難治性疾患における服薬カウンセリングの患者報告アウトカムに基づく定量的評価に関する研究
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(2) . 目次 . 略語一覧 .................................................................. 1 緒言 ...................................................................... 2 第一章 乳がん患者における服薬カウンセリング前の QOL とその決定因子 ........ 3 第一節 序論 ............................................................ 3 第二節 方法 ............................................................ 3 第三節 結果 ............................................................ 7 第四節 考察 ........................................................... 13 第二章 乳がん患者における服薬カウンセリングに対する選好傾向:離散選択実験15 第一節 序論 ........................................................... 15 第二節 方法 ........................................................... 16 第三節 結果 ........................................................... 22 第四節 考察 ........................................................... 30 第三章 がんおよび HIV 感染症患者の治療選択における「意志決定の葛藤」に与える ......................................................................... 33 服薬カウンセリングの影響 ................................................. 33 第一節 序論 ........................................................... 33 第二節 方法 ........................................................... 34 第三節 結果 ........................................................... 38 第四節 考察 ........................................................... 50 総括 ..................................................................... 52 研究結果の掲載誌 ......................................................... 54 謝 辞 ................................................................... 55 引用文献 ................................................................. 56 付録 1 離散選択実験に用いた属性と基準の説明 ............................. 63 付録 2 Decisional Conflict Scale 日本語版 ............................... 64 付録 3 用語について ..................................................... 65 . .
(3) 略語一覧. AGFI. ;. Adjusted goodness of fit index. AIC. ;. Akaike’s information criterion. AP. ;. Appetite loss (used in EORTC QLQ-C30). ART. ;. Antiretroviral therapy. BRFU. ;. Future perspectives (used in EORTC QLQ-BR23). BRST. ;. Systemic therapy side effects (used in EORTC QLQ- BR23). C.I.. ;. Confidential interval. DCE. ;. Discrete choice experiments. DCS. ;. Decisional conflict scale. EF. ;. Emotional functioning (used in EORTC QLQ-C30). EMA. ;. European Medicines Agency. EORTC. ;. European Organisation for Research and Treatment of Cancer Core Quality of. QLQ-C30. Life Questionnaire. FA. ;. Fatigue (used in EORTC QLQ-C30). FDA. ;. Food and Drug Administration. GFI. ;. Goodness of fit index. GHS. ;. Global health status (used in EORTC QLQ-C30). HIV. ;. Human immunodeficiency virus. IIA. ;. Independence of irrelevant alternative. OR. ;. Odds ratio. PRO. ;. Patient reported outcome. QOL. ;. Quality of life. RMSEA. ;. Root mean square error of approximation. S.D.. ;. Standard deviation. SDM. ;. Shared decision making. S.E.. ;. Standard error. . 1 .
(4) 緒言 薬剤師の役割は国際的に大きな変革期にあり、従来の医薬品管理を中心とした業務に加え、 「患者中心の医療」の提供が求められている。「患者中心の医療」という概念は、欧米にお いて広く浸透しつつあり、新薬開発では患者の声が重要視されるようになっている。患者の 声をデータとして測定すること、つまり、医療者など他者の介入が含まれない、患者から直 接得られた報告に基づく健康状態に関する測定は、患者報告アウトカム(Patient reported outcome; PRO)と呼ばれている。PRO とは、 「患者の回答について、臨床医や他の誰の解釈も 介さず、患者から直接得られる患者の健康状態に関するすべての報告である」と定義されて いる 1)。Basch らの報告によれば、患者は自身の症状を評価するのに最も適した存在であり、 また医療者は、訴えのある症状を患者よりも軽症に評価する傾向がある 2)。そのため、患者の 主観的な症状を対象にした医薬品の承認申請においても、PRO の測定が重要視されている。 PRO は生活の質(Quality of Life; QOL)や有害事象、アドヒアランスの評価のみならず、新薬 の価値評価、医薬品の承認申請にも用いられているが、患者主観を評価に取り入れるため、 使用する尺度や試験デザインには注意点があり、アメリカ食品医薬品局(Food and drug administration; FDA)、欧州医薬品庁(European medicines agency; EMA)は臨床試験における PRO の使用に関するガイダンスや考察書を公表している。このように、患者中心の医療の普 及に伴い、患者の価値観や患者自身による直接評価の重要性が認知され、臨床試験に用いる 方法論が整備されつつある。 薬剤師が患者に提供する重要なケア、かつ役割の1つに、服薬カウンセリングがある。患 者を中心とした服薬カウンセリングには、単に服薬方法や副作用を伝達するのではなく、心 理・社会的側面に配慮し、治療目標を共有する双方向性のコミュニケーションが必須となる。 この患者中心の服薬カウンセリングが、患者のアドヒアランスや QOL を向上させることがで きると考えられている。本邦において、がんやヒト免疫不全ウイルス(Human immunodeficiency virus; HIV)感染症、腎臓病など様々な領域における専門薬剤師・認定薬剤師制度が設立され、 薬剤師の専門的な役割が期待されている。しかし、薬剤師の服薬カウンセリングに関するエ ビデンスは乏しく、薬剤師—患者間のコミュニケーションなどを含め、その在り方は未だ発展 途上である。 以上の背景から、本論文では薬剤師の重要な職能の1つである服薬カウンセリングについ て、PRO に基づいた評価法の開発と、その定量的評価を目的とした。第一章では、がん薬物 療法開始前の乳がん患者における QOL を後方視的に解析し、服薬カウンセリング時の QOL とその決定因子について探索した。第二章では、服薬カウンセリングに対して乳がん患者が 期待する価値観を評価するために、離散選択実験(表明選好法)を用いてその選好傾向を評 価した。更に第三章では、難治性疾患患者に対する服薬カウンセリングの有効性を評価する ために、がん及び HIV 感染症患者の治療選択における「意思決定の葛藤」を定量化する尺度 の日本語版を開発し、これを用いて薬剤師による服薬カウンセリングの影響を前後比較試験 にて検討した。. . 2 .
(5) 第一章 乳がん患者における服薬カウンセリング前の QOL とその決定因子 第一節 序論 乳がんは本邦の女性において罹患者数が最も多いがんであり、その発症率は世界的に増加 している。新規に乳がんと診断された患者は、2007 年時でその 10 年前から 60%ほど増加し、 5 万人超となっている. 3, 4). 。乳がんと診断されることは、近年の臨床試験においてその測定が. 必須である QOL に影響し、ストレス要因になると考えられている 5)。実際に、精神的苦痛は 乳がんの死亡率、コンプライアンス、QOL に影響することが報告されている。また、新規に 乳がんと診断された患者の鬱(うつ)の有病率は 1.5〜4.6%とされおり、更に、術後の全身治 療は患者の QOL に悪影響を及ぼすことが明らかとなっている. 6-11). 。したがって、薬剤師にと. って、患者が治療の意思決定をする前に、薬物療法の QOL に対する影響を情報提供すること は重要である 12, 13)。 がん領域の薬剤師のコンピテンシー(能力)には、これまでの医薬品管理を中心とした業 務に加え、患者を中心とした医療・ケアが求められるように変化しつつある 14,. 15). 。2005 年に. 日本医療薬学会が、がん専門薬剤師認定制度を設立しており、本邦においても他国と同様に、 薬剤師の臨床的な役割が大きくなりつつある 16)。薬剤師−患者のコンコーダンスおよびコミュ ニケーション、つまり服薬カウンセリングが、患者の薬物療法への理解を改善しうることや 17, 18). 、薬剤師の介入が患者ケアを改善することが既に報告されている 19)。しかし、実際にはが. ん領域の服薬カウンセリングに関する実践的な科学的根拠が乏しい状況である。 近年、患者の主観的な症状の評価については、PRO の測定が臨床試験および日常診療にお いて注目されている 20-22)。そこで我々は、服薬カウンセリング前の患者が記載した PRO であ る QOL 調査票を解析することによって、服薬カウンセリングをより患者中心にする知見、つ まり服薬カウンセリング時の QOL とその決定因子に関する科学的根拠が得られると仮定した。 本研究は、服薬カウンセリング実施前の乳がん患者の QOL を解析し、服薬カウンセリングに 関する科学的根拠を探索することを目的に実施した。 第二節 方法 2-1 研究概要と対象 本研究は乳腺クリニックであるナグモクリニック東京院単施設におけるレトロスペクティ ブ(後方視的)試験である。この施設では、身体機能および症状の評価を目的に、術後治療 を決定する外来前、つまり術後治療に関する服薬カウンセリングが未実施の患者に対し、QOL 調査票の記載を依頼している。本研究では、この QOL 調査票を利用して、服薬カウンセリン グ前の乳がん患者における QOL をレトロスペクティブに調査した。対象は経乳輪皮下乳腺全 摘術または乳房温存術を受けており、病理学的に浸潤性乳がんが確認され、認知障害がなく、. . 3 .
(6) 術後治療を決定する最初の外来である患者を適格とした。日本語が母国語ではない、または 重篤な精神疾患を持つ患者は除外した。. 2-2 測定項目 2-2-1 QOL 日本語で信頼性および妥当性が検討されている QOL 調査票のうち、QOL とその構成概念で ある症状および機能との関連性を検討することができる、European Organisation of Research and Treatment of Cancer Core Quality of Life Questionnaire(EORTC QLQ-C30)および Breast(BR) 23 を用いた 23)。EORTC QLQ-C30 は 5 つの機能(「身体機能」、 「役割機能」、 「情緒機能」、 「認 知機能」、 「社会機能」)と 9 つの症状/項目(「嘔気/嘔吐」、 「倦怠感」、 「呼吸困難」、 「痛み」、 「睡 眠障害」、 「食欲不振」、 「便秘」、 「下痢」、 「経済的困難感」)、そして「全般的健康感(Global health status; GHS)/QOL」の下位尺度で構成された全 30 項目の質問票である。BR23 は乳がん用の サブモジュールで、4 つの機能(「容姿」、「性生活」、「性生活の満足度」、「健康の見通しにつ いての心配」)と、4 つの症状/項目(「治療副作用」、 「腕」、 「乳房」、 「脱毛」)の下位尺度で構 成された全 23 項目の質問票である。GHS/QOL は「とても悪い」から「とてもよい」の 7 段 階で評価され、その他の項目は全て「まったくない」、「少しある」、「多い」、「とても多い」 の 4 段階で評価される。いずれも EORTC のスコアリングマニュアルに沿って 0 - 100 点で得 点化され、機能は得点が高いほど、症状/項目は得点が低いほど良好な状態を示す。 2-2-2 患者背景 患者の年齢、病期、閉経状態、婚姻状態、病理、手術からの経過日は診療録より情報を収 集した。 2-3 研究手順 本研究では、2008 年 12 月から 2011 年 5 月にナグモクリニック東京院を受診し、QOL 調査 票を記載した患者のうち、適格規準を満たす患者 95 名の調査票を対象とした。. . 4 .
(7) 2-4 統計解析 2-4-1 患者背景、EORTC QLQ-C30 および BR23 のスコア 患者背景および EORTC QLQ-C30 および BR23 のスコアを要約するために、各項目の平均お よび標準偏差を算出した。 2-4-2 GHS/QOL を目的変数とした重回帰分析 解析の流れを Figure 1 に示した。GHS/QOL と、QLQ-C30 および BR23 のその他の下位尺度 との相関について、スピアマンの順位相関係数を算出した。重回帰分析に用いる変数につい て、まず GHS/QOL との相関が有意水準 5%で有意でない下位尺度を除外した。次に、有意水 準 5%としてステップワイズ法(変数増加法)を実施して、下位尺度の中から解析に用いる変 数を選択して重回帰モデルを作成した。 2-4-3 GHS/QOL の決定因子の探索 重回帰分析で使用した変数と GHS/QOL の因果関係を探索するために、観測変数間の因果モ デルを検討するパス解析を行った。パス解析では複数のパス図を作成し、適合度として Goodness of fit index; GFI、Adjusted goodness of fit index; AGFI、平均二乗誤差平方根(Root mean square error of approximation; RMSEA)、赤池情報量規準(Akaike’s information criterion; AIC)を 総合的に判断し、最適なモデルを選択した。選択されたモデルにおいて、各変数間での標準 化直接効果(原因を表す変数が、結果を表す変数に対して与える直接的な影響)、標準化間接 効果(原因を表す変数が、他の変数を介して結果を表す変数に与える間接的な影響)、標準化 総合効果(直接効果と間接効果の和)を算出した。 2-4-4 必要対象数 解析に必要な対象数は、重回帰分析を 5 つの変数を用いて実施すると仮定し、効果量を medium、検出力を 80%、有意水準を 5%とすると、93 例が必要と推定された。 2-4-5 統計ソフトウェア 変数の因果関係を検討するパス解析には Amos 18® (SPSS Inc. Chicago, IL, U.S.A.)、他の解析 には JMP (version 8.0.2, SAS Institute Inc. Cary, NC, U.S.A.)を用いた。. . 5 .
(8) EORTC QOL Questionnaire ↓. ↓. EORTC QLQ-C30. BR23. 5 functions、9 symptoms/items. 4 functions、4 symptoms/items. Function. Physical functioning. Function. Body image. Role functioning. Sexual functioning. Emotional functioning. Sexual enjoyment. Cognitive functioning. Future perspective. Social functioning Symptoms / Items. Fatigue, Nausea and vomiting. Symptoms. Pain, Dyspnoea, Insomnia,. / Items. Systemic therapy side effects. Appetite loss, Constipation. Breast symptoms. Diarrhoea,. Arm symptoms. Financial difficulties. Upset by hair loss. ↓. ↓. Exclude the items which correlated weakly with GHS/QOL ↓ Stepwise multiple linear regression analysis and path analysis was conducted to select the variables and to test the statistical association between selected variables and GHS/QOL Fig. 1 - Flow of statistical analysis. . 6 .
(9) 2-5 倫理的配慮 本研究はヘルシンキ宣言および疫学研究に関する倫理指針(平成 19 年文部科学省告示第 438 号平成 20 年 12 月 1 日一部改正)に従って実施した。本研究に用いた調査票は、外来前に患 者の同意を得て身体および情緒の状態を評価するために用いているものを利用し、倫理委員 会より承認を得て実施した。 第三節 結果 3-1 対象 総じて 95 名の患者を対象とした。2 名が日本人ではなかったため除外し、最終的に 93 名の 調査票を解析対象とした(Table 1)。対象は全て女性で、平均年齢(標準偏差)は 47.3(9.0) 歳であった。64 名(68.9%)はステージⅠの乳がんで、69 名(72%)が閉経前、62 名(67%) の婚姻状態は結婚であった。リンパ節への転移は 81%が陰性であったが、16%が 1~3 個、3% が 4 個かそれ以上に転移を認めた。83%の患者は乳房再建術を施行されており、95%の患者は 術後 2 ヶ月以内の来院であった。 3-2 服薬カウンセリング前の QOL EORTC QLQ-C30 と BR23 の各項目をスコア化した結果を示した(Table 2)。「GHS/QOL」 の平均値は 68.1(範囲 16.7 – 100)であった。全患者が全身治療開始前であり、「脱毛」の評 価は不可能であった。がん薬物療法の開始前にも関わらず、「治療副作用」の平均値は 11.2 (範囲 0 – 52.4)であった。「性生活」、 「性生活の満足度」についてはそれぞれ 8 名、76 名で 欠測値であった。 . . . 7 .
(10) Table 1 - Patient characteristics Value n Age (S.D.). %. 93 47.3 (9.0). Current Menopausal Status Yes. 25. 26.9. No. 68. 73.1. Married. 62. 66.7. Not Married. 23. 24.7. Separated. 8. 8.6. 1. 64. 68.9. 2. 24. 25.8. 3. 5. 5.3. 0. 72. 77.4. 1–3. 18. 19.3. 4–9. 3. 3.2. Marital Status. Stage. Positive Lymph Nodes. Time from surgery to initial ambulatory care Within 1 month. 30. 32.2. 1 month to 2 months. 58. 62.4. Over 3 months. 5. 5,4. Yes. 77. 82.8. No. 16. 17.2. Reconstruction. . 8 .
(11) Table 2 - Results of EORTC QLQ-C30 and BR23 scores Variable. Score Mean. S.D.. 68.1. 21.6. Physical Functioning. 87.0. 12.8. Role Functioning. 82.3. 19.6. Emotional Functioning. 77.3. 15.4. Cognitive Functioning. 86.8. 14.7. Social Functioning. 84.6. 20.4. Fatigue. 28.9. 22.7. Nausea/Vomiting. 2.7. 8.3. Pain. 26.7. 22.7. Dyspnea. 10.7. 21.0. Insomnia. 19.6. 26.2. Appetite Loss. 7.2. 19.7. Constipation. 21.5. 27.2. Diarrhea. 5.7. 12.6. Financial Difficulties. 19.0. 23.4. Body Image. 74.1. 22.3. Sexual Functioning (n = 85). 90.3. 13.7. Sexual Enjoyment (n = 17). 71.6. 20.0. Future Perspectives. 46.5. 28.9. Systemic Therapy Side Effects. 11.2. 10.9. Breast Symptoms. 27.6. 19.8. Arm Symptoms. 25.8. 16.9. EORTC QLQ-C30 Global Health Status/QOL Function. Symptom. EORTC BR23. . 9 .
(12) 3-3 QOL に影響する因子 「GHS/QOL」との相関が有意水準 5%で統計学的に有意でない変数は、「嘔気/嘔吐」、「便 秘」、「下痢」、「性生活」、「性生活の満足度」であった。これらの変数を除外し、ステ ップワイズ法により重回帰モデルを作成した結果、「情緒機能」、 「倦怠感」、 「食欲不振」、 「健 康の見通しについての心配」、「治療副作用」の 5 つの変数が選択された。モデルの決定係数 および調整決定係数はそれぞれ 0.63 および 0.61 であった。これは、選択された 5 つの変数で 「GHS/QOL」の約 6 割を説明することができることを意味している。選択された 5 つの変数 の中では、 「倦怠感」が最も強く「GHS/QOL」に影響を与えていた(標準化係数 -0.54、p < 0.0001) 「情緒機能」、「食欲不振」、「健康の見通しについての心配」、「治療副作用」の標準化係数は それぞれ 0.23(p = 0.0092)、 −0.15(p = 0.0471)、0.24(p = 0.0092)、0.19(p = 0.0347)で あった。この結果から、「倦怠感」は「GHS/QOL」に対し、他の変数より 2 倍ほど強い影響 を持っていることが明らかとなった。 3-4 QOL に影響を与える因子の因果関係 パス解析の適合度係数に基づき、最終的なモデルを選択した(Figure 2)。選択されたモデ ルでは、GFI が 0.997、AGFI が 0.976、RMSEA は 0.000 であり、良好なモデルであることが示 された。標準化直接効果,標準化間接効果、標準化総合効果を Table 3 に示した。重回帰分析 と同様に、「GHS/QOL」に対する最も強い標準化直接効果を示した変数は「倦怠感」(-0.543) であった。この「倦怠感」の「GHS/QOL」への影響は、2 番目に「GHS/QOL」への影響が大 きい「情動機能」(0.235)より、約 2 倍高い値であった。「治療副作用」および「情緒機能」 の「GHS/QOL」に対する総合間接効果はそれぞれ-0.380、0.310 であった。標準化直接効果お よび標準化間接効果の合計である標準化総合効果では、「倦怠感」(0.587)と「情緒機能」 (0.544)の 2 つが「GHS/QOL」に最も影響を与えている変数となった。このモデルでは、「情 緒機能」、「治療副作用」、「健康の見通しについての心配」が「倦怠感」の原因となって いた。これら「倦怠感」の原因の中では、 「治療副作用」の標準化総合効果(0.495)が最も高 く、 「GHS/QOL」への影響は「健康の見通しについての心配」 (-0.221)の約 2 倍高かった. 「情 緒機能」は「倦怠感」に対して非直接的に、しかし強力に影響をしていた。Table 3 では、 「情 緒機能」が他の変数に対して均一に影響していることが示されている。「治療副作用」の 「GHS/QOL」に対する影響は、間接効果は負の影響(-0.380)が強く、一方で直接効果は正の 影響(0.189)があった。. . 10 .
(13) Table 3 - Standardized direct, indirect and total effects of path analysis (GFI = 0.997, AGFI = 0.976, and RMSEA = 0.000) EF. BRST. BRFU. AP. FA. Direct. Indirect. Total. Direct. Indirect. Total. Direct. Indirect. Total. Direct. Indirect. Total. Direct. Indirect. Total. (A). (B). (A + B). (A). (B). (A + B). (A). (B). (A + B). (A). (B). (A + B). (A). (B). (A + B). BRST. -0.483. -. -0.483. -. -. -. -. -. -. -. -. -. -. -. -. BRFU. 0.508. 0.117. 0.625. -0.242. -. -0.242. -. -. -. -. -. -. -. -. -. FA. -. -0.377. -0.377. 0.495. 0.054. 0.549. -0.221. -. -0.221. -. -. -. -. -. -. AP. -0.209. -0.115. -0.324. -. 0.167. 0.167. -. -0.067. -0.067. 0.304. -. 0.304. -. -. -. GHS/QOL. 0.235. 0.310. 0.544. 0.189. -0.380. -0.191. 0.237. 0.130. 0.367. -0.543. -0.045. -0.587. -0.147. -. -0.147. GHS = Global health status, QOL = Quality of life, EF = Emotional functioning, BRST = Systemic therapy side effects, BRFU = Future perspectives, FA = Fatigue, AP = Appetite loss. . 11 .
(14) e Systemic therapy. Emotional. side effects . functioning . e . Future perspective . Appetite loss . Fatigue . e . e GHS/QOL . *e; error variable. e . Fig. 2 - Path analysis using variables selected by stepwise analysis. 12 .
(15) 第四節 考察 服薬カウンセリングに関する科学的根拠の探索を目的として、患者の治療を決定する外来 において、術後乳がん患者の QOL に影響を与えている因子を評価した。ステップワイズ法を 用いた重回帰分析において、服薬カウンセリング前の患者の OQL に影響を与える 5 つの因子 を、さらに、パス解析において、これら 5 つの因子と QOL の因果関係を明らかにした。 本研究の対象となった全ての患者は、既に手術を受けているものの、術後補助療法は提供 されていない状況で調査票の記載をしている。しかしながら、我々の解析では治療による副 作用が QOL に影響を与えていた結果となった。EORTC-BR23 において、「治療副作用」は 7 つの症状(口渇、味覚障害、疼痛、脱毛、気分、ほてり、頭痛)に関する質問項目で構成さ れている。本結果から、患者に治療による副作用が生じている原因を明らかにすることはで きないが、乳がんに対する手術、乳がんとは別の薬物療法の施行、閉経状態、うつ、そして 不安などが原因となっている可能性がある。 ステップワイズ法を用いた重回帰分析、およびパス解析において、倦怠感は最も強く QOL に影響する因子であることが明らかになった。がんに伴う倦怠感は、がん患者によく認めら れる問題であり、身体的な問題のみならず、心理・社会的な問題も原因となる. 24). 。我々のパ. ス解析によるモデルでは、「治療副作用」と「健康の見通しについての心配」は直接的に「倦 怠感」に影響していた。更に、「情緒機能」は「健康の見通しについての心配」を介して「倦 怠感」に影響を及ぼしていた。本研究において、術後補助療法開始後の QOL を継続的に調査 していないため、治療開始後に QOL を低下させていく要因を示す事はできない。しかしなが ら、術後補助療法を開始する前から「GHS/QOL」が低下している患者がいること、そしてそ の「GHS/QOL」は「倦怠感」によって直接的に、そして「情緒機能」により間接的に影響を 受けていることが明らかとなった。これらの因果関係を薬剤師が理解し、服薬カウンセリン グ時に QOL の低い患者を早期に特定できれば、より効果的な介入が期待できる。 がん化学療法や内分泌療法を含む術後補助療法は、QOL に対して悪影響を及ぼすことが知 られている 6, 25, 26)。QOL への悪影響は情緒的側面と同様、身体的側面に起因する。服薬カウ ンセリングによって、術後補助療法による身体的な副作用の発症を変えることはできないが、 心理・精神面への副作用に対する準備を促し、QOL の低下を防ぐことはできる可能性がある。 したがって、術後補助療法を開始する前に、QOL に関連した服薬カウンセリングは重要であ る。薬剤師によるカウンセリングや介入の効果は既に海外においては研究され、評価されて いる。Yuan らは、外来における服薬カウンセリングは生存期間を延長させ、また、入院率を 低下させると報告している 27)。Stevens らはヘリコバクター・ピロリの除菌療法に対する薬剤 師の介入効果について、ランダム化比較試験で評価しており、 薬剤師による介入は患者満足 度を改善したが、アドヒアランスには影響しなかったと報告している 28)。しかし、特に日本 のがん領域において、薬剤師による服薬カウンセリングや介入の効果に関する報告は極めて 少ない。本研究のデザインは服薬カウンセリングの QOL に対する影響を評価していないため、 今後、服薬カウンセリングと QOL の決定因子の関係性を評価する更なる研究が必要である。 . 13 .
(16) 本研究の限界として、 「性生活」、 「性生活の満足度」に関する項目の低い回答割合が挙げら れる。結果的に、本研究はがんと性の問題が QOL に与える影響を評価できていない。がんと 性の問題は、乳がん患者において重要な問題であると広く認識されている 29-31)。欧米と同様に、 本邦における乳がん患者においても様々な性の問題があることが明らかとなっている 32-35)。そ の上、本邦における患者—医師コミュニケーションには文化的な制約も存在する。本邦におけ る患者は自己表現を遠慮しがちで、それと同時に医師が耳を傾けないだろうと考えていると する報告もある. 36). 。このような文化的な問題が、性的問題に関する質問項目に対する回答割. 合が低かった要因となっている可能性がある。 近年、ベースライン QOL の評価は重要になりつつある。EORTC の臨床試験のメタアナリ シスにおいて、ベースライン QOL は生存期間の予測因子、すなわち予後因子となることが明 らかにされている 37)。更に、適切な情報提供は QOL と正の相関を示すことが示されている 38)。 情報提供の目的は、患者に治療の準備をさせ、アドヒアランスおよび疾患に立ち向かう能力 の向上にある 39)。したがって、ベースライン QOL は服薬カウンセリングにとっても重要な情 報の 1 つとなる。本研究によって明らかとなった、術後乳がん患者のベースライン QOL を決 定づける 5 つの因子は、低い QOL や生存期間を予測する因子となる可能性がある。適切な情 報提供をするために、また患者の治療選択や意思決定をサポートするために、治療開始前の 服薬カウンセリングではこれら 5 つの因子に留意すべきである。 結論として、患者報告アウトカムの 1 つである EORTC QLQ-C30 および BR23 を解析するこ とにより、我々は 5 つの因子(倦怠感、情緒機能、治療副作用、健康の見通しについての心 配、食欲不振)を QOL に影響を与える決定因子として識別した。これらの因子を考慮するこ とは、治療開始時の服薬カウンセリングを潜在的に支援する可能性があることを示している。 今後、QOL を改善する因子を考慮した服薬カウンセリングに関する研究が必要である。. 14 .
(17) 第二章 乳がん患者における服薬カウンセリングに対する選好傾向:離散選択実験 第一節 序論 前章では、服薬カウンセリング前から乳がん患者の QOL にはばらつきがあり、倦怠感およ び情緒面の問題がその QOL の決定因子であることを示した。服薬カウンセリング後、多くの 乳がん患者は、外来においてがん化学療法を受け、治療開始後は倦怠感の他にも不眠、口腔 の問題、食欲不振、吐き気、痛みといった更なる症状・問題を有することになる. 40, 41). 。こう. した問題を抱えることから、75%を超える患者が、がん化学療法期間中の薬剤師によるフォロ ーアップや、処方薬に関する服薬カウンセリングに期待していることが明らかにされている 42). 。更に Gourdji らは、がん患者が外来診療において、処方に関する薬剤師との関わりを好む. ことを報告している. 43). 。薬剤師の重要な責務であり、がん患者にとって必須のケアである服. 薬カウンセリングは、コミュニケーションや QOL の向上にも貢献する 44-46)。 病院薬剤師の業務は国によって異なるが、一般的に、がん領域の薬剤師には医薬品管理の みならず、患者中心のケアも期待されている. 14, 47). 。こうした薬剤師の役割の変化に伴い、薬. 剤師と患者のコミュニケーションも概念化され、研究されるようになりつつある。薬剤師と 患者の関係性は伝達(transmission)モデルと取引(transactional)モデルとして概念化されて きた 48)。前者は、医学的側面の情報を薬剤師から患者に対して一方向性に伝えるものである。 後者は、患者の意向や心理・社会的な配慮をする服薬カウンセリングで、患者を中心とした 双方向性のコミュニケーションである。 病院薬剤師は、患者中心のケアを提供できるように なることに加え、入院患者および外来がん化学療法に対する薬学的ケアの提供も期待されて いる 49)。 患者中心の服薬カウンセリングを構築するためには、患者の意向、価値観を理解すること が必須となる。そのため、本研究は離散選択実験(Discrete choice experiment; DCE)を用いて、 薬剤師の服薬カウンセリングに対する患者の選好傾向を探索することを目的とした。本研究 で用いる表明選好法による DCE は、仮想したシナリオの調査票を用いて、患者の服薬カウン セリングに対する選好を直接的に明らかにすることができる。DCE は経済学において発展し た手法であり 50, 51)、1990 年代初期より医学や薬学領域においても、患者の選好傾向を調査す るために広く用いられるようになっている。Naik-Panvelkar らの総説によれば、 薬学領域に おける DCE は欧米でのみ実施されており、アジアまた本邦において、特に病院薬剤師の設定 で行われた研究はない 52)。更に、世界的に薬剤師の役割に大きな変化が起こっているのにも 関わらず、特に本邦においては薬剤師と患者との関係に関する研究は極めて少ない。そこで 本研究は、本邦で初めて、患者が期待する服薬カウンセリングの構成要素を探索した。 . 15 .
(18) 第二節 方法 2-1 対象 本研究は東京医科大学病院およびナグモクリニック東京院の 2 施設における、表明選好法 を用いた DCE である。がん化学療法を想起させるシナリオを使用するため、精神的負担を考 慮し、がん化学療法が未施行の患者は除外した。選択規準は 20 歳以上で乳がんと診断されて おり、乳がんに対するがん化学療法を受けている、または受けたことがある外来患者を適格 とした。Eastern Cooperative Oncology Group Performance Status が 3 か 4、認知症/不穏/せん妄等、 重度の精神疾患のある患者、また精神的に問題を抱えている等の理由により医療従事者が調 査票依頼について不適切と判断した患者は除外した。 2-2 離散選択の調査票の作成 2-2-1 属性と基準の選定. 外来において、薬剤師が実施する服薬カウンセリングについての DCE は過去に例がない。 しかし、概念的に同様のカウンセリングに関する DCE は実施されている。これらの文献に基 づき、 「服薬カウンセリングの頻度」、 「カウンセリングの場所」、 「カウンセリングに要する時 間」、「かかりつけ薬剤師の存在」、「治療説明」、「カウンセリング費用」、「性生活に対する化 学療法への影響に関する情報」を属性の候補としてリストした。次いで適格規準に適合する 乳がんサバイバー2 名に対し、化学療法時の薬剤師による服薬カウンセリングに対する選好傾 向に関して面接調査を実施し、更に病院薬剤師の職能団体の会長、がん専門薬剤師、研究者、 方法論学者らと協議し、以下の 6 つの属性を用いるコンセンサスを得た。すなわち、 「薬剤師 の態度」、「提供される情報の質」、「一番時間をかけて説明される副作用」、「化学療法開始前 の服薬カウンセリングの頻度」、「服薬カウンセリングの費用」、「化学療法開始後の薬剤師に よるフォローアップ」の 6 属性である。各属性の基準については、現状および入手不可能で あっても考えられる代替の選択肢を含ませることが可能だが、妥当かつ臨床的に関連性のあ るものでなければならないとされている。 「薬剤師の態度」、 「提供される情報の質」、 「化学療 法開始後の薬剤師によるフォローアップ」の基準については、Empel らの報告に基づいて決定 した。 「一番時間をかけて説明される副作用」の基準については、情報提供の主な内容として、 既存の研究に基づいて作成した。 「服薬カウンセリングの費用」については、本邦における抗 悪性腫瘍剤処方管理加算(治療の開始に当たり投薬の必要性、危険性について文書により説 明を行った上で抗悪性腫瘍剤を処方した場合に算定される診療加算:平成 24 年診療報酬参照) に基づいて決定した(Table 4)。. 16 .
(19) 2-2-2 離散選択の調査票のデザイン. 仮想シナリオとして、「あなたは、今日はじめて、乳がんの診断を受け、化学療法が必要で あることを医師から説明されました。化学療法のくわしいことは、薬剤師から説明される予 定となりました。薬剤師から治療の説明をうけるとき、あなたなら、どちらの薬剤師から説 明を受けたいと思いますか?」という問題を作成した。選択には、離散選択以外に拒絶する 選択(opt-out)、現状のままでよいとする選択(status quo)といった追加の選択肢を提示する ことがあるが、これは研究のデザインに依存するとされている。本研究においては、薬剤師 の実臨床において、患者が服薬カウンセリングを拒否することは想定しにくいため、追加の 選択肢はなく、離散選択の中から強制的に選択させる強制選択を用いた。属性と基準の組み 合わせは、34 × 22 = 324 通り存在する(完全実施要因計画)。この組み合わせで作成される 2 名の薬剤師の服薬カウンセリングから、患者がどちらか 1 名の服薬カウンセリングを選択す る調査票を作成した(Figure 3)。この 2 名の薬剤師から 1 名を選択する設問を 1 シナリオとし た場合、これら全ての組み合わせのシナリオを患者にたずねることは実施可能性の側面から 困難である。そこで Bayes の非線形最適計画を用いて、妥当性を保ちつつ質問数を減らした 16 シナリオを作成し、1 名の対象に回答を依頼するシナリオ数が 8 シナリオずつの 2 種類の 調査票を作成した。 2-2-3 患者背景 年齢、再発・転移の有無、がん化学療法による治療歴の有無、内分泌療法による治療歴の 有無は診療録より調査した。性別、婚姻状況、教育歴、就業状態、世帯規模、過去に薬剤師 から服薬説明を受けたことがあるかについては調査票により調査した。 2-3 予備試験 選択規準を満たす 6 名の患者に対して調査票への記載を依頼し、作成された調査票の見や すさ、理解しやすさを調査するために構造化面接を実施した。更に、属性と基準をどのよう に考え選択したのか、調査票を変更する必要があるかどうか検討した。予備試験の結果、調 査票で使用されている言葉には問題がなく、変更する必要がないことが示された。しかし、 1人あたり 8 シナリオとなる質問数が患者にとって負担になりうることが示唆された。最終 的に、予備試験の対象者からの推奨を受け、12 シナリオを作成し、1人あたり 6 シナリオと なる 2 種類の調査票を作成し用いることにした。. 17 .
(20) 2-4 本試験 作成された 2 種類の調査票は、対象者数が均等になるように、ブロック無作為化法を用い て対象者に割付された。外来化学療法室において、薬剤師が対象に対し口頭および書面によ る同意を取得し、割付された調査票を記載するように依頼した。 2-5 統計解析 2-5-1 患者の選好傾向 離散選択とは、被験者が選択する選択肢の集合の中から1つを選択することである。離散 選択の解析では無関係な選択肢からの独立性(independence of irrelevant alternative; IIA)の条 件によって統計モデルを使い分ける。本邦において、がん化学療法開始前の薬剤師による服 薬カウンセリングが受けられる状況で、患者が服薬カウンセリングを受けないという選択を することは実際的ではないことから、IIA 条件が成立していると仮定した。そのため、調査票 より得られた患者の離散選択の 2 値データは条件付きロジットモデルを用いて解析した。 各属性および水準において、それぞれ独立して Wald の χ2 値を算出した。基準については、 患者に好まれると予め考えられた基準を対照と設定した。Wald の χ2 値が大きいほど、属性に おいては好まれる属性であることを示し、または基準においては対照と差があることを示し ている。各基準において、患者の好む程度を表す回帰係数およびオッズ比を算出した。これ は、回帰係数が高い値を示すほど、患者に好まれる基準であることを示している。各基準の 効用値(選択者が選択肢から得られる満足)を算出し、各属性の相対的重要度(relative importance)を、各効用値の範囲を全属性の効用値の範囲の合計で除することで算出した。つ まり、各属性の効用値の範囲が広いほど高い相対的重要度を示す。また、化学療法の有無、 年齢、再発、婚姻状態、過去に薬剤師から服薬説明を受けたことがあるかで層別化し、効用 値および相対的重要度を算出した。 2-5-2 患者背景の要約 患者背景における平均や標準偏差の算出には記述統計を用いた。. 18 .
(21) 2-5-3 必要対象数 DCE における明確な必要対象数の算出方法はないが、Louviere らの報告に基づき、化学療 法が必要となることの多い乳がんのサブタイプである Luminal A 以外の割合(true proportion) を 0.2(20%)、true proportion の relative accuracy を 0.1、probability alpha を 0.95 とすると、必 要とする選択肢のシナリオ数は 1537 と算出される。1 名あたり 6 シナリオの選択をするとし た場合、257 名の評価が必要となる。脱落を考慮し、2 種類の調査票に対しそれぞれ 140 名、 総じて 280 名を目標対象数と設定した。 . 2-5-4 統計ソフトウェア 解析には SAS(version 9.1.3, SAS Institute Inc. North Carolina)を用いた。 2-6 倫理的配慮 本研究はヘルシンキ宣言および疫学研究に関する倫理指針(平成 19 年文部科学省告示第 438 号平成 20 年 12 月 1 日一部改正)に従って実施した。全ての患者から口頭および書面による 同意を取得し、各施設の倫理委員会の承認を得てから開始した。. 19 .
(22) Table 4 - Attributes and levels of oncology pharmacy counselling Attitude of pharmacist Unfriendly and uninterested Friendly but distant Friendly and interested Quality of information Unclear and contradictory information Only general information Clear and customized information Explanation of side effects Emphasis on life-threatening side effects Emphasis on effects on normal life style, including cosmetic problems Frequency of pharmacist counselling before starting chemotherapy Once More than once Cost of pharmacist counselling 0 yen ($0) 250 yen (about $2.5) 500 yen (about $5) Follow-up with the pharmacist after starting chemotherapy At physician’s, nurse’s, or pharmacist’s request At patient’s request Every time a patient visits. 20 .
(23) When you receive information about chemotherapy for the first time, which pharmacist would you prefer to receive the information from?. Attitude of pharmacist Quality of information. Explanation of side effects. Frequency of pharmacist counselling before starting chemotherapy Cost of pharmacist counselling Follow-up with the pharmacist after starting chemotherapy. Pharmacist A. Pharmacist B. Unfriendly and uninterested. Friendly but distant. Unclear and contradictory information. Emphasis on life-threatening side effects. Only general information. Emphasis on effects on normal lifestyle, including cosmetic problems. More than once. Once. 0 yen ($0). 500 yen (about $5). Every time a patient visits. ☐□. Which would you prefer?. At physician’s, nurse’s, or pharmacist’s request □☐. Fig. 3 - An example of one scenario from a DCE questionnaire about patient preferences for pharmacist counselling. 21 .
(24) 第三節 結果 3-1 対象 2012 年 12 月より 2013 年 4 月までに外来を受診した、280 名の乳がん患者を対象とした。1 名は同意撤回、もう 1 名は調査票への記載がなかったため解析から除外した。また、1 シナリ オの回答忘れがあった 1 名は解析に含めた。最終的に、278 名を対象とし、1,667 シナリオを 解析対象とした(Figure 4)。患者背景は Table 5 に示した。平均年齢(標準偏差)は 53.0(10.7) 歳で、その範囲は 28 歳から 80 歳であった。約半数の患者は局所再発(9.4%)、または遠隔 転移(39.6%)を有していた。164 名(59.0%)はがん化学療法施行中で、121 名(43.5%)は 内分泌療法を施行中であった。教育歴はほとんどの患者(96.4%)が大学卒か高校卒であった。 就業状態については、92 名(33.1%)は常勤、66 名(23.7%)が非常勤であり、66.2%の患者 にはパートナーと生活をしていた。また、多数の患者(87.7%)は既に薬剤師による服薬カウ ンセリングを経験していた。 3-2 服薬カウンセリングの選好傾向を予測する属性と基準 各属性の Wald の χ2 値と相対的重要度を Table 6 および Table 6 に示した。4 つの属性、「薬 剤師の態度」 (p < 0.0001, relative importance 26.9%)、 「提供される情報の質」 (p < 0.0001, relative importance 37.1%)、「服薬カウンセリングの費用」 (p < 0.0026, relative importance 7.6%)、「化 学療法開始後の薬剤師によるフォローアップ」 (p < 0.0001, relative importance 24.4%)は、患者 の選択にとって有意な予測因子であった。属性の中で、「提供される情報の質」の Wald の χ2 値(157.66)と相対的重要度(37.1%)は最も高く、患者が選択する上で「提供される情報の 質」が最も重要であることを示していた。 「薬剤師の態度」の Wald の χ2 値(81.40)と相対的 重要度(26.9%)は、 「化学療法開始後の薬剤師によるフォローアップ」の Wald の χ2 値(80.92) と相対的重要度(24.4%)とほぼ同等であった。「服薬カウンセリングの費用」は有意である ものの、Wald の χ2 値(11.94)と相対的重要度(7.6%)は「提供される情報の質」、「薬剤師 の態度」、「化学療法開始後の薬剤師によるフォローアップ」と比して低値であった。 各基準の回帰係数、オッズ比、Wald の χ2 値および効用値を Table 10 および 11 に示した。 「薬 剤師の態度」の基準では、「友好的だが距離を感じる」よりも「友好的で気軽に相談ができ る」(OR 0.49, 95% CI: 0.37–0.64)が、「非友好的で距離を感じる」よりも「友好的だが距離 を感じる」(OR 0.29, 95% CI: 0.22–0.39)が好まれた。「提供される情報の質」では、「一般 的な情報」よりも「的確かつ配慮された情報」(OR 0.35, 95% CI: 0.26–0.46)が、「矛盾を感 じるあいまいな情報」よりも「一般的な情報」(OR 0.18; 95% CI: 0.14–0.25)が好まれた。「一 番時間をかけて説明される副作用」、「化学療法開始前の服薬カウンセリングの頻度」では、 各基準の係数はリファレンスとほぼ同等で、オッズ比はほぼ 1.0 であった。これは、「一番時 間をかけて説明される副作用」、「化学療法開始前の服薬カウンセリングの頻度」の両属性に. 22 .
(25) おける各基準に、患者の選好がほとんどないことを示している。 「服薬カウンセリングの費用」 の基準の係数は共に有意で、そのオッズ比は「500 円(約 5 ドル)」(OR 0.71; 95% CI: 0.58– 0.87)、「250 円(約 2.5 ドル)」(OR 0.78; 95% CI: 0.64–0.93)となり、ほぼ同等であった。 「服薬カウンセリングの費用」の基準「0 円」は「500 円(約 5 ドル)」及び「250 円(約 2.5 ドル)」より好まれた。「化学療法開始後の薬剤師によるフォローアップ」において、「患 者さん(あなた)が必要と考えた時に呼べばくる」の係数は正の値で、オッズ比は 3.00(95% CI: 2.28–3.96)であり、このことは「治療日ごとに必ず一度は顔を出す」や「治療上必要な時 のみに話しにくる」よりも、患者の要求に応じたフォローアップが好まれていることを示し ている。 効用値と相対的重要度の患者背景による違いを Table 11 に示した。いずれの患者背景によ らず、「提供される情報の質」は最も重視される属性であり、次いで「薬剤師の態度」と「化 学療法開始後の薬剤師によるフォローアップ」がほぼ同等に重視されていた。 「一番時間をか けて説明される副作用」の相対的重要度は患者背景により違いを認めた。例えば、がん化学 療法の治療歴を有する患者は「化学療法開始前の服薬カウンセリングの頻度」 (相対的重要度 1.7%)より「一番時間をかけて説明される副作用」 (0.3%)を重視しないが、一方でがん化学 療法施行中の患者は「化学療法開始前の服薬カウンセリングの頻度」 (2.1%)よりも「一番時 間をかけて説明される副作用」(6.0%)をより重視する傾向にあった。. 23 .
(26) Assessed for eligibility N= 280. December 2012 to April 2013. Informed consent. Randomization. Questionnaire 1 (6 scenarios). Questionnaire 2 (6 scenarios). N = 140. N = 140. 1 excluded. 1 excluded 1 patient did not answer 1 scenario. Analysis N= 278, 1,667 scenarios. Fig. 4 - Participants flow. 24 .
(27) Table 5 - Patients’ characteristics (N = 278) Mean. S.D.. 53.0. 10.7. n. %. None. 142. 51.1. Regional recurrence. 26. 9.4. Metastasis. 110. 39.6. Undergoing. 164. 59.0. Previously experienced. 114. 41.0. Undergoing. 121. 43.5. Not experienced. 118. 42.4. Previously experienced. 39. 14.0. Married. 177. 63.7. Unmarried. 47. 16.9. Divorced. 38. 13.7. Bereaved. 16. 5.8. High. 69. 24.9. Middle. 198. 71.5. Low. 6. 2.2. Other. 4. 1.4. Full-time. 92. 33.1. Part-time. 66. 23.7. Housekeeper. 102. 36.7. Unemployed or retired. 18. 6.5. Living with a partner. 184. 66.2. Living alone. 72. 25.9. Other. 22. 7.9. Previously experienced. 242. 87.7. Not experienced. 34. 12.3. Age (years) Recurrence or metastasis. Chemotherapy. Endocrine therapy. Marital status. Education level. Employment status. Household. Pharmacist counselling. 25 .
(28) Table 6 - Conditional logistic regression models of patients’ preferences for pharmacist counselling Coefficient. Odds ratio (95% CI). Wald chi-square. p-value. 81.40*. <.0001. 70.51. <.0001. 26.51. <.0001. 157.66*. <.0001. 133.45. <.0001. 53.17. <.0001. 2.94*. 0.0862. 2.94. 0.0862. 0.10*. 0.7527. 0.10. 0.7527. 11.94*. 0.0026. Attitude of pharmacist Unfriendly and uninterested. -1.2272. 0.29 (0.22–0.39). Friendly but distant. -0.7125. 0.49 (0.37–0.64). Friendly and interested. Reference. Quality of information Unclear and contradictory information. -1.6912. 0.18 (0.14–0.25). Only general information. -1.0579. 0.35 (0.26–0.46). Clear and customized information. Reference. Explanation of side effects Emphasis on life-threatening side effects. -0.1559. 0.86 (0.72–1.02). Emphasis on effects on normal life style, including cosmetic problems. Reference. Frequency of pharmacist counselling before starting chemotherapy Once. -0.0305. 0.97 (0.80–1.17). More than once. Reference. Cost of pharmacist counselling 500 yen (about $5). -0.3440. 0.71 (0.58–0.87). 11.29. 0.0008. 250 yen (about $2.5). -0.2547. 0.78 (0.64–0.93). 7.24. 0.0071. 80.92*. <.0001. 0 yen ($0). Reference. Follow-up with the pharmacist after starting chemotherapy At physician’s, nurse’s, or pharmacist’s request. -0.0125. 0.99 (0.82–1.19). 0.02. 0.8944. At patient’s request. 1.0998. 3.00 (2.28–3.96). 61.00. <.0001. Every time a patient visits. Reference. * Wald chi-squared values were calculated separately for levels and attributes.. 26 .
(29) Table 7-1 – Utilities and relative importance Overall Attitude of pharmacist Unfriendly and uninterested Friendly but distant Friendly and interested Quality of information Unclear and contradictory information Only general information Clear and customized information Explanation of side effects Emphasis on life-threatening side effects Emphasis on effects on normal life style, including cosmetic problems Frequency of pharmacist counselling before starting chemotherapy Once More than once Cost of pharmacist counselling 500 yen (about $5) 250 yen (about $2.5) 0 yen ($0) Follow-up with the pharmacist after starting chemotherapy At physician’s, nurse’s, or pharmacist’s request At patient’s request Every time a patient visits RI; relative importance. 27 . Utility. RI(%). -0.57 -0.06 0.64. 26.9. -0.77 -0.14 0.91. 37.1. -0.08 0.08. 3.4. -0.01 0.01. 0.6. -0.14 -0.05 0.20. 7.6. -0.37 0.73 -0.36. 24.4.
(30) Table 7-2 - Utilities and relative importance. Attitude of pharmacist Unfriendly and uninterested Friendly but distant Friendly and interested Quality of information Unclear and contradictory information Only general information Clear and customized information Explanation of side effects Emphasis on life-threatening side effects Emphasis on effects on normal life style, including cosmetic problems Frequency of pharmacist counselling before starting chemotherapy Once More than once Cost of pharmacist counselling 500 yen (about $5) 250 yen (about $2.5) 0 yen ($0) Follow-up with the pharmacist after starting chemotherapy At physician’s, nurse’s, or pharmacist’s request At patient’s request Every time a patient visits. Chemotherapy undergoing previously experienced Utility RI Utility RI. 50 and less Utility RI. over 50 Utility RI. -0.54 -0.13 0.68. 30.2. -0.63 -0.06 0.69. 24.1. -0.56 -0.06 0.63. 29.2. 36.1. -0.95 -0.14 1.09. 37.4. -0.65 -0.14 0.80. 35.6. -0.86 -0.19 1.05. 23.6. -0.62 0.01 0.63. 36.8. -0.69 -0.10 0.79. -0.16 0.16. -0.05 0.05 -0.15 -0.08 0.23 -0.40 0.83 -0.42. 0.01 6.0. 2.1. 0.04 -0.04. 7.3. -0.16 -0.02 0.18. 24.2. -0.33 0.63 -0.30. 28 . -0.01. Age. -0.12 0.3. 0.12. 1.7. -0.02 0.02. 8.3. -0.13 -0.19 0.32. 23.4. -0.42 0.87 -0.45. -0.05 4.2. 0.05. 2.4. 0.6. -0.02 0.02. 1.2. 9.4. -0.15 0.03 0.12. 6.5. 24.2. -0.37 0.66 -0.29. 25.2.
(31) Table 7-3 - Utilities and relative importance. Attitude of pharmacist Unfriendly and uninterested Friendly but distant Friendly and interested Quality of information Unclear and contradictory information Only general information Clear and customized information Explanation of side effects Emphasis on life-threatening side effects Emphasis on effects on normal life style, including cosmetic problems. Recurrence or metastasis recurrence none or metastasis Utility RI Utility RI. Marital status married not married or with partner Utility RI Utility RI. -0.60 -0.12 0.72. 27.7. -0.57 -0.02 0.58. 23.3. -0.59 -0.07 0.66. 25.8. -0.58 -0.07 0.65. 27.8. -0.85 -0.02 0.86. 35.8. -0.72 -0.29 1.01. 35.2. -0.80 -0.14 0.95. 36.3. -0.76 -0.16 0.92. 38.0. 0.04 -0.04. -0.22 1.8. 0.22. -0.15 8.9. 0.15. 0.04 6.3. -0.04. 1.9. Frequency of pharmacist counselling before starting chemotherapy Once More than once Cost of pharmacist counselling 500 yen (about $5) 250 yen (about $2.5) 0 yen ($0) Follow-up with the pharmacist after starting chemotherapy At physician’s, nurse’s, or pharmacist’s request At patient’s request Every time a patient visits. -0.02 0.02 -0.01 -0.14 0.14 -0.47 0.87 -0.40. 1.0. -0.02 0.02. 5.9. -0.30 0.00 0.29. 27.9. -0.29 0.64 -0.35. 29 . . 0.7. -0.02 0.02. 11.9. -0.11 -0.10 0.21. 19.9. -0.40 0.78 -0.38. 0.8. -0.01 0.01. 0.3. 6.5. -0.22 0.04 0.19. 9.2. 24.3. -0.33 0.67 -0.34. 22.7.
(32) 第四節 考察 本研究では、外来がん化学療法における仮定シナリオを用いて、乳がん患者における薬剤 師の服薬カウンセリングに対する選好傾向を検討した。その結果、薬剤師の態度、提供され る情報の質、服薬カウンセリングの費用、そしてフォローアップの頻度が、薬剤師の服薬カ ウンセリングに対する患者の選好傾向の予測因子になることが示された。 「提供される情報の質」について、「矛盾を感じるあいまいな情報」のオッズ比は低かっ た(0.18)が、「一般的な情報」のオッズ比も低かった(0.35)。この結果は、「的確かつ配 慮された情報」を患者が重要視していることを示している。それとは対照的に、「一番時間 をかけて説明される副作用」は患者の選好傾向の予測因子にはならなかった。患者は生活へ の影響がある副作用の説明を好む傾向にあった(OR 0.86, 95% CI: 0.72–1.02)が、選択に有意 な差は認められなかった。患者の情報ニーズを訊ねる属性である「一番時間をかけて説明さ れる副作用」に用いられた 2 つの基準、「生活にどのような影響がでるかを中心に」と「生 命に影響のある副作用を中心に」の理解しやすさについて、予備試験で特に問題点はなかっ た。しかし、がん化学療法の期間中では、この項目を訊ねられるタイミング、年齢により、 選好傾向は影響される可能性があるとの指摘があった。患者にとっての情報の重要さは、多 くの情報ニーズに関する研究にて示されている 53-56)。システマティック・レビューによれば、 必要な情報を十分に提供された患者の QOL は高く、不安やうつは少ない 38)。更に、新規で乳 がんと診断された患者は、治癒の可能性、病期、治療選択肢、遺伝的リスク、有害事象に関 する情報を優先順位の高い情報と Degner らは報告している 13)。こうした情報ニーズは、がん 種、病期によって異なり、治療期間中にも変化するとされている 57, 58)。同様に、満たされて いないと感じる情報ニーズも変化することになる。患者が満たされていないと感じる情報ニ ーズは治療中よりも診断時のほうが比較的低いとされている 59)。これらの知見と、「一番時 間をかけて説明される副作用」の 2 基準に患者の選好傾向の違いが認められなかった事から、 本研究結果は想起バイアスの影響を受けている可能性が否定できない。更に、基準として用 いられた「生活にどのような影響がでるかを中心に」及び「生命に影響のある副作用を中心 に」は対照的に構成されているものの、ともに患者にとっては重要ともいえる。「一番時間 をかけて説明される副作用」に用いられたこの 2 基準によって選択が難しくなっているとす れば、対象はこの属性を考えずに選択した可能性もある。つまり、この 2 基準がともに重要 であるという考えが、患者の選択に影響した可能性がある。 「化学療法開始後の薬剤師によるフォローアップ」については、患者の必要に応じた対応 が好まれた。この結果は、来院毎に薬剤師が訪問しフォローアップされることを患者は好む、 という我々の研究前の考えとは異なっていた。Bakker らによれば、患者が医療従事者と対峙 するとき、‘doctor talk’と‘comprehensive’の 2 つの様式によるコミュンケーションを経験する 60)。 ‘Doctor talk’様式はいわゆる型通りの診療で、通常は医師によって開始されるコミュニケーシ ョンである。患者自身から開始されるようなコミュニケーションは‘comprehensive’様式とされ、 医療従事者が身体状態のみならず心理・社会的状態にも対応するコミュニケーションである。. 30 .
(33) ‘Doctor talk’様式に加え、‘comprehensive’様式を経験した患者は高い満足度を示すとされている。 本研究において、がん化学療法を受けている患者は必要に応じた対応、つまり、‘comprehensive’ 様式のコミュニケーションを好む傾向が示された。がん化学療法の入院から外来への移行は、 患者が自身の管理およびモニタリングに責任を持つことを必要とするため、診断時のみなら ず、治療中も適切な情報が提供されるべきである。実際に、McKee らの報告によれば、76% の患者(米国)が薬剤師の訪問を必要としている 42)。本邦の入院患者においては、SDM はま だ一般的ではないとはいえ、医師、薬剤師、看護師といった医療従事者のチームが協力的に 患者に情報を提供している。それに対し、外来において薬剤師は、副作用のフォローアップ や相談よりも、抗がん剤の正しい組み合わせや投与量といった医薬品管理の業務が中心であ る。本邦の薬剤師の日常診療を考慮すると、患者には外来がん化学療法中であっても薬剤師 に相談できる手段が提供されるべきである。本邦のがん患者における情報ニーズは更なる研 究が必要である。 本研究の結果において「薬剤師の態度」と「化学療法開始後の薬剤師によるフォローアッ プ」の 2 属性は、患者にとって同程度の重要さを示した。この結果と同様に、Kamei らは薬剤 師の態度が患者の満足に強く関係していることを報告している 61)。薬剤師の態度は、薬剤師— 患者コミュニケーションの側面から研究されてきたが、その多くは病院薬剤師という設定で はなく、薬局において実施されたものである 61-63)。これらの研究において、薬局薬剤師は患者 とのコミュニケーションや評価に十分な時間を費やさず、医薬品名と使用法、そして典型的 な副作用情報を提供する傾向があると報告されている 64)。がん化学療法に関する情報は、副 作用だけでなく心理・社会学的要因に配慮すべきであるため、薬剤師は患者の社会的背景や 意向を理解する必要がある。医薬品の持つ心理・社会学的な影響により注意を払い、患者と の対話を持つ努力をすることによって、薬剤師の態度における関係構築や効果的な変化につ ながると考えられる。 過去に実施された研究において、患者には薬剤師の服薬カウンセリング等に対して支払い 意思があることが示されている 65-67)。本研究においても、500 円という金額は患者の選好傾向 にほとんど影響しないことが示された。これまで、外来がん化学療法における薬剤師の服薬 カウンセリングに対する診療報酬は認められていなかった。しかし、平成 26 年度診療報酬改 定において、厚生労働省は一定の基準を満たした専門性を有する薬剤師に対してその診療報 酬を認めた。この改訂において認められたのは、外来または入院患者への薬剤師によるがん 化学療法の説明であり、患者自己負担額は、 (2000 円の 3 割負担として)600 円となっている。 本研究における「服薬カウンセリングの費用」は自己負担額として提示しており、研究結果 は一般化して考察することができると考えられる。本研究結果は、がん化学療法開始前に、 積極的な態度で、的確かつ個々に配慮した情報を提供する薬剤師に対しては、支払い意思が ある患者がいることを示した。更にがん化学療法開始後は、掛かるコストよりも適切なタイ ミングでの副作用管理を重視することも示している。こうした知見は、平成 26 年度診療報酬 改定でも認められたように、薬剤師による服薬カウンセリングのニーズを支持するものであ る。. 31 .
(34) 本研究にはいくつかの限界がある。第 1 に、対象は 2 施設のみで集積されているため、一 般化可能性には限界がある。第 2 に、用いたシナリオには想起バイアスが生じうる。薬剤師 または腫瘍内科医によるカウンセリングの経験は、患者の選択に影響した可能性があり、こ の可能性は排除できない。第 3 に、「一番時間をかけて説明される副作用」、「化学療法開始 前の服薬カウンセリングの頻度」の 2 属性の重要度が低くなったことである。予備試験の対 象が 6 名と少なかったことが、これら 2 属性とその基準の問題に影響した可能性がある。 結論として、本研究結果により、がん化学療法開始前に薬剤師の服薬カウンセリングを受 ける患者は、友好的で関心を持った態度で、的確かつ配慮された情報をコストなしで提供す る薬剤師を好むことが明らかとなった。. 32 .
(35) 第三章 がんおよび HIV 感染症患者の治療選択における「意志決定の葛藤」に与える 服薬カウンセリングの影響 第一節 序論 第一章、第二章において、服薬カウンセリング前から患者の QOL にはばらつきがあり、積 極的な介入が必要であること、そしてその服薬カウンセリングには情報の質、態度、そして 治療開始後のフォローアップが重要であることを示した。このように、薬剤師によって提供 される情報の質が重視される背景に、難治性疾患患者への「患者中心のケア」及び「意思決 定の共有」がある. 68, 69). 。治療選択肢が増加し、その選択肢の中には患者の望まない効果やア. ウトカムが含まれていることがあるため、患者は不確かさを経験し、また難しい意思決定に 直面する。この不確かさと難しい選択は、患者に「意思決定の葛藤」を生じさせる 70-76)。O’Connor らは、意思決定の過程で生じる不確かな状態を「意思決定の葛藤」と定義し、医療において 患者の経験する「意思決定の葛藤」を評価するために「意思決定の葛藤尺度(Decisional Conflict Scale; DCS)」を作成した 77)。 DCS は 5 段階リッカ―ト尺度(とてもそう思う、そう思う、どちらでもない、そう思わな い、全くそう思わない)で評価する、全 16 項目の設問がある自己記入式調査票である。これ ら 16 項目から、Total ドメインと 5 つの下位尺度 である Uncertainty ドメイン, Informed ドメ イン, Values clarity ドメイン, Support ドメイン, Effective decision ドメインにおける各スコアを 算出し、「意思決定の葛藤」を評価する。Uncertainty ドメインは意思決定において患者が直面 する不確かさの程度を、Effective decision ドメインは 情報に基づく選択、患者の反応、満足 度をそれぞれ評価する。Informed ドメイン、Values clarity ドメイン、Support ドメインは 不確 かさに寄与する因子であり、それぞれ情報が不足している感覚、価値観の明確さ、サポート されていない感覚を評価する。Total ドメインと 5 つの下位尺度は 0 から 100 までの値でスコ ア化され、スコアが高いほど、患者が高い葛藤状態にあることを示す。Total スコアが 25 を 下回る状態が意思決定の実施と関連するのに対し、37.5 点以上は意思決定の遅延や不確かさ と関連するとされている。また、臨床的に意義のある差は効果量として 0.3 から 0.4 とされて いる 78)。 治療の意思決定において、治療選択肢について患者が必要とする知識を理解することは不 可欠である. 79-81). 。診断から治療までの過程において、ほとんどの患者が治療、副作用、病期、. 予後、セルフケアに関する情報を必要とする. 82). 。治療が開始されると、治療について、そし. て体調の回復についての情報を必要とするようになる。このように、治療の過程において患 者の必要とする情報は変化しうることが報告されている. 58). 。本邦において、こうした情報ニ. ーズや患者の治療に対する考え方についての研究は少ない。本邦における医師—患者コミュニ ケーションには、従来から「おまかせ(委ねる)」モデルと言われる医学的パターナリズム が存在している 83)。しかしながら、過去 10 年でこのコミュニケーションに変化がみられつつ ある。例えば、Horikawa らの報告によれば、がん患者への告知がなされる割合は、1990 年代 前半の 27%から、同年代後半には 71%にまで上昇している 84)。こうした変化に伴い、本邦の. 33 .
(36) 医療従事者においても、患者に提供される情報や意思決定に参加する患者の姿勢が重視され つつある. 85, 86). 。提供された情報に対する患者満足度は、患者の治療への関心やアドヒアラン. スに影響し、また、患者に対する情報提供は薬剤師の責務である 87-90)。そこで我々は、薬剤師 による治療に関する服薬カウンセリングが、患者の治療選択における「意思決定の葛藤」に 影響すると仮定した。また、この影響を評価するためには「意思決定の葛藤」を測定する調 査票である、DCS 日本語版の開発が必要であると考えた。 本研究の目的は 2 つである。第1に、DCS 日本語版を作成し、その信頼性と妥当性を、難 治性疾患であるがんおよび HIV 感染症患者を対象に評価した。第 2 に、これらの患者に生じ る「意思決定の葛藤」に服薬カウンセリングがどのように影響するか検討した。 第二節 方法 2-1 研究概要と対象 本研究は、東京医科大学病院単施設における、尺度の信頼性および妥当性評価を含めた、 プロスペクティブ(前方視的)な前後比較試験である。薬剤師が服薬カウンセリングを実施 する新規がん化学療法開始前のがん患者に対し、DCS への記載を依頼した結果を用いて尺度 の妥当性と信頼性を評価した。また、服薬カウンセリング前後における「意思決定の葛藤」 の変化を、プロスペクティブに調査した。がん患者における選択規準は 20 歳以上 75 歳未満 でがんと診断されており、新規薬剤でのがん化学療法開始予定で、かつ、新規薬剤でのがん 化学療法について薬剤師が服薬カウンセリングを実施予定である患者を適格とした。HIV 感 染症患者における選択規準は 20 歳以上 75 歳未満で HIV 感染と診断されており、新規の抗レ トロウイルス療法(Antiretroviral therapy; ART)開始予定で、かつ、薬剤師が服薬カウンセリ ングを実施予定である患者を適格とした。両疾患ともに、精神的な疾患を持っている、また は日本語が母国語ではない患者は除外した。 2-2 測定項目 2-2-1 意思決定の葛藤 患者の抱える「意思決定の葛藤」は、開発した DCS 日本語版で評価した。オリジナル版は 英語であり、日本語に翻訳する必要があるが、尺度の翻訳は言語的に翻訳するだけではなく、 文化間の違い等を考慮し、概念的に内容が同等である妥当性も検討する必要がある。本研究 に先立ち、開発者である Ottawa Hospital Research Institute の許可を得て、標準的な尺度開発の 翻訳手順に基づき、オリジナル(英語)版の順翻訳、逆翻訳を実施し、日本語(暫定)版を 作成した. 91). 。作成した日本語(暫定)版について、健常者 40 名を対象に予備試験を実施し、. 意味、慣用句、そして認知的な問題がないかについて検討し、その結果として作成された DCS. 34 .
図
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