Ⅰ は じ め に
近年の会計における潮流の1つとして,経済的実態を反映すること,また は(経済的)実質優先主義などが挙げられることは,議論の余地がないとこ ろであろう。後で詳しく検討するように,例えばリース契約に係る借手の会 計においては,ファイナンス・リースの会計処理について,その法的形式よ りも経済的実質を優先して,いわゆる売買処理が採用されてきたとされてい る。その他にも,経済的実態をより反映することや経済的実質を優先するこ とを論拠として形成された会計基準または会計処理は,少なくないように思 われる。
会計における法的形式と経済的実質
―― リース契約を検討の題材として ――
長 束 航
Ⅰ はじめに
Ⅱ 「経済的実質」の意味 1 経済的実質と経済的実態 2 経済的実質の意味 3 経済的実質の決定要因
4 法的形式よりも経済的実質を優先することの意義
Ⅲ リース契約の法的形式
Ⅳ リース契約の経済的実質と会計処理 1 使用権に基づく会計モデルの意義
2 リスクと経済的便益の実質的な移転に基づく会計モデルの問題点
Ⅴ おわりに
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( 1 )
しかし,最近になって,かかる(経済的)実質優先主義を反映した会計処 理の代表例と考えられてきたファイナンス・リースの会計処理について,再 検討が行われている。いわゆる「リスクと経済的便益の実質的な移転」に基 づく会計モデルに代わって,「使用権」に基づく会計モデルが提案されてい るのである。
この「使用権」に基づく会計モデルの嚆矢は,1962年に公表されたマイ ヤーズの「財務諸表におけるリースの報告1)」であるといわれる。実際には 売買処理の論拠として経済的実質優先主義が採用されたため,その後このモ デルは一時存在感を失っていたように思われるが,1990年代になり,FASB などの会計基準設定主体を中心としたいわゆる「G5+1」によって検討が行 われたことにより,再び脚光を浴びるようになった2)。
2009年以降に公表されたIASB-FASB共同プロジェクトによるディスカッ ション・ペーパー,公開草案などでは,一貫してこの「使用権」に基づく会 計モデルによる処理が提案され3),わが国においても同様の議論が行われる ようになってきている4)。
1) John H. Myers,ARS No.4, Reporting of Leases in Financial Statements, AICPA, 1962.
(松尾憲橘監訳・古藤三郎訳「アメリカ公認会計士協会 リース会計」同文舘,
1973年。)
2) Warren McGregor, Special Report, Accounting for Leases : A New Approach, FASB and so on, July 1996, and Hans Nailor and Andrew Lennard, Special Report, Leases : Implementation of a New Approach, FASB and so on, February 2000.
3) IASB,Discussion Paper, Leases−Preliminary Views, IASB, March 2009(企業会計基 準委員会・公益財団法人財務会計基準機構訳「ディスカッション・ペーパー リー ス 予備的見解」企業会計基準委員会・公益財団法人財務会計基準機構,2009年3 月。),IASB, Exposure Draft, Leases, IASB, August 2010(企業会計基準委員会・公 益財団法人財務会計基準機構訳「公開草案 リース」企業会計基準委員会・公益財 団法人財務会計基準機構,2010年8月。),and IASB,Exposure Draft, Leases, IASB, May 2013.(企業会計基準委員会・公益財団法人財務会計基準機構訳「公開草案 リース」企業会計基準委員会・公益財団法人財務会計基準機構,2013年5月。)な お,2016年1月に確定した会計基準が公表されたが,本稿では2013年公表の再公 開草案までを検討の対象としている。
4) 企業会計基準委員会「リース会計に関する論点の整理」企業会計基準委員会,
2010年12月。
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( 2 )
これらで提案されている会計処理は,その処理そのものは従来のファイナ ンス・リースの会計処理と大きな差はないように思われるが,その論拠が大 きく異なるところに最大の特徴があると考えられる。従来のファイナンス・
リースの会計処理であるいわゆる売買処理は,「法的形式」よりも「経済的 実質」を優先することを論拠としていたが,「使用権」に基づく会計モデル は,むしろ「使用権」というリース契約における法的権利に着目してリース 契約を資産計上することを提案している。これは,法的形式を重視している とまではいわずとも,数々の会計基準設定において(経済的)実質優先主義 を論拠としてきた近年の潮流からすれば,注目に値する「変化」であるとい えよう。しかも,すでに別稿5)において指摘したように,かかる変化はリー ス会計以外の会計分野においても散見されるようになってきている。
とはいえ,そもそも従来のファイナンス・リースの会計処理の論拠である
「経済的実質を優先する」とは,どのようにしたら優先したことになるのか,
または「経済的実態を反映する」とはどのようにしたら反映したことになる のかについては,これまでさほど検討がなされているとは考えられず,かか る状況においては上記の「変化」についても適切な評価を行うことは困難で あるように思われる。また,これは,リース会計以外にも最近見られるよう になってきている「法的形式への着目」という傾向の是非を検討するうえで も,きわめて重要な問題であると考えられる。
そこで本稿では,まず「経済的実質」の意味を考察したうえで,リース契 約を題材として,その法的形式と経済的実質についての検討を加えることに より,会計における法的形式と経済的実質はどのように関係しているのかを 明らかにしたい。「法的形式」と「経済的実質」の対立問題は,これまでの 会計学において常に存在し続けていた問題の1つであるように思われるが,
それを解決するための一歩となることも,本稿の目的である。
5) 長束航「投資情報の拡大と負債概念 ―― 会計基準設定の国際的動向からの考察」
企業会計,第62巻第10号(2010年10月),104‐112頁。
会計における法的形式と経済的実質(長束) −761−
( 3 )
Ⅱ 「経済的実質」の意味
1 経済的実質と経済的実態
まず,「経済的実質」の意味を考察するための前提として,「経済的実質」
と「経済的実態」の関係について検討しておくことにしよう。この2つの用 語は,いずれも会計学の文献では頻出する用語であり,相違があるのであれ ば明確に使い分ける必要があるように思われる。
しかし,主要な会計学用語辞典を紐解いてみても,これらの用語は取り上 げられておらず,内容の異同は不明である。そこで,「経済的」の部分は共 通することから,類語辞典6)により「実質」と「実態」の意味を参照してみ ることにすると,次のとおりである。
実質:物事の,実際の内容や性質。
実態:物事のありのままの状態。
このように,類語辞典の説明をみても,これらの用語の相違は明確ではな く,むしろほぼ同じと言っても差し支えないほどであるように思われる。
また,これらの用語が実際の会計文献においてどのように用いられている かについても検討してみよう。
ファイナンス・リースの売買処理の論拠について,旧リース会計基準にお いては,「……リース取引の中には,その経済的実態が,当該物件を売買し た場合と同様の状態にあると認められるものがかなり増加してきている。」
と述べられていた。一方,この基準の会計処理の論拠について,わが国にお ける著名な教科書においては,「ファイナンス・リース取引は,法的には賃
6) 柴田武・山田進編「類語大辞典」講談社,2002年,1427頁。
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貸借取引であるとしても,経済的には固定資産の長期分割売買取引と同様と 考えられるので,取引の法的形式よりも経済的実質を優先させる実質優先主 義に基づいて……7)」と説明されており,「経済的実態」という用語と「経済 的実質」という用語が同様の意味で(同一の内容を説明する用語として)用 いられていることがわかる。
これらのことから,「経済的実質」と「経済的実態」という用語は,相互 互換的に使用可能であるといって差し支えなく,本稿においても,特別な場 合を除いて同じ意味内容を表す用語としてこれら2つの用語を用いていくこ とにしたい。
2 経済的実質の意味
それでは,会計において,「経済的実質」(=「経済的実態」)とはいかな る意味なのであろうか。
そもそも,「『会計』とは経済主体が営む経済活動およびこれに関連する経 済事象を測定・報告する行為をいう8)」が,なぜ測定・報告をするのかとい えば,現行の企業会計においては,投資意思決定情報の提供が主たる目的と して措定されていることは周知の事実であろう。
また,「投資意思決定情報を提供する」という場合の投資意思決定情報と は,投資者へのキャッシュ・フローの時期・金額・蓋然性の評価に資する情 報であり,投資者へのキャッシュ・フローの時期・金額・蓋然性の評価を行 うためには,企業へのキャッシュ・フローの時期・金額・蓋然性の評価に資 する情報が必要であることから,結局,投資意思決定情報とは企業への キャッシュ・フローの時期・金額・蓋然性の評価のための情報である,とい うのも,FASBが概念フレームワークを形成して以来,すでに一般に受け入
7) 広瀬義州「財務会計(第13版)」中央経済社,2015年,500頁。
8) 同上,2頁。
会計における法的形式と経済的実質(長束) −763−
( 5 )
れられている考え方であるように思われる。なお,概念フレームワークで規 定されている資産と負債の定義(将来の経済的便益(特に将来キャッシュ・
フロー)とその犠牲)およびそれ以外の財務諸表の構成要素の定義等も,基 本的にはこの考え方と軌を一にしている。
ところで,このように企業へのキャッシュ・フローの時期・金額・蓋然性 を評価するための情報を提供しなければならない企業会計において,その ルール・基準の根拠として「経済的実態の反映」とか「実質優先主義」が主 張されてきているということは,企業へのキャッシュ・フローの時期・金 額・蓋然性と「経済的実質」または「経済的実態」が密接に関係しているこ との証左であるように思われる。
そうであるとするならば,企業への将来キャッシュ・フローの時期・金 額・蓋然性に関する「実際の内容や性質」や「ありのままの状態」が,「経 済的実質」や「経済的実態」であると考えてもよいであろう。この場合の
「実際の内容や性質」や「ありのままの状態」とは何であろうか。
もしも,同一の将来キャッシュ・フローの時期・金額・蓋然性をもつもの を,異なるものとして表現してしまったとしたら,どうであろうか。それは,
将来キャッシュ・フローの「実際の内容や性質」や「ありのままの状態」を 正しく表現しているとはいえないであろう。また,異なる将来キャッシュ・
フローの時期・金額・蓋然性をもつものを,同一のものとして表現してし まったとしたら,どうであろうか。これも,将来キャッシュ・フローの「実 際の内容や性質」や「ありのままの状態」を正しく表現しているとはいえな いであろう。
このように考えると,将来キャッシュ・フローの「実際の内容や性質」や
「ありのままの状態」とは,同一の将来キャッシュ・フローの時期・金額・
蓋然性をもつものを同一のものととらえること,逆にいえば,異なる将来 キャッシュ・フローの時期・金額・蓋然性をもつものを異なるものととらえ
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( 6 )
ることによって初めて表現されうるものであり,それこそが「経済的実質」
や「経済的実態」の意味であるといえよう9)。
3 経済的実質の決定要因
以上のように,経済的実質とは,結局,将来キャッシュ・フローの時期・
金額・蓋然性に関する「実際の内容や性質」や「ありのままの状態」と言い 換えることができるとするならば,企業の経済活動または経済事象の経済的 実質は,何によって決定づけられるのであろうか。企業への将来キャッ シュ・フローの時期・金額・蓋然性をうみだしたり,変更したりする最大の 要因として考えられるものは,もちろん企業の法的権利と法的義務であろう。
多くの場合,法的権利と法的義務の厳密な解釈を行うことによって,企業へ の将来キャッシュ・フローの時期・金額・蓋然性およびその変動を把握する ことができる。
ここで重要なことは,異なる法的権利または法的義務によるものであって も,同一の将来キャッシュ・フローの時期・金額・蓋然性およびその変動を もつものであれば,それは同一の経済的実質をもつという点である。経済的 実質とは,将来キャッシュ・フローの時期・金額・蓋然性に関する「実際の 内容や性質」や「ありのままの状態」であるから,それをうみだす法的権利 や法的義務の種類は問題にならず,将来キャッシュ・フローの時期・金額・
蓋然性に関する内容や性質が同一であれば,経済的実質は同じであることに なる。
したがって,経済的実質を把握するさいにもっとも重要なことは,法的権 利または法的義務の内容を解釈し,そこから生じる将来キャッシュ・フロー
9) FASB,SFAC No.7 ; Using Cash Flow Information and Present Value in Accounting Measurements, FASB, Feb. 2000, pars.20‐21.(平松一夫・広瀬義州訳「FASB財務会 計の諸概念[増補版]」中央経済社,2002年,429‐430頁。)を中心に述べられてい る考え方と軌を一にしていると考えられる。
会計における法的形式と経済的実質(長束) −765−
( 7 )
の時期・金額・蓋然性を適切に把握することであり,そのためには,企業に 関連する法令や判例,企業の締結した契約の吟味を欠かすことはできないと いえよう。
なお,現行の概念フレームワークにおいては,支配(control)と義務(ob- ligation)の概念によって企業に帰属する将来の経済的便益とその犠牲(将 来キャッシュ・フロー)の範囲,すなわち資産と負債の範囲が決定されるこ とになっており,企業への将来キャッシュ・フローの時期・金額・蓋然性は,
必ずしも法的権利および法的義務だけによって決定されるものではないとい う立場に依拠している。しかし,このような概念規定が,しばしば会計基準 設定において困難な状況が生じる主要な要因となっていることは,すでに別 稿において指摘したとおりである10)。
4 法的形式よりも経済的実質を優先することの意義
それでは,近年の会計の潮流であった「法的形式よりも経済的実質を優先 する」こととは,どのような状況を意味しているのであろうか。
まず,基本的な前提として,会計のルールまたは会計基準は,例えば外貨 建取引の会計基準などのように,取引の経済的性質ごとに規定されているも のもあるが,多くは,例えば金融商品の会計基準,有形固定資産の会計基準,
無形資産の会計基準などのように,資産・負債や取引の法的形式ごとに設定 されることが多いということを指摘しておかなければならない。つまり,
元々会計は,法的形式をベースにしているということである。
一方,すでに述べたように,経済的実質すなわち将来のキャッシュ・フ ローの時期・金額・蓋然性に関する「実際の内容や性質」や「ありのままの 状態」は,その多くが法的要素によって決定される。同一の法的形式をもつ
10) 長束航「負債概念における『債務性』―― アメリカにおける変化」會計,第166 巻第5号(2004年11月),51‐65頁。
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( 8 )
ものであれば,同一の将来のキャッシュ・フローの時期・金額・蓋然性をう みだすことが普通であることから,通常は,法的形式と経済的実質が乖離す ることは多いとはいえないであろう。
したがって,通常は,会計のルールが資産・負債や取引の法的形式ごとに 設定され,かつその法的形式は経済的実質と一致していることが多いため,
法的形式と経済的実質の乖離が問題となることはほとんどないように思われ る。むしろ,ほとんどないからこそ,法的形式と経済的実質が乖離してしま うケースが大きな問題とされるのではなかろうか。
問題となる場合の1つ目は,異なる法的形式であるのにも関わらず,同一 の将来のキャッシュ・フローの時期・金額・蓋然性をもつものがある場合,
すなわち同一の経済的実質を有する状況である。この状況において,法的形 式ごとに会計処理が規定されている場合には,同一の経済的実質をもつにも かかわらず,異なる会計処理が行われる可能性が生じてくる。この場合には,
法的形式よりも経済的実質を優先して会計処理を行わないと,同一の経済的 実質を有するものが,会計上,異なるものとして表現されてしまう。法的形 式よりも経済的実質を優先することが,必要不可欠になってくるのである。
2つ目は,法的権利や法的義務という法的根拠ではなく,支配や義務を根 拠とした将来の経済的便益またはその犠牲(将来キャッシュ・フロー)を資 産・負債として計上しようという状況である。この場合には,法的根拠がな いか,または法的根拠というにはいまだ不十分な状態であるから,法的形式 を重視すればかかる将来の経済的便益またはその犠牲(将来キャッシュ・フ ロー)は資産・負債には該当しない。しかし,経済的実質を優先して,その ような将来の経済的便益またはその犠牲を,他の法的根拠があるものと同じ ように資産・負債として計上するわけであるから,当然,法的形式と経済的 実質は乖離することになる。
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( 9 )
Ⅲ リース契約の法的形式
以上のように,会計における一般論として,経済的実質の把握と法的権利 または法的義務の解釈は密接不可分な関係にあり,かつ通常は法的形式と経 済的実質は一致していることが多いために,その乖離が問題となることはさ ほど多くないと考えることができる。
本稿においては,具体的に,法的形式と経済的実質が乖離していると指摘 されることの多いリース契約を題材としてとりあげ,さらに検討を行ってみ たい。リース契約の法的形式を吟味したうえで,それがリース契約の経済的 実質とどのような関係にあるのかを考察していくことにする。
まず,リース契約の法的形式についてであるが,その最大の問題点は,少 なくともわが国の法律においては,「リース契約」という法的形式が別個独 立に規定されていないという点である。すなわち,リース契約を法的にどの ような契約と解するかについては,法学上,これはさほど価値のある問題で はなく,リース契約の特殊性を考慮して賃貸借の規定の個別的適用の有無を 決定すれば十分であり,これを賃貸借の一種と呼んであえて妨げがないとす るのが有力説となっている11)。なお,ここでいう賃貸借契約とは,「当事者 の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し,相手方がこれ に対してその賃料を支払うことを約する」(民法601条)ことによって成立す る契約のことである。
しかし,①リース契約においては,一般に,賃貸借における貸主の本来的 義務(借主に物件を使用収益させる義務および瑕疵担保,危険負担に関する 責任など)が排除されていること,②借主に債務不履行,信用不安状態が出 現した場合にリース業者がとりうる権利行使の内容,リース契約期間の選択
11) 来栖三郎「契約法」有斐閣,1974年,295頁,内田貴「民法Ⅱ 債権各論」東京 大学出版会,1997年,163頁など。
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( 10 )
によるリース料の変動,再リースに関する約定等については,賃貸借の規定 からは説明が困難であることなどから,リース契約の解釈に賃貸借法理を類 推適用することは矛盾であるとして,賃貸借という典型契約としてではなく,
リース契約という特殊な契約(金融的性格を帯有した無名契約)とするのが 妥当とする見解もある12)。「リースには制定法による法規制がかかっておら ず(ただし判例法による規制はなされている),したがって,この名称も法 律上の名称ではない13)」との指摘もあるほどである。
このようにリース契約を無名契約とみる見解の例としてしばしばとりあげ られるのが,大阪地方裁判所による1976年(昭和51年)3月26日の判決であ る。以下,少々長くなるが,引用してみよう。
「本件契約は,借主において貸主に先んじて目的物件の売主との間で同物件 を選択,特定し,それを購入する場合の価格,納期,保守等の諸条件を決定 し,その決定されたところに従い,貸主が借主に代わって右物件を購入して 借主に貸与するものであって,右趣旨に従い貸主は右購入代金,金利その他 を貸与期間中に借主から回収するものとし,右物件の使用,又は借主の更替 を予定しておらず,実質的には,借主が借受物件を買受けるのであって,貸 主は,借主に貸与物件の購入資金を融資して,借主に同物件を購入したのと 同一の経済的効果を与えることを意図するものと認められる。
従って本件契約は民法上の賃貸借契約とは,その外形が類似するものの,
制度的には右法概念のみではすべて律しきれない新しい経済的制度であって,
長期にわたって借主に与信をあたえて,機械,設備を占有,使用させること を目的とする金融的性格を有するものであり,(原告は本件契約を「リース
(ファイナンシャル・リース)契約」と呼称するので同名称に従えば,本件 契約は,リース契約である。)被告濠綿も本件契約の右のような経済的な目
12) 松田安正「リースの理論と実務」商事法務研究会,1984年,122‐123頁。
13) 大村敦志「基本民法Ⅱ 債権各論」有斐閣,2003年,123頁。
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( 11 )
的を認識して本件契約を締結したものといえる。……
本件契約が,与信供与的機能をその本来の目的としている以上,前記一括 即時弁済請求の条項は,貸主において借主に信用不安が生じた場合,与信金 額につき,期限の利益を失わせ,与信金の確実な回収を意図して設けられた ものであって,合理的根拠を有するものである。そうだとすれば,本件契約 が賃貸借であることを前提としていう被告らの抗弁も,これまた採用でき ない。」
この判決は,借主に債務不履行,信用不安状態が出現した場合にリース業 者がとりうる権利行使の内容について,通常の賃貸借契約では認められない
「一括即時弁済請求の条項」を認めたものであるが,会計学的視点から見た 場合にも注目すべき点がいくつかあるように思われる。まずは,この契約が
「実質的には,借主が借受物件を買受けるのであって,貸主は,借主に貸与 物件の購入資金を融資して,借主に同物件を購入したのと同一の経済的効果 を与えることを意図するもの」とされ,リース会計基準も存在しない当時に おいて,判例上,すでにリース契約の経済的実質が賃貸ではなく金融である と認められていたことである。もちろん,この点は非常に重要である。
しかし,より重要な点は,リース契約が「賃貸借であることを前提」とし てなされた抗弁が完全に否定され,リース契約の法的形式が賃貸借契約であ ることが否定されていることである。すなわち,わが国においてリース会計 基準が設定された時点において,リース契約は,「法的形式」は賃貸借契約 であるものの,その「経済的実質」が金融であることを根拠に会計処理(い わゆる売買処理)が規定されたが,すでに法的な解釈のうえでもその実質が 金融であり,少なくとも判例上は,リース契約の法的形式が賃貸借契約では なく無名契約であることが認められていたということである。したがって,
リース契約の「法的形式」を賃貸借契約であるとみれば確かにそれは「経済 的実質」と乖離していたが,無名契約であるとみればそれは「経済的実質」
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( 12 )
と必ずしも乖離しておらず,「経済的実質」を優先するといいう論拠でリー ス会計基準を設定する必要はなかったのかもしれない。
以上のように,リース契約の法的形式については,主として賃貸借契約説 と無名契約説が存在し,賃貸借契約説をとった場合には民法上の典型契約た る賃貸借契約の規定が準用されることになるのに対して,無名契約説をとっ た場合には,金融的性格を認め,通常の金融と売買契約に準じた取扱いをし ていくことになる。ただし,いずれの場合においても,リース契約は,対価 を得てリース物件の使用収益権と占有権を一定期間付与するものであり,借 主にとってリース債務が無条件債務(確定債務)であることについては争い がないように思われる。
また,リース期間終了後の所有権移転条項,割安購入オプション等の存在 の有無,フル・ペイアウトか否かにかかわらず,法的にリースを所有権の移 転とみなす(または,推定する)という法解釈は存在しない(法的形式をど のようにとらえたとしても,経済的効果の指摘にとどまり,リース物件の処 分権が認められることはない14)。これを会計学的視点からみるに,リース物 件そのものをあたかも借り手の財産であるかのように取り扱うという会計処 理の考え方は,法解釈とは相容れないものであり,法的権利や法的義務以外 の根拠が求められるということである。
なお,近年における債権法の改正に関する議論において,リース契約の典 型契約化についての検討が行われた。もしもリース契約という典型契約が民 法上,導入されていたとしたら,上記で述べた状況は変容していた可能性も ある。しかし,①(リース契約は)主に事業者間で行われる取引である上,
税制や会計制度の動向によって利用状況が左右される取引類型であり民法の 典型契約とする必要がないこと,②実質的には金融取引であり賃貸借の規定
14) なお,民法上,「所有者は,法令の制限内において,自由にその所有物の使用,
収益及び処分をする権利を有する。」(206条)とされている。
会計における法的形式と経済的実質(長束) −771−
( 13 )
を準用することが妥当でないことなどを理由として,典型契約化は見送られ,
今日に至っている15)。
Ⅳ リース契約の経済的実質と会計処理
以上でみてきたように,リース契約の「経済的実質」は金融であり,賃貸 借ではないということについては,ほとんど異論のないところである。同一 の将来キャッシュ・フローの時期・金額・蓋然性をもつものを,同一のもの として表現することが「経済的実質」を反映した会計処理であるとすれば,
リース契約についてはいわゆる売買処理を採用しなければならないことは明 らかであるように思われる。
ここで問題となるのは,その会計処理の論拠である。前節での検討を踏ま えれば,リース契約については法的形式と経済的実質は乖離しておらず,法 的形式(=経済的実質)を忠実に表現した会計処理が売買処理であると考え ることもできるし,法的形式と経済的実質は乖離しており,法的形式よりも 経済的実質を優先した会計処理が売買処理であると考えることもできる。こ こでは,そのどちらが妥当なのかについて考察してみよう。
1 使用権に基づく会計モデルの意義
すでに前節で述べたように,賃貸借契約説,無名契約説(金融的性格を含 む)のいずれの場合においても,リース契約は,対価を得てリース物件の使 用収益権と占有権を一定期間付与するものであり,借主にとってリース債務 が無条件債務(確定債務)であることについては争いがない。
15) これらの事情については,高橋めぐみ「ファイナンス・リースと民法(債権関 係)改正」日本法學,第80巻第3号(2015年1月),869‐897頁を参照。なお,ア メリカ統一商事法典(Uniform Commercial Code ; UCC)では,リース契約につい て別個独立した規定がある(第2A章)。
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( 14 )
したがって,借主には,①少なくともリース物件借受日以降16)の一定期間
(解約不能期間)において,②使用収益権(将来の経済的便益)が生じ,
③貸主による当該権利移転債務の履行により,対価支払義務(将来の経済的 便益の犠牲(キャッシュ・アウトフロー))が生じていることになる。
このような法的権利・法的義務が存在する状況を財務諸表上,適切に反映 するためには,使用収益権を取得時における公正価値でもって資産計上し,
同時にその対価として支払義務の公正価値を負債として計上するのが妥当で あると考えられ,それこそが「法的形式」を忠実に表現した会計処理であり,
「経済的実質」をも反映した会計処理であるといえよう。
現在提唱されている「使用権」に基づく会計モデルは,まさにこの考え方 を採用しているものと考えられ,この場合には,リース契約については法的 形式と経済的実質は乖離しておらず,リース契約の法的形式と経済的実質を ともに反映した妥当な会計処理であると評価できる。
2 リスクと経済的便益の実質的な移転に基づく会計モデルの問題点 一方,これも前節で述べたように,リース期間終了後の所有権移転条項,
割安購入オプション等の存在の有無,フル・ペイアウトか否かにかかわらず,
法的にリースを所有権の移転とみなすという法解釈は存在しない。そうであ るとすると,リース物件を売買し,借主があたかも所有しているかのような 会計処理は,法的形式からすると問題があることになる。したがって,リー ス物件そのものを資産計上するとした場合のその根拠は,法的形式ではなく 経済的実質を優先して,リース物件に対する「支配」に求められることにな ろう。所有しておらずとも「支配」してさえいれば資産計上するということ
16) リース契約締結日〜リース物件借受日については完全未履行契約であるので,別 の考慮が必要となる(特定履行の問題など。これについては拙稿「収益の認識と負 債概念−未履行契約の会計問題と関連して」商学論叢(福岡大学研究推進部),第 53巻第2号(2008年9月)を参照。)。
会計における法的形式と経済的実質(長束) −773−
( 15 )
からもわかるように,この場合における「支配」は,所有を包含する概念で ある。
ところで,そのように「支配」に依拠して資産計上を行う場合には,法的 権利以外の「支配」の規準を設けないと,どのようなものであれば資産計上 でき,どのようなものができないのかが判定できないように思われる。現行 のリース会計基準や過去のリース会計基準では,その規準として,リース期 間終了後の所有権移転条項,割安購入オプション等の存在の有無,フル・ペ イアウトか否かなどが採用され,それが「リスクと経済的便益の実質的な移 転」に基づく会計モデルというわけであるが,結果として,これらの規準の 存在が,リース契約をファイナンス・リースとオペレーティング・リースに 2分する規定を導き出しているといえよう。
しかし,リース資産の経済的便益の主要因である使用収益と占有の「支 配」は,リース契約の法的解釈上,賃貸借契約説または無名契約説のいずれ を採用しても,リース期間終了後の所有権移転条項,割安購入オプション等 の存在の有無,フル・ペイアウトか否かにかかわらず認められる。したがっ て,法的な所有権よりも広範な「支配」という規準を導入した一方で,法的 には「支配」していると認められている使用収益と占有を「経済的実質」の 観点からは「支配」とは認めないということになってしまっており,言わば
「法的形式と経済的実質の逆転現象」が生じてしまっているように思われ る17)。
そもそも,リース期間終了後の所有権移転に関する権利,割安購入オプ ション等が存在するのであれば,それはリース契約によって生じた使用収益
17) FASBおよびIASBも,リース物件の使用権に対する「支配」が存在することを
指摘し(IASB,op.cit., supra note (3), March 2009, par.3.16.(企業会計基準委員会・公 益財団法人財務会計基準機構訳,31‐32頁。),それにもかかわらず資産計上しない ことを概念フレームワークにおける「資産・負債の定義と不整合である」(Ibid.,
par.3.26.(同上,34頁。))として,新たなアプローチの導入を提案していた。
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( 16 )
権および占有権とは別の権利であり,別の将来の経済的便益(将来のキャッ シュ・フロー)を生じさせるものとして別に資産計上するのが経済的実質を 反映した会計処理であるとも考えられる18)。リース契約上,所有権移転に関 する権利,割安購入オプション等の存在が使用収益権や占有権に影響を及ぼ すことはないと考えられるので,「リスクと経済的便益の実質的な移転」に 基づく会計モデルのように,その存在を使用収益権や占有権の資産計上の要 件とするのは疑問であろう。
また,仮に「支配」を資産計上の根拠として認めたとしても,その場合に は,リース資産としては「支配」の内容である使用収益と占有の対価を公正 価値で計上するべきであり,「リスクと経済的便益の実質的な移転」に基づ く会計モデルに基づく現行リース会計基準の会計処理のように,使用収益と 占有の対価にプラスして,リース期間終了後の所有権移転,割安購入オプ ション等の対価を支払義務に含め,その公正価値(≒貸主の購入価額)を資 産計上する会計処理には検討の余地があるように思われる19)。
以上のように,リース契約の法的形式と経済的実質が乖離しているため法 的形式よりも経済的実質を優先して,リース物件に対する「支配」を資産計 上の根拠とする考え方および会計処理は,「支配」を根拠としておきながら
「支配」の内容には関係のないリース期間終了後の所有権移転に関する権利,
割安購入オプション等を資産計上の要件とし,「法的形式と経済的実質の逆 転現象」とも言える状態を導き出しているという問題があるのにくわえ,資 産計上の金額にも問題があると考えられる。
また,これらの問題点を解消するために使用収益と占有を「支配」の要件 とし,その対価をリース資産として計上するという考え方を採用するのであ
18) Ibid., pars.3.30‐3.31.(同上,35‐36頁。)
19) リース物件の賃借を所有権の移転とみなすということを認めたとすると,その場 合には,借主の資産計上額は貸主の購入価額となると考えられる。
会計における法的形式と経済的実質(長束) −775−
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れば,それは「使用権」に基づく会計モデルに他ならない。結局,リース契 約について法的形式と経済的実質が乖離していると解釈して,法的形式より も経済的実質を優先することを売買処理の根拠としたこと自体に無理があっ たのかもしれない。
Ⅴ お わ り に
以上の検討を総括すると,リース会計における「使用権」に基づくモデル の採用は,リース契約の「法的形式」を吟味した結果,会計処理については
「経済的実質」を反映したうえで,その論拠をより妥当なものに改善するも のであると評価できるように思われる。
また,「法的形式」と「経済的実質」が乖離している典型例として取り上 げられることの多いリース会計においても,「法的形式」と「経済的実質」
は必ずしも対立するものではないということも,本稿において強調すべき重 要な点である。「法的形式」と「経済的実質」は2項対立するものではなく,
多くの場合,「法的形式」を吟味することにより,どのような将来の経済的 便益およびその犠牲が生じるのか,すなわち「経済的実質」を判断すること ができるのではなかろうか。逆にいえば,「経済的実質」を反映した会計処 理がどのような会計処理なのかを考えるためには,「法的形式」の吟味をよ り慎重に行わなければならないということでもある。
会計基準のコンバージェンスが図られ,法制度が異なる国・地域で同一の 会計処理を導入しようとする場合には,このような考え方はとりわけ重要で あるように思われる。同様の取引であっても,国・地域が異なれば,当然,
異なる法的規制が行われている可能性があると考えられるが,同様の取引で あるからには同様の会計処理を行わなければ比較可能性が確保できない。そ の場合には,各法的規制の内容を吟味し,同一の「経済的実質」が存在する かどうかを判断したうえで,会計基準を設定していく必要がある。
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追記
末筆ながら,太田正博先生の古稀を心からお祝い申し上げるとともに,長 年賜ったご高配に感謝申し上げ,本稿を締めくくることにしたい。
会計における法的形式と経済的実質(長束) −777−
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