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地震第 2 輯第 65 巻 (2013) 頁 DOI: /zisin 地震波に対する被圧地下水の応答 水理伝導率の時間変化検出の試み 九州大学大学院比較社会文化研究院 環境変動部門 * 大野正夫 Response of a Confined Water We

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地震波に対する被圧地下水の応答

──水理伝導率の時間変化検出の試み──

九州大学大学院比較社会文化研究院・環境変動部門*

大 野 正 夫

Response of a Confined Water Well to Seismic Waves

─Temporal Variation in Hydraulic Conductivity─

Masao O

HNO

Department of Environmental Changes, Faculty of Social and Cultural Studies, Kyushu University, Motooka 744, Nishi-ku, Fukuoka 819-0395, Japan

(Received May 11, 2012; Accepted February 13, 2013)

Frequency response of water level fluctuation to seismic wave was determined at a confined water well in the Izu Peninsula, Japan. The purpose of this study is to detect the enhancement of hydraulic conductivity of the aquifer in this area that was suggested associated with nearby seismic swarm activity due to removal of deposits in the aquifer caused by strong seismic motion. In the analysis, depression in the peak value of the response function of water level to seismic wave was found as the amplitude of seismic wave increases. The observed depression was explained by the theoretical estimate of the depression due to friction associated with the water movement as a turbulent flow in the pipe of the well. After correcting this dependency, temporal variation in the response function was investigated. However, expected increase of the response function associated with the seismic swarm activities was not detected. The response function showed a decreasing trend with time, although the variation did not exceed the estimated errors; this trend is in-terpreted by decreasing hydraulic conductivity due to formation of barrier by deposition in the aquifer. Key words: Groundwater, Water level, Seismic wave, Hydraulic conductivity, Seismic swarms

§1. は じ め に

井戸の水位が地震波に応答して変動することは古くか ら知られており,かつてはこの現象を利用して井戸の水 位を地震計として利用することも考えられていた[例え ば,Stearns (1928),Leggette and Taylor (1935),Blanchard and Byerly (1935),Sterling and Smets (1971),Woodcock and Roeloffs (1996)].Eaton and Takasaki (1959) は最大 の水位変動は長周期の Rayleigh 表面波によって励起さ れたものであることを示し,また水位変動と地震計の記 録を比較すれば井戸の帯水層の水理伝導率などのパラ メーターを求められるであろうことも予測していた. 井戸の水位の地震波に対する応答の注目すべき特徴の 一つが,その水位変動の振幅の大きさであり,数メート ルに及ぶ変動が観測されることもある[例えば,Vorhis (1967),Ohno et al. (1997)].モデル計算[Cooper et al.

(1965),Liu et al. (1989),深尾・他 (1996)]によれば,この 現象は地下にある被圧帯水層と井戸の管中の水のつくる 力学的な系が固有周期を持ち,その固有周期に近い周期 の地震波に対して系が共振し水位変動が増幅されるため と解釈され,その周波数特性は井戸の種々のパラメー ターに依存する.この応答関数(周波数特性)を決定す る井戸のパラメーターのうち,帯水層の厚さや,井戸の 管径および水深(つまり,井戸の管中を上下に移動する 水柱の径および高さ)は時間変化しないとして扱ってよ いが,帯水層の水理伝導率は時間変化する可能性があ り,それに伴って応答関数が変化する可能性がある. Liu et al. (1989) は,彼らの観測井についてモデル計算を 行い,水理伝導率が大きいほど井戸の応答関数のピーク 値が大きいことを示している. 帯水層の水理伝導率は,地震波による振動や地殻の 歪変化が原因で変化するという報告がある[例えば, Rojstaczer and Wolf (1992),Montgomery and Manga,

第 65 巻(2013)255-264 頁

〒819-0395 福岡市西区元岡 744 *

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(2003),Elkhoury et al. (2006)].そして水理伝導率の変化 が,地震の前後における井戸の水位のステップ状の変化 として現われたと解釈される場合がある[例えば, Brodsky et al. (2003)].もちろん地震前後における水位 のステップ状の変化の解釈としては,他の解釈もある. なかでも最も一般的なものは体積歪の変化による解釈 で,例えば Wakita (1975) は 1974 年の伊豆半島沖地震に 際し,体積歪の変化のセンスと地下水位の変化のセンス の空間分布が一致することを示した.しかし断層運動か ら計算される体積歪変化のセンスと異なるステップが観 測されたり,また潮汐や地震波に対する歪応答から計算 される変化量よりも何桁も大きな水位変化が見られたり することもある[例えば,Roeloffs (1998),Matsumoto et al. (2003),北川・小泉 (2011)].2011 年東北地方太平洋沖 地震の際にも,地震の断層変位から計算される静的な体 積歪変化が膨張である地域の井戸において水位の上昇が 観測され,水位変動が静的な体積歪変化では説明できな い例が多数報告されている[北川・小泉 (2011)].これら の変化のメカニズムとして,帯水層の水理伝導率の変化 が考えられ,例えば Brodsky et al. (2003) は,帯水層の空 隙を塞いでいた障害物が,地震波によって誘導された流 れによって取り除かれることによって,水位のステップ 状の変化が引き起こされると解釈した. 本研究では,静岡県伊東市にある井戸(EDY; 松原 136 号井)の水位の地震波に伴う変動を近傍の地震計の速度 波形と比較し分析した.この EDY 井の周辺では,伊豆 半島東方沖群発地震の発生後の温泉に対するアンケート 調査の結果,群発地震に伴って幾つかの温泉で色や温度 などの変化が認められている[佐藤・野田 (1993),佐藤・ 他 (1997, 1999)].1995 年から 1998 年の間に発生した 4 回の群発地震活動において変化の見られた温泉の割合は それぞれの活動における有感地震の数と相関が良いこと から,佐藤・他 (1999) は温泉変化のほとんどは有感地震 に対応して生じた可能性を指摘している.この温泉変化 の原因としては,佐藤・野田 (1993) は地震動による帯水 層や配管内の沈殿物等の浮遊・流出の可能性を指摘して おり,地震に伴って帯水層に堆積していた細土粒子が流 出して水理伝導率が増加した可能性が示唆される.また EDY 井においては,1995 年および 1996 年の伊豆半島東 方沖群発地震の際に水位の上昇が観測されており,この 現象が帯水層の水理伝導率の増加に起因する可能性が指 摘されている [Ohno et al. (1999)].本研究では,この水 理伝導率の時間変化を,地震波に対する水位の応答関数 の時間変化として検出できないか試みた. §2. 水位の観測と解析方法 本研究で用いた井戸(EDY 井)は JR 伊東駅近くの建 物の地下にあり,井戸の深さは約 85 m である.表層近 傍のケーシングの内径は 15 cm であるが,地下のケーシ ングの長さやストレーナー(帯水層での取水用のスク リーン)の位置などの記録は残っていない [Notsu et al. (1991)].観測においては,水面下に圧力計を設置し,そ の出力を折点周期 2 秒のローパスフィルターに通したの ち,毎秒の値をレコーダーに記録した [Ohno et al. (1997)]. レコーダーの時刻は毎正時に時報により校正されてお り,時刻の公称最大誤差は,1 時間に付き約 0.2 秒であ る.毎秒値の観測は 1994 年 8 月に開始した.当初は約 2 mm の分解能で水位を記録していたが,1995 年 10 月 に圧力計の信号に増幅装置を付加し,約 0.2 mm の分解 能での記録を始めた [Kunugi et al. (2000)].なお圧力計 本体の公称分解能は 1 mm であるが,実際のデータを見 る限り 0.2 mm 程度の分解能は十分にあると認められ る.(例えば,Kunugi et al. (2000) の Figure 2 には最大 振幅約 1 mm の減衰振動が克明に記録されている.) この EDY 井の地震波に対する水位変動の感度は高 く,例えば 1994 年 10 月 4 日に北海道で発生した M8.1 の地震(平成 6 年北海道東方沖地震)に伴って,2 m を 超える大きな水位変動が観測されている [Ohno et al. (1997)].水位変動記録と近傍で観測された体積歪記録の スペクトル解析から,水位変動の歪感度は長周期(>50 秒)では 5 mm/nano-strain 程度[Kunugi et al. (2000) の Appendix]であるが,水位変動の応答関数が周期約 18-20 秒にピークを持ち,帯水層と井戸のなす系の地震 波に対する共振モデル [Liu et al., 1989] を用いて良く説 明されることが示されている [Ohno et al. (1997)].なお この井戸では,遠地地震に伴う水位変動のほか,伊東市 近傍で 1995 年から 1997 年にかけて発生した伊豆半島東 方沖群発地震に伴って,短周期(十数秒)から長周期(数 日)まで様々な水位変動が報告されている [Ohno et al. (1999, 2006),Kunugi et al. (2000)]. 本研究では,EDY 井で観測された水位変動と井戸近 傍(EDY より南西に約 11 km)の観測点 (JIZ) の地震計 の速度波形の記録から,井戸の応答関数を求めた.地震 波を入力,水位変動を出力としたときの周期 T におけ る応答関数 A(T) は,地震波のパワースペクトルを Gss (T),水位と地震波の相互パワースペクトルを Gws(T) として, Gws(T)=A(T)・Gss(T) (1) で表される[例えば,日野 (1977)].上述したように水位 変動をもたらしているのは Rayleigh 波と考えられるの で,応答関数を求める際の入力信号として,水平 2 成分

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の速度波形から地震波の進行方向(radial 方向)の成分 を求めて用いた.以下,この段落内の説明では,地震波 はこの成分を指すものとする.地震波によって井戸の水 頭圧に加えられる圧力変化は地震波によって引き起こさ れる帯水層の体積歪変化に比例する.この体積歪変化は 地動(変位)の進行方向の空間微分に比例するが,その 振幅は地震波の時間微分の振幅(速度振幅)と比例し, 比例定数は周期によらない.ただし地震波の速度の分散 は,本研究で注目する 20-100 秒の周期では,無視できる ものとする.なお,ある方向の,歪計で観測される歪地 震動と地震計で観測される速度波形は比例関係にあるこ とが報告されており,理論からも検証されている[大久 保・他 (2004),Okubo et al. (2004),武田・他 (2011)].以 上のことから,地震波の速度振幅は井戸の水頭圧に加え られる変動の振幅と比例すると考えられる.観測される 水位の変動は加えられた水頭圧の変動に対する井戸・帯 水層の系の応答の結果である.解析に用いたデータは 1995 年 7 月から 1999 年 12 月に発生した地震に伴って 観測されたもので,その一覧を Table 1 に示す.また計 算には Rayleigh 波の到着以降,最短でも 30 分間の記録 を用い,水位変動の継続時間の長いものは 60 分間の記 録を用いた (Table 1). 本研究では,水位変動の地震波に対する応答関数の時 間変化に注目するが,そのためにまず応答関数の,入力 振幅に対する依存性と,地震波の到来方向に対する依存 性の有無の確認を行った.まず入力振幅に対する依存性 であるが,水位変動はすなわち井戸の管の中を水柱が上 下する運動であるので,管の内壁と水との間に摩擦抵抗 が発生し,それによって変動の振幅が抑圧されることが 予想される.これまで,実際の井戸の水位の変動で管中 の摩擦抵抗の効果の観察が報告された例は無いと思われ るが,後で示すように,EDY 井のように水位の変動が大 きい場合,この摩擦抵抗が無視できない可能性があるの で,その効果を評価し補正する.一方,帯水層の空隙の 形状や分布が等方的でない場合(例として,応力場に支 配されて生じた一群の割れ目[例えば,Hill (1977)]の存 在などが考えられる),水位変動の応答関数が地震波の 到来方向に対して依存する可能性も考えられる. Longitude deg Latitude deg Origin Time UTC Date

Table 1 Parameters of earthquakes by USGS for those analyzed in this study. Hypocentral distance (Δ) to the observation site in degree and the length of data used in the analysis are also tabulated.

60 152 8.0 70.29 W 23.34 S 05:11 7/30/1995 Data length minute Δ deg Mw 104 7.4 98.60 W 16.78 N 14:04 9/14/1995 60 43 7.6 154.18 E 5.80 S 10:27 8/16/1995 18:01 12/3/1995 60 99 7.9 104.21 W 19.06 N 15:35 10/9/1995 60 60 38 7.8 119.93 E 0.73 N 08:05 1/1/1996 60 13 7.6 149.30 E 44.66 N 177.63 W 51.56 N 04:03 6/10/1996 60 37 8.1 136.95 E 0.89 S 05:59 2/17/1996 30 44 7.7 122.59 E 7.14 S 11:22 6/17/1996 60 34 7.6 55 7.7 166.68 E 12.58 S 12:02 4/21/1997 30 143 7.5 75.68 W 14.99 S 16:59 11/12/1996 10:02 11/8/1997 60 71 7.8 176.77 W 22.10 S 09:53 10/14/1997 60 60 26 7.7 162.04 E 54.84 N 11:26 12/5/1997 60 42 7.4 87.33 E 35.07 N 149.53 E 62.88 S 03:12 3/25/1998 30 64 7.3 170.91 E 22.30 S 06:11 1/4/1998 30 17 7.5 125.31 E 22.31 N 23:30 5/3/1998 30 99 7.8 42 7.4 149.57 E 5.59 S 11:08 4/5/1999 60 39 7.7 124.89 E 2.07 S 14:10 11/29/1998 17:47 9/20/1999 60 80 7.4 29.86 E 40.75 N 00:01 8/17/1999 30 30 106 7.4 96.93 W 16.06 N 16:31 9/30/1999 30 19 7.5 120.98 E 23.77 N

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§3. 結果と考察 観測された水位変動の一例として,1999 年 9 月 20 日 (UTC) に台湾で発生した Mw7.5,震央距離 19°の地震後 に観測された波形を Fig. 1 に示す.表面波の到来とと もに水位は大きく変動し,最大振幅は両振幅で約 40 cm に達している.地震発生から約 30 分経った後も,水面 はまだ両振幅で約 10 cm 程度の振動を示しており,全体 を通して約 20 秒の周期の波が卓越していることが判る. この記録の解析結果と,もう一件 1998 年 11 月 29 日に モルッカ海南部で発生した地震(Mw7.7,震央距離 39°) 後の水位変動記録を解析した結果の応答関数 A(T) を Fig. 2a に示す.Ohno et al. (1997) が求めたのと同様に, 約 18 秒から 20 秒周期にピークを持ち,長周期側(50 秒 以上)ではばらつきが大きいながらフラットな特性を持 つ特徴が見られる.一方,Liu et al. (1989) に従って EDY 井の地震波応答を計算したものを Fig. 2b に示す. 井戸の水柱の高さや帯水層の厚さなど,水理伝導率以外 の種々のパラメーターは,Ohno et al. (1997) に従った. 先に述べたように長周期側のフラットな特性は地震波に 起因する歪変化に対する水位の静的な変動の感度を示し ており,一方,18-20 秒付近に見られるピークは,帯水層 と井戸のなす系の共振現象による感度の増幅と考えられ る. まず井戸の応答関数の入力振幅に対する依存性を調べ るため,それぞれの地震について,共振周期付近(18-20 秒)における地震波の速度振幅と水位変動の応答関数の 平均値を求め,それらの関係を Fig. 3a に示した.地震 波の速度振幅が大きくなるほど,共振周期付近(18-20 秒)の応答関数が小さくなっており,両対数グラフ上で 直線的に減少する傾向がみられる.最小二乗法で求めた 直線の傾きによれば,地震波の速度振幅が 1 桁大きくな るのに対して応答関数の大きさは約 4 割減少している. 3.1 管内の摩擦抵抗による振幅の減衰 応答関数の共振周期付近の値が入力振幅の増大に対し て減少する原因について,可能性の高いものとして,井 戸の管内の流れで摩擦抵抗が発生し,それによって水位 変動の振幅が抑圧されることが予想される.管内の摩擦 は約 80 m の管全体で発生するため,管中に何らかの障 害物(例えば水位計)がある場合の抵抗に比べてはるか に大きい.一般的にモデル計算[例えば,Cooper et al. (1965),Liu et al. (1989)]においては,井戸の管内を水柱 が動くことによる摩擦は帯水層中の流れによる摩擦に比 べて小さくて無視できるとされているが,この点を確か めてみる. EDY 井の帯水層の厚さは井戸の水柱の十分の一以下 と薄い.このような系は Cooper et al. (1965) のモデルで よく近似できるので,ここでは力学的な意味の解りやす い Cooper et al. (1965) のモデルの式を用いる.平衡の位 置 H からの水位変動 x と,地震による圧力変化 p0の関 係は,

Fig. 1. (a) Water-level fluctuation at EDY well and (b) seismic wave at JIZ station (about 11 km southwest of EDY well) for the time 0-60 minutes after an earthquake (Mw7.5) occurred on

September 20, 1999 in Taiwan. The bars at the right side denote the scale for each time interval.

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ρHddt

r 2T

Kerαddt +ρ

1−rω 2T Keiα

=p (2) となる.ここに,ρ は水の密度,rwは井戸の管の半径,T は帯水層の透水量係数,Ker,Kei は 0 次のケルビン関 数のそれぞれ実部と虚部である.また,帯水層の貯留係 数を S,角振動数を ω として, α=rωST (3) である.帯水層中の流れによる摩擦 Eaquiは式 (2) の左 辺の第二項で, E=ρ

r 2T

Kerαddt (4) である.一方,井戸の管の内を水柱が動くことによる 摩擦による圧力損失 ΔE は, ΔE=λ4rρH

dx dt

 (5) である[例えば,飯田・他 (2007)].ここに λ は管摩擦係 数で,管中の流れの速度が遅く流れが層流である場合と 流れの速度が速く流れが乱流である場合で流速への依存 性が異なる.流れが層流になるか乱流になるかはレイノ ルズ数 Re に依存し,Re は水の動粘性係数を ν として, Re=2rνdxdt (6) である.EDY 井の場合,特徴的な周期である約 20 秒周 期の水位変動を考えると,上下約 10 cm(つまり,振幅 5 cm)の水位変動で,水位変動の速度振幅が 0.015 m/s と なり,このときの最大速度が臨界レイノルズ数 Re= 2320 の速度を超え,流れは層流から乱流となる.Fig. 3b によれば,解析した水位変動の振幅の平均値は,ほと んどの地震において 5 cm を超え乱流の領域にある.一 般に層流から乱流になると摩擦による圧力損失は急激に 大きくなることが知られている.管内の乱流の管摩擦係 数に関するブラジウスの式[例えば,飯田・他 (2007)]に 従うと管摩擦係数 λ は,λ=0.3164Re−1/4となり,この場 合,ΔE と Eaquiの比は速度の増加に伴って以下のように 増加する.振幅約 5 cm の水位変動で,ΔE の Eaquiに対 する比は 7% と計算され,振幅がその 2 倍の 10 cm にな ると,ΔE は Eaquiの 12% と大きくなる.さらに振幅 50

cm では,ΔE は Eaquiの 41% に達し,ΔE と Eaquiを足し

合わせたトータルの摩擦力では,振幅 5 cm のときと比 べ,1.41/1.07=1.3 倍になる.一般に,式 (2) のように,x を変数,a,b を定数,x0を周期的な強制力として dxdt+adxdt+bx=x  (7) の形で表される運動方程式においては,共振周期におけ る入力振幅(強制力の振幅)に対する出力振幅の増幅率 は, 1abb−a4 (8) となる[例えば,藤原 (1984)]ので,摩擦の項の係数 a の 二乗にほぼ反比例する.先程,振幅 50 cm の水位変動で は振幅 5 cm の場合に比べて摩擦力が 1.3 倍になると見 積もられたが,式 (8) によれば,このとき振幅の増幅率 の最大値はその二乗に反比例して約 40% 低下する計算 になる.Fig. 3a の回帰直線に注目すると,18-20 秒にお ける地震波の速度振幅の平均値が一桁増加するのに伴っ て,同じ周期の応答関数の平均値は約 4 割低下してい る.観測データから推定した地震波の速度振幅に対する 応答関数の振幅の減少は管内の摩擦抵抗による減衰の理 Fig. 2. (a) Frequency response of the water level at

EDY well to seismic wave (velocity in radial di-rection) at JIZ station. Open squares are the re-sults after an earthquake (Mw7.5) at Taiwan on

September 20, 1999, and solid circles are those after another earthquake (Mw 7. 7) at Southern

Molucca Sea on November 29, 1998. (b) Theoreti-cal amplification curves of Liu et al. (1989) Theoreti- calcu-lated for EDY well with different hydraulic con-ductivity; 2.5, 5, and 10 mm/s. The other param-eters are from Ohno et al. (1997); 5 m for the width of aquifer, and 0.0001 for the aquifer storage coef-ficient.

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論的な見積もりと良く一致し,その原因が管内の摩擦抵 抗であるとの考察を支持する. 3.2 応答関数の地震波の到来方向に対する依存性 この入力振幅に対する依存性の影響を除いて,他の要 因による応答関数の変化を抽出するため,得られた直線 の傾きに従って,共振周期付近の応答関数 A(ω) の値を 地震波の速度振幅が 0.1 mm/s である場合の応答関数 Acor(T) に補正した.その後,地震波の到来方向と地震 波に対する水位の応答関数の間に何らかの関係が見られ るかを検討するため,補正した応答関数 Acor(T) を地震 Fig. 3. (a) Response function (response of water level to seismic wave) and (b) amplitude of

water level fluctuation (square root of average power of water level fluctuation), plotted to the amplitude of seismic wave (square root of average power of radial velocity); all the values are the average for the period of 18-20 seconds, which is around the resonance period. The regression line in (a) suggests depressed water level fluctuation with larger amplitude in seismic wave, possibly due to friction associated with water movement in the pipe of the well.

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波の到来方向に対してプロットした (Fig. 4).もし帯水 層の空隙の形状に異方性があれば,長周期(50-100 秒) の応答関数に到来方向依存性が表れ,共振周期付近 (18-20 秒)の応答関数にも同様の到来方向依存性が現わ れることが予測される.しかし Fig. 4 においてはどち らの応答関数にも地震波の到来方向に対する依存性は認 められない.帯水層の空隙は等方的であろうと解釈され る.なお長周期(50-100 秒)の応答関数には共振周期付 近(18-20 秒)の応答関数に見られたような地震波の速 度振幅依存性は見られなかったため,それに関する補正 は行っていない.この結果は井戸近傍の地質状況と対比 すると以下のように解釈される.地質図[産業技術総合 研究所地質調査総合センター (2004)]によれば,井戸の 周辺の表層の地質は第四紀の河川堆積物である.井戸掘 削時のコア資料や地質の記録などが残っておらず,この 井戸の帯水層の空隙の形状や分布を推定できるような情 報は残念ながら無いが,この地域の温泉分布が沖積平野 の分布とほぼ重なることから,温泉の帯水層は沖積平野 の堆積物中に発達していると推察される.この井戸の帯 水層がそれらの一つであるとして,帯水層の空隙は水平 方向に等方的であるという解析結果はこれと矛盾しな い. 3.3 応答関数の時間変化 Fig. 5 に応答関数の時間変化を示す.共振周期付近 (18-20 秒)の応答関数の平均値については,先に述べた 摩擦抵抗の補正を行った後の値 (Acor(T)) である.「は じめに」で述べたように,群発地震に伴ってこの井戸近 傍の地域の帯水層の水理伝導率が上昇した可能性が示唆 されている[佐藤・野田 (1993),佐藤・他 (1997, 1999), Ohno et al. (1999)].Fig. 2b にみられるように,Liu et al. (1989) の理論に基づいた計算によると,もし水理伝導率 が上昇していれば,それは地震波に伴う水位変動の共振 周期付近(18-20 秒)の応答関数の上昇となって現われ ると予測される.しかし Fig. 5a には群発地震に伴って 応答関数が明確に上昇した様子は見られない.1995 年, 1998 年の群発地震では群発地震の直後にデータがある が,その値はそれ以前のデータの値に比べて大きくなっ ていない.佐藤・他 (1999) によれば,Fig. 5a に示した 4 回の群発地震活動のうち有感地震の数が最も多かったの は 1997 年の活動であり,変化の見られた温泉の割合も この活動時に最も多く,調査した温泉の 70% で変化が 報告された.しかし Fig. 5a では,この 1997 年の群発地 震に際しても応答関数の明瞭な変化は認められない. 一方,Fig. 5a に破線で示したように,共振周期付近 (18-20 秒)の応答関数の平均値は,推定誤差を超えない 範囲であるので余り強くは言えないが,時間とともに小 さくなっていく傾向が見える.それに対し,長周期(50-100 秒)の応答関数の平均値 (Fig. 5b) にはこれに対応す るような傾向は見られない.Fig. 2b のモデル計算にも 見られるように,50-100 秒付近では水位変化の歪応答に 対する増幅率は 1 に近く,また,水理伝導率の変化に影 響されないことから,長周期(50-100 秒)の応答関数は 静的な歪応答と一致する.よって,Fig. 5a の共振周期 付近(18-20 秒)の応答関数にみられた変化は水理伝導 率の変化を反映していると解釈できる.応答関数の振幅 の減少は,帯水層の空隙に堆積物が徐々に沈殿し水理伝 導率が低下していくのを反映している可能性がある. 応答関数のこの変化が井戸の帯水層の水理伝導率のど の程度の変化によって説明できるかをモデル計算に基づ いて見積もってみる.Fig. 2b に見られるように,他の パラメーターを固定して水理伝導率を変化させた場合, 水理伝導率が半分になると応答関数のピーク値も約半分 Fig. 4. Response function of water level to seismic

wave at the period of (a) 18-20 seconds and (b) 50-100 seconds, respectively, plotted to the di-rection of the seismic propagation path to EDY well. Solid and open circles denote results for earthquakes from 0-180°(north-east-south) and 180-360°(south-west-north), respectively. Each point and error bar denote average and 1σ, re-spectively. In diagram (a), the dependence of transfer function to the amplitude of seismic wave is corrected along the regression line in Fig. 3a to the value equivalent to the seismic wave ampli-tude of 0.1 mm/s.

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になる.したがって観測された応答関数の振幅の減少を 水理伝導率の変化で解釈すると,水理伝導率がおおよそ 半分程度に減少したという見積になる. なお,Liu et al. (1989) のモデルでは,水理伝導率の変 化は共振周期にも影響するが,解析したデータの中では 応答関数の共振周期に有意な変化は認められなかった. Fig. 2b の EDY 井のモデル計算の結果にも水理伝導率 の変化に伴う共振周期の変化は顕著ではなく,観測結果 と調和的である.これは Liu et al. (1989) の井戸(Wali 井)の帯水層が非常に分厚く井戸の水柱の 6 倍に及ぶの に対し,EDY 井の帯水層の厚さが井戸の水柱の十分の 一以下と薄いためと考えられる.このような場合,井戸 の水位変動は Cooper et al. (1965) のモデルで近似され, 応答関数の共振周期は水理伝導率に依存しない. Fig. 5. Temporal variation of the response function at the period of (a) 18-20 and (b) 50-100.

Each point and error bar denote average and 1σ, respectively. In diagram (a), the response function is after the correction of the dependency to the amplitude of seismic wave in the same way as explained in the caption of Fig. 4. The arrows indicate major seismic swarm activities off the coast of Ito City occurred close to the EDY well. Thick dotted lines suggest the decreasing trends in the response function.

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§4. ま と め 静岡県伊東市にある井戸において,水位の地震波に対 する応答関数の時間変動を調べた.この井戸の周辺では 伊豆半島東方沖の群発地震に伴って帯水層の水理伝導率 が上昇した可能性が指摘されており,その変化が応答関 数の変化として表れていないかを確かめるのが目的で あった.まず,応答関数の共振周期における値の地震波 振幅への依存性を求め,それを補正した.この振幅依存 性は,地震波に応答して井戸の水柱が上下に運動する際 の摩擦抵抗の影響と考えられる.約 1 桁の振幅の増加に 対し,応答関数の共振周期における値は約 4 割減少する という結果が得られた.この結果は理論的な見積と調和 的である.この振幅依存性を補正した後の応答関数が近 傍の群発地震活動に伴って増加することが期待された が,推定誤差を超えるような大きな変化は見出されな かった.本研究で水位の上下変動に伴う摩擦抵抗が無視 できないことが示されたが,これまでの地震波に対する 水位変動の解析モデルで摩擦抵抗の影響を考慮したもの はない.本研究では,地震波の速度振幅と応答関数のそ れぞれの平均値を用いて補正を行ったが,本来はモデル の中にその効果を取り入れて解析すべきである.今後, 新しいモデルの構築が必要であろう. 井戸の水位のデータは,著者が東京大学大学院理学系 研究科附属地殻化学実験施設に在籍中に観測したもので ある.井戸の所有者の田辺氏と,当時観測を補助してく ださった研究室の皆様に感謝する.また地震波のデータ は,防災科学技術研究所のフリージア (Freesia) 計画 (現 F-net)による地震観測網で収録されたデータを利用 させていただいた.データのご提供に感謝する.北川有 一氏と匿名の査読者の方には大変有益なご指摘やご教示 をいただき,本稿の大幅な改善に役立った.記してお礼 申し上げる.

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Table 1 Parameters of earthquakes by USGS for those analyzed in this study. Hypocentral distance (Δ) to the observation site in degree and the length of data used in the analysis are also tabulated.
Fig. 1. (a) Water-level fluctuation at EDY well and (b) seismic wave at JIZ station (about 11 km southwest of EDY well) for the time 0-60 minutes after an earthquake (M w 7.5) occurred on September 20, 1999 in Taiwan

参照

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