九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
インプラント周囲炎モデルを用いた骨吸収進行にお ける周囲海綿骨の力学的評価と振動学的効果
平岡, 隆
https://doi.org/10.15017/1441157
出版情報:Kyushu University, 2013, 博士(臨床歯学), 課程博士 バージョン:
権利関係:Fulltext available.
インプラント周囲炎モデルを用いた
骨吸収進行における周囲海綿骨の力学的評価と振動学的評価
九州大学大学院歯学府 口腔顎顔面病態学講座 口腔顎顔面外科学分野
平岡 隆
指導教員
九州大学大学院歯学研究院 口腔顎顔面病態学講座 口腔顎顔面外科学分野
森 悦秀
-0-
本研究の内容の一部は,下記の学術雑誌に投稿中である.
インプラント周囲炎モデルを用いたインプラント体周囲海綿骨の力学的評価
Mechanical evaluation of dental implant marginal cancellous bone with peri-implantitis model
平岡 隆,佐々木匡理,松下恭之,荒平高章,森 悦秀
HIRAOKA Ryu, SASAKI Masanori, MATSUSHITA Yasuyuki, ARAHIRA Takaaki,
MORI Yoshihide
日本口腔インプラント学会誌
-1-
目 次 1. 要 旨
2. 諸 言
3. 研究1:インプラント周囲炎モデルを用いた
インプラント体周囲海綿骨の力学的評価
研究2:インプラント周囲炎モデルを用いた振動学的評価
4. 考察
5. 結論
6. 謝辞
7. 引用文献
-2-
要 旨
近年,急増しているインプラント治療の経過不良症例の中で最も多いものが インプラント周囲炎である.これまで,インプラント周囲炎に関する臨床研究
や基礎研究が数多く報告されており,特に有限要素解析を用いた報告は
2 - 3
報 告されているが,いずれも緻密骨の高さを変えたもので、臨床所見とは異なっ たモデルである.さらに,近年用いられる粗面インプラントのインプラント周 囲炎の進行は速く,骨吸収が進行すると再インプラント治療などが困難となる ため,インプラントの除去時期が重要となる.また,骨吸収状態の把握のため には,X線や CT 画像が有用であるが,被爆の問題があり画像検査以外の診断 法の開発も望まれている.本研究では,皮質骨消失~海綿骨支持のインプラント周囲炎モデルを作成し,
異なる骨質およびインプラント長を用いたインプラント周囲炎による骨吸収時 の①インプラント周囲骨内応力の力学的解析と②固有値解析を行い,インプラ ント周囲炎における周囲海綿骨の力学的評価と,骨吸収の進行における振動学 的評価を行うことを目的とした.
研究
1
としてインプラント周囲炎モデルを用いたインプラント体周囲海綿骨の 力学的評価を行った.インプラント体埋入モデルは,顎骨を厚さ1.5 mm
の皮質-1-
骨を有する直方体とし,インプラント体は φ 4.0 mm ,長さをそれぞれ
7.0 mm
(ショートインプラント:
S-I)
,10.0 mm
(ミドルインプラント:M-I)
,13.0 mm
(ロングインプラント:L-I)のシリンダー型,上部構造はφ 7.0 mm,高径 7.5
mm
と設定した.モデルの材料特性として皮質骨はヤング率13,000 MPa、海綿
骨は骨質 Ⅰ~Ⅳ(Ⅰ:9,500 MPa,Ⅱ: 5,500 MPa,Ⅲ: 1,300 MPa,Ⅳ: 690 MPa)
とし,インプラントおよび上部構造は
106,000 MPa
とした.それぞれのポアソン 比は0.3
とした.歯槽骨頂より0.5 mm
ずつ骨吸収させ,1.5 mm
吸収すると海綿 骨のみの支持となるように設定したインプラント周囲炎モデルのインプラント上部構造に対して垂直
0°,傾斜 30°の 2
方向より咬合力を加えて有限要素解 析を行った.各モデルの骨吸収量において骨内圧縮応力を測定し,海綿骨の許 容応力(I: 34.2 MPa, II: 23.8 MPa, III:9.1 MPa, IV: 6.0 MPa)を用いて解析した.骨内圧縮応力は荷重条件にかかわらず,骨吸収の進行と共に,全ての骨質で
S-I,M-I,L-I
の順に高値を示した.傾斜荷重時における許容応力を超える骨内応力が発生する時のインプラント長別
Clinical C/I ratio(以下 CC/I ratio)では,
実際のインプラント除去例における CC/I ratioよりも低い値であった.
研究
2
として,インプラント周囲炎モデルを用いた振動学的評価を行った.研 究1
と同モデルを用い,上部構造を測定用アバットメントφ 4.0 mmで長さ 7.5mm
の円柱型に変更した固有値解析モデルを作成した.歯槽骨頂より1.0 mm
ず-2-
つ骨吸収させて各固有振動数を測定し,骨質およびインプラント長による影響
を調べた.また,固有振動数からインプラント安定指数(
Implant Stability Quotient: ISQ)を算出し,人工骨を用いた骨吸収モデルとの比較を行った.
骨質別に比較すると,骨吸収の進行に伴い固有振動数は減少傾向を示し,骨 密度が低いほど低い固有振動数を認めた.インプラント長別の比較において
M-I
とL-I
では骨吸収の進行に伴い,固有振動数はほぼ同様の減少傾向を示し,S-I
ではより低い値を示した. ISQ 値は支持歯槽骨の皮質骨消失前の場合は海 綿骨の骨密度が高いほど骨吸収による減少量が小さく,消失後では ISQ 値減少 量が大きくなる傾向がみられた.骨吸収モデルにおける ISQ 値の変化は,骨吸収
5.0 mm
までは固有値解析モ デルと同様のISQ
値減少の傾向を示した.本研究より、安全率を考慮した
CC/I ratio
は,過剰な骨吸収を未然に防ぎ,除 去後の治療の負担を軽減することが可能となるため,インプラント除去を行う 一指標となることが示唆された.固有値解析モデルにおける骨吸収に伴う ISQ 値の減少は骨質とインプラン ト長により異なる減少傾向を示した.また,すべての条件で皮質骨吸収時に大 きな減少を認め,インプラント安定性には皮質骨吸収を生じさせないことが重 要であることが示唆された.
-3-
諸 言
1983
年のブローネマルクらによるチタンと骨のオッセオインテグレーション の報告1以降,インプラント治療は欠損部位の治療として広く用いられるように なり,近年,数多くの長期的な成功症例が報告されている2-13.その一方で,経 過不良症例も増加してきており,その中で最も多いのがインプラント周囲炎で ある14.インプラント周囲炎とは,「オッセオインテグレーションが達成された機能下 のインプラントに,細菌感染や過重負担などがおこった結果生じたインプラン ト周囲の骨破壊を伴う炎症性病変である」と定義されている 15-17. インプラン ト周囲の骨吸収量によっては,除去を行うか否かの判断に迷うことがある. 現 在,細菌感染によるインプラント周囲炎に対する治療基準としては累積的防御
法(Cumulative Interceptive Supportive Therapy:
CIST)
18, 19が広く用いられている が,インプラント除去の基準については言及されていない.これまで,インプラント周囲炎に関する臨床研究および基礎研究は数多く報 告されており15-17, 20-30,インプラント周囲炎モデルを用いた有限要素解析に関す る研究報告も散見される.インプラント周囲炎の病態として,インプラント周 囲の皮質骨が吸収された後は,海綿骨のみでインプラントが支持される状態と
-4-
なっているが,従来の報告21, 30, 31ではインプラント周囲の皮質骨の吸収を想定 しておらず,実際の病態が反映されていない.
研究1として,インプラント周囲炎における周囲海綿骨の力学的評価を目的 として,皮質骨消失~海綿骨支持のインプラント周囲炎モデルを作成し,有限 要素解析を行った.
また,研究2として,骨吸収の進行における振動学的評価を行うことを目的 にインプラント安定性を非侵襲的に高い再現性で評価する固有振動数に着目し て,インプラント周囲炎による骨吸収時の固有値解析を行った.
-5-
【研究
1
:インプラント周囲炎モデルを用いたインプラント体周囲海綿骨の力学 的評価】Kitamura
ら 21 は,インプラント周囲炎による骨吸収を想定し,インプラント周囲骨をカップ状に段階的に下げて有限要素解析を行った。インプラント周囲 皮質骨のカップ状吸収は応力集中部位にある頸部皮質骨の荷重負担を軽減させ るための力学的適応であることを示し,傾斜荷重では海綿骨の応力が特に増大
すると報告している.しかし, 実際のインプラント周囲炎における
CT
画像で 骨吸収の病態を検討すると,インプラント周囲の皮質骨は吸収消失し,海綿骨のみでインプラントが支持されている状態であった(図
1)
.前述した有限要素 解析の報告では,皮質骨残存下での解析であるため,実際の病態は反映されて いない.本研究では,インプラント周囲皮質骨消失~海綿骨支持のインプラント周囲 炎モデルを作成し,骨吸収に伴う支持海綿骨への骨内応力集中について力学的 検討を行った。
-6-
1.インプラント体埋入モデルの作成
Tada
ら30 やQian
ら25 の報告を参考にして,CADソフトウェアSolidworks 2011 eDrawings
® (Solidworks Corporation,Concord,MA,USA)を用いてソリ ッドモデルを作成した.皮質骨の厚みを1.5 mm
とし,25.6 × 23.4 × 9.0 mm の 直方体モデルで歯槽骨のソリッドモデルを作成し,インプラント体はシリンダ ー型でφ 4.0 mm とし,長さはショートインプラント:S-I(X≦8.0 mm),ミドルインプラント:
M-I
(8.0 mm<X<12.0 mm),ロングインプラント:L-I
(12.0mm≦X)
の代表例として 7.0 mm,10.0 mm,13.0 mmとした.上部構造は下顎小臼歯部の歯冠高径および幅径の平均値を基に高径 7.5 mm,幅径 7.0 mm
図2:インプラント体埋入モデル
a) インプラント体埋入モデルの寸法
b)有限要素モデルの各モデル図
-7-
とした.4 節点 4 面体要素を用いたメッシュ作成を行い,インプラント体埋
入モデルとした(図
2)
.節点数は58,291~108,154,要素数は 327,494~616,594
とした(表1)
.皮質骨, 海綿骨,インプラント,上部構造はすべて等方性,等質性とし,イ ンプラントは骨と完全なオッセオインテグレーションが得られているものとし
て線形連続体として
MECHANICAL FINDER Version6.2 EE
®(計算力学センター,日本)にて解析を行った.
本研究に用いた材料のヤング率およびポアソン比は
Tada
ら30,Qian
ら25 の報 告に準拠し,ヤング率はインプラント体 106,000 MPa,皮質骨 13,000 MPa,とし,海綿骨 は同報告にて用いられた骨質Ⅰ~Ⅳに分類しそれぞれⅠ:
9,500 MPa,
Ⅱ:5,500 MPa,Ⅲ:1,300 MPa,Ⅳ:690 MPaとし,ポアソン比はすべて 0.3 と した(表
2)
.-8-
2
.インプラント周囲炎の設定実際のインプラント周囲炎にみられる皮質骨吸収~海綿骨支持への移行を反 映させるため,インプラント周囲骨を歯槽頂より 0.5 mm ずつ,骨支持が 1.0
mm
となるまで吸収させ,1.5 mm
吸収すると海綿骨のみの支持になるように設 定し,インプラント周囲炎モデルとした(図3)
.3.荷重条件と解析
各モデルのインプラント上部構造に対して垂直:0°,傾斜:30°の 2 方向
より 100 N の荷重32を行い(図
4)
,骨吸収させた各時点におけるインプラント 周囲支持骨の圧縮応力を測定して解析を行った.図
3
:骨吸収シミュレーション垂直荷重
図
4
:荷重条件100 N 100 N
傾斜荷重
-9-
4.
結 果4-1.骨内圧縮応力分布
骨吸収に伴うインプラント周囲骨内応力の分布の変化について,骨質および インプラント長の影響を調べた.
A)垂直荷重による解析
全ての骨質とインプラント長における,骨吸収量 0.0 および 1.0 mmでの圧 縮応力は周囲皮質骨に集中を認めた.骨吸収量 1.5 mm以上へ進行したモデルに おいては,圧縮応力は一度分散した後に,骨吸収の進行と共にインプラント頸 部へ集中し,次第に底部への集中も認められるようになった.また,各インプ ラント長での圧縮応力の比較において,短いインプラントほど早期に頸部から
底部へ応力集中の変化が認められた(図
5-1,5-2)
.B)傾斜荷重による解析
全ての骨質,インプラント長において,荷重方向のインプラント頸部へ圧縮 応力の集中が認められ,骨吸収の進行に伴って応力集中範囲の増加が認められ た.また,インプラント長における圧縮応力の比較では短いインプラントほど より早期に応力集中および応力分布範囲の拡大が認められた(図
5-3,5-4)
-10-
図
5 -1
:垂直荷重時のM -I
における各骨質別圧縮応力分布-11-
図
5 -2
:垂直荷重時の骨質Ⅱにおける各インプラント長別圧縮応力分布-12-
図
5 -3
:傾斜荷重時のM -I
における各骨質別の圧縮応力分布-13-
図
5 -4
:傾斜荷重時の骨質Ⅱにおける各インプラント長別圧縮応力分-14-
4-2
.骨吸収における圧縮応力の変化と骨質およびインプラント長の関係次に,骨吸収に伴うインプラント周囲海綿骨内の最大圧縮応力について,骨 質およびインプラント長の関係を調べた.
A
)垂直荷重による解析(図6-1
~6-4
)全ての骨質・インプラント長において骨吸収の進行とともに,周囲海綿骨へ の最大圧縮応力の増加が認められる.
骨質Ⅰ,Ⅱの全てのインプラントにおいて,骨吸収により皮質骨が失われて 海綿骨支持となる骨吸収量 1.5 mmで応力の著明な増加が認められた.また,
S-I
で骨吸収量4.5 mm
,M-I
では7.0 mm
,L-I
では9.5 mm
で同様の増加を認め た.骨質Ⅲ,Ⅳにおいて, S-I, M-I ではインプラント骨吸収量 1.5 mm で著 明な増加を認めるも, L-I では認めなかった. また,S-I で骨吸収量6.0 mm
で増加を認め, M-I では 7.0 mm, L-I では 11.5 mmで増加を認めた.図6-1:垂直荷重時の骨質Ⅰにおける圧縮応力と骨吸収量の関係
-16-
図6-2:垂直荷重時の骨質Ⅱにおける圧縮応力と骨吸収量の関係
図6-3:垂直荷重時の骨質Ⅲにおける圧縮応力と骨吸収量の関係
-17-
B)傾斜荷重による解析(図 7-1~7-4)
垂直荷重と同様に,全ての骨質・インプラント長において骨吸収の進行ととも に、周囲海綿骨への最大圧縮応力の増加が認められた.また,骨吸収により皮 質骨が失われ海綿骨支持となる 1.5 mm 吸収時に顕著な圧縮応力の増加が認め られた.骨質Ⅰでは S-I は骨吸収量 5.0 mmで圧縮応力の増加を認め,
M-I
で は7.5 mm
で,L-I
では7.5 mm
,11.5 mm
で増加を認めた.骨質Ⅱでは,S-I
は骨吸収量 5.0 mmで著増加を認め, M-I では 6.5 mm,7.5 mm, 8.5 mmで,L-I
では 7.5 mm, 9.5 mmで同様の増加を認めた.骨質Ⅲでは, S-I は骨吸収 量 4.5 mmで増加を認め, M-I では 6.5 mm, 7.5 mm, 8.5 mmで, L-I では11.0 mm
で増加を認めた.骨質Ⅳでは,S-I
は骨吸収量 4.5 mmで圧縮応力の増加を認め, M-I では 6.5 mm, 7.5 mm, 8.5 mmで, L-I では 10.5 mmで増 加を認めた.
図6-4:垂直荷重時の骨質Ⅳにおける圧縮応力と骨吸収量の関係
-18-
図7-1傾斜荷重時の骨質Ⅰにおける圧縮応力と骨吸収量の関係
図7-2:傾斜荷重時の骨質Ⅱにおける圧縮応力と骨吸収量の関係
-19-
図7-3:傾斜荷重時の骨質Ⅲにおける圧縮応力と骨吸収量の関係
図7-4:傾斜荷重時の骨質Ⅳにおける圧縮応力と骨吸収量の関係
-20-
4-3
.許容応力と最大圧縮応力の比較インプラント周囲炎の進行により除去に至る場合は,海綿骨が耐えられる限 界について考慮する必要がある.そこで,一般的な構造物の強度の指標より圧 縮荷重に対して材料が持ちこたえることができる最大応力である圧縮強さに着
目した.
Gibson
33の報告をもとに,各骨質における海綿骨の圧縮強さを骨質Ⅰ:68.4 MPa,骨質Ⅱ:47.5 MPa,骨質Ⅲ:18.2 MPa,骨質Ⅳ:12.0 MPa
とした.また,予測困難な過大応力が作用する可能性がある場合の安全率=
2
34-36を用い て,海綿骨の許容応力(作用可能な応力の上限値)を算出し(表3)
,各骨吸収 条件下に発生するインプラント周囲海綿骨内の最大圧縮応力(骨内応力)と比 較した.A
)垂直荷重による解析(図8-1
、8-2
)骨質Ⅰ,Ⅱでは全てのインプラント長において,海綿骨の圧縮強さを超える 骨内応力は認められなかったが,骨質Ⅲでは
S-I,M-I,L-I
において骨吸収量6.0 mm
,7.0 mm
,11.5 mm
,骨質Ⅳでは骨吸収量3.5 mm
,5.0 mm
,9.5 mm
で許 容応力を超える骨内応力が認められた.-21-
図8-1:垂直荷重時の骨質Ⅲにおける骨吸収量と許容応力の関係
図8-2:垂直荷重時の骨質Ⅳにおける骨吸収量と許容応力の関係
-22-
B
)傾斜荷重による解析(図8-3
~8-6
)骨質Ⅰにおいて,S-I,M-I,L-I では圧縮強さを超える骨内応力はそれぞれ骨
吸収量
5.5 mm, 8.5mm, 11.5 mm
で認め,許容応力を超える骨内応力はそれぞれ骨吸収量
4.0 mm
,4.5 mm
,5.0 mm
で認めた.骨質Ⅱでは圧縮強さを超える骨 内応力はそれぞれ骨吸収量5.0 mm,7.0mm,9.0 mm
で認め,許容応力を超える 骨内応力はそれぞれ骨吸収量 2.5 mm,3.5 mm, 4.5 mm
で認めた.骨質Ⅲでは圧 縮強さを超える骨内応力はそれぞれ骨吸収量2.0 mm
,5.0mm
,7.0 mm
で認め,許容応力を超える骨内応力はそれぞれ骨吸収量 1.5 mm,
1.5 mm, 1.5 mm
で認め た.骨質Ⅳでは圧縮強さを超える骨内応力はそれぞれ骨吸収量1.5 mm, 3.5 mm,
4.5 mm
で認め,許容応力を超える骨内応力はそれぞれ骨吸収量 1.0 mm,1.5 mm,
1.5 mm
で認めた.図8-3:傾斜荷重時の骨質Ⅰにおける骨吸収量と許容応力の関係
-23-
図8-4:傾斜荷重時の骨質Ⅱにおける骨吸収量と許容応力の関係
図8-5:傾斜荷重時の骨質Ⅲにおける骨吸収量と許容応力の関係
-24-
C)除去指標の検討:Clinical Crown / Implant ratio(CC/I ratio)による解析 Crown / Implant ratio
(C/I ratio:上部構造/インプラント体比)は,インプラ ント体による骨内応力に直接影響を及ぼすことで知られている37.C/I ratio
には 埋入直後のオッセオインテグレーションなどを解析する場合に用いられるAnatomical C/I ratio(AC/I ratio)と,骨面より露出したインプラント体を含んだ Clinical C/I ratio
(CC/I ratio)があり,インプラント周囲炎が進行した場合には後 者で解析を行う必要がある(図9)
.そこで,圧縮強さに達するCC/I ratio
がイン プラント周囲海綿骨の破壊の指標となると考え,骨質およびインプラント長ごとに
CC/I ratio
を算出し,インプラント除去に関して指標となりうるかを検討する.
図8-6:傾斜荷重時の骨質Ⅳにおける骨吸収量と許容応力の関係
-25-
圧縮強さを越えるインプラント長別
CC/I ratio
は,S-I では骨質Ⅰ:3.8,骨質Ⅱ:2.2,骨質Ⅲ:1.6,骨質Ⅳ:1.4.M-I では骨質Ⅰ:2.2,骨質Ⅱ:1.7,骨質
Ⅲ:
1.1
,骨質Ⅳ:1.1
.L-I
では骨質Ⅰ:1.6
,骨質Ⅱ:1.4
,骨質Ⅲ:0.8
,骨質Ⅳ:0.8, となった(図
10)
.図9:Crown / Implant ratio
図10:海綿骨許容応力を超える時インプラント長別CC/I ratio
-26-
次に、海綿骨の許容応力超える時の各骨質別
CC/I ratio
では,骨質ⅠではS-I
:3.8,M-I:2.2,L-I:1.6
となり,骨質Ⅱではそれぞれ2.2,1.7,1.4,骨質Ⅲでは
1.6,1.1,0.8,骨質Ⅳでは 1.4,1.1,0.8
となった.(図11)
D)インプラント除去臨床症例の CC/I ratio
との比較対象は
2010
年9
月~2013
年11
月に九州大学病院再生歯科・インプラントセ ンターにおいて,インプラント周囲炎の診断のもと,インプラント除去を行っ た動揺のない単独植立インプラント 8例とした.除去したインプラントはショートインプラント 1 例,ミドルインプラント 3 例,ロングインプラント
4
例であり,各CC/I ratio
はショートインプラント:2.8
, ミドルインプラント:2.4±0.4,ロングインプラント:2.2±0.8 であった.許容図11:海綿骨許容応力を超える時の骨質別CC/I ratio
-27-
応力を超える時の各インプラント長別平均
CC/I ratio
(7mm
:2.3
,10mm
:1.5
,13mm
:1.1)と臨床例における CC/I ratio を比較した結果,すべて臨床例より低 値となった.(図12)
n=1
short (X≦8.0) long (12.0≦X)
n=3 n=4
許容応力を超える時の平均 CC/I ratio
middle (8.0<X<12.0)
CC/I ratio
2.3
1.5
1.1 0
1 2 3
図12:実際のインプラント除去時CC/I ratioと
許容応力を超える時の平均 CC/I ratio の比較
-28-
考 察
インプラント周囲炎における周囲海綿骨の力学的評価を目的として,皮質骨 消失~海綿骨支持のインプラント周囲炎モデルを作成し,有限要素解析を行っ た.
機械・構造物などの外力に対する機械的強度をインプラントと骨の界面で考 慮する場合,引張応力はオッセオインテグレーションした骨とインプラントを 分離する方向へ応力がはたらくが,現在主流である粗面インプラントは各メー カー間において性状が異なるため限界応力を標準化することは困難である.そ のため,本研究では既報の存在する海綿骨の圧縮強さに着目し,骨内応力を解 析した.
インプラント周囲炎における骨吸収の進行が,海綿骨に与える影響をみるた めに,各荷重時の海綿骨内の圧縮応力の分布を見た.
垂直荷重時では骨吸収
1.5 mm
で圧縮応力は一度分散した後に,骨吸収と共に インプラント頸部へ集中し,次第にインプラント底部への集中に変化している.圧縮応力の集中が底部へ移行するポイントでは,圧縮応力の著明な上昇が認め られた.また,短いインプラントほどより早期にインプラント頸部から底部へ 応力集中が変化していたことから,ショートインプラント: S-I では,皮質骨 の破壊を生じさせないように定期的なメインテナンスが重要である.
傾斜荷重時には,荷重方向のインプラント頸部へ圧縮応力の集中し,骨吸収 の進行に伴って応力集中範囲が増加した.このことから,インプラント周囲炎
-29-
が進行した場合,海綿骨が広範囲に破壊されることを意味している.
垂直荷重時,水平荷重時の両者において,骨吸収量 1.5 mmにおいて骨内最大 圧縮応力は顕著な増加をしめし,皮質骨消失による影響が考えられる.また,
骨吸収の進行によりその後も著明な増加を示すポイントが存在するが,インプ ラント体と支持歯槽骨との接触面積との検討や,拘束点からの距離についての 検討を行う必要があると考えられる.
次に, インプラント周囲炎が進行していった場合の海綿骨が耐えられる限界 を知るために,圧縮荷重に対して構造体が持ちこたえることができる最大応力 である圧縮強さに注目した.また,機械的強度には安全率が取られており,一 般的に用いられるのは,応力に基づく強度検討で,このときの安全率を以下の
式に示す34-36.
S = σ
c/ σ
aS:安全率, σ
c:基準強度(圧縮強さ),σ
a::許容応力 基準強度とは,その部材が破壊や降伏を起こす限界応力のことで,本研究にお いては,圧縮強さを採用した.許容応力とは設計上の材料に作用してよい応力 の大きさの上限値で,作用することが予測される応力である. 安全率を決める 上で考慮すべき点として、強度の不確実性,負荷の不確実性,対象物の重要性(破壊した場合の生体・構造物への影響の大きさ),定期損傷照査の設定(メイ ンテナンス間隔)等があげられる.
ここで,安全率を基準強度と使用応力の不確実性を補うために与えられるもの と考えた場合に,それぞれに対する安全率に分解して次式の経験的安全率とし て検討した.
-30-
S = S
mS
sS
m:
基準強度に対する安全率、S
s:
使用応力に対する安全率S
mは強度の不確実性を補うための安全率で,基準強度の値がどのような確実さ をもって設定されたかに基づいてあたえられる.本研究においては,強度評価 に関する確実な資料がある場合にあたえられるS
m= 1.1
を用いた.また,S
sは 使用応力の不確実性を補うための安全率で,使用応力をどの程度保証できるか に基づいてあたえられる.本研究においては実働荷重のばらつき(咬合負荷の ばらつき),実物の寸法ばらつきによる応力増加(インプラント体および上部構 造のばらつき)を考慮し,予測困難な過大応力が作用する可能性がある場合に あたえられるS
s= 1.5~2
を用いた.以上より,安全率はS = 2
と設定して各骨質 における海綿骨の許容応力を算出した.また,インプラントの生存率に影響を与える因子として,1989 年に歯冠-イ ンプラント比(Crown / Implant ratio : 以下
C/I ratio)についての最初の報告がな
された.
Brose
ら38 はインプラント周囲の歯槽骨レベルやポケットの深さよりも,C/I ratio
が高くなるとインプラント不良の要因になりやすいことを報告した.反対に,Blanesら39 は系統的レビューにおいて, C/I ratio≧2 のインプラント補 綴装置でもその生存率に影響しないことを示したが,同レビューにおいて,本 来の
C/I ratio
であるAnatomical C / I ratio
(AC/I ratio
)と,歯槽骨縁を基準とし た骨縁上を Clinical Crown lengthとした Clinical C / I ratio(CC/I ratio)を分類し た報告はなく,インプラント周囲炎による骨吸収が進行した場合CC/I ratio
用い ることを提唱している.そこで,本研究ではCC/I ratio
を用いて解析値と臨床例 との比較を行った.-31-
臨床例の各インプラント除去時の
CC/I ratio
と,許容応力を超える時の各イン プラント長別平均CC/I ratio
を比較したところ,後者の値がより低い値となった.解析においてはインプラント体と骨は完全にオッセオインテグレーションをし ており,オッセオインテグレーション状態が異なる点が骨内応力の差となって いることが考えられるため,オッセオインテグレーション状態による発生応力 の違いについて検討が必要である.安全率を考慮した
CC/I ratio
は過剰な骨吸収 を未然に防ぐことが示唆された.また,臨床における除去後の問題点の一つで ある再インプラント埋入時における骨造成などの負担を軽減することも可能で ある.これらのことから,インプラント除去を行う一指標となることが示唆さ れた.また,10 mm 未満のインプラントでは,過去に骨密度の低い骨に埋入された 機械研磨インプラントにおいて,生存率が低いことが多数報告されている 40-49. また,粗面の S-I においては他のインプラントと同様の生存率との報告もある
50-61.本研究において,インプラント周囲炎によって骨吸収が生じた場合,骨密
度が低い骨ほど少ない骨吸収量で海綿骨内の圧縮応力による骨破壊が生じるた め,単独植立の S-I では皮質骨消失に至る骨吸収がインプラント除去の一指標 となることが示唆された。
現在,主流となっている粗面インプラントでは機械研磨インプラントとイン プラント周囲炎の発生段階に差はないものの,いったん罹患するとその進行は 速いことが知られており26, 62,前述したように除去の時期を逸した場合には過度 の歯槽骨吸収を招き、その後の補綴処置が困難となる.つまり,インプラント
-32-
除去時期の基準を設定することは今後のインプラント治療を行うにあたって重 要である.
-33-
小 括
1
1)
骨内圧縮応力は,インプラント頸部に集中し,骨吸収と共に垂直荷重で は底部へ変化し,傾斜荷重では応力集中範囲の拡大が認められた.2)
傾斜荷重時により大きな圧縮応力が生じた.短いインプラントほど少な い骨吸収で大きな応力が生じた.3)
垂直荷重は支持海綿骨の破壊にほぼ影響がなく,傾斜荷重が影響をあた えている.骨質Ⅲ・Ⅳでは皮質骨消失により海綿骨破壊への影響が強ま る.4)
安全率を考慮した CC/I ratio でのインプラント除去施行は過剰な骨吸収 を回避するための基準として有用である.-29-
【研究
2
:固有振動数によるISQ
解析モデルの作製】インプラント周囲炎による骨吸収を把握するために
X
線やCT
画像を多用し ているが,頻回の撮影による被爆は避けたほうがよいとの報告もある63, 64. ま た,X
線検査では平行法での撮影が望まれるが,再現性に劣る点も問題である.そのため,インプラント治療における非侵襲性のインプラント安定性の評価 法として, Perio Test 法(打診によりインパルスハンマーとインプラントとの 接触時間を評価)や埋入トルク値が用いられてきた.だが,前者は打診の方向,
位置,材料によって再現性に劣る点,後者は埋入後の評価ができない点に問題 があり,臨床では次第に使用される機会が少なくなってきている.
近年,非侵襲性で再現性の高い手法として,共振周波数(Resonance Frequency:
RF)から算出されるインプラント安定指数(Implant Stability Quotient: ISQ)が
注目されてきており,オッセオインテグレーションの確立過程におけるRF
の変化65-68や,インプラント長および径と
RF
の関係性が報告69, 70されている.しかし,現在までに一旦成立したオッセオインテグレーションが破壊されていく過 程を
RF
で見た報告はない.本研究では,インプラント周囲炎等の,オッセオインテグレーション獲得後 のインプラント周囲骨吸収,という現象を振動学的にとらえることを目的とし た.
-30-
1.固有値解析モデルの作成
研究
1
の歯槽骨およびインプラント体モデルを使用し.上部構造を測定用アバ ットメントとし高径φ4.0 × 7.5 mmの円柱へ変更した.研究1
と同様に,4 節点4
面体要素を用いて要素分割を行い,メッシュモデルを作成し,節点数は15,996
~28,394,要素数は
86,905~156,548
とした(表4)
.皮質骨,海綿骨,インプラント,測定用アバットメントはすべて等方性,等 質性とした.インプラントは骨と完全なオッセオインテグレーションが得られ ているものとして線型連続体とし,
1.0 mm
ずつ骨吸収を生じさせた固有値解析 モデルを作成した(図13)
.ヤング率,ポアソン比は研究1
と同じであるが,固 有振動数を算出するため,密度をインプラント体4.6 g/cm
3,測定用アバットメ ント2.7 g/cm
3,皮質骨2.4 g/cm
3,海綿骨は骨質Ⅰ:1.3 g/cm
3,骨質Ⅱ:1.12 g/cm
3, 骨質Ⅲ:0.69 g/cm3,骨質Ⅳ:0.56 g/cm3に設定して解析を行った(表5)
.図13:骨吸収条件
-31-
2
.固有振動数の算出とデータ解析Abaqus/Standard 6.3
®(Dassault Systèmes HQ,FRANCE)を用いて骨吸収させ た各時点で固有値解析を行い,固有振動数を算出した.固有値解析とは、ある 物体のもつ共振周波数と振動モードを求める解析である.振動モードとは,固 有値に対する固有ベクトルの要素のうち,特定番目の要素の値を単位1
に指定 して表現する.本研究では,1次モードを対象として解析を行った.(図14)
3.結
果-32-
3-1
.インプラント長が骨吸収進行時の固有振動数に与える影響インプラント長が骨吸収進行時に固有振動数へ与える影響を調べるため,骨 吸収の各時点でインプラント長別に固有振動数を比較した.全てのインプラン ト長において固有振動数は骨吸収の進行とともに減少が認められた.
M-I
とL-I
ではほぼ同様の固有振動数の減少傾向を示したが,S-I
ではより低い値を示した(図
15)
.3-2.骨質(骨密度の違い)が骨吸収進行時の固有振動数に与える影響
骨質が骨吸収進行時に固有振動数へ与える影響を調べるため,骨吸収の各時 点で骨質別に固有振動数を比較した.全ての骨質で骨吸収の進行に伴い,固有 振動数の減少が認められ,骨密度が低いほど低い固有振動数を示した(図
16
). 骨質ⅠおよびⅡ,骨質ⅢおよびⅣは同様のグラフ様式を示した.また,周囲支図15:骨質Ⅱにおけるインプラント長別固有振動数
-33-
持皮質骨が消失する骨吸収
2.0 mm
において海綿骨の骨密度が低いほどより 著明な減少を認めたが、その後の海綿骨支持では骨質の違いにかかわらず骨吸 収量に対する固有振動数の減少傾向はほぼ一定であった.3-3.固有値解析モデルからの ISQ
値の算出および解析骨吸収の進行による ISQ 値の変化を骨質間で比較した.
3-1
,3-2
で得られた固有振動数から,以下の公式を用いて各インプラント長 と各骨質での ISQ 値を算出(以下,解析ISQ
値)し,骨吸収なし(0.0 mm)を0.00
とし,解析ISQ
値の減少量を算出した(図17)
.ISQ = -2.4E-14 X F
4
+ 7.1E-10 X F
3
-7.8E-6 X F
2
+ 0.0445 X F – 37 F :
固有振動数図16:M-Iにおける骨質別固有振動数
-34-
骨質によって,骨吸収量と 解析
ISQ
値の減少量が異なっており,皮質骨の残存 がみられる骨吸収量 0.0-1.0 mm では 解析ISQ
値 4.72~6.99 減少(平均5.93)
, 骨吸収量1.0-2.0 mm
では 解析ISQ
値4.24
~9.90
減少(平均6.74
)であった.骨吸収量 2.0-3.0 mm:解析
ISQ
値 3.26~2.30 減少(平均2.79)
,骨吸収量 3.0-4.0mm:解析 ISQ
値 3.00~2.10 減少(平均2.58)
,骨吸収量4.0-5.0 mm:解析 ISQ
値2.60
~1.90
減少(平均2.30
),骨吸収量5.0-6.0 mm
:解析ISQ
値2.20
~1.70
減 少(平均2.00)
,骨吸収量6.0-7.0 mm:ISQ 2.10~1.60
減少(平均1.93)であっ
た.皮質骨消失前は骨密度が高いほど骨吸収による 解析ISQ
値減少量が小さく,皮質骨消失後すなわち海綿骨支持では骨密度が高いほど骨吸収による 解析
ISQ
値減少量が大きくなることが示された(図18)
.-30.00 -25.00 -20.00 -15.00 -10.00 -5.00 0.00
0 1 2 3 4 5 6 7
骨質 I 骨質 II 骨質 III 骨質 IV
図17:固有値解析モデルによる ISQ 値
(mm)
解 析 I S Q 値 減 少 量
-35-
3-4.骨吸収モデルの作成と ISQ
値の測定皮質骨-海綿骨モデル(皮質骨厚さ:1.5 mm)に,
φ4.1 × 10.0 mm
のインプ ラント体を埋入した.その後,1.0 mm
ずつ模型を削合(骨吸収を再現)させ,骨吸収モデルを作製した.削合ごとにオステル
ISQ
®(Osstell AB, Sweden)にてISQ
値を測定した(同様のモデル作成および測定を3
回施行.以下,実測ISQ
値).骨吸収
6.0 mm
よりインプラント体の動揺を認めた.(図19
)図18:骨質別の骨吸収時 ISQ 値減少量の比較
図19:骨吸収モデルによる ISQ 値
-36-
3-5
.骨吸収モデルと固有値解析モデルにおけるISQ
値 の比較3-3
で行った解析 ISQ 値減少量と,実測 ISQ 値減少量との比較を行ったところ,
5.0 mm
吸収までは骨質モデルの減少と同様の傾向を示したが,6.0 mm
以降では著明な低値を示した(図
20
).図20:骨吸収時 ISQ 値減少量の比較
I S Q 値 減 少 量
-37-
考 察
既報のない,オッセオインテグレーション獲得後のインプラント周囲骨吸収 におけるインプラント安定性の変化について,振動学的解析を行った.
本研究においては振動解析の一つである固有値解析を用いた.橋や建物を作る 場合に,風や地震波などの外力の持つ振動特性と構造物自体の持つ固有振動数
(共振振動数)が一致してくると、弱い力でも共振することで構造物が崩落す ることが知られている.構造物自体が持つ固有振動(共振周波数)とその際の 振動モードを数値計算によって求める手法が固有値解析である.
オステル
ISQ
®を用いて,共振周波数(Resonance Frequency:RF)より算出さ れるインプラント安定指数(Implant Stability Quotient: ISQ)は臨床におけるオ ッセオインテグレーションの評価する手法としての高い評価を得ている.本研 究では,実際のインプラント周囲炎患者で骨質やインプラントや上部構造の形 状などの条件を揃えISQ
を計測することは困難であるため,上述した固有値解 析を用いてパラメトリックスタディを行い,インプラント周囲炎により引き起 こされる振動学的特性について調査を行ったものである.計測用のアルミ製の ペグの中には振動を励起するための磁性体が含まれているが,その形状や大き さが不明である.そこでペグを円柱の構造物として,インプラント体と一体化 されているものとして有限要素モデル化した.本研究の使用ソフトの妥当性を検証するため,固有値解析における理論解と の検討を行った71, 72.検証モデルとして,φ4.0
× 17.5 mm
の円柱にヤング率-37-
200,000 MPa
, ポアソン比0.3
,密度7.9 g/mm
3 を与え,片持ち梁として理論解 を求めたところ,固有振動数(1次モード)は290Hz
となった.また,同条件 のモデルを作製し,Abaqus/Standard 6.1
® で算出した値は289 Hz
となり使用ソフ トは妥当であった.インプラント安定性を評価するにあたって,オッセオインテグレーションの 確立過程における RF の変化65-68やインプラント長,径との RF の関係性69, 70 が報告されている.
Huang HM
ら66がRF
は骨性統合の過程を早期に評価する ための信頼性の高い方法であることを模型実験と動物実験とにより報告しており,
Turkyilmaz
ら70 はインプラント周囲骨レベルとRF
には線形関係に有意な相関があることを報告している.
研究
1
のモデルを一部改良して固有値解析モデルを作成し,インプラント長 が骨吸収進行時の固有振動数に与える影響について解析した.全てのインプラ ント長において固有振動数は骨吸収の進行とともに減少が認められた.ミドル インプラント:M-I
とロングインプラント:L-I
ではほぼ同様の固有振動数の減 少傾向を示した.このことより,M-I
で L-I 以上の長さのインプラントと同等 の結果が得られる可能性が示唆された.骨質(骨密度の違い)が骨吸収進行時の固有振動数に与える影響について解 析した.全ての骨質で骨吸収の進行に伴い,固有振動数の減少が認められ,骨 密度が低いほど低い値を示していた.また,骨質 I および II,骨質 III および
IV
は同様の減少傾向を示しており,これは骨密度が各々で近似しているためと 考えられる.さらに,皮質骨が消失する骨吸収 2.0 mm において骨密度が低い-38-
ほどより著明な減少を認めたが、その後の海綿骨支持では骨質の違いにかかわ らず骨吸収量に対する固有振動数の減少傾向はほぼ一定であった.このことか ら,固有振動数の減少には骨密度が低いほど皮質骨の影響が大きいことが示唆 された.
次いで,固有値解析モデルを用いて各骨質での骨吸収の進行による解析 ISQ 値の変化について解析を行った.
皮質骨消失前は骨密度が高いほど骨吸収による解析
ISQ
値減少量が小さく,皮質骨消失後すなわち海綿骨支持では解析 ISQ 値減少量が大きくなることが 示された.しかし,全体として皮質骨消失時に解析 ISQ 値は著明に減少してお り,インプラント安定性に皮質骨による維持が重要であることが示唆された.
実際の臨床への応用を考え,皮質骨-海綿骨モデル(皮質骨厚さ:1.5 mm)
を用いて,骨吸収進行時における実測 ISQ 値の変化について解析したところ,
骨吸収 5.0 mm までは固有値解析モデルと同様の実測 ISQ 値減少の傾向を示 していたが,骨吸収
6.0 mm
で動揺を認め,実測ISQ
値の減少量が増加した.このことから,固有値解析モデルでの解析 ISQ 値減少量は妥当であると考えら れ,実際の臨床における ISQ 値の変化で骨吸収の評価が可能になることが示唆 された.また,実測
ISQ
値では骨吸収の進行によりインプラントと人工骨の接 触状態が不安定となり,線形関係が消失することが示唆された.ISQ
値算出に用いた公式はOsstell AB
社より公表されている式を用いた.しか しながら,解析ISQ
値は実測ISQ
値とは明らかに異なっていた.その理由とし て,1.有限要素モデルの分割,2.ペグの形状・特性,3.ペグ内の磁石の-39-
影響,4.解析に用いたモードの選択,5.拘束条件が考えられる.有限要素 モデルは研究1において応力値の正確性を増すため要素を細かく分割して作成 しており,要素分割を荒くすると固有振動数は増加することは事前の研究で明 らかであった.ペグの形状や詳細な特性については明らかにされておらず,ま た,ペグ内の磁石のポジションにより重心が変化するため振動数へ影響すると 考えられる.さらに,本研究では一次モードを使用したが,こちらについても 明らかにされておらず,高次のモードを使用している可能性も否定できない.
拘束条件にもさらなる検討が必要と考えられる.
-40-
小 括
2
1)
骨吸収による固有振動数の減少は,M-I とL-I
ではほぼ同様の 減少傾向を示し,M-I で L-I 以上の長さのインプラントと同等の安定性 が得られる可能性が示唆された.2)
固有振動数は骨質が柔らかいほど皮質骨に影響を受けやすいこ とが示唆された.3)
骨吸収による解析ISQ
値の減少量は皮質骨消失前では海綿骨 の骨質が柔らかいほど大きく,皮質骨消失後では骨質が硬いほど大きく なった.4)
固有値解析モデルは骨吸収によるインプラント安定性の変化を 再現可能である.-41-
結 論
1
)安全率を考慮したCC/I ratio
でのインプラント除去施行は過剰な骨吸収を 回避し、その後の治療負担を減少させることが可能となり、今後のインプラン ト除去に関するデシジョンツリー作成の一助となることが示唆された.2)固有値解析モデルは骨吸収によるインプラント安定性の変化をみるうえで
有用である.また,皮質骨の消失はインプラント安定性を著しく低下させるた め,皮質骨の維持は重要と考えられる.-42-
謝
辞
稿を終えるにあたり、終始御懇篤なる御指導と御校閲を賜りました九州大学 大学院歯学研究院 口腔顎顔面病態学講座 口腔顎顔面外科学分野 森 悦秀 教 授,佐々木 匡理 助教,口腔機能修復学講座 口腔生体機能工学研究分野 松下 恭之 准教授,福岡歯科大学 歯科医療工学講座 生体工学分野 荒平 高章 助教に謹んで感謝の意を表します。 また、常に励ましの言葉を頂きました当分 野の医局員,九州大学病院 再生歯科・インプラントセンターの先生方に深く 感謝いたします。
-46-
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