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認定医 - 指導医のためのレビュー オピニオン 上殿皮神経障害のレビュー Clinical Review of Superior Cluneal Nerve Entrapment Neuropathy *1 *2 金景成井須豊彦 Kyongsong Kim, M.D. *1, Toyohiko Is

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.はじめに

 全腰痛の 85%を占めるといわれている非特異性腰痛 に対して,どのように対峙していくのか,という問題は 日常臨床では大切なことである1,2).腰痛を起こし得る腰 椎周辺疾患としては,中殿筋障害,梨状筋症候群,仙腸 関節障害などさまざまなものが挙げられるが,中でも上 殿皮神経(superior cluneal nerve:SCN)障害はその頻 度が高く,日常臨床で遭遇する機会が多く,近年注目さ れている3∼9).本稿では,上殿皮神経障害に関する論文 を歴史的な流れでまず紹介し,その後診断や治療などに ついてまとめてレビューすることで,その詳細について 解説する.

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.上殿皮神経とは

(Fig. 1)  SCN は T11∼L5 の後根神経の皮枝が腰背部を下外側 へ走行し,腸骨稜近傍で胸腰筋膜を貫通して殿部へいた る感覚神経である11∼15).それらは平均 4∼6 本あり,そ れらが branch としてつながっていることもある11,12,16)  SCN は胸腰筋膜を内側枝が正中から 3∼4 cm,中間枝 が 7∼8 cm の腸骨稜近傍で貫通するが,中間枝や外側枝 は腸骨稜より上方の筋膜を貫通する傾向にある4,12,13,15) SCNは,胸腰筋膜と腸骨稜とによってつくられる osteo-fibrous tunnelを通る点がクローズアップされがちであ るが,すべての SCN が osteofibrous tunnel を通るかどう かについては意見のわかれるところであった13,15∼17) 2013年に Kuniya ら12)は,59 体 109 側の SCN を詳細に検 討したところ,56%では少なくとも 1 本が osteofibrous tunnelを通過するが,その内訳は内側枝の 39%,中間枝 の 28%,外側枝の 13%であり,内側枝ほど貫通する頻度 が高いと報告している.なお,解剖学的研究による SCN の osteofibrous tunnel での絞扼は,1.8∼13%と比較的ま れであり12,13,15),実際の外科治療においても osteofibrous tunnelで SCN が絞扼される頻度は高くないとの報告が みられる18)

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.上殿皮神経障害の歴史

黎明期  SCN が腸骨稜を乗り越える際に,貫通する胸腰筋膜で 絞扼されることで腰痛が起こることは,すでに1957年に Strongら19)によって報告されている.彼らは,1952 年 2 月∼1953 年 10 月の間に 30 例 36 側の SCN 障害による腰 痛に対し,おもに貫通部での除圧術を行ったところ, 80%以上で良好な結果であったと報告した.その際, SCN障害の 57%では鼠径部痛や下肢痛を伴っており, SCN障害は単なる腰痛のみを起こす疾患でないことを 1

*1 日本医科大学千葉北総病院脳神経センター/Department of Neurosurgery, Chiba Hokuso Hospital, Nippon Medical School

連絡先:〒270 1694 印西市鎌苅 1715 日本医科大学千葉北総病院脳神経センター 金 景成〔Address reprint requests to: Kyongsong Kim, M.D., Department of Neurosurgery, Chiba Hokuso Hospital, Nippon Medical School, 1715 Kamagari, Inzai shi, Chiba 270 1694, Japan〕

*2 釧路労災病院脳神経外科/Department of Neurosurgery, Kushiro Rosai Hospital

上殿皮神経障害のレビュー

Clinical Review of Superior Cluneal Nerve

Entrapment Neuropathy

金  景 成

*1

  井 須 豊 彦

*2

Kyongsong Kim, M.D.*1, Toyohiko Isu, M.D.*2

Key words:

superior cluneal nerve entrapment

low back pain review

Spinal Surgery 30(2)141 145,2016

認定医-指導医のためのレビュー・オピニオン

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報告している.  国内でも,1961 年に高山ら20)が「腰痛の原因としての 上殿皮神経症候群」として報告している.彼らは難治性 腰痛の一部に,さまざまな原疾患に併存して腸骨稜近傍 へ圧痛を認める症例が存在し,同部が上殿皮神経の胸腰 筋膜貫通部に一致することから,上殿皮神経障害が腰痛 の原因と推察した.その後,腰椎すべり症や分離症,脊 椎変性症,腰椎椎間板障害などで坐骨神経症候群を呈さ ないものには,まず上殿皮神経ブロックで対応する方針 をとり,効果はあるも一過性であった 200 例に対して上 殿皮神経遮断術を行い,87%で良好な成績を得たと報告 している. 揺籃期  1997 年に解剖学的な検討を重ねた Maigne ら14)が,上 殿皮神経障害に関する診断基準を提唱し,その治療成績 について報告している.彼らは坐骨神経痛がない腰痛 1,800例中,29 例(1.6%)が SCN 障害による腰痛と診断 し,ブロック治療で改善しなかった19 例に外科治療を行 い,13 例で良好な結果を得た.  同時期に,難知性腰痛に対するSCN障害治療による症 例報告が散見されるようになる.Berthelot ら21)は,2 年 間治療に難渋した難治性腰痛が SCN ブロックにより一 過性に劇的に改善し,その後神経除圧を行った48歳女性 の症例を報告している.Akbas ら22)や Aly ら23),Talu ら24)

も,強い難治性腰痛に対して,SCN ブロック単独で治療 が可能であった症例を報告している.しかしその背景に は,Maigne らによる「頻度が 1.6%のまれな難治性腰痛」 との情報が大きく影響していた. 成熟期  2011 年に Speed ら25)は,3 例の症例報告ではあるが, プロのクリケット選手に SCN が多い可能性について言 及している.彼らは,クリケットに伴う躯幹の rotation や高い起立筋活性などが SCN 障害へ影響するであろう と考察し,その頻度が思いのほか高い可能性について報 告している.同年に Ermis ら26)は,平均 23 歳の 25 例の 兵士にSCN障害による腰痛を認めたことから,高い肉体 的トレーニングが SCN 障害へ影響した可能性について 言及している.上記 2 つの報告は,高い起立筋の活性が SCN障害へ影響し,その頻度も思いのほか高い可能性に ついても含みをもたせていた.  その後,2014 年に Aota らのグループは,SCN 障害に よる腰痛の頻度は全腰痛の 14%と思いのほか高いこと を報告した18).また,Isu らのグループが腰椎変性疾患 や脊椎椎体骨折,さらにはパーキンソン病にみられる腰 痛の原因の1つとしてSCN障害が挙げられることを報告 し,今後さらなる広がりをみせる予兆がみられる27∼32)

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.上殿皮神経障害の疫学

 前述のように Maigne ら14)は,坐骨神経痛がない腰痛 患者の 1.6%が SCN 障害による腰痛であったと報告し, 近年 Kuniya ら18)はその頻度は全腰痛の 14%と思いのほ か高いものと報告している.片側性の腰痛との認識で あった SCN 障害であるが,高山ら20)の報告では 30 例中 6例(20%)が両側であり,Morimoto ら31)の報告でも 34 例中 3 分の 2 が両側性であり,今後の検討が必要である.  男女差について Kuniya ら18)は,SCN 障害患者全 113 例中男性 51 例に対し女性が 62 例と女性に有意に多かっ たと報告しているが,Morimoto ら31)も男性 13 例,女性 21例と女性に多く,Maigne ら14)も男性 7 例,女性 12 例 と女性に多かったと報告している.これらをまとめる と,おおよそ男女比は 3 対 4 となる.  好発年齢については,現役兵士を対象とした Ermis ら の報告26)では平均 23.1 歳(19∼31)と若かったが,ほか の報告では若年から超高齢者まで含まれるも,平均年齢 は 55∼68 歳と高齢者に多い傾向がみられる14,18,31).全腰 痛患者を対象とした場合,SCN 障害が 68 歳(17∼93)で あったのに対し,その他の者は 63 歳(16∼94)と SCN 障害が有意に高齢であるとの報告もあり,年齢による影 響はみられるようである18)

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.上殿皮神経障害の症状

 SCN は,腸骨稜近傍から上殿部を支配する神経である ため,障害されることによって同部の痛み,つまり腰殿 部痛が出現する.また,SCN の腸骨稜通過部である正中 から 3∼4 cm 外側(内側枝)と,7∼8 cm 外側(中間枝) に圧痛点がみられるのが特徴である.  症状は腰の動きで増悪するが,後屈や側屈,回旋,起 立,座る,長時間の立位,長時間の座位,歩行,寝返り で増悪する18,21∼24,28,31).前屈に関しては関係しないとす るものと21,23,24),悪化するとするもの18,22)とがあり,意見 が分かれる.また,SCN 障害は,歩行に伴う腰痛性の間 欠性跛行(間欠性腰痛)をもたらすこともあり,脊柱管 狭窄症との鑑別が必要となる27)  一方,SCN 障害は下肢症状ももたらすため,腰椎疾患 と間違いやすい点も指摘されている18∼20,33).Kuniyaら18) は,腰痛や下肢の痛み・しびれを主訴に外来受診した全 113例の SCN 障害による症状は,腰痛のみが 52%,腰下 肢痛が 47%,下肢痛のみが 1%であったと報告した(Fig.  2).  また,Ermis らは,SCN 障害による腰痛と腰椎椎間板 2 3

(3)

ヘルニア患者とを比較した検討にて,MOS 36 Item Short Form Health Survery(SF 36)の physical health scoreや Oswestry Disability Index(ODI)スコアは有意 差はなかったが,mental health score は SCN 群で有意に 悪く,SCN 障害が長期間診断がつきづらいことや,周囲 に認知してもらえないことの影響が示唆されたと報告し ている26)

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.上殿皮神経障害の原因

 以前は,SCN が osteofibrous tunnel で絞扼されること で起こるものとの認識されていたが,osteofibrous tun-nelを通っていなかった SCN であっても胸腰筋膜貫通部 を除圧することで症状が改善することから,SCN 障害は 必ずしも osteofibrous tunnel で障害されるものではな く,胸腰筋膜貫通部で絞扼・牽引され障害されるとの認 識になりつつある14,27,31)  SCN 障害が発症する原因については,今のところ明ら かではない.前述のように比較的高齢者に多いことか ら,加齢性変化が影響している可能性が示唆されてい る.また,全腰痛患者のうち,椎体骨折があるものでは 27%でSCN障害が影響していたが,椎体骨折がなかった ものでは 12%と有意に少なかったことから,椎体骨折も SCN障害へ影響を与えている可能性がある18,29).その 他,パーキンソン病患者にみられる腰痛や28),若いアス リートや兵士に併発した報告もみられ23,25,26),これらの 報告を総合すると,傍脊柱筋の筋緊張がSCN障害発症へ 影響しているのかもしれない.

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.上殿皮神経障害の診断

(Table 1)  SCN は数 mm の細い神経であり,X 線,CT,MRI, 脊髄造影,骨シンチグラフィーなどの画像では診断でき ないため,臨床症状から診断にいたる14,31,34,35).Maigne ら14)は 1997 年に SCN 障害の診断基準を提唱したが,近 年 Isu らのグループは,神経ブロックによる症状改善に 関して,75%以上の痛みの軽減との基準を追加してい る31)

8

.上殿皮神経障害の治療

ブロック治療  特異的な治療として,SCN ブロックが挙げられる. Ermisら26)は平均 22.2 歳の SCN 障害患者 25 例全例で SCNブロック単独により腰痛が改善したと報告した.そ の回数は 20 例が 1 回,3 例が 2 回,2 例が 3 回のブロッ クが必要であった.Kuniya ら18)は,1∼3 回の SCN ブ ロックにより 50%以上痛みが軽減したものは 68%で あったと報告している.一方,Maigne ら14)は,29 例中 1∼3 回のステロイド注射で症状が改善したものは 8 例に とどまったと報告しており,以上をまとめると,28∼ 100%がブロック単独で症状改善が得られることとなる. 対象としている患者群が影響しているためかばらつきが みられるが,前述のように難治性腰痛がSCNブロックの みで劇的に改善した症例報告も散見されるため22∼24) 難治性腰痛に対しては SCN 障害の有無を確認したうえ で,SCN ブロックは試してもよい治療であることが示唆 される. 上殿皮神経障害の外科治療  1997 年に Maigne ら14)は,全身麻酔下に 6 cm の皮膚切 開で,太さ 1∼2 mm の神経を 2∼3 本除圧した治療成績 について報告した.術中所見では,全例で trigger point に一致して SCN がみられ,19 例中 15 例ではリング状の 圧迫がみられ,特に 7 例では圧迫は強く狭窄後浮腫もみ られた.2011 年に Speed ら25)も全身麻酔下に osteofi-brous tunnelで絞扼されていた SCN を除圧することで良 好な結果を得た症例を報告している.  2013 年に Isu らのグループは,SCN 障害 34 例 55 側の 手術を局所麻酔下に低侵襲に行うことによって良好な成 績を得たと報告した31).彼らは,局所麻酔下に 5 cm ほど の皮膚切開をおいて顕微鏡下でSCNを見つけ,胸腰筋膜 貫通部を含め SCN を除圧した.彼らの方法は,局所麻酔 下で低侵襲に行えることに加え,神経刺激装置を用いる ことでSCNの発見に有利であったこと,術中に症状改善 を確認し,多数あるSCN除圧の終了のタイミングを明ら 1 2 Table 1 上殿皮神経障害の診断基準14,31) 1 .神経の支配領域の痛み 2 . 正中から7 cm外側のSCNが圧迫される腸骨稜部のtrigger point 3 .神経ブロックによる(75%以上の)症状改善 Fig. 2  上殿皮神経障害に伴う症状の分布(文献 18 から引用・ 改変) n=113 Leg pain 1(1%)

Low back pain with leg symptoms 53(47%)

Low back pain only 59(52%)

(4)

かにできることに貢献した.さらに,Kim ら36)は十分な

神経剝離により末 神経周囲血管の血流も改善する点に 着目し,術中 indocyanine green video angiography(ICG VA)を SCN 手術へ応用した.術中 ICG VA は,ICG を 静脈注射することにより特殊な顕微鏡装置のもと神経の 血流を観察できるため,上殿皮神経の発見や十分な神経 除圧を確認できる利点を有する. 上殿皮神経障害の手術成績  Maigne ら14)は,外科治療を行った 19 例の SCN 障害を 平均 3.2 年経過を観察したところ,13 例で成績は良好で あったと報告している.Isu らのグループは,34 例 55 側 の SCN 障害に対して手術を行った結果,Roland Morris Disability Questionnaire(RMDQ)は 14.1→7.3,Japanese Orthopaedic Association(JOA)スコアは 13.9→21.1 と改 善したと報告した31).また,Aota らのグループ18)は,113 例中 19 例に外科治療を行い,その結果 Visual Analogue Scale(VAS)は 74→35,RDQ は 15.0→7.4 となったと報 告したが,その予後予測因子としては,罹病期間が 3 年 以内と SCN ブロックによる 3 日以上の効果持続であっ た.  27 例の椎体骨折に合併した SCN 障害に関する報告で は,17 例はブロックのみで対応でき,10 例で外科治療を 追加することで,Numerical Rating Scale(NRS)は 7.4→1.5,RDQ は 19.6→7.0,JOA スコアは 10.7→20.3 と 改善した29)  以上の報告は,短期成績の報告であり,今後中長期の 手術成績の報告が待たれる.

9

.パーキンソン病と上殿皮神経障害

 パーキンソン病はその病態から腰痛を併発しやすい が,その治療にはしばしば難渋する.Iwamoto ら28)は, パーキンソン病に合併した SCN 障害を検討し報告して いる.彼らの検討によると,Hoehn Yahr 分類 3∼4 の パーキンソン病で強い腰痛を呈した8例でSCN障害を認 め,4 例では SCN ブロックのみで症状は軽減し,ほかの 4例では神経剝離術を追加し腰痛は軽減した.結果,8 例 中 7 例で Hoehn Yahr 分類が改善し,中にはパーキンソ ン病によると思われた姿勢異常が一部改善した症例も存 在したとする報告は興味深い(Fig. 3).

10

.おわりに

 SCN 障害による腰痛は,その頻度は思いのほか高く, 日常臨床で遭遇しやすい.中には強い症状にもかかわら ず,診断にいたらないことがある半面,ブロックのみで 難治性腰痛が改善することも経験する.高山らは前述の 1961年の論文にて「すでに保存療法の限界にきている慢 性腰痛症の中には,脊椎固定術などの療法を考慮する以 前に,上殿皮神経の遮断を考慮にいれてみても大きな過 誤をおかすものではないことを認めざるを得ない」と結 論しているが,21 世紀の現代においても彼らの結論は受 容できるものであろう.われわれ脊髄外科医にとって, SCN障害による腰痛治療を 1 つの治療選択肢としてもつ 意義は小さくない. 文 献

1) Deyo RA, Weinstein JN:Low back pain. N Engl J Med 344:

3

Fig. 3  パーキンソン病に合併した SCN 障害性腰痛の治療前後における姿勢の変化(文献 28 から引用) a,c:術前,b,d:術 4 カ月後.

(5)

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Fig. 1   上殿皮神経(文献 10 から引用)
Fig. 3  パーキンソン病に合併した SCN 障害性腰痛の治療前後における姿勢の変化(文献 28 から引用) a,c:術前,b,d:術 4 カ月後.

参照

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