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博士学位論文要約 中央大学大学院商学研究科商学専攻

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博士学位論文要約

中央大学大学院商学研究科商学専攻 博士課程後期課程

丸岡恵梨子

1 本論文の課題と問題意識

本論文の課題は,収益費用観と資産負債観という利益観から,利益概念の検討を行うこ とにある。この課題を通じて,現行制度会計における利益概念の意義を明らかにすること を目的とする。

収益費用観は純利益に,資産負債観は包括利益に結びつくとされる。現行制度会計では,

資産負債観の台頭により,ボトムラインの利益が包括利益となった。しかし,純利益の計 算が行われなくなったわけではない。純利益は包括利益算定の過程で求められるようにな った。すなわち,利益として,包括利益も重要であるが,純利益も重要であるということ である。このことが意味することは,資産負債観に立脚しつつも,業績測定利益計算を捨 てきれずに,収益費用観のすぐれた点だけを残し,収益と費用により利益計算を行ってい るのが現行制度会計の特徴であるということである(北村[2012] 17頁)1)

「利益の算定は会計の中心である」(A.C.Littleton [1953] p.20)2)。そのため,どのよう な利益が算定されるべきかということが重要な問題となる。それにもかかわらず,現行制 度会計では,純粋に収益費用観または資産負債観に立脚して利益計算が行われていないの が現状である。

利益観とは,「一方の立場に立って会計における利益計算構造を示す」(北村[2012] 17頁)

ものである。そのため,純利益と包括利益は異なる利益観を前提としていることから,そ の利益計算構造も異なる。よって,利益観の異なる包括利益と純利益とを,同一線上で取 り上げることはできず,ましてや,包括利益と純利益との差額をその他の包括利益(以下,

1) 北村敬子[2012]「資産負債観と財産法」『体系現代会計学 2企業会計の計算構 造』責任編集 北村敬子・新田忠誓・柴健次 中央経済社 11-24頁。以下,北村[2012]と あるのはこれによる。

2) A.C.Littleton.[1953] Structure of Accounting Theory. American Accountion

Association Monograph No.5.(大塚俊郎訳[1975]『会計理論の構造』東洋経済新報社。)

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OCIとする)として計上することは不可能であると指摘される(北村[2012] 20頁)。

ボトムラインの利益が資産負債観に立脚する包括利益であるということは,財務諸表の 構成要素も資産負債観の観点から定義づけられることになる。すなわち,現行制度会計に おいて,包括利益算定の過程で求められる純利益とは,資産負債観に立脚する包括利益と いう枠組みの中における純利益であり,収益費用観におけるところの純利益とはその性格 を異にするものである。

そこで,本論文は,現行制度会計におけるこのような現状を鑑みて,利益観の観点から,

利益とはどのようなものかを考えようとするものである。

2 本論文の目次

序章 本論文の課題と構成 1 本論文の課題と問題意識 2 本論文の構成

1章 アメリカにおける利益概念の歴史的変遷

―1930年代から1970年代を中心に―

1 はじめに

2 アメリカにおける利益概念の変遷 2-1 アメリカにおける制度会計

2-2 SHM会計原則とAAA会計原則試案等の検討 2-3 AICPAにおける会計基準

3 当期業績主義から包括主義への移行 4 小括

2章 収益費用観と資産負債観 1 はじめに

2 FASB[1976]討議資料公表の背景 3 収益費用観と資産負債観

3-1 収益費用観と資産負債観の特徴

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3 3-2 収益費用観と資産負債観の相違

4 パブリックレコードにおける2つの利益観

4-1 収益費用観を支持する理由 4-2 資産負債観を支持する理由 5 小括

3章 アメリカにおける資産負債観の台頭とその展開 1 はじめに

2 FASB[1976]討議資料公表後の動向

3 SFAS130号「包括利益の報告」

4 資産負債観の台頭とその展開 5 小括

4章 日本における利益概念 1 はじめに

2 日本における制度会計

3 日本における会計基準等の検討

3-1 「討議資料 財務会計の概念フレームワーク」

3-2 企業会計基準第25号「包括利益の表示に関する会計基準」

3-3 IASBとのコンバージェンス 4 小括

5 IASBにおける利益概念 1 はじめに

2 IASCにおける利益

2-1 国際会計基準設定主体の成り立ち

2-2 IASCにおける概念フレームワークおよびIAS1号の検討 3 業績報告をめぐる問題

4 IASBにおける利益 5 小括

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4 6章 資産および負債の認識・測定

1 はじめに 2 繰延資産

2-1 日本における繰延資産の取扱い 2-2 繰延資産計上の根拠

3 会計上の引当金

3-1 日本における引当金の取扱い

3-2 国際財務報告基準における引当金 3-3 会計上の引当金項目計上の根拠 4 小括

7章 その他の包括利益とリサイクリング 1 はじめに

2 日本におけるその他の包括利益とリサイクリング 2-1 日本におけるその他の包括利益項目

2-2 リサイクリングの設例

3 国際財務報告基準におけるその他の包括利益とリサイクリング 3-1 国際財務報告基準におけるその他の包括利益項目

3-2 リサイクリングの設例 4 リサイクリングをめぐる動向

4-1 IASBにおける公開草案「財務報告に関する概念フレームワーク」の検討 4-2 日本における修正国際基準(JMIS)の検討

5 小括

8章 純利益と包括利益 1 はじめに

2 収益費用観と資産負債観における利益概念 2-1 収益費用観に立脚する純利益概念 2-2 資産負債観に立脚する包括利益概念 3 純利益概念の変容

(5)

5 4 新しい純利益概念

5 小括

終章 本論文の総括

1 アメリカ,日本,IASBにおける利益概念

2 純利益の変容をもたらす要因

2-1 繰延資産と債務性を有しない引当金 2-2 その他の包括利益とリサイクリング 3 新しい純利益概念

参考文献リスト

3 本論文の概要

利益概念の検討にあたっては,アメリカ,日本,国際会計基準審議会(International Accounting Standards Board, 以下,IASBとする)を対象とする。収益費用観と資産負 債観は,1976 年にアメリカの財務会計基準審議会(Financial Accounting Standards

Board,以下,FASBとする)が公表した「討議資料 財務会計および財務報告のための概

念フレームワークに関する論点の分析:財務諸表の構成諸要素とその測定」(FASB Discussion Memorandum, An Analysis of Issues Related to Conceptual Framework for Financial Accounting and Reporting: Elements of Financial Statements and Their

Measurement,以下FASB[1976]討議資料とする)において提唱された利益観である。よ

って,アメリカについては,多くの章を設けている。

現行制度会計は,資産負債観の台頭により,ボトムラインの利益は包括利益となったが,

包括利益算定の過程で,純利益の算定も行っている。こここにおける純利益とは,収益費 用観でいうところの純利益とはその性格を異にする。なぜなら,資産負債観という枠のは まった純利益だからである。純利益の変容をもたらしている要因として,収益費用観と資 産負債観とでは,繰延資産および債務性を有しない引当金の計上の可否に違いがあること,

また,包括利益算定の過程で純利益を求める際に,すべてのOCI項目を純利益にリサイク リングするかどうかという問題がある。よって,これらの個別論点についても検討を行う

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6 必要がある。

本論文は,アメリカ,日本,IASB における利益概念の検討,純利益の変容をもたらす 要因となる論点の検討を行ったうえで,利益観の観点から,理念的な利益概念を示すもの である。各章の概要は,以下の通りである。

利益観にもとづいて利益概念の検討を行うにあたり,収益費用観と資産負債観とはどの ような利益観であるのかをまず明らかにする必要がある。収益費用観とは,FASB[1976]討 議資料公表以前におけるアメリカの会計慣行を示したものである。第1章では,従来の会 計慣行がどのようなものであったのかを検討することを目的としている。検討にあたって は,1930年代から1970年代までのアメリカにおける利益概念の歴史的変遷を追った。

利益観として収益費用観に加えて資産負債観が提唱されたということは,当時の会計慣 行であった収益費用観に問題があったからである。第 2 章では,FASB[1976]討議資料公 表の背景を検討し,両利益観の特徴および相違を明らかにすることを目的としている。ま た,FASB は討議資料公表後,討議資料に対する意見を広く一般に求めた。そこにおける 意見をまとめたものがパブリックレコードである。パブリックレコードでは,資産負債観 を支持する者もいたが,収益費用観を支持する意見が圧倒的であった。パブリックレコー ドの検討により,どのような理由で収益費用観を支持し,どのような理由で資産負債観を 支持していたのかを明らかにした。

3章は,討議資料公表後の動向を検討することを目的としている。パブリックレコー ドでは,収益費用観に対する支持が圧倒的であった。そのため,FASB[1976]討議資料公表 後に作成された財務会計諸概念ステートメントでは,資産負債観に立脚する包括利益の定 義づけを行う一方で,収益費用観に立脚する純利益に類似した稼得利益の定義づけも行っ た。1997年には,財務会計基準書第130号「包括利益の報告」により,財務諸表において 包括利益の報告を行うことが要請されたが,引き続き純利益の報告も求められた。しかし,

ここで注目すべき点は,財務諸表の構成要素が資産負債観の観点から定義づけがなされ,

ボトムラインの利益が収益費用観に立脚する純利益ではなく資産負債観に立脚する包括利 益になったことである。このことは,資産負債観の台頭を意味する。そこで,現行制度会 計において,なぜ資産負債観が台頭したのか,そして,従来の純利益は資産負債観の台頭 の中で,どのような位置づけになったのかを明らかにした。

4 章は,日本における利益概念を検討することを目的としている。日本においても,

IASBとのコンバージェンスの過程で,2010年に企業会計基準第25号「包括利益の表示

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に関する会計基準」が公表された。この基準により,連結財務諸表において包括利益の表 示が行われるようになった。しかし,包括利益の表示の導入は,純利益の重要性を低める ものではなかった。なぜなら,連結財務諸表において包括利益導入が行われたものの,個 別財務諸表では包括利益導入が見送られたからである。第4章では,日本における制度会 計の変遷を追うことにより,包括利益の表示に至るまでの経緯を明らかにし,利益概念の 検討を行った。

5章は,IASBにおける利益概念を明らかにすることを目的としている。1973年に国 際会計基準委員会(International Accounting Standards Committee, 以下,IASCとす る)が設立された。その後,IASC は,2001 年に IASB へと改組し,国際財務報告基準

(International Financial Reporting Standards)の作成を行っていくことになる。IASB では,包括利益導入後も純利益の測定・表示を主張するアメリカおよび日本とのコンバー ジェンスを経て,包括利益算定の過程で純利益の計算も行うことになっている。しかし,

過去においてIASBは,ボトムラインの利益を包括利益に一本化しようとしていた。第5 章では,IASC設立当初から現行のIASBにおける概念フレームワークおよびIAS1 と過去において行われた業績報告プロジェクトをもとに,IASB の根底にある考え方を検 討した。

6章は,純利益の変容をもたらす要因である繰延資産および債務性を有しない引当金 の貸借対照表への計上の可否について検討を行うことを目的としている。収益費用観と資 産負債観では,繰延資産と債務性を有しない引当金の計上の可否が異なる。そこで,具体 的に収益費用観に拠った場合は,どのような理由で繰延資産と債務性を有しない引当金が 計上され,資産負債観に拠った場合は,どのような理由で繰延資産と債務性を有しない引 当金の計上が否定されるのかを,両利益観の立場から明らかにした。

7章は,日本とIASBにおけるOCI項目の分析を行い,近年のリサイクリングをめぐ る議論を検討することを目的としている。アメリカおよび日本では,すべてのOCI項目が リサイクリングされるのに対し,IASBでは,すべてのOCI項目がリサイクリングされる わけではない。リサイクリングをめぐる問題は,利益の見方と密接に関わる。OCI項目の リサイクリング処理は,包括利益算定の過程で純利益の算定も行おうとしているがために 必要となる処理である。第7章では,日本とIASBにおける利益概念をもとに,OCI項目 のリサイクリングについて検討した。

8章は,第1章から第7章までの議論を踏まえて,現行制度会計における利益概念の

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意義を明らかにすることを目的としている。そこでまず,収益費用観および資産負債観に 立脚する利益概念を改めて確認した。現行制度会計において,純利益は包括利益算定の過 程で求められるようになった。そのため,純利益は,資産負債観に立脚する包括利益とい う枠組みの中における純利益となった。そこで,資産負債観の立場から,このような利益 計算体系における包括利益,純利益,OCIの定義づけを行い,理念的な利益概念の提唱を 行った。

参照

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