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第 4 章 音の持続時間の知覚

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Academic year: 2021

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(1)

リズム チカク ノ キソ トシテノ ジカン カ ンカク ノ チカク ニ オト ノ ジカン コウ ゾウ ガ オヨボス エイキョウ

蓮尾, 絵美

九州大学大学院芸術工学府中島研究室

https://doi.org/10.15017/19760

出版情報:Kyushu University, 2010, 博士(芸術工学), 課程博士 バージョン:

権利関係:

(2)

4 章 音の持続時間の知覚

4.1 はじめに

第2章および第3章では,区切音の持続時間が,区切音の始まりによって示された時間間 隔の知覚に影響することが示された。区切音の持続時間がどのように時間間隔の知覚に影響 したかを考えるうえで,区切音の持続時間自体がどのように知覚されるか,また,区切音の 持続時間の主観的な長さと,これまでの実験で用いられていたような二つの区切音の始まり の間の時間間隔の主観的な長さがどのような関係にあるかを調べることは重要である。そこ で,本章では,ひとつひとつの区切音の持続時間の知覚に着目した。

音の持続時間を判断するうえで重要な手掛かりとなる「音の終わり」の知覚的な位置につ いて,Efron (1970)は,音の持続時間が130 ms程度よりも短いとき,音の持続時間が変わっ て物理的な音の終わりの位置が変化しても,音の知覚的な終わりの位置は変化せず,音の主 観的な持続時間も変化しないと報告した。もしそうであるとすると,第2章および第3章で

用いた20-100 msの範囲の音の場合,音の持続時間が物理的に変化しても,主観的な持続時

間は変化しなかったことになる。つまり,区切音の持続時間が主観的には変化しなくても,

二つの区切音の間の時間間隔の知覚に影響したことになる。本章の実験では,そのようなこ とが本当にあったと考えられるかどうかを確かめた。

音の持続時間は,時間知覚研究で用いられる用語で言い換えると,充実時間 (filled time

interval) と呼ばれる時間間隔にあたる。充実時間とは,一つの音の始まりから終わりまでの,

音が鳴っている部分の時間間隔を指す。一方,第2章および第3章で用いたような時間間隔 は,空虚時間 (empty time interval) と呼ばれる時間間隔と似ている。空虚時間とは,二つ の短音に挟まれた,無音区間を含んだ時間間隔のことを指す。空虚時間と充実時間の主観的 な長さを比較したこれまでの研究において,物理的に等しい長さの時間間隔であっても,そ の時間間隔が充実時間であるときのほうが,空虚時間であるときよりも,主観的に長くなる という現象が報告され,充実時間錯覚 (filled duration illusion) と呼ばれている(e.g. Craig, 1973; Fastl & Zwicker, 2007; Wearden et al., 2007)。充実時間が空虚時間よりもどの程度長 く知覚されるかについては,文献によって異なる結果が示されているが,充実時間のほうが 空虚時間よりも知覚的に長くなるという点においては共通しており,充実時間錯覚は安定し た現象であると考えられた。

ただし,第2章および第3章で用いたような,100 ms以下の非常に短い音について,充 実時間と空虚時間の主観的な長さを比べた研究は非常に少ない。Wearden et al. (2007)は,

77-1183 msの時間間隔を用いて充実時間と空虚時間の主観的な長さを調べ,時間間隔が長く

なるほど充実時間錯覚の錯覚量が増えることを示したが,最も短い77 msの時間間隔におい

(3)

ては,空虚時間と充実時間の主観的な長さの差がほとんど無かった。また,Zwicker (1969/70) は,充実時間錯覚は5 msの時間間隔でも生じると報告しているものの,彼のデータを見る 限り,100 ms以下の時間間隔において本当にそれより長い時間間隔と同様の充実時間錯覚 が生じるかは,はっきりとはいえない。200 ms程度よりも短い時間間隔においては,それ よりも長い時間間隔とは異なる知覚現象が生じることが知られており(e.g. Nakajima et al., 1980, 2004),非常に短い時間間隔においては,充実時間錯覚は生じなくなる可能性も考えら れた。

本章では,20-360 msの非常に短い時間間隔を対象に,第2章の実験と同様に調整法を用 いて,充実時間と空虚時間の主観的な長さを測定した。そして,音の持続時間が変化すると その主観的な長さはどのように変化するのか,また充実時間の主観的な長さと空虚時間の主 観的な長さはどのような関係であるのかを調べた。

なお,従来の充実時間錯覚に関する研究では,空虚時間の定義を,一つの音の終わりから 次の音の始まりまでの無音区間のみとしていることが多かったが(e.g. Fastl & Zwicker, 2007;

Wearden et al., 2007),本章で行った実験では,第2章および第3章と同様に,一つの音の 始まりから次の音の始まりまでの (一つ目の音を含んだ) 時間間隔を空虚時間とした。本章 で扱うような非常に短い時間間隔を用いる場合,実験参加者の反応にも高い精度が求められ るが,人間は音の終わりよりも始まりに敏感に反応することができると言われているためで ある(e.g. Fastl & Zwicker, 2007)。また,音の始まりから始まりまでの時間間隔を用いるこ とによって,結果をリズム知覚と結び付けやすくなると考えられる(e.g. Large, 2008)。

4.2 目的

非常に短い時間間隔において,音の持続時間の主観的な長さを調べ,また,充実時間錯覚 が生じるかどうかを調べることを目的とした。

まず,実験6では,20-180 msの時間間隔を対象とし,充実時間または空虚時間で示され る標準時間と等しく聴こえるように,非常に短い音で区切られた空虚時間を調整する,とい う方法で,充実時間および空虚時間の主観的な長さを求めた。実験7では,対象とする時間 間隔の範囲を40-360 msに広げ,また,調整する時間間隔として空虚時間だけでなく充実時 間も用いて,時間間隔の長さの範囲や調整する時間間隔の種類が変わっても実験6と同様の 結果が得られるかを調べた。

4.3 実験 6 :空虚時間と充実時間の主観的な長さの測定1

4.3.1 目的

200 ms以下の非常に短い時間間隔において,充実時間 (音の持続時間) の物理的な長さが

変化するとその主観的な長さがどのように変化するか,また,空虚時間と充実時間とでは,

主観的な長さがどのように異なるのかを調べた。

(4)

4.3.2 実験方法

第2章の実験1-3および第3章の実験5と同様に,先に呈示された標準時間と等しく聞こ えるように,数秒後に呈示される比較時間を調整する,という方法を用いて実験を行った。

刺激

刺激パターンは,標準時間と比較時間によって構成された(図 4.1)。再生ボタンを押して から標準時間が始まるまでに2-2.5秒間の無音区間があり,標準時間を示す音の終わりから 比較時間の始まりまでに2.5-3秒間の無音区間があった。実験参加者が刺激の始まりを正確 に予測することができないようにするため,無音区間の長さは呈示の都度それぞれの範囲内 でランダムに変化させた。

比較時間は2 msの音二つによって区切られた空虚時間であった。標準刺激には,空虚時間 条件,充実時間条件,対照条件に対応する3種類の時間間隔を用いた(図 4.2)。空虚時間を 示す音には,立ち上がり・立ち下がり時間それぞれ10 msからなる20 msの音を用い,第1 音の立ち上がりの時間的中央から第2音の立ち上がりの時間的中央までの長さを時間間隔と

した (図4.2a)。充実時間を示す音にも,立ち上がり・立ち下がりそれぞれ10 msをつけ,立

ち上がりの時間的中央から立ち下がりの時間的中央までの長さを時間間隔とした(図 4.2b)。

対照条件および比較刺激の時間間隔を示す音としては,立ち上がり・立ち下がり時間それぞ れ1 msからなる2 msの音を用い,空虚時間条件同様,第1音の立ち上がりの時間的中央か ら第2音の立ち上がりの時間的中央までの長さを時間間隔とした(図 4.2c)。立ち上がりの開 始点および立ち下がりの終了点を時間間隔の始まりおよび終わりとせず,立ち上がりおよび 立ち下がりの時間的中央を実効的な音の始まりと終わりとしたのは,立ち上がりの開始点お よび立ち下がりの終了点においては音圧レベルが非常に低く,実験参加者の可聴レベルに達 しない可能性が考えられたためである。いずれの条件でも,時間間隔を示す音としては1000 Hzの正弦波から作った短音を用い,立ち上がり・立ち下がりの振幅包絡は,強さの次元でコ サイン形状(半周期分)とした。また,全ての音の総エネルギーが等しくなるようにした。刺 激の呈示レベルは,20 msの区切り音と同じ振幅の定常音の音圧レベルが71 dBとなるよう 設定した。音圧レベルの測定には,人工耳 (Br¨uel & Kjær Type 4153)および騒音計 (Node Type 2072 または 2075) を用いた。

標準時間の長さとしては,20, 60, 100, 180 msの4種類を用いた。よって,標準刺激は12

種類[3 (時間間隔の種類) × 4 (時間間隔の長さ)]であった。

(5)

a Empty-interval condition

b Filled-interval condition

Standard duration (20, 60, 100, 180 ms)

Comparison duration

time Click

PLAY button

20 ms 2 ms

2-2.5 s 2.5-3 s

Standard duration Comparison duration

time Click

PLAY button

2 ms

2-2.5 s 2.5-3 s

c Control condition

Standard duration (20, 60, 100, 180 ms)

Comparison duration

Standard duration (20, 60, 100, 180 ms)

Comparison duration

time Click

PLAY button

2 ms

2-2.5 s 2.5-3 s

2 ms

Fig. 4.1 実験6の時間チャート。水平軸が時間を表し,右方向が未来方向に対応する。実験

参加者は,先に呈示された標準時間(standard interval) と等しい長さに聴こえるよう,比較 時間(comparison interval)の長さを調整した。aは空虚時間条件(empty-interval condition),

bは充実時間条件 (filled-interval condition),cは対照条件 (control condition)の時間チャー トをそれぞれ示す。

(6)

10 ms 10 ms 20 ms

Time Time interval

Intensity

a Empty

10 ms 10 ms

Time Time interval

Intensity

b Filled

1 ms 1 ms 2 ms

Time Time interval

Intensity

c Control

Fig. 4.2 実験6で用いた時間間隔の模式図。aは空虚時間条件 (empty-interval condition),

bは充実時間条件 (filled-interval condition),cは対照条件(control condition) においてそれ ぞれ用いられた。それぞれの音の立ち上がりおよび立ち下がりの時間的中央を,時間間隔の 始まりまたは終わりとした。実験6において,比較時間を示すために用いられた音は,対照 条件(c) と物理的に同じ音であった。実験7においても,空虚時間条件および充実時間条件 として,本図のaおよびbと同様の音が用いられた。実験7Aでは,充実時間条件(b) と同 じ音が,実験7B では空虚時間条件(a) と同じ音が,それぞれ比較刺激を示すために用いら れた。

(7)

実験環境

実験は,暗騒音30 dBA以下の防音室内で行われた。実験プログラムは,パーソナルコン ピュータ (Dell Dimension 4300S) 上で,Visual Basic.netを用いて作成した。刺激の作成,

呈示は,パーソナルコンピュータ (Asus EeePC 4G) で行い,DA変換器(Onkyo Wavio SE- U55SX),ローパスフィルタ (Nf DV-04 DV8FL 8300 Hz),アンプ (Sansui AU-α607XR),

ヘッドホン (Sennheiser HDA200) を通して実験参加者の両耳に呈示した。刺激の呈示レベ ル等は,人工耳 (Br¨uel & Kjær Type 4153),騒音計 (Node Type 2072およびType 2075),

オシロスコープ (Agilent Technologies DSO 6012A)を用いて測定した。

実験手続き

実験には調整法を用いた。実験参加者は標準時間と等しい長さに感じられるよう比較時間 を調整した。調整作業は,パソコンディスプレイに表示される調整画面をマウスで操作する ことにより行われた (図 2.2)。刺激の呈示および調整は,実験参加者が納得するまで何度で も行うことができた。各標準刺激について上昇系列と下降系列の二種類の調整を行い,この 二つの系列の調整結果の平均をその標準時間のPSEとした。なお,比較時間を短く調整し たときに比較時間を示す二つの音が融合して一つに聴こえることを防ぐため,比較時間の最

小値を5 msとし(Plack, 2005),それよりも短く調整しようとしても呈示される時間間隔は

5 msとなるように設定した。

試行数は全部で24試行 [12 (標準刺激) ×2 (系列)]あり,これを実験参加者ごとにランダ ムな順番に並べ替えたものを12試行ずつ2つのブロックに分けた。また,本実験に入る前 に,4試行の練習ブロックを設けた。ブロックとブロックの間で,実験参加者は希望すれば 休憩をとることができ,休憩をした場合は休憩後のブロックの始めに2試行のウォーミング アップ試行を追加した。

1ブロック(12試行) あたりの所要時間は約15分であり,練習ブロックも含めた実験全体 に要した時間は,実験参加者一名につき35分程度であった。

実験参加者

九州大学芸術工学部音響設計学科所属の3年生24名が実験に参加した。全ての実験参加 者が,聴能形成によりある程度の聴覚訓練を受けていた(Iwamiya et al., 2003)。実験は,音 響設計学科3年生の必修科目である「音響実験」の授業の一部として行われた。

4.3.3 結果と考察

12種類の標準刺激に対して,それぞれ24個 (24人分) のPSEが得られた。その平均値を プロットしたグラフを図 4.3aに示す。図中の誤差棒は実験参加者間の標準偏差を示す。どの 条件でも,PSEは標準時間の物理的な長さとほぼ等しかった。音の終わりを知覚するために はある程度の時間がかかるため,約130 msよりも短い音であっても知覚的な音の終わりの

位置は130 msの音と同じになるとする研究結果も過去には報告されていた(Efron, 1970)こ

(8)

Standard duration (ms)

20 60 100 180

P S E ( m s )

20 60 100 140 180 220 260 300

a

Empty Filled Control

All participants (n = 24)

Standard duration (ms)

20 60 100 180

PSE (ms)

20 60 100 140 180 220 260 300

b Cluster 1 (n = 16)

Empty Filled Control

Standard duration (ms)

20 60 100 180

PSE (ms)

20 60 100 140 180 220 260 300

c Cluster 2 (n = 8)

Empty Filled Control

Fig. 4.3 実験6で得られたPSEの平均値。aは全実験参加者 (24名),bはクラスター1の 実験参加者 (16名),cはクラスター2の実験参加者 (8名) の平均PSEを示す。白四角は空 虚時間条件 (Empty),黒丸は充実時間条件 (Filled),灰色逆三角は対照条件(Cntrol)のPSE をそれぞれ示す。誤差棒は実験参加者間の標準偏差を示す。

とを考えると,充実時間条件において,標準時間が20-100 msのときでも標準時間が長くな るとPSEも増加していたことだけでも注目に値する結果であった。

また,空虚時間条件と充実時間条件と対照条件の3条件間では,平均PSEにはあまり差

(9)

Standard = 20 ms (Empty)

PSE (ms)

20 60 100 180 260 320 400

Count

0 5 10 15 20 25

Standard = 60 ms (Empty)

PSE (ms)

20 60 100 180 260 320 400

Count

0 2 4 6 8 10 12 14

Standard = 100 ms (Empty)

PSE (ms)

20 60 100 180 260 320 400

Count

0 2 4 6 8 10 12 14

Standard = 180 ms (Empty)

PSE (ms)

20 60 100 180 260 320 400

Count

0 2 4 6 8 10

Fig. 4.4 実験6の空虚時間条件で得られたPSEの分布。PSEを20 msごとに区切り,それ ぞれの区間にPSEがあった実験参加者の人数を示した。

がなかった。つまり,充実時間錯覚は生じなかったようであった。なお,第2章および第3 章では,区切音の持続時間が20-100 msの範囲で変化すると,音の始まりによって示された 時間間隔の主観的な長さが変わるということが示されたが,本実験で用いた2 ms (対照条

件) と20 ms (空虚時間条件)の区切音では,そのような区切音の持続時間の効果は見られな

かった。

PSEの平均値には,時間間隔の種類による違いはほとんど見られなかったものの,標準偏 差に着目すると,空虚時間条件と対照条件と比べ,充実時間条件の標準偏差は非常に大きく なっていた。そこで,各条件のPSEの分布をヒストグラムに表した(図 4.4-図4.6)。空虚時 間条件と対照条件では,PSEの分布のピークの位置は標準時間の長さと一致していたのに対

し (図 4.4,図4.6),充実時間条件ではPSEの分布のピークの位置は必ずしも標準時間の長

さとは一致しておらず,実験参加者間のばらつきも大きかった(図 4.5)。詳しく見ると,充 実時間条件のPSEの分布のピークは,標準時間が100 ms以下の条件では実際の標準時間よ りも短い位置に,標準時間が180 msの条件では標準時間よりも長い位置にあった。一方で,

(10)

Standard = 20 ms (Filled)

PSE (ms)

20 60 100 180 260 320 400

Count

0 2 4 6 8 10

Standard = 60 ms (Filled)

PSE (ms)

20 60 100 180 260 320 400

Count

0 1 2 3 4 5 6 7

Standard = 100 ms (Filled)

PSE (ms)

20 60 100 180 260 320 400

Count

0 1 2 3 4 5 6 7

Standard = 180 ms (Filled)

PSE (ms)

20 60 100 180 260 320 400

Count

0 1 2 3 4 5 6

Fig. 4.5 実験6の充実時間条件で得られたPSEの分布。PSEを20 msごとに区切り,それ ぞれの区間にPSEがあった実験参加者の人数を示した。

標準時間が100 ms以下の条件でもPSEが標準時間を大幅に超えていた実験参加者,また,

標準時間が180 msの条件でもPSEが標準時間よりずっと小さかった実験参加者もいた。実 験参加者ひとりひとりのPSEを見ると,例えば,標準時間が20 msの条件では,PSEが10 ms以下の実験参加者が多数いた (8名)一方で,50 msを超えた実験参加者もいた(3名)。こ の2種類の実験参加者は,おそらく異なる手掛かりを用いて調整作業を行ったのではないか と考えられた。

そこで,クラスター分析を行い,充実時間条件の反応をもとに実験参加者をいくつかのグ ループに分けることができるかどうかを確認した。充実時間条件の過大評価量を求め[(充実 時間条件のPSE)(対照条件のPSE)],それを標準化した値を用いてクラスター分析 (平方 ユークリッド距離,Ward法)を行った結果をデンドログラムとして図 4.7bに示す。クラス ター分析の結果,実験参加者ははっきりと二つのクラスター (クラスター1,クラスター2) に分類された。一方,空虚時間条件の過大評価量を求め[(空虚時間条件のPSE)(対照条件

(11)

Standard = 20 ms (Control)

PSE (ms)

20 60 100 180 260 320 400

Count

0 5 10 15 20 25 30

Standard = 60 ms (Control)

PSE (ms)

20 60 100 180 260 320 400

Count

0 5 10 15 20 25

Standard = 100 ms (Control)

PSE (ms)

20 60 100 180 260 320 400

Count

0 2 4 6 8 10 12 14 16

Standard = 180 ms (Control)

PSE (ms)

20 60 100 180 260 320 400

Count

0 2 4 6 8 10 12

Fig. 4.6 実験6の対照条件で得られたPSEの分布。PSEを20 msごとに区切り,それぞれ の区間にPSEがあった実験参加者の人数を示した。

のPSE)],同様に標準化した値をクラスター分析(平方ユークリッド距離,Ward法)した結

果では,そのようなはっきりとしたクラスターは現れなかった (図 4.7a)。

充実時間条件について得られたクラスター1の16名の実験参加者のPSEの平均と,クラス ター2の8名の実験参加者のPSEの平均を,それぞれ求め,プロットしたグラフを図4.3b,c に示す。クラスター1の実験参加者は,充実時間を過小評価していたのに対し,クラスター 2の実験参加者は,充実時間を過大評価していた。この傾向は,どの標準時間においても一 貫してみられ,充実時間条件ではPSEのばらつきが大きかったものの,PSEが無秩序にばら ついていたわけではなく,実験参加者ひとりひとりの反応は一貫していたことが示された。

つまり,充実時間条件におけるPSEのばらつきが大きかったのは,充実時間条件では課題が 難しかったということのみが原因であったわけではなく,実験参加者によって何か異なる手 掛かりを用いていた可能性が示された。

それぞれのクラスターごとに2要因(時間間隔の種類 × 標準時間)の分散分析を行った。ク ラスター1においては,時間間隔の種類の主効果に有意差が認められた[F (2, 30) = 18.567,

(12)

a Empty

5 7 4 17 10 1 15 21 22 23 20 3 24 11 13 14 16 19 2 9 12 18 6 8

Rescaled Distance Cluster Combine

Participant number

0 5 10 15 20 25

Participant number

Rescaled Distance Cluster Combine

16 21 6 7 23 24 8 15 17 18 13 4 19 11 20 1 12 14 10 3 5 2 9 22

0 5 10 15 20 25

b

Cluster 1

Cluster 2

Filled

Fig. 4.7 実験6で得られた空虚時間条件および充実時間条件の過大評価量を標準化し,クラ

スター分析した結果のデンドログラム。分析は,Ward法を用いて行った。充実時間条件 (b) では,実験参加者は2つのクラスターに分けられた。空虚時間条件 (a) では,はっきりとし たクラスターは現れなかった。

p < .001]。ダネットの多重比較を行い,対照条件と空虚時間条件,また,対照条件と充実

時間条件を比較したところ,対照条件と充実時間条件の差が有意であった (p <.001)。対照 条件と空虚時間条件の差は有意ではなかった (p > .05)。クラスター2においても,時間間 隔の種類の主効果に有意差が認められ[F (2, 14) = 9.510, p <.05],ダネットの多重比較 の結果,対照条件と充実時間条件に有意差が認められたが (p < .001),対照条件と空虚時間 条件には有意差はなかった (p > .05)。どちらのクラスターでも,分散分析の結果,時間間 隔の種類と標準時間の交互作用には有意差がなかった (p >.05)。

分析結果をまとめると,どちらのクラスターでも,充実時間条件と対照条件には有意差が あったが,空虚時間条件と対照条件には有意差はなかった。ただし,充実時間条件と対照条 件の差は,二つのクラスターで逆方向に向かっていた。つまり,クラスター1の実験参加者 は充実時間を過小評価する傾向があったのに対し,クラスター2の実験参加者は過大評価す る傾向があったことがわかった。

(13)

実験6では,20-180 msの非常に短い時間間隔においても,充実時間の物理的な長さが増せ ば,その主観的な長さも増すことが確認された。一方,予期しなかったことであるが,従来 の研究で報告されてきたように充実時間のほうが空虚時間よりも主観的に長くなる実験参加 者と,逆に充実時間が空虚時間よりも主観的に短くなる実験参加者がいることが示された。

充実時間のほうが空虚時間よりも短いと知覚されるという現象は,本実験において初めて確 認された現象であった。そこで,これらの現象がどの程度安定したものであるかを調べるた めに,標準時間の長さの範囲と,比較刺激を示す時間間隔の種類を変えて,実験7を行った。

4.4 実験 7 :空虚時間と充実時間の主観的な長さの測定2

4.4.1 目的

実験6と同様に,充実時間 (音の持続時間) の物理的な長さが変化するとその主観的な長 さがどのように変化するかを調べるとともに,空虚時間と充実時間とでは主観的な長さがど のように異なるのかを調べることを目的とした。特に,実験6よりも長い時間間隔を用いた ときや,調整する比較時間として充実時間を用いたときでも,実験6と同様に,充実時間を 空虚時間よりも長いと知覚する実験参加者と充実時間を空虚時間よりも短いと知覚する実験 参加者の2グループが現れるかどうかに着目した。

4.4.2 実験方法

実験手続きは,基本的に実験6と同じであった。本実験は,用いた刺激パターンによって,

実験7Aと実験7Bに分けた。実験7Aでは,調整する比較時間を充実時間とした刺激パター ンを用い,実験7Bでは調整する比較時間を空虚時間とした刺激パターンを用いた。実験参 加者は,それぞれ実験7Aと実験7Bのどちらかに割り当てた。実験7Aと実験7Bを行う順 番はカウンターバランスした。

刺激

刺激パターンは標準刺激と比較刺激から成り,標準刺激として,空虚時間と充実時間(図4.2a,b) の2種類の時間間隔を用いた。比較刺激としては,実験7Aでは標準刺激の充実時間と同じ 刺激を, 実験7Bでは標準刺激の空虚時間と同じ刺激を,それぞれ用いた(図4.8)。充実時 間を示す音の総エネルギーは,空虚時間を示す20 msの音2個分の総エネルギーと等しくな るようにした。

標準時間の長さとしては,40, 80, 120, 200, 280, 360 msの6種類を用いた。よって,標準

刺激は12種類[2 (時間間隔の種類) × 6 (時間間隔の長さ)] であった。刺激に関するその他

の点は,実験6と同じであった。

実験環境

実験環境は,実験6と同じであった。

(14)

a Experiment 7A (Filled comparison)

20 ms

Standard duration (40, 80, 120, 200, 280, 360 ms)

Comparison duration

time Click

PLAY button

2-2.5 s 2.5-3 s

Standard duration (40, 80, 120, 200, 280, 360 ms)

Comparison duration

time Click

PLAY button

2-2.5 s 2.5-3 s

b Experiment 7B (Empty comparison)

Standard duration (40, 80, 120, 200, 280, 360 ms)

Comparison duration

time Click

PLAY button

2-2.5 s 2.5-3 s

20 ms Standard duration

(40, 80, 120, 200, 280, 360 ms)

Comparison duration

time Click

PLAY button

2-2.5 s 2.5-3 s

20 ms 20 ms

Fig. 4.8 実験7の時間チャート。水平軸が時間を表し,右方向が未来方向に対応する。実験

参加者は,先に呈示された標準時間(standard interval) と等しい長さに聴こえるよう,比較 時間 (comparison interval)の長さを調整した。aでは比較時間を示す刺激として充実時間が 用いられた (実験7A)。bでは比較時間を示す刺激として空虚時間が用いられた (実験7B)。

実験手続き

比較時間の最小値および練習ブロックの試行数以外は,実験6と同じであった。比較時間 の最小値は,実験7A (比較刺激が充実時間) では10 ms,実験7B (比較刺激が空虚時間)で

(15)

は20 msとした。実験7Aでは,比較刺激の立ち上がりおよび立ち下がり時間を10 msに保 つには,比較時間の長さとして最短でも10 msが必要であり,実験7Bでは,比較時間を示 す二つの区切音が時間的に重なるのを避けるためには,比較時間の長さとして最短でも20 msが必要であったためである。

試行数は全部で24試行 [12 (標準刺激) ×2 (系列)]あり,これを実験参加者ごとにランダ ムな順番に並べ替えたものを12試行ずつ2つのブロックに分けた。また,本実験に入る前 に,6試行の練習ブロックを設けた。ブロックとブロックの間で,実験参加者は希望すれば 休憩をとることができ,休憩をした場合は休憩後のブロックの始めに2試行のウォーミング アップ試行を追加した。

1ブロック(12試行) あたりの所要時間は約15分であり,練習ブロックも含めた実験全体 に要した時間は,実験参加者一名につき35分程度であった。

実験参加者

九州大学芸術工学部音響設計学科所属の3年生28名が実験に参加した。実験6に参加し た者はいなかった。全ての実験参加者が,聴能形成によりある程度の聴覚訓練を受けていた (Iwamiya et al., 2003)。実験は,音響設計学科3年生の必修科目である「音響実験」の授業 の一部として行われた。

この28名の実験参加者を16名と12名の2つのグループに分け,12名を実験7A (比較刺 激が充実時間)に,16名を実験7B (比較刺激が空虚時間)に割り当てた。

4.4.3 結果と考察

実験7A (比較時間が充実時間のとき)

12種類の標準刺激に対して,それぞれ12個 (12人分) のPSEが得られた。その平均値を プロットしたグラフを図 4.9aに示す。図中の誤差棒は実験参加者間の標準偏差を示す。どの 条件でも,時間間隔が物理的に長くなると,PSEも増加した。空虚時間条件と充実時間条件 を比較すると,標準時間が40-120 msの範囲では,空虚時間条件のPSEが充実時間条件の PSEよりわずかに大きく,標準時間が200-360 msの範囲では,空虚時間条件のPSEは充実 時間条件のPSEよりわずかに小さかったものの,時間間隔の種類による差は大きくはなかっ た。また,空虚時間条件において,実験参加者間の標準偏差が大きかった。

実験6と同様にクラスター分析を行い,実験6と同様に実験参加者を2つのグループに分 けることができるかどうかを確認した。なお,実験7Aでは,充実時間条件のときに,標準 刺激と比較刺激が同じであったため,充実時間条件を対照条件として扱い,空虚時間条件の 過大評価量を求めた[(空虚時間条件のPSE)(充実時間条件のPSE)]。その過大評価量を標 準化し,クラスター分析(平方ユークリッド距離,Ward法)を行った結果をデンドログラム

として図 4.11aに示す。クラスター分析の結果,実験6と同様に,実験参加者ははっきりと

二つのクラスター (クラスター1,クラスター2)に分類された。

クラスター1の7名の実験参加者のPSEの平均と,クラスター2の5名の実験参加者の PSEの平均を,それぞれ求め,プロットしたグラフを図4.9b,cに示す。クラスター1の実験 参加者の平均PSEを見ると,標準時間が40-120 msの範囲では,空虚時間が過大評価されて

(16)

40 80120 200 280 360

P S E ( m s )

0 100 200 300 400 500 600

Empty Filled

a All participants (n = 12)

Standard duration (ms) 40 80120 200 280 360

40 80120 200 280 360

PSE (ms)

0 100 200 300 400 500 600

b Cluster 1 (n = 7)

Empty Filled

Standard duration (ms) 40 80120 200 280 360

Cluster 2 (n = 5)

40 80120 200 280 360

PSE (ms)

0 100 200 300 400 500 600

c

Empty Filled

Standard duration (ms) 40 80120 200 280 360

Fig. 4.9 実験7Aで得られたPSEの平均値。aは全実験参加者(12名),bはクラスター1の 実験参加者 (7名),cはクラスター2の実験参加者 (5名) の平均PSEを示す。白四角は空虚

時間条件 (Empty),黒丸は充実時間条件 (Filled) のPSEをそれぞれ示す。誤差棒は実験参

加者間の標準偏差を示す。

(17)

40 80120 200 280 360

P S E ( m s )

0 100 200 300 400 500 600

a All participants (n = 16)

Empty Filled

Standard duration (ms) 40 80120 200 280 360

Cluster 1 (n = 11)

40 80120 200 280 360

PSE (ms)

0 100 200 300 400 500 600

b

Empty Filled

Standard duration (ms) 40 80120 200 280 360

Cluster 2 (n = 5)

40 80120 200 280 360

PSE (ms)

0 100 200 300 400 500 600

c

Empty Filled

Standard duration (ms) 40 80120 200 280 360

Fig. 4.10 実験7Bで得られたPSEの平均値。aは全実験参加者 (16名),bはクラスター1 の実験参加者 (11名),cはクラスター2の実験参加者 (5名) の平均PSEを示す。白四角は 空虚時間条件 (Empty),黒丸は充実時間条件 (Filled) のPSEをそれぞれ示す。誤差棒は実 験参加者間の標準偏差を示す。

(18)

いたのに対し,クラスター2の実験参加者の平均PSEでは,空虚時間は過小評価されてい た。この過小評価量は,標準時間が最も短い条件においては他の条件に比べて小さいようで あった。クラスター2の実験参加者が空虚時間を過小評価したということは,充実時間のほ うが空虚時間よりも主観的に長かったということであり,従来の充実時間錯覚が生じていた ことを意味する。同様に,クラスター1の実験参加者が空虚時間を過大評価したということ は,充実時間のほうが空虚時間よりも主観的に短かったということであり,実験6のクラス ター1の実験参加者と同様に,従来の充実時間錯覚とは逆の現象が現れたことを意味する。

それぞれのクラスターごとに2要因 (時間間隔の種類 × 標準時間)の分散分析を行った結 果,クラスター1においては,時間間隔の種類の主効果に有意差が認められた[F (1, 6) = 6.404, p < .05]。時間間隔の種類と標準時間の交互作用にも有意差が認められた[F (5, 30)

= 4.462, p <.01]。クラスター2においても,時間間隔の種類の主効果に有意差が認められ

[F (1, 4) = 15.496, p < .05],時間間隔の種類と標準時間の交互作用にも有意差があった

[F (5, 20) = 3.697, p < .05]。

実験7B (比較時間が空虚時間のとき)

12種類の標準刺激に対して,それぞれ16個 (16人分) のPSEが得られた。その平均値を プロットしたグラフを図 4.10aに示す。図中の誤差棒は実験参加者間の標準偏差を示す。ど の条件でも,時間間隔が物理的に長くなると,PSEも増加した。空虚時間条件と充実時間条 件を比較すると,充実時間条件のPSEが空虚時間条件のPSEよりわずかに小さかったが,

時間間隔の種類による差は大きくはなかった。また,充実時間条件において,実験参加者間 の標準偏差が大きかった。

実験6と同様にクラスター分析を行い,実験6と同様に実験参加者を2つのグループに分 けることができるかどうかを確認した。なお,実験7Bでは,空虚時間条件のときに,標準 刺激と比較刺激が同じであったため,空虚時間条件を対照条件として扱い,充実時間条件の 過大評価量を求めた[(充実時間条件のPSE)(空虚時間条件のPSE)]。その過大評価量を標 準化し,クラスター分析(平方ユークリッド距離,Ward法)を行った結果をデンドログラム

として図 4.11bに示す。クラスター分析の結果,実験6と同様に,実験参加者ははっきりと

二つのクラスター (クラスター1,クラスター2)に分類された。

クラスター1の11名の実験参加者のPSEの平均と,クラスター2の5名の実験参加者の PSEの平均を,それぞれ求め,プロットしたグラフを図 4.10b,cに示す。クラスター1の実 験参加者の平均PSEを見ると,充実時間が過小評価されていたのに対し,クラスター2の実 験参加者の平均PSEでは,充実時間は過大評価されていた。この過大評価量は,標準時間 が最も短い条件においては他の条件に比べて小さいようであった。まとめると,クラスター 2の実験参加者には従来の充実時間錯覚が生じる傾向があったが,クラスター1の実験参加 者には,実験6のクラスター1の実験参加者と同様に,充実時間錯覚とは逆に充実時間が空 虚時間よりも主観的に短くなる傾向があった。

それぞれのクラスターごとに2要因 (時間間隔の種類 × 標準時間)の分散分析を行った結 果,クラスター1においては,時間間隔の種類の主効果に有意差が認められた[F (1, 10) =

12.755,p < .01]が,クラスター2においては,時間間隔の種類の主効果に有意差は認めら

れなかった[F (1, 4) = 5.226, p >.05]。どちらのクラスターでも,時間間隔の種類と標準 時間の交互作用には有意差がなかった (p >.05)。

(19)

a Filled comparison

Participant number

Rescaled Distance Cluster Combine 0 5 10 15 20 25

8 10 13 6 11 3 5 2 9 4 7 1

Cluster 1

Cluster 2

b Empty comparison

Rescaled Distance Cluster Combine

Participant number

6 14 9 10 12 7 13 2 15 1 5 4 11 3 8 16

Cluster 1

Cluster 2

0 5 10 15 20 25

Fig. 4.11 実験7で得られた空虚時間条件 (実験7A) および充実時間条件 (実験7B) の過大 評価量を標準化し, クラスター分析した結果のデンドログラム。分析は,Ward法を用いて 行った。実験7A (a),実験7B (b) の両方において,実験参加者は2つのクラスターに分け られた。

(20)

実験6および実験7では,実験参加者によって,充実時間錯覚が生じる場合と,それとは 逆の現象が見られる場合とがあることが示された。このような二種類の知覚が生じたことか ら,実験参加者によって刺激の捉え方が異なっていた可能性が考えられる。

充実時間錯覚に関する従来の研究では,充実時間が空虚時間よりも主観的に長くなる理 由として,充実時間の終わりを示す音の「終わり」の検知が,空虚時間の終わりを示す音の

「始まり」の検知よりも遅くなる可能性と(e.g. Fastl & Zwicker, 2007; Craig, 1973; Grondin,

2003),音が存在するときのほうが無音のときよりも内的ペースメーカー(Treisman, 1963;

Gibbon et al., 1984)が速く動くために物理的には同じ長さであっても音が存在するときの

ほうが長く感じられる可能性(Wearden et al., 2007)が挙げられている。実験6および実験7 において,充実時間錯覚が生じた実験参加者の知覚については,従来の研究と同様にこの二 つの説で説明することができる。ただし,音の終わりの検知が音の始まりの検知よりも遅れ るとすると,充実時間と空虚時間の主観的な長さの差は,時間間隔の長さに関わらず一定に なるはずであるが,本章の実験結果では時間間隔の長さによってその差が異なっていた。つ まり,音の終わりの検知の遅れのみでは本章の実験結果で見られた充実時間錯覚を説明する ことはできない。

一方,実験参加者によっては充実時間が空虚時間よりも主観的に短くなった理由としては,

充実時間において,音の持続時間が非常に短い場合に,音の始まりと終わりとを別々に知覚 することが困難であった可能性や,比較刺激を示す音が空虚時間だった場合に,調整に用い られた比較時間を示す二つの音の始まりから始まりまでの長さではなく,一音目の始まりか ら二音目の終わりまでの長さを聴いていた可能性が考えられる。前者については,音の始 まりは敏感に検知することができても(e.g. Fastl & Zwicker, 2007; Grondin, 2003; Efron, 1970),音の終わりを音の始まりと分離して知覚することが困難であったために,音の終わ りが音の始まりの位置に引き摺られて音の始まりに近い位置に知覚された可能性を考えるこ とができる。後者については,二つの短音の始まりによって示された時間間隔が150 ms程 度よりも短い場合には,その二つの音を二つのピークを持つ一つの音として聴くこともでき るといわれており(Nakajima et al., 1980),実験6および実験7Bにおいて用いられた比較刺 激については,比較時間が短いときに,比較時間を示す二つの音が一つの音として聴かれた 可能性がある。そうであれば,比較時間を示す二つの音の始まりから始まりまでの長さでは なく,一音目の始まりから二音目の終わりまでの長さが,充実時間を示す音の始まりから終 わりまでの長さと主観的に等しくなるよう調整作業が行われることもあり得るので,実際に 記録された調整結果 (比較時間を示す二つの音の始まりから始まりまでの長さ) は短くなる ことも考えられる。ここに挙げた仮説以外の説明もあり得る。

実験7の結果は,実験6の結果とよく似ていた。つまり,充実時間の物理的な長さが増せ ば,その主観的な長さも増すことが再度確認された。また,非常に短い時間間隔においては,

従来の研究で報告されてきたように充実時間のほうが空虚時間よりも主観的に長くなる実験 参加者と,逆に充実時間が空虚時間よりも主観的に短くなる実験参加者とがいることが示さ れた。充実時間が空虚時間よりも短いと知覚される現象は,時間間隔が180 ms以下のとき には,比較刺激の種類に関わらず,安定してみられた (図4.3b,図4.9b,図4.10b)。時間間

隔が200 ms以上になると,この現象の現れ方は比較時間の種類による影響を受けるようで

あった (図 4.9b,図4.10b)。

(21)

4.5 まとめ

本章では,第2章および第3章で用いられた20-100 msの音を含む非常に短い音の持続時 間の主観的な長さを調べた。その結果,以下のことが明らかとなった。

従来の研究においては,充実時間は空虚時間よりも主観的に長くなるといわれてきたが (e.g. Craig, 1973; Fastl & Zwicker, 2007; Wearden et al., 2007),180 ms以下の非常に短い時 間間隔においては,半数以上の実験参加者にとって,充実時間が空虚時間よりも主観的に短 くなることが示された。その一方で,充実時間が空虚時間より主観的に長くなる実験参加者 もおり,非常に短い時間間隔においては2通りの知覚があり得ると考えられる。本論文の第 2章および第3章で用いられた区切音の持続時間は20-100 msであり,区切音自体の持続時 間については,実験参加者の聴き方によって2通りの知覚が生じた可能性がある。また,い ずれの知覚が生じた場合でも,音の持続時間が長くなるとPSEも増加しており,100 ms以 下の非常に短い音であっても,音自体の持続時間が長くなると,音の主観的な長さも長くな ることが示された。つまり,第2章および第3章で用いた20-100 msの非常に短い音であっ ても,実験参加者は持続時間の違いを捉えていたことが確認された。

Fig. 4.2 実験 6 で用いた時間間隔の模式図。a は空虚時間条件 (empty-interval condition),
Fig. 4.3 実験 6 で得られた PSE の平均値。a は全実験参加者 (24 名),b はクラスター 1 の 実験参加者 (16 名),c はクラスター 2 の実験参加者 (8 名) の平均 PSE を示す。白四角は空 虚時間条件 (Empty),黒丸は充実時間条件 (Filled),灰色逆三角は対照条件 (Cntrol) の PSE をそれぞれ示す。誤差棒は実験参加者間の標準偏差を示す。
Fig. 4.4 実験 6 の空虚時間条件で得られた PSE の分布。PSE を 20 ms ごとに区切り,それ ぞれの区間に PSE があった実験参加者の人数を示した。 がなかった。つまり,充実時間錯覚は生じなかったようであった。なお,第 2 章および第 3 章では,区切音の持続時間が 20-100 ms の範囲で変化すると,音の始まりによって示された 時間間隔の主観的な長さが変わるということが示されたが,本実験で用いた 2 ms (対照条 件) と 20 ms (空虚時間条件) の区切音では,そのような
Fig. 4.5 実験 6 の充実時間条件で得られた PSE の分布。PSE を 20 ms ごとに区切り,それ ぞれの区間に PSE があった実験参加者の人数を示した。 標準時間が 100 ms 以下の条件でも PSE が標準時間を大幅に超えていた実験参加者,また, 標準時間が 180 ms の条件でも PSE が標準時間よりずっと小さかった実験参加者もいた。実 験参加者ひとりひとりの PSE を見ると,例えば,標準時間が 20 ms の条件では,PSE が 10 ms 以下の実験参加者が多数いた (8
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