修士論文発表要旨
(2011
年度)
トンネル掘削における発破振動を用いた弾性係数の同定に関する研究
Parameter Identification of Elastic Modulus of Rock Based on Blasting Waves in Tunnel Excavation
土木工学専攻34
号 本山 雄斗Yuto MOTOYAMA
1 はじめに
トンネルやダム,道路などの土木工事を行う上で地盤 の性質や状態を予め調べることは重要である.地盤に外 力が作用した場合,それがどのような振舞いをみせるか 事前に把握しておくことは,工事を進める上での安全管 理や費用対策,環境対策に直接的に関わってくる.今日 の工事設計にあたり,ボーリング調査や物理探査,岩石 試験等の地質調査方法が地山性状を調査する一般的なも のとして採用されている.しかし,これら従来の方法は 調査に費やす時間やコストを考えると,改善すべき点が 多々挙げられる.そこで本研究では,トンネル掘削現場 を対象として,数値解析を用いた新しい地質調査方法を 提案する.数値解析を用いた地質調査は,安価で安全に 行え,かつ汎用性が高いという点で有益である.トンネ ル掘削に限定して言えば,軟弱地盤層や断層破砕帯への 進入は人的被害や工期の遅延を招く恐れがあるため回避 しなければならない.数値解析により切羽前方の地山性 状を把握できる本手法は,費用や安全面を考慮した革新 的な調査方法と言えるだろう.
解析対象には,広島県に位置する尾道・松江線高野工 区大万木トンネル工事現場
(以下,大万木トンネル)
を採 用した.大万木トンネルは総延長4, 878m
で,NATM工 法を用いた山岳トンネルである.また,事前の調査で地 山が3
層に分類されていることがわかっている.従って,パラメータ同定により地山を構成する各層の弾性係数を 同定することを本研究の目的とする.
2 パラメータ同定
2.1 一次随伴法
添字記法と総和規約を用いて,パラメータ同定手法を 示す.本稿で述べているパラメータとは弾性係数のこと である. 弾性係数を同定することは,以下の拡張評価関 数
J
∗を最小にするような最小化問題と等価である.J
∗= J + Λ + Ξ, (1)
式
(1)
におけるJ
は評価関数と呼ばれ,以下の形で定義 される.J = 1 2
∫ t
ft
0( ˙ u αi − η αi )Q αiβj ( ˙ u βj − η βj )dt, (2)
ここに,˙u αi
とη αi
はそれぞれ,観測点α
におけるi
方向 の計算速度と観測速度である.Qαiβj
は観測点数の自由 度を持った重み係数で,t0
をt f
はそれぞれ,初期時間と 終端時間を意味する.支配方程式には式(3)
に示す,変 位で表したナビエの式を適用する.本研究では地盤を線 形弾性体と仮定し,四面体要素を用いて動的解析を行う.D ijkl u k,lj + ρb i − ρ¨ u i = 0, (3)
ここに,ui
,bi
,ρはそれぞれ,変位,物体力そして密度 を意味し,従属変数の上部ドット記号は時間微分を表す.D ijkl
は弾性係数行列と呼ばれ,地盤を構成する層の数だ け与えられる(図 1
参照).それぞれの層の弾性係数とポ アソン比に基づいて,Dijkl
は以下のように導くことがで きる.D ijkl =
∑ M
m=1
D (m) ijkl , (4)
ここに,mは地山を構成する層の数を意味し,Mはその 最大数である.式
(5)
は支配方程式を有限要素法により 離散化し,Lagrange乗数法を適用したものである.Λ =
∫ t
ft
0λ αi ( ˆ Ω αi − M αiβj u ¨ βj
− C αiβj u ˙ βj − K αiβj u βj )dt, (5)
式(5)
におけるλ αi
はLagrange
乗数を表し,係数行列M αiβj
,Cαiβj
,Kαiβj
はそれぞれ,質量,レイリー減衰,剛性を意味する.
Ω ˆ αi
は外力項である. 式(1)
の右辺第3 項のΞ
は安定化項で,以下の形で定義される.Ξ = 1 2
∫ t
ft
0(X λ − X ˜ λ )W λµ (X µ − X ˜ µ )dt, (6) X λ
は本研究の同定対象である弾性係数を意味している.また,W
αiβj
は計算の安定性を確保するための安定化重 みである.式(6)
は繰返し計算収束時にはゼロとなる.図
1:
地盤の構成2.2 二次随伴法
逆問題の定式化において,本研究では随伴変数法を用 いる.また,Lagrange乗数法により拡張された拡張評価 関数
J
∗は以下に示す.J
∗= J +
∫ t
ft
0λ αi (M αiβj u ¨ βj + C αiβj u ˙ βj
+ K αiβj u βj − Ω ˆ αi )dt, (7)
各変数のテイラー展開u i = u (0) i + u (1) i + u (2) i + u (3) i + ..., (8) λ αi = λ (0) αi + λ (1) αi + λ (2) αi + λ (3) αi + ..., (9)
各変数と同様に弾性係数X i
も以下のようにテイラー展 開を行う.X i = X i (0) + X i (1) + X i (2) + ..., (10)
展開された各変数を拡張評価関数J
∗に代入すると,J∗ は以下のように書き表すことができる.J
∗= J
∗(0) + J
∗(1) + J
∗(2) + J
∗(3) + ..., (11)
ここで,J∗は以下のように書き表すことができる.J
∗= J
∗(0) +
∫ t
ft
0(g i X i + 1
2 X i H ij X j + ..., )dt (12)
ここで,gi
は弾性係数X i
の勾配であり,H ij
はヘシアン マトリックスである.また,拡張評価関数は以下のよう に各項を分類することができる.J
∗= J 1
∗(0) + J 1
∗(1) + J 1
∗(2)
+ J 2
∗(2) + J 1
∗(3) + J 2
∗(3) + ... (13)
J 1
∗(1) =
∫ t
ft
0(g i X i (1) dt (14)
J 1
∗(2) =
∫ t
ft
0(g i X i (2) dt (15)
J 2
∗(2) = 1 2
∫ t
ft
0(X i (1) H ij X j (1) )dt (16)
J 1
∗(3) =
∫ t
ft
0(g i X i (3) dt (17)
J 2
∗(3) = 1 2
∫ t
ft
0(X i (1) H ij X j (2)
+ X i (2) H ij X j (1) )dt (18)
以上より,拡張評価関数が最少となる必要条件は
J 1
∗(1) = 0 (19) J 1
∗(2) + J 2
∗(3) = 0 (20)
上記の2
条件から,J
∗− J
∗(0) = J 2
∗(2) ≥ 0 (21)
となる.また,本研究で用いた最小化手法は準ニュート ン法である.ヘシアンマトリックスを更新する手法とし てはBFGS
法を用いた.3 検証
同定手法の検証を行う為,地盤を単純化して考え
3
次元 の矩形有限要素分割図を用いる.計算条件として,図2
の ようなものを適用させた.外力は両問題ともX = 200[m]
の側面に等分布荷重を載荷し,任意の地点で速度データ を採取し,それを観測データとして弾性係数の同定を行 う.有限要素法の順解析に用いる外力は模擬発破外力と して単位時間に外力を加え,その衝撃によって発生する 振動を任意の位置で採取し,それを観測データとして用 いる.実際の現象においては観測データのみによってパ ラメータ同定を行うが,検証では目的とするパラメータ を設定して有限要素法で順解析を計算してその速度デー タを用いて任意に設定した初期値から同定を行う.有限 要素分割は節点数
1,029,要素数 4,320
となっている.境 界条件としてはX = 0.0[m]
の面の変位を固定し,片持 ち梁を想定している.表
1:
設定条件弾性係数
(初期値)
密度 ポアソン比[kN/m
2] [kg/m
3]
層
1 1.0 × 10 6 2.3 × 10 3 0.3
図
2:
有限要素分割図4 検証結果
図
5
と図6
は,それぞれ一次随伴法と二次随伴法を用 いた際の弾性係数の推移を表している.また,図3
と図4
はその評価関数の推移を示したものである.両手法と も評価関数が0
に収束しパラメータを同定することがで きた.検証段階での観測速度は,アルゴリズムの有効性 を確認するため,数値解析にて得られたものを観測速度 として定義し同定を行った.そのため,評価関数が0
に 収束したということは計算速度と観測速度は完全なる一 致をしたということである.つまり,本手法は3
次元に おけるパラメータ同定の方法として有効であることが確 認できた.No. of iteration
Performancefunction
20 40 60 80
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1
図
3:
評価関数の推移(一次
随伴)No. of iteration
Performancefunction
10 20 30 40 50 60 70
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1
図
4:
評価関数の推移(二次
随伴)No. of iteration
Elasticmodulus[kN/m**2]
20 40 60 80
2E+06 4E+06 6E+06 8E+06 1E+07
図
5:
弾性係数の推移(一次
随伴)No. of iteration
Elasticmodulus[kN/m**2]
10 20 30 40 50 60 70
2E+06 4E+06 6E+06 8E+06 1E+07
図
6:
弾性係数の推移(二次
随伴)5 数値解析例
解析モデルとして,広島県に位置する大万木トンネル付 近の地形データから,有限要素分割図を作成した
(図 7
参 照).総節点数と要素数はそれぞれ8039
および42023
と なっている.また,解析領域はそれぞれの方向にX = 254 [m],Y = 254 [m],Z = 205 [m]
となっている.観測値 としての地盤振動は,トンネル坑口付近に設けた観測点 から得られたものを使用する(図 8
参照).トンネル切羽 にダイナマイトを仮定した衝撃力を与え,それによって 生じた弾性波を用いて各層の弾性係数を同時に同定する.発破外力の設定方法であるが,切羽に与えた外力は以下 の式
(22)
で表される.外力を与える場所としては,図10
図
7:
有限要素分割図 図8:
観測点に示すように芯抜きを想定して,切羽中心の
6
点にiX, Y
そしてZ
方向それぞれ載荷した.Ω ˆ αi =
∫
Γ
2N α A i (e
−ξt − e
−ηt )dΓ, (22)
ここに,A
i
はi
方向において与えられる発破外力の最大 振幅を意味する.ξとη
は爆破力の時間変化に依存する パラメータである.本研究では弾性係数の同定を行う前 に最大振幅A i
の同定を行っている.また,ξとη
をそれぞれ
1000,5000
とした.解析領域はその解析目的に応じ図
9:
トンネル坑口図
10:
切羽における外力て,トンネルの水平方向および鉛直方向に十分な範囲を 設定し,それぞれの境界には適切な境界条件を設定しな ければならない.そのため本研究では,領域側面はそれ ぞれ法線方向のみ変位を固定,領域底面は水平および鉛 直方向全ての変位を固定,自由表面境界には応力自由条 件を適用した.以上の解析条件で,トンネル掘削による 発破振動を用い各層の弾性係数の同定を行う.
6 数値解析結果
図
11
と図13
は数値解析例の評価関数の繰返し計算履 歴を示している.両手法において評価関数は初期値を用 いて計算された値から,ある一定の値に収束しているこ とが見てとれる.評価関数が完全に0
に収束していない 理由としては,計算値と計測値が完全に一致していない ためであると考えられる.計測データは機械的誤差や人 為的誤差を含んでいるために数値解析と完全に一致させることは難しいと考えられる.つまり,評価関数はゼロ にはならないが,最小となるものが最適なパラメータと して判断されるのである.このことより,評価関数をよ り減少させることができた二次随伴法の方が有効である と言える.更に,図
12
と図14
はそれぞれ一次随伴法と 二次随伴法を用いた際の弾性係数の推移を表している.No. of iteration
Performancefunction
20 40 60 80
0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1
図
11:
評価関数の推移(一
次随伴)No. of iteration
Elasticmodulus[kN/m**2]
20 40 60 80
8E+06 1E+07 1.2E+07
1.4E+07 Stratum 1
Stratum 2 Stratum 3
図
12:
弾性係数の推移(一
次随伴)No. of iteration
Performancefunction
10 20 30 40 50
0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1
図
13:
評価関数の推移(二
次随伴)No. of iteration
Elasticmodulus[kN/m**2]
10 20 30 40 50
8E+06 9E+06 1E+07 1.1E+07
stratum 1 stratum 2 stratum 3
図
14:
弾性係数の推移(二
次随伴)表
2:
弾性係数の計算結果弾性係数
[kN/m 2 ]
初期値 一次随伴 二次随伴 層
1 1.00 × 10 7 1.40 × 10 7 1.15 × 10 7
層2 1.00 × 10 7 7.78 × 10 6 8.26 × 10 6
層3 1.00 × 10 7 7.73 × 10 6 7.43 × 10 6
Time [s]
Velocity[m/s]
0.1 0.2 0.3 0.4
-0.001 -0.0005 0 0.0005 0.001
Computed velocity in X-direction Observed velocity in X-direction
図
15:
速度の比較-X方向(一次随伴)
Time [s]
Velocity[m/s]
0.1 0.2 0.3 0.4
-0.001 -0.0005 0 0.0005 0.001
Computed velocity in X-direction Observed velocity in X-direction
図
16:
速度の比較-X方向(二次随伴)
Time [s]
Velocity[m/s]
0.1 0.2 0.3 0.4
-0.001 -0.0005 0 0.0005 0.001
Computed velocity in Y-direction Observed velocity in Y-direction
図
17:
速度の比較-Y方向(一次随伴)
Time [s]
Velocity[m/s]
0.1 0.2 0.3 0.4
-0.001 -0.0005 0 0.0005 0.001
Computed velocity in Y-direction Observed velocity in Y-direction
図
18:
速度の比較-Y方向(二次随伴)
Time [s]
Velocity[m/s]
0.1 0.2 0.3 0.4
-0.001 -0.0005 0 0.0005 0.001
Computed velocity in Z-direction Observed velocity in Z-direction
図
19:
速度の比較-Z方向(一次随伴)
Time [s]
Velocity[m/s]
0.1 0.2 0.3 0.4
-0.001 -0.0005 0 0.0005 0.001
Computed velocity in Z-direction Observed velocity in Z-direction
図
20:
速度の比較-Z方向(二次随伴)
7 結論
数値解析の結果から,地表面に設置し実際に得られた 弾性波を用いて,弾性係数を三層同時に同定することが できた.従来までは,一次随伴方程式法を用いて弾性係 数の同定を行うことは現存していたが,二次随伴方程式 法を用いた同定までには手が及んでいなかった.その現 状から本研究に取り組み,パラメータの同定解析手法を 確立することができた.