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高松塚・キトラ古墳の保存問題

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Academic year: 2021

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高松塚・キトラ古墳の保存問題

著者 網干 善教

雑誌名 阡陵 : 関西大学博物館彙報

巻 51

ページ 2‑3

発行年 2005‑09‑30

URL http://hdl.handle.net/10112/00023995

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高松塚・キトラ古墳の保存問題

奈良県明日香村に所在する壁画古墳高松塚・

キトラ古墳の特別史蹟の保存をめぐっていま大 きな議論を呼んでいる。その経緯について概略 を述べておこう 。

わが国で最初に本格的な壁画古墳が検出され たのは1972年3月の高松塚古墳であった。この 調査は主として関西大学考古学研究室の諸君の 参加があって実施されたことは周知である。

古墳の墳丘の一部に凝灰岩切石が見えている との事実を確認して直後の1970(昭和45)年10 月21日から 4日間、関西大学の学生らが古墳の 測量調査を行った。爾後、諸手続や準備が行わ れ、 1972年3月、発掘調査実施、これには24名 の関西大学生が参加した。そして3月21日横口 式石榔内に壁画が描かれていることを確認し た。参加学生諸君をはじめ、関係者は一入の感 激にひたった。その後現地での作業は冷静に 淡々とすすめられた。

そのような経過があって高松塚古墳について は当事者として特別な感情を抱いていることは 確かである。調査から半年後の11月、『壁画古 墳高松塚ー中間報告書』が出版された。その報 告書の序文に関西大学名誉教授であり、高松塚 古墳の調査責任者である末永雅雄先生は次の如

く記されている。

「調査参加学生の手記を見ると発掘の努力 を重ね、これを愛し、調査をつづけたが、

次第に自分たちから遠ざかってゆく悲しみ を書いたものがあった。それほどにまで高 松塚古墳を愛する感情をもって努力してき たかと驚いた。いまこれを書きながらもな お胸がつまる。」

高松塚古墳の調査についての措置の決断は以 下の文章によっても知ることができる。

「日本文化史上に大きな寄与をなした、こ の偉大な資料を個人的財産とは異なるを考 えれば、すべてを挙げて国家処理に移し、

保存と調査研究の万全を期して、次代の日 本国民に伝えるべきである。いや世界にお ける人類文化史の重要資料の一つとして保

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網 干 善 教

存すべきであって、学生のいう通り高松塚 古墳は4月5日の時点をもって、われわれ からも遠ざかりつつあることを感じる。所 員全体のもつ思いも同様である。しかしな がら高松塚古墳という重要資料を高所より これを見、これを考えるとき、われわれは ここにいさぎよく国へ移し、国は重厚な措 置をとって悔なき方策をたてられること が、最も正しいと私は判断した結果の処理 である。」

と所信を披泄されている。その後文化庁に、「高 松塚古墳綜合学術調査会」が立ち上げられた。

その第1回の現地調査に立ち合われた先生は、

同報告書で「壁画の完存を確認して」という項 に次のように記されている。

「昭和47年9月30日10時30分、高松塚古墳 の開封が解かれると共に私が半年間安否を 懸念しつづけて来た壁画は再び鮮やかな、

か つ 艶 や か な 飛 鳥 人 が 電 燈 に 照 し 出 さ れ た。(中略)この日をもって高松塚古墳壁 画の出現以来、保護・保存を第一とした私 の責任は解消された。(中略)殊に唯一の 法隆寺壁画を人災で失ったわが国における 至宝であるこの高松塚古墳壁画を損傷する ことがあってはならない。(以下略)」と。 それから約30年が経過した。文化庁が責任を もって高松塚古墳を守ってくれていると私たち は思っていた。この間に文化庁は石榔の前面に 大きな保存施設もつくった。そして説明板に壁 画は保存されていると書いてあった。だから誰

もがそう信じていた。

ところが最近分ったことだが、あの石榔の前 の施設は高松塚古墳の壁画を直接守る為に造っ たのではないという。内部点検に入る人たちが 菌を持ち込まないためであるとの説明であり、

唖然とした。それだけの施設をつくったのにカ ビだらけである。キトラ古墳も同様である。防 菌のための立派な施設をつくったにもかかわら ずおびただしいカビの被害が出ているという。 一体何のために、何の研究をして、そのよう

 

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な施設をつくったのか。若し役立っていないと するならば浪費であろう。

形が6角形ではないかということにも関心が もたれた6月19日の新聞はキトラ古墳から人骨 や副葬品の一部が出土したことを報じた。

そのようにキトラ古墳やマルコ山古墳の発掘 が話題となっていた日の夜、文化庁が出版した

『国宝 高松塚古墳壁画』を朝日新聞橿原支局 の大脇和明氏が持参し来訪され収録された壁画 の写真について意見を求められた。それを見た 途端鳥肌の立つ思いになった。殆んど見る影も なくなった白虎の壁画、 30年前のあの鮮やかな 姿は色もあせ、形もよく見えないほど劣化して いる。まさに青天の欝歴である。末永先生はこ の壁画の保存について国家にゆだね重厚な措置 をとり、悔なき方策をたてられることを願われ て文化庁に移管された筈である。序文の中で「高 松塚古墳を損傷するようなことがあってはなら ない」と強調された。「痛恨のきわみ」であり、

「断腸の思い」でもある。

解体するのは2年後、修復に10年を要すると いう。修復は新しく壁画を描くことではない。も はや報告書にあるような鮮やかな壁画ではない。

発掘以来約30年間、私たちは壁画に関しては 一切知らない。なぜこのようになったのか、そ の間どのような処理をしたのかも知らない。た だ、新聞やテレビの報道によって垣間見る程度 である。これに関して一切の責任は文化庁にな いといっているらしい。『文芸春秋』 2005年10 月号の記事によると文化財行政の政府機関が真 摯に行政を行ってこなかったということに強い 憤りを感じる。

この文化庁の発行した『国宝 高松塚古墳壁 画』の報告書をみると、その序言のなかに、「文 化庁長官 河合準雄」の名で「幸い30年を経て も壁画は大きな損傷あるいは褪色もなく保存さ れています」と書いている。そして本を開いて みると、褪色して見るかげもなくなった写真が 何頁にも収録されているではないか。そのよう

な写真を掲載して、どうして30年間何の損傷が なく褪色もなかったといえるのだろうか。

そのあと実施された原因究明のためという文 化庁による発掘調査を長く古墳の発掘に携わっ てきた我々からみると「何だ、この発掘は」と 思われるふしがある。墳丘全面の土を剥ぎ取っ

ている。通常ならば、必要な箇所にせいぜいト レンチを入れて探ぐるべきである。高松塚古墳 のような場合封土の全面を取りとれば元に戻す ことはできない。この発掘状況をみると、最初 から「解体ありき」ということであったといわ れても仕方がない。そしてこの調査によって判 明したことは一体何だったのか。「地震の痕跡 がある」とか、「斜面に築造されているから水 はけが悪く、湿度が高いからカビが生えた」と いう程度である。

ある時期、高松塚古墳の石榔内には水が溜っ ていたことは分かっている。天井と側壁面に露 水・浸水の跡がある。築造されて千数百年、こ の間何回浸水があったのか、痕跡から見る限り、

そう多くはない。

そのようなことでカビが生えたのか。本当に 天井や側石の間から虫が入ったのか。そのよう な穴があるなら、もっと壁面に露水、浸水の痕 跡がある筈である。虫の侵入した原因は度々の 入室者があったことや盗掘孔の閉塞の方法が杜 撰であったことだろう 。

カビの生える原因は地球温暖化の影響によっ て3℃程上昇したことによるという。そうとは 思わないが、若しそうだとすると今の時代狭い 石室の温度を 3℃位下げる方法はいくらでもあ る。湿度が高くなったというならば日本には除 湿装置はいくらでもある。すぐ解体という結論 に到らず、現地保存の原則に立脚して為すすべ はいくらでもあると思う 。それを考えないこと は怠慢といわれても仕方がないだろう。

さらに「特別史跡」をどうするか、その立場 からみても今回の顛末は文化財行政の汚点であ り、壁画劣化の問題は保存科学の失敗で敗北と しかいいようがない。それで済むような問題で もない。

高松塚古墳対策は単純に解体しかないという のではなく、ほかにも方法があり、あくまでも 特別史跡を保存し、国宝壁画を現地保存する方 法はある筈である。

高松塚古墳の解体は単に文化庁の問題だけで なく将来の飛鳥国営公園の管理運営や飛鳥保存 財団の設立の目的、運営にも影響を及ぶす行政 全体の問題であることを知るべきである。

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