10 2000/01

2000/04 2000/07 倒

産 確

率 0

0.05 0.1 0.15 0.2

株 価

/ T O P I X

倒産確率 株価/TOPIX

図 3  倒産確率と株価/TOPIX の推移(そごう)

4.5  現存企業の分類

倒産確率推移より現存スーパー 10 社を 3 つに分類し た. 2002 年 12 月より 1 年以上前かつ1年以内に倒産 確率15%を示した企業を「倒産兆候企業」 ,対象期間中 に倒産確率 5%〜 15%を 2 度以上示した企業を 「注意企 業」 , それ以外を「安全企業」とした.

倒産兆候企業:西友,ダイエー

注意企業:東武ストア,ライフコーポレーション 安全企業:イトーヨーカ堂, いなげや, ヨークベニマル,

イオン,東急ストア,オリンピック 5  まとめ

本研究では,企業の資本価値をヨーロピアン・コー ル・オプション価値とみなし,企業の倒産確率を推定し た.倒産企業の倒産確率推移から,倒産企業は 1 年以 上も前から高い倒産確率を示すことなどの特徴がみら れ, 本研究におけるモデルの倒産確率推移は倒産を予測 するための重要な指標になることが分かった.しかし,

このモデルでは, 株価ボラティリティに倒産確率が依存 するため,倒産確率が急激に下降する場合がある.した がって,今後の課題として,直近の株価変動に重みを大 きくとるような可変の株価ボラティリティの算出をす ることが必要である.

謝辞

本研究を進めるにあたり,多大なるご指導とご助言を 頂きました田口東教授に深く感謝いたします.

参考文献

[1]  今野浩,森平爽一郎他,リスク管理モデルに関す る研究会報告書,金融監督庁, 1999 年7 月.

[2]  今野浩,鈴木賢一,批々木規雄 [訳] デービット・

G・ルーエンバーガー,金融工学入門,日本経済新 聞社, 2002.

[3]  森平爽一郎,倒産確率推定のオプションアプロー

チ,証券アナリストジャーナル1997 年 10 月号.

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