九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
小児がん患児への病名告知に関する研究 : がんの子 どもを取り巻く大人へのインタビュー調査
前原, 葉子
国立病院機構九州がんセンター
黒木, 俊秀
九州大学大学院人間環境学研究院
https://doi.org/10.15017/2228895
出版情報:九州大学心理学研究. 18, pp.127-135, 2017-03-23. 九州大学大学院人間環境学研究院 バージョン:
権利関係:
小児がん患児への病名告知に関する研究
― がんの子どもを取り巻く大人へのインタビュー調査 ―
前原 葉子 国立病院機構九州がんセンター
黒木 俊秀 九州大学大学院人間環境学研究院
Exploratory research about informed consent in children with cancer: Interviewing individuals related to children with cancer
Yoko Maehara(National Hospital Organization Kyushu Cancer Center)
Toshihide Kuroki(Faculty of Human-Environment Studies, Kyushu University)
The purpose of the present study was to acquire knowledge concerning informed consent in children with cancer.
We interviewed 5 individuals with significant influences on the minds of children with cancer.
We assessed the point of view of the children to understand their thoughts and feelings. From the resulting data, we concluded the following: ① both verbal and non-verbal communication are important when talking to children about their disease; ② there are challenges for adults in thinking clearly when making important decisions for their children;
and ③ it was difficult for parents to accept their children’s diseases and to understand how their thoughts significantly af- fected those of their children.
These supporters tended to place higher importance on verbal communication. We suggest that it is also important to be aware of the body language of children, including their expressions and behavior.
Key Words: Childhood cancer, informed consent, informed assent, verbal communication, non-verbal communication
問題と目的
小児がんとは,胎児期から思春期にわたる広範囲な年 齢層に,様々な部位から生ずる悪性新生物の総称で,ま れな疾患ではあるが,わが国で 5 歳以上の小児の病死の うちでは最も多いとされる。現在,治療成績が改善され,
適切な治療を行えば平均 70%が治癒するようになった
(恒松,2011)。
一方,新たな問題として,小児がんへの罹患やその治 療は,治療後も長期にわたり患者の心身に影響を及ぼす こと,また病気に対する否定的なイメージや恐怖感を抱 くことが,晩期合併症の予防や二次がんの早期発見のた めの定期的な受診行動を阻害する可能性があることが指 摘されている(武井ら,2013)。Early and Toxicity Educa- tion Committee(ELTEC)委員会では,小児がん治療終 了後に「治癒」という言葉をどのように使うべきか,継 続的な長期フォローアップとケアにどう取り組むべき か,小児がん経験者や社会とどのように対話するべきか などについて話し合われている(石田・細谷,2011)。
「がん」は,死に至る病という印象が強く,診断時に は告知を行うかどうかなどの課題もあり,他の疾患への 罹患よりも悲嘆の度合いは強いことがいわれている
(丸・石田,2009)。インフォームド・コンセントについ ては,その意義について論じられているものの,日本の
小児がん医療において積極的に行っているのは 10%弱
(堀・駒田,2000)という実態もある。恒松(1997/
2011)は,法的には同意能力が認められていない未成年 者の場合でも,実際には学齢期以上の子どもにおいては かなりの理解力を有しており,子どもを一概に同意能力 のないものと捉えるのではなく,身体的にも精神的にも 連続的に成長し,発達的に自律性をもった存在と捉え,
本人の理解度に合わせて十分に説明をする必要があると 述べている。また,同意能力をもたない者に対して,ヘ ルシンキ宣言(2000)第 25 条では「未成年者の賛意」
として,「インフォームド・アセント」について述べて いる。インフォームド・アセントとは,子どもの発達に 応じた適切なawareness(知ること,気づき)を助けな がら,これから何が検査や処置で起こるかを正確に伝え ることであり,そしてその説明から,子ども自身がどの ように状況を理解しているかを考慮しながら,子どもが 治療を受けようとする気持ちを引きだすことである(田 中,2006)。北野(2009)は,子どもの年齢や発達段階 を考慮し,理解を促すための説明アプローチを検討して いる。しかしながら,その中では,子どもの年齢や発達 段階には個人差があるため,子どもの理解力をそれだけ で判断することは困難とし,さらにこうした個人差以外 にも,性別,コミュニケーション力や教育レベル等も関 連していることも考えられ年齢や発達段階ごとの説明ア
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プローチを検討するのには限界があるとしている。加え て,場合によっては説明することで不安や恐怖を増加さ せる場合もあると述べている。
“こどもの心を知ること”が小児がん患児のトータル ケアの第一歩である,と堀・駒田(2000)は述べている。
さらには,「こどもはおとなが想像する以上の感受性を もって自分の置かれた状況を理解し,困難に対しておと な以上に肯定的,楽観的に反応する傾向があるように思 われる」とし,「こどもの心理的特性を理解した上で,
“闘病の大切さ”,“いのちの尊さ”,“生きる喜び”を教 え,困難をともに乗り越えていく態度を示すことが医療 従事者を含めたおとなに求められている」と述べてい る。
以上より,本研究では,小児がんを経験することが,
その子にとって決してネガティブな体験でとどまらない よう,ひいては,少しでもポジティブな受け取りにつな がるような支援を目指し,小児がん患児への病名告知に 関する知見を得ることを目的とする。従来,小児がん患 児への支援は,小児科医や看護師が中核をなし,生物 的・身体的な医療に加え,心理的な支援もおこなってい た。近年,心理面へのサポートの重要性はいわれている も,小児緩和ケアや心理社会的支援の領域はまだ過渡期 といえる。そのため今回は,直接がん治療に当たる大人 の周囲にいて,子どもの心理面の支援を主としておこな う大人(Fig.1)を対象としたインタビュー調査を通し,
病名告知の際に考慮することが望ましい,“子どもの心 を知るための観点”について検討する。
方 法
1)研究協力者:小児がん患児に関わった成人(保護者,
精神科医,院内学級教師,臨床心理士,元小学校担任教師)
2)調査時期:2015 年 11 月~12 月 3)調査方法および内容
半構造化面接にて,以下のことについて聴取した(40~
90 分)。面接内容は許可を得て,ICレコーダーに録音した。
①基本情報(職業,経験/勤続年数,性別,年齢)
②個人の体験に基づき,普段の仕事内容,子どもへの 具体的関わり,心がけている(いた)こと
③告知にまつわること(実情,取り組み)
④各々の視線から,子ども達はどのように病気を理解 あるいは受け止めていると思うか,またそのことに影 響を及ぼすものとしてどのようなことが考えられるか
4)分析方法
グラウンデッド・セオリー・アプローチ(戈木クレイ グヒル版を参考:戈木,2005)を行った。インタビュー データから逐語録を作成し,それを熟読して内容ごとに 区切り,切片化した。それらを文脈の意味を確認しなが らラベル名をつけ,その後,データとの整合性を確認し ながらカテゴリーを抽出,カテゴリー関連図を作成し た。分析の信用性を高めるため,カテゴリー抽出過程に おいて臨床心理学を学ぶ学生に監修を受けた。
5)倫理的配慮
研究協力者へは研究の趣旨を口頭と文書にて説明し,
同意を得た。研究への協力は自由意思に基づくこと,協 力を辞退した場合でも不利益を被ることがないこと,研 究の途中であっても中止することが可能であることを説 明した。また研究の成果は学術目的のために公表される
Fig_01. 小児がん医療チームのイメージ図
小児科医・看護師 生物学的・身体的支援
心理的支援
臨床心理士 小学校担任教師
院内学級教師 保護者
精神科医
Fig.1 小児がん医療チームのイメージ図
可能性があること,その際には個人が特定できない形で データを扱い匿名性の保持に努めること,プライバシー が最大限に保護されることを説明した。なお,本研究に 取り組むにあたり,九州大学大学院人間環境学研究院臨 床心理学講座研究倫理委員会の承認を得た。
結 果 1)研究協力者の概要
研究協力者は 5 名であり,Table 1 に背景および実際 の小児がん患児との関わりについて記す。
2)カテゴリー分析結果およびストーリーライン
小児患児への関わり,特に子どもへの病名告知におけ る“子どもの心を知るための観点”について分析した結 果,2 カテゴリーと 4 サブカテゴリー,14 ラベルが抽出 された(Table 2)。なお,本研究では,カテゴリー関連 図(Fig.2)の中核にあたるものを“カテゴリー”とし,その他のカテゴリーは“サブカテゴリー”としている。
カテゴリーを 【 】 ,サブカテゴリーを 《 》 ,ラベルを
〈 〉 ,研究協力者の語りを 「 」 で記載した。
子どもは小児がんに罹患した当初,《大人からみた子 どもの心》,〈不安な気持ち〉〈不安定な気持ち〉〈あえて 口にしないという気持ち〉〈病気への前向きなとらえ〉
のようなさまざまな気持ちを抱えていた。病名告知(病 気のことを伝えること)にあたり子どもを取り巻く大人 たちは,【言葉を介した関わり】と【言葉でないもの】
という観点をもって,子どもの心を知る取り組みをして いた。【言葉を介した関わり】には,〈子どもとの何気な い日常会話を大切にする〉,〈重要なことを子どもときち んと話し合う〉,〈子どもの心を言葉として形にすること を手伝う〉,〈子どもを取り巻く大人で話し合う〉ことが,
【言葉でないもの】には,〈子どもの感覚に応じる〉,
〈日々の観察を心掛ける〉,〈子どもの潜在的な力を信じ る〉ことがあった。
もう一つの流れとして,子どもが小児がんに罹患した
際,《親の子どもの病気を受け入れる難しさ》が大きく,
《親の心をきく》という親へのサポートがされていた。
結果,親も子どもを支える大人チームのひとりとして 機能し,子どもに安心感を与える等の役割を果たしてい た。親も含めた子どもを取り巻く大人たちで,子どもの 心に配慮した関わりをおこない,《告知についての実情》
に至っていた。その一方で,親の受け入れ難さ(拒否感,
不安,葛藤)が強く,ほとんど伝えられていないままで あるという《告知についての実情》もあった。
考 察
本研究では,病名告知の際に考慮することが望まし い,“子どもの心を知るための観点”について,小児が ん患児に異なる立場から関わった大人へのインタビュー 調査を通してとらえてきた。面接した対象が,医師や看 護師らの直接患児の身体面のケアに当たる大人ではな く,精神科医や臨床心理士,院内学級教師など,主に心 理的支援に関わる大人であることが,本研究の特徴とい える。さらに,患児の保護者や担任教師の経験のある大 人も面接対象に含めた。
その結果,①病名告知(病気のことを伝えること)に あたり子どもを取り巻く大人たちは,【言葉を介した関 わり】と【言葉でないもの】という観点をもって,子ど もの心を知る取り組みをしていた(Fig.2)。言葉にする ことの大切さ,言葉でないものの大切さの両方が,共通 するものとしてみられた。その一方で,②子どものため にできることはしたいという思いは同じくしても,病名 告知や重要な決定に際し,子どもを取り巻く大人間で,
意見を統一する難しさがあることが明らかとなった。ま た,③《親の子どもの病気を受け入れる難しさ》が大き いこと,親の考えが子どもにとって大きな影響をおよぼ すことが示唆された。ここでは,インタビューで語られ たことを具体的に提示しながら,上記結果について考察 する。なお,どの協力者の語りによるものかを,Table 1 のアルファベットで記している。
Table 1
研究協力者の概要
職 業 性 別 年 齢 経験年数 勤続年数 小児がん患児との関わり
主婦 女性 50 代 子ども(以下,A)が 6 歳(小学校入学直前)のときに小 児がんに罹患。Aは発病後 15 年以上が経過,治癒してお り,現在大学生である。
精神科医B 女性 40 代 9 年 4 年 大学病院の小児緩和ケアとして,小児がん患児に関わる。
院内学級教師C 女性 50 代 4 年 2 年 院内学級担任教諭として,日々院内学級に所属する小児がん患児に関わる。
臨床心理士D 女性 30 代 10 年 8 年 日々0 歳児から高齢者までのがん患者に関わる。
元小学校担任教師(以下,
小学校担任教師)E 男性 50 代 20 年 3 年 クラス担任として,小児がん患児に関わった。担任中に児童は亡くなっている。
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Table 2 “子どもの心を知るための観点”に関わるカテゴリー カテゴリーサブカテゴリーラベル語 り 《大人からみた 子どもの心》
〈不安な気持ち〉「クラス,親,友人と離れ離れになって孤立を感じている」 「友だちはもう忘れたんじゃないか」 「実は怖い夢みるんだ」 「(医療者に対して)お母さん,大丈夫なん?」 〈不安定な気持ち〉「心がグラグラ揺れて」荒れている 言いたいことが上手く言えずに「イライラしてる」 「大人がきちんと(他児の死について)表明しないことで,すごい怒る」 〈あえて口にしないと いう気持ち〉「(医療者が)自分ではどんなふうに思ってるのって(子どもに)聞いたら,子ども:肺のここにあるんでしょって。もうわかってましたけど」 亡くなった子について子どもは,「ちゃんと認識がある」けれど,「口には出さないし,聞く子もいない」 「亡くなった子の友人に聞くと,(本人は)自分の病気はわかってたけど,子ども:お母さんに言うと心配するから言わないでいる」 〈病気への前向きなとらえ〉
子どもは,入院や治療のため学校を休む必要があることやある一つの治療を受けることを,「短いスパンで」みている 「死ぬって考えてないんじゃないかな」 「せんやったら(治療をしなかったら)死ぬんやったら,じゃあするしかないやろ」 「なんか(治療)してもらったら,よくなるんじゃないか」 「まぁしょうがない,いのちというのはそうやって終わるもんだ」 「死ぬってことを,たぶん全然考えていなかった」 【言葉を介した関わり】
〈子どもとの何気ない 日常会話を大切にする〉
普段は,顔を合わせるのが「当たり前」のように「しれっと」会いに行っていた 「さぁ話そうとしても話さないし,でもいっぱい考えてるし,(中略)面と向かって喋ると喋ってくれないから,普段の語りからそこを拾うように。語りを拾ってくれる 人だなとわかると,いざというときに,じゃあ,どう思うと?とか聞くと,ちゃんと話してくれたり」 「本音が少しでも拾えるように,日ごろからずーっとこちょこちょこちょこちょ聞き取って。こうなときはこんなん言ってた。こんなときはこういう顔してた。こんなとき はこう思った。こんなときはこう言った。というのをずーっと蓄積していって」 〈重要なことを子どもと きちんと話し合う〉「(自分の病気について)隠されていると思うか思わないかとか。どういう伝え方が自分にとっていいと思うかとか。そんなのは,子どもの考えを聞くように」 「さんざんプレイルームであーでもないこーでもないって話をしたけど。(中略)あーでもないこうでもないって」 〈子どもの心を言葉として 形にすることを手伝う〉
「子ども:私は全部聞きたいとか言って。それでも緊張するわけですよ,医者を目の前にして。そのときはその事前に,医療者:先生に何聞きたいと?というのを 事前に聞いて。(中略)ちゃんと言葉にしてからそういう部屋に入れて」 「調子悪い子とか,治療を控えている子とかに(中略)声掛け,(話を)ふって…そうすると周りでで聞いてる子も,子ども:そうそう私も…って。私だけじゃないん だ…という気持ちになるみたいです」 〈子どもを取り巻く大人で 話し合う〉「子どもっていうのは,囲んでいる人がたくさんいるんですよね。看護師さん,保育士さん,先生とか,家族とか。やっぱそれが上手く機能するのが,一番いい かなと思う」 【言葉でないもの】
〈子どもの感覚に応じる〉「何か月かけた治療の中で,(中略)ずっと会って,楽なときもしんどいときも(お互いに)知っているという状態がないと聞けないし,言わない。そういう(告知な どの重大な)話があったときの子どもの表情とか反応とかは,その前の積み重ねがあってわかるもの(扱えるもの)」 「子どもの感覚に応じるときにずれないように」 〈日々の観察を心掛ける〉「変化がみれますよね。治療がはいってるときはこうなって,治療が抜けるころはこんな感じで,(中略)身体と心の変化をみている」 「子どもの長い関わりの中で,子ども達がこんなことしたいとかわかっていたら,予後とか言わず,でも(子どもが望んでいることを)できるようにサポート」 〈子どもの潜在的な 力を信じる〉「わーって泣いたりとか,一晩がくんと落ちてたりとかしても,意外と子どもってその耐える力があるというか,揺れても戻る力があるというのか。まぁ数日経つと ちょっと良くなってますけどね。それを待つってのも大事と思いますけど。もうおたおたってせずに。(中略)子どもの方が覚悟,覚悟するというか。(中略)そこで, 仕方ないっていう言葉が出てきますけどね」 《親の子どもの病気を 受け入れる難しさ》〈親の子どもの病気を 受け入れる難しさ〉
「親はほんとにその病気,受け入れるのがきついんよね」 「やっぱり親はね,なかなか受け入れられない」 子どもから病気や死に関することを尋ねられたときは,「怒ったり,否定する親が多い」 「お母さんもそういうもの(いのちには限りがあるもの)だからということをわりと娘さん(子ども)に言って」 「だいぶお母様も荒れてましたけど。母親:もうどうしたらいいのかわからんって。言わない方がいいのか言った方がいいのかわからない」 《親の心をきく》〈親の心をきく〉「親もまさか自分の子どもが病気になるはずはなかったっていう,まず喪失から始まり,自分の生活ががたがたっと変わって,残してくる兄弟児もいたり,中には, 兄弟児がドナーになったりすることもあり,(中略)日々思うことを」聞いていた 《告知についての 実情》〈告知についての実情〉
「白血病だとは言ってるけど,がんとは言ってません」「悪性リンパ腫だけど,リンパ腫って言ってます」 「白血病だってことは(子どもは)知っている。命に関わるということは,話せないから話していません」 「なんかちょっと誤魔化して」 「みんな言ってないんじゃないかな……。みんな言ってないと思うよ」 「その二人ぐらいじゃないかな。予後的なものとか,厳しい治療の話まで全部聞いて選んだのは。(中略)全部聞いてる子は少ないですね」
1)子どもの主体性を尊重した援助の第一歩としての
“ 病名告知 ”
そもそも,告知をおこなう目的は,子どもが自分の 病気を理解し,意思決定や自主性を育て,自分の病気 は自分で治そうと決意をもってもらうこと,つまりは,
子どもが自分の病気に向き合う,自分自身のことを理 解するための援助と考えることができる。ひいては,子 どもの主体性の尊重ともいえる。子どもの主体性とは,
自分と周囲との相互関係のなかで,自らのあり方を感 じ取り,判断して自分のこととして行動できることで ある。治療の選択においては,決定に関する様々な情 報を共有する合意のプロセスが重要であるといわれて いる(清水,2005)ように,病名(病気のこと)につ いて,伝えるか,伝えないかの結果ではなく,そこに 至るまでの過程が重要であると考える。戈木ら(2004)
は,子どもに病名を含んだ病気や治療に関する情報が 提供されたことにより,子どもの闘病への積極性が強 化され,結果として,大切なものがわかる,がんばれる,
周囲への思いやりが強くなるといった子どもの成長が 促進されたと述べている。
病名告知とは,基本的には,“言葉”で伝える作業と いえる。本研究において,【言葉を介した関わり】に表 されたように,多くの場合,子どもが病気を受け入れる ためには“誰かと”言葉にするという作業(分かつ作業)
を必要としていることが示唆された。言葉として分か つ,それは一方方向のものではなく,相互のやり取りで もって成されるものである。その相手は,信頼をおいた
誰か(親,友人,医療者,教師など)かもしれず,自分 自身の場合もある。前提として,年齢や発達段階による 病気や病状の理解も関連していると考えられるが,その 理解に応じて,子どもが自分に起こっていることを知覚 し,意味づけができるような作業を一緒におこなうこと が大切であることが示された。
子どもは病気のことについて,「言葉にはしなくても わかってると思いますよ(C)」というように,的確に 自身の病気を認識しているにも関わらず,周囲を気遣っ て口にしないことがあった。さらには,「子どもも自分 が深刻なことだとわかっている。大人も大変な状態だと わかってる,子どもが大変な病態だとわかっているけど
(中略)お互いに病気のことは言わないことで,一見円 満にやっているところが結構ある(B)」という状況も あった。時に子どもは,疑問に思ったことを周囲の大人 にたずねることがある。答えを求めていることももちろ んあるが,たずねたその人がどんな反応をするか,にと ても敏感であるといえる。平田(2014)は,子どもは周 囲の人が話したがらないことを察して,自らの情報のみ で想像を膨らませ,不安や心配を抱えたまま自分の殻に 閉じこもってしまうことがあると指摘している。悲しみ のさなかにいる子どもにとって,子どもが,自分は孤独 ではなく,誰かと苦悩の感情を分かち合っているのだと 実感できることが少ないことが考えられる。
小児がん患児へのインフォームド・コンセントについ て,細谷(1991)は,子どもたちに嘘をつくのはよくな いという結論に達し,診断がついた患児には年齢と理解
《大人からみた子どもの心》
不安な気持ち 不安定な気持ち
あえて口にしないという気持ち 病気への前向きなとらえ
《親の子どもの病気を受け入れる難しさ》
《告知についての実情》
Fig_02.“子どもの心を知るための観点”に関わるカテゴリー関連図
【 】は中心となるカテゴリー,《 》はサブカテゴリーを示す。推測できる関係は破線で記した。
子どもの心を知るための観点 《親の心をきく》
【言葉を介した関わり】
子どもとの何気ない日常会話を大切にする 重要なことを子どもときちんと話し合う 子どもの心を言葉として形にすることを手伝う 子どもを取り巻く大人で話し合う
【言葉でないもの】
子どもの感覚に応じる 日々の観察を心掛ける 子どもの潜在的な力を信じる
Fig.2
“子どもの心を知るための観点”に関わるカテゴリー関連図
【 】は中心となるカテゴリー,《 》はサブカテゴリーを示す。推測できる関係は破線で記した。
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度に応じて,病態を説明し,時には病名も告げている。
このなかで細谷は,しっかりした心理面からのサポート もできる医療チームがあれば,問題は起こらないとして いる。松永(2014)は,その著書のなかで,患者が自発 的な同意ができるまで納得のいく説明をするのが本当の 意味でのインフォームド・コンセントであると述べてい る。今回,現状としては,ほとんど何がしかの形で子ど もへの説明がされているということではあったが,「も う少し子どもに情報を与えれば,もう少し違う選択をす るのかなと思うこともある(D)」という意見が述べら れているように,十分とは言い難いことが窺われた。
2)子どもの心を知るために
今回,小児患児への関わり,特に子どもへの病名告 知をめぐる流れのなかから,“子どもの心を知るための 観点”の中核として,【言葉を介した関わり】と【言葉 でないもの】が導かれた。「戻るべきところは,子ども の意思(本音)だと思う(D)」というように,重大な 意思(方針)決定場面において,大人の意見がまとま らず判断に迷った際,子ども本人の本音に戻ることが,
その子をひとりの人間として尊重した関わりであると 考える。
子どもの心を知るための関わりとして,言葉にするこ とが挙げられた。院内学級教師や臨床心理士は,“子ど もが言葉にする作業を援助する”ことを語った。例とし て,主治医との話し合いに臨むにあたり,何を,どうい う意図で,どの程度知りたいかなど,事前に子どもに思 いをたずね,一度言語化する作業を経ておくことや,緊 張して上手く言えなかったときを想定し,子どもに紙に 書いたものを用意させておくなどの働きかけがあった
(D)。他にも,あえて病気や治療にまつわる話題を子ど もにふり,「そうそう私も…」と院内学級内において子 どもたちが発言しやすい雰囲気をつくったり,「私だけ じゃないんだ…」と子どもたちの中で気持ちの共有がは かりやすいような働きかけをしていた(C)。子どもの なかには,病気に関する本や,わが子を亡くした親が子 どものことについて綴った本などを読む子もいた。子ど も自身のなかで言語化する作業をおこない,自分の病気 に向き合おうとしていることが考えられる。
もう一つ,子どもの心を知ることにおいて,言葉でな いもの,つまり,言葉にならない子どもの思いや気持ち へ感覚を研ぎ澄ますことが大切であることが示唆され た。子どもであるがゆえ,上手く言語化できなかったり,
分かりやすく表現できない部分があり,それが時にイラ イラした態度となって出ることがある。あえて言葉にし ないということもある。子どもは,口にしないだけで多 くを理解しうる存在であるこということを意識し,普段 の関わりにおいて,一緒に喜んだり,体験を共有するこ
とを通して,子どもが好きなことや楽しいと感じている こと,子どものありたい姿というものを感じ取っていく ことが大切であることが示された。「楽なときもしんど いときもお互いに知っているという状態があり,はじめ て話し合えることもある(B)」というように,長期入 院生活において,【言葉でないもの】を積み重ねていく ことで,【言葉にする関わり】が促進されることも推測 された。
また子どもは,つらく不安定な状況に陥っても,それ に耐える力や戻る力(心の回復力)があることが示唆さ れた。堀・駒田(2000)が「こどもはおとなが想像する 以上の感受性をもって自分の置かれた状況を理解し,困 難に対しておとな以上に肯定的,楽観的に反応する傾向 があるように思われる」と述べているように,子どもに は潜在的な力があることを認識しておかねばならないこ とが示された。
3)チームとして関わる
子どもの心を知ろうと大人が試みるなかで,子どもを 支援していく基盤(子どもを取り巻く大人の医療チー ム)が課題であることが示唆された。丸・石田(2009)
はチームについて,共通の目的,達成すべき目標,その ためのアプローチを共有し,連帯責任を果たせる専門的 な技術を備えた人々の集まりであるとし,多職種が存在 する“多職種チーム”ではなく,子どもや家族のニーズ や問題解決のため,同じ目標に向かって取り組んでいく
“合同チーム”となることが必要であると述べている。
親は,子どもとともに支援の対象となり,チームの中心 に位置する場合もあれば,子どもを取り巻く大人チーム の一員として欠かせない存在ともなると考えられる。
子どもは,「囲んでいる人(関わっている人)がたく さんいる(B)」ことが,大きな特徴といえる。どうし ても何かをしてあげたくなる存在であるため,良くも悪 くもさまざまな大人の意向が働くことになる。今回,子 どものためにできることをしたい,という気持ちは同じ だが,職種柄,さらには個人の考えに基づいた思いがあ り,意思(方針)の統一を目指して話し合うも,それぞ れの考えに対するもどかしさや足並みをそろえる難しさ があることが語られた。それぞれの基本的な役割とし て,精神科医は,親へのサポートや,どちらかといえば,
黒子のような立ち位置を意識し子どもに関わっていた。
院内学級教師は,勉強,友達との関わり,本来なら学校 で学ぶべきものを提供する役割を,臨床心理士は,親を サポートする存在であり,子どもたちの「味方」という 存在であった。小学校担任教師は,いずれ子どもの戻る
“日常”として機能していた。病院内においては,カン ファレンスなどでその都度,医療者間の話し合いの場は もたれていたが,結果として,十分とは言い難い場合も
あることが窺えた。小学校担任教師からは,院内学級教 師1)と毎日メールでやり取りをおこない,密な連携を 取っていたということが語られた。それによって,クラ スの様子や授業の進捗状況を知りたがっていた子ども2)
に,随時,学校での出来事を伝えることができ,子ども は,同級生(日常)と繋がっている感じをもつことがで きていたと推測される。さらには,こうした取り組みに より,小学校担任教師,院内学級教師が常に子どもの様 子を把握でき,それぞれ一貫した役割(上述の基本的な 役割)を保つことができていた。特に院内学級教師とい うのは,子どもが亡くなるとわかっていても,なお勉強 を教え続けなければいけない場合もあり,時として教師 としてのアイデンティティを保つことが難しいことがあ る(E)。医療者らと違い,周囲に同じ状況を分かち合 える人も少ないため,孤立してしまうことが考えられ る。後日談として,その院内学級教師は,当時のメール のやり取りを紹介すべく,院内学級教師が集う勉強会の 場で発表したという。他職種間で協力し合う取り組みが まだまだ少ないことが窺われた。
細谷(1991)が述べている“心理面からのサポートも できる医療チーム”について考えたとき,チームが足並 みをそろえることは欠かせない要素だと考える。そこへ の取り組みの示唆として,言葉にすること,つまり,子 どもへの関わり方がさまざまなチームメンバーで,言葉 を共有すること(言葉を分かつこと),相手が納得のい くまで真意を伝え合うことが挙げられる。そして,子ど もに対してチームで関わるためには,それぞれが,“チー ムの一員であること”を自覚するところから始まるので はないかと考える。職種や立場による考えや行動が,先 走ってしまうことも致し方ないといえるが,チームの機 能が上手くまわることを一番に考えていこうと意識する ことは必要であると考える。精神科医は,「一番深刻な ところを,自分に言われたら,どちらかというと失敗し たと思うかもしれない。本来は先生(主治医)に言うべ きものとか,お母さんに言えたらいいものなのに,こっ ち(精神科医)に来ちゃったんだって」と話し,チーム で関わることを強く意識していた。「バレーボールじゃ ないけど,誰かがボールを拾えばいいというか。(中略)
いつ誰に言うかわからないけど,みんなで拾える(B)」
ような基盤を整えておくことが大切であることが示唆さ れた。今回,そのために大切となるのは,日頃から,そ れぞれの専門性や役割立場を理解し尊重し合うことに加 え,互いの心を知るということが考えられた。普段から の何気ない会話を大切にし,日々の体験を共有していく
こと,つまり,互いに言葉を介した関わりや,言葉でな いものへ意識を向けることを重ねていくことで,相手や 他職種への理解が深まるのではないだろうか,というこ とが考えられる。そしてそのような基盤が整えられてい るとき,同じ目標に向かって取り組んでいく“合同チー ム”として意思(方針)の統一が可能になると考える。
子ども心を知るための観点,【言葉を介した関わり】と
【言葉でないもの】と同じようなことが大人にも当ては まるのではないかということが示唆された。
4) 子どもにとっての親
子どもは,親の気持ちのゆれにいち早く気づき,その 影響をダイレクトに受けてしまう。今回,すべての協力 者の語りから,子どもにとって,親の存在がいかに大き いかが窺われている。《親の子どもの病気を受け入れる 難しさ》が大きいこと,親の考えが子どもにとって大き な影響をおよぼすこと,親の思いが子ども本人の思い以 上に,治療の進行に反映されていることが示唆された。
なかには,親が不安や責任をかかえることができないと いう理由から,子どもに意思決定を委ねたという話も あった。医療者らの評価にも,親の影響が強いことが あった。
基本的に,子どもにとって,親はもっとも大切で安心 できる存在といえる。堀川(2014)は自らが小児がん経 験者として,親の思いや気遣いは子どもに十分伝わって おり,子どもは親が不安を受け止めてくれるだけで闘う 気力がわいてくるものだと述べている。
親の苦悩と葛藤は計り知れないが,その親を支えつ つ,さらには機能させ,親も含めたチームになることが 何より大切であると考える。精神科医は,「何かを治そ うする必要は全くないけど,でも,お母さんにしか言え ないことがあるし,お母さんにしか見えないことがある から,それを絶対教えてください」といって,母親と役 割分担をし,チームに巻き込むかたちで関わっていた。
親の不安ややるせない気持ちを慮りつつ,親役割を支持 し機能させていく関わりが望ましいと考える。
5)保護者の語りから窺い知れる親の心,子どもの心
保護者(Aの母親)は,診断時,「病名受け入れるこ とができんわけよ。夢見てる感じ。(中略)とにかく涙 しか出んし」と,子どもの病気を受け入れることが困難 であった。9 年間通い続けた最後の定期検査で,「頭の 隅に,病気のこと,忘れないでくださいね」と医師に言 われ,話しの合間で数回,「とりあえず,今は元気だか ら」とどこか言い聞かせるように語る様子からは,治癒 したと言われていても,今なお,親の心には不安ともつ かない感情が存在していることが窺われた。病名につい て保護者は,Aが大学受験の時まで,白血病であること1)研究協力者とは別の院内学級教師
2)本来,院内学級に所属する場合は転校措置が必要だが,本児 は親の強い希望により,元の小学校に在籍したまま,院内学級 に入るという特別措置が取られていた。
九州大学心理学研究 第18巻 2017 134
をAに隠し続けており,高校生の頃にAから,実は白 血病だったのではとたずねられたが,否定したと語っ た。今回のインタビューの様子から,15 年以上経って ようやく,保護者自身,少しづつ整理ができる状態であ ることが窺えた。また過去をふり返るなかで,カウンセ ラーがいたらよかったとも話し,気持ちを出す場が必要 であったことが理解される。
闘病時にAは,「神様3)とお医者さんに助けられた」
と言い,中学生時,家族の中でひとり,キリスト教の洗 礼を受けた。調査時現在,Aは成人し,「自分を救って くれた」小児科医と同じ道を目指している。Aにとって 小児がんに罹患するということは,人生を大きく左右す るような体験であったと考える。生や死について考える こともあったのではと想像され,病気になったからこそ の思いを得ていた。中井久夫の言葉に,「『希望』を処方 する」というものがある(藤川,2015)。Aは小児がん と闘っている入院時や治療の間,牧師や医師によって,
『希望』を処方されていたのだと考えられる。
まとめと今後の課題
小児がんにおける医療チームのメンバーを大きく二つ に分類すると,主にがん治療と患児の身体ケアに直接た ずさわる職種と,身体的治療には直接関わらないが,そ れを周辺から支える職種に分かれるといえる。従来,小 児がん患児への支援は,小児科医や看護師が中核をな し,生物的・身体的な医療に加え,心理的な支援もおこ なっていた。近年,心理面へのサポートの重要性はいわ れているも,小児緩和ケアや心理社会的支援の領域はま だ過渡期といえる。本研究では,直接がん治療に当たる 大人の周囲にいて,子どもの心理面の支援を主としてお こなう大人を研究対象とした。今回,協力者の子どもへ の関わりがそれぞれ異なるのに加えて各一名ずつであっ たため,語られた内容が立場(職種)によるものか,あ るいは,個人によるものかが峻別できないことが,限界 として挙げられる。
小児がん患児への病名告知において,当然のことであ るが,伝えること自体が告知の目的ではなく,子ども自 らが,どうありたいか,どう過ごしたいかを考えていけ るような援助のため,子どもの意思(本音)に寄り添っ ておこなうことが大切である。しばしば支援者は,言葉 を介した関わりに比重を置きがちであるが,言葉だけで は伝わらないもの,言い換えれば,言葉にならない子ど もの思いや気持ちに気づく,そうした微妙な子どもの表 情や態度の変化に対する感覚を研ぎ澄ますことが大切で
あることが示唆された。もちろん小児がんに罹患すると いう体験は,つらくきつい治療を要し,心身への負担は 大きい。しかしながら,闘病体験がどのようなものにな るかは,周囲との関わりで変化しうるものであり,子ど もの体験を尊重することは,ひいてはその子の,その人 生を尊重することに他ならないと考える。「治すための 薬(科学)が欲しい(B)」という患児の願いは,子ど もが,大人が想像する以上に,冷静に病気や現状をとら えていると考えられ,ひとりの人格を持つ人間として扱 われることを望んでいると理解される。
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