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― ― ― ― ― 障害者の就労継続からみた労働組合の機能

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(1)

はじめに―本稿の課題と研究方法

Ⅰ 就労困難者としての「障害ボーダーライン層」

 

1

.障害を開示しない労働者

 

2

.障害認定や診断を受けていない労働者  

3

.「障害ボーダーライン層」

Ⅱ 障害者の就労の実態―就労継続支援

B

型施設

X

園を事例として

 

1

.就労者の属性と生活状況  

2

.就労者の作業内容と工賃

 

3

.障害を持つ就労者を支える職員の役割

Ⅲ 職場環境の基盤を支える労働組合の機能―就労 継続支援

B

型施設

X

園を事例として

 

1

.労働組合結成以前の

X

園の状況

 

2

.労働組合結成による職場環境と就労者の変化 おわりに―結論と今後の課題

はじめに―本稿の課題と研究方法

 本稿の課題は,障害者が継続した就労を行って

いくための職場環境を構築するために,労働組合 がどのように機能しうるか,ということを明らか にすることである.

 障害者の就労の機会を保障しようとする動きは,

大きく

2

つの流れの中で展開してきた.山村

(2019)によれば,

1

つには戦後政策の一環として 負傷した身体障害者を支援する政府主導のもので ある1)

2

つには,障害者の家族が中心となった 動きで,身体障害者に対して就労支援が発展する 中で,それ以外の知的障害者や精神障害者に対し て何らかの日中の活動の場を提供することが主要 な目的だった.この後者の流れで展開してきた「施 設などにおける作業活動」であって「制度上は障 害者が施設を利用している状態」を日本の障害者 の就労の議論では福祉的就労と呼んでいる2).こ

障害者の就労継続からみた労働組合の機能

小 高 由 起 子

 障害者の就労は多様化してきている.本稿の課題は,働く「障害者」はだれか,ということを,障 害者への就労支援の現場からみえてくる実態から考察しつつ,障害者が継続した就労を行っていくた めの職場環境を構築するために,労働組合がどのように機能しうるか,就労継続支援

B

型事業

X

園の 事例を検討することによって,考察することである.本稿で明らかになったのは以下の点である.

 第一に,就労支援の現場からみえてくる障害を持つ人の中には,就労支援の結果として診断を受け る人,手帳の交付を受けていない,あるいは障害の開示を望まないなど,グレーゾーンの人が多様に 存在する.第二に,X園の事例では職員間で労働組合が結成されたことにより,ハラスメントの排除 などの職場環境の改善,利用者の変化がみられた.労働組合は,職員にとっても,障害者にとっても,

職場環境の整備のために重要な役割を果たしうることである.

* おだか ゆきこ  経済学研究科経済学専攻博 士課程後期課程

(2)

れに対比して使われるのが一般就労であり,雇用 契約に基づく就労のことで,労働関係法規が適用 される(山村 2019,江本 2017).江本(2017)に よれば,「両者は,

2006年成立した障害者自立支援

法(2013年以降,『障害者総合支援法』)によって 連続性を『意識』されるようになり,とくに福祉 から労働への移行が考慮されている」3)

 このような「福祉から就労へ(welfare to work)」

という動きは,障害分野だけでなく福祉分野全体 に対して要請された.欧米諸国を中心として広ま り,日本でも就労による経済的自立を促すことに より福祉財政の削減を迫るものとして展開された.

日本では2002年にホームレス自立支援法が成立,

2005年には生活保護受給者自立支援プログラムが

策定され,同年障害者自立支援法が成立している.

兵頭(2015)によれば,これは,「自立支援」とい う名の下に,「全ての人を,労働条件や安定性を度 外視しつつ労働市場に送り込む『全員就労』を目 指すものであった」4).このように,障害者の就労 をめぐっても,経済的自立を中心とした自立の実 現が強く意識されるようになった.江本(2017)

は,「2000年代に入り,OECD諸国の多くは,労 働市場参加に困難な課題を抱える人びとに対する 政策を,所得補償から労働市場参加を促進する政 策へと転換している」5)と論じている.

 他方で,政策対象としての「障害者」はだれか,

ということについての議論も同時に行われてきた.

法的位置づけから整理すると,1970年に成立した

「心身障害者対策基本法」(1993年に「障害者基本 法」となる)は,「障害者」を「身体障害,精神薄 弱又は精神障害(以下『障害』と総称する.)があ るため,長期にわたり日常生活又は社会生活に相 当な制限を受ける者」と定義し,身体障害・知的 障害・精神障害を持つ人とした.2004年にはこれ に発達障害が加えられ,障害の定義が拡大されて きた.内閣府による令和元年版「障害者白書」に よれば,現在の障害者数の概数は全体で約964万人 となっており,身体障害者約436万人,知的障害者

約109万人,精神障害者約419万人となっている6) 日本の全人口比でみると,複数の障害を併せ持つ 者もいるため,単純な合計にはならないものの,

国民のおよそ7.6%が何らかの障害を有しているこ とになる7)

 このように,「障害者」といわれる人たちが多様 に捉えられるようになり,その結果として数とし ても増加してきた中で,障害者が働くための雇用 の量的拡大および質的改善が図られてきた.一般 就労としての量的拡大として,厚生労働省「平成

30年度障害者雇用実態調査」は,従業員規模 5

以上の事業所に雇用されている障害者数は82万

1,000人であると報告しており,全障害者数のうち 8

%が通常の事業所で雇用されていることにな る.また,福祉的就労としては「平成30年社会福 祉施設等調査」が,障害者総合支援法に基づく就 労系障害福祉サービス8)の利用者数(実数)は約

41万9,000人であると推計している

9).こうしてみ

ると,雇用契約の有無にかかわらず何らかの就労 を行っている障害者は約125万人おり,全障害者の うち12%に上る.このような状況の中で,江本

(2017)によれば,国際的には労働市場参加促進 を図る背景に経済財政要因と人権運動の成果があ る一方で,他方日本では,経済財政要因優先で,

雇用の量的拡大が図られてきた.江本は,そのた め,「弊害として,質の問題,すなわち,就職後 の労働環境,内容等は置き去りにしてきた」10)とし ている.

 障害者の就労の質の向上に関しては,雇用契約 があることを前提とした障害者雇用制度の中で具 体化がすすんできた.2006年国連で採択された障 害者権利条約に日本は2007年に署名した.これを 受け,2013年に行われた障害者雇用促進法の改正 で,障害者差別禁止指針および合理的配慮11)の指 針を定めた点で,従来にない視点,すなわち質的 保障をめざすものである12).この障害者雇用の質 的保障としての合理的配慮の規定は,障害者差別 の禁止規定であり,不十分ではあるものの,その

(3)

効用は大きいと評価されている13).このように,

障害者の就労の質の向上に関する議論は,障害者 に対する差別禁止としての障害者雇用上の職場に おける合理的配慮の問題として議論されてきてい る.

 この障害者の就労の質を保障するため,職場環 境の整備にあたっては事業主の役割を重視してい る.2018年に策定された障害者雇用対策基本方針 では,「事業主が行うべき雇用管理に関して指針と なるべき事項」として,「事業主は,法の規定に基 づき,障害者に対する差別の禁止及び合理的配慮 の提供を実施するとともに,……,以下の点に配 慮しつつ適正な雇用管理を行うことにより,障害 者が男女ともにその能力や適性が十分発揮でき,

障害のない人とともに生きがいを持って働けるよ うな職場作りを進めるとともに,その職業生活が 質的に向上されるよう努めるものとする」と位置 付けている.

 一方で,2001年に国際労働機関(ILO)が提示 した「職場において障害をマネジメントするため の実践綱領」は,障害マネジメントにあたっては,

雇用主だけでなく労働組合などの労働者代表に対 しても「一般的責務」があるとし,その責任を強 調している14).工藤は(2008)は,この綱領では,

事業主だけでなく,「企業が行う採用・入社後の

『適正な雇用管理』の実施を通常の人的資源管理の 体系とリンクさせながら,労働組合等を含め労使 関係の中で実施することを強調している」15)と述べ ている.しかしながら,職場における障害者の就 労問題について労働組合がどのように機能しうる か,ということについてはこれまで議論されてい

ない.

 本稿は,政策対象としての働く「障害者」はだ れか,ということを,障害者への就労支援の現場 からみえてくる実態から考察しつつ,障害者が継 続した就労を行っていくための職場環境の整備に あたって労働組合がどのような機能を果たしうる か,ということを明らかにするものである.

 本稿の研究対象は東京都内にある就労継続支援 事業

B

型施設の事例である.職員と障害を持つ利 用者がともに働く職場であり,職員間で労働組合 が結成されたことにより職場環境の改善,利用者 の変化がみられた.なお,就労継続支援

B

型事業 は障害者にとって雇用契約の必要のない作業所と 位置付けられているため,障害者は労働者ではな く利用者とされている.一方で,後にも述べるよ うに,「障害者」はだれか,ということは非常に曖 昧であることから,雇用契約の有無にかかわらず

「就労」と表現し,それに従事する人を「就労者」

とする.

 対象に迫るため,労働組合結成に至るまでの経 過や結成後の状況,そのことによる職場環境や就 労者の変化を丁寧に描写し分析する必要があるこ とから,ヒアリング調査に基づく事例研究という 方法を採った.表

1

は,本稿における分析に使用 したヒアリング調査の一覧である.調査はすべて 筆者のみで行ったものである.調査にご協力いた だいた対象の団体・個人については,対象への配 慮により匿名にしている.

Ⅰ 就労困難者としての「障害ボーダーライン層」

 現代においては「障害者」といわれる人は多様

課題対象 調査先 対象の属性 調査日

Ⅱ・Ⅲ

・障害者の就労の実態

職場における労働 組合の機能

就労継続支援

B

型施設 X

職員

A

氏(正規・飼育員・労働組合執行部)

2016年 8

月29日 職員

A

氏(正規・飼育員・労働組合執行部)

2016年 9

月28日 職員

B

氏,

C

氏(パート・支援員・労働組合員)

2016年10月21日

職員

A

氏(正規・飼育員・労働組合執行部)

2016年11月 2

表 1 ヒアリング調査一覧

(4)

になっている.特に精神障害や発達障害を持つ人 など内部機能に困難を持つ人が「障害者」かどう かは一見してわからないことも多く,その判断は 非常に難しい.山村ら(2019)は,「精神障害,発 達障害といった障害は,その判断基準も身体障害 に比べて曖昧で,障害やその表出の程度によって,

障害のない人となんら変わりなく生活できてしま う場合もある」と述べている16).こうしたことは,

障害者に対する就労支援の現場からも明らかにな っている.

1

.障害を開示しない労働者

 まず,障害者が障害者として雇用・就労の場を 保障され,働くためには,医学的診断を受け,障 害者手帳の交付を受けていることが前提となる.

つまり,心身に困難を持っていたとしても,医学 的診断がなければ制度利用可能な政策対象として の「障害者」にはならない.また,医学的診断を 受けていたとしても,社会や周囲に対して障害を 持っていることを明かすか明かさないかは本人の 自由である.とりわけ雇用に関していえば,採用 選考時に事業主は,日本国憲法に基づく職業選択 の自由(第22条),法の下の平等(第14条)の観点 から,基本的人権の尊重に基づく公正な採用選考 を行わなければならないとされている.厚生労働 省が提示している事業主啓発用パンフレット「公 正な採用選考をめざして」17)では,採用時に事前 に応募者の健康状態を知り,既往歴について尋ね た企業を問題事例として紹介し,就職差別につな がるおそれがあるとしている18)

 すなわち,障害者が障害者として雇用・就労の 場を保障されるためには,① 医学的診断を受ける こと,② 手帳の交付を受けること,③ 本人が障 害を持つことを明かすこと,の

3

つをすべてクリ アすることによって可能となる.

3

つのうち「本 人が障害を持つことを明かすこと」については,

山村(2019)は,「障害者が就労する場合には障害 を開示したほうがよい(働きやすい)と考えられ

ている」と述べている.なぜなら,「障害に対する 支援や協力を得ながら働くことが可能になるし,

障害を隠しているというストレスにさらされずに 済むから」19)である.

 これに対し,職場における多様性の課題に早々 から取り組んできた米国では,見えない障害を持 つ労働者(

“Workers with invisible disability”

20) の問題として議論がすすめられている.Schrader ら(2014)の調査は,障害を自認する労働者のう

8

割が障害を持つことを開示せずに就労してい た経験を持つことが報告している21).それは,企 業から解雇されるのではないか,現在の仕事のパ フォーマンスよりも障害に目を向けられるのでは ないか,福利厚生を受けられなくなるのではない か,職業能力向上のための教育を受ける機会が制 限されるのではないか,などの理由によるもので あった22)

 以上のように,職場で障害を持つことを明かす ことは,支援や協力を得ながら働くことが可能に なる点では働きやすさに繫がると考えられるが,

開示することによって職場で何らかの不利が生ま れる可能性も否定できないと考えられる.

 また,以上の議論は当事者が診断やカウンセリ ングを受け,障害を持つことを自認している労働 者に関わる議論である.では,次に,社会生活や 就労上の困難が,自治体等での支援によって,結 果として障害の自認や認定に結びつく例について 触れていく.

2

.障害認定や診断を受けていない労働者  これらの,社会生活や就労上の困難が結果とし て障害の自認や認定に結びついている実態につい て,自治体が行う就労困難者に対する地域就労支 援事業の相談者の実態からみていきたい.

 大阪府による地域就労支援事業は,同府による 同和対策事業がもととなっている.奥田(2008)

によれば,大阪府は,同和行政に取り組む中で「失 業保険(雇用保険)や労働協約など不安定な就労

(5)

に追いやられてきた多くの同和地区の人びとにと って,職業安定所は無縁な存在であり,離職票す ら手にすることのないこうした人びとは,『労働行 政認定の失業者』になることさえ拒まれ」ている ことを認識した .この認識が深まったことによ り,「『失業者にもなれない失業者』が同和地区以 外にもたくさん放置されていることを発見させた」

ということである23).そのため,大阪府は事業の 対象者を「就職困難者等」とし,「中途退学者や卒 業後も未就職にある若年者」および「障がい者,

ひとり親家庭の保護者,中高年齢者などの中で,

働く意欲がありながら,就職に結びつかない」人 であると定義し ,支援の入口を広げることによっ て,「失業者にもなれない失業者」をすくい上げる ことのできる仕組みをつくった.

 この地域就労支援事業での相談者の実態につい て,2007年12月から2008年

6

月にかけて行われた 地域就労支援調査研究会(代表:福原宏幸)によ る調査は,以下のことを明らかにしている24).す なわち,

1

つには,利用者には単身世帯,母子世 帯の母親,ひとり親と18歳以上のその子どもから なる世帯の子どもが多いということである.次に,

就職相談の現状について,① 健康や病気・障害の 問題,経済的問題,家族生活の問題についての相 談事項が多いこと,② これまでにハローワークを 中心とした就労支援を受けたことのある経験を持 つ人が多いということ,③ 相談は

1

件で複数回行

われるということ,であった.また,相談者の就 労経験については,就労経験を持つ人は多いもの の,直前職が不安定さを特徴とする職種や雇用形 態の仕事であったことなどが報告された  さらに,全体の有効回答者240人のうち,軽度の うつ病も精神疾患に含めると,何らかの障害・疾 患を持つ人の割合は70人となっており,全体の29.2

%を占めた.表

2

は,相談者のうち障害を持つ人 の障害の種類および手帳の有無を整理したもので ある.表

2

をみると,何らかの障害・疾患を持つ 人のうち,障害者手帳を所持している人の割合は

70人中32人であり,45.7%と半数程度であること

が明らかにされた.したがって,地域就労支援事 業を利用する人で,障害を持つ人のうち,手帳を 所持している「障害者」は半分程度しかいないの であって,残りの半分は何らかの事情によって手 帳を所持していないということが明らかになった,

ということである.さらに,表

2

からは,手帳を 所持していない人のうち,精神障害を持つ人が,

障害を持つ人のうちおよそ

3

割を占めていること もみてとれる.

 また,垣田(2016)は,「各地の福祉事務所など の支援現場で聞き取り調査をすると,知的障害や 発達障害があるのに認定を受けていない,精神疾 患があるのに診断を受けていないなどのケースが 多い」ことを報告している25)

 つまり,いずれの調査報告からもわかることは,

障害の種類および手帳の有無 相談者数(人) 割合(%)

身体障害(手帳所持)

16 22.9

知的障害(手帳所持)

8 11.4 45.7

精神障害(手帳所持)

8 11.4

身体障害(手帳なし)

13 18.6

知的障害(手帳なし)

2 2.9 54.3

精神障害(手帳なし)

23 32.9

合  計

70 100.0 100.0

(出所)福原(2009),65頁をもとに筆者作成.

表 2 相談者のうち障害を持つ人の障害の種類および手帳の有無

(6)

障害があるのに診断や認定を受けていない,ある いは手帳の申請をせずに受けられる給付や支援を 受けていないという人が多いという実態である.

これは,医学的認定をされずとも,環境や人間関 係に起因する,見えにくい生きづらさを抱える人 が一定数存在するのだということなのではないだ ろうか.あるいは,このような人たちは,就労の 場で働きづらさを感じたり,社会的に孤立してい たり,それゆえ貧困状態に陥ったりして,どうし ようもなくなった末に福祉事務所などの自治体の 窓口に行って,そこで初めて「障害者」としての 認識に至ったのではないだろうか.対象を属性化 しない就労支援は,このような,就労困難者とし ての障害を持つ人の存在を顕在化したといえる.

3

.「障害ボーダーライン層」

 このような,一見障害を持っているようには見 えない,障害を持っているかどうか客観的な判断 が難しい層を,本稿では研究上の仮説的概念とし て「障害ボーダーライン層」とする.これらの人 は「障害」の定義的には,いずれも軽度の,精神 障害や発達障害,あるいは知的障害といった障害 を持つ可能性のある人である.

 この「障害」の定義,つまり「障害」とは何か,

ということは,個人や社会のあり方によって大きく 異なる.これまで障害の概念は,機能的・心理的 な制限や損失によるものとする個人モデル,社会の 障壁や排除によるものとする社会モデル,相対する 両モデルを統合したものとする統合モデルの

3

の障害モデルに分けられ議論されてきた .2001年 に世界保健機構(WHO)によって採択された国際 生活機能分類(ICF: International Classification of

Functioning Disability and Health)は,相互作用

的な統合モデルによる概念であり,個人モデルお よび社会モデルの両極端を批判した .手賀・澤田

(2014)は,「これまでの障害概念をみたとき,長 い個人モデルの時代から,社会モデルの登場によ って,とりあえず

ICF

の統合モデルまで到達した」

が,日本における「障害」の定義は,いずれも依 然として個人モデルによるものであると分析して いる26).つまり,日本においての認識はなお薄い ものの,国際社会における「障害」の定義をめぐ る議論は,その生きづらさの原因は個人の事情に 起因するもののみならず,社会のあり方もまた影 響するものとして検討されなければならない,と いう段階であると考えることができる.

 以上にみた「障害」の定義をめぐる議論を踏ま えると,本稿における障害ボーダーライン層の概 念は図

1

のように整理することができる.まず,

個人モデルのみによって「障害者」となりうる人 びとが存在する.既に述べたとおり,日本の法制 度における「障害」の定義は個人モデルに依拠す るため,日本において「障害」を持っているかど うかの認定基準は図

1

の実線ラインとなる.さら に,「障害」があると医師からの診断を受けている 人びとの中には,手帳を申請・所持している人と そうでない人がいる.このうち,前者が,現行制 度の対象となる「障害者」であり,後者が,先に 述べた福原ら(2009)および垣田(2016)の調査 報告で明らかにされたところの,手帳を所持しな い障害者である障害ボーダー層(①)である.な お,手帳を所持する「障害者」が半円となってい るのは,障害が軽度になるにつれ手帳を所持して いないことが多いと考えられるためである.

 ただし,これは,「障害」を個人モデルのみによ って捉えた場合である.個人モデルに社会モデル を加えた統合モデルによって「障害」が定義され るとすると,社会のあり方という個人の事情以外 の可変的な要素が加わるため,点線ラインもまた 上下に移動しうる.つまり,点線ラインが上にあ ればあるほど,「障害」の概念は広がり,点線ライ ンが実線ラインに近づけば近づくほど,「障害」は 個人モデルのみによって捉えられる.このような,

個人モデルのみでは「障害」があるとは認識され ないけれども,統合モデルによって「障害」が定 義される場合には「障害者」となりうる層が,も

(7)

1

つの障害ボーダーライン層と考えられる.こ れらの人びとは,図

1

の②にあたる人びとである と考えられる.障害ボーダーライン層②にいる人 びとは,実質的にはその生きづらさは「障害」の 概念に帰属しうるのであって,その境界線の周辺 に位置する人びとである.

 以上のように,障害を持つ人が働く場合に,当

事者が社会生活を送る上で何らかの困難を抱え,

① 医学的診断を受けること,② 手帳の交付を受 けること,③ 本人が障害を持つことを明かすこ と,をすべてクリアした人のみが「障害者」とし ての雇用・就労に就くことができる.しかしなが ら,就労支援の結果として診断を受ける人,手帳 の交付を受けていない,あるいは障害の開示を望 まないなど,グレーゾーンの人が多様に存在する ことが示唆される.

 こうした「障害」の実態をみると,障害を持つ 人が働きやすい職場環境の整備は,障害者雇用の 制度のみならず,すべての職場で課題とすべきこ とである.障害者職業総合センターによる「障害 者雇用の質的改善に関する調査」(2018)では,「障 害者が安全に能力を発揮できるようなハード面,

ソフト面の職場環境の整備を図ることは,障害者 以外の従業員にとっても働きやすい職場を作るこ とにつながっていく」ということが指摘されてい 27)

 では,障害を持つ人にとっても働きやすく就労

継続可能な職場環境の整備には,どのような主体 がどのように機能しているのか.次節では,就労 継続支援

B

型施設へのヒアリング調査をもとに考 察していく.

Ⅱ 障害者の就労の実態―就労継続支援 B 型施 設 X 園を事例として

 本節では,障害者にとっても働きやすい職場づ くりの実践として,就労継続支援

B

型施設

X

園を 例とし考察を行う.

 X園は東京都郊外にある小さな動物園である.X 園は市から事業の委託を受けており,知的障害者,

精神および発達障害者を中心とした障害者が働い ている.障害を持つ子どもたちに働く場所を,と いう思いを持った親たちの働きかけにより,C は知的障害者福祉法に基づく授産施設として,

1988年12月に開園した.X

園は規模としては大き

くないものの,休日などには

1

日に2000人以上の 来園者が訪れる.

 では,X園ではどのような障害を持つ人がどの ような仕事を行っているのか.

1

.就労者の属性と生活状況

 X園では,身体,精神および知的障害者20人が 働いている.その内訳を男女別でみると男性14人 で女性

6

人となっており,男性の就労者のほうが 多い(2016年11月当時).次に,年代別に就労者数 図 1 障害ボーダーライン層の概念

統合モデル

個人モデル 障害ボーダー

ライン層

手帳を所持する「障害者」

可変域

(出所)筆者作成.

(8)

(表

3

)をみると,20代

6

人,30代

1

人,40代

7

人,50代

5

人,60代

1

人となっており,20代から

60代まで幅広い年齢層の人が就労している.

 さらに,就労年数別にみると(表

4

),就労し始 めてから

1

年未満の就労者がいない.半数以上の 就労者が10年より長く就労しており,勤続年数20 年を超す就労者は

4

人である.割合でみると,60

%以上の就労者が11年以上にわたって

X

園で就労 していることになる.

 就労者の生活状況については,親と暮らしてい る人やグループホーム28)で暮らしている人が多く,

障害年金あるいは生活保護などの社会保障制度を 利用しながら

X

園での就労による収入を足しにし て生活している人が多い29).つまり,X園での就 労による収入のみで生計を立てることを前提とし

ていない.

2

.就労者の作業内容と工賃

 では,X園では障害を持つ就労者はどのような 仕事を担い,どの水準の工賃30)を得ているのか.

5

では,就労者の仕事内容と

1

時間当たりの工 賃の連関を整理している.就労者の仕事内容は,

えさの袋作り,ドアの開け閉め,チケットもぎり,

モルモットのえさ売り,リスのえさ売り,草刈り,

モルモットの回収,かご洗い,排泄物処理などが ある.えさの袋作りなどのものづくり業務から,

草刈りや掃除等の雑用業務,接客業務にあたるえ さ売りまで多岐にわたっている.これらの仕事を 障害特性や個人の希望によって振り分けている.

例えば,足に障害を持つ人は立った状態での作業

表 3 X園における年代別就労者数(人)

20代 30代 40代 50代 60代

4 1 4 4 1 14

2 0 3 1 0 6

6 1 7 5 1 20

(出所)ヒアリングより筆者作成.

表 4 X園における就労年数別就労者数(人)

1

年未満

1

5

6

~10年

11~15年 16~20年 21年以上

0 5 2 5 3 4 20

0.0% 25.0% 10.0% 25.0% 15.0% 20.0% 100.0%

(出所)ヒアリングより筆者作成.

表 5 就労者の作業内容と工賃

仕事内容

1

時間あたりの工賃 対応する就労者数

えさの袋作り

450円

全就労者

ドアの開け閉め,チケットもぎり

500円

全就労者

モルモットのえさ売り

600円 9

リスのえさ売り

5

草刈り,モルモットの回収

800円

全就労者

かご洗い

900円 5

排泄物処理

950円 6

(出所)ヒアリングより筆者作成.

(9)

が難しいため,ドアの開け閉めは難しく,計算が 苦手な人はえさ売りの仕事は避ける,といった具 合である.

 この仕事内容に対して,X園では,独自に工賃 の額を設定し,段階性を設けている.この中で比 較的工賃が高く設定されているかご洗い(工賃900 円)と排泄物処理(工賃950円)の仕事を遂行可能 な就労者の障害種別は軽度の精神障害を持つとい う人が多い31).すなわち,X園で就労者に割り当 てられる仕事のうち比較的高い能力が必要である とされ,それと連関して工賃も高く設定されてい る仕事を遂行することができるのは,軽度の精神 障害を持つ人が多いといえる.

3

.障害を持つ就労者を支える職員の役割  これらの就労者の働きを支える職員の役割につ いてもみていきたい.

 X園のスタッフは,園長,副園長,会計

1

人と,

7

人の正規職員および

8

人の非常勤職員の,計18 人で構成されている(2016年11月当時).正規職員

5

人が飼育員で,このうち正規職員

2

人と,非常 勤職員全員,つまり計10人が就労者の支援にあた る支援員となっている.ただし,飼育員と支援員 を兼任する正規職員が

1

人いる.

 支援員のシフト状況をみると,

1

日にだいたい

5

6

人の支援員が配置されているため,

1

人の 支援員は勤務中およそ

4

人の就労者と一緒に作業 したり,見守ったりしている.とはいえ,支援員 の職務は就労者の支援だけではない.就労者を見 守りながら一緒になってやる「ドアの開け閉め」

「チケットもぎり」「モルモットのえさ売り」だけ でなく,売店での飲食物・お土産等の販売やチケ ットの販売など,就労者の支援とは別の職務も同 時に行う.

 そのため,支援員が就労者を支援し,就労者が 安心して働ける環境をつくるために,① 障害特性 や持病の把握,② 生活状況の把握,③ 福祉事務 所との連携の

3

点において役割を果たしているこ

とが以下の語りからうかがえる.

 ①  障害特性の把握:パート職員・C氏ヒアリ ングから(2016年10月21日)

 「少し前までは,障害特性については何も知らさ れていなかったんです.知的か精神かとかは,関 わっていると何となくわかるんですけど.でも,

病気のことは特に,利用者さんたちがいつどうい う状況になるかわからない.そんなときに,突然 情緒不安定になったりする子がいたり,突然てん かんになったりする子がいたりして,非常勤の私 たちはそういうこと何も知らされていなかったか ら,とっても困ったんです.そういうことが重な った時期があって,こちら側(非常勤職員)から,

障害や病気に関わることは教えてほしいと職員さ んたちに言って,今はもう把握しています.」

 ②  生活状況の把握:パート職員・B氏ヒアリ ングから(2016年10月21日)

 「利用者さんの生活のこともだいたい知っていま す.これは職員さんたちから聞いたわけではなく て,本人たちが話してくるんです.でも,そうい うのを知っておくのは大事だと思います.何に悩 んでいるかわかるから.あと,やっぱり,利用者 さんたちってあんまり友達っていうのがいないん ですよね.ここに来て私たちと話すっていうのが,

唯一の友達感覚の会話だと思うんです.親がいな い子も多いですからね.」

 B氏の語りからは,就労者が支援員に対して,

友人や家族のような役割も求めているのだろうと いうこともうかがえる.2012年におけるきょうさ れんの「障害のある人の地域生活実態調査」は,

障害のある人の

9

割以上は,親などの身内だけか,

一人で休日を過ごしているという実態を報告して いる.同調査は,こういった障害のある人の社会 的孤立の背景には,低収入であるということと,

家族依存的生活を強いられている状況があること

(10)

を指摘している.

 ③  福祉事務所との連携:正規職員・A氏ヒア リングから(2016年

9

月28日)

 「本来はこれは私たちの仕事じゃないとも思うん ですけどね.利用者さんたちの生活状況も職員同 士で共有しています.それで,親御さんとやグル ープホームで問題があるようなときには,こちら でできることはやっています.例えば,ある子の 親が,その子のうちでの収入を勝手に使い切って しまうというようなことがあって.それが毎月続 いているような状況がわかったので,その子の親 と市のケースワーカーに話を持ちかけて,面談す る場を設けました.それで,それからはケースワ ーカーの方にその子の家の状況を見てもらってい ます.本当は市が発見すべきことなんでしょうけ ど,やっぱり一番近くにいる人たちにしか見えな い問題ってあると思うので,状況を見て対応して います.」

 また,上記の語りから示唆される他の特徴的な ことは,支援員自らが「(障害特性などを)教えて ほしい」,「本来は私たちの仕事じゃないとも思う」

とも表現されているように,支援員が「自発的に」

これらの役割を見出していることである.

 さらに,X園における支援者の専門性について も触れておく.X園には社会福祉士の資格を持つ 正規職員が

2

人いる.

2

人とも,元から社会福祉 士の資格を持っていたわけではなく,就労者をど う支援していくべきか,どのように職員と就労者 が協力しながら働いていくべきなのかという視点 に立ち,資格取得に至った.しかも,そのうちの ひとりは飼育員であり,支援員でないのにもかか わらず資格を取得した.このように,障害を持つ 就労者がどのような個性あるいは障害特性を持っ ているのか,どのような点で働くのが困難なのか,

ということを理解し配慮しようとしていることが わかる.

 以上のように,X園の就労者の就労実態から,X 園の職場について以下

3

点の特徴を挙げたことが できる.第一に,就労者の就労年数が長いこと,

第二に,仕事内容に応じた工賃の段階性が設けら れていること,第三に,障害を持つ就労者が安心 して働くことができる環境を構築するために,職 場における周囲の職員がその大きな役割の

1

つを 担っていることである.こうした特徴の背景は,

労働組合が重要な機能を果たしている.次章では その労働組合の機能についてみていく.

Ⅲ 職場環境の基盤を支える労働組合の機能

―就労継続支援 B 型施設 X 園を事例として

 以下では,障害を持つ就労者の基本的人権が尊 重され,安心して長く働くことを保障するために,

職場環境をどう整備することが可能なのか,労働 組合の機能を

1

つの視点として考察していく.

1

.労働組合結成以前の

X

園の状況

 まず,職場に労働組合が存在しなかった当時の

X

園の状況と労働組合結成までの経緯を整理して おく.当時の

X

園では,園長によるパワハラが横 行していた.具体的には,以下のようなことが実 際に起こっていた.すなわち,就労者に対して園 長は,「気持ち悪い」「汚い」等の発言をしたり,

「言うことを聞かなかったら部屋に閉じ込める」と 言って

2

畳ほどの狭い部屋に閉じ込めたり,障害 者に対する差別的発言や行動を繰り返していた.

 また,園長のパワハラは正規で働く職員や,非 常勤職員に対しても行われた.園長は,2013年

4

月までに,「働き続けたい」という本人たちの意向 を無視して

4

人の非常勤職員を退職させた.「常勤 を増やすために」と説得された非常勤職員もいれ ば,「この際ご両親の親孝行のために潔くお休みし てほしい」と,正当な理由なく退職に追い込まれ た非常勤職員もいた.辞めさせられた非常勤職員 のうちのひとりは,後日職員に対して次のような 手紙を送っている.

(11)

 「……表向きは利用者さん達の人数に比べ非常 勤の人数が多く常勤が少ないと市から言われて いるので退職してほしいとの事でした.退職し たくはなかったので断わり続けましたが

7

年間 の勤務の間パワーハラスメントを受けておりこ の時も何回か個室に呼ばれ一方的に責められ精 神的に追い込まれ退職する事になりました.」

(2016年

9

月28日のヒアリング時資料より)

 このように,職員間における園長への不満は募 り,2014年

4

月に

X

園においてその当時はパート 職員であった

A

氏を中心に労働組合が結成され 32).A氏の働きかけにより,結成当時いた16人 の職員のうち,

A

氏を含め

9

人が組合に加入した.

X

園における労働組合の組織率は56.2%となった.

組合ではこれまで積極的な取り組みをしてきた

A

氏が委員長に選任された.

2

.労働組合結成による職場環境と就労者の変化  労働組合の結成は,X園の職場環境に

3

つの変 化をもたらした.

 第一に,園長の辞任によるハラスメントや差別 の解消である.労働組合が結成されたことにより,

法人側と職員間に対等な関係が生まれ,労働組合 を通して職員の声を直接法人側に届けることが可 能になった.その結果,ハラスメントの実態が伝 えられ,園長の辞任に至った.

 第二には,職員全員による職員会議が月に

1

開かれるようになったことである.これまで支援 担当や飼育担当など担当ごとの会議は月に

1

回開 かれていたものの,職員全員一堂に会するという 会議は年に

2

回しか開かれていなかった.これに より就労者の生活状況や悩み,仕事における目標 が職員全体で共有されるようになった.

 第三に,組合企画による学習会が開かれるよう になったことである.組合内から「もっと利用者さ んたちの支援について学びたい」という声があっ たため,学習会ではきょうされん関係者を講師とし

て呼び,障害や福祉について学ぶ機会を設けた.

 このような職場環境の変化は,就労者の働き方 にも変化を及ぼした.なかでも特徴的なのは,仕 事の割り当て方である.職員全員による職員会議 での情報・問題意識の共有から,就労者がやりが いを感じられる働き方を実現することを重視して いく方針へと転換された.具体的には,年に

2

の園長,支援員,当事者による

3

者面談(年に

1

回当事者の親も参加)を行うなどして,当事者の 目標を設定するということに重点が置かれるよう になった.これにより,何年も同じ仕事しかでき なかった就労者が,支援者の働きかけと協力によ り別の仕事もできるようになった.「できること」

が増えることにより,会話量が増えたり,会話の 内容が豊富になったり,就労者の生活上において も良い変化が起こっていることを支援員の

B

氏と

C

氏は次のように語っていた33)

「おうむ返しのように同じことしか言えなかった 子が,会話のキャッチボールができるようにな ったんです.その子の親もびっくりしていまし た.何十年も同じようだった子が,こんなに変 わるとは思わなかったって.」

 この事実は,就労者自身が職場の一員として目 標を持ち,やりがいを持って働くことや,その就 労者の目標を園内全体で共有し,周囲の職員が支 えていくことの重要性を物語っている.このよう なやりがいを感じられる働き方を支えている仕組 みの

1

つが,C園における工賃のあり方なのだろ う.目標の達成が同時に評価へと繫がるという構 造から,C園における工賃の段階性は,就労者自 身が自ら目標を持ち,能力を発揮し,さらには高 めていくために重要な意味を持っていると考えら れるのである.

 以上のように,就労者を含む労働者へのハラス メント,差別や排除が,労働組合の結成により牽 制され,職場環境が改善されるという状況が生ま

(12)

れたことが明らかになった.また,こうした職場 環境が改善されたことによって,就労者それぞれ が目標を持ちながら仕事に取り組み,やりがいの ある職業生活を送っていくことができるような職 場のあり方へと変化したと考えられる.

おわりに

―結論と今後の課題

 以上みてきたように,本稿では,障害者が継続

した就労を行っていくための職場環境を構築する ために,労働組合がどのように機能しうるか,に ついて考察を行い,以下のことが明らかになった.

 第一に,労働組合は,職員にとっても,障害者 にとっても,職場環境の整備のために重要な役割 を果たしうるということである.X園では職員間 で労働組合が結成されたことにより,ハラスメン トの排除などの職場環境の改善,利用者の変化が みられた.

 第二に,障害を持つ人の中にも,就労支援の結 果として診断を受ける人,手帳の交付を受けてい ない,あるいは障害の開示を望まないなど,グレ ーゾーンの人が多様に存在することである.

 これらのことをふまえて,本稿で十分に検討で きなかった点を以下に整理しておきたい.第一に,

障害認定にあたっては,医師による診断が重要な

役割を果たす.人の命に関わり,患者,企業,医 師間における緊張関係が発生しうる状況において は,医学的知見に基づく障害認定の実態に迫るこ とも必要であると考えられる.第二に,本稿で指 摘したように,このような見えない障害を持つ労 働者の問題は,国際的にも議論がすすめられてい ることから,障害者の就労問題をめぐっては,諸 外国でどのような議論がすすめられているかにつ いてさらに考察をすすめる必要がある.第三に,

このように多様化する障害者の就労が,どのよう な業種や職種で広がりをみせているのかを把握し た上で,職場にダイバーシティとインクルージョ ンを根付かせていくためには,その背景にある職 場にどのような問題が内在しているのか,につい て検討する必要がある.つまり,日本的雇用に特 徴的な職務分担や人材育成のあり方が,働き手の 多様化にどの程度対応して,どの程度対応しきれ ていないか,について,今後さらに考察をすすめ る必要がある.

1)

山村りつ編[2019]25頁.

2)

山村りつ編[2019]116頁.

3)

江本[2017]95頁.

表 6 X園における労働組合結成をめぐる出来事の経過と園内の状況の変化 労働組合結成までと結成後の出来事 園内の状況

2013年 3

月 非常勤職員が園長のパワハラにより

3

人退職する.

園長の職員,利用者に対するパワハラ,

いじめ,差別

・園長に対して誰も何も言えない状況

・年

2

回のみの全体職員会議

・利用者にはやれることのみやらせる

4

月 非常勤職員が園長のパワハラにより

1

人退職する.

5

月 非常勤職員の

1

人がユニオンに加盟.

6

正規職員,非常勤職員で月に

1

回の食事会を開くように なる.

2014年 3

月 正規職員が園長によるパワハラおよび退職勧奨を受ける.

4

月 労働組合の結成,団体交渉の申し入れ ・月

1

回の全体職員会議

・利用者へのいじめや差別のない職場へ

・就業規則書の改訂会議への職員の参加

利用者自身が目標を持ちやりがいのある 働き方へ

5

月 団体交渉の実施および園長の辞任

6

月 就業規則書の改訂

9

月 障害や福祉に関する学習会の開催

(出所)ヒアリングより筆者作成.

(13)

4)

兵頭[2010]223頁.

5)

江本[2017]92頁.

6)

内閣府「障害者白書」令和

2

年度版.

7)

内閣府「障害者白書」令和

2

年度版.

8)

就労移行支援事業,就労継続支援

A

型事業,就労 継続支援

B

型事業,就労定着支援事業の

4

つの事業 をさす.

9)

厚生労働省「平成30年度社会福祉施設等調査」.利 用実人員の内訳としては,就労移行支援サービス

35,442人,就労継続支援 A

型サービス85,428人,就 労継続支援

B

型サービス297,259人,就労定着支援サ ービス1,270人となっている.

10)

江本[2017]92頁.

11)

山村りつ編[2019]は,障害者権利条約における

「合理的配慮(reasonable accomodation)」の定義を

「障害者が他の者との平等を基礎として全ての人権及 び基本的自由を享有し,または行使することを確保 するための必要かつ適当な変更及び調整であって,

特定の場合において必要とされるものであり,かつ,

均衡を失した又は過度の負担を課さないもの」と訳 している.

12)

松井[2013]

1

頁,長谷川[2014]17 頁,江本

[2017]96頁参照.

13)

山村りつ編[2019]115頁参照.

14) ILO

[2001]参照.

15)

工藤[2008]14頁.

16)

山村りつ編[2019]29頁.

17)

厚生労働省[2020]参照.

18)

厚生労働省「公正な採用選考をめざして」によれ ば,採用選考時の健康診断は,「応募者の適正と能力 を判断する上で必要のない事項を把握する可能性が あり,結果として,就職差別につながるおそれ」が あるとしている.ただし,業種や職種によっては適 性判断のため健康状態を確認する必要性があるもの もあるとして,その事例として,運転・配送業務に おける失神等の発作,食品関連業務におけるアトピ ー性皮膚炎などのアレルギー症状などを紹介してい る.

19)

山村りつ編[2019]123頁.

20) Santuzzi, Waltz, Finkelstein & Rupp

2014

] は,

invisible disabilities

に該当する疾病として,感覚障 害(sensory disabilities),HIV

AIDS

などの自己 免疫障害(autoimmune disorders),リウマチなどの 慢性疾患(chronic illness or pain),ADHD,睡眠障

害(sleep disorders),PTSDなどの精神障害などを 挙げている.p. 204.

21) Schrader, Malzer, Bruyère

[2014]

p. 244.

22) Schrader, Malzer, Bruyère

[2014]

pp. 246-247.

23)

奥田[2008]

3

頁.

24)

福原[2009]65頁.

25)

垣田[2016]83 頁.

26)

手賀・澤田[2014]34頁.

27)

障害者職業総合センター[2018]89頁.

28)

グループホームは,地域で共同生活を営むのに支 障のない障害者につき,主として夜間において,共 同生活を営むべき住居において相談その他の日常生 活上の支援が受けられる施設である.

29)

ヒアリング(2016年10月21日)より.

30)

就労継続支援

B

型事業は雇用契約のない事業のた め,事業者は利用者に対して「工賃」を支払うもの とされている.障害者総合支援法の規定は,「就労継 続支援

B

型の事業を行う者(以下『就労継続支援

B

型事業者』という.)は,利用者に,生産活動に係る 事業の収入から生産活動に係る事業に必要な経費を 控除した額に相当する金額を工賃として支払わなけ ればならない」(第87条)としている.他方で,同法 同規定では,就労継続支援

A

型事業は雇用契約に基 づく事業の提供も可能であり,雇用契約がある場合 にはそこでの労働の対償を「賃金」と表現している

(第80条

2

項).

31)

ヒアリング(2016年

9

月29日)より.

32) 2013年 4

月までの

4

人の非常勤職員退職をきっか

けとして,問題解決への糸口を見つけようと,パワ ハラが横行していた当時は非常勤職員であった

C

が個人加盟ユニオンに加盟し,他の非常勤職員およ び正規職員へと組合結成を働きかけていった.月に

1

回開かれるようになった「食事会」では,職場で の愚痴や問題などを共有していった.

33)

ヒアリング(2016年10月21日)より.

参 考 文 献

江本純子[2017]「システムとしての『職場』における 障害者雇用の効用―障害者雇用を通じたディーセント ワークの実現―」『社会政策』第

8

巻第

3

号,92-105 頁.

奥田均[2008]「「地域就労支援事業と自治体財政の改 善」『人権問題研究所紀要』第22号,

1-15頁.

垣田裕介[2016]「新たな生活困窮者自立支援制度の登

参照

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