する研究 : B市文化施設を事例に
著者 前田 智子
出版者 法政大学公共政策研究科『公共政策志林』編集委員
会
雑誌名 公共政策志林
巻 7
ページ 41‑54
発行年 2019‑03‑24
URL http://doi.org/10.15002/00021683
1.はじめに―指定管理者制度と文化施設―
1.1 文化政策分野における指定管理者制度 指定管理者制度は,民間の能力を活用することに よって,公の施設の運営の効率化とサービスの向上 を主な目的とした制度である2。2003(平成15)年 6月の地方自治法一部改正により創設され,CCC
(株)によるTSUTAYA図書館,国会でも指摘された 官製ワーキングプア等,政治も絡んで議論を呼ぶこ ともあったが,一定の改善・工夫が行われ,現在で は,自治体の現場に定着した制度となった。
制度創設当初,公立文化施設では,指定管理者制 度が公立文化施設のあり方を変えるようなきっかけ となりうることが期待されていた(小林2004:18, 清水2006:226)。その理由のひとつは,公立文化 施設が指定管理者制度創設以前より,自治体出資の 外郭団体へ管理委託されていることが多く,公設民
営が進んでいたこと。しかしながら,自治体からの 派遣職員による官僚制的な施設運営により,地域文 化や芸術文化の創造・発信機能が疑問視されていた からであろう(小林1998:87-90)。
筆者は,文化政策に関わってきた人間ではない が,かつて指定管理者施設に関わるなかで,制度設 計や運用に関して自治体の裁量が大きい,指定管理 者制度のポテンシャルの高さを感じていた。このた め,公立文化施設関係者が指定管理者制度に寄せる 期待に共感を覚えたのである。地域の課題解決や政 策実現の手段としての指定管理者制度活用,すなわ ち単なる建物管理の手法だけではなく,政策目的活 用によって,行政の縦割りの弊害を超えた,効果 的・効率的な施策・事業の展開が可能になるのでは ないだろうか3。本論は,このような問題意識のも と,指定管理者制度の発展的活用の背景や要因を調 査研究した筆者の修士論文4のうち,主にB市文化
指定管理者の進化を促す指定管理者制度の運用に関する研究
―B市文化施設を事例に―
A Research on the Designated Manager System Promoting Self-Transformation of Designated Managers : A Case of Public Cultural Facilities in the City B
前 田 智 子
和文要約
スポーツ施設,公園等といった公の施設の管理を民間事業者に行わせる指定管理者制度が2003(平成15) 年6月に創設され,10年以上が経過した。指定管理者制度は自治体の現場に定着し,社会的な注目は低下した が,よりよい施設サービスを実施できている指定管理施設もあれば,利用料金制も自主事業も行われていない 従来の業務委託と変わらない指定管理施設も見受けられ,その状況は様々である。
本論では,ある文化施設で行われている「自主事業1」の性質を持ちながら予算の裏付けがある制度運用の 事例を取り上げ,事業の充実等の直接的効果や施設間サービスの平準化という二次的効果だけではなく,指定 管理者自身に生じた効果,すなわち指定管理者の自発的変化(進化)を明らかにし,政策の担い手の育成(進 化)手段としての指定管理者制度の可能性を考察する。
キーワード
指定管理者制度、指定管理者の進化、地域文化活性化事業、政策指向性
施設の事例として記述した部分に,新たに調査を 行った内容を加え,再構成したものである。
1.2 2つの調査から見る指定管理者制度の状況 本題に入る前に文化施設の指定管理者制度に関す る状況を,2つの量的調査から概観する。
まず,総務省が実施した指定管理者制度の導入状 況等調査(2015(平成27)年4 月 1 日現在,2016
(平成28)年3月公表)である。この調査では,市 民会館,文化会館といった施設は文教施設5に分類 されており,この文教施設の指定管理者制度導入状 況は,指定都市で1,322施設(16.5%),市区町村で 14,076施設(22.6%)である。また,「裁量性のある 自主事業」の実施状況が調査されており,指定管理 者制度導入施設全体で指定都市5,061施設(64.0%),
市区町村34,773施設(56.1%)である。
公益社団法人全国公立文化施設協会が,2017(平 成29)年に行った劇場,音楽堂等の活動状況に関 する調査6では,公立施設1,425施設のうち834施設 が指定管理施設である。指定管理料に「自主事業 に係る人件費」が含まれている館の割合は59.1%,
「自主事業に係る物件費」が含まれている館の割合 は51.7%となっている。調査に回答した国公立施設 の自主事業2大課題は「予算が確保できない」の 49.7%と「人材が不足」の45.8%となっており,結 論の先取りになるが,本調査で語られた課題を代表 している。
自治体からすると,指定管理料を大幅に増やすこ とも難しい。ここでは,現実的に,限られた貴重な
業務費をどう効果的に活かすか,すなわち効果的な 制度運用の考え方を,ある自治体の事例から考察す る。とりあげるのは,事業の性質としては「自主事 業」でありながら,予算の裏付けがある地域文化活 性化事業という制度運用の事例である。
2.B市文化施設における地域文化活性化事 業
2.1 調査の手続きと分析・考察の手法 2.1.1 調査の手続き
B市文化施設と地域文化活性化事業に関する記述 は,2016(平成28)年と2018(平成30)年に行っ た聞き取り調査,現場確認(観察)によるものであ り7,実施状況は図表1にまとめた。聞き取り調査 は,9か所ある同一設置条例の文化施設のうち3施 設に対して8,面接で,施設の概要,課題,地域文 化活性化事業等に関しては,あらかじめ設定した設 問項目を元に話を聞き,それ以外についても施設に 関わること等を自由に話してもらう半構造化インタ ビューの形式をとった。施設の現場確認(観察)は,
主に調査1(2016(平成28)年)で行い,施設運 営等に支障のない範囲で,施設長に説明を受けなが らの現場確認のため,統制された観察である。なお,
聞き取り調査及び現場確認(観察)時の記録はメモ のみとし,終了後に文章化した。
2.1.2 分析・考察の手法
聞き取り調査,現場確認(観察)記録の整理・分 析には,水野節夫の「変則KJ法(簡易整理法)」(水 図表1 聞き取り調査及び現場確認(観察)の実施状況
出所:筆者作成
野2000:335)を用いており,最終的には佐藤郁也 の「事例−コード・マトリックス」(佐藤2008:60) を準用して整理している。また,これらの分析の結 果は,前田(2018:108-110)で提示した政策指向 性の理論的枠組みに当てはめて,状況を整理・考察 するとともに,理論的枠組みから外れるが重要な論 点については文章としてまとめた。
政策指向性とは,民間事業者の能力等を活用する ことによる効率化と施設サービスの向上という指定 管理者制度の主目的を目指すだけではなく,政策・
施策目的実現の手段として,政策マネジメント的視 点で指定管理者制度の運用や施設運営が行われてい る状態があることを表す言葉として仮定したもので ある。この概念は,指定管理者制度の運用でめざす べき規範性を示す規範的概念と,よりよい制度運 用・施設運営を考えるための道具(ものさし)とし ての理論的枠組みとしての性質がある。
ものさしとしての政策指向性(理論的枠組み)は,
先進的展開の発生元(主体)と先進的展開の方向性 を軸としている(図表2)。先進的展開の発生元(主
体)の軸(横軸)の両極は,指定管理者制度を設計・
運用する自治体<制度設計及び運用(自治体側の要 因)>と実際に施設を運営する指定管理者<施設運 営(指定管理者側の要因)>であり,先進的展開の 方向性の軸(縦軸)の両極は,取組みの方向性が政 策理念をより高度(垂直的)に追求している状態<
垂直的展開(深化)>と政策分野横断的になってい る状態<横断的展開(拡張)>である。2軸で分け られる4象限のそれぞれは,図表3のように整理さ れる。この政策指向性図は,一般的な4象限の軸の 考え方とは異なるが,数で表す(評価する)ことが 難しい指定管理者や施設の評価において,指定管理 施設の状況を主体と先進的展開の方向性という枠組 みで言語化(可視化)することで,行政実務の現場 で工夫や改善に活かせる道具(ものさし)を提起し ようとするものである。
2.2 B市文化施設と地域文化活性化事業の始まり と状況
本項は,2.1.1で概要を述べた調査1(2016(平 成28)年)に基づくものである。
2.2.1 B市文化施設の概要
B市文化施設は,多くの自治体で一般的な文化施 設で,市民にもっとも身近な文化活動の拠点施設で ある。地域の人が美術,音楽等の教室や,ホールを 借りての演奏会等を行っている施設である。市内各 地区に9か所設置されており,設置条例では,「市 民の文化の向上」「福祉の増進」「余暇の活用」「市民相 図表2 政策指向性の2軸4要素
出所:筆者作成
図表3 政策指向性の4要素
出所:筆者作成
互の交流」「地域活動の振興」が設置目的として掲げ られ,「地域活動及び文化の向上のための催し」や
「地域各種団体の健全な育成を図るため」に「施設 を利用させること」を施設の事業として規定してい る。B市では,各地区の文化活動の拠点として「1 地区1センターの基準」に基づき,施設整備を行っ てきたという。
現在ある9施設のうち,7施設は市の外郭団体が 指定を受けており,2施設はそれぞれ異なる事業者 が指定を受けている。各施設は,建物やホールの機 能が異なり,貸室の種別や数も同等ではなく,それ ぞれ特色ある文化施設となっている。
2.2.2 地域文化活性化事業の概要と制度化の経 緯
この文化施設では,指定管理者が自主的に文化事 業を企画・実施することが可能で,指定管理料とし て充当できる地域文化活性化事業が2014(平成26) 年度から制度化された。事業の性質としては,「自 主事業」でありながら,予算の裏付けがある制度運 用の事例である。
地域文化活性化事業は,ある施設の指定管理者応 募要領によると「ホールを使用して,芸術文化に触 れる機会を提供し,地域の文化活性化に資するため に実施する事業を地域文化活性化事業とし,年間最 大3事業については,指定管理者の収支に含めるこ とができるもの」,「自主事業ではなく,文化施設の 運営業務に含まれます」,「独立した項目として収支 計画書に記載するものとし,当該項目内での収支差 額が計最大3事業でマイナス1,000千円を超過する 計画(たとえば,3事業の収入が10,000千円,支出 が13,000千円,収支差額がマイナス3,000千円となる ような計画)は認めません」とある。噛み砕いてい うと,地域文化活性化事業とは,事業の区分として は,指定管理者が自主的に自由に企画・実施できる が,予算の区分としては,指定管理料として業務費 を充当し,精算する仕組みである。指定管理者の持 ち出しや追加の充当等が生じないよう,合計3事業 内の収支でまかなえるよう企画すべき事業となって いる。
この地域文化活性化事業が制度化されたのは,指
定管理者選定評価委員会の委員からの指摘があった ためである。施設所管課によると,2013(平成25) 年度指定管理者公募についての意見として,「施設 が「地域の特徴に応じた文化活動」を業務として行 えるよう,指定管理料を充当できる仕組みを導入す べき」という指摘を受け,指定管理者の本来業務と して,指定管理料を充当できる地域文化活性化事業 を導入したとのことである。
地域文化活性化事業は,「指定管理者が設置地区 の活性化に貢献する事業を自主的に行うべき」との 観点で,指定管理者の裁量で地域の特徴に応じた文 化活動が企画・実施されており,施設所管課があれ これ口出ししていることはないようである。2015
(平成27)年度に各施設において実施された地域文 化活性化事業は,図表4のとおり様々である。地域 特性,施設特性,指定管理者の団体特性がそれぞれ 異なり,地域文化活性化事業として認められている 金額の上限も施設設備に応じて異なることから,単 純に横並びの比較は困難であると施設所管課も話し ていた。
地域文化活性化事業は,「地域の特徴に応じた文 化活動」を「地域ニーズ」に合わせて行い,地域活 性化につなげることが目的となる。2014(平成26) 年度から始まった本事業であるが,アンケート等を 活用して試行錯誤している最中と施設所管課は話し ていた。この事業の最大の難しさは,「地域の特徴 に応じた文化活動」と「地域ニーズ」の両立が求め られるものであることだという。施設所管課による と「地域の実情に合った,様々な活動,事業等を行 える市民の身近な施設として,その実施目的に沿っ て,地域の特徴に応じた文化活動を指定管理者が企 画し実施している」ものの「地域の住民ニーズと合 致しない」こともあって,まだまだ手探りの状況と いうことである。2014(平成26)年度の管理運営 の評価票には,指定管理者選定評価委員会の評価と して「地域文化活性化事業の入場者数が各館全体の 利用者数に比べ少ないが,非常に難しい事業である ので,2,3年様子を見ながら地域のニーズなどを 調査していく必要がある」という所見が出されてい る。
「地域活性化のためには集客も重要な項目」では あるものの,「人だけ集める商業イベントではなく,
それを公共施設で実施する必要はない。民間企業と は異なる」ということを施設所管課は強調してい た。「集客に特化すれば簡単だが,地域の歴史や独 自性を優先させ,かつ文化とのバランスも求められ る」と話していたが,この点は商業ベースではない,
自治体が行う文化政策全般に共通する難しさといえ るのではないだろうか。
事業のあり方自体の困難さから,評価指標も曖昧 であることを施設所管課は話していた。評価指標と して「最も分かりやすいのは「参加者数」「収益性」
といった数字」であるとしつつも,「これらを指定 管理者の「地域文化活性化事業」の大きな評価対象 とすると,地域性・文化性よりも集客に重きを置い た事業が優先され,「地域文化活性化事業」を指定 した意味がなくなる」との回答であった。
施設所管課が示していた事業の難しさのもう1つ が,事業のあり方に通ずる「どのように地域ニーズ をとらえていくのか」という点であった。それにも 繋がることとして,「企画実施を担当する指定管理 者の人材育成能力向上」も挙げられていた。地域活 性化に繋がる良質な事業を企画・実施し,より多く の市民に参加してもらう。このための工夫が求めら れているということであろう。
課題ばかりを説明してきたが,事業を始めた成果 もわかっている。地域文化活性化事業が制度化され たことで「地元活性化事業として,地元アーティス
トや学生・団体などの出演機会を設けるイベントが 自主的に発案,実行されていること」,また,地域 文化活性化事業の要件がホールを使うことであるの で,「大きいイベントになり,地元の方の活動を拾 い上げる機会となっている」ことであるという。
2.2.3 指定管理者の現場から見た地域文化活性 化事業
実際に地域文化活性化事業を行っている指定管理 者はどのように感じているだろうか。
記述上わかりやすくするため,各施設(指定管理 者)をF,G,Hとする。地域文化活性化事業に関 する各施設の認識を整理したのが図表5である。施 設の特性や地域が異なることもさることながら,指 定管理者である団体自身の特性が異なることも,地 域文化活性化事業に対する認識や効果に差異を生じ させていた。
地域文化活性化事業の制度化の効果を整理したの が図表6であり,当然のことながら3施設とも予算 がついたこと自体を評価していた。これまで「指定 管理者が設置地区の活性化に貢献する事業を自主的 に行うべき」という自治体の考えのとおり,自主事 業は指定管理者の自発・自主的な活動により行われ ていたが,それでは,指定管理者によって濃淡が生 じることは否めない。また,指定管理者のすべてが 芸術文化を専門にしている団体でもない。しかし,
事業費を予算措置する地域文化活性化事業が生まれ たことで,すべての指定管理者が,一定の水準で地 域の文化活性化を目的とする事業を行うようになっ 図表4 2015(平成27)年度地域文化活性化事業の実施内容
出所:各施設の管理運営に対する評価票及びB市施設所管課への確認により筆者が要約
た。地域文化活性化事業は,同一条例設置施設にお ける施設サービスの平準化につながっている。ま た,施設Hでは地域文化活性化事業の実施で,アン ケートで多数のコメントを得たり,メディアで報道 されたり大きな反響に繋がったと話していた。制度 化により事業が充実したのも確かであろう。
更に,施設Gでは制度化によって「地域の文化の 活性化」が改めて示されたことで,地域文化活性化 の視点が強化されたり,同事業の趣旨に賛同してく れる団体とのつながりが生まれ・継続することが可 能になったりしているという回答があり,二次的な 効果が生まれていることもわかった。施設Gでは
「地域文化活性化事業自体,実施団体や参加者の要 望を引き出す役割ができている」と語られていたの も印象的であった。
地域文化活性化事業に対する考え方についても,
各施設で共通していたのが,集客を優先しようとは 考えていなかったことである。また,自施設の事業
としては,アウトリーチ的で,文化の「入口」とい う考え方についても共通の認識であった(施設Fで は「小学校」と言われていた)。
指定管理者の団体としての特性が特に表れていた のが,中間支援のNPO法人が指定管理者である施 設Gで,意欲のある実施団体から活動に関する相談 があれば,団体として行っている助成制度案内等へ 繋げることも可能であると話していた9。このよう な案内ができるのは指定管理者ならではのことであ ろう。
事業の難しさや課題の認識についても,施設特 性,指定管理者の団体特性,これまでの施設運営状 況が色濃く反映されていた。
予算金額については3施設とも言及された。施設 Gについては施設設備により他施設と金額が異なる ことが述べられた。施設Hでは,予算はあればある ほどいいが,きりがなくなるという現実的な回答が あり,工夫と手作り感という言葉が何度か聞かれ 図表5 各施設の固有事情と地域文化活性化事業に関する認識
出所:筆者作成
図表6 地域文化活性化事業の直接的・二次的効果
出所:筆者作成
た。事業数については,施設Fで問題視していたが,
施設Gではそうではなかった。その違いは日常の運 営状況に関係すると思われる。施設Fでは「私たち の自主事業は,様々な事業を続ける中でアーティス トや地域の方々とのつながりもでき,それによって さらに新たな事業が生まれていく,という喜ばしい サイクルにつながっている部分があるので,解釈に よっては,私たちの自主事業は全てが地域文化活性 化事業であるともいえる」との回答があり,日常的 に地域文化活性化事業と同様の自主事業を行ってい る立場からすると,3という事業数が制限と捉えら れるのだろう。一方の施設Gは,芸術文化を専門と して事業を実施しているわけではなく,団体の出自 にも関する防災関連の事業を多数行っている。この ことから,事業数については特に意見がないとのこ とであった。団体に関係するものとしては,施設H では地域の独自性について言われたが,これは,同 団体が管理する別施設ではできることが,施設Hで はふさわしくなく,地域性が重要という話であり,
指定管理者である団体が7施設を管理していること と関係があると思われる。
他に施設によって回答の差異が認められたのが,
施設特性による制限についてである。施設Fでは大 ホールを使って行うということを縛りと認識してい た。これも施設Fが日常的に地域文化活性化事業と 同様の自主事業を行っているという立場からする と,制限が少ない方が企画の自由度が高まり,よい 事業ができると考えるのも理解できる。施設所管課 では,大ホールを使用することで大規模イベントに なるという効果として認識されていたが,筆者とし ては,事業の目指すところの認識が更に共有できれ ば解消できる課題と思われた。施設Gでは,逆に簡 易な施設設備であることから,鑑賞系の事業の実施 が困難であり,自然と実施できる事業がアウトリー チ的なものに限られるとのことであった。工夫する にも施設特性により限界があるということであろ う。
3施設で共通していたのが,事業を実施すること 自体(企画)の難しさを課題としていないことであ る。施設Fでは特に言及自体がなく,これは前述の
とおり普段の活動が地域文化活性化事業と同様とす ると,認識されることはないと思われる。施設Gも 難しいことはないという明瞭な回答であり,ネタは 多数あるということであった。施設Hも同様であ り,工夫のしがいがあるという回答で,課題という 認識はない様子であった。また,事業を実施する上 での難しさ,すなわち目標設定や評価基準の難しさ についても3施設共通であった。施設Fでは,施設 所管課と同様に参加者数を確保することの難しさに 言及していた(合わせて,参加者数を指標とするこ とへの疑義も合わせて主張されたが,その点は後述 する)。施設Gでは何を目指していくのか,参加者 数なのか質なのか曖昧という点,施設Hでは成果を 伝えることの難しさが言われた。
2.2.4 まとめと考察
以上,制度を運用している施設所管課と現場で地 域文化活性化事業を実施している指定管理者それぞ れの意見を確認してきた。集客の点では難しい事業 とのことであるが,地域文化活性化事業の効果は,
「地元活性化事業として,地元アーティストや学生・
団体などの出演機会を設けるイベントが自主的に 発案,実行されていること」,「(ホールを使うこと で)大きいイベントになり,地元の方の活動を拾い 上げる機会となっていること」(以上,施設所管課),
「事業費が確保されたこと」,「事業の充実化が図れた こと」,「実施団体や参加者の要望を引き出す役割が できていること」(以上,指定管理者)がわかった。
更に,地域文化活性化事業が制度化されたことによ り,施設間サービスの平準化,つまりB市文化施設 全体のサービス向上に繋がったことも大きな効果で あると筆者は考える。
また,指定管理者に与えた影響も決して小さいも のではない。団体や施設の特性,日常の活動状況に よって,効果の生じ方は異なるものの,地域活性化 の視点強化,ネットワークの構築・維持・拡大,創 意工夫の意識や地域との連携向上は,指定管理者の 能力を高め,資源を増やすことに繋がっているので はないだろうか。施設所管課は,「企画実施を担当 する指定管理者の人材育成能力向上」を課題として あげていたが,各指定管理者は,本事業に関してネ
タは多数あること,工夫のしがいがあることを回答 していた。地域文化活性化事業は,指定管理者の力 を引き出す=指定管理者を自発的に変化(進化)さ せる役割も期待できるように思える。そして,役割 ということでは,「地域文化活性化事業自体,実施 団体や参加者の要望を引き出す役割ができている」
と施設Gで語られていたことを考えると,本事業は 顕在化していない「地域のニーズ」を掘り起こす役 割もあるといえるのではないだろうか。
地域文化活性化事業の難しさや課題をアクターご とに整理すると,事業の考え方について課題がある ということ自体は,施設所管課・指定管理者とも一 致していたが,内容,特に参加者数の扱いについて は微妙に見解が異なるようであった。施設所管課で は「「地域の特徴に応じた文化活動」と「地域ニーズ」
の両立が求められるもの」であり,「集客に特化す れば簡単だが,地域の歴史や独自性を優先させ,か つ文化とのバランスも求められる」と説明していた が,「地域活性化のためには集客も重要な項目」と も述べている。一方,施設Fでは「地域文化(活動)
を活性化させるための事業であるならば,入場者数 は参考程度にとどめるべきで,その時何人集まった か,という事が評価軸として適切かどうか」という 疑問が呈された。この微妙な差を考えると,地域活 性化が具体的に何をいうのかというところの認識の 違いにたどり着く。この点は双方の意識合わせが必 要と思われるが,既に施設所管課自身が「今後も事 業を継続していく中で,市として重視すべき指標を 検討していく必要がある」と認識しており10,指定 管理者選定評価委員会からも「市としてより具体的 に政策的指針を出すべき」と指摘がなされている。
なお,財団法人地域総合整備財団設置の指定管理 者実務研究会が,2011(平成23)年度に行った「指 定管理者のサービスの質と量に関するアンケート調 査」によると,指定管理者制度の運用において,管 理運営の方針を明確にした場合や業務内容を明確に した場合,魅力的なイベント等の実施など,多くの サービス向上が見込めることが明らかにされている
(地域総合整備財団2012:22-23)。
本項の最後に,地域文化活性化事業が始められた
背景も含めて,B市文化施設における指定管理者制 度運用を政策指向性図に当てはめて整理・考察する
(図表7)。市民に身近な文化活動の拠点である文化 施設に指定管理者が自主的に文化事業を企画・実施 することができ,財源として指定管理料を充当でき る「地域文化活性化事業」が制度化された《制度運 用要因―深化・VS》。その結果,同一条例下の施設 間サービス平準化に繋がったり,事業の質が高まっ たり《施設運営要因―深化・VA》するだけでなく,
指定管理者の新たな気づきやネットワーク構築等の 指定管理者の育成(進化)を促す効果も認められる 事例である。《施設運営要因―拡張・LA》。
地域文化活性化事業が始められたきっかけは,学 識経験者等の外部委員で構成される指定管理者選定 評価委員会の指摘である。この指定管理者選定評価 委員会という組織と制度があることが,指定管理者 制度運用のPDCAサイクルを回す動力の1つになっ ているのではないだろうか《VA・LA⇔VS》。外部 の意見を聞くことの重要性は,総務事務次官発出の 平成20年6月6日付け総財財第33号「平成20年度地 方財政の運用について」でも言われていることでも ある。
そして,指定管理者選定評価委員会が形式的と なっておらず,きちんと機能していることも重要で ある。指定管理者制度や施設運営について真摯に議
図表7 B市文化施設の地域文化活性化事業におけ る政策指向性整理図(調査1時点)
出所:筆者作成
論し,サービス向上につながる指摘を行っているこ と,また,行政側も指定管理者選定評価委員会の指 摘をきちんと受け止め,改善に繋げる取組みを行っ ていること,という2つの実効性が表れていること も,本事例の政策指向性に影響していると考えられ る。
2.3 地域文化活性化事業のその後
本項は,2.1.1で概要を述べた調査2(2018(平 成30)年)に基づくものであり,調査1(2016(平 成28)年)から,地域文化活性化事業や施設等がど のように変化しているかを調査したものである。
2.3.1 地域文化活性化事業制度と施設所管部門 の変化
調査2(2018(平成30)年)では,地域文化活 性化事業は,1施設3事業までという数の上限がな くなり,3事業以上となっていた。施設所管課は「指 定管理者がより地域文化活性化事業に取り組みやす いように変更した」と理由を述べている。これは施 設Fが調査1(2016(平成28)年)で述べていた 要望であるが,直接的な変更要因は,やはり指定管 理者選定評価委員会での委員の指摘であるという。
このことは,調査1(2016(平成28)年)で明ら かになった,指定管理者選定評価委員会という組織 と制度が指定管理者制度運用のPDCAサイクルを回 すという有効性を裏付けるものである。
一方で,この変更は新たな課題を生み出してい る。事業数は増えたが,予算額は変わっていないと いう点である。これは施設所管課と指定管理者と共 通の認識であった。事業数を増やすことは必須では ないが,事業数が指定管理者の評価に及ぼす影響 等,効果的な事業を生み出すことにつながるかどう か,経過を見守っていく必要があると思われる。
地域文化活性化事業のより明確な方針や指標等に ついては,調査1(2016(平成28)年)で施設所 管課も指定管理者も必要性を認識し,指定管理者選 定評価委員会からも指摘がなされていたが,この点 は検討中であった。背景には,自治体組織と人員の 問題があると推論できる。本事業の指針や指標等の 作成には,施設のあり方から再検討する必要がある
のではないだろうか。「市民の文化の向上」が設置 条例に規定されていることからも,市民参加が必要 にも思える。このような事務は,人員体制や予算措 置のうえ,本腰を入れて取り組まなければできない ものである。しかしながら,施設所管課が抱えてい る業務は指定管理施設の管理だけではなく,多くの 文化事業も担当しているのである11。担当も調査1
(2016(平成28)年)から変わっていた。
また,政策として文化を扱うことの難しさもある だろう。公費で行われる文化政策は何で測るべきだ ろうか。施設所管課も述べていたことであるが,来 館者数や事業参加人数で測るのは公共性の点からふ さわしくないだろう。調査2(2018(平成30)年)
では,改めて「結果としての参加者数は定量的な数 字として評価はするが,数字を第一とするわけでは なく,あくまでも内容重視で評価するようにしてい る」が,「評価委員会で提出する資料(公表される 資料)ではその内容についての説明に限界があり,
第三者が見たときに,自主事業と地域文化活性化事 業の違いを理解していただくことが大変難しい」と 施設所管課は述べていた。
以上の自治体職員に人事異動が多く発生する点,
芸術や文化の評価の難しさについては,従来から指 摘されている課題である(松本2011:22,24,43, 92)。
2.3.2 指定管理者の現場の変化と地域文化活性 化事業の現況
指定管理者の現場で最初に強く感じられた変化 は,人であった。3施設のうち2施設で館長が変 わっており,施設Fでは「(指定された)8年前か ら全員入替になっている。役所と同じで,人が入れ 替わることを想定した仕組みを構築する必要があ る」と語られた12。
地域文化活性化事業の3事業という上限がなく なった点について,各施設の評価は一致しなかっ た。施設Hでは,「既存事業をぎりぎりでやってい る。3事業で限界であり,指定を受けている団体内 他施設との予算の配分上,3事業しかできない。4 事業は厳しい」と述べられた。他2施設は事業数を 増やす予定で,施設Gでは4事業,施設Fでは3以
上は実施し,4か5事業を想定しているとの回答で あった。予算額についての問題は,前回調査と同様 にすべての施設で言及された。
地域文化活性化事業の現況については,施設Hで 連携先が増えていることが言われた。地域の2つの 高校に事業へ参加してもらうことで,広報効果が強 化され,更に翌年度の事業の連携先が増えていると いうことである。「高校のホームページで掲載され たり,先生同士のつながりで口コミとして事業が周 知されたりしている。その結果,来年度の参加高校 が増えるという状況になっている。1本釣りより横 のつながりの方が効果的だとわかった」と館長は話 していた。このネットワークの拡大について,他2 施設では前回調査から変わっていないとの回答であ り,施設Gでは「新旧の入れ替わりはあるが,それ なりに一定の連携がある」という回答があったこと から,ネットワークは維持できているという状況で ある。
地域文化活性化事業の指針や評価の課題について は,施設F,施設Gで共通しており,市がどう思っ ているかわからない,評価がわかりにくいという話 が複数回聞かれた。
調査2(2018(平成30)年)で新たに言及され たのが,事業取組の継続性で,施設G,施設Hで共 通していた。施設Hでは,「事業内容としては,積 み重ねてきたことを続けていきたい。ある事業は,
来年度は新たな参加高校が加わる予定で,連携先が 増えてきている」と語られ,施設Gでは,参加者ア ンケートに書かれる継続希望,中学生が大学教員か ら吹奏楽の演奏指導を受ける機会の継続的創出を例 に,「指定管理者としては,続けてやって定着させ た方がいいのではないかと思っている。1年間ずっ と事業を継続して実施できればいいが,予算的にも そうはできない。継続することで,地域のレベルを 引き上げることになっている」と話された。
また,子どもを対象にすることや若い人への支援 に関しては,調査1(2016(平成28)年)でも語 られていたが,地域文化活性化事業に限らず,指定 管理者制度運用や公募まで含む広い視点で3施設が 言及し,施設所管課も同様に認識していたことが調
査2(2018(平成30)年)での新しい発見であった。
その他の変化は,指定期間が非公募で延長されて いたことである。これは,包括外部監査の意見によ り,施設のあり方を見直すため非公募で延長したと のことであった。公募についても示唆のある意見が 述べられたことから,若年者への視点と合わせて,
詳細は後述する。
2.3.3 2回の調査結果のまとめと考察
調査1(2016(平成28)年)と調査2(2018(平 成30)年)の調査・分析結果から,地域文化活性化 事業や指定管理者制度運用を改めて考察する。
まず,地域文化活性化事業の仕組みの変化に着目 すると,地域文化活性化事業の事業数の上限はなく なったが,地域文化活性化事業の指針や評価指標に ついては検討継続中だったことが注目される。いず れも,指定管理者選定評価委員会で指摘された課題 であったが,事業数の問題はすぐ対応され,対応に コストや時間がかかる指針や評価指標については,
検討が継続されている。指定管理者選定評価委員会 の意見は,施設所管課の判断で対応を検討し,必ず 修正しなければならないものではない。大きな課題 の解決には,それなりの人員や予算が必要となる。
定員削減が進み,限られた人員で増え続ける業務を こなす状況の自治体からすると,なかなか手が付け られないことも理解できる。このことからは,政策 立案を政策立案者に委ねると,政策立案・転換のコ ストや現実性が重視され,関係者の合意を得やすい 対応になるという(西尾2001:265-266),行政の
「合理的な選択」の問題が発生していることがわか る。同時に,指定管理者選定評価委員会が果たして いる役割は,決して小さいわけではないことも表し ている。指定管理者選定評価委員会の意見は,地域 文化活性化事業が始められたきっかけでもあり,事 業数の上限を変えるという仕組みの見直しにも繋 がっているのである。審議時間が短いことから深い 評価ができないのではないかと指定管理者の懸念も 示されたが,指定管理者選定評価委員会は,指定管 理者制度運用のPDCAサイクルを回す動力の1つに なっていることを改めて証明したといえる。以上の ことを,図表7の政策指向性整理図で改めて考察す
ると,《VA・LA⇔VS》の部分は,事案によって状 況が異なり,それは指定管理者制度の問題というよ り,行政の「合理的な選択」の問題であると言える。
次に,地域文化活性化事業の効果を考える。事業 の趣旨や事業費の予算化はよいが,考え方や評価の 課題,施設特性の影響は,調査1(2016(平成28)年)
で聞かれたことと変わらなかった。連携先の増加と いうネットワークの拡大については1施設,維持さ れているのが2施設であり,効果は維持・微増と前 向きに捉えたい。図表7の政策指向性整理図で示し た《制度運用要因―深化・VS》→《施設運営要因
―深化・VA》↓《施設運営要因―拡張・LA》とい う展開は継続していると考える。以上の考察をまと めたのが図表8である。
さて,地域文化活性化事業の具体的な方針や評価 指標が検討中であることに度々言及してきたが,2 回の調査を通じて筆者が考えたのは,指定管理者に 自主的に企画・実施させる現状の方向性は,それほ ど間違っていないのではないかということである。
日本は第2次世界大戦の反省から,公的な機関が芸 術行為へ介入することを強く警戒し,文化行政は文 化施設建設等の間接的な環境整備にとどめておくと いう行政の文化への共通認識があったという(清水 2006:25-26)。このデメリットは清水の論説に詳し いが,芸術文化の分野では一定の自由が認められな
ければ,新しいものや人の心を動かすようなものは 生まれないのではないだろうか。事業の実施に余計 な口出しをしないというのは2回の調査とも施設所 管課が語っていたが,いつの時代であっても,この 考え方は必要に思える。筆者がこの結論に達したの は,松本の「黙認の文化政策」論に着想を得たもの である。松本は,現・神戸市立海外移住と文化の交 流センターの指定管理者であるNPO法人「芸術と 計画会議」の取組みと当時の神戸市の関わりを「黙 認の文化政策」と名付けて,大がかりな支援をする ことはないが,黙認するという形で支援する文化 政策の意義を分析している(松本2011:156-194)。
松本の事例研究は公の施設ではなく,震災後の財政 的余裕のなさや所管も文化政策部門ではないという 点が本事例との大きな違いではあるが,地域の文化 とは何か,どう活性化させるのかという前提条件の 設定から指定管理者に任せることは,指定管理者の 深い思考や工夫を促す,つまり自発的な変化(進化)
を促す一助になるのではないだろうか。この検証に は長期に渡って経過を追っていく必要があり,実務 的には評価をどう考えるかという課題は残されるた め,今後の検討課題としたい。
また,2.3.2で先述したが,調査2(2018(平 成30)年)で際立っていたのが,若年者に関する 施設所管課と指定管理者の言葉である。このこと は,人口減少と高齢化の問題とも関連があるようだ が,論点は2つである。第1は子どもを含む若年者 を対象とする視点である。指定管理者からは,子ど もを対象にすることの課題や成果が話され,2施設 では,幼稚園や小学校等へアウトリーチ事業も行っ ている。また,施設所管課も若年者の施設利用が少 ないことや人口減少・高齢化への問題意識から,指 定管理者へは将来使ってもらえる人(若い人)にア プローチして欲しいことが話された。若年者へのア プロ―チは,施設所管課と指定管理者の共通認識と なっているのである。
第2の論点は,施設を運営する側の若年者の問 題,すなわち指定管理者制度の人件費と結びついた 若手の人材育成という課題である13。このことは,
芸術文化に特化した団体の2施設と施設所管課で共 図表8 B市文化施設の地域文化活性化事業におけ
る政策指向性整理図(調査2時点)
出所:筆者作成
通していた。「若手人材が育たない。理由は人件費 が極端に低いのと,やりがいのある事業が見当たら ないこと。現在の給与・勤務体制では,若者は結婚 できない」,「モチベーションを上げるためにも,も う少し若い人の給料を増やして欲しい」という指定 管理者の言葉を,筆者は切実なものと受け止めた14。 アウトリーチによって,芸術や文化を,子どものう ちから根付かせようとするのは素晴らしいことと思 うが,芸術や文化に関わる仕事が若者の生業として 成り立たないというのは残念である。施設Fで語ら れた「指定管理者制度でアートに関わる人のキャリ アアップの受け皿が増えるかと思ったが,そうでは なかった。指定管理者制度で進んだことをやりたい なら,指定管理者制度を変化させる仕組みを文化政 策の中に入れなければならない」という言葉は非常 に重みがある。
2.3.4 経年変化から得られた知見―指定管理者 制度上の課題と官民それぞれの課題―
ここまで,B市の地域文化活性化事業という指定 管理制度の運用事例を考察してきたが,パネル調査 として行った2回目の調査で改めて認識された人材 問題をまとめておく。
指定管理者の人材問題は,指定管理者制度の主目 的である施設運営の効率化(人件費の抑制)という 点とトレード・オフになっている。指定管理者側か らは,公募時の仕様書の内容で変わってくると指摘 されたが,本事例の地域文化活性化事業のような指 定管理者の自発的変化(進化)を促す仕組みや人材 育成の視点を踏まえた指定管理者制度の設計・指定 管理料の検討が必要ではないだろうか。
自治体人材については,ジェネラリスト重視とい う自治体の人事運用が元にあると理解できる。多く の自治体では,短期間・異なった分野への異動・配 転というジェネラリスト型職員の養成が一般的で,
特定の分野に精通したスペシャリストの計画的養成 はなされていない(大森2011:11)。一方,それが よいかどうかはバランスの問題であることが指摘さ れているが(田尾2015:133),筆者の実務経験か らしても,指定管理者制度や指定管理者施設に関わ る知識は,一朝一夕には身に付かない。このことは
本事例の施設所管課からも指摘されていたが,指定 管理者制度・施設をひとつの専門領域と捉えた人事 運用が求められる時代になりつつあるのではないだ ろうか。
同時に,指定管理者制度の制度所管部門と施設所 管部門の分業構造にも課題があると思われる。制度 と施設を分けた事務分掌は,多くの自治体で行われ ている。多くは,指定管理者制度を企画部門で,施 設は各政策分野の施設所管課で担当する。これは,
指定管理者制度創設当初は効果的で効率的だったと 思われるが,既に制度創設から10年以上経過した現 在では,状況が異なってきているのではないだろう か。現在では,指定管理者制度の導入是非よりも,
既に指定管理者が運営している施設の評価や修繕と いった施設運営の課題が施設所管課の実務上の関心 事である。制度所管部門では,指定管理施設と直接 やりとりしないわけであるから,現状でどのような 課題があるのかわかりにくいのではないだろうか。
本事例の施設所管課からは,「他の部署で出てき た課題,対応策,ベテランの話を聞ける機会があれ ばよい」と話されており,(自治体がジェネラリス ト志向による短期間での異なった分野への異動・配 転を繰り返すならば尚更)分業構造を乗り越える,
自治体内での十分な情報共有と対話による制度運用 が求められていると考える。これらの論点は,実務 的に重要であるが,本論では十分な調査・分析はで きていない。更なる調査・分析が必要であるが,本 論点については別稿に譲りたい。
3.終わりに―指定管理者制度で「複合目的・
複合手段となる」政策の実現をめざす―
先述したとおり,公立文化施設では,指定管理者 制度を前向きに捉える傾向があったが,今もなお,
芸術や文化に関わる人々は指定管理者制度に変わら ず期待を持っているのだろうか。本論の聞き取り調 査で,指定管理者制度は最大限できるならいいシス テムではないかと施設所管課が語っていたが,その ためには単なる建物管理の手法を超えて(それも経 費節減の方法だけではなく),政策目的志向で指定
管理者制度を運用していく必要がある。特に,政策 の担い手の育成(進化),人材育成のための手段と しても活用されるべきであり,本論でとりあげた地 域文化活性化事業のような運用はそれを可能にする ものであると考えられる。
松下圭一や森啓によって,行政の体質革新とい う行政の文化化が1970年代に言われてから半世紀 近くなろうとしている。基礎自治体は「タテ割り 行政を横割りへと総合・調整するという課題」(松 下1981:13)にいまだ十分対応できていないよう に思える。「自治体行政全般の体質転換には時間が かかる」(松下1981:6)と言われているが,人口減 少・高齢化等の様々な課題がある中,今こそ「ひろ く政策は,特定目的に複数の手段がなりたつととも に,逆に特定手段は多数の目的に対応しうる」(松下 1991:147)ことを念頭に,指定管理制度のポテン シャルを再認識した運用が必要なのではないだろう か。
注
1 本論で取り上げる自主事業とは,一般的な文化施設 でいう貸館事業以外の事業のうち,施設運営者が直接企 画・実施するもので,買取型公演(専門家によって作ら れた公演を買い取って自施設で公演するもの)ではない ものである。
2 公の施設の管理委託は,指定管理者制度の創設前か ら徐々に委託先の対象が拡大されてきた。1963(昭和 38)年の法改正で,自治体等の公共団体や農協等の公共 的団体に委託することが可能となり,1991(平成3年)
の法改正で,自治体が出資している法人等,株式会社形 態の第三セクターに委託先の対象が拡大された。指定管 理者制度の創設は,外郭団体改革という組織の見直しも 含めて,「いろいろな視点があって,それらの思惑が全部 結果として指定管理者制度という形で結実」(武藤2006:
149)したと考えるのが妥当かもしれない。
3 同様のことは三野(2005),大杉(2011, 2012, 2015),
南(2013)が述べている。
4 修士論文は,指定管理者制度の設計・運用や指定管 理者施設の施設運営が,大杉覚の定義である「施設マネ ジメントの観点から制御し,改善=簡素効率化を目指そ うという取組み」(大杉2012:6)(「制御型施設マネジメ ント」(大杉2012:6)=「指定管理者制度の中核的かつ基 盤的なアプローチ」(大杉2012:6))に留まっているか
そうでないかを一定の要件で判定し,発展的展開がなさ れていると判断した5事例を調査・分析したものであり
(前田2017),本論2.2が修士論文記載の事例4と同等
の内容である。なお,修士論文全体の要旨は,法政大学 大学院紀要第78号145ページに掲載されている。
5 総務省調査の文教施設とは,「図書館,博物館(美術 館,科学館,歴史館,動物園等),公民館・市民会館,
文化会館,合宿所,研修所(青少年の家を含む)等」と 例示されている。実際の調査票を見ると,消費者セン ターや女性センター等も含まれており,自治体の回答は 様々となっていることから,正確な文化系の施設の調査 結果とは言えないが,参考になるものとして記載する。
6 国公立施設2,198施設及び主要な私立施設201施設に調 査票を送付し,国公立施設1,431施設(うち,固定座席 数100席以上のホールを有する施設1,239施設)及び私立
施設65施設から回答を得ており,有効回答率は65.1%と
なっている。
7 お忙しいところご対応くださったB市施設所管課,
各施設長の皆様に改めてお礼を申し上げる。なお,自治 体及び施設名については,B市施設所管課及び各施設長 の皆様と調整のうえ,匿名とした。
8 聞き取りを行った3施設は,指定管理者である団体 に着目した選定である(9施設のうち7施設は市の外郭 団体が指定管理者となっており,指定管理者自体は全体 で3者であるからである)。また,外郭団体が指定され ている7施設の中からある1施設を選定した理由は,他 団体が指定管理者となっている2施設から遠く離れてお らず,地域性がかけ離れたものではないこと,また,そ のことにより異なる指定管理者である3施設間の連携が 期待できたことからである。結果として,3施設間の連 携はあまりないということがわかったが,時間的制約が ある中では有意な選定となった。なお,本調査はこのよ うに対象選択や聞き取りという調査手法の限界やバイア スが生じていることを予め断っておく。また,B市の沿 革,地域特性,各施設に関わる市民・利用者等について の調査・分析は十分ではなく,一般化可能性の検証には 更なる調査・分析が必要である。この点は今後の課題と したい。
9 地域で活動する市民活動団体を寄付で支える仕組み を始め,施設利用団体2団体が助成を受けた実績がある
(2017(平成29)年実績)。
10 古川俊一によると「指標の設定とその解釈及び活用」
は,行政評価でも言われる「自治体での最大の実務的な 課題」である。「事業の対象となる受益者においてどのよ うな便益が生じるか,それを自治体のコントロール可能 な範囲でどう認識するかという点について,結論を得る こと」(古川2008:149)が必要とは言われているものの,
それが容易でないから行政評価は測定偏重であるわけで ある。
11 文化担当課が事業先行となる傾向は,中川(1995:
18)でも言及されている。
12 発言者の名誉館長は,自身の引退を見据えて目下の 課題が事業継承であると明言し,「今後,指定管理者に とっては事業継承やM&Aが課題になってくると思う。
これは事業継承へのシステムが公募時の仕様書にも必
要,という意味も含んでいる」と述べたが,これは官民 両者にとって考えさせられる話ではないだろうか。
13 調査1(2016(平成28)年)でも施設所管課から指 定管理者の人材育成能力向上について言及されたが,こ の時は地域文化活性化事業の難しさであり,指定管理者 側から同種の意見はなかった(本論2.2.2及び2.2. 3)。この差異は,後から考えると,より深く追究すべ き点であったと思われるが,十分な調査・分析ができて いない。
14 指定管理施設を含めた公立文化施設で働く若年者の 労働や生活の状況については,吉澤(2012, 2014)が詳 しい。
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