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等位接続詞 ou を伴う口語フランス語の

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Academic year: 2021

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(1)

  山  本  大  地

  

0. はじめに

 本稿で取り上げる je (ne) sais pas quoi(以下 JSPQ と表記)という語連鎖 は主述を備えた統語構造を有し、不定詞を従えて « Je (ne) sais pas quoi  dire. »「何と言えばよいかわからない」のような発話文を構成することができ る。また、« Je (ne) sais pas quoi. » のみで独立した発話文を成すこともでき る。この場合 « Je (ne) sais pas ce que cʼest. »「それが何かわからない」と言 い換え可能な、先行文脈で言及された指示対象の同定が不可能であることを述 べる発話となる。さらに近年の話し言葉においては、談話標識のように他の発 話文に挿入される形で使用されたり、他の発話における名詞句の位置を占めた りなど、その現れ方は多様である。筆者は、山本(2018)で口語フランス語に おける JSPQ の使用を調査し、おもに統語環境に基づき、その出現パターンを 次の 5 つに分類した。

① 独立した発話を構成する場合

② 等位接続詞 ou を伴って別の発話に付加される場合

③ 等位接続詞なしで直接別の発話に付加される場合

④ 発話の内部に挿入される場合

 福岡大学人文学部准教授

等位接続詞 ou を伴う口語フランス語の

je sais pas quoi について

(2)

⑤ 発話の項構造に組み込まれる場合

このうち、最も出現頻度が高いのは②の JSPQ が等位接続詞 ou を伴う場合で、

後述するフランス語の話し言葉コーパスにおける JSPQ の全生起数 117 例中(不 定詞が後続する場合を除く)、51 例を占める。どの用法も子細に検討する価値 があるが、本稿では考察対象をこの ou JSPQ タイプに限定し、実例の観察と 記述を行うことでその意味的な働きの一端を明らかにしてみたい。また、ou を伴わずに他の発話に直接付加される③も、意味的には②と同じ働きをしてい ると考えられる場合が多く、考察の対象に含めることにする。さらに、上記に 分類しなかった等位接続詞 et やそれに準ずる et puis、puis に導かれる場合も 少数ながら存在するため、関連する現象として言及することにする。

 なお、山本(2018)に引き続き、本稿でもフランス語話し言葉コーパス En- quêtes Sociolinguistiques à Orléans (以下 ESLO と表記)を用いて収集した例 に基づき考察を行う。

1. 方法論 1.1. 先行研究

 筆者の知る限り、JSPQ を取り上げた論考は存在しない。動詞 savoir を基礎 にし、かつ主述を備えたマーカーは他にも je (ne) sais pas、tu sais 

/ vous 

savez があり、それらについての論考は存在する。ケベックフランス語の日常 会話における je sais pas を論じた Dostie (2016)は、その談話機能を「何を 言うべきか、どのように思考内容を言葉にするかを検討中であることを示す」

と特徴づけている。本稿筆者の考えでは、Dostie が提案するこの je sais pas の働きは前節で提示した JSPQ の用法④に合致し、ou JSPQ はかなり性格を異 にするように思われる。

 tu sais 

/ vous savez については Andersen (2007)が取り上げている。An-

dersen によると、tu sais / vous savez は、語彙的に理解するならば(「あな

(3)

たは知っている」)、言及された事柄が対話者の知るところにあることを表すよ うにみえるが、実際にはむしろ逆であって、命題内容を共有の知識として受け 入れることを対話者に強いることがその役割であるという。JSPQ に関しても、

語彙的意味と実際の働きの齟齬を指摘できる。JSPQ は語彙的には「それが何 かわからない」を表すが、JSPQ の後にはそのわからないはずの事柄に関する 言及が続くことが多く、また ou JSPQ も述定を満たす要素を X と述べた直後 に現れる。このことは ou JSPQ が語彙的な意味にとどまらない働きを担って いることを示唆している。なお Andersen は統語的に命題形式を備えた談話標 識を総じて「命題型談話標識」(marqueur discursif propositionnel)と呼び、

je pense, je crois, je trouve のような一人称単数主語を伴う類と tu sais / vous  savez, tu vois 

/ vous voyez のような二人称主語を伴う類に大別している。一

人称主語を伴うという点では、ou JSPQ は前者に分類されることになる。た だし je pense, je crois, je trouve が肯定形であるのに対し、JSPQ は否定形で ある。対応する肯定形 je sais quoi が不定詞を伴わない限り不可能であること は、他の命題型談話標識との関連において興味深い。

1. 2. 援用する概念

 ou JSPQ は、「ヘッジ」(hedge)、より厳密には「留保マーカー」と呼ばれ る言語表現の働きと関連付けることができるように思われる。そこで、あらか じめこの概念を定義しておきたい。ヘッジに関する先駆的な研究である Lakoff  

(1973: 471)が “words whose meaning implicitly involves fuzziness  words  whose job is to make things fuzzier or less fuzzy” と定義しているように、

ヘッジはもともと発話内容を曖昧にする語、および厳密にする語の両方を含む 概念である。例えば a sort of や loosely speaking は曖昧にする語に、par ex- cellence や strictly speaking は厳密にする語に分類されるだろう。ところが

「ヘッジ」という用語は、発話内容を曖昧にする働きをもつ語のみを指すこと

(4)

もある。この傾向はポライトネスの文脈で語られる場合にとりわけ顕著であ り、「緩和表現」や「ぼかし表現」と同義の用語として使用されることが多い。

しかしながら本稿では、ヘッジはあくまで曖昧化と厳密化の働きをもつ語、両 方を指す用語としておく。そして曖昧にする働きをもつ語のみを指す用語とし て、渡邊(2010)による「留保マーカー」という用語を採用し、その定義に従 うことにする。渡邊は留保マーカーを「それが導入する辞項が近似的であるこ とを明示するマーカー」(2010 : 56)と定義する。「近似的」とは「精確さの度 合いが低い」(ibid. : 55)という意味合いであることを踏まえると、留保マー カーは「それが導入する辞項の精確さの度合いが低いことを明示するマーカー」

ということになる。ou JSPQ と留保マーカーとの関連については、ou JSPQ の意味的な働きを考察した後の 7 節で論じる。

2. 書き言葉コーパスと話し言葉コーパスにおける生起数の比較  JSPQ の使用それ自体、書き言葉よりも話し言葉に特徴的であるが、等位接 続詞 ou を伴う ou JSPQ の使用は、一層話し言葉に特徴的であるように思われ る。まずはこの点を確認しておきたい。ここでは書き言葉の代表として、大規 模なフランス語書き言葉コーパス Frantext を使用する。否定辞の ne の省略 は書き言葉か話し言葉かに大きく影響を受けるため、どちらのコーパスでも ne が省略されている場合、されていない場合の両方を含めることにする。さ て、je (ne) sais pas quoi という語の連鎖それ自体は、話し言葉でも書き言葉 でも一定数生起している。ESLO と Frantext における JSPQ の総生起数は、

それぞれ 127 例と 201 例である。そのうち、ou JSPQ の生起数は、それぞれ 51 例(約 40%)と 11 例(約 5%)であり、ou JSPQ は確かに話し言葉におい て顕著に表れているということができる。ただし Frantext には、不定詞が後 続する « Je (ne) sais pas quoi dire. » のような事例が 93 例とかなりの割合で 存在し、ESLO の 10 例と比べるとかなり開きがある。この偏りはそれ自体興

(5)

味深い事実だが、ここではその理由を問わないことにする。しかしながら、こ の偏りが、全体の生起数における ou JSPQ の割合に影響を与えていることも 事実であるため、不定詞が後続する事例を除外した割合も提示しておく。

ESLO では、不定詞が後続する事例を除いた JSPQ の生起数は 117 例である。

そのうち ou JSPQ の生起は 51 例ある。これは、全体のおよそ 44% に相当する。

それに対し、Frantext では、不定詞が後続する事例を除いた JSPQ の生起数 は 108 例である。このうち ou JSPQ の生起数は 11 例であり、約 10% に相当 する。このように、不定詞が後続する事例を除いても、書き言葉に比べ話し言 葉において ou JSPQ の占める割合が高いことは否定できない。

3. ou JSPQ の統語的特徴

 文の先頭に現れる ou JSPQ の例は存在しない。文の末尾、もしくは文の途 中に生起する。

(1)  [L1 の地域にいるある路上生活者について]

  L1 :  bah &Pumky il en faisait partie cʼest cʼest un ancien euh je  crois que cʼest un ancien légionnaire

  L2 :  comme ça euh

(2)  L1 :  je pense quand même que si on veut faire une carrière litté- raire euh de français ou que le latin est important

  L1 : je conçois mal une euh enfi n

  L1 :  pourtant y a des licences de français mod- de moderne la  littérature moderne  sans latin

文の末尾の場合は当然だが、文の途中に生起する場合であっても、ou JSPQ は発話の先行部分と関係を結ぶ。(2)の ou JSPQ は先行の français moderne、

la littérature moderne と等位接続の関係にある。意味的にも、ou JSPQ は先 行部分に作用しているという印象を受ける。便宜的に、ou JSPQ と関係を結

(6)

ぶ要素を X とする。X は多くの場合名詞句であるが、形容詞、前置詞句、文 全体とみなすことができる例もある。なお、(3)と(5)は ou を伴っていな いが、6 節で述べるように、ou を伴わず X に直接付加される場合も ou JSPQ と同じ働きが見られるため、類例として提示する。

(3)  L1 :  cʼest pas enfi n je pense personnellement enfi n cʼest cʼest cʼest  peut-être orgueilleux   mais

(4)  [L1 は劇場経営者、その新しい試みについて]

  L1 :  ou on va retrouver des choses quʼon a faites mais on on se  met des nouveaux défi s de euh

  L1 :  ça peut être en fabrication de marionnettes comme en en  comédien   bon on va voir au fur

(5)   [フランス語の授業で行われる simulation globale という教授法に ついて]

  L1 :  cʼest cʼest vraiment un jeu de rôle quoi

  L1 :  et tu as des scénarii après que tu inventes genre bah là hop  machin sʼest cassé la jambe quʼest-ce quʼil faut faire faut ap- peler le médecin 

(3) で は 形 容 詞 orgueilleux、(4) で は 前 置 詞 句 en fabrication de marion- nettes と en comédien、そして(5)では文全体 machin sʼest cassé la jambe、

quʼest-ce quʼil faut faire、faut appeler le médecin と(ou) JSPQ は関係を結ん でいる。

4. ou JSPQ の意味的な働き

 それでは、ou JSPQ の意味的な働きを考察していく。そのために、まずは ou JSPQ の有無によってどのような違いが表れるかを観察してみたい。

(6)  L1 :  mais euh y a des expressions anglaises en fait euh

(7)

  L1 :  un petit renard euh qui chipe des œufs    alors euh la petite fi lle elle est là euh

この例では、話者は Dora lʼexploratrice というアメリカのテレビアニメに登場 する狐を解説している。この狐は身の回りのものを盗む登場人物であり、言及 されている卵は狐が盗むものの一例に過ぎない。ところが、この例から ou  JSPQ を削除し « un petit renard euh qui chipe des œufs » とすると、狐は もっぱら卵を盗む登場人物であることになってしまう。このように、ou JSPQ は述定の対象を既述の X に限定せず、それ以外の要素にまでその射程を広げ る働きがある。ここで ou JSPQ と談話標識との関係について一言述べておく。

ou JSPQ はその有無によって命題内容の真理条件が異なることから、命題内 容に影響を与えていることが確認できる。一方、談話標識は一般に命題内容に 貢献しないことがその特徴とされる(cf. Dostie et Pusch 2007 : 3-5)。このこ とから、ou JSPQ を一般的な談話標識とは区別しておきたい。

 ou JSPQ は述定の対象を既述の X に限定せず、それ以外の要素にまでその 射程を広げる働きがあると述べたが、それ以外の要素といっても、あらゆるも のが想定されているのではない。何らかの意味で先行の X に類するものであ る。以下、ou JSPQ が作用する対象を3つの場合に分けてこの点を検討する。

4.1. 命題内容を構成する辞項としての X に作用する場合

 はじめに検討するのは、次のように、先行して述べた X とは別の指示対象 を述定の対象に含む場合である。

(7)  [フランス革命記念日の消防士によるダンスパーティーについて]

  L1 :  tu sais ils jettent des casquettes

  L2 :  ah peut-être ils ont je sais pas jʼai jʼai pas été à la fi n cette  année mais

  L1 :  et ils jettent des casquettes et après si tu as la casquette

(8)

  L1 :  tu peux lʼéchanger je crois contre une bouteill

この例の話者は、帽子と交換できるものが瓶ビールであったかどうか確かでな く、ou JSPQ によって、瓶ビール以外のものである可能性も含めて述べてい る。以外といっても瓶ビールに類するもの、すなわちパーティの場で提供され る飲料が想定されており、瓶ビールに類するものである。実際、この例の ou  JSPQ は ou quelque chose (un truc, des choses) comme ça といった表現に言 い換えが可能である。類例をもう一つみておきたい。

(8)  L1 :  la mère elle sʼoccupe mal de son gosse mais elle lʼaime à sa  façon et rien ne remplacera cette mère-là au point de vue  aff ectif

  L2 :  même euh si y a m- par exemple moins dʼhygiène quʼà la  pouponnière   ça vaut mieux que ce soit ここで L1 の発言を追認する形で L2 が言おうとしていることは、自宅で子供 の面倒を見ることには多少の問題がつきまとうが、それでも子供は母親と一緒 にいるのが一番良いといったものである。「託児所ほど清潔ではないこと」を 例に挙げつつ、ou JSPQ によって、それ以外の問題もあることを示唆している。

この例でも ou quelque chose comme ça に言い換え可能であることからわか るように、「それ以外の問題」とは「託児所ほど清潔ではないこと」という先 行の X と同種の問題を指しており、一つの集合にまとめるならば「自宅で子 供の面倒を見る際に生じる問題」である。なお、par exemple によって「託児 所ほど清潔ではないこと」がありうる問題の一例であることが明示されている が、par exemple を取り除いても ou JSPQ によりこの解釈は維持され、他の 問題への含みを伴う。par exemple も ou JSPQ も取り除くと、他の問題への 含みは、明示的ではなくなる。

 次の例では ou JSPQ が疑問文に生起している。

(9)

(9)   [インタビュアー(L3)はオルレアンの名物を L1、L2 に尋ねて いる]

  L1 :  ça cʼest la spécialité la baguette de Neuville   L1 :  mais autrement euh Orléans euh

  L2 :  y a pas euh

  L1 :  déjà partout où on a mangé euh ils nous ont jamais proposé  euh

  L2 :  y a pas des lit-

  L2 :  y a pas une liqueur de poire   non ?   L3 :  si si si

L2 はオルレアンの名物として梨のリキュールがあったと記憶しているが、そ の記憶は確かでない。そのことを L1 に確認しているのだが、ou JSPQ を用い ることで、その名物が梨のリキュール以外の何かである可能性を含めて尋ねて いる。ここで想定されているものとして最も考えられるのは他の果実のリ キュールであるが、リキュール以外のアルコール飲料もあり得るだろう。この 例の ou JSPQ も ou quelque chose comme ça などに言い換えることができる。

疑問文に付加された例をもう一例観察する。

(10)  L1 :  et tu fais pas dʼautres sports euh par exemple sur Orléans  euh

  L2 : euh non   L1 : non ?

  L2 : tu as pas fait euh de la danse   ?   L1 : ah oui jʼai fait une séance de danse

この例も ou quelque chose comme ça に言い換えが可能であり、ダンスに類 する活動全般に言及しているといえる。ここで ou JSPQ が疑問の対象に含ま れていることを強調しておきたい。話者は対話者に、ダンスのみをしていたか

(10)

どうかを尋ねているのではなく、他のダンスに類する活動もしていたかどうか を尋ねているのである。このことは前述の ou JSPQ を談話標識の一つとみな すかどうかという問題にも関わり、疑問というモダリティの対象となり得るこ とからも、この表現は命題内容の一部を成していることが確認できる。

 以上の例はどれも ou quelque chose comme ça に言い換え可能であるが、

この言い換えが困難な例も存在する。

(11)  L1 : mais euh y a des expressions anglaises en fait euh

  L1 :  un petit renard euh qui chipe des œufs    alors euh la petite fi lle elle est là euh (=6)

この例は、(7)-(10)の例と異なり、quelque chose comme ça と言い換えるの は難しい。言い換えるならば、ou dʼautres choses のほうが適切である。その 意味で、ここで想定されている「卵以外の要素」は卵との類似性が弱い。しか しながら、それでも、卵のような身の回りの些細なもの、価値が低いものと いった、卵と同じ特徴を共有する、漠然とした集合が想定されているとはいえ る。ou quelque chose comme ça による言い換えが困難な例をもう一つみてお く。

(12) [フランスにおけるアメリカ人による経済的な進出について]

  L1 : si on peut appeler ça une invasion   L1 : moi jʼappelle ça comme ça mais enfi n

  L1 :  alors euh ça a fait ça lʼa foutu mal quoi pour pour le Fran- çais que ce soit un Orléanais 

この例でも、オルレアン人に類する人々に言及しているとは考えられず、オル レアン以外の地域のフランス人に言及していることは明らかである。つまり、

様々な地域のフランス人という集合が述定の対象に含まれているのである。

(11)

4. 2. 名称 X に作用する場合

 以下の例も、ou quelque chose comme ça 等に言い換えることができるとい う意味では前節で検討した事例に類似しているが、ou JSPQ が作用する対象 が X という名称であるという点で異なっているように思われる。

(13)  L1 :  il a un neveu qui a fait cen- qui a été reçu à Centrale qui est  parti aux Etats-Unis

  L1 :  quand il est arrivé au Maroc il gagnait quatre mille euh di- nars  par euh par mois

  L2 :  ah ouais

話者はモロッコの通貨の名称が dinar であるかどうか自信がないため、ou  JSPQ を付与することで、必ずしも精確に dinar でなくても、それに発音が類 似した名称である可能性を含めていることを明示している。なお、この例では ou JSPQ が quatre mille という数値を対象としていると捉えることも不可能で はないが、dinar を言う前にためらい(euh)があることから、dinar という名 称に作用していると理解しておく。

 次の二例も、名称の精確さが問題となっている。

(14)  L1 :  je pense quand même que si on veut faire une carrière litté- raire euh de français ou que le latin est important

  L1 : je conçois mal une euh enfi n

  L1 :  pourtant y a des licences de français mod- de moderne la  littérature moderne  sans latin

(15) [L1 は普段見ているテレビドラマのタイトルが思い出せない]

  L1 : comment ça sʼappelle euh    L1 : ah zut je vais pas retrouver 

  L1 :  ah cʼest pas enquêtes criminelles  où y a  une ensemble de gens qui se basent sur des connaissances 

(12)

psychologiques

(14)では、話者は学士課程の名称を挙げようとして、français moderne, litté- rature moderne と述べるが、正式な名称が思い浮かばない。そこで、ou  JSPQ を付加することによって、それらに相当する他の名称である可能性を含 めている。(15)では、話者は失念により、普段見ているテレビドラマの題名 を挙げることができない。« cʼest pas enquêtes criminelles » は、形式的には 否定文だが、enquêtes criminelles を否定することよりも、実際の題名に近い と話者が判断した名称を導入する役目を果たしている(この後話者が思い出し た正しいタイトルは esprits criminels)。ou JSPQ も、精確には enquêtes cri- minelles でないとしてもそれに類似する題名であることを述べるものであり、

結果的には、この否定文と同じ働きを担っている。

 前節で検討した例との違いを改めて述べておくと、前節で取り上げた例で は、先行する X と ou JSPQ が言及するそれ以外の要素は、あくまで異なるも のである。例えば(7)の話者は帽子と交換可能なものがビール瓶であったか 他のものであったかが不確かなのであって、その指示対象を何と呼ぶべきかが 不確かなのではない。一方本節で検討している例においては、話者が想定して いる指示対象は一つのものであってそれを何と呼ぶかが不確かなのである。こ のような違いを考慮して、本節で検討した事例を「名称 X に作用する場合」

とて区別しておく。動詞 appeler によって、名称が問題となっていることが明 示されている例もいくつかある。

(16)  L1 :  ouais

  L1 :  en plus il   chipper 

(17)  L1 :  puis y a quand même les les ouvriers qui sont   L1 :  je sais pas comment   ça moi le prolétariat 

(18)  L1 :  vous avez une ferme aussi

(13)

  L1 :  euh une ferme peut-être qui doit   la Le Bouchot  enfi n le lieu-dit

(19)  L1 :  on faisait les bords de Loire dans tous les sens   L2 :  ouais

  L1 :  on allait jusquʼà Combleux cʼest ça que ça  là 

4. 3. 数値 X に作用する場合

 少数だが、X が数値である事例も存在する。

(20)  L1 :  tu as entendu parlé de lʼEntente Orléans Basket

  L1 :  qui désire une grande salle de euh avec euh dix mille spec- tateurs 

  L2 :  ah oui

(21)  L1 :  tu vas souvent au cinéma ?

  L2 :  euh bah en fait jʼai un abonnement au cinéma   L2 :  donc oui jʼy vais assez souvent

  L1 :  à euh vingt euros par mois là    L2 :  voilà ouais la carte Le pass

(20)では、おおよそ一万人の観客を収容できる室内コートを述べている。 (21)

でも、月 20 ユーロと述べながら、ou JSPQ によって前後の数値を含めている と理解できる。この場合、X は数値であり、X に類するものとして想定されて いるのは「おおよそ X に値する数値」である。つまり、ou JSPQ は X の概数、

近似値を表しているといえる。

5. 等位接続詞 ou について

 等位接続詞 ou に関連することについて一点述べておく。等位接続詞 et が二

(14)

つの対象の加算的な関係を構築するのに対し、ou は選言的な関係を結ぶ。こ の選言的な関係は Riegel (1994 : 526)によると、二つの解釈に区別できる。

(22)  排他的解釈(lecture exclusive)

  ex. Cʼest du poisson ou de la viande.

(23)  包括的解釈(lecture inclusive)

   ex. Des passeports seront délivrés aux ressortissants du pays ou  aux personnes ayant épousé un ressortissant du pays.

前者の解釈では、一方を含む命題内容が真となるならば、もう一方の命題内容 が偽となる。後者の解釈では、一方を含む命題内容が真となるとしても、もう 一方の命題内容は必ずしも偽とならない。この区別は、ou JSPQ においても 観察できる。

(24)  L1 :  mais euh y a des expressions anglaises en fait euh

  L1 :  un petit renard euh qui chipe [rire:noise:instantaneous] des  œufs   alors euh la petite fi lle elle est là  euh 

  L1 :  en plus il sʼappelle chipper

この二例は同じ話者によって同じ文脈で使用されている。前者の使用では、卵 と ou JSPQ によって含められた卵以外の要素は包括的な関係にある。すなわ ち、この狐が卵を盗むとしても、それ以外のものを盗むことは排除されない。

また卵以外のものを盗むとしても、卵を盗むことは排除されない。それに対し 後者の使用では、登場人物の名前が取りざたされているので、Chipper という 名前であればそれ以外の名前でなく、それ以外の名前であれば Chipper では ないということになり、排他的な関係にある。

6. 等位接続詞 ou を伴わない場合(X JSPQ)

 ここまでは、JSPQ が等位接続詞 ou を伴う例に限定して検討してきた。し

(15)

かしながら、ou を伴わない « ...X JSPQ » という語連鎖にも、ou JSPQ と同じ 働きをしていると考えられる場合が存在する。

(25)  L1 :  euh vous savez elle cette bon sang de télévision si on vous  répète tous les jours ab- achetez la pâte euh 

  L1 :  eh bien je suis persuadé quʼau bout de quʼau bout de deux  ans ou dʼun an ou de six mois soixante pour cent des gens  achèteront les pâtes euh  quoi ben lʼarchéologisme  cʼest un peu ça hein ?

(26)  L1 :  parmi les gens que vous avez entendu euh je sais pas faire  des discours à la télévision   nʼimporte où euh   L1 :  je  sais  pas  sans  les  connaître  personnellement  est-ce 

quelquʼun vous a frappé euh par la façon dont il parlait ?

(27) [動物園での息子の反応を話している]

  L1 :  non rien que de voir de lʼextérieur jʼavais peur   L1 :  ben il a fait des cauchemars la nuit

  L1 :  rien que de voir lʼextérieur y avait un gros un espèce de  crocodile

  L2 :  je sais pas sʼil a eu peur

(25)では、テレビ CM などで繰り返される商品が、先行の la pâte 以外にも 存在することを JSPQ は伝えている。(26)は人の話し方に衝撃を受けた経験 を尋ねているインタビューである。そうした場の例としてテレビを挙げている が、JSPQ によってテレビ以外の場も含めて尋ねていると理解できる。また、

後続の nʼimporte où もテレビ以外の場を含むことを明示している。(25)と(26)

は、どちらも命題内容を構成する辞項としての X に作用する場合である。そ れに対し(27)では、話者が見た動物が crocodile という動物であるか確かで なく、他の名称である可能性も視野に入れており、X という名称に作用する場

(16)

合である。いずれにせよ、これらの例はどれも ou を補って ou JSPQ とするこ ともでき、その働きは ou JSPQ と同じであるとみなすことができる。

7. ou JSPQ と留保マーカー

 以上のように、ou JSPQ(および X JSPQ)は、先行する X 以外の要素も述 定の対象に含む働きをもつ。以外といってもそこに含まれるのは、X と無関係 でなく、X に類似する何かである。厳密に X でなくても、それに類似する指 示対象、名称、数値をも幅広く述定の対象に収めるためのマーカーであるとい えよう。発話内容の精確さの度合いが低いことを明示するという意味で、渡邊

(2010)の留保マーカーの定義に合致する。事実、ou JSPQ にはしばしば、je  crois、peut-être、espèce de、machin といった他の留保マーカーが共起する。

(28)  L1 :    que cʼest un ancien légionnaire  quoi  -comme ça euh

(29)  L1 :  tu peux lʼéchanger   contre une bouteille 

(30)  L1 :  je pense quʼelle mangeait   euh des moules 

(31)  L1 :  ils avaient  de lʼénergie à dépenser 

(32)  L1 :  rien que de voir lʼextérieur y avait un gros  cro- codile

(33)  L1 :  maintenant y a des relais des   

 ここで ou JSPQ の留保マーカーとしての働きを他の留保マーカーの働きに 近づけるため、渡邊(2010)で論じられている en quelque sorte の用例とそ の解説を確認しておきたい。

(34)   Quel est le but de nos travaux ? Proposer aux écrivains de nou-

(17)

velles« structures », de nature mathématique ou bien encore in- venter de nouveaux procédés artifi ciels ou mécaniques,  

contribuant à lʼactivité littéraire : Des soutiens de lʼinspiration,  pour ainsi dire, ou bien   encore, en quelque sorte, une aide à la  créativité.

  (Queneau, Bâtons, chiff res et lettres, p.321, 渡邊 2010 : 57 より引用)

渡邊はこの例について「どちらももっとも精確な表現ではないかもしれないが、

des soutiens de lʼinspiration とでも言おうか、あるいは、ある意味で une aide  à la créativité とでも言えようか」(ibid. : 58)と註釈的に言い換えたうえで、「統 辞的には名詞句という単一の辞項を対象としているようでいて、en quelque  sorte は、この言いかえにもあらわれているように、用語の選択という次元を 介して、『言う』こと、すなわち発話行為の次元にもつながっているのである」

(ibid.)と述べている。用語の選択に関わる働きに最も近い ou JSPQ の用例は、

4. 2. 節で考察した、名称に作用する ou JSPQ であると思われる。一例を再掲 する。

(35)  L1 :  je pense quand même que si on veut faire une carrière litté- raire euh de français ou que le latin est important

  L1 :  je conçois mal une euh enfi n

  L1 :  pourtant y a des licences de français mod- de moderne la  littérature moderne  sans latin (=14)

この ou JSPQ の使用においても、話者はフランス語を専門とする学士課程の 名称を言うべく、言葉に詰まりつつ言い換えを行いながら、その名称の精確さ に一定の留保をつけている。ただし、すでにみたように、ou JSPQ は必ずしも、

X という名称を対象とするわけでなく、命題内容を構成する辞項としての X に作用する例も存在する。こちらも一例を再掲しておく。

(36) [フランス革命記念日の消防士によるダンスパーティーについて]

(18)

  L1 :  tu sais ils jettent des casquettes

  L2 :  ah peut-être ils ont je sais pas jʼai jʼai pas été à la fi n cette  année mais

  L1 :  et ils jettent des casquettes et après si tu as la casquette   L1 :  tu peux lʼéchanger je crois contre une bouteill

(=7)

この場合、帽子と交換できるものが、事実のレベルでビール瓶とは異なる指示 対象である可能性を含めているのであり、話者が言いたいことを言い表すため に選択した用語 bouteille(ビール瓶)の精確さに留保をつけているのではない。

8. X et (et puis / puis) JSPQ

 すでに述べたように、話し言葉コーパス ESLO では、等位接続詞 ou を伴う JSPQ は JSPQ の総生起数のほぼ半数を占める。それに対し、等位接続詞 et を 伴う JSPQ は一例のみである。

(37) [オルレアンのジャンヌダルク祭の催しに行われた変更について]

  L1 :  hm cʼest pas une réforme euh   L1 :  sur euh beaucoup critiquée

  L1 :  parce que le euh le le cortège a été raccourci et je sais pas  quoi a été supprimé  alors ça cʼest

この例のはじめに現れる JSPQ は名詞句の代わりを果たす用法であり、本稿で は考察の対象から外している。ここで検討したいのは二番目の JSPQ である。

この JSPQ は等位接続詞 et によって導かれており、ou JSPQ とかなり性格が 異なるように思われる。ここではオルレアンのジャンヌダルク祭が話題になっ ており、年々行事が簡略化されていることを語っている。ここで話者が言いた いことは、何かが廃止された上に、さらに別の変化があったということであ る。つまり、近年のジャンヌダルク祭に生じた変化として、先行の出来事に別

(19)

の出来事を加えているのであり、等位接続詞 et の働きを認めることができる。

 なお、et に類する et puis に導かれる JSPQ が一例、puis に導かれる JSPQ が二例存在する。それぞれ一例をあげておく。

(38)  L1 :  je sais pas quelquʼun mʼa dit quʼil fallait quʼelle ait fait du la- tin 

(39)  L1 :  je ne sais pas ben ça doit être les mêmes syndicats que les  ouvriers cʼest-à-dire

  L2 :  oui

  L1 :  je sais plus combien moi deux ou trois quʼil y a euh CGT  CF- CFDT

  L1 :  je ne crois pas quʼil y ait des choses euh

  L1 :  crois pas quʼil y ait des syndicats spéciaux pour nous

(38)では、オルレアンのジャンヌダルク祭でジャンヌダルクを演じることが できる女性はいくつかの条件を満たさなければならないことを述べている。話 者はその一つとしてラテン語を挙げているが、続く et puis je sais pas quoi に よってそれ以外の事柄もその条件に含まれることを述べている。(39)では、

労働組合を列挙しており、OGT と CFDT のほかにもう一つ存在するが、話者 はその名称を思い出せず、JSPQ を使用している。いずれも、et 同様、加算的 な解釈をもつといえる。

9. おわりに

 本稿では、ou JSPQ の働きを「述定の対象を既述の X に限定せず、X に類 する諸要素にまで広げること」と規定した。発話内容の精確さの度合いが低い ことを明示するという点で、留保マーカーの一種とみなすことができる。ou  JSPQ の働きをこのように想定することは、話し言葉に特徴的であるという事 実とも親和する。時間をかけて発話内容を熟考することができる書き言葉とは

(20)

対照的に、話し言葉はリアルタイム(en temps réel)で談話が進行し、自ら、

ないしは対話者が言ったことを踏まえて、その都度発話を構築する動的な活動 である。自身の発話の精確さに自信がなくても、言いたいことに近い内容、表 現が思いつけば、それをひとまず言っておくほうが言いたいことが伝わる可能 性が高く、また対話者の協力を得ることもできる。このような理由から話し言 葉で多用されるのであろう。本稿では等位接続詞 ou を伴う JSPQ、および同 じ働きをもつ JSPQ に考察対象を限定したが、他の JSPQ の用法の詳細な記述 を行うとともに、用法間の関係も検討する必要がある。この点の追究は今後の 課題とする。

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使用コーパス

ATILF-CNRS & Université de Lorraine(2016),  , Version  décembre 2016. http://www.frantext.fr

Université dʼOrléans, en partenariat avec le CNRS, le Ministère de la Culture et la Ré-

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参照

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