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雑誌名 静岡大学教育学部研究報告. 教科教育学篇

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著者 伊東 慎介, 荒谷 航平, 郡司 賀透

雑誌名 静岡大学教育学部研究報告. 教科教育学篇

巻 53

ページ 27‑36

発行年 2021‑12

出版者 静岡大学学術院教育学領域

URL http://doi.org/10.14945/00028489

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静岡大学教育学部研究報告(教科教育学篇)第53 2021. 1227 36 27

プログラミングにおける指導者のコーチングと児童の試行錯誤の関わり

Relationship between Coaching Instructors and the Use of Trial and Error in Programming Education for Elementary Students

伊東慎介1,荒谷航平2,郡司賀透3 Shinsuke ITO1, Kohei ARAYA2, Yoshiyuki GUNJI3

(令和3年11月30日受理)

ABSTRACT

Learning through trial and error in programming education is expected to foster children’s creativity.

However, it may be difficult for children to maintain their motivation to learn through trial and error.

Therefore, this study aims to clarify the factors that maintain children’s motivation during the process of learning by trial and error, as well as assessing instructor interventions within the educational process. To achieve the research objectives, we conducted an analysis of dialog between children and instructors from the viewpoint of coaching, targeting a class of programming education.

The results identified two factors that maintain the learning motivation in children during the process of learning by trial and error in programming education: a shared feeling of accomplishment and supporting student trial and error learning according to the situation. In addition, there was a case where the instructor questioned the encouragement of children’s behavioral changes.

Based on these results, we suggest that instructors should encourage student thinking during programming educational programs, rather than just ask them to repeat trials, in order to develop creativity during science education.

1.はじめに

わが国では、2020 年度から小学校でプログラミング教育が全面実施されている。『小学校プ ログラミング教育の手引(第三版)』では、プログラミング教育のねらいの1つとして「プログ ラミング的思考の育成」が挙げられている。このねらいを達成するためには、児童がプログラ ミングについて学習する際に試行錯誤することが求められると考えられる。

試行錯誤を伴う児童の学習は、創造性の伸長に貢献する利点を有する。一方で、失敗経験を 含む試行錯誤を繰り返すことで児童の学習意欲を持続させることが困難である欠点も否定でき ない。この欠点を補うためには、プログラミングについて学ぶ児童の学習意欲の持続要因につ いて解明する必要がある。他方で、その児童に対する指導者の働きかけについてのより一層の 検討も必要となる。しかしながら、試行錯誤を行う児童の学習意欲の持続要因やプログラミン グ教育における指導者の働きかけについての検討が十分になされているとは言い難い。

後者の検討に関して、『小学校プログラミング教育の手引(第三版)』では、プログラミング

1 高森町立高森南小学校

2 静岡大学教育学部附属島田中学校

3 理科教育系列

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教育の実施にあたり、児童が充実した学びを獲得させるために、企業や地域等の専門家との連 携を図ることが求められている。そのため、今後、各小学校の教師だけではなく企業や地域の 専門家が指導者となってプログラミングについて指導する機会が増加していくと思われる。

ところで、児童と企業・団体や地域等の専門家の関わり方に対してコーチングの知見は示唆 に富む。ジョセフ・オコナーによれば、コーチングでは指導者が児童との信頼関係を構築し、

学習者の現状に応じて学習者が変化するように支援することが求められる。そのため、コーチ ングの知見は、企業・団体や地域等の専門家がいかに児童と信頼関係を構築し、働きかけを行 うことができるのかについて検討することに対して示唆に富むと考えられる。

2.本研究の目的と方法

本研究の目的は、次の2つである。1つめは、プログラミング学習で試行錯誤を行う児童の 学習意欲を維持する要因を明らかにすることである。2つめは、プログラミング教育における 指導者の働きかけについてコーチングの視点から明らかにすることである。

研究目的の達成に向けて、株式会社アイエイアイによるプログラミング教育の実践に着目し、

そこで見られる児童と指導者の対話をコーチングの視点から分析した。同社は、後述するプロ グラミング教材を用いて静岡県内の小学校で小学校の全学年を対象に出張授業を行ってきた。

この出張授業を研究のフィールドとして設定し、出張授業中の児童と指導者の対話を分析対象 とした。なお、本研究において指導者とは、アイエイアイ社員、学級担任の教師、筆頭著者を 指す。本研究の対象は、児童はA県内のB小学校5年生65名(2学級)とC小学校3年生60 名(2学級)の計125名、指導者はB小学校5年生で6名、C小学校3年生で5名の計11名で ある。活動中の児童間の対話と指導者の発話を以下の手順で分析した。まず3年生と5年生そ れぞれで4グループずつ無作為に選出し、児童の対話内容をICレコーダーで録音した。次に、

そのデータをKH Coder(ver3.Beta.01)を用いて出現した頻出語から児童間の対話と指導者の 発話の傾向を把握した。続いて、頻出語の傾向を基に、各グループにおける児童間の対話とそ れに対する指導者の発話を分析し、児童と指導者の特徴的な対話場面を抽出した。その結果を 基に、試行錯誤を伴う学習における児童の学習意欲の持続要因とコーチングの視点から見た指 導者の働きかけについて考察した。

3.「ミニロボ」によるプログラミング授業実践

本授業実践は、総合的な学習の時間で実施され、時間数は2授業時間(90分)であった。授 業担当者は、B小学校はアイエイアイ社員であり、C小学校は1クラスがアイエイアイ社員、も う1クラスが筆頭著者であった。授業の目標は、プログラミングを通して、児童がプログラミ ングに興味を持ったり、楽しく体験したりしながら、プログラミング的思考を育成することで あった。本授業実践では、図1に示した「ミニロボ PR-01」(以下、ミニロボとする)を主な教 材として用いた。この教材は、株式会社アイエイアイが開発したサッカー用ロボットのプログ ラミング教材である。

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プログラミングにおける指導者のコーチングと児童の試行錯誤の関わり 29

授業内容の概要を表1に示した。本授業は主に4つの段階で構成されており、段階②~④で は、児童を3人一組のグループに分け、グループごとに活動した。なお、このグループの編成 は、各小学校の学級担任が決定した。

表1 授業内容の概要 段階 内容(時間)

① 座学(15分)

② ソフトの使い方説明(15分)

③ コンディション確認(15分)

④ 課題に挑戦(45分)

段階①では、身のまわりで役立っているプログラミングや、プログラミングの基本(順次、

分岐、反復)などを座学形式で学ぶ。次に段階②では、ソフトの使い方やミニロボでの基本的 なプログラミングの組み方を、授業担当者の実演を交えて説明する。その後に段階③では「コ ンディション確認」を各グループで行う。「コンディション確認」とは、各グループに1台あ るミニロボの基本的な動きにかかる秒数を調べることである。ロボットの状態には個体差があ り、その日の環境(温度や湿度等)にも影響するため、「コンディション確認」を行う必要が ある。最後に段階④では、事前に「コンディション確認」で調べた秒数を使って、授業担当者 から与えられた課題に挑戦する。その際、各課題に図2に示したワークシートを児童に一人1 枚配布する。このワークシートに、まずどのようなプログラムを作ればよいか児童自身で考え ながら書き込む。具体的には、矢印で表したミニロボが進むルートに「○秒進む」「△秒曲が る」などと書き込む。次に作成した計画書を基にプログラムを組み立て、タブレットに入力す る。入力し終えたら、実際にミニロボを動かす。自分の思うようにミニロボが動かなければ、

修正すべきところを記入した計画書に加筆する。このように、児童が計画書と照らし合わせな がら試行錯誤を繰り返すサイクルによって課題達成を目指す。この試行錯誤のサイクルを行う 意図は、試行錯誤によるプログラミング的思考力を育成することと、作成したプログラムの再 現性を重視することが挙げられる。

図2 配布したワークシートの一例

(出典:株式会社アイエイアイ資料)

図1 「ミニロボ PR-01」

(出典:株式会社アイエイアイ資料)

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4.児童および指導者の対話の傾向

3年生の児童とその指導者、次に、5年生の児童とその指導者の対話の頻出語とそれらの共 起関係について示す。

(1)3年生の児童間の対話と指導者の発話の頻出語

3年生の児童間の対話の頻出語について見ていく。表2に3年生の全4グループで出てきた 児童間の対話の頻出語の上位20語を示した。表2より、「曲がる」が146回、「右」が125回、

「待つ」が123回と特に頻出しており、他には「あ」「え」「はい」といった感動詞、「進む」「止 まる」「行く」といった動詞も頻出していた。

表2 3年生の児童の対話の頻出語上位20語 抽出語 出現回数 抽出語 出現回数 曲がる 146 はい 47

右 125 うん 40 待つ 123 秒 38 あ 86 ねえ 37 進む 81 入れる 37 左 80 あー 35 止まる 78 うーん 32 行く 56 違う 29 え 55 スタート 26 前 54 えーっと 24

表3 3年生の指導者の発話の頻出語

抽出語 出現回数 抽出語 出現回数 曲がる 33 確認 10

うん 26 左 10

進む 23 分かる 10 止まる 20 見る 8

秒 15 行く 8

今 13 あ 7

書く 13 コンディシ ョン

7

入れる 12 右 7

前 11 次 7

入る 11 90° 6

では、次に3年生の指導者の発話の頻出語について見ていく。表2と同様に、表3には、3 年生の全4グループでの指導者の発話で出てきた頻出語の上位20語を示した。表3より、「曲

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プログラミングにおける指導者のコーチングと児童の試行錯誤の関わり 31

がる」が児童の頻出語と同様、一番多く、出現回数は33回であった。続いて、「うん」が26回、

「進む」が23回と頻出していた。その他、「止まる」「書く」「入れる」の動詞、「秒」「今」「前」

といった名詞などが頻出していた。

(2)5年生の児童間の対話と指導者の発話の頻出語

次に、5年生の児童間の対話の頻出語について見ていく。表4に5年生の全4グループで出 てきた児童間の対話の頻出語の上位20語を示した。表4より、3年生と同様、「曲がる」が一 番多く頻出しており、出現回数は113回であった。続いて、「あ」と「右」がそれぞれ69回、

「前」が67回と多く頻出していた。

表4 5年生の児童の対話の頻出語上位20語 抽出語 出現回数 抽出語 出現回数 曲がる 113 秒 34

あ 69 うん 33 右 69 マス 33 前 67 キック 28 進む 62 次 26 待つ 52 えっと 19 左 46 出来る 19 行く 43 今 18 止まる 38 ねえ 17 え 36 シュート 17

では、次に5年生の指導者の発話の頻出語について見ていく。表5に5年生の全4グループ での指導者の発話で出てきた出現回数4回以上の頻出語を示す。表5を見ると、「マス」が8回、

「進む」が7回、「課題」が6回であった。

表5 5年生の指導者の発話の頻出語 抽出語 出現回数 抽出語 出現回数

マス 8 次 4

進む 7 動く 4 課題 6 入る 4 曲がる 4 良い 4

紙 4

5.各活動場面での児童と指導者の発話分析

4の結果を踏まえて、児童と指導者の対話を総合て分析した結果、次の3つの活動場面が特 徴的あったと結論づけた。その場面とは、(1)児童の達成感の表現、(2)児童の試行の繰り 返しによる熟考、(3)指導者の働きかけによる児童の行動の変容である。

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(1)児童の達成感の表現

1つ目の場面は、課題を達成した児童によって達成感が表現されていた場面である。この特 徴が見られた場面を3年生と5年生でそれぞれ見ていく。まず、3年生のあるグループの児童 全員が課題を達成して達成感を表していた場面を以下に示した。

(ミニロボを動かす)

児童1:お願い!だから 児童1:多分左がダメなら…

児童2:3.08(秒)くらい?

児童2:あ、そうか。2が…だって、まあ、さっき0.3(秒)だよ 児童3:じゃあ、3.3(秒)?

児童2:3(秒)にすれば行ける!

(ミニロボを動かす)

児童2:あー、けど(ミニロボがゴールに)触っちゃった。

児童1:これ、2.9(秒)でいいよ。2.9(秒)

(中略)

(ミニロボを動かす)

(ボールを入れていないことに児童3が気づき、もう一度ミニロボを動かす)

児童1:よっしゃー!

児童2:やったー!

児童3:よし

児童1:よし、次が…

(課題達成の歓声を聞き社員が声をかける)

社員 :もう一回やって 児童3:もう一回?

社員 :うん、もう一回見せて 児童2:いいです。

児童1:いいですよ。

(中略)

(ミニロボを動かす)

児童1:はいー

社員 :オッケー。じゃあ、2つ目やろう、2つ目。

上記の場面では、児童が秒数について考えている場面で「多分左がダメなら…」や「(ミニロ ボがゴールに)触れちゃった」という発言をしたことから、児童が結果を客観的に判断してい ることが分かる。児童はミニロボが思い通りに動くための秒数を3人で話し合いながら、活動 していた。児童はそうした試行錯誤を繰り返した後に課題を達成すると、「よし」「やったー!」

「よっしゃー!」と児童3人全員が達成感を表していた。続けて児童1が「よし、次が」と発 言していることから、児童1に次の課題に対する意欲が見られた。その後、社員が「もう一回 やって」と、児童が作成したプログラミングに再現性があるのかどうか確かめていた。児童は

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プログラミングにおける指導者のコーチングと児童の試行錯誤の関わり 33

それに従い、社員に課題達成の様子を見せていた。もう一度ミニロボを動かした結果また成功 して児童1が「はいー」と発言し、作成したプログラムに手ごたえを感じていた。

このような場面は、5年生の児童とその指導者においても見られた。5年生の児童とその指 導者のやりとりを以下に示した。

児童4:俺に一回やらせて!それ

児童5:ちょっとお、じゃあ右に…あ、ここじゃない?

児童6:うん。分かった。じゃあみんなで確認しよう。

児童6:まず、前に3.3秒進んで、で、左に曲がります。で、ここがおかしいんだ。

児童5:0.5(秒)?

(秒数を変えて、タブレットに入力)

(ミニロボを動かす)

児童4:あ、おうおう!お、よっしゃー!やったー!

社員 :(シュートが)入った?やったじゃん 児童6:やったね

児童4:やったー!

上記の場面でこのグループは、児童がロボットの実際の動きとプログラムと照らし合わせて いた。児童6の「じゃあみんなで確認しよう」と発言し、児童全員でプログラムを確認し修正 すべき点を探し、秒数を決めていた。児童5が左に曲がる秒数を「0.5(秒)?」と予想し、そ の秒数で設定しなおしてミニロボを動かした。すると、ミニロボのシュートが決まり、課題を 達成していた。課題達成直後に児童4が「お、よっしゃー!やったー!」と発言し、児童の試 行の様子を見ていた社員も「(シュートが)入った?やったじゃん」と発言し、社員が児童とと もに達成感を表していた。以上より、本授業実践では、児童と指導者によって課題の達成感が 表現されていた場面が見られた。

(2)児童の試行の繰り返しによる熟考

2つ目の場面は、ある児童が試行を繰り返そうとして、他の児童が熟考した場面である。以 下には、3年生のあるグループで1人の児童が次の試行を促すことで、他の児童が熟考した思 場面を示した。

この場面では、「とまる」や「秒待つ」のカードが必要か話し合い、「秒待つ」の秒数を決め ているところで、児童9が何秒にするか他の2人に尋ねた。すると、児童8が9秒くらいであ ると予想すると、児童7が9秒ではうまくいかないと予想した。この児童7の発言を受けて、

児童8が一度は自分の意見を貫こうとするも、「あ、じゃあ…」という発言で、思考しなおそう としていた。しかし、ここで児童9が9秒で一回やってみようと試行を促進させて、児童8の 思考を一度中断させ、ミニロボを動かす試行を行った。試行を行った結果、「曲がる」を入れて いなかったことに気づくことはできたが、秒数を決めるための思考が一度途切れ、その結果、

この後社員が働きかけに入るまで秒数設定の問題は解決しなかった。以上より、本授業実践で は、ある児童が試行を繰り返したことによって、他の児童が熟考する場面が見られた。

(9)

児童7 :ちょっと待ってー 児童8 :止まるいらない。

児童9 :止まる、いらないか。

児童8 :秒待つで、止まるじゃん。

児童7 :1,2…。

児童8 :で、秒待つ

児童9 :秒待つ、じゃあ、何秒にする?

児童8 :え、9秒くらいじゃない?

児童7 :9秒はちょっとあれじゃない?

児童8 :そうだよ。だって、あ、じゃあ…

児童9 :いいよ、やってみよう。一回。

(中略)

(ミニロボを動かす)

児童9 :あ、横。横。横がない!

児童7 :横に曲がるがない。

児童9 :横がない。

児童7 :はい、じゃあ。

児童8 :うおっ、(ミニロボが)こんなところに 児童9 :こうなって、止める。

児童7 :あ、待って。ストップ。

児童9 :うんうん。

児童8 :じゃあ、6秒!でやってみよう。

児童7 :待って、6秒とか…

児童8 :じゃあ、7!

児童7 :0.何とかじゃないの?

(3)指導者の働きかけによる児童の行動の変容

3つ目の場面は、指導者の働きかけによって、児童の行動の変容した場面である。以下には、

3年生の児童に対して、社員の質問によって児童の行動が変わった場面を示した。

この場面では、まず社員が課題解決の方法が分かっていない児童に対して制止をかけて、「こ こからここまで行きたいんだよね?」と質問して児童の意図を把握していた。次に、児童10と 児童11が「うん。」と答えると、社員が、何マス進むのか、そして1マス進む秒数は何秒か質 問していた。社員が「ここまで何マス?」と質問し児童12が「×3?」と答え、計算して出そ うとした。それに対して社員が、児童たちが掛け算を習っていないことを指摘すると、児童11 が「じゃあ、足し算?」と方針を変えようとし、児童12も足し算で計算しようと行動を変えて いた。以上より、本授業実践では、指導者の働きかけによる、児童の行動の変容が見られた。

(10)

プログラミングにおける指導者のコーチングと児童の試行錯誤の関わり 35

社員 :ちょっと待って、ここから、ここまで行きたいんだよね?

社員 :そうだよね。

児童10:うん。

児童11:うん。

社員 :これ何マス動く?

児童11:3マス!

社員 :3マスだよね?1マス何秒だった?これ。1マス何秒?

児童10:1.2秒

社員 :ここまで何マス?

児童12:×3?

社員 :でも、先生掛け算習ってないって言ってたから

児童11:じゃあ、足し算?

社員 :足し算、やってごらん。

児童12:えーっと、じゃあ、1.2+1.2…

6.考察

上述の結果を基に、試行錯誤を伴う学習における児童の学習意欲の持続要因及びコーチング の視点での指導者の働きかけについて考察した。試行錯誤を伴う児童の学習意欲の持続要因と して、達成感の共有化と、場合に応じた児童の試行の促進の2つを指摘できる。

児童の学習意欲の要因の1つめとして、達成感の共有化を挙げることができる。Talley(2017)

は、STEM(Science, Technology, Engineering, and Mathematics、以下STEMとする)教育で、コ ーチングを取り入れる重要性について論じており、STEMコーチングでは、児童と教員がとも に達成感を味わうことで、よりよい信頼関係が構築されるという。本授業実践では、年生と5 年生のグループで児童が達成感を表し、3年生の児童には次の課題への意欲が見られ、5年生 のグループでは社員もともに達成感を味わっていた場面が見られた。これらのことから、児童 の学習意欲の持続要因に達成感の共有化を挙げられるのではないかと考えられる。

児童の学習意欲の要因の2つめとして、場合に応じた児童の試行の促進を挙げることができ る。本授業実践では、児童の試行の促進によって他の児童の思考が中断された場面があった。

その結果、秒数設定の解決にはなかなか至らなかった。この場面から、児童の試行の促進は、

他の児童の思考を深める可能性があると指摘できる。もちろん、児童が試行を促進することで、

ミニロボの動きと自分の意図との不一致に気づく場面も見られた。そのため、ただ試行を繰り 返すのではなく、作成したプログラムがどのような動きをするのかを再思考をして、児童の試 行の促進が行われることで、児童の学習意欲が持続されるのではないかと考えられる。

コーチングの視点での指導者の働きかけでは児童の行動の変容させる指導者の働きかけが挙 げられる。ジョセフ・オコナーによれば、コーチングで得られる成果の一つに、学習者の思考 や感情、行動を変化させることが挙げられるという。彼らによれば、その成果を得るには学習 者に対して質問をすることが重要であり、指導者が質問することで、学習者が別の視点で課題 を捉えられるようになり、学習者の気づきややる気、そして、創造性を引き出すという。本授

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業実践では、指導者の質問によって、児童の行動が変わった場面が見られた。この場面から、

指導者の質問によって、児童が課題解決に近づく行動に移すことができたと指摘できる。以上 のことから、コーチングの視点での指導者の働きかけでは、児童の行動の変容を促す指導者の 質問する働きかけが見られた。

7.おわりに

以上、理科教育での創造性の育成に貢献する今後のプログラミング教育での指導として、指 導者が児童に試行をただ繰り返すことを促す前に、指導者が児童に思考を促すような働きかけ が必要であるという示唆を得ることができた。『小学校学習指導要領(平成29年告示)総則編』

によれば、小学校教育における児童の創造性育成が求められている。さらに、同総則編では、

理科の学習では創造的な学習過程の形成で科学的に探究する学習活動を行うことが求められる。

これらのことから、理科教育では創造性の育成が重要であるといえる。本研究では、指導者の 働きかけによって、コーチングの成果でもある児童の行動の変容が見られた。創造性の育成を 重要視している理科教育での指導者の働きかけとして、この働きかけが必要であるといえる。

附記

本研究は、令和2年度日本理科教育学会東海支部大会における発表及び令和2年度静岡大学 大学院教育学研究科提出修士論文の内容を加筆修正したものである。

引用参考文献

阿部慶賀(2019)『創造性はどこからくるか:潜在処理,外的資源,身体性から考える』共立出版。

ジョセフ・オコナー,アンドレア・ラゲス著・杉井要一郎訳(2012)『コーチングのすべて:そ の成り立ち・流派・理論からの実践の指針まで』英治出版 。

文部科学省(2018)『小学校学習指導要領(平成29年告示)総則編』

文部科学省(2020)『小学校プログラミング教育の手引(第三版)』 p.19.

Tally, T.(2017)The STEM coaching handbook: working with teachers to improve instruction, Routledge pp. 76-85.

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