紹 介
現代中国における財政法体系の構築とその課題
The Construction of Finance Legal Systems and Its Problems in Modern China
江 利 紅*
目 次 は じ め に
Ⅰ 現代中国財政制度の基盤としての「分税制」導入の経緯 1.「中央統収・統支制」の確立(1949 ~ 1978年)
2.「財政請負制」の導入(1978 ~ 1994年)
3.「分税制(中央と地方の財源の配分)」の実施(1994年以降)
Ⅱ 現代中国における財政法体系の構築およびその主な内容 1.予算法体系の構築およびその主な内容
2.予算外資金管理に関する法体系の構築およびその主な内容 3.租税法体系の構築およびその主な内容
4.政府間財政調整に関する法体系の構築およびその主な内容 5.会計検査法体系の構築およびその主な内容
Ⅲ 現代中国における財政法体系構築の今後の課題 1.予算監督の課題
2.予算外資金監督の課題 3.地方財源不足の課題 4.地方債務の課題 5.審計(会計検査)の課題
*
嘱託研究所員・華東政法大学教授
本論文は,中国教育部人文社会科学プロジェクト「行政収費(費用徴収)
法治化研究」(項目番号:13YJC820035)による研究成果の一部である。
本論文は,華東政法大学行政法学科建設プロジェクト(項目番号:A ─
3101─14─1322)による研究成果の一部である。
おわりに─統一的な「財政法」の制定に向けて
は じ め に
中華人民共和国は,1949年10月の建国後,旧ソ連の経済システムを参考 にして中央集権的計画経済システムを導入した。「計画経済システム」と は,国家の権力によって物財バランスに基づいて計画的な配分を実施する 経済システムである。このシステムの下で,すべての生産,流通,消費
(製品の配分)が中央政府または地方政府の権力によって統一的に計画さ れ,国家所有または集団所有の企業やその他の組織によって経営されてい た。そのうち,財政制度については,中央集権的「中央統収・統支制」を とっている。
文化大革命が終息した後の1978年12月,中国共産党第11期中央委員会第
₃ 回全体会議が開かれ,中国は「文化大革命」の誤りを是正し,経済建設 を中心とする政治路線や「改革開放」政策を打ち立てた。そして,1992年 10月に開催された中国共産党第14回全国代表大会において,「社会主義市 場経済」が経済システム改革の目標として確立された。1993年11月,中国 共産党第14期中央委員会第 ₃ 回全体会議が開催され,中共中央「社会主義 市場経済システムの確立に関する若干問題の決定」を公布した。「市場経 済システム」とは,市場の価格調整メカニズムによって経済の資源を配分 するシステムである。計画経済システムから市場経済システムへの転換に 相応して,中国の財政制度は,中央集権的な「中央統収・統支制」から地 方分権的な「分税制」へ転換した。
この「分税制」の下で,「予算法」,「税収徴収管理法」,「会計検査法」,
「各級人民代表大会常務委員会監督法」などの法律の制定により,中央予 算と地方予算という予算管理制度,予算外資金管理制度,中央税と地方税 の租税徴収制度,政府間財政調整制度,会計検査制度などの中国財政制度 が構築されてきた。しかし,現段階の中国では,予算の審議,予算外資金 の管理,税収の徴収,地方の財源不足と地方債のリスク,財政の監督,会
計検査の独立性と実効性などの課題がまだ残っている。
本論文では,まず,現代中国財政制度の基盤としての「分税制」導入の 経緯を概観し(Ⅰ),次に,「分税制」の下における現代中国の財政法体系 の構築およびその主な内容を分析し(Ⅱ),その課題と問題点をとりまと め(Ⅲ),最後に,統一的な「財政法」の制定をめぐって,今後の中国に おける財政法体系の発展を検討し,将来の展望を行なうことにする(おわ りに)。
I 現代中国財政制度の基盤としての「分税制」導入の経緯
中国の歴史区分では,1949年の中華人民共和国成立以降を「現代」とす る。1949年の中華人民共和国の成立→1978年の改革開放政策の実施→1993 年の社会主義市場経済システムの導入という歴史の発展段階に対応して,
現代中国における財政制度の改革は「中央統収・統支制」→「財政請負 制」→「分税制」という順番で行なわれてきた。
1.「中央統収・統支制」の確立(1949 ~ 1978年)
中国では,1949年の中華人民共和国の成立から1978年の改革開放政策の 実施まで,計画経済システムをとっている。この経済システムに応じ,中 国の財政制度は,中央政府によるマクロコントロールという原則に基づ き,「中央統収・統支制」をとっている。
⑴「中央統収・統支制」の導入
1950年 ₃ 月 ₃ 日,当時の政務院(現在の国務院の前身,日本の内閣に相 当する)が「国家の財政,経済活動の統一に関する決定」を採択し,中華 人民共和国の成立まで各地方による分散的に管理している財政制度を廃棄 し,国の財政,経済活動を中央政府の管理下に置き,中央政府の全国財 政,経済活動に対する指導的な地位を確立した。さらに,財政収支の不均 衡と財政機構の分散状態を是正するため,1950年 ₃ 月24日,当時の政務院 が「1950年度財政収支の統一管理に関する決定」を発布し,「中央統収・
統支制」という財政制度を確立した。
⑵「中央統収・統支制」の内容
「統収統支」とは,中央政府が全国の各地方および各国有企業の収入や 利潤を集中的に管理し(「統一収入」という),すべての地方政府を含めて 全国の予算を統一的に編成し,全国の収入を地方に統一的に配分する
(「統一支出」という)制度である。地方政府は租税を徴収し,中央政府が 認めた支出予算額を差し引いた残りを中央政府に「上納」するが,国有企 業は,「利潤上納」として余剰製品を国家に提供した。この財政制度を通 じて,中央政府は全国の財政収入と支出を集中的に管理している。中央と 地方との財政関係からみれば,「統一領導(中央の指令による指導),分級 管理(部門別管理)」という原則に基づいた財政制度は,「中央集権的な財 政制度」とも言われる。
⑶「中央統収・統支制」の問題点
1949年の中華人民共和国成立当時,経済発展や財政収入などは極めて困 難な状態に置かれていた。財源の不足,財政収支の均衡,物価の高騰など の問題を解決するため,「中央統収・統支制」という財政制度を確立する ことは必要であった。この財政制度の実施により,財政の困難な情勢は急 速に改善された。そして,この中央集権的な財政制度は,建国初期に経済 発展の低い状態で社会資本を集中して「重工業優先発展戦略」を実現する ことに対して極めて重要な役割を果たした。しかし,この財政制度の下 で,すべての財政管理権限を中央政府に集中し,地方政府および国有企業 の収入や利潤にもかかわらず,各地方に平均的に収入を配分することにな った。いわゆる「大鍋飯(大きな鍋で炊いた飯を皆で食べる)」や平均主 義的財政制度であった。結局,各地方政府および国有企業などの積極性を 抑え込み,社会資源の非効率的な配分や社会生産の不均衡的な発展などの 問題が生じた。
2.「財政請負制」の導入(1978 ~ 1994年)
1978年12月18日に開かれた中国共産党第11期中央委員会第 ₃ 回全体会議
で,毛沢東時代の「階級闘争」に終止符を打ち,経済建設を中心とする政 治路線と改革開放の基本方針が確立された。その改革の一部として,「計 画経済」の建前を維持しながら,「商品経済」と「市場の役割」を重視す るという方向に転換した。それに応じて,財政面では,「中央統収・統支 制」という財政制度の問題を解決するために,1980年代の ₃ 回の改革を通 じて,「財政請負制」を導入した。
⑴「劃(画)分収支,分級包乾」と「総額配分,比率包乾」制度の導入 1980年から,北京,上海,天津の三つの直轄市を除くすべての省級地方 で,「劃(画)分収支,分級包乾」(中央と地方の財政収支を分けて,分級 で請け負う)制度を実施した。そして,1984年から「総額配分,比率包 乾」(定額ではなく,比率で請け負う)制度に転換した。
⑵「劃(画)分税種,核定収支,分級包乾」制度の導入
1985年に「劃(画)分税種,核定収支,分級包乾」(税種を区分し,中 央と地方の財政収支を確定し,分級で請け負う)制度を実施した。この財 政制度は「利改税(国有企業の利潤上納から納税へ)」という改革にした がって導入された。前述のように,「中央統収・統支制」の下で,国有企 業は,「利潤上納」として余剰製品を国家に提供した。1983年の二回の
「利改税」により,「利潤上納」という方式のかわりに,国有企業が企業所 得税を納めることになった。この「利改税」の定めた税種に応じて,予算 収入を中央固定収入,地方固定収入,中央地方共通収入の三種類に分け た。
⑶ 財政請負方式の多様化
1988年以来,各地方では,下記のような財政請負方式が導入されてい る。①「収入逓増請負」は,1987年の地方収入を基数とし,地方の収入逓 増率,地方留保分と中央上納分の比率を確定する制度である。②「総額配 分」は,地方収入の総額を毎年上納比率に基づき,中央と地方の間で配分 する制度である。③「総額配分プラス増収配分」は,前年度の地方収入を 基数とし,基数部分の収入には総額配分比率を適用し,基数を超過した部 分には比率で配分する制度である。④「定額上納」は,地方が中央に固定
額の収入を上納し,それ以外の収入を全て地方に留保する制度である。⑤
「上納額逓増請負」は,地方が一定の逓増率で中央に収入を上納する制度 である。⑥「定額補助」は,貧しい地方に対し,中央が固定額の補助金を 交付する制度である。
⑷「財政請負制」の問題点
上述の経緯より,「財政請負制」が導入されてきた。請負というのは,
地方政府が租税の徴収主体として,あらかじめ確定した地方から中央への 上納金(固定額または比率で)を上納し,残りの収入を地方に留保するこ とである。この請負制により,地方政府は,大幅な財政自主権をもち,地 方財源の確保,地域の開発や地方経済の活性化に積極的に取組んでいた。
しかし,「財政請負制」の実施により,中央財政収入の減少,中央政府の 財政マクロコントロール機能や所得再分配機能の弱体化,地方格差の拡大 化,地方保護主義の台頭などの問題が起こった。そして,地方政府の財政 管理権と事務処理権は徐々に増加していた一方,中央政府の財政管理権と 事務処理権は年々下降しつつあった。結局,中央財政収入が国家財政に占 める比重は1993年に22%にまで下がった。
3.「分税制(中央と地方の財源の配分)」の実施(1994年以降)
社会主義市場経済システムの確立,中央政府の財政収入の増加およびマ クロコントロール機能の強化,中央と地方の財政関係の改善,地域格差の 是正のために,1993年12月15日に,国務院が「分税制財政管理制度の実施 に関する決定(国発[1993]85号)」を公布し,1994年 ₁ 月 ₁ 日より地方 の「財政請負制」を改革し,「分税制」という財政制度を導入した。そし て,1994年に制定した「予算法」は,「国は,中央と地方の分税制を実行 する」と明文で定めている(第 ₈ 条)。この「分税制」の主な内容は以下 のとおりである1)。
1) 国務院「分税制財政管理体制の実施に関する決定(国発[1993]85号)」
(1993年12月15日)参照。
⑴ 中央と地方の事務権限と支出の区分
中央政府と地方政府の事務権限の配分に基づき,国家の財政支出を中央 財政の支出と地方財政の支出に区分する。
①中央財政は国家の安全・外交・中央国家機関の運営のための経費,国 民経済構造の調整・地域発展の協調・マクロコントロールに必要な支出お よび中央直轄事業の発展のための支出を負担する。具体的には,国防費,
武装警察費,外交と対外援助に関する支出,中央レベルの行政機関の経 費,中央が統一的に管理する基本建設投資,中央所属企業の技術向上と新 製品開発の費用,地質探査費,中央財政の負担する農業支援支出,中央財 政の負担する国内・国外の債務の元利償還および中央の負担する公検法
(公安・検察・裁判)の支出と文科・教育・衛生・科学などの各事業費の 支出を含む。
②地方財政は当該地方の政権機関の運営経費および当該地方の経済と事 業の発展のための支出を負担する。具体的には,地方行政機関の経費,公 検法(公安・検察・裁判)の支出,一部の武装警察の経費,民兵事業費,
地方が管理する基本建設投資,地方企業の技術向上と新製品開発の費用,
農業支援費,都市の維持・建設の経費,地方文化・教育・衛生などの事業 費,価格補助支出およびその他の支出を含む。
⑵ 中央と地方の財政収入の区分
事務権限と財政権限と結び付けるという原則にしたがって,各種税目が 中央政府固定収入,中央・地方共有固定収入,地方政府固定収入に分類さ れた。原則として,国家の利益を守り,マクロコントロールの実施に必要 な税目が中央税,経済発展と直接的に関連している税目が中央・地方共有 税,地方により徴収するのに適当な税目が地方税とされた。具体的な区分 は,下記のとおりである。
①中央政府固定収入には,関税,税関が徴収を代行する消費税と付加価 値税,国家税務局が徴収する消費税,中央企業所得税,地方銀行・外資銀 行・非銀行金融企業の所得税,鉄道部門・各銀行本店・各保険総会社など の部門が集中的に納める収入(営業税,所得税,利潤と都市維持・建設税
を含む),中央企業の上納した利潤などがある。
②地方政府固定収入には,営業税(鉄道部門・各銀行本店・各保険総会 社が集中的に納付する営業税を除く),地方企業所得税(上述の地方銀行 と外資銀行および非銀行金融企業の所得税を除く),地方企業の上納した 利潤,個人所得税,都市土地使用税,固定資産投資方向調節税,都市維 持・建設税(鉄道部門・各銀行本店・各保険総会社が集中的に納付するも のを除く),不動産税,車船使用税,宴会税,農牧業税,屠殺税,農業特 産税,耕地占用税,契約税,相続税と贈与税,土地付加価値税,国有土地 有償使用収入などがある。
③中央・地方共有固定収入には,付加価値税(中央75%,地方25%),
資源税(資源の種類により配分の比率が異なる。一般資源の資源税は地方 収入とされるが,海洋石油資源税は中央収入とされる),証券取引税(中 央50%,地方50%)がある。
⑶「分税制」の問題点
分税制は,現代中国の財政制度の基盤であり,中央財政収入の増加,中 央のマクロ経済コントロール能力の強化,中央と地方との財政関係改善な どに一定の役割を果たしている。しかし,1994年の分税制改革以来,中央 の財政管理権が大幅に向上しているが,地方の財政管理権は大幅に減少し ている。結局,地方政府の財源不足,地方債のリスクなどの問題を招い た。
II 現代中国における財政法体系の構築およびその主な内容
1982年の現行憲法は,国家予算の編成・執行・審査承認(62条10号,67 条 ₅ 号,89条 ₅ 号,99条 ₂ 項),国民の納税義務(56条),審計(会計検 査)機関の設置(91条)などの財政制度の枠組みを定めている。この枠組 みおよび「分税制」の下で,「予算法」,「税収徴収管理法」,「審計(会計 検査)法」,「各級人民代表大会常務委員会監督法」などの法律および関連 法令がそれぞれ制定される。これらの法令の制定により,予算制度,予算
外資金制度,租税制度,政府間財政調整制度,審計(会計検査)制度など の現代中国財政制度が構築されてきた。
1.予算法体系の構築およびその主な内容
予算制度は,財政制度の中でもっとも重要な制度である。1979年の「地 方各級人民代表大会と地方各級人民政府組織法」は,県級以上の各級地方 人民代表大会( ₈ 条 ₁ 号・ ₂ 号)・郷級人民代表大会( ₉ 条 ₄ 号)の予算 の審査・承認権,県級以上の各級地方人民代表大会常務委員会の予算の部 分的変更権(44条 ₅ 号),県級以上人民政府(59条 ₅ 号)・郷級人民政府
(61条 ₂ 号)の予算執行権を定めている。1982年の現行憲法は国務院の国 家予算の編成・執行権(89条 ₅ 号),全国人民代表大会(62条10号)・県級 以上の各級地方人民代表大会(99条 ₂ 項)の予算の審査・承認権,全国人 民代表大会常務委員会(67条 ₅ 号)の予算部分的調整案の審査・承認権を 定めている。予算の分配および監督の機能を強化し,国の予算に対する管 理を健全化させ,国家のマクロコントロールを促進し,経済および社会の 発展を保障するため,上述の憲法規定に基づき,1994年 ₃ 月22日,第 ₈ 期 全国人民代表大会第 ₂ 回会議で「予算法」を制定した。この法律を施行す るために,1995年11月22日,国務院第37回常務会議で「予算法実施条例
(日本の政令に相当する)」を制定した。さらに,2006年の「各級人民代表 大会常務委員会監督法」の第三章(15 ─ 21条)は,予算の監督を定めてい る。それ以外,「国家賠償法」(37条),「税収徴収管理法」(53条・75条・
76条),「人民武装警察法」(26条)などの法律にも予算に関する規定があ る。
上述の法令により,下記のような予算制度が定められている。
⑴ 予算管理制度
中国では,「統一領導(中央の指令による指導),分級管理(部門別管 理)」の原則に基づいて,予算管理制度が構築されている。中央政府の統 一的な指導の下で,「一級政府一級予算」という制度を実行している。図
₁ のように,国家予算管理制度は,中央,省級,地級,県級,郷級の五階
層(五級)に分けられる(予算法 ₂ 条 ₁ 項)2)。中央政府予算は,中央各 部門の予算により構成する。中央予算には,地方が中央に対して上納する 収入金額および中央が地方に対して還付し,または交付する補助の金額を 含む(予算法 ₄ 条)。各級地方政府予算は,当該級の各部門の予算により 構成する。各級地方政府予算には,下級政府が上級政府に上納する収入金 額および上級政府が下級政府に対して還付し,または交付する補助の金額 を含む(予算法 ₅ 条)。
中央予算 省級予算 地区級市予算
県級予算 郷級予算 なし 中央
省級 地区級市
県級 郷級
村民委員会・居民委員会
図 ₁ 中国の行政区画と国家予算の制度
出所:「憲法」と「地方各級人民代表大会と地方各級人民政府組織法」に基づき筆者作成
⑵ 予算収支範囲
予算は,予算収入および予算支出により構成する(予算法19条 ₁ 項)。
①予算収入には,税収収入,規定により上納すべき国有資産収益,特定 項目収入およびその他の収入が含まれる(予算法19条 ₂ 項)。予算収入は,
中央予算収入,地方予算収入および中央地方予算共同収入に分かれる(予 算法20条 ₁ 項)。
②予算支出には,経済建設支出,教育・科学・文化・衛生および体育な どの事業の発展の支出,国家管理費用支出,国防支出,各補助金支出およ びその他の支出が含まれる(予算法19条 ₃ 項)。予算支出は,中央予算支 出および地方予算支出に分かれる(予算法20条 ₂ 項)。
2) 予算設定の条件を備えない郷級(郷,民族郷,鎮)政府は,省級(省,自治 区,直轄市)政府の決定によって,予算を一時的に設定しないことができる
(予算法第 ₂ 条第 ₂ 項)。
⑶ 予算の編成
中国の予算年度は, ₁ 月から同年12月までの ₁ 年間である(予算法10 条)。国務院は,中央予算および決算の草案を編成するが(予算法14条),
県級以上の各級地方政府は,当該級予算および決算の草案を編成する(予 算法15条)。具体的に言えば,国務院の財政部門は,中央予算および決算 の草案を具体的に編成し,国務院に報告する。各級地方政府の財政部門 は,当該級予算および決算草案を具体的に編成し,当該級政府および一級 上の政府の財政部門に報告する(予算法16条)。
地方各級予算は,「入を計って出を定め」および「収支の均衡」の原則 にしたがって編成し,赤字を計上しない(予算法28条 ₁ 項)。中央予算お よび地方各級政府予算は,前年度の予算執行状況および当該年度の収支予 測を参考にして編成しなければならない(予算法25条)。各級政府,各部 門および各単位は,国務院の定める期限にしたがい,予算の草案を編成し なければならない(予算法24条)。
⑷ 予算の審査と承認
予算の審査と承認は,各級人民代表大会およびその常務委員会の重要な 職権の一つである。第一には,国務院の財政部門は,年度ごとに全国人民 代表大会の会議開催の ₁ ヶ月前までに中央予算草案の主要内容を全国人 民代表大会財政経済委員会に提出して初歩的審査を受けなければならない
(予算法37条 ₁ 号)。第二には,省級(省,自治区,直轄市)と地区級市
(区を設ける市,自治州)政府の財政部門は,当該級の人民代表大会会議 開催の ₁ ヶ月前までに,当該級予算草案の主要内容を当該級の人民代表 大会の関係する専門委員会に提出し,または当該級の人民代表大会常務委 員会主任会議の決定に基づき,当該級の人民代表大会常務委員会の関係す る業務委員会に提出して初歩的審査を受けなければならない(予算法37条
₂ 号)。第三には,県級(県,自治県,区を設けない市および市管轄区)
政府の財政部門は,当該級の人民代表大会会議開催の ₁ ヶ月前までに,
当該級予算草案の主要内容を当該級の人民代表大会常務委員会に提出して 初歩的審査を受けなければならない(予算法37条 ₃ 号)。
予算が人民代表大会で承認された後に,予算の実施過程で部分的に調整 しなければならない場合には,国務院と県級以上の各級地方政府は調整の 方案を同級の人民代表大会常務委員会に提出し,承認を求めなければなら ない。そして,予算科目間の資金調整を厳格に制御するために,予算が決 定した農業・教育・科学技術など予算科目の資金を調整の必要が生じたと きは,国務院と県級以上の各級地方政府は同級の人民代表大会常務委員会 に調整の方案を提出し,審査・承認を求めなければならない。この場合,
国務院と県級以上の各級地方政府の関係主管部門は,同級の人民代表大会 常務委員会が予算調整案を審査して承認する ₁ ヶ月前までに,予算の第
₁ 次的な調整方案を同級の人民代表大会財政経済委員会に第 ₁ 次的な審査 のために交付し,あるいは常務委員会の関係担当機構に意見を求めるため 交付しなければならない(各級人民代表大会常務委員会監督法17条)。
人民代表大会常務委員会は決算の草案と予算の執行報告に対して,予算 収支バランスの状況,重点的な支出と資金交付の状況,予算を超える収入 の使用の状況,部門の予算制度の樹立と執行の状況,下級政府の財政に転 移支付(転移支出)の状況,同級の人民代表大会に承認された予算の決議 の執行状況を,重点的に審査する権限を有する。また,全国人民代表大会 常務委員会は,重点的に国債の残高の状況を審査しなければならない。県 級以上の各級地方人民代表大会常務委員会は,重点的に上級政府からの財 政の補助資金の手配と使用の状況を審査しなければならない(各級人民代 表大会常務委員会監督法18条)。
⑸ 予算の監督
予算の実施過程においても,各級人民代表大会常務委員会の監督が必要 である。たとえば,1998年 ₃ 月,甘粛省永昌県人民代表大会常務委員会 は,県政府の予算案を審議し,予算額が莫大でありすぎること,予算科目 が不合理であることなどを認め,予算案を調整し,「永昌県1998年財政予 算の調整と批准に関する決定」を下したことがある。
全国人民代表大会常務委員会は,全国人民代表大会の閉会期間におい て,国民経済,社会発展計画および国家予算の執行過程において作成を要
する部分的調整案を審査・承認することができる(憲法67条 ₅ 号)。県級 以上の地方人民代表大会常務委員会は,同級政府の提案に基づき,該当行 政区域内の国民経済および社会発展計画・予算についての部分的変更を決 定するという職権を行使する(各級地方人民代表大会と各級地方政府組織 法39条 ₅ 号)。各級地方政府の総予算案および執行状況報告は,同級の人 民代表大会の審議を受け,各級地方政府予算および執行情況は同級の人民 代表大会の承認を得なければならない。また,各級地方人民代表大会常務 委員会は,予算,決算に関する不当な決議の変更,取消し,当該級政府の 予算,決算に関する不当な決定,命令を取消す権限を有している。地方人 民代表大会常務委員会の予決算に関する監督方法は予算法に定められてい る(予算法13条・15条)。具体的には,国務院は,毎年 ₆ 月に,前年度の 中央決算草案を全国人民代表大会常務委員会に提出し,承認を求める。県 級以上の各級地方政府は,毎年 ₆ 月~ ₉ 月に,前年度の同級の決算草案 を同級の人民代表大会常務委員会に提出し,承認を求める。決算草案は,
同級の人民代表大会が承認した予算科目によって編制しなければならず,
予算数,調整数,変更数および執行数をそれぞれ明確にし,説明を付けな ければならない(各級人民代表大会常務委員会監督法15条)。人民代表大 会常務委員会が毎年決算を審査して承認すると同時に,同級の政府が提出 した会計監督機関の前年度の予算執行とその他の財政収支の会計監査報告 を聴取し審議しなければならない(各級人民代表大会常務委員会監督法19 条)。
2.予算外資金管理に関する法体系の構築およびその主な内容
中国の予算には,「予算内資金」以外,「予算外資金」が存在している。
「予算内資金」とは,予算法に基づき,県級以上の各級地方政府により編 成され,各級人民代表大会により審査・承認された資金である。一方,
「予算外資金」とは,国家予算を経由せずに予算外で運用されている資金 である。たとえば,行政収費(費用徴収),水利施設収入,都市公共事業 収入,政府基金など。
予算外資金は国家予算の「外」で運営されているが,賄賂などの違法な 収入や資金ではなく,各国家機関が関連法令によって徴収した資金であ り,政府予算の不足に補助している資金である。この予算外資金に対し て,予算法は「各級政府,各部門および各単位は,予算外資金に対する管 理を強化しなければならない。予算外資金管理弁法は,国務院が別に定め る。各級人民代表大会は,予算外資金に対する監督を強化しなければなら ない」と要求している(予算法76条)。そのため,1983年に財政部は「予 算外資金管理試行弁法」,1993年に国務院は「予算外資金管理暫定弁法」,
1996年に国務院は「予算外資金管理の強化に関する決定」,1996年に財政 部は「予算外資金管理実施弁法」,1999年に全国人民代表大会常務委員会 は「中央予算審査・監督の強化に関する決定」,2010年に財政部は「予算 外資金として管理している収入を予算内に組み入れて管理することに関す る通知」,をそれぞれ公布し,予算外資金に対する管理や監督を強化した。
3.租税法体系の構築およびその主な内容
現行憲法56条は,「中華人民共和国公民は,法律にしたがって納税する 義務を負う。」と明文で定めている。税収徴収の管理を強化し,税収徴収 と納付行為を規範し,国家税収収入を保障し,納税義務者の権利・利益を 保護し,経済と社会発展を促進するため,1992年 ₉ 月 ₄ 日,第 ₇ 期全国人 民代表大会常務委員会第27回会議で「税収徴収管理法」が制定された。そ して,2001年 ₄ 月28日の第 ₉ 期全国人民代表大会常務委員会第21回会議,
2013年 ₆ 月29日の第12期全国人民代表大会常務委員会第 ₃ 回会議で修正さ れた。この法律を施行するために,国務院は,2002年 ₉ 月 ₇ 日に「税収徴 収管理法実施細則」を公布した。この租税制度の基本法令に基づいて,
「個人所得税法」,「企業所得税」,「車船税法」,「個人所得税法実施条例」,
「営業税暫定条例」などの法令が制定されている。
上述の法令により,下記のような租税制度が定められている。
⑴ 税務機関
分税制の下で,中国の租税も「中央税」と「地方税」に分けられてい
る。中央税と地方税との区分に対応して,税務機関は,国家税務局と地方 税務局に分けられている。国務院の税務主管部門は全国の税収徴収の業務 を主管する。各地の国家税務局と地方税務局は国務院規定に照らし税収徴 収管理範囲区分を進め徴収の管理をしなければならない(税収徴収管理法
₅ 条)。国務院の税務主管部門は財政部,国家税務総局である(税収徴収 管理法実施細則 ₄ 条)。税務機関,税務人員および税務機関が法律,行政 法規にしたがって委托した組織または人員以外,如何なる組織と個人が税 金徴収活動をすることはできない(税収徴収管理法実施細則29条)。
⑵ 税務管理
①税務登記。企業,企業の別の場所に設立の分支社機構と生産従事や経 営の場所,個人工商の生産従事や経営の事業単位は営業許可証を受取った 日を起し三十日以内,営業の許可証,関連の契約・規則・協議書,銀行口 座証明,身分証明書,パスポート或は他の合法証件,税務機関から要求さ れたほかの証件,資料をもち,税務機関に向け税務登記申報事務をする。
税務機関は申報を受取った日を起し三十日以内に審査しかつ税務登記証書 を発行しなければならない。税務機関は税務登記証書の定期検証,交換の 制度を実行する。工商行政管理機関はその登記登録事務,発給の営業許可 証の情況を,定期的に税務機関に向け通報しなければならない。納税者は 規定期限までに,関連証件をもって税務機関へ検証或は交換の手続きを行 うべきである(税収徴収管理法15条,税収徴収管理法実施細則 ₇ 条・14 条)。
②帳簿,証書管理。納税義務者,源泉徴収義務人は関連法律,行政法規 と国務院財政,税務主管部門の規定に照らし帳簿を設置,合法を根拠と し,有効な証書の記帳,計算を進める(税収徴収管理法19条)。税務機関 は領収書を主管する機関で,領収書の印刷製造に責任をもち,販売指導,
書類を作成,取得,保管,収納の管理と監督をする。単位,個人が仕入れ と販売商品,経営服務の提供,或いは受けるおよびその他経営活動従事 中,規定に照らして書類を作成,使用,領収書の取得をしなければならな い(税収徴収管理法21条)。
③納税申報。納税義務者は法律,行政法規の規定に照らし或いは税務機 関は法律,行政法規の規定に照らし確定する申報期限に,申報内容をあり のままに納税申報事務をし,納税申報表,財務会計報表を届け出する,お よび税務機関の実際需要を根拠として要求の納税義務者のその他の納税資 料を届け出する。源泉徴収義務人は必須法律,行政法規規定に照らし或い は税務機関は法律,行政法規の規定に照らし確定する申報期限に,申報内 容をありのままに代理徴収,代理収税代理納税報告表の届け出をするおよ び務機関の実際需要を根拠として要求の源泉徴収義務人のその他関連資料 を届け出をする(税収徴収管理法25条)。納税者,代理徴収人の納税申告 或は代理徴収報告表の主要内容は,税種,税目,納税項目,或は代理徴収 税金項目,適用税率或は単位税額,計税証票,控除項目および標準,納税 金或は代理徴収税金の所属期限などである(税収徴収管理法実施細則25 条)。
⑶ 税金徴収
税務機関は法律,行政法規の規定にしたがって税金を徴収する。法律,
行政法規の規定に違反して徴収,徴収せず,多く徴収,少なく徴収,早め に徴収,延期徴収或いは税金割り当てはいけない(税収徴収管理法28条)。
税務機関は査帳徴収,査定徴収,査験徴収,定期定額徴収および他の方法 で税金を徴収することができる(税収徴収管理法実施細則31条)。法律,
行政法規の規定によって,税務機関より徴収される各種税収,その徴収す べき税金,滞納金,罰金は税務機関によって国庫に上納する(税収徴収管 理法実施細則29条)。
⑷ 税務検査
税務機関は下記のような税務検査権をもっている(税収徴収管理法54 条)。
①帳簿などの検査。税務機関は,納税義務者の帳簿,記帳証書,財務諸 表および関連資料,源泉徴収義務人の代理徴収,代理納税の帳簿,記帳証 書および関連資料を検査することができる。
②実地検査。納税義務者の生産・経営場所と貨物保管場所で,納税義務
者の納めるべき商品・貨物或いはその他財産を検査する,または源泉徴収 義務人の代理徴収,代理収税・代理納税に関する経営状況を検査すること ができる。
③関連書類の検査。納税義務者,源泉徴収義務人の提供する納税或いは 代理徴収,代理収税代理納税関連的文件の,材料と関連資料の証明の責任 をもって達成させる。
④質問検査。納税義務者,源泉徴収義務人の納税或いは代理徴収,代理 収税代理納税に関する事情を尋ねる。
⑤運送検査。駅,埠頭,空港,郵便企業およびその分支機構において納 税義務者が税を納めなければならない商品,貨物或いはその他の財産の関 連する運送証券,証書と関連資料に託送,郵送する。
⑥銀行検査。県以上税務局長の批准を経て,全国統一格式の検査預金口 座許可証明を頼りにして,生産従事,経営的納税義務者,源泉徴収義務人 に銀行或いはその他金融機構の口座に預金しているか質問する。税務機関 は税収違法案件を調査する際,省級や地区級市の税務局長の批准を経て,
容疑者の案件の備蓄預金を質問できる。税務機関は質問のため獲得の資料 を税収以外の用途で使用してはならない。
4.政府間財政調整に関する法体系の構築およびその主な内容
分税制の下で,中央と地方の財政バランスを補正し,各地方の財政格差 を是正するために,税収返還,転移支付制度,専項転移支付制度などの政 府間財政調整制度が設けられている。
⑴ 税収返還制度
「税収返還」とは,分税制導入前の1993年の財政収入を基数として,分 税制による不利益変更がないようにしたうえで,分税制導入後に地方政府 から中央政府へ転移することになった収入の一部を,中央から地方に返還 する政策である。
⑵ 転移支付制度
「転移支付」とは地域間格差の是正を目指して,中央政府から地方政府
へ一定の資金を交付することである。「転移支付」には,一般転移支付,
民族地域転移支付,農村税費改革転移支付などがある。そのうち,「一般 転移支付」は,地域間の財政格差を是正するために,中央政府から貧しい 地域へ資金を交付することである。資金の用途について,地方政府により 自由に決定することになる。「民族地域転移支付」は少数民族地方の発展 を目指して,中央政府から少数民族所在の地域へ資金を交付することであ る。「農村税費改革転移支付」は,農業税,農業特産税,牧業税の廃止に より地方政府の財政収入減少を補償するために,中央政府から地方政府へ 資金を交付することである。
⑶ 専項転移支付制度
「専項転移支付」とは,特定の政策目標の達成のために,中央政府から 地方政府へ一定の資金を交付することである。その具体的な政策目標に は,社会保障,環境保護,食糧リスク基金,義務教育などがある。資金の 用途について,これらの具体的な政策目標の実現のために資金を使用する ことに限定している。
5.会計検査法体系の構築およびその主な内容
審計(以下は,「会計検査」という)とは,国家会計検査機関が会計記 録などの経済資料や法律に基づき,政府およびその各部門の財政・財務収 支活動,財政に関する法律や規律の遵守状況を検査・審議し,評価として 会計検査報告を提出するという専門の経済監督活動である。現行憲法は,
会計検査機関の設置(91条)および会計検査長の選定(62条 ₅ 号・67条 ₉ 号),罷免(63条 ₂ 号),任免(80条)などを定めている。会計検査の監督 を強化し,国の財政経済秩序を維持し,財政資金使用の効率を高め,清廉 な行政の建設を促進し,かつ,国民経済および社会の発展を保障するた め,1994年 ₈ 月31日,第 ₈ 期全国人民代表大会常務委員会第 ₉ 回会議で
「審計法」を制定した。この法律を施行するために,1997年10月21日,国 務院は「審計法実施条例」を公布した。さらに,会計検査署は,1999年 ₁ 月に「国有企業財務審計基準」,2000年 ₁ 月に「国家審計基本準則」,2000
年 ₈ 月に「審計機関審計計画案基準」・「審計機関審計証拠基準」,2001年
₈ 月に「審計機関特別項目審計調査基準」・「審計機関審計結果公開基準」
などの規章(日本の省令に相当する)を制定した。
上述の法令により,下記のような会計検査制度が定められている。
⑴ 会計検査組織システム
中国では,国務院および県級以上の政府の下に会計検査機関を設立する
(審計法 ₂ 条 ₁ 項)。具体的に言えば,中国における会計検査組織システム は下記の機関から構成されている。
①中央レベルの会計検査署。国務院は,会計検査署を設立する(審計法
₇ 条 ₁ 項)。会計検査署は,国務院総理の指導の下に,全国の会計検査業 務を主管し,会計検査法および国務院所定の職責を履行する(審計法実施 条例 ₇ 条 ₁ 項)。
②各地方レベルの会計検査機関。各級地方政府は,それぞれの会計検査 機関を設立する。各級地方政府の会計検査機関は,それぞれ省長,自治区 主席,市長,州長,県長および区長並びに ₁ 級上の会計検査機関の指導の 下に,当該行政区域内の会計検査業務につき責任を負う(審計法 ₈ 条)。
各級地方会計検査機関は,当該級の人民政府および ₁ 級上の会計検査機関 に対し責任を負い,かつ,業務を報告する。会計検査業務は,上級会計検 査機関の指導を主とする(審計法 ₉ 条)。
③会計検査機関の派出機構。会計検査機関は,業務の必要に基づき,当 該級の人民政府の承認を経て,その会計検査管轄範囲内において派出機構 を設立することができる。派出機構は,会計検査機関の授権に基づき,法 により会計検査の業務をする(審計法10条)。
⑵ 会計検査組織の構成
会計検査組織は,下記のような人的要素と財産的要素から構成されてい る。
①人的要素。会計検査員は,自己が従事する会計検査業務に相応する専 門知識および業務能力を具備しなければならない(審計法12条)。そのた め,会計検査専門業務技術資格制度を実行する。会計検査機関は,業務上
の必要に応じて,会計検査事項と関連する専門業務知識を有する人員を招 聘して会計検査業務に参加させることができる(審計法実施条例10条)。
全国レベルで,会計検査長は,会計検査署の行政首長である(審計法 ₇ 条
₂ 項)。地方レベルで,会計検査庁長,局長は,各地方会計検査機関の行 政首長である。上述の会計検査長,庁長,局長は,法定手続により任免さ れる。各級地方会計検査機関の責任者(副職責任者を含む)の任免につい ては,事前に ₁ 級上の会計検査機関の意見を求めなければならない(審計 法15条 ₄ 項,審計法実施条例11条)。
②財産的要素。会計検査機関が職責を履行するのに必要な経費について は,当該級の財政予算に単独項目として列挙し,当該級の人民政府が保証 しなければならない(審計法11条,審計法実施条例 ₉ 条 ₂ 項)。
⑶ 会計検査機関の権限
会計検査機関は,憲法,審計法,審計法実施条例などの授権により,下 記のような権限をもっている。
①資料提供の命令権。会計検査機関は被会計検査単位に対し会計検査機 関の規定にしたがい予算または財務収支計画,予算執行状況,決算および 財務会計報告,コンピュータを運用して保存し,および処理した財政収支 および財務収支の電子データ並びに必要なコンピュータの技術ドキュメン ト,金融機構における口座開設の状況,社会会計検査機構の発行に係る会 計検査報告その他の財政収支または財務収支と関係する資料を提供するよ う要求する権限を有し,被会計検査単位はこれについて拒絶し,遅延し,
または虚偽の報告をしてはならない。被会計検査単位の責任者は,当該単 位が提供する財務会計資料の真実性および完全性につき責任を負う(審計 法31条)。
②検査権。会計検査機関は会計検査をする場合には,被会計検査単位の 会計証憑,会計帳簿,財務会計報告,コンピュータを運用して財政収支お よび財務収支の電子データを管理するシステムその他の財政収支または財 務収支と関係する資料および資産を検査する権限を有し,被会計検査単位 はこれを拒絶してはならない(審計法32条)。
③調査権。会計検査機関は,会計検査をする場合には,会計検査事項の 関係問題につき関係する単位および個人に対し調査をし,かつ,関係証明 資料を取得する権限を有する。関係する単位および個人は,会計検査機関 の業務を支持し,およびこれに協力し,ありのままに会計検査機関に対し 状況を報告し,関係証明資料を提供しなければならない。会計検査機関 は,県級以上の人民政府の会計検査機関の責任者の承認を経て,被会計検 査単位の金融機構における口座を照会する権限を有する。会計検査機関 は,被会計検査単位が個人の名で公金を預金している旨を証明する証拠が ある場合には,県級以上の人民政府の会計検査機関の主たる責任者の承認 を経て,被会計検査単位の個人の名による金融機構における預金につき照 会する権限を有する(審計法33条)。
④強制権。会計検査機関が会計検査をする場合には,被会計検査単位 は,会計証憑,会計帳簿,財務会計報告その他の財政収支または財務収支 と関係する資料を移転し,隠匿し,改ざんし,または毀棄してはならず,
かつ,保有する,国の規定に違反して取得した資産を移転し,または隠匿 してはならない。会計検査機関は,被会計検査単位の前項の規定に違反す る行為について,制止する権限を有する。必要な場合には,県級以上の人 民政府の会計検査機関の責任者の承認を経て,関係資料および国の規定に 違反して取得した資産を封印・保存する権限を有する。そのうち,金融機 構における関係預金について凍結する必要がある場合には,人民法院に対 し申立てを提出しなければならない(審計法34条 ₁ 項・ ₂ 項)。会計検査 機関が法定の職権範囲内においてする会計検査決定について,被会計検査 単位は,執行しなければならない。会計検査機関が法により被会計検査単 位に上納すべき金員を上納するよう命じた場合において,被会計検査単位 が拒絶して執行しないときは,会計検査機関は関係主管部門に通報しなけ ればならず,関係主管部門は関連法律および行政法規の規定により控除し 収納し,またはその他の処理措置を行い,かつ,結果を書面により会計検 査機関に通知しなければならない(審計法47条)。
⑤処罰権。被会計検査単位がこの法律の規定に違反し,会計検査事項と
関係する資料の提供を拒絶し,若しくは遅延した場合,提供する資料が真 実でなく,若しくは不完全である場合,または検査を拒絶し,若しくは妨 害した場合には,会計検査機関が是正するよう命ずるものとし,通報をも って批判し,警告を与えることができる。拒絶して是正しない場合には,
法により責任を追及する(審計法43条)。国の規定に違反する被会計検査 単位の財務収支行為について,会計検査機関,人民政府または関係主管部 門は,法定の職権範囲内において,法律および行政法規の規定により,状 況に応じて前条所定の処理措置を講ずるものとし,かつ,法により処罰を 科すことができる(審計法46条)。
⑷ 会計検査の対象
会計検査機関は,下記の対象の財政・財務収支状況について,会計検査 監督をする。
①各級政府およびその部門の財政収支状況。会計検査機関は,当該級政 府の各部門および下級政府の予算の執行状況,決算その他の財政収支状況 について,会計検査監督をする(審計法16条)。具体的にいえば,会計検 査署は,国務院総理の指導の下に,中央の予算執行状況およびその他の財 政収支状況について会計検査監督をし,国務院総理に対し会計検査結果報 告を提出する。地方各級会計検査機関は,それぞれ省長,自治区主席,市 長,州長,県長および区長並びに ₁ 級上の会計検査機関の指導の下に,当 該級政府の予算執行状況およびその他の財政収支状況について会計検査監 督をし,当該級政府および ₁ 級上の会計検査機関に対し会計検査結果報告 を提出する(審計法17条)。
②金融機関の財務収支状況。会計検査署は,中央銀行の財務収支につい て,会計検査監督をする。会計検査機関は,国有金融機構の資産,負債お よび損益について,会計検査監督をする(審計法18条)。
③事業組織の財務収支状況。会計検査機関は,国の事業組織および財政 資金を使用するその他の事業組織の財務収支について,会計検査監督をす る(審計法19条)。
④国有企業の財務収支状況。会計検査機関は,国有企業の資産,負債お
よび損益について,会計検査監督をする(審計法20条)。国有資本が持分 を支配する地位または主導的地位を占める企業および金融機構の会計検査 監督については,国務院が定める(審計法21条)。
⑤政府投資・管理資金の財務収支状況。会計検査機関は,政府が投資 し,および政府による投資を主とする建設プロジェクトの予算執行状況お よび決算について,会計検査監督をする(審計法22条)。会計検査機関は,
政府部門が管理し,およびその他の単位が政府の委託を受けて管理する社 会保障基金,寄贈資金その他の関係基金および資金の財務収支について,
会計検査監督をする(審計法23条)。会計検査機関は,国際組織および外 国政府の援助および貸付金プロジェクトの財務収支について,会計検査監 督をする(審計法24条)。
⑥各組織の責任者の経済活動。会計検査機関は,国の関係規定にしたが い,国家機関および法により会計検査機関の会計検査監督対象に属するそ の他の単位の主たる責任者が任職期間において当該地区,当該部門または 当該単位の財政収支,財務収支および関係経済活動につき負うべき経済的 責任の履行状況について,会計検査監督をする(審計法25条)。
⑸ 会計検査の内容
会計検査機関は,国務院の各部門,各級地方政府およびその各部門の財 政収支,国家の財政金融機構および企業・事業組織の財務収支の真実性,
法律適合性,効率性について,会計検査による監督を行う(憲法91条,審 計法 ₂ 条 ₂ 項・ ₃ 項,審計法実施条例 ₂ 条)。そのうち,会計検査監督を 受ける財政収支とは,予算法およびその他の関連規定により,予算管理に 組み入れる収入および支出並びに予算外資金の収入および支出をいう(審 計法実施条例 ₃ 条 ₁ 項)。会計検査監督を受ける財務収支とは,国有の金 融機構,企業・事業単位および国の規定により会計検査監督を受けるべき その他の関係単位が国の関係する財務会計制度の規定にしたがい,会計事 務を取り扱い,会計計算をし,および会計監督を実行する各種資金の収入 および支出をいう(審計法実施条例 ₃ 条 ₂ 項)。
⑹ 会計検査の手続
会計検査機関は,下記の手続にしたがって,会計検査を行う。
①会計検査項目の計画。会計検査機関は,法律,法規および国のその他 の関係規定に基づき,当該級の人民政府および上級の会計検査機関の要求 にしたがい,年度会計検査業務の重点を確定し,年度会計検査項目計画を 編成しなければならない(審計法実施条例36条)。
②会計検査の準備。会計検査機関は,会計検査項目の計画により確定さ れた会計検査事項に基づき会計検査グループを組織するものとし,かつ,
会計検査実施の ₃ 日前までに,被会計検査単位に対し会計検査通知書を送 達しなければならない。特段の事由に遭遇した場合には,当該級の人民政 府の承認を経て,会計検査機関は,直接に会計検査通知書を持参して会計 検査を実施することができる。被会計検査単位は,会計検査機関の業務に 協力し,かつ,必要な業務条件を提供しなければならない。会計検査機関 は,会計検査業務の効率を高めなければならない(審計法38条)。
③会計検査の実施。会計検査員は,会計証憑・会計帳簿・財務会計報告 の審査,会計検査事項と関係する文書および資料の査閲,現金・現物・有 価証券の検査および関係組織や個人に対する調査などの方式を通じて会計 検査を行い,証明資料を取得する。会計検査員は,関係組織および個人に 対し調査を行う際に,会計検査員の業務証書および会計検査通知書副本を 呈示しなければならない(審計法39条)。
④会計検査グループの会計検査報告の提出。会計検査グループは,会計 検査事項について会計検査を実施した後に,会計検査機関に対し会計検査 グループの会計検査報告を提出しなければならない。会計検査グループの 会計検査報告を会計検査機関に報告し送付する前に,被会計検査対象の意 見を求めなければならない。被会計検査対象は,会計検査グループの会計 検査報告を受領した日から10日内に,その意見書を会計検査グループに送 付しなければならない。会計検査グループは,被会計検査対象の意見書を 一括して会計検査機関に報告し,送付しなければならない(審計法40条)。
⑤会計検査機関の会計検査報告および会計検査決定の提出と送達。会計
検査機関は,会計検査署の定めた手続にしたがい,会計検査グループの会 計検査報告について審議をし,かつ,被会計検査対象が会計検査グループ の会計検査報告につき提出する意見について一括して検討した後に,会計 検査機関の会計検査報告を提出する。会計検査報告の内容は,会計検査を 受けた機関の基本状況,会計検査で明らかになる問題,会計検査の結論,
問題に対する処理の意見や決議などを含む。また,国の法令に違反する財 政収支または財務収支の行為について,法令の規定により処理する。処罰 を科すべき場合には,法定の職権範囲内において会計検査決定をし,また は関係主管機関に対し処理および処罰に係る意見を提出する。会計検査機 関は,会計検査機関の会計検査報告および会計検査決定を被会計検査単位 並びに関係する主管機関および単位に送達しなければならない。会計検査 決定は,送達の日から効力を生ずる(審計法41条)。
⑺ 会計検査に対する監督
会計検査は,行政機関の長(総理・省長・市長・県長)の指導の下で,
法律にしたがい,独立して会計検査監督権を行使し,他の行政機関,社会 団体および個人による干渉を受けない。しかし,会計検査は行政機関の内 部監督であるので,外部からの監督が必要であろう。まず,上級の会計検 査機関は,下級の会計検査機関がした会計検査決定が国の関係規定に違反 すると認める場合には,下級の会計検査機関に変更または取消しをさせる ことができ,必要な場合には,直接に変更または取消しの決定をすること もできる(審計法42条)。そして,会計検査機関が提出した会計検査報告 の内容について,人民代表大会常務委員会は,聴取し審議しなければなら ない(各級人民代表大会常務委員会監督法19条)。
III 現代中国における財政法体系構築の今後の課題
分税制の下で,中国の予算制度,予算外資金制度,租税制度,政府間財 政調整制度,会計検査制度をめぐって,「予算法」,「税収徴収管理法」,
「審計(会計検査)法」などの法令の定立により,現代中国の財政法体系