540 金沢大学十全 医 学 会 雑誌 第88巻 第4 号 5 4 0 ‑5 4 8 (1 9 7 9)
心筋梗 塞に お ける a sy n e rg y の超 音波 法 に よ る検討
石川県 立 中央 病 院 内 科
森 清 男
吉 野 公 明
小 野 江 為 久
大 家 他 喜 雄
吉 光 康 平
長 谷 田 裕 一
佐 藤 隆
山 本 英 樹
輪 梅 夫
木 下 弥 栄
( 昭和5 4 年7 月2 5 日受 付)
心 筋梗 塞にお け るa syn e rg y の大き さ や その程 度. す な わ ち dyk in e sis, ak in e sis, hy pok in e sis, a Sy・
n chr o ny な どの状 態を知ること は.心機 能や予後を判
定 する上で必要なことであ る. 今日. 左 室 造影 法あ る い は選 択 的冠動 脈 造 影法が進 歩 普及 し, 生 休の情報を 得るの に最も確か な手段であ ろ う と考え ら れて いる.
し か し, 急 性例や重症 例. 高 齢 者に おい て は, 必 ず し も その実施が 可能では ない. 近 年, 非 観 血 的な超 音 波 検 査を用い て のjL、機 能 評 価に関す る多くの研 究が な さ れて いる.我々は,心筋梗 塞に発 生し た左 室 自 由壁,心 室 中 隔の a syn e rg y を多 断層面で観 察し た症 例を提 示
し,
一方. M モ ー ドU C G に て左 室 壁の運動を定 量 化 し, JL、筋梗 塞 部 位 別に検 討を加え たの で , 超 音 波 検 査 法の有用性につ き述べる.
(1) 症 例
3 4歳の男 性で.午 後1 0時に突 然 胸 内 苦 悶が出現し,
午后 11 時3 0 分 当 院C C U へ収 容さ れ た.その時の心電 図 (図 1) では, Ⅱ, Ⅲ, aV F のS T 上昇, Ⅴ卜6
の R 波 高. V3̲6 の著 明な S T 上 昇が あ り. 下壁
梗 塞及 び広範 囲 前壁 梗 塞の所 見であった. その后,臥
Ⅲ. aV F のS T ほ 正常 化し た が. V3〜6 のS T 上昇は 持 続し, 深いQ 波を残し. 前 壁 梗塞に伴う 心室 瘡の存 在も示唆 さ れ た. 約1 ケ月后に選択 的冠 動 脈 造 臥 左 室 造 影を行っ た.左冠動 脈 前 下 降 枝基 部に 9 0 % の狭 窄 が 認 め ら れ た(図 2 ‑ a). 左 室 造 影で左 喜 前壁に広 範 なak inesis の部 分が み ら れ( 図2 ‑ b),心室 申隔では 収 縮 期に右 室方 向へ突 出す る dysk in e sis の部 位が あ
り, 心室 中隔のa n e u rys m と考え ら れ た. (図2N C)
メ カニ カ ル セ ク タ ス キ ャ ン(A loka S S D ‑ 1 10 S)を 用い て の超 音波 断層図ではl 先ず. 胸骨 左縁 第4肋 間
より 心長 軸 方 向に セ クタ す る と, 心室 申隔 が収 縮期に 右室 側へ膨隆 す る部 分が と ら え ら れ た(図 3 ‑ a). 後 壁の動き も 低下して いた, さ らに セ クタ す る範周を 心 尖 部 方 向に向け ることによ り. 左童心尖部の前 壁, 後 壁 が と ら え ら れ, こ の部が ak in e sis になって いた (図 3 ‑ b ) . 次に, 左 室 造 影 第1 斜 他に相 当す る よ うに,
や や前額 面に近い面に て心尖 郎か らセ クタ す る と, 心 尖 部か ら左 室 前壁 全体を検 出す ること ができ た. 左室 造影 像 と 同様 広 範な強いhy pok in e sis あ るいはaki・
Echo c a rdiograp h ic A n alys IS Of Left V e ntricula r As ynerg y in O l d M yoc a rd ial Infar ctio n・ K i yoo M o ri, E imiaki Yo sh i 叫 TaⅢlebisa O noe, Takio Ob ka, Ⅹ 油ei Y osb iI ni tsu , Y nicb i Iia s eda, Ta‑
ka shi Sato・H i d i k i Y ah am oto・U m eo M iw a a nd Y a s aka K ino shi ta,D epa rtm e ntofInte r n al M e‑
dicin e・Ishi kaw a Pr ef tct ural C e ntr al H o sp ital・
心 筋 梗 塞に おける a syn e rg y の超 音波 法に よ る険 討
風 脚.匂. 3 増y
図 1. 心電図
n e sis であ ること が確 認さ れ た ( 図 3 ‑ C). 一方,
軸面像を みてみ る と. 僧帽弁 レ ベルでは 心室 中隔 や左 室自由 壁の運 動 は良いが ( 図 3 ‑‑ d ).乳頭筋レ ベ ル( 図 3‑ e) さらに心尖 部 近く ( 図 3 【f) で は強いby・ POkin e sis になっ て いるのが と ら え ら れ た.
以 上, 広範囲 左 宝前 壁の hy pok in e sis 及 び ak i・
11 e Sis,比較 的 稀な 心室 申隔 癒を合併 して い る様子 が
記録さ れ た.
(2) M モー ド法に よ る検 討
( 2 ‑1 ) 対象 及 び方法
対象 は, 心血管系に異常のない正常例 1 0 名( N 群). 陳旧性前壁JL、筋梗 塞例 ( 広範 開 校 塞6 名, 前壁中隔 梗 竃4 名)1 0 名( A 群) , 陳旧性 下 壁梗箋 例1 0 名(Ⅰ群),
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陳旧性 前壁 兼 下壁 梗塞例5 名(A + Ⅰ群)の計3 5 名
で あ り, 梗塞部 他の決 定は N Y H A c rite ria c o m ‑ mit te e の分類に従った1). 図4 に示す よ うにポラロ イ ド写 真あ るいは オ シロ ペ ー パ ー によ り記 録さ れ た U C G か ら, S E (S ePal e x c u r sio n), P W E (po ste rio r W all e x c u r sio n). E D D (e ndod ia stolic d im e n ‑ Sio n),E S D (e ndo systolic d im e n sio n) を求め, 2 心 拍の平 均 値で 表わ し. さ らにP W E/S E , S E/E D D .
S E/E S D . S E/E D D ‑ E S D .P W E/E D D . P W E/E S D を計 算し た.
( 2w2) 結果( 図5 〜 8)
S E は, N 群では 5,2 ± 1.8nln( S.D.), A 群で は 2.4 ± 1.1m mで両群 間に有 意の差が 認 め ら れ た. Ⅰ 群は 5.4 ± 3.3m m. A + Ⅰ群では 2.7 ± 1.8m m で, N 群と A + Ⅰ群 間には有意 差が あった. 一 方. Ⅰ 群では. 高値を示し下 壁梗塞によ る下 壁の運 動 障 害に 対す る代 償 性過剰 運動と考え ら れ る例は 1 例のみであ
った.
P W E で は, N 群 1 3.3 ±2 .2 m m. A 群 4.9
± 2.2 m m, Ⅰ群3 .2 ± 2.7 m m , A + Ⅰ群1 3.3
±3.3 m mで. A 群は N 群に比し有意な低 下を示し.そ の他の群聞では差 異は な かった.
P W E/S E で は, N 群2.9 ± 1.5, A 群 4.9
±2 .2,Ⅰ群3.2 ± 2.7. A 十 Ⅰ 群 7.3 ± 3.3 で あ り, N 群 と A 群 及 び A 十 l 群間でや は り有 意差 を 認 め た が, P W E/S E で表わ し た場合, P W E.S E に お
け る よ り も有 意差の程度は か えって滅 弱し た. S E/E D D では, N 群0.1 2 2 ± 0,0 3 2,A 群0.0 5 1
±0 .0 2 5, Ⅰ群0.1.7 ± 0.6 5, A ±Ⅰ群 0.0 4 6
±0 .0 3 4 であ り, N 群と A , A + Ⅰ群 間にて有 意 差 が得ら れ た1.
S E/E S D でも, N 群0.2 1 3 ±0 .0 9 2, A 群0.0 7 2
±0 .0 43.Ⅰ 群 0.0 7 2 ±0.1 2 7, A 十 Ⅰ群0.0 6 7
±0 .0 51 であ り, N 群 と A 群, A + Ⅰ群 間で有 意 差 が 認 め ら れ た.
S E/E S D で表わすと, N 群0.31 . ± 0.0 46 , A 群 0.1 8 3 ±0 .0 7 6, Ⅰ群0 .3 2 0 ±0 .1 2 3, A + Ⅰ 群 0.8 5 1 ±0 .1 0 8 で, N 群と A 群, A + Ⅰ群 問で有 意 差 が あ り, S E/E D D ,S E/E S D と と もに, N 群 間と 明瞭に区別さ れ, 両 群 間で の重な り は, は と ん ど 認 め ら れ な かった.
後壁 運動を み る た めに. P W E/E D D で 表わ す と, N 群 0.3 30 ±0.01 4, A 群0.2 1 8 ± 0.0 6 臥 Ⅰ 群 0.2 4 1 ±0 .0 9 , A 十 Ⅰ群0.22 0 ± 0.0 82 で あ り, N 群に比 し A 群は有 意に低 値を示し た が, Ⅰ群で は 低 値傾 向を 示 す もの の有 意では な かった.
5 4 2 森・ 吉 野 ・ 小野江・ 大 家 ・ 吉 光・ 長谷田 ・ 佐 藤・ 山 本・ 三輪 ・ 木下
C A G L V G
R Å 0
図2. 選択 的冠動 脈 造 影と左室 造 影.
(C A G : 冠動 脈 造 影, L V G : 左 室 造 影, R A O : 第1 斜 位, L A O : 第2斜 位)
b
図3 ‑(a) (b ) 長 軸心断 層 図.
左 図は拡 張 期, 申図は収 縮 期. 右図 は, そ れ ら をト レー シン グ し た もの .
(ⅠV S : 心室 申 隔・ L V ‥ 左 室, L A : 左房, A P E X : 心尖 部)
心筋梗 塞に おける a syn e rg y の超 音波 法に よ る検 討
8
図 3‑(Cj 心尖部か ら, や や前 額 面に近い角 度で セ ク■夕 し たもの .
( A W : 左宝前壁, P W : 左室 後 壁)
f
図 3‑(d )(e)(f) 短軸心 断 層像 (M O : 僧帽弁口, P M ニ 乳頭筋)
P W E/E S D でも, N 群. A 群. Ⅰ群. A + Ⅰ群は それぞれ 0.5 5 3 ± 0.17 7 ,0.3 11 ± 0.1 2 4. 0.3 80
±0.1 9 7,0.3 1 1 ± 0.1 56 であ り, N 群に比 し, A 群. A + Ⅰ 群で有 意に低 値であっ た が, Ⅰ群 問で は 有 意差 は な かった.
考 案
超音 波によ る 心機 能の評 価に関して は, 概に多くの
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論文が あ り, 臨 床 上 き わ めて有 力な手 段であ ること は 知 ら れて いる2 )3,. し か し. M モ ー ド法に て心臓壁の動 き を と ら え る場 合. 単一 ビー ムであ る た めに虚血 性心 疾患で の障害が 局所 的に起るの で, 直 接虚 血 部を と ら える こと が 不 可能な場合が あ る. 近 年. 二次元的に幅 を持ち. ≒リアル タ イム 、に心臓の動 態を み ること が出 来る断 層法が普及 し, M モ ー ド法の欠 点を補な え る ようになっ たヰI. 症例の頓に て示さ れ た よ うに,特に左
5 4 4 森 ・富 野 ・小 野 江・ 大 家・ 吉光 ・ 長谷田 ・ 佐 藤・ 山本・ 三輪・ 木 下
図 4. M モ ー ドU C G とシェ ー マ ( 説 明本 文)
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図 5. 正常 者と 心筋 梗 塞 者のS E, P W E, P W E/S E (N : 正常群t A : 前壁 (闇広範 囲, 血中隔) 梗 塞 群. Ⅰ: 下 壁 梗 塞 群)
心筋 梗 塞に おける a syn e rg y の超 音波 法に よ る検 討
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図 6. 正常 者とJL、筋 梗塞者のS E/E D D. S E/E S D .
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図 7. 正常 者と 心筋 梗 塞 者のS E/E D D ‑ E S D.
室前壁 は M モ ー ド法で記 録す ること は 困難であ る が. 断 層 法で はJL、尖 部より 適当な断 面を 選 べば, 左室 全体
の動き を観 察でき, 観 血 的左室 造影 像に対 応す る 像 を 得る こと ができ る. 又, 心 室中隔 や後壁の運動に関 し てもそ の全体の動 態を 同 時にと ら え ること が 可能であ る. 断 層法で得 ら れ た 画像は.各JL、時 相に て tr a c e し 比 較 する ことに よりa syn e rg y を 評 価 す ること ができ る.
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M モ ー ドU C G 接が. 必 ず し も虚 血 部を と ら え る こ と ができ ない こと は先にも述べた が. 通常の方法にお い て記 録さ れ た場 合に. どの程度心筋 障害を表 現し得 る か を検 討す る た め梗 塞 部 位を 心電 図よ り分 輯し, 左 宴壁 運動を定量化し 比較し た. Co rya は 心電 図 上の 梗塞部 位に 一致 し た収 縮異 常を 8 4 % に見い出し た と
報告 して いる5 I6 l. 我々 の結果で も. 心電図で分 類さ れ
た前壁梗 塞 群は, 収 縮 期の心室 中 編後 方運動が有 意に 低下してお り, と り わ け広範囲前 壁梗 塞 群では その程 度が 強 かった. 又, 前 壁 梗塞 群で は, 後 壁の運動低下 も有意に認 め ら れ た. こ の現象に関して病理学 的立 場 か ら考え る と, 前壁 を栄 養す る血 管は前下 行枝であ る が. これ は 左 冠動脈の枝であ り, 同じ く左冠動脈か ら は 主に左室 後壁に分布す る 回旋枝が分 岐さ れT l,こ の血 管 系にも同時に血流 障害が あ る た め かt あ るいは 左室 後 壁へ ゆ く 右 冠動 脈 系にも 異常が存 在し, 前 壁運動低 下に加え後壁 運動 低 下が 認 め ら れ た ものと推 定さ れ る. とにか く. 前 下 行枝以外の障害が共存し, 心電図 に は現 わ れ ない程 度の虚 血が U C G に て定量化す るこ とに より 心 筋収 縮異常と してと ら え ること ができ た と 言えよう. 又, 二Koli ba sh i ら は}L、筋シンチと U C G 上の心 室中隔 運動を検討 し, 虚 血 像と中隔 運動低下の 相 関 を 得て いる勘.
一方. Joffe ら は, 冠動脈 造 影に て 前下行枝の み に病 変のあ る 症例に て U C G 上の心室 中 隔 。 左 室後 壁運動比 が. 運動低下を表わ す指 標と して
一番 信頼 性が あ る と述べて いる鋸. こ の点,我々 の結果 で は.JL、室 中隔 運動単 独で得ら れ た値よ り一心室 申隔 。 左 室後壁 運動比 は 正常 者との問の有意差の程 度は 減弱