日本管理会計学 会誌 管理会 計 学 第 15 巻第2号
論 壇
京セ ラ の 大家族主 義 経 営 と管理 会 計
一一 ア メーバ 経 営 と時 間 当た り採 算一 一
上總 康 行
〈論 文 要 旨〉
京セ ラ 株 式会社は独 自の 経 営フ ィ ロ ソフ ィ に 基づ くア メーバ 経 営 に より急 成 長 を 遂 げて き た 巨大 企 業の 1 つ で ある.ア メーバ 経 営は
, そ こ に配 置 され たア メーバ リーダー
, ア メーバ 組織,
そして 時 間 当た り採算を 基 軸 とす る 管 理 会 計に よっ て展 開 さ れる.ア メーバ 組 織は環 境 変 化に 応 じ て伸縮で き る 小 さな 自律的組 織で あ る.その 編 成 原理 は事 業 部 制 組 織では な く,職 能 部 門 別 組織を 基礎 とし た ラ イ ン 採算制 組 織で ある.時 間 当た り採算の 計 算で は,ま ずア メーバ 組 織
ご とに売 上 高か ら 経費が 差 し引か れ て部門別 採 算が計算さ れ,次に この 部 門 別 採算を総労 働 時 間で割っ て時 間 当た り採 算が計 算 さ れる.時 間 当 た り採 算は ア メーバ 会 計の 中 軸 的 利 益 概 念で ある.注 目すべ き 点は , 時 間 当た り採算か ら 時給を差し引い た値が 時間 当た り残 余利益 となる
こ とで あ る.ま た 生 産ア メーバ と営 業ア メーバが機 会 損 失 を 回 避 する ため に,連 鎖 し て ア メー
バ活 動を新 しい 同期 化水準へ 押し 上 げるの で ,会 社 全 体の 利 益 最 大 化 を 目指 し た利 益 連鎖管 理 が可能になる.ア メーバ 経 営の 管理 会計は,京セ ラ が 大家族主義とい う強 烈 な経営フ ィ ロ ソ フ
ィ の下で作り 上 げた一大果 実で あ る.
〈キーワ ー ド〉
京セ ラ,ア メーバ 経営 ,大家族主義経営 ,時聞 当た り採算,残 余 利 益,利 益 連 鎖 管 理
Management Accounting in Kyocera that is Managed
under the Big Family Principle
:Ameba Management and ”Profit per Hour ”
Yasuyuki Kazusa
Abstract
Kyocera is one of the big businesses that have accomplished the rapid growth by the eba management based on an original management phi}osophy . The organization principle of the ameba is a
line profitable organization that assumes the fhnctional organization rather than the divisional
organizat 童on . The ”Profit per Hour ’「
as a key profit concept is calculated for the ameba organizat三〇n. Moreover , the profit chain management can achieve the profit皿 aximization ofawhole ofthe company
because it is able to push up the ameba activities to a new level of synchronization between the production ameba and the sales ameba to evade the opportunity loss。 The management accounting fbr the ameba management is a big fruit that Kyocera has made under the management philosophy.
Key Words
Kyocera, Ameba Management , Big Family Principle, PrQfit per Hour , Residual lncome , MPC , PCM
2006年 12月 30日 受理 京都 大 学 大 学 院経済 学研究 科
Accepted 30 December 2eO6
The Graduate School ofEconomiGs , Kyoto University
管理会 計 学 第15 巻 第2号
1 . 京セ ラの ア メ ー バ 組 織 と事 業 部 制 組 織
京セ ラ株式会社 (本社 :京都 市伏 見 区.以 下,京セ ラ と略 記する)は, 1959 年 4 月, 創 業者 稲盛 和夫氏 を 中 心 に して その仲聞 16 名で 京 都 市 右京 区 西ノ京原 町 にフ ァ イ ン セ ラ ミソ クを 製 造 ・販 売 す る 会 社 (資 本 金 300 万 円)と し て創 業さ れ た.そ の 後,このベ ンチ ャー企業は,優 れ た 技 術 と 類 ま れ なる稲 盛 氏の経 営 能 力,独 自の経 営 方 法で あ るア メーバ 経 営,さ らに は 日本
の高 度 経 済 成 長の 波に乗 っ て順 調に成 長 を 遂 げ,2006 年 3 月 に は,連 結べ 一ス で,資 本 金 1,157 億 円,総資産 1兆9,315億円,売上高 1兆 1,814億円,当期純 利益 696億円の 巨 大 企業 と なっ た. ア メーバ 経 営と は 「会社 全体の 組織を機 能別 ・役割別に細分化し, 臨機応 変に変化 させ , そ れぞ れ の組織が ,『時 間当 た り採算 』とい うtWL 一一し た評価基準に よ り部門別 に採 算を求め, 全 社 員 に 経 営 者 意 識 を 醸 成 す る こ と を 可 能 に し て き た 京 セ ラ 独 自の 経 営 シ ス テ ム で す」
(KCCS ,2004 ,p .4 .以 下,単 にペ ージ数の み を 記 す ) と さ れて い る.京セ ラフ ィ ロ ソ フ ィ に支え られ たア メーバ 経 営の 基 本 要 素は
, ア メーバ 組 織
, 部 門 別 採 算 ,そし て経 営 者 育 成 の 3 つ であ る.
京セ ラの 経 営 方 式 が 独 自で ある こ とか ら,こ れ までに も 多 くの ビジネス 書 や 雑 誌 で度々 取 り 上 げ られ て き た が,本格的 な学問 的 研 究は現在で も そ れ ほ ど多く ない(潮 ,2006,p .193).ア メ
ーバ経 営に強い 関心 を 示 し たのは あの クーパ ー (R.Cooper)で あ っ た.クーパ ーは ,組織の 最 小 単 位が 生 産 量 に応 じ て 自 在 に 伸 縮 す る ア メーバ 組 織 を ミニ ・プ ロ フ ィ ッ トセ ン タ ー
(microprofit center :MPC ) とし て捉 えて,ア メーバ 経 営 を 研 究した (Cooper, 1994, 1995 ).こ
の クーパ ーの研 究に 関し て
, 三矢 裕氏 (神戸 大学)は , 「ア メーバ 経営にっ い て の 唯一の
先 駆 的 研 究」 (三矢,2003 ,p .9) と 高 く評 価 さ れ た 上で,「MPC 概 念は ケース
研 究 だけ か ら 導かれ た もの で あり, MPC と共通する部分が多い ……経 営学の 諸概念に 関する 文 献レ ビ ュ ーを 経てい ない 」(三矢 ,2003,p .19)と MPC 概念を酷 しく 批 判 さ れ た ,三矢氏 の 批 判は ま さ に そ の 通 り で あ る,し か し,こ こ で の筆 者の 関心 は,クーパ ーが京セ ラの ア メーバ 組 織の 編 成 原理 をい か に
理 解し て い た か に あ る .クーパーは,次の よ うに指 摘 し て い る .
「京セ ラは通常よ り も 非 常 に 早 く (す な わ ち 会 社が まだ比 較 的 小 さい 時 に ),事 業 部 制 組 織 を 採 用 した. … …企 業が拡 大 する と と もに ,事 業 部 制 組 織は あ ま りに も集合 的で ある と 見 な され
た .か く し て,ア メーバ
組織が 開 発 され た1 (Cooper,1994 , p .3).
こ こで は, 明 らか にア メ リカ経営 史研 究で 著 名 なチ ャ ン ドラー (A.D、 Chandler, Jr.)が 主張 し た大企業の 組 織 発 展モ デル ,す なわ ち単一
事 業に適 した職 能 部 門 別 組 織 か ら複 数 事 業 (多 角 化事 業)の展 開に適 合 した事 業 部 制 組 織へ 発 展 する とい うモデル (Chandler,1962 )に従 っ て京
セ ラの組 織 改 革が行 なわれ,さ らに事 業 部 制 組 織の 下で ア メーバ 組 織が開 発 さ れ た と 指 摘 さ れ
て い る(上總 ・澤邉,2005 ).
三矢 氏 も ま た 事 業 部 制 組 織 を 前 提 とし て ア メーバ 経 営 を理解され てい る.三矢 氏に よれ ば,
委 譲され る権限 の 大小 に お い て事業部 制を さ らに分権化 し た もの が カ ン パ ニ ー
制で あ り, 権限 委 譲され る組 織数の多少 に お い て 事業 部制を さ ら に分権化 した もの がア メ ーバ 経 営で あ る とし
て ,独 自の 「分 権 化二 軸モ デル 」 を 提 唱 され た (三矢,2003 , pp.125 ・ 127),し か し,分 権 化 とい う切 り口が事 業 部 制 組 織 を 基 礎 とし て いるため,事業部制 組 織 の 二 っ の発展形態 と し て カン パ
ニ ー制 とア メーバ 経営が位 置づ け られ てい る.
現 時 点に お い て 京セ ラの ア メーバ 組 織を ご く 表 面 的に観察すれ ば,確か に クーパ ーや 三矢氏
京セ ラ の大家 族主義 経 営と管理 会 計
な どが 主張 さ れ るよ うに,ア メーバ組 織 は 事 業 部 制 組 織 を 基 礎 とし て編 成 さ れてい るか の よ う に見 え る.し か しなが ら, 歴 史 的 事 実 として も, ま た論理的に も, ア メーバ 組織が事業部 制 組 織 を 基 礎 とし て編 成 さ れてい る と 理解す るの は適 切で はない .む し ろ別の視 点か らア メーバ組 織 の特 徴 を見 出 すべ きで ある と考 える.
我々 は, こ れ まで京セ ラ及び 関連 会 社に お い て約 2年近 く聞 取 調 査を重ねて きたが (潮 ,2006, pp .199 −201 ),な お調査継 続 中で あ る.本 稿で は,そ の研 究 成 果の一部 と して ,まずア メーバ 組 織 を取 り 上 げ,ア メーバ
組 織 は事業部 制 組 織を 基礎 とす る の で は な く,そ れ とは 異な る組織編 成 原 理で編 成 され るこ と を 明 らか に す る.次に,ア メーバ 会 計の 中 軸 的 利 益 概 念で あ る部門 別 採 算 を 検 討 し,そこ で は 資 本コ ス トを 考 慮 した 残 余 利 益が計 算 さ れて いた こ と を 主 張 す る.さ
らにア メーバ 経 営で は
, 製 造ア メーバ と 営 業ア メーバ が機 会 損 失 を回避 す る た めに,連 鎖 し て ア メーバ 活 動 を 新しい 同期 化 水 準へ 押 し上 げる こ と を 通 じ て, 会 社 全 体の 利 益の増 大 を目指し た利益 連鎖管理が 行 わ れる こ と を 主 張 する.最 後に, ア メーバ 経営で は, 京セ ラ の強 烈 な 経 営
フ ィ ロ ソ フ ィ に導かれて,部門別 採算の 下 で大家族 主 義 経 営の ための 管 理 会 計 が 展 開 さ れてい るこ とを 明 ら か に し たい .
な お ,本 稿 で は,ア メーバ 経営に関するエ ンパ ワ メン ト論(三矢,1997 ,谷,1999 ),さ らに ア メーバ 組 織 以 外 で展 開 され る ミニ ・プ ロ フ ィ ソ トセ ン ター
や ライ ンカ ン パ ニ ー制(谷 ・三矢,
1998, 菅本 ・伊藤,2003, 松 木,2003 )につ い て は , 考察外 とし, 後 日 の 検 討 課 題とする。
2 . ラ イ ン 採 算制 組 織 と して の ア メー バ 組織
京セ ラ によれ ば,「ア メーバ 組 織 とは,会 社 の組 織 を 細 分 化 し た小 集 団で あ り,そ れ ぞれ が 自 主 独立採算の 活動 を 行 う組織の 単位です」(p .41 )と され て い る.し か し, クーパ ーの見 解が 公表 さ れて 以来, ア メーバ 組 織は事 業 部 制 組 織 の 下で展 開 さ れる と 多 くの 論 者 に よっ て認 識 されて
い る よ う で あ る.聞 取 調 査 (潮 ,2006 ,pp .199−201)を通 じて我々 が学ん だこ とは,基 本 的に は, 事業部制 組織で はなく, 職能 部門別 組 織の 一種 と し ての ア メーバ
組 織で あ り, 職能 部 門 別 組織
で あるか らこそ発揮 され るア メーバ 経 営の ダイ ナ ミズム で あっ た .ま ず 事 実 を 確認 し てお こ う.
京セ ラの ア メーバ 組 織 の 導入 に 関 し て は, 次の よ うに指 摘 され てい る.
「京セ ラでは,創 業時 ,会社の 採 算を 大 き く左 右する製造 部 門を き め細か く見 る た め に,工 程 単 位に分 割 し た こ と か ら,ア メーバ
組 織の 編 成が始ま りまし た .工程単位で分割し て 少 人数
で構 成 す る組 織 (ア メーバ ) をつ く り,各工程 の アメーバ に 責 任 者 (ア メーバ リー ダー)を 配 置 し て ,ア メーバ の 経 営 全 般 を 任せ たの です.そ の後,多 角化 が 進 む 中で ,関 連 分野別 に 組 織 を作り, その 中で 工程 別又 は 品種 別に と 組 織 を 細分化 〔して きた〕,営業部 門に おい て も, 同 様 に事 業の 展 開に応 じて ,製 品 別 や 地 域 別 な ど 様々 な 単 位で ア メーバ 組 織 として編 成 し て き たの
です .」(p.42.た だ し 〔 〕 内の 文 言 は筆 者が挿入 し た.以 下同様)
多言 無 用であろ う.事 実の 問 題 と し て ,京セ ラの ア メーバ組 織 は,職 能 部 門 別 組 織の 下で , 製 造 部 門 や 営 業 部 門の 下 位 組 織 とし て 展 開 さ れて き たの である.決 し て ,事 業 部 制 組 織 を 基 礎
とし てア メーバ組 織が発 展 して きた の で は ない .
聞 取 調 査に よっ て 入手した 資 料 に従っ て,ア メーバ 組織の 編成 原理 を 具 体 的に見ておこ う.
ア メーバ
組織は,(1)ま ずラ イン ・ス タ ッ フ制 組織が編成さ れ る.ラ イン 部門は利 益 を 生み出 す