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Ⅰ まえがき 前稿の「支払能力とキャッシュ・フロー会計」では,ヒース(Heath)の

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(1)

配分問題とキャッシュ・フロー会計−トーマス会計思考の検討−

上野清貴

Abstract

Thomas emphasizes that allocations in the traditional accounting are all arbitrary, they can not represent the real-world, and income state- ments prepared by allocations are nonsense. He also asserts that the only way to be allocation-free is to prepare cash flow statements, we should stop allocating and measure things in order to make accounting sense, and report cash flow statements instead of traditional income statements. His accounting thoughts are so-called semantic approaches and ones that lay stress on accounting figures reflecting the external world. Such accounting thoughts have several limitations when we think accounting from the total view point. His financial statements can not describe financial positions nor earning powers of business enterprises.

Moreover, functions of his cash flow statements are not clear because in his accounting thoughts accounting function theories are weak as a result of laying stress on semantic approaches. We have to study ac- counting from the total view point even when we study cash flow ac- counting.

Ⅰ まえがき

前稿の「支払能力とキャッシュ・フロー会計」では,ヒース(Heath)の

所論を中心として,キャッシュ・フロー計算書の目的ないし機能を取り扱っ

(2)

た。すなわち,そこでは,会計の目的は企業の収益力を表示すると共に,企 業の支払能力を表示することであり,これを具体的に行うのがキャッシュ・

フロー計算書であった。それはキャッシュ・フロー計算書の論拠を会計の機 能面から探求したものであり,いわば語用論的アプローチである。

これに対して,本稿で取り扱おうとしてるトーマス

(Thomas)

は,現行 の会計システムにおける固有の問題を解決するものとして,キャッシュ・フ ロー計算書の作成を提唱する白そこにおいて,現行の会計システムにおける 固有の問題とは,棚卸資産の売上原価や固定資産の減価償却の計算にみられ る「配分問題」であり,これらの資産の取得原価を当期の費用と次期の繰越 原価とに配分する方法の問題である。

トーマスによれば,従来の会計における配分はすべて窓意的であり,現実 世界を表すことができず,これに基づいて作成される損益計算書は無意味で ある。そして,この恋意的な配分手続を受けない唯一の会計方法はキャッシ ュ・フロー計算書を作成することであり,会計を有意味にするためには,配 分をやめて測定を行わなければならず,従来の損益計算書に代えてキャッシ

ュ・フロー計算書を公表する必要があると主張する。

これはキャッシュ・フロー計算書の論拠を現実世界との関連性におくもの であり,いわば意味論的アプローチである。このアプローチは,ヒースの語 用論的アプローチと並んで,キャッシュ・フロー会計論を研究してし、く上で 非常に重要であると思われる。そこで,これをトーマスの所論を中心として 詳細に跡づけ,彼のキャッシュ・フロー会計論および会計思考を会計システ ムの総合的見地から検討することが,本稿の目的となる。

以下ではまず,配分の怒意性を減価償却方法を例として明らかにし,その 原因がインプットの相互作用性にあり,その結果,現実世界との非関連性を もたらすことを解明する。次に,配分手続を受けない

3

つの会計方法を紹介 し,その中でキャッシュ・フロー会計が最も優れていることを明らかにし,

さらに,具体的なキャッシュ・フロー計算書を数値例で示す。これらによっ

(3)

て , トーマスの会計思考の全貌が明らかになると思われるので,最後に,彼 のキャッシュ・フロー会計論を批判的に検討し,これに基づいて会計の一般 理論を探求するための今後のとるべき研究方向を示唆することにしたい。

配分の窓意性

前述したように, トーマスは,従来の会計における配分はすべて恋意的で あり,現実世界を表すことができないとする。彼はこれを固定資産(彼の用 語によれば,非貨幣性インプット)の減価償却を例に挙げて詳細に説明して いる。そこで,配分の怒意性を説明するに当たり,固定資産における減価償 却方法の問題点からみていくことにしよう。

減価償却方法の怒意性

トーマスは,固定資産の報告に関して,次のような 3つの減価償却方法を 概念的に区別することができるとする

[Thomas

1974

, 

p.10 

(以下,必要 な場合を除き,年数と頁数のみを示す

)J

。 1 )

( 1 )   市場価値法

(marketvalue)

ある過去の,現在のまたは将来の市 場における見積価値を反映するために選ばれた額で,固定資産が報告さ れる。この場合,減価償却費は期首市場価値と期末市場価値との差額と

して計算される。

)トーマスは別の箇所で減価償却方法を次の

5

つに分類し,最初の

3つは購入原価の配

分であり,後の

2

つは評価的方法であるとしている

[1969.pp. 1718J

(1) 

自由裁量による方法

(arbitraryapproach) 

(2) 

純収益貢献法

(net

‑ r

evenuecontributionsapproach)  (3) 

その他の用役法

(otherservicesapproach) 

(4) 

割引貢献評価法

(discountedcontributionsvaluation approach)  (5) 

時価評価法

(currentpricevaluation approach) 

これらと本文の方法との関係は必ずしも明確ではないが,彼の所論から推定すると,

自由裁量による方法は目的有用法に,純収益貢献法,その他の用役法および割引貢献評

価法は用役貢献法に,時価評価法は市場価値法にそれぞれ対応すると思われる。

(4)

(2) 

目的有用法

(purposeutility)

強調点が固定資産それ自体から財務 諸表の利用者の目的に移行する。これらの目的を最もよく遂行すると思 われる固定資産およびその減価償却費の額が報告される。

(3) 

用役貢献法

(contributions)

その固定資産が現在および将来の期間 に提供するであろう用役が見積もられ,次にまだ提供していないすべて の用役を反映する額で,固定資産が報告される。 l期間の減価償却費は,

その期間に提供したと思われる用役を反映する。

これらのうち,目的有用法は財務諸表の利用者の主観によって、減価償却費 が決定されるので,元来恋、意的であることは明らかである。次に,用役貢献 法であるが, トーマスによれば,これはさらに次の

2

つの方法に区別される

[ 1

974, p.11J

( 1 )   その見積もられた将来用役の割引価値で,固定資産を報告する方法

(2) 

固定資産の取得価格をその用役の提供に比例して配分する方法 これらのうち,前者はいわゆる経済的減価償却と呼ばれるものであり,当 該固定資産が生み出す将来キャッシュ・インフローの割引現在価値に基づい て減価償却費を計算するものである。この割引価値は主観価値であるので,

これに基づいて算定された減価償却費は必然的に恋意的な額にならざるをえ ない。さらに,この方法は実務においてほとんど採用されていない。そこで,

トーマスの減価償却方法の主題は,用役の提供に比例して固定資産の取得価 格を配分する方法に移ることになる。

この方法の典型は伝統的な定額法や定率法である。トーマスはそれらの恋

意性を次のように説明している[1

969

p.27; 1974

, 

p.12J

。ある会計担当

者が定額法を用いるならば,彼は取得価格の同一割合をその見積もられた各

用役提供年数に関係づけているのである。彼が定率法を用いるならば,彼は

取得価格のある変動割合を各用役提供年数に関係づけているのである。しか

しいずれの場合にも,彼は主観的に決定したのであり,取得価格のある一定

部分を各用役提供年数と結びつけたのである。つまり,彼はこの決定を恋意

(5)

的な方法で行ったのである。

取得価格を各用役提供年数に関係づけるこの方法は,さらにレベルを異に する主観的な決定を必要とし,恋意性をもたらすことになる。いま,その会 計担当者がある機械が毎年同じ時間数運転されると予測するので,彼は伝統 的な定額法を採用することに決定したとしよう。この決定はさらに未解決の 問題を残している。すなわち,なぜ機械の各操業時間が取得価格の同一割合 を負担しなければならないのであろうか。ここに無限の後退の危険性がある のであり,つまり,ある仮定を擁護するための各試みは,さらに擁護しなけ ればならない新しい仮定をもたらすのである。

最後に市場価値法であるが,これを議論する場合, トーマスは次の

2

つに 区別し,それらの組合わせによって各市場価値を決定することが慣習的であ るとする[1

974

p.l0J

( 1 )   過去,現在または将来の市場価値を区別する。

( 2 )   販売側と購入側の市場価値を区別する。

これらのうち,ある市場価値法には配分がない。例えば,ある最新モデル の自動車の所有者は,中古車価格の概要を調べることによって,その現在の 販売時価

(currentexit value)

のかなり正確な見積を通常行うことができ る。また,多くの企業は同様に,つまり中古車市場を調査することによって それらの償却資産を配分手続を受けない購入時価

(currententry value)

で 報告することが可能である。

しかしながら,多くの市場価値法は配分を必要とする。例えば,ある会計 担当者は

10

年の耐周年数をもっ償却資産の購入時価の見積に際し,類似した 新資産の購入時価を決定し,次にこの額の

10

分の

l

を減算することによって,

その見積を行うかもしれない。この場合,彼は資産の評価原則として取得原 価に代えて購入時価を適用しているが,その減価償却方法には伝統的な定額 法を採用しているのであり,依然として怒意的な配分を行っているのである

[1974, pp.l0llJ

(6)

以上によって明らかなように,ほとんどの減価償却方法は恋意的であり,

解決できない配分問題を有している。トーマスの言によれば, 1"この問題に 対する一般的な解決は,現在の配分理論および現在の伝統的な規則の枠内で は不可能である。

J

[ 1

969

, 

p.7

7]そして,この解決不可能な配分問題は固 定資産のみならず,棚卸資産や繰延資産にも存在するのであり,現代会計の 固有の問題となっているのである。

インプットの相互作用性

このように,現在の会計には配分問題という固有の問題が内在しており,

そこでは恋意性を必然的に回避できない。このような問題が生じる原因を,

トーマスは次のように述べている。「配分問題が生じるのは,他のすべての 方法に優先しである lつの方法を選択するための決定的な方法が,恋意性を 除いてないからである。スターリングの用語を用いると,配分方法の選択,

それゆえ配分それ自体は検証不能である。どのような配分方法が採用されて いるのかを一度告げられると,その配分結果を再チェックすることは可能で ある。しかし,その選択方法自体が適切であったかどうかを決定するための 決定的な方法はない。

J

[ 1

974

, 

p.2J 

それでは,配分において怒意性が生じる原因はそもそもどこにあるのであ ろうか。これに対して,彼は次のように端的に答えている。「この怒意性の 原因は相互作用という一語で表現することができる。インプットを協働させ ることによって生み出される額が,これらのインプットが別々に稼動して生 み出した合計と異なる場合には常に,インプットは,アウトプット,収益も しくはキャッシュ・フローを生み出すに際して相互作用する

2)oJ 

[ 1

974

, 

)かかるインプットの相互作用性は期間内のみならず,期間間でも存在する。トーマス

によれば,

r

インプットはしばしば期間間で相互に作用する。つまり,ある期間の収益は

しばしば前期間の管理活動や販売活動によって影響を受ける。相互作用のために,ほと

んどすべてのアウトプットは,当年度および前年度の多くの異なったインプットの結合

結果である。

J

[ 1

974

, 

p.16J

このように,インプットの相互作用は企業活動のいたるとこ

ろに存在するのである。

(7)

pp.1516J 

例えば,ある企業に機械,労働力および原材料がインプットされた場合,

それらは全体として製品(アウトプット)を生み出し,収益をもたらすので あって,それらの個々の部分がもたらすのではない。さらに,その機械が数 年間に渡って生産活動を続ける場合,その機械は全体としてその数年間の製 品を生み出すのであって,個々の部分が生み出すのではない。したがって,

アウトプットや収益に対して個々のインプットを配分することは理論的には できず,怒意的にしかできないのである。

すなわち,配分による恋意性の真の原因は,インプットが相互に作用する からであり,これに対する理論的な解決は不可能であり,いかなる配分も無 意味となるのである。このことを, トーマスは次のような警えで表現してい る。「インプットが相互に作用するならば,配分方法のすべてが恋意的とな ることが証明される。ここでの会計人の配分問題は,ある時計の用役を個々 の部品に配分しようとする人の問題に似ている。いくつかの種類の配分を行

うことは機械的に可能であるが,その結果はともすれば無意味である。」

[1969, p. xiiiJ 

現代企業の経済活動において,インプットの相互作用は広く浸透している。

それゆえ一般に,固定資産や棚卸資産およびこれらに関連する費用に対して 現在報告されている額は,通常恋意的であり,正当化することはできないと いうことになる。したがって,これらの資産および費用の意味を特定化する こともできない。彼の言によれば, i インプットは相互に作用し,これらの 相互作用が,財務会計において用いられているインプットの配分に対して,

理論的に正当化することを妨げているのである。J

[1969

, 

p. xiiiJ 

配分の現実非関連性

これによって,配分による恋意性の原因はインプットの相互作用性にある

ことが明らかとなったが,この

25

意性を伴う配分の結果,重大な会計問題が

(8)

生じることになる。それは,このような配分によって報告される固定資産や 棚卸資産およびこれらに関連する費用の額が現実世界と関連をもたないとい うことである。つまり,これらの額が企業の現実世界の経済状態および経済 活動を実際に反映しないということである。

トーマスはこれを次のように述べている。「ある減価償却配分は,あるイ ンプットの取得原価をその耐周年数とみなされる年度間にどのように分割す べきかを表している。しかし,配分がまったく怒意的であるならば,われわ れは取得原価を好きなように分割することができる。かかる配分は現実世界 の分割と関連づけることができない。というのは,現実世界の分割は絶対に 恋意的ではありえないからである。

J

[ 1

974

, 

p.53J 

ある恋意的な配分が実際的な目的で一般に個人またはグループにとって相 互に満足がいくことによって経済共同活動を促進するという場合,それはこ れらの個人またはグループの特性を議論しているのであって,現実世界の特 性を議論しているのではない。個人またはグループが配分を重視する限り,

それは,現実世界の資源配分を生ぜしめるかもしれない個人またはグループ の行動に影響力を有しているけれども,配分それ自体は外部世界に関連して いない。すなわち,目的に対して有用性をもっ配分の主張と,それが現実世 界に存在する現象に何ら影響を及ぼさないこととの間に,両立性がないこと

もないが,いずれにしても配分は現実世界を反映しないのである。

これらのことから, トーマスは配分について次のように結論づける。「こ

のように考えると,われわれが今日まで世界について学んだことは,インプ

ットの個別的貢献についての配分の主張および言明がグループの語用論的言

語レベル上で生じることを示している。たとえそれらが意味論的レベルであ

ると広くまた誤って信じられているとしても,そして,その信念が企業およ

びその投資者に対して重要な実際的影響力を有しているかもしれないとして

も,そうである。かかる主張および言明は暗黙のうちに外部の現象を分離し

ようとし,現実世界の分割に関連づけようとしているが,関連づけていない

(9)

のである。したがって,財務諸表が配分を含む限り,それは実際に企業につ いての報告では決してなく,その経済状態もしくは活動に関連していないの である。

J

[ 1

974

, 

p.60J 

このように配分が現実世界に関連づけられないのであれば,それはもはや 測定ではなく,科学ではない。測定とは一般に,事物にある一定のルールに 従って数値を割り当てることと解されているが,その前提は,測定結果とし ての数値が現実世界に関連し,現実世界を反映するということである。そし て,その関連づけられた数値が科学的に認知されるのである。この意味から するならば,配分は科学でも測定でもないということになる。

そして,配分は測定ではなく,科学ではないならば,配分をやめるべきで あり,会計は科学としての測定を行うべきであると, トーマスは主張する。

すなわち, I 科学は,完全にあいまいな配分を『測定』と呼ぶことを禁止す るという非常に乱暴な言葉の意味で,事物を測定する。財務諸表が会社の活 動および状態を反映するということを,われわれ会計人が公言し続けるなら ば,われわれはそれらを測定面からも構築しなければならない。というのは,

そうすることが『科学的』であるのみならず,すべての学問分野において首 尾一貫した説明の本質であるからである。われわれは伝統的な対応概念を捨 て,配分をやめるべきである……。

J[1979

, 

p.29J 

配分手続を受けない会計方法

前節で明らかにしたように,会計を科学的に行うためには,配分をやめて

測定を行わなければならない。それには,配分手続を受けない会計方法を構

築する必要がある。そこで本節では,その会計方法を

3

つ紹介し,それらの

うち, トーマスの見解にしたがって,キャッシュ・フロー計算書の作成が最

も優れた会計方法であることをみていくことにしよう。

(10)

3

つの会計方法

トーマスは,配分手続を受けないで測定を行う会計方法が 3つあるとする。

それらは次のとおりである[1

974

p. 159; 1979

, 

p.26J

。 ( 1 )   購入時価会計

(2) 

販売時価会計

( 3 )   キャッシュ・フロー会計

購入時価会計はカレント・コスト会計とも呼ばれ,資産を購入時価もしく はカレント・コストによって測定する会計である。この会計の代表的提唱者 はエドワーズ=ベル

[Edwardsand BelL 196

1]であり,その後,欧米の学 者および会計原則設定団体によって展開されてきたものである。

この購入時価会計において,固定資産,例えば機械の購入時価を計算する のに次のようないくつかの方法がある[1

974

p.ll

1 ] 。

( 1 )   類似の新機械の購入時価を決定し,それから実際の保有機械に関して その時までの減価償却額を計算し,保有機械の購入時価を調整する。

(2) 

機械の減価償却された歴史的原価を,そのタイプの機械の物価指数で 調整する。

(3) 

保有機械と同じ種類および物理的状態の機械に対して,中古設備のデ ィーラーに支払わなければならないであろう額を決定する。

前節で示唆したように,これらのうち,最初の

2

つは伝統的会計と同じ配 分問題を明らかに含んでいる。というのは,これらにおいて伝統的な減価償 却の手続がとられるからである。第 lの方法では,減価償却費は新資産の購 入時価に配分手続を適用して計算され,第

2

の方法では,伝統的な減価償却 額に当該資産の個別物価指数を乗じて算定されることになる。これまで提唱 されてきた購入時価会計のほとんどはこれらのタイプのものであり,それら は配分問題に悩まされていた。

これに対して,第

3

の方法は配分手続を受けない。ここでは,資産の購入

時価は中古市場において決定された購入時価で計算され,減価償却費はこの

(11)

ようにして決定された期首購入時価と期末購入時価との差額として算定され るからである。この方法はベル=ジョンソン

[Belland Johnson

, 

1979J

に よって初めて提唱されたものであり,配分手続を受けない会計方法としての 購入時価会計は,まさにこの方法のみを指しているのである。

販売時価会計は売却時価会計とも呼ばれ,資産を販売時価もしくは売却時 価によって測定し,減価償却費を当該資産の期首販売時価と期末販売時価と の差額として計算する方法である。この会計の代表的提唱者はチェンパース

[Chambers

, 

1966J

とスターリング

[Sterling

1970J

である。

この販売時価会計では,配分手続を受ける余地はまったくない。ここでは,

減価償却費の計算さえ測定である。というのは,それは測定手続に基づいた 期首販売時価と期末販売時価との差額として計算されるからである。確かに,

資産の販売時価は近似値にならざるをえず,販売市場に乏しい資産は特にそ うである。トーマスによれば, I しかし,これは科学において一般的な推定 問題の性質のものであり, (費用と収益の一筆者)対応につきまとう根本 的なあいまいさを決して含まないのである。

J[1979

, 

p.27J 

すなわち,かかる資産に関する問題はあくまでも測定問題であり,測定方 法をいかに精微化するかの問題であるのである。伝統的会計と販売時価会計 との根本的な相違は,伝統的会計が必然、的に配分手続を受け,現実世界を反 映しないけれども,販売時価会計は本質的に測定による会計であり,現実世 界と関連をもっ会計なのである。配分問題と測定の精級化問題とを混同して はならないのである

3)

)もっとも, トーマスは

[1969J

ではこのように考えておらず,販売時価会計に対して

かなり批判的であった。彼は次のように述べていた。「不幸にも,チェンパースが『販売

不能耐久財』と呼ぶすべてのものを含む多くの資産に対して,直接的評価は不可能であ

る。直接的評価の市場価値に代替する額を得る様々な方法が,そのような資産に対して

提示されるかもしれない。しかし,これらの方法のすべては,われわれが避けようとし

ている種類の配分を含んでいる。

J

[ 1

969

p.91J

また,

r

チェンパースの方法は,代替物

なしのその『純粋な』形式において,現在の会計実務からの極端な離脱である。つまり,

(12)

キャッシュ・フロー会計は現金の収支に基づいてキャッシュ・フロー計算 書を作成する会計であり,配分手続を受ける余地のまったくない会計である。

トーマスはこれを「正味当座資産資金計算書

J(netquickasset funds state ment)

と呼んでおり,資金概念として当座資産(現金預金,受取債権,そ の他のすべての流動貨幣性資産)から流動貨幣性負債を控除した正味当座資 産概念を採用している。

トーマスは,キャッシュ・フロー計算書(正味当座資産資金計算書)の作 成に際して,経常項目と特別項目とを区別することを主張する。経常項目と は,主として営業活動から生じるキャッシュ・フロー項目であり,これによ って営業からの資金が計算される。特別項目とは,工場設備などの非貨幣性 資産の購入および売却から生じるキャッシュ・フロー項目であり,上記の営 業からの資金からこれを控除することによって,当期の正味当座資産の増減 が計算されることになる

[1974

pp.119120J

しかし,次節で詳細にみるように,彼の示した具体的なキャッシュ・フロー 計算書は,近年のFASB(米国財務会計基準審議会)等で公表されたキャッ シュ・フロー計算書と同様に,営業活動,投資活動および財務活動に不完全 ながら区分されている。このことは興味深いことであるが,いずれにしても ここでの強調点は,このようにして作成されるキャッシュ・フロー計算書が,

上述した購入時価会計および販売時価会計と同様に配分手続をまったく受け ないということにある。

それは極端過ぎるので,彼の方法は利益決定問題を解決するというよりも,避けている と多くの人は感じるであろう。

J

[ 1

969

, 

p. 94J 

しかし,

[1974J

ではそれは誤りであったとして,次のように考えを訂正している。「こ れらの反論は,私が伝統的会計のフレームワークと密接に結びつけたことから生じた。

これらに対する応答を,チェンパースの論文にみることができる。彼にとって,財務会 計の目的は,

(a)

企業の現在の状態,特に購買力に対する企業の現在の支配力を報告する ことであり,

(b)

その購買力の変動に反映されるものとしての,企業の過去の変動の(総 体的な)結果を報告することである。販売時価の使用はこれを本質的に首尾一貫して成

し遂げる。

J

[ 1

974

p.

1 l

3J 

(13)

キャッシュ・フロー会計の推奨

以上によって明らかなように,配分手続を受けない会計は,一部の購入時 価会計,販売時価会計およびキャッシュ・フロー会計であるが,次に問題と なるのは,これらのうちどの会計システムを現実の会計において選択すべき かということである。これに関して, トーマスは,配分問題と並んでもう

I

つの重要な基準である総計問題

(aggregationproblem)

を持ち出す。そし て,総計問題がないのはキャッシュ・フロー会計だけであるので,この会計 を推奨すべきであると主張する

ここで,総計問題とは,グループで売買される資産の価額が,それらの資 産が個別に売買される場合の価額の総計としばしば異なるという問題であ る。この問題と各会計との関係を考察してみると,購入時価会計および販売 時価会計の場合,この総計問題は明らかに存在する。すなわち,購入時価会 計においては,諸資産の個々の購入時価総計はこれらの諸資産をグループで 購入する場合の購入時価総計に一致しない。同様に,販売時価会計において は,諸資産の個々の販売時価総計はこれらの諸資産をグループで販売する場 合の販売時価総計に一致しない。

これに対して,キャッシュ・フロー会計には総計問題がない。というのは,

この会計では,現金もしくは正味当座資産が実際に企業の支配下に入ったり 出て行ったりした時に,それらが単純に計算されるので,総計問題は生じな いのである。換言すれば,キャッシュ・フロー会計は実際に発生したキャッ シュ・フローを計算するので,総計問題を回避するのである。そしてこのよ うに,キャッシュ・フロー会計は配分問題と共に総計問題をもクリアするの で , トーマスはこの会計を最良の会計方法として推奨するのである。

それでは,購入時価会計および販売時価会計をまったく適用すべきではな

いのかというと,必ずしもそうではない。彼によれば,この総計問題は取得

原価主義会計ないし歴史的原価主義会計にも内在しているのであり,これは

会計において配分問題ほども重要な問題ではないのである。すなわち, I 総

(14)

計問題は歴史的原価主義会計をも悩ませる。したがって,それらが配分手続 を受けない限り,いずれの時価法も伝統的な歴史的原価主義会計よりも望ま しい。このことから,今日の企業会計に関わっている改革者は協力すべきで あり,いずれの配分手続を受けない時価法が専門家によって最も良く受け入 れられるとしても,その時の状況に応じて続行すべきであると思われる。」

[ 1

979, pp.2728J 

すなわち,彼によれば,キャッシュ・フロー会計を正式に行うべきである が,総計問題は時価主義会計の意義を奪い取るほど重大ではないので,購入 時価会計および販売時価会計のいずれかがその時の状況に応じてキャッシュ

・フロー会計を補足すべきであるというのである[1

98

, 1

p.130J

。そして,

ここに,キャッシュ・フロー会計と時価主義会計との結合の可能性が生じて くるのであり,時価主義会計が補足的な役割しか与えられないとしても,こ の可能性が非常に重要となるのである。

具体的なキヤ ソシュ・フロー会計

これによって,配分手続を受けないキャッシュ・フロー会計が最良の会計 システムであるという, トーマスの主張が明らかになった。そこで,本節で は改めて,彼の会計理論の全貌を明らかにするために,彼の提案する具体的 なキャッシュ・フロー会計を提示し,さらに,それに基づくキャッシュ・フ ロー計算書の具体例を示してみることにしよう。

キャッシュ・フ口一会計の具体的提案

トーマスは,キャッシュ・フロー会計およびキャッシュ・フロー計算書の 作成に関する基本原則を以下のように提案している

[1974

pp.119121J

( 1 )   キャッシュ・フロー計算書における「資金」概念は,すべての非貨幣

性資産および負債を除外すべきである。これは正味当座資産資金計算書

の作成を意味する。ここで当座資産とは,現金預金,受取債権,その他

(15)

のすべての流動貨幣性資産から流動貨幣性負債を控除したものである。

( 2 )   (伝統的な損益計算書および資金計算書に対応する)カレントな活動 計算書(キャッシュ・フロー計算書)を作成すべきである。それは営業 資金の詳細な計算書から始まるものであり,経常項目と特別項目とをす べて区別することが必要である。これは,非貨幣性資産の購入支出から かかる資産の営業外売却収入を控除して非貨幣性資産取引の資金結果を 計算し,これを営業資金から控除することによって行われる。

( 3 )   この営業資金から非貨幣性資産取引の資金結果を控除した小計に,配 当金やその他の慣習的に資金計算書に現れるデータが続く。

( 4 )   伝統的な貸借対照表は,

(a)

貨幣性資産・負債計算書および ( b ) 現在稼 働中のすべての非貨幣性資産の非償却額計算書によって取り替えられ る。技術的には,これらの額は歴史的原価,購入時価もしくは販売時価 で評価されるであろう。株主持分は,企業がその株式に対して受け取っ た額株当たりの価値,発行済株式数等の累積的な報告によって表す

ことができる。

( 5 )   キャッシュ・フロー計算書の使用と共に,伝統的な損益計算書および 貸借対照表からのわずかな離脱があるであろう。例えば,税配分は中止 されるであろう。現在の税配分実務は配分問題を含んでいるからである。

( 6 )   キャッシュ・フロー計算書を通じて,正味当座資産の厳密なインフ ローおよびアウトフロー指向ができる限り保持される。それは「対応」

もしくは他の配分方法の試みではない。これは,損益計算書をキャッシ ュ・フロー計算書に変更することの最も大きな理由である。損益計算書 は伝統的な報告と同様に窓意的な配分を生ぜしめ,さらにそれは粗末な 対応をもたらすのである。

( 7 )   配分手続を受けない報告書への変更によるキャッシュ・フロー計算書

の導入は,古い報告書が継続して作成される長い転換期を経験するであ

ろう。この転換期において,新しい計算書を古い計算書とできるだけ類

(16)

似するように作成することが望ましい。

これらの提案は要するに,伝統的な損益計算書に代えて,配分手続を受け ないキャッシュ・フロー計算書を正味当座資産概念に基づいて作成し,伝統 的な貸借対照表に代えて,貨幣性資産・負債計算書および非貨幣性資産‑資 本計算書を作成するということである。そして,キャッシュ・フロー計算書 は営業活動とそれ以外の活動とに区分され,非貨幣性資産は歴史的原価,購 入時価もしくは販売時価で評価されるということである。

キャッシュ・フ口一計算書の具体例

これらの提案に基づく具体的な数値例を, トーマスは[1

974J

では示して いないが, [ 1

969J

においてキャッシュ・フロー計算書だけではあるが示し ている。それゆえ,以下ではこれをみていくことにする。まず,ある期間の 取引は次のとおりである[1

969

p.108J

( 1 )   当期の売上高は

2

160

ドルであり,売上原価は

1

200

ドルとして計算さ れ,商品の購入高は

1

180

ドルであった。

(2) 

当期の支払利息は

80

ドルであり,営業費は

480

ドルであった。

(3)

設備の減価償却費は

240

ドルであり,建物の減価償却費は

30

ドルであ

f

こ。

(4) 

帳簿価額が

300

ドルの中古設備を

220

ドルで売却し,

60

ドルで購入した 士地を

290

ドルで売却した。

(5)  200

ドルの配当を宣言し,支払った。

(6)  670

ドルの設備と

100

ドルの建物を購入した。

(7) 

増資株式

500

ドルと社債

100

ドルを発行した。また,担保付長期借入金 の元本

300

ドルを返済した。

これに基づいてまず損益計算書を作成すると,次のようになる[1

969

p.108J

。もっとも,この損益計算書はキャッシュ・フロー計算書に取って

替えられることになる。

(17)

損 益 計 算 書

芯…

売 上 高

2

, 

160 

用 :

売 上 原 価

 1200 

減価償却費

270 

支 払 利 息

80 

営 業 費

480  2

030 

営 業 利 益 s 

130 

営業外損益:

土地売却益 s 

230 

設備売却損

80  150 

純 利 益 s 

280 

配 当 金

200 

留保利益増加 s 

80 

キャッシュ・フロー計算書は,まずその原初的な形態において次のように 作成される[1

969p.109J

。これは正味当座資産の源泉と使途をそれぞれ の項目別に区分して示したものである。

キャッシュ・フロー計算書 源 泉

営業からの資金:

収 入 :

売 上 支 出 :

商 品 の 購 入

支 払 利 息

 1180  80 

2

160 

(18)

営 業 費 営業資金 固定資産の売却収入

設備の売却 土地の売却 持分の発行収入

株 式 資 本 社 債

正味源泉 使 途

固定資産の購入 設 備

建 物

持分の償還

長期借入金の返済

配 当 金

正味使途

当期正味当座資産増加

480 

220  290 

500  100 

670  100 

1

740 

$  420 

510 

600 

  , 1

530 

$  770 

300  200 

$ 1 ,  

270 

$  260  前述したように, トーマスは,この種のキャッシュ・フロー計算書が損益 計算書に代替するならば,財務諸表の利用者が現在慣れている損益計算書の いくつかの用語を残しておくことが望ましいとする。次の計算書はその例の lつであり,これが彼の考えているキャッシュ・フロー計算書である[1969 p.110J

売 上 高 支 出 :

キャッシュ・フロー計算書

2160 

(19)

売 上 原 価

  , 1

180 

支 払 利 息

80 

営 業 費

480  1

740 

当期営業利益 s 

420 

工場設備の取替と拡張 s 

260 

配 当 金

200  460 

財務活動前の資金正味減少 s 

(40) 

長期財務活動

発行株式資本 s 

500 

発 行 社 債

100 

長期財務活動合計 s 

600 

長期借入金の返済

300  300 

当期正味当座資産増加 s 

260 

このキャッシュ・フロー計算書は, トーマスのいうように,営業活動とそ れ以外の活動とに区分されているが,既述のように,近年の

FASB

等で公 表されたキャッシュ・フロー計算書と同様に,営業活動,投資活動および財 務活動に不完全ながら区分されていることに注意する必要がある。すなわち,

FASB

と異なるのは配当金の区分のみであり,

FASB

ではこれは財務活動 に区分されるが

[FASB

1987

, 

par.20J

,ここではいわゆる投資活動の次に 計上され,財務活動として認識されていないことが,唯一の異なるところで ある。

V  キャッシュ・フロー会計の検討

これまで,配分手続を回避する会計としてのキャッシュ・フロー会計に関 するトーマスの主張および彼の会計に対する基本的な考え方をみてきた。こ れによって, トーマスの会計思考の全貌が明らかになったことと思われる。

そこで本節では,かかるキャッシュ・フロー会計の特徴をいくつかの論点に

(20)

絞って批判的に検討し,これに基づいて,キャッシュ・フロー会計および会 計一般に対して今後とるべき研究方向を探求することにしたい。

損益計算書の放棄

これまでみてきたように, トーマスは伝統的な損益計算書に代えてキャッ シュ・フロー計算書の作成を提唱する。これは,損益計算書における売上原 価や減価償却費が配分手続を受けるので,損益計算書が必然的に恋意的とな り,企業の経済活動,つまり現実世界を正確に表せないためである。そして,

これに対して,キャッシュ・フロー計算書は恋意的な配分手続を受けないの で現実世界を反映することができ,損益計算書よりも多くの情報を提供する ことができると主張するのである。

トーマス自身の表現によると,伝統的な損益計算書は努力と成果とを対応 させようとするが, I キャッシュ・フロー計算書は努力と成果とを対応させ る努力を一切やめる。不幸にも,現在受け入れられている会計も努力と成果 を対応させていない。かかる対応を行うために無限に多くの方法が示される ならば,各方法は他のすべての方法と同様に妥当であり,うまくいっている 対応に反対する可能性はほとんどなくなる。

J[

1

98

  , 1

p.129J 

そして,次のようにいう。このような「対応の試みは,善が報いられるの みならず,まさに比例的に報いられるという無邪気な世界を思い起こさせる。

この高潔な考えの人気が説明できるのは,観念的な配分が現実の生活から保 護されているからであるということのみである。これとは対照的に,キャッ シュ・フロー報告は経済現象にしっかりと基礎をおいており,感傷的な空想 の世界に基づいていない。それは,努力が生じた時に努力を報告し,成果が 生じた時に成果を報告するのであり,利益におけるようにこの

2

つを混同す ることはない。

J[

1

98

  , 1

p.129J 

このような理由で, トーマスは損益計算書を放棄し,キャッシュ・フロー

計算書を提唱するのであるが,これは取りも直さず「利益測定の放棄」につ

(21)

ながることになる。伝統的な考えに基づく損益計算書では,利益の測定は絶 対に正確に行われないので,この際利益測定を中止し,その代わりに正確に 計算できるキャッシュ・フローの測定を会計において全面的に行おうという のである。

このことを,彼は次のように述べている。「利益を決定するための努力に 対する究極の失敗の可能性も考えるには,今が潮時である。利益決定は,ほ とんどの会計人が信じているほど現実には必要でないかもしれない。ある代 替物(キャッシュ・フロー計算書一一筆者)が利用可能であり,それはすでに 理論的観点および実務的観点から詳細に探求されたものである。配分問題を 回避することに加えて,この代替物が財務諸表のほとんどの読者にとって容 認しうる良い機会がある。利益概念が放棄されるとしても,財務会計は今よ りも悪くならないであろうし,おそらく良くなるであろう。

J

[ 1

969

, 

p.10

1 ]  

以上が損益計算書および利益測定を放棄することのトーマスの理由である が,ここで考えなければならないのは,このような論拠の背後には,次のよ うな考えがあるということである。

( 1 )   損益計算書とキャッシュ・フロー計算書は補完関係にはなく,競合関 係にある。

(2) 

配分手続を受けない購入時価会計もしくは販売時価会計で損益計算書 を作成することをほとんど考えていない。

まず, トーマスの会計理論において,損益計算書に代えてキャッシュ・フ ロー計算書を作成するということは,企業の経済活動を表すに際して,両計 算書は競合関係にあるということを意味している。すなわち,企業の経済活 動を表すという会計目的に対して,両計算書は競合し合う関係にあり,この 会計目的を遂行するためには,損益計算書よりもキャッシュ・フロー計算書 の方が優れているといっているのである。

しかしながら,前稿で述べたように,両者の計算目的は元々異なるのであ

り,それぞれ別の会計目的を有しているのである。すなわち,損益計算書は

(22)

企業活動の損益面を表す財務諸表であり,企業の収益力を示す計算書である。

これに対して,キャッシュ・フロー計算書は企業活動の現金の動きを表す財 務諸表であり,企業の支払能力を示す計算書である。これらは共に企業活動 の重要な目的に対する成果を表す財務諸表であり,両者が相侠って補完しな がら企業の業績を評価するのである。

このようにみれば,利益測定およびキャッシュ・フロー測定は共に企業の 重要な会計目的であり,これらを表す損益計算書およびキャッシュ・フロー 計算書は共に企業にとってなくてはならない計算書なのである。したがって,

これらの計算書は競合関係にはなく,補完関係にあるのであり,このことを 留意しておくことが重要である。

それにもかかわらず, トーマスが損益計算書とキャッシュ・フロー計算書 とを競合関係におき,企業活動を表すのに前者よりも後者が優れているとし たのは,損益計算書で利益計算が究極的にできないからであった。そしてそ の理由は,伝統的な損益計算書には恋意的な配分が付きまとうということで あった。

しかし, トーマスは現実に,キャッシュ・フロー会計を補足するものとし て,配分手続を受けない購入時価会計および販売時価会計を提唱しており,

これによると,時価主義会計による損益計算書の作成が可能なはずである。

ところが,彼がそれをしないのは,購入時価会計もしくは販売時価会計によ って損益計算書を作成することをほとんど考えていなし、からである。損益計 算書をキャッシュ・フロー計算書に代替することのみに専念した結果,損益 計算書を時価主義会計で作成する可能性をはじめから考えつかなかったのか

もしれない

しかしながら, トーマスはキャッシュ・フロー会計と配分手続を受けない

時価主義会計とは両立すると述べているのであり,この考えを一貫させるな

らば,損益計算書を購入時価会計もしくは販売時価会計に基づいて作成すべ

きであったのである。彼の具体的な会計に対する提案では,時価主義会計を

(23)

適用するのはせいぜい非貨幣性資産の評価までであり,財務諸表としての非 貨幣性資産・資本計算書においてのみである。この意味で,彼の会計理論は 不完全であると思われるのである

4)

会計機能論の希薄性

前項において, トーマスが損益計算書を放棄してキャッシュ・フロー計算 書の作成を主張する理由を明らかにしそれを検討したが,彼の会計思考の 根底に損益計算書および利益測定を放棄するもう lつの理由があると考えら れる。それは,彼が利益測定を過小評価し,損益計算書の機能を認識してい ないということである。

これまでしばしば述べてきたように, トーマスが損益計算書の作成を中止 する元々の理由は,伝統的な損益計算書は必然的に恋意的な配分思考に基づ いて作成されるので,企業の経済活動および経営成績を正確に表すことがで きず,無意味であるということであった。これは論理学における意味論的領

)トーマスは,キャッシュ・フロー計算書や貸借対照表の限界とそれらの限界を認識す ることの正当性を次のように述べている。「すべての妥当な報告方法は,それらができる ことに限定され,これらの限界を認識することは,それらを傷つけることではない。例 えば,キャッシュ・フロー報告はあるものを非常に良く測定するが,購入時価および販 売時価の変動を,これらが現金取引に反映される場合を除いて,報告するように構想さ れていない。これを見落としている会計方法の比較は,少々不毛である。同様に,配分 手続を受けないキャッシュ・フロー,購入時価もしくは販売時価の報告が(伝統的に考 えられているような)利益および資本維持を測定しないという不平は,まったくの的は ずれである。それらはそうすることを意図されていない。むしろ,正しい問題は,何ら かの報告システムが標準的な利益および資本維持を有意味に明確な方法で報告できるか どうかということである。本稿の分析が正しいならば,どのシステムもそれを行うこと ができず,それを行おうとすることは不可能なものを試みることであるということを,

それは証明した。

J

[ 1

979

, 

p. 28J

しかしながら,彼はここでも購入時価会計もしくは販売

時価会計による利益測定の可能性とその意味を考察していないのである。

(24)

域に属する問題であり,意味論的考察から得られた結果である。そこには損 益計算書の機能や利益測定の役立ちを考える語用論的考察がまったくないの である。そして,伝統的な損益計算書は意味論的に欠陥を有しているので,

それを簡単に放棄できるのである。

これはトーマスの会計思考のほんの一例であり,一般に,彼は各財務諸表 の機能を考えないきらいがある。例えば,彼は損益計算書に代えてキャッシ ュ・フロー計算書の作成を提唱するが,その理由は,キャッシュ・フロー計 算書が配分手続を受けないということだけであり,それの機能や役割を論じ ないのである。そして,次のようにいうだけである。「キャッシュ・フロー 計算書は損益計算書よりも情報を提供する。その理由は簡単である。キャッ シュ・フロー計算書には限界があるけれども,それは少なくともかく乱情報 で粉飾しない。

J[198

  , 1

p.129J 

それはトーマスの貸借対照表に対する考えにも現れている。彼は貸借対照 表に関して,伝統的な貸借対照表を

2

分割して,貨幣性資産・負債計算書お よび非貨幣性資産・資本計算書の作成を提唱する。そして,既述のように,

非貨幣性資産を購入時価もしくは販売時価で評価することを主張する。しか し,彼はこれらの計算書にどのような機能や役割があるのかをまったく論じ ないのである。

おそらく, トーマスが伝統的な貸借対照表を

2

分割したのは,貨幣性資産 および貨幣性負債は元来配分手続を受けない会計項目であり,非貨幣性資産 は配分手続を受ける会計項目であるので,両者の性格の相違からこれらを分 けようとしたのであろう。これはあくまでも配分問題を考えてのことであり,

これらの計算書の機能を考えてのことではない。ここに再び,彼の会計に対 する意味論的思考が全面的に出るのであり,語用論的考察がほとんど行われ ないのである。

トーマスにおける会計機能論の希薄性は,さらに非貨幣性資産を評価する

方法にも現れている。彼は非貨幣性資産を購入時価もしくは販売時価で評価

参照

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