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国立ハンセン病資料館の見学実習(「博物館実習 1」)

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Academic year: 2021

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国立ハンセン病資料館の見学実習(「博物館実習 1」)

宮瀧 交二・有富由紀子

はじめに

現在、東京女子大学・学芸員課程の「博物館実習 1」の授業は、1996 年に本学に学芸員課程が 設置されると同時に着任された水藤真先生の御方針により、平日に開講される年間 30 回の授業 のうち 5 回の授業を土曜日あるいは日曜日に振り替えて、実際に各地の博物館を訪ねる見学実習 として実施している。この当時、「博物館実習 1」を受講する学生が多かったため、水藤真先生に お声掛けいただき 1999 年度から宮瀧が非常勤講師として着任し、水藤先生と御一緒に「博物館実 習 1」の授業を担当して今日に至るが、今年度までの 19 年間、この「博物館実習 1」の授業のう ち 5 回を見学実習に当てるというスタイルは変わっていない(現在、水藤先生の授業は、先生の 御定年退職にともない 2013 年度からは後任の高橋修先生に引き継がれているが、高橋先生もま た、このスタイルを継続されている)。

宮瀧の「博物館実習 1」における年 5 回の見学実習の訪問先は、毎年度、学生たちに様々な博物 館(以下、特に断らない限り「博物館」と記す場合には、歴史博物館、美術館、水族館、動植物 園、プラネタリウム等の総称とする)に触れてほしいので、設置主体の異なる博物館、及び展示 内容の異なる博物館という 2 つの観点から、宮瀧と本授業をサポートしている有富が協議して博 物館を選定してきた。幸い東京都内および隣接の埼玉、千葉、神奈川の各県には各種の博物館が 数多くあり、選択には事欠かない。これまでに、設置主体の異なる博物館としては公立博物館(国 立博物館、都道府県立博物館、区市町村立博物館)、私立博物館(企業ミュージアム等)、大学博 物館等を見学し、また、展示内容の異なる博物館としては、歴史博物館、美術館、科学館、文学 館といった博物館を見学してきた。例えば、本年度(2017 年度)の宮瀧の授業では、杉並区立郷 土博物館(区立の歴史博物館)、日本近代文学館(財団運営の文学館)、国立ハンセン病資料館(国 立のテーマ博物館)、AJINOMOTO 食とくらしの小さな博物館(企業ミュージアム)の 4 館を既 に見学し、11 月には東京都美術館(都立の美術館)を見学する予定である。ところで、本学の学 芸員課程は設置から既に 21 周年を迎えているが、その嬉しい成果として、本年度の見学先 5 館の うち国立ハンセン病資料館を除いた 4 館には、本学の卒業生が学芸員・職員として勤務しており、

見学実習は単なる博物館の見学にとどまらず、学生たちにとっては博物館職場に実際に勤務する 先輩訪問の貴重な機会ともなっている。

小稿は、近年必ず訪問している国立ハンセン病資料館への見学実習の実践報告である。同館の 見学は、前掲のように国立のテーマ博物館の一事例を見学するという目的を持っているが、もう 1 つ、学生たちが日頃から漠然と抱いている博物館に対するイメージを覆すことも目的としてい る。すなわち、一般に博物館は、美術館を中心として「癒しの場」「リフレッシュの場」として高 東京女子大学 教職課程・学芸員課程 2018 年 月

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く評価されがちであるが、見学後に帰宅の足取りが重くなるような博物館、換言すれば「負の遺 産」を学ぶ博物館も各地に存在しており、こうした博物館の存在を学生たちに体験してもらうこ とも、同館の見学の目的である。以下、見学の内容はもとより、事前学習、事後指導等について も御紹介していきたい。

1 事前学習

ハンセン病について先入観を持たない学生たちに、いきなり国立ハンセン病資料館を見学して もらい、大きな衝撃を受けてもらうというのも 1 つの考え方であるが、迷った揚げ句、やはりハ ンセン病についてある程度の関心を持った上で同館を見学し、理解を深めてもらうのが良いので はないかと考えるに至った。そうかといって、単にハンセン病について調べてから見学するよう、

事前に学生たちに伝えたとしても、せいぜいスマートフォンで関連サイトを見るにとどまること は火を見るよりも明らかである。そこで現在では、下記の小説またはその映画化作品のうちいず れか 1 つを選んで作品鑑賞してもらうことにしている。当初は松本清張の小説『砂の器』とその 映画化作品の 2 択のみであったが、近年、ドリアン助川の小説『あん』が発表され映画化された ので、これを付加して 4 択となったところである。3 年生で、ゼミ発表等で忙しい学生たちゆえ、

国立ハンセン病資料館の見学前にこれらの作品鑑賞が難しい場合もあるが、その際には、見学後 であっても構わないので必ずどれか 1 つを作品鑑賞してほしいと伝えている。

・松本清張『砂の器』(新潮文庫)

…1960 年 5 月 17 日から翌年 4 月 20 日まで、『読売新聞』夕刊に連載された推理小説。ハン セン病患者への社会差別を背景とした清張ならではの社会派作品としてベストセラーにな り、今日にまで読み継がれている。

・野村芳太郎監督作品、映画『砂の器』(1974 年、松竹)

…松本清張の小説『砂の器』の映画化作品。数多く映画化された松本清張作品の中でも傑作 として高く評価されている。第 29 回毎日映画コンクール大賞(日本映画)・脚本賞・音楽 賞。1974 年度ゴールデンアロー賞(作品賞)。1974 年度モスクワ国際映画祭審査員特別 賞・作曲家同盟賞等を受賞。

・ドリアン助川『あん』(ポプラ社文庫)

…2013 年に書き下ろし作品として出版された。どらやき店の店長と、雇用したハンセン病患 者との交流から生きることの意味を世に問いかけた小説。

・河瀬直美監督作品、映画『あん』(2015 年、エレファントハウス)

…ドリアン助川『あん』の映画化作品。国立ハンセン病資料館のある国立療養所多磨全生園 でのロケも行われた。

『砂の器』は上記の映画以外にも、テレビで数回映像化され、DVD 化されているものもあるが、

ほとんどが物語の軸にある「ハンセン病」を他の事柄に置き換えてしまっていることから、1974 年の野村芳太郎監督作品に限定している。

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さて、以上の 4 作品は、いずれも小説として、また、映画としても完成度が高い優れた作品で あり、学生たちに単にハンセン病に対する知識を得てもらうことだけが事前学習の目的ではなく、

実はこの機会にこのような優れた小説、優れた映画にも接してほしいという願いを込めた課題で もある。

このような事前学習については、学生たちから以下のような感想も寄せられている。

・私は映画『あん』を見ましたが、より具体的に想像力を働かせるために、とても有効な事前 学習の手段であると感じました。

・事前学習をすることにより、いままであまり知らなかったハンセン病についての考えを深め ることができた。ある程度知識や考えを入れてから見学することで、自分の知識の再確認に もなり、反対に、実際に見学をしなければ分からないこともあるのだと気付いた。

2 国立ハンセン病資料館の見学

(1) 国立ハンセン病資料館について

ハンセン病をめぐる国内外の長い歴史については、ここでは詳述しないが、近代以降、患者の 強制隔離政策を国家的に推進してきた日本政府が、平成 8(1996)年 4 月にこの政策を定めた「ら い予防法」を廃止したことは、記憶に新しいところである。国立ハンセン病資料館は、高松宮記 念ハンセン病資料館として、これに先立つ平成 5(1993)年 6 月に療養所入所者とその支援者たち により開館されたが、平成 19(2007)年 4 月に、国立ハンセン病資料館としてその規模を大きく し、再開館した。その設置根拠は、「らい予防法」の廃止に続いて 2009 年 4 月に施行された「ハ ンセン病問題の解決の促進に関する法」の第 4 章「名誉の回復及び死没者の追悼」の中にある第 18 条「国は、ハンセン病の患者であった者等の、名誉の回復を図るため国立のハンセン病資料館 の設置、歴史的建造物の保存等ハンセン病対策の歴史に関する正しい知識の普及啓発とその他必 要な措置を講ずる(後略)」であり、次の 5 つの理念をうたっている。

・ハンセン病資料館は、ハンセン病に関する知識の普及や理解の促進に努めます

・ハンセン病資料館は、ハンセン病にまつわる偏見や差別、排除の解消に努めます

・ハンセン病資料館は、ハンセン病に対する、古代以来の長年にわたる偏見・差別、とりわけ 誤った隔離政策の歴史に学び、苦難や被害を被った人々の体験と、これらに立ち向かった姿 を示します

・ハンセン病資料館は、ハンセン病にまつわる苦難や被害を被った人々の名誉回復を目指し、

人権尊重の精神を養うことに努めます

・ハンセン病資料館は、ハンセン病にまつわる苦難や被害を被った人々と社会との共生に努め ます

一見して明らかなように、これほど設置の理念が明確な博物館は、他に例を見ないものである

(所在地:189‑0002 東京都東村山市青葉町 4‑1‑13、TEL 042‑396‑2909、開館時間 9:30〜16:30、入 館料:無料)。

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(2) 国立ハンセン病資料館見学実習

さて、私たちの見学実習は、これは国立ハンセン病資料館の見学実習の場合に限ったことでは ないが、毎回約 2 時間をかけて実施している。その内訳は、訪問先の学芸員の皆様の御高配もあ り、概ね以下のようなものとなっている。

①約 30 分間 学芸員による博物館の概要紹介、及び展示(常設展示、企画展示)に関するガイ ダンスの聴講

②約 75 分間 展示の自由見学

③約 15 分間 学芸員への質疑応答

②の展示室の見学は、時には学芸員による展示解説というかたちで行われることもある。しか しながら、学生たちに、一般の入館者の立場になって展示を見学して欲しいので、多くの場合は 自由見学のかたちを採っている。展示解説は、理解は深まるが、解説された部分しか見ないとい う事態もおこる。この時、展示室のみならず、図書室やミュージアムショップ等、館内の諸施設 も可能な限り見学するよう、指導している。

また、国立ハンセン病資料館の場合は、展示は資料だけではなく、療養所に入所した体験を持 つ回復者の方たちへのインタビューを収録した AV 資料が見られる「証言コーナー」があり、47 本の映像の中から必ず 1 本選択して見ることを義務づけている。

「証言」は AV 資料だけではなく、語り部活動を行っている回復者から直接体験談を聞くこと もできる。しかし、本年度の見学日は、高齢となった回復者の方がいずれも体調を崩されており、

話を聞くことは叶わなかった。当資料館の学芸員は、回復者やハンセン病に関する資料と社会と の仲介役でもある、とガイダンスで聴講したが、回復者の高齢化(平均年齢は 80 歳を超える)と いう避けられない事実により、同館学芸員が今後担う役割の重大さを推察することができた。

③の質疑応答は、学生たちが直接、各館の学芸員に質問をすることが出来る貴重な時間となっ ている。展示に関する質問、博物館活動に関する質問、そして学芸員の職を得るためにはどのよ うにすればよいのかといった質問等、毎回様々な質問が出され、また、各館の学芸員も、いつも 懇切丁寧に回答して下さり感謝に堪えない。国立ハンセン病資料館の場合には、学生たちも他の 博物館での見学実習の際とは大きく異なり、ハンセン病をめぐる深刻な歴史を展示室で目の当た りにした直後であるため、いつになく具体的な質問が連続する。中には、展示で国の強制隔離政 策に言及する時などに、国からの圧力はないのか、などといった鋭い質問が出て、毎回御案内い ただいている西浦直子学芸員が一瞬目を瞬かせる場面もあった。

例年は、午前中の見学のみで解散するのだが、本年度は、初めての試みとして、国立ハンセン 病資料館・黒尾和久学芸部長の御厚意により、午後から、資料館のある国立療養所多磨全生園内 の見学ツアーを実施していただいた。参加を希望する学生のみを対象としたが、半数以上の学生 が午後まで残って参加するという嬉しい事態になり、真夏日となった暑さの中、約 1 時間の見学 となった。前掲の映画『あん』の撮影に用いられた場所にも御案内いただき、事前学習で映画『あ ん』を鑑賞していた学生は、午前中からのいろいろな思いもあったのか、しばし呆然とその場に

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佇む光景もあった(上記写真を参照)。

3 事後指導

博物館見学後は見学内容と感想を書いた見学シートを提出してもらい、宮瀧がコメントを記し て返却しているが、本年度からの試みとして、見学実習を行った翌週の大学の授業で、学生たち に一言ずつ感想を述べてもらい、宮瀧と有富がこれにコメントを加えるという事後指導を実施し た。この事後指導にも、学生たちからは以下のような感想が寄せられており、「博物館実習 1」の 授業を、見学実習のみで終わらせることなく、こうした事後指導を行うことが重要であることを 再認識したところである。

・人それぞれに思うことがあり、それは自分と同じようなことも、自分では気付かなかったこ ともあるのだと分かった。国立ハンセン病資料館の見学は、見学者全員にそれぞれ影響を及 ぼしたのだと感じた。

・一緒に見学した同世代の人が、どのように考えているかを知る、とてもいい機会でした。ま た、言葉にすることで、自分の見解をまとめて整理することが出来たように思います。

おわりに

「博物館実習 1」の授業は、学芸員として身に付けておきたい知識や技術について、実習を通じ て学ぶ授業であるが、特に見学実習は教室内で学んできたこと(「博物館実習 1」の授業のみなら ず、学芸員資格の取得に必要な各授業を通じて学んできたこと)を、実際に博物館に足を運んで、

また、各館の学芸員に出会って確認し理解する、大変重要な機会となっている。19 年間かけて構 築してきたこのような授業スタイルは、少なからず、学生たちの学芸員資格取得のため、そして 社会性の確立に役立っていると確信している。このような授業の機会を頂戴した、東京女子大 学・学芸員課程、水藤真先生、高橋修先生、そして、今まで訪問してきた延べ 94 館の博物館とそ の学芸員の皆様に深謝して、擱筆したい。

宮瀧交二(本学非常勤講師/大東文化大学教授)

有富由紀子(本学非常勤講師)

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