北海道の雪氷 No.38(2019)
Annual Report on Snow and Ice Studies in Hokkaido
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Copyright©2019 公益社団法人日本雪氷学会北海道支部
Hokkaido Blanch of the Japanese Society of Snow and Ice
北海道中標津町地域での防雪柵に関する吹雪・吹きだまり観測報告
Measurements of Snowdrift Formed by 6 and 2 rows Snow Fences in Nakashibetsu Area, Hokkaido
齋藤 佳彦1,金田 安弘2,永田 泰弘2,根本 征樹3,荒川 逸人3,竹内 政夫4, 丹治 和博5,大風 翼6,大宮 哲7,大槻 政哉1
Yoshihiko Saito
1, Yasuhiro Kaneda
2, Yasuhiro Nagata
2, Masaki Nemoto
3, Hayato Arakawa
3, Masao Takeuchi
4, Kazuhiro Tanji
5, Tsubasa Okaze
6, Satoshi Omiya
7, and Masaya Otsuki
1Corresponding author: [email protected] (Y. Saito)
筆者らは2018年冬期に,北海道東部の中標津町西養老牛の吹きだめ柵と吹き止め柵が設置されている箇 所,および標津町北標津の吹き止め柵が斜めに6列設置されている箇所の2か所において,防雪柵(吹きだ め柵,吹き止め柵)周辺に形成される吹きだまりを対象とした観測を行った.観測では定点気象観測やUAV による写真撮影,測深棒を用いた吹きだまり形状の観測,静止画カメラによる連続観測等を行い,気象の推 移や吹きだまり状況などを詳細に把握した.
1.はじめに
道路や鉄道の地吹雪対策として設置される防雪 柵は,開発されてから長い歴史があり,設置に関す るガイドライン等がまとめられている(道路吹雪対 策マニュアル1)等).一方,機能については未解明な 部分もあり,近年の暴風雪による吹雪災害等では,
期待した効果を発揮できていない事例が報告され ている(金田ら(2016)2)等).
筆者らは,防雪柵周辺に発生する吹きだまりの形 成メカニズムや防雪柵の効果,防雪柵の配置方法に よる吹きだまり状況の違いなどを把握することを 目的として,2018~2019年冬期に,北海道東部の中 標津町周辺の2箇所(標津町北標津,中標津町西養
老牛,表1)において,防雪柵周辺の吹きだまりを
対象とした観測を行った.本報告では観測で行った 定点気象観測や連続静止画観測,UAV(Unmanned Aerial Vehicle)の撮影画像と SfM-MVS(Structure from Motion – Multi View Stereo)技術による,吹き だまり形状の計測等の結果について報告する.
表1 観測箇所一覧
防雪柵の設置状況 標津町北標津 吹きだめ柵(高さ4.6~5.6m)柵が
吹雪時風向に直交し,柵が平行に6列 設置されている.
中標津町西養老牛 風上側に吹きだめ柵(高さ2.8m), 風下側に吹き止め柵(高さ5.0m)が 並行に設置されている.(柵は吹雪時 風向に対し直交)
2.防雪柵の設置状況と観測概要
(1)標津町北標津
図 1 に標津町北標津で観測対象とした防雪柵と 観測機器の設置状況を示す.当該箇所では防雪柵
(吹きだめ柵,赤の実線)が道路に対し,斜めに6 列設置されている.当該箇所では吹雪が道路に対し,
平行に入射する風向であるため,上記のような配置 で防雪柵が設置されている.なお,吹きだめ柵は高 さ4.6~5.6m(最も西側の柵が4.6m,そのほかは5.6m)
である.定点気象観測では,風向,風速,積雪深,
気温,湿度,日射量を10 分間隔で計測し,風向風 速計の高さは地面より約4mとした.また,連続静 止画観測として,6つの吹きだめ柵の各々の北側に 一定の時間間隔で撮影が可能な静止画カメラ(イン ターバルカメラ)を設置し,日中に10分間隔で吹
1株式会社雪研スノーイーターズ YUKIKEN Snow Eaters Co., Ltd.
2北海道開発技術センター
Hokkaido Development Engineering Center
3防災科学技術研究所 雪氷防災研究センター Snow and Ice Research Center, NIED
4NPO法人 雪氷ネットワーク NPO Network of Snow and Ice Specialists
5日本気象協会 Japan Weather Association
6東京工業大学 環境・社会理工学院
School of Environment and Society, Tokyo Institute of Technology
7土木研究所 寒地土木研究所
Civil Engineering Research Institute for Cold Region, PWRI
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Hokkaido Blanch of the Japanese Society of Snow and Ice きだめ柵前後に形成される吹きだまりを撮影した.
また,撮影された静止画より,吹きだまりの形状を 読み取るため,赤白ポールを設置した.また,定点 気象観測の位置より,吹きだめ柵側を撮影する形で,
インターネットでの撮影された画像が確認可能な ネットワークカメラを設置し,10分間隔で吹雪状況 を撮影した.定点気象観測およびカメラの観測期間 は,2018年12月19日~2019年4月3日である.
(2)中標津町西養老牛
図 2 に中標津町西養老牛での防雪柵と観測機器 の設置状況を示す.当該箇所では,防雪柵が2つ設 置されており,吹きだめ柵(高さ2.8m)と吹きだめ 柵の南東側に吹き止め柵(高さ5.0m)が設置されて いる.定点気象観測では,観測装置を吹きだめ柵の 北西側に設置し,風向,風速,気温等を10 分間隔 で計測した.風向風速計の高さは地面より約4mと した.また,標津町北標津と同様に,インターバル カメラを設置し,10分間隔で吹きだまりの形状を撮 影した.定点気象観測とカメラの観測期間は,2018 年12月19日~2019年4月3日である.
3.定点気象観測による気象状況
定点気象観測で得た気象データを基に,各箇所の
2018~2019年冬期の気象状況を整理した.気象状況
の整理では,旬別の統計値を整理した.なお,吹雪 の発生や規模を定量的に捉えるため,定点気象観測 で計測された風速および気温より,吹雪量Q(kg m-
1 s-1)を推定した.吹雪量の推定は,小林他(1969)
3)に示される式(1)より算出した.
Q = 0.03 U3 (1)
ここで,Uは高さ1mの風速(m s-1)である.な お,風速が小さい場合や気温が0℃よりも高い場合,
吹雪が発生しないことが考えられることから,風速 が5 m s-1以上かつ気温が0℃以下という吹雪発生条 件(条件に合致しない場合は,吹雪量Qを0とす る)を課した.また,吹雪量Qの算出では風速の10 分平均値を対数則により1m高さの風速に変換した 値を用いた.
(1)標津町北標津
図 3 に標津町北標津での観測結果より整理した 旬別統計値(積雪深,降雪深さ合計,気温,累積吹 雪量)を示す.積雪深を見ると,12月下旬には30cm 程度であり,1月下旬には100cm程度となった.し かし,2月中は各旬で20cm以下と降雪は少なく,3 月上旬まで目立った積雪深の増加は見られなかっ た.その後,3月中旬で60cm弱,下旬に40cm弱の 降雪がみられた.累積吹雪量は,前述の方法で算出 した吹雪量を累積し算出したものを示すが,積雪深 等と同様に,12月下旬から2月上旬までは,500~
2000kg m-1程度であるが,2月中旬~3月中旬は500 kg m-1より小さく,吹雪の発生が少ない状況にあっ た.図4に風向別の発生時間と吹雪発生条件を課し た発生時間(吹雪の発生時間と想定)を示す.図に
図1 防雪柵と観測機器の設置状況
(標津町北標津)
図2 防雪柵と観測機器の設置状況
(中標津町西養老牛)
図3 2018~2019冬期の気象旬別統計値
(標津町北標津,定点気象観測結果より)
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Hokkaido Blanch of the Japanese Society of Snow and Ice 示されるように発生時間では W~WNW が卓越し
ているが,条件を課した場合には,WNW~NWが 卓越しており,当該箇所の吹雪時の主風向はWNW
~NWであると言える.
(2)中標津町西養老牛
図5に中標津町西養老牛において,定点気象観測 で観測されたデータより整理した旬別統計値を示 す.累積吹雪量を見ると,12月下旬から2月上旬,
3月中旬から3月下旬と比べ,2月中下旬は値が小 さい傾向がみられ,標津町北標津と同様に2月中は 吹雪の発生が少なかったものと予想される.図6に 風向別の発生時間を示す.発生時間ではW~NWが 卓越しているが,吹雪発生条件を課した場合では,
WNW~NWであり,当該箇所での吹雪時の主風向
は,WNW~NWであると言える.
4.UAV,SfM-MVSによる吹きだまり形状 観測箇所の2箇所において,防雪柵周辺で形成さ れた吹きだまりの形状を計測することを目的とし て,UAV で写真撮影および SfM-MVS技術による DSM(Digital Surface Model),およびオルソ画像等 の作成を行った.写真撮影用 UAV には,DJI 社 Phantom4 Pro を用い,UAVに搭載されたカメラに より撮影を行った.撮影・飛行高度は,地表から50m とした.また,SfM-MVS ソフトは,Agisoft 社 PhotoScan Pro Ver. 1.4.4を用い,作成されたDSMデ ータより陰影図(DSM データで計算された勾配を 用いる)の作成も行った.
(1)標津町北標津
標津町北標津では,UAVによる撮影を2019年1 月30日,2019年2月25日の2回実施した.図7に 吹きだまり形状の陰影図を示す.赤線は防雪柵を示 すが,2回の観測とも防雪柵の風下に柵に平行とな る形で,吹きだまりが形成されていることが確認で きる.なお,1回目の1月31日に対し,2回目の2 月25日では,吹きだまりの位置がやや北側に移動 している傾向がみられるが,理由として1回目と2 回目の各観測までの吹雪状況(風向など)が異なっ ていたことが考えられる.なお,1回目の雪面が平 坦なのに対し,2回目はあばた状の雪面となってい るが,これはSfM-MVSの処理において,2回目の 雪面上に特徴点が少なく,解析の誤差が生じたため である.
(2)中標津町西養老牛
中標津町西養老地区では,2019年2月25日に1 回の撮影を行った.作成した陰影図を図8 に示す.
図7 吹きだまり形状の陰影図
(標津町北標津)
図6 2018~2019年冬期の風向別発生時間
(中標津町西養老牛,定点気象観測結果より)
図5 2018~2019年冬期の気象旬別統計値
(中標津町西養老牛,定点気象観測結果より)
図4 2018~2019年冬期の風向別発生時間
(標津町北標津,定点気象観測結果より)
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Hokkaido Blanch of the Japanese Society of Snow and Ice 図より,北側の吹きだめ柵の南側(風下側)に吹き
だまりが形成されていることが確認できる.なお,
図8に示す2019年2月25日と同様に雪面があばた 状となっているが,同じ原因(SfM-MVSの解析誤
差)によるものである.
5.測深棒計測による吹きだまり形状の計測 前項のUAV,SfM-MVSによる吹きだまり形状の 計測に加え,より正確に吹きだまりの形状を計測す るため,測深棒を用いた人力による吹きだまり形状 の計測を行った.なお,観測回数は両箇所とも2019 年2月25日の1回である.
(1)標津町北標津
図9に人力計測による吹きだまり(積雪深)の計 測結果を示す.なお,計測は各々の吹きだめ柵の中 央の位置で柵と直交する測線で行った.吹雪時風向
(WNW~NW)での最風上となる吹きだめ柵①では,
柵前後の吹積雪深は最大200cm程度と,風上側と風 下側で概ね同程度であるが,吹きだめ柵②~⑥では,
風上側が最大 200cm 程度であるに対し,風下側は
300~400cm 程度と風下側の方が大きい傾向にある.
また,柵の間で比較すると,柵が風下側になるほど,
風下側の積雪深の最大値が大きくなる傾向がみら れた.なお,吹きだまりに対する柵の影響範囲は,
吹きだまり形状から風上,風下とも柵から概ね50m 前後と推察される.
(2)中標津町西養老牛
図10に吹きだまりの計測結果(積雪深)を示す.
吹雪時風向(WNW~NW)に対し,風上側に吹きだ め柵,風下側に吹き止め柵が設置されている.吹き だめ柵前後では,風上で200cm弱,風下で250cm弱 となっており,風下の方の積雪深が大きい傾向にあ る.一方,風下側の吹き止め柵では,柵の風上の概
ね x=30m 位置から柵に近くなるほど積雪深が大き
くなる傾向にあり,吹きだまりが形成されているこ とが確認できるが,吹きだめ柵の吹きだまりよりも 小さい結果である.このことから,本観測期間で発 生した吹雪では,吹きだまり量が吹きだめ柵で堆積 させることができる容量を超えることがなく,風下 の吹き止め柵で吹きだまりを形成させるまでには 至らなかったと考えられる.
6.まとめ
2018~2019 年冬期に北海道中標津町周辺の防雪
柵が設置されている箇所において,定点気象観測や UAVによる観測,人力観測等により,防雪柵に発生 する吹きだまりの形状や形成される過程について 観測を行った.今後,防雪柵と吹きだまりの関係や 吹雪・吹きだまり現象の解明に向け,本報告で示し た結果の詳細な解析や連続静止画観測結果を用い た吹きだまり形成過程の解析を予定である.
【謝辞】
野外観測において,中標津町役場総務部の徳永博 之氏,上田龍氏に多大なご協力を頂きました.ここ に記して感謝いたします.
【引用文献】
1) (独)土木研究所寒地土木研究所,2011:道路 吹雪対策マニュアル(平成23年改訂版).
2) 金田安弘,永田泰浩,根本征樹,竹内政夫,2016: 吹雪多発地域にみる防雪柵の問題点と課題-北 海道中標津地域での防雪柵の吹きだまり観測-,
北海道の雪氷, 35, 29-32.
3) 小林大二,小林俊一,石川信敬,1969:みぞに よる地ふぶき量の測定,低温科学・物理編,27, 99-106.
図9 人力計測による吹きだまりの計測結果
(標津町北標津,2019年2月25日計測)
図8 吹きだまり形状の陰影図
(中標津町西養老牛,2019年2月25日)
図10 人力計測による吹きだまりの計測結果
(中標津町西養老牛,2019年2月25日計測)