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<調査>近畿大学奈良キャンパス周辺における淡水産貝類相

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近畿大学奈良キャンパス周辺における淡水産貝類相

瀬尾 友樹・Jean Tanangonan

近畿大学大学院農学研究科環境管理学専攻

Freshwater mollusks found in Nara Campus, Kinki University

Tomoki SEO・Jean TANANGONAN

Program in Environmental Management, Graduate School of Agriculture, Kinki Univercity, Nakamachi, Nara 631-8505, Japan

Synopsis

A total of 17 species from 12 families of mollusks, comprising of 12 gastropod species from 9 families and 5 bivalve species from 3 families were found around the Nara Campus of Kinki University. These include 5 species which are invasive or are most-probably-invasive species. Several of these invasive species have established a wide distribution range which could adversely affect the endemic species. For example, the habitat of Corbicula leana in the Tomio River system has been greatly restricted due to the invasion and cross-breeding with Corbicula fluminea. Urgent measures are needed to stop further dispersal of the Corbicula fluminea. Six species identified which are in the Red Data Book of the Ministry of the Environment, include species which are rarely found all over Japan. The maintenance of a well-managed natural paddy field environment without concrete could be an important factor for the conservation of freshwater mollusks.

Key words: endangered species, alien species, freshwater mollusks, conservation

1. はじめに 近畿大学奈良キャンパス(以下キャンパ ス)は奈良県北西部の矢田丘陵東部に位置 する(Fig. 1)。矢田丘陵は奈良盆地西方にあ り、海抜200m~300m ほどの丘陵が、生駒 市から斑鳩町まで南北に連なっている。矢 田丘陵の東部には丘陵に沿うように大和川 水系の富雄川が南に向かって流れており、 丘陵の南端付近で大和川に合流する。キャ ンパス周辺にはいわゆる里山やその周辺の 里地などが状態良く残されており1)、このよ うな良好な環境を背景に、キャンパス周辺 にはさまざまな動植物が生息している。過 去に行われた数々の生物相調査では、RDB 種などの貴重な動植物が確認されている 2),3)。このようにキャンパス内では過去に 様々な生物相調査が行われてきたが、貝類 を中心とした報告がされたことは少なく、 キャンパス内の水生生物相の報告の際に、 簡単に触れられた程度である 4)。また、奈 良市における貝類に関する報告も、黒田

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Figure 1. 近畿大学奈良キャンパスの位置(左)と調査地点(右).

A:奈良市三碓 4 丁目, B:奈良市三碓 7 丁目, C:奈良市中町, D:近畿大学奈良キャンパス, E:奈良市 石木町, F:奈良市大和田町, G:大和郡山市城町

Figure 1. Location of the Nara Campus, Kinki University(Left) and Survey site(Right). A:Mitsugarasu 4-chome, Nara City B:Mitsugarasu 7-chome, Nara City C:Nakamachi, Nara city D: Nara Campus, Kinki University E:Ishikicho, Nara City F:Oowadacho, Nara city G:Jyocho, Yamatokouriyama なお、図の一部は国土地理院の地図を元に作成した。 (1934)による古い報告や 5)、大和川水系に おいて調査が行われた際の報告 6)がある程 度である。 そこで本研究では、キャンパス周辺の淡 水貝類相を把握し、保全へ向けての基礎的 なデータを提供することを目的として調査 を行った。 2. 調査地の概要 調査は奈良県奈良市三碓 4 丁目、三碓 7 丁目、中町、キャンパス内、石木町、大和 田町、大和郡山市城町の計 7 地点において 行った(Fig. 1)。また、予備的な調査を富雄 川上流部の奈良県生駒市高山町において行 った。 キャンパス内には約 40ha の里山林が残 されており、造成された池や復元された棚 田が存在する 1)。キャンパスが位置する奈 良市中町の北は三碓4 丁目,7 丁目であり、 宅地開発が行われ水田は点在する程度であ る。キャンパスの南は奈良市大和田町であ り、西部の矢田丘陵沿いの地域には、状態 の良い里山や棚田が残っている。この地域 では棚田周辺の水路が一部はコンクリート 護岸となってものの、素掘り水路が残って

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いる場所も多い。大和田町東部の矢田丘陵 から離れた地域は、里地的な環境となり、 富雄川に沿って水田が広がる。同じく富雄 川沿いの奈良市石木町、大和郡山市城町も 水田地帯であるが、圃場整備が行われてお り、用水路はほとんどがコンクリートによ り護岸化されている。富雄川沿いの水田地 帯では主に富雄川を灌漑することによって 農業用水を得ており、大和田町西部ではた め池が農業用水の水源となっている。 3. 材料と方法 調査期間は 2014 年 1 月~9 月までと 2015 年 9 月である。調査は池および水田、 用水路において行い、泥底上、抽水植物上 などを目視で観察し、個体が確認された場 合には素手で採集した。用水路の調査では 必要に応じて、たも網(口径約 25cm)を用い、 底質ごと採集した。また、ナガオカモノア ラガイのように基本的に陸上において生活 しているものも、水辺に依存している種と して広い意味での淡水棲の種とみなし、淡 水貝類に含めた。なお、採集した地点名の 記載は、希少種保護の観点からおおまかな 地名までにとどめ、図表上でもおおまかな 位置のみを記した。 絶滅危惧種の評価は環境省(2014)7)に基 づいて行い、環境省カテゴリーとして記し、 外来種は外来種として記した。採集した貝 類は東(1995)8)および増田・内山(2004)9) 従い、同定した。なお、採集した標本はす べて近畿大学農学部において保管している。 4. 結果 本調査において腹足綱9 科 12 種、二枚貝 綱3 科 5 種、計 12 科 17 種を確認した。 腹 足 綱 Class Gastropoda タ ニ シ 科 Family Viviparidae

1. ヒ メ タ ニ シ Sinotaia quadrata histrica

(Gould, 1859) 確認場所:三碓4 丁目・三碓 7 丁目・中町・ キャンパス内・石木町・大和田町・大和郡 山市城町 水田・水路など環境を問わず調査地点全 域で広く見られ、多産していた。 カ ワ ニ ナ 科 Family Pleuroceridae 2. カ ワ ニ ナ Semisulcospira libertina (Gould, 1859) 在来種 採集場所:三碓4 丁目・三碓 7 丁目・中町・ キャンパス内・石木町・大和田町・大和郡 山市城町 調査地点全域の水路に多産していた。 カ ワ ザ ン シ ョ ウ ガ イ 科 Family Assimineidae 3. ウ ス イ ロ オ カ チ グ サ Solenomphala

debilis (Gould, 1859) (fig. 2A) 外来種?(在来種の可能性あり) 採集場所:大和田町

本調査では三面コンクリート製用水路側 面に生えているコケの上にて確認した。同 所 的 に ナ ガ オ カ モ ノ ア ラ ガ イ Oxyloma hirasei やナメクジ Incilaria bilineata が 見られた。大和川流域では奈良盆地周辺を 中心に生息が広く確認されている6)

本種の本州における個体群は、在来種で あるとする説もあったが10)、近年では外来

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種とする説が一般的である11),12)。今回確認 された地点も、コンクリート製の用水路と いう人工的な環境であり、人為的な影響が 強いと考えられる場所であった。 サ カ マ キ ガ イ 科 Family Physidae 4. サ カ マ キ ガ イ Physa acuta Draparnaud, 1805 外来種 採集場所:三碓4 丁目・三碓 7 丁目・中町・ キャンパス内・石木町・大和田町・大和郡 山市城町 水田・水路など環境を問わず、調査地点 全域で広く見られ、多産していた。キャン パス内で採集された個体は、他地点で見ら れたサカマキガイと比較して、殻は大型で やや厚く、殻の表面に二次的な沈着物が付 き赤褐色であった(Fig. 2B)。 モ ノ ア ラ ガ イ 科 Family Lymnaeidae 5. ヒ メ モ ノ ア ラ ガ イ Fossaria ollula (Gould, 1859) 採集場所:三碓4 丁目・三碓 7 丁目・中町・ キャンパス内・石木町・大和田町・大和郡 山市城町 ヒメタニシ・サカマキガイと同所的に生 息し、水田・水路など環境を問わず調査地 点全域で広く見られ、多産していた。 6. コ シ ダ カ ヒ メ モ ノ ア ラ ガ イ Limnaea sp. (Fig. 2C) 環境省カテゴリー:情報不足 採集場所:大和田町 ため池の堤の斜面上から水が湧出してい る場所において、そこに生息している植物 の根本に付着しているのを確認した。本種 は外来種と考えられているが、在来種の可 能性も否定できないとされている 9)。この ため全国的に減少しているとされながらも、 希少性の評価が難しく、環境省(2014)では 情報不足とされている 7)。今回確認できた 地点も限られており、個体数も少なかった。 7. ハ ブ タ エ モ ノ ア ラ ガ イ Limnaea

columella (Say, 1817) (Fig. 2D)

外来種 採集場所:キャンパス内・中町 本種はすでにキャンパス内から生息が報 告されており 4)、本調査でもキャンパス内 の池および棚田において、水中の軟泥底を 複数の個体が匍匐しているのを確認した。 キャンパス外からは、両側面がコンクリー ト護岸化された用水路の、水際付近に付着 しているコケ類上から 1 個体を採集した。 キャンパス内では個体数は多かったが、キ ャンパス外からはほとんど確認されなかっ た。 本種は関東地方から四国地方に広く分布 するとされ 9)、自家受精を行い、効率よく 新規個体群を確立する能力があるため、分 布域が急速に拡大したとされている13)。関西 地方においても、大阪府・京都府・兵庫県 の広い範囲で生息が確認されている13) ヒ ラ マ キ ガ イ 科 Family Planorbidae 8. ヒ ラ マ キ ミ ズ マ イ マ イ Gyraulus chinensis Dunker, 1854 環境省カテゴリー:情報不足 採集場所:キャンパス内・大和田町 本調査では水田内の水中に沈んだ葉や茎 などに付着しているものを確認した。確認 された地点での個体数は多かった。

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Figure 2. 近畿大学奈良キャンパス周辺で確認された淡水貝類. 計測値(mm):SH:殻高, SL:殻長.

Freshwater molluscs observed around the Nara Campus, Kinki University. Measurements(mm):SH:shell height, SL:shell length. A: Solenomphala debilis ウスイロオカチグサ SH:4.9mm (Sep. 27, 2014.). B: Physa acuta. サカマキガイ SH:10.1mm (Aug. 9, 2014.). C: Limnaea sp. コシダカヒメモノアラガイ SH:3.7mm (May. 21, 2014.). D: Limnaea columella ハブタエモノアラ

ガイ SH:8.4mm (Aug. 9, 2014.). E: Polypylis hemisphaerula ヒラマキガイモドキ SH:1.5mm (May. 21, 2014.). F: Oxyloma hirasei ナガオカモノアラガイ SH:10.6mm (May. 21, 2014.). G: Vertigo eogea ナタネキバサナギ SH:2.5mm (May. 6, 2014.) H: Corbicula leana マシジミ SL:23.1mm (Feb. 8, 2014.). I:Corbicula fluminea タイワンシジミ SL:23.0mm (May.

11, 2014.). J: Sphaerium japonicum ドブシジミ SL:7.2mm (May. 21, 2014.). K: Corbicula sp. マシジミ? SL:32.0mm (Sep. 27,

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9. ヒ ラ マ キ ガ イ モ ド キ Polypylis

hemisphaerula (Benson, 1842) (Fig. 2E)

環境省カテゴリー:準絶滅危惧 採集場所:大和田町 本調査では水田内の水中に沈んだ葉や茎 などに付着しているものを確認した。同じ 水田からはサカマキガイやヒメモノアラガ イなどが見られた。同所的に採集されたヒ ラマキミズマイマイに比べると、ヒラマキ ガイモドキの個体数は少なかった。 カ ワ コ ザ ラ ガ イ 科 Family Ancylidae 10. カ ワ コ ザ ラ ガ イ Laevapex nipponica (Kuroda, 1947) 採集場所:キャンパス内・大和田町 水田中や池の水中に沈んだ葉や茎などに 付着していた。 オ カ モ ノ ア ラ ガ イ 科 Family Succineidae 11. ナ ガ オ カ モ ノ ア ラ ガ イ Oxyloma

hirasei (Pilsbry, 1901) (Fig. 2F)

環境省カテゴリー:準絶滅危惧 採集場所:キャンパス内・大和田町 本調査では池や素掘り水路沿いに生息す る植物の根本や葉上で確認した。また側面 がコンクリート製の用水路では、水面上の コケ類が付着した部分で確認した。キャン パス内ではごく少数の個体しか確認できな かったが、大和田町の素掘り水路周辺では 複数の個体を確認した。 本種は 2010 年まで近畿地方 7 府県の中 で唯一奈良県での生息報告が無かったが14) 最近になって奈良盆地南部の複数の地点か ら報告されている15) キ バ サ ナ ギ ガ イ 科 Family Vertiginidae 12. ナ タ ネ キ バ サ ナ ギ Vertigo eogea Pilsbry, 1919 (Fig. 2G) 環境省カテゴリー:絶滅危惧Ⅱ類 採集場所:大和田町 本調査では、周年通水のある水田脇の素 掘り水路周辺に生息する植物の根本から確 認した。また冬季には素掘り水路の畦道上 に投棄されたタガイの死殻の内側に付着し ている個体を確認した。同所的にハリマキ ビ Parakaliella harimaensis やノハラナメク Deroceras reticulatum が見られた。生息 が確認された地点では、冬季から夏季にか けて継続して確認できた。一方で、それ以 外の地点では生息は確認されなかった。 本種の分布情報をまとめた湊(2005)16) よると、本種は22 道府県から採集記録があ る一方で、全国的に生息の情報に乏しいと している。大阪府や京都府では生息が確認 されているが、奈良県ではこれまでに生息 の報告はなされていない16)。そのため本報 が本種の奈良県における初記録となる。 二 枚 貝 綱 Class Bivalvia イ シ ガ イ 科 Family Unionidae

13. タ ガ イ Sinanodonta japonica (Clessin, 1874) 採集場所:大和田町 大和田町の素掘り水路においてのみ確認 された。本種および次種のヌマガイは殻形 態による判別は困難であるが、近藤ほか (2011)の判別方法を用いて種を決定した 17)

14. ヌマガイ Sinanodonta lauta (Martens, 1877)

採集場所:大和郡山市城町

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てのみ確認された。水路は両側面がコンク リートにより護岸化されていたが、底面は 護岸化されていなかった。

シ ジ ミ 科 Family Corbiculidae

15. マシジミ Corbicula leana Prime, 1864

(Fig. 2H) 環境省カテゴリー:絶滅危惧Ⅱ類 採集場所:大和田町 周年通水のある、水田脇の素掘り水路の 砂礫底から確認した。素掘り水路内からは 同所的にヒメタニシ、カワニナ、タガイの 生息が確認された。本種は近縁で外来種の タイワンシジミ種群と形態上では区別が困 難な個体が知られているが、ここでは増 田・内山(2004)を参考に、殻内面の殻頂付 近が青白く、殻縁付近が紺色になり、殻縁 に淡色の縁取りが無いものをマシジミとし た9) 16. タ イ ワ ン シ ジ ミ Corbicula fluminea

(Müller, 1774) (Fig. 2I)

外来種 採集場所:三碓4 丁目・三碓 7 丁目・中町・ 石木町・大和田町・大和郡山市城町 通年水が存在する用水路の砂底から砂礫 底で確認した。同所的にヒメタニシ、カワ ニナ、ヌマガイが見られた。本種は前述し た通り、マシジミとの区別が難しい個体が 多いが、ここでは増田・内山(2004)を参考 に、殻の内面が主に白色や淡い色で、鉸歯 が淡紫色から黒紫色に染められるか、殻の 内面全面が濃紫色で、殻縁部の淡色の縁取 りが明らかなものをタイワンシジミとした 9) 本種は近年関東以西で急速に分布を拡大 している外来種であり、本種が侵入した水 路ではマシジミが駆逐されてしまうことが 知られている 9)。本調査でもキャンパス周 辺で広く確認された。また、キャンパス周 辺だけでなく、予備的に行った富雄川水系 上流部の生駒市高山町でも生息が確認され、 富雄川水系に広く侵入していることが明ら かになった。 ド ブ シ ジ ミ 科 Family Sphaeridae 17. ド ブ シ ジ ミ Sphaerium japonicum (Westerlund, 1883) (Fig. 2J) 採集場所:大和田町 水田脇の用水路の泥底から確認された。 また用水路周辺の畦に積まれていた、泥上 げにより取り除かれたものと推測される土 砂からも確認した。用水路内からは同所的 にヒメタニシ、サカマキガイが見られた。 本種は報告例の少ない種であり、滋賀県 のレッドデータブックでは情報不足に18) 三重県では準絶滅危惧種に指定されている 19)。奈良県周辺では大和川水系で行われた 調査で、1 地点のみ生息が報告されている 20) 5. 考察 5-1. 確認された外来種 本調査において、外来種及び外来種の可 能性を指摘されている種が 5 種確認された。 このうちウスイロオカチグサは従来から外 来種とする指摘があり、本調査でも人工的 な環境から確認されたため、やはり外来種 の可能性が高いと考えられる。本種の生息 を確認した地点では、同所的に複数の在来 種の生息を確認しているため、在来生態系

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への影響が懸念される。一方で、外来種の 可能性が指摘されているコシダカヒメモノ アラガイは自然度の高い地点から採集され たため、在来種の可能性もあると思われる。 ハブタエモノアラガイはキャンパス内か ら複数の個体が確認されたが、キャンパス 外からは 1 個体のみが確認された。本種が キャンパス内においてのみ個体数が多い要 因は不明であるが、複数個体の生息を確認 した池では、ニッポンバラタナゴ Rhodeus ocellatus kurumeus の保護を目的として、他 地域からの移植が行われており21)、それら を導入する際に、非意図的に本種が侵入し た可能性がある。 なお、奈良盆地に広く分布し、富雄川水 系においても生息が確認されている 6)外来 種 の ス ク ミ リ ン ゴ ガ イ Pomacea canaliculata は、今回の調査では確認されな かった。 5-2. タ イ ワ ン シ ジ ミ の 侵 入 と マ シ ジ ミ 個 体 群 の 孤 立 本調査および予備的な調査において、タ イワンシジミは富雄川水系から広く確認さ れた。しかし、2000 年代に行われた調査で は、タイワンシジミは富雄川水系からは報 告されておらず、マシジミのみが報告され ている 6),22)。前述した通り、タイワンシジ ミがマシジミの生息地に侵入した場合、マ シジミを駆逐し、タイワンシジミに置換さ れることが知られている 9)。このため本調 査においてマシジミが確認されなかったの は、以前に行われた調査の後に、富雄川水 系にタイワンシジミが侵入し、マシジミを 駆逐したためと推測される。実際に調査中 にはタイワンシジミの生体を確認した用水 路から、マシジミと同定される死殻を採集 している(Fig. 2K)。本種の富雄川水系への 侵入時期は不明であるが、最後に調査が行 われたのが主に 2004~2005 年であるため 20)、本種はそれ以後に近隣の水系から急速 に分布を拡大したものと考えられる。 一方、マシジミはごく一部の限られた地 域でのみ確認された。生息が確認できた地 域は丘陵地に囲まれた谷間にあり、水田へ の灌漑は上流部のため池のみによって行わ れている。また、生息を確認した素掘り水 路から下流は、しばしば水門によって封鎖 され閉鎖的な環境となっている。このよう な閉鎖的な環境のため、富雄川水系からタ イワンシジミが侵入できず、マシジミの個 体群が残存したものと考えられる。琵琶湖 集水域で行われたシジミ属の分布調査でも、 マシジミの生息が確認された地点のほとん どが、本調査と同じく丘陵地の小河川や谷 間の水田地帯であったと報告されている23) 現在マシジミの生息を確認した地点の数百 m 下流にはタイワンシジミが生息しており、 マシジミの生息地にタイワンシジミが侵入 するのも時間の問題であると思われる。す でに富雄川水系のみならず、大和川水系全 域にタイワンシジミが侵入している可能性 が高く、根本的な駆除を行うのは困難であ ると考えられる。このため、琵琶湖水系で のマシジミの保全対策として提起されてい るように23)、マシジミの生息域外保存など 緊急の措置を行うことも必要であると考え られる。 なお、今回の調査ではマシジミを在来種 としたが、マシジミは外来種であるという 意見も存在する 24)。ミトコンドリア DNA を用いた解析でも、マシジミとタイワンシ

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ジミの両種は、遺伝的に識別不可能である とされている 25)。その一方で、酒井ほか (2014)では、マシジミはタイワンシジミの クローン系統であるという可能性に言及し ながらも、日本の環境に適応して固有に存 在してきた重要な保全単位であるとしてい る26)。このようにシジミ属は分類学的位置 が混乱していることから保全上の問題が生 じている。今後、分類学的混乱を早急に整 理し、保全対象を明確にすることが望まれ る。 5-3. 淡水貝類の保全 本調査において、キャンパス周辺から環 境省(2014)7)に記載されている種を 6 種確 認した。このうち、ナタネキバサナギやナ ガオカモノアラガイなどの種は、棚田やそ の周辺の素掘り水路などの、あまり圃場整 備の行われていない水田地帯において確認 した。水田は農作業により陸圏にも水圏に もなる遷移帯であり、高い生物多様性を有 している27)。この水田の持つ高い生物多様 性は、圃場整備の行われていない水田にお いて顕著であるとされている27)。このため、 圃場整備の行われていないよく保全された 水田環境を維持していくことが、淡水貝類 のみならず水田生態系の保全上重要である と思われる。 しかし、増田(2014)でも指摘されている ように、水田に生息する淡水貝類は水田と いう環境に依存している以上、農業者の都 合が優先される28)。実際に、本調査中にも ナタネキバサナギやナガオカモノアラガイ などが生息している素掘り水路の畦に、除 草剤が散布され、畦の周囲の植物が枯死し ているのを確認した。水田環境に生息する 淡水貝類は微小な種が多く、昆虫類や魚類 などと異なり、保全の対象とはなりづらい のが現状である。今後はいかに農業従事者 の理解を得ながら、現在の水田環境を維持 していくかが、水田に生息する淡水貝類の 保全上の課題となるだろう。 6. 要約 本調査において腹足綱9 科 12 種、二枚貝 綱3 科 5 種、計 12 科 17 種を確認した。こ のうち外来種及び外来種の可能性が指摘さ れている種は 5 種確認された。これらの外 来種はすでに広く定着している種もあり、 在来生態系への影響が懸念される。また、 タイワンシジミが富雄川水系において広く 侵入しマシジミと交雑・駆逐したことによ り、マシジミがごく一部の地域にしか残存 していないことが明らかになった。タイワ ンシジミは急速に分布を拡大しており、早 急な対策が求められる。その一方で、環境 省レッドリストに記載されている種を 6 種 確認し、その中には全国的に希少な種も確 認された。淡水貝類の保全には圃場整備の 行われていないよく保全された水田環境の 維持が重要であると考えられる。 7. 謝辞 本研究を行うにあたり、西宮市貝類館学 芸員の高田良二氏には同定に関して貴重な ご意見をいただいた。ここに感謝を致しま す。 引 用 文 献

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Figure 1.  近畿大学奈良キャンパスの位置(左)と調査地点(右).
Figure 2.  近畿大学奈良キャンパス周辺で確認された淡水貝類.  計測値(mm):SH:殻高, SL:殻長.

参照

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