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~中国・四国・九州地方でのアンケート調査結果をもとに~

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〔論 文〕

「地方創生」・「グローバル人材確保」を背景とした 大学生・短大生の就職活動に対する志向と企業の採用活動

~中国・四国・九州地方でのアンケート調査結果をもとに~

安倍 尚紀

†1

   北尾 洋二

†2

   成田 誠

†3

Abe DN Naoki Kitao Yoji Narita Makoto

     本稿の目的は、大学生・短大生が就職活動においてとっている方針・

    志向(以下、大きく「就活戦略」と略記)をアンケート調査結果から探     りつつ、地方に本拠地を置く中小企業にとって、いかなる採用活動が効     率的なのかを考察することにある。 「地方創生」と「グローバル人材確保」

    という2つの尺度(scale)からみていきたい。

     本稿では、学生側・企業側、両者のニーズ・論理に精通している著者     ら研究グループの複眼的な立場を活かしながら、地方大学の学生が企業     ・行政等へ求める支援を明らかにし、そこから企業がより的確に学生に     アプローチする方法を導出したいと考える。

    キーワード: 地元採用、海外勤務希望者、採用学、内なるグローバル化     

1.問題の所在・研究の目的 

 『2015年版 中小企業白書』によれば、従業員過不足DIは全業種平均において2011年に プラスからマイナスに(余剰から不足に)転じた。特に関東や近畿では不足感を示す数値 が弱いものの、他の地方では不足感が顕著になってきている。また、日本商工会議所が実 施した『人手不足等への対応に関する調査』によれば、回答社数4072社のうち55.6%が人 手不足と回答、従業員数の多い企業ほど人手不足感があることが露わになっている[1]。

†1 大分県立芸術文化短期大学  

Oita Prefectural College of Arts and Culture [email protected]

†2 株式会社ザメディアジョン・リージョナル/内閣官房/大分県立芸術文化短期大学   The Mediasion Regional Co., Ltd. / Cabinet Secretariat / Oita Prefectural College of Arts and Culture [email protected]

†3 株式会社日本政策金融公庫・高知支店/大分県立芸術文化短期大学

Kochi Office, Japan Finance Corporation / Oita Prefectural College of Arts and Culture   [email protected]

(3)

 情報社会が進展し、SNSまで含めてあらゆるメディアでさまざまな情報が流通する中 で、就職活動をしている学生は理想の職業に巡り合うための情報収集に腐心する。一般的 に就職活動というと、理想の企業に巡り合えないとする学生側の苦労がクローズアップさ れがちだが、他方、採用する側とて自社の望む人材を確保することは容易ではない。そう した学生らを採用する企業側も人手不足に苦しみ、どのように情報発信すれば理想の人物 を採用できるのか頭を悩ませているのである。とくに、地方の中小企業は大企業の採用 数、採用活動の時期に左右されやすく、求める人材を確保することは至難の業である。本 稿でわれわれが大前提として持っている問題意識は、こうした企業と学生の間のギャップ にある。

 本稿では、大学生・短大生が就職活動においてとっている方針・傾向(以下、大きく

「就活戦略」と略記)をアンケート調査結果から探りつつ、地方に本拠地を置く中小企業 [2]にとって、いかなる採用活動が効率的なのかを考察することを目的とする。後述する ようにこのとき、同じ調査を用いた以前の論文(安倍・北尾・成田、2016)を受けて、

「地方創生」 「グローバル人材育成・確保」という2つの尺度(scale)から分析したい。

 以下では、本調査に加えて、追加の個別インタビュー調査および定点観測的な追加調 査、さらに、大学生、キャリアカウンセラー、教育関係者と経営者を巻き込んだ学会での 大規模テーマセッション(3)を経てさまざまな立場から加えた検討を含めて掘り下げて いく。このとき、大学にも企業側のニーズ・論理にも精通している著者ら研究グループの 複眼的な立場を活かしながら、地方大学の学生が企業・行政等へ求める支援を明らかに し、そこから企業がより的確に学生にアプローチする術を導出したいと考える [4]。した がって手順としては、2節でアンケート調査の方法について述べた後、3節において当該 分野における先行研究をレビューし、その後、調査結果から見えてきた企業への提案をま とめていきたい。

2.実施した調査の概要

 2015年9月下旬から11月中旬にかけて、アンケート調査を実施した。中国・四国・九州 地方の大学・短大から幅広く実施し、有効回答数514名のうち、大学院生と留学生を除い た507名(男性194名、女性317名、不明2名)を対象に分析する。

 実施方法は、担当する授業・講演の受講生からの回収、就職活動関連イベント参加者か

らの回収、筆者の学生時代の指導教官や筆者とつながりのある大学生(サークル等のまと

まった組織)に依頼しての留置法である。したがって、回収率は100%であった。回答者

のほとんどが文系で、大学別の回答者数は以下のとおりである.

(4)

 末尾に示す通り、自由記述2箇所を含めた合計12問の簡潔な調査票を用いた [5]。質問 番号1~10は回答者の属性に関するもの(過去~現在および現時点の属性および進路希 望) 、質問番号11~12は企業・大学・行政に求めるもの(要望)とし、 「属性・進路希望×

要望」の視点でさまざまなクロス分析を施し導出される「ターゲットとする学生の属性・

希望に応じた的確な採用活動のあり方」について着目した。

 

3.先行研究のレビュー

 現時点で、ミクロな当事者視点による就職活動マニュアルや採用担当者用マニュアルは 市場に多く出回っている。が、データに基づいたマクロな視点による調査研究は多くな く、ほとんどは、大学側(就職指導教官やキャリアカウンセラー)の視点によって「学生 にいかに理想の就職をさせるか」という発想で書かれていた。ゆえに、採用する立場の企 業が「どのような手段を施せば自社の求める人材を確保できるか」という先行研究は少な い。

 この点からみて秀逸な先行研究として、本節では人材採用研究の第一人者である服部泰

宏の『採用学』(2016)について概観する。服部は、採用学の使命として「各企業にとっ

て最適な解を導き出すためのロジックとエビデンスを提供すること」と定義し、よりよい

採用のあり方を探るための学問としての「採用学」を、経営学に内包される概念として位

置づけた。これまで経営者や採用担当の経験やフィーリングに依存して感覚的に行われて

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いる面が否めなかった採用活動に対して、科学的アプローチを試みたという点で有益なも のといえよう。服部が提唱した採用学の考え方を3-1に、直近の研究成果のレビューを3-2 にまとめる。

3.1「採用学」の考え方

 採用の目的とは、経営戦略実現のために不足している人材を獲得すること、組織内が慣 れや同質化圧力により緊張感がなくなることを防ぐため活性化を図るべく人材を獲得する ことである。そのために適切な「募集」と「選抜」をする必要がある。

 ここでいう「募集」とは出会いをコントロールし魅力的な候補者群をつくること。裏を 返せば、さまざまなフィルター機能を駆使し、魅力的でない候補者がより少なくなってい るようにすることである。そして「選抜」とは、既存の情報に基づき優秀者や魅力を推測 することで、求職者の潜在能力を見抜くことである。

 『採用学』において、この募集~選抜段階でいくつかの問題点や留意点が指摘されてい る。

 第一に、採用基準の拡張について挙げられる。選抜の段階において入社後に職務を遂行 していくうえでの適切な能力を備えているかどうかを判断すること(能力のマッチング)

が必要になるが、評価基準の運用が曖昧であり、担当者による解釈の多義性をはらんでい ること、それを越えて企業と求職者の間のフィーリングがマッチしているかどうかという 本来指標として予期されていなかったもの(フィーリングのマッチング)を持ち出してし まい、いつのまにか採用基準が拡張され選抜に影響を及ぼしている。大量に形成された候 補者群をふるい落とす過程でおそらく企業サイドも意図しないにもかかわらず、企業サイ ドによってフィーリングのマッチングが持ち込まれてしまい、落としていけないはずの求 職者を落としてしまうことが起きている(服部、2016a、p80) 。

 第二に、日本の新規学卒者採用活動における問題として、とりあえずいったん大規模な 採用候補者群を組成し、そのなかの上澄みを採用するように工夫すればよいとする「大規 模候補者群仮説」が多くの企業の採用の主流のやり方になってしまっていることが挙げら れる。この仮説は科学的な研究により否定されているのだが、多くの企業では「優秀な人 材をエントリー段階で取りこぼしたくない」とする思惑があり、このような仮説を信奉す る企業では募集段階でネガティブな情報よりもポジティブな情報ばかりを提示しがちとな る。そうなると、募集段階において「個人が会社に対して何を期待するのか」「会社が個 人に対して何を期待するのか」ということに対する十分な情報交換(期待のマッチング)

がされないまま雇用契約がされてしまい、採用後にその詳細がすり合わせられていく。こ れを求職者の企業に対する「曖昧な期待」と表現している。つまり教育研修やキャリア、

昇進といった部分で、求職者と企業の間の入社前の情報交換が十分でなかったことが原因 となり、入社後に企業に対する期待のミスマッチが大きな問題として表出する(服部、

2016a、p65-70) 。

 第三に、求職者の意思決定に与える影響因子は、募集~選抜~内定受諾と段階を経るう

ちに、より具体的に変化していくものである。求職者は企業に対して、最初の募集段階の

うちは主観的なフィットネスを、選抜段階に入ると仕事特性や組織特性を、内定受諾段階

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に入ると採用プロセスでの応対ぶりを評価している。選抜段階において求職者が自らと企 業とのフィットネスを判断するための材料を、様々なチャネルとりわけ求職者にとって

「信憑性が高い」チャネルを含めた複数のチャネルからできるだけ多く提供すること、選 抜プロセスにおいて遅れや不手際を極力排除し、求職者への尊重を示すなど、段階が進む につれて求職者の心理的変化が起きることから、それに合わせた誠実な採用活動が求めら れる(服部、2016a、p100-114) 。

 第四に、選抜における評価基準の設定である。採用後の育成によって伸びる可能性のあ る能力項目については採用の段階で備わっていなくてもその後の育成によって対処すれば よい。一方で、採用後の育成によって伸びにくい(変わりにくい)能力項目については採 用の段階で備わっていなければいけない。こうした、自社にとって必要な能力は何で、そ の育成機会が採用後にあるかどうかなど絞り込んでいくことで、能力要件がより明確なも のになっていき、(フィーリングに頼るものではなく)科学的な見地から面接をすること ができる。こうした理論を企業が応用し、見ないポイントを決めること、採用基準を拡張 させないことを意識しつつ自社版にカスタマイズすることによって、より良い採用活動へ の糸口となる(服部、2016a、p125-147) 。

 『採用学』における新たな知見は他にもあるが、本稿(中小企業の採用活動について革 新をもたらすという視点)においてとくに意義のある点を集約した。こうした課題に対す る一義的な解というものは存在しないものの、各企業が自社の特性や資源を活かし、ロ ジックとエビデンスに基づく科学的な採用方法を構築することは可能であるとするのが採 用学の視点である。

3.2 採用機能の革新と連続性

 服部は、2016年卒業生の採用において採用活動の革新を起こした企業はどの程度存在し ているのか、そうした企業ではどのような革新が行われたのか、革新はなぜ起こったのか を明らかにした([6]) 。

 調査の前提となる2016年卒業の新卒採用は特に、経団連によって発表された「採用選考 に関する指針」により企業説明会などの広報活動が大学3年生の12月から3月へ、面接等 の選考開始が4月から8月へそれぞれ「後ろ倒し」されたという特徴がある。内定の解禁 は従来通り10月に固定されたままなので、実質的に企業と学生が採用に充てられる期間が 短縮された。こうした採用活動を巡る情勢の変化に対し、同研究では人事担当者に対し実 施したアンケートから以下のような分析結果が提示されている。

 2016年卒採用において発生した採用機能の革新の中身について同研究では人事担当者の 他薦により革新的だと思う他者の採用方法を投票する形式でアンケートを行った。その結 果、他薦により革新的だと評価された採用活動のあり方は以下の5つのカテゴリーに分類 された(服部、2016b、p11) 。

 

  ① 「設定する人材像・人材要件」を緩和した。フリーターを新卒として採用するな     ど、これまで対象としていなかった人材をターゲットとした。

  ② 「求職者の募集に用いる方法」を革新した。企業への入り口を就職情報サイト以

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    外にも複数設けるなど、入り口の多様化を図った。

  ③ 「選抜の際に用いる方法」を変えた。面接を廃止し、ゲームを実施するなどの方     法を採り入れた(筆者追記:同時期に、業務で活かすことのできる勘や度胸など     のセンスを持ち合わせているかどうかの参考とする目的でマージャンを選考に用     いる企業も出てきている) 。

  ④ 「人材像・人材要件の作り込みの方法」を変えた。入社後の人事データを統計解     析して採用するべき人材要件を特定するなどした。

  ⑤ 「募集時に学生に伝えるメッセージ・情報の中身」を明確にした(筆者追記:い     わゆる先に記述した「大規模候補者群仮説」に頼るのではなく、エントリー時点     で当該企業に合っていない人のエントリーを抑制すべく自己選抜効果を狙い、前     捌き機能を担うような広告を発信するなど) 。

 

 ただこうした革新は、多くの企業で発生したというわけではなく一部の企業において採 用のあり方を大幅に変更するような革新があったとしている。またこうした革新に統計 的に有意な正の影響を与えている要因の分析として以下3点が挙げられている(服部、

2016b、p16-17) 。  

  ① 「人材像・人材要件の設定変更」における採用担当者の裁量の幅があること。こ     れについては人材像や人材要件の設定変更ができること、採用フローの大幅な設     計変更ができること、求職者の最終的な合否判定ができることという選択肢を元     に測定している。

  ② (採用担当者の情報源として)社内研修勉強会への参加回数が多いこと。これに     ついては社内外への研修会への参加頻度、上司に相談をする回数、採用担当者以     外に相談する回数、社外の相談相手の人数などを元に測定している[7]。

  ③ 「人材多様性の重視」という採用上の重点目標が存在したこと。多様な人材を本     気で採用したいと考えたこと。

 これらの革新のなかには既存の採用活動の単なるマイナーチェンジにすぎない「新しさ を装った」ものが紛れている可能性と、新しい採用活動手法を導入すること自体が流行現 象(経営学における「マネジメント・ファッション」と呼ばれる現象)になっていること にも留意する必要がある。

 一方で、ここまで論じてきたような採用機能の変化という次元ではなく、人材マネジメ

ントに占める新卒採用の位置づけという点で、自社にとって優秀な人材を探す「採用」と

いうステージと、人材の能力を伸ばす「育成」というステージが同時並行的に行われてい

るケースがある。(社長や社員のかばん持ちも含め、)いわゆるインターンシップの場と

しての師匠と弟子の関係を通して、師匠から与えられた課題について求職者が自らアウト

プットを出し、その結果に対してフィードバックを師匠から得て課題を練り上げていくと

いうのがその実例である。ポテンシャルを測る指標として学歴が通用しなくなりつつある

ことや、経営環境の変化によって人材育成そのものが機能不全に陥ること(入社後からの

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育成のみに資源を集中できないこと)を鑑みると、採用に求められる役割は変化を強いら れることになる。

4.基本属性と地元志向について 4.1 「地元志向」について

 平成26年12月27日、「まち・ひと・しごと創生総合戦略」が閣議決定された。政府によ る「まち・ひと・しごと創生本部」の設置および法案の検討などの形で取り組みが進めら れている[8]。この流れを受けて大分県でも「地方創生」に向けて〈まち・ひと・しごと 創生~大分県総合戦略〉に取り組み、人口の自然増・社会増の両面からも、施策している [9]。

 こうした「地元志向」を推進する政策的背景のもと、本稿冒頭のデータに示したような 人手不足感もありながら、実は、昨今の学生心理は地方企業にとって追い風となってい る。マイナビが2017年卒業予定の学生に行った『Uターン・地元就職に関する調査』に よると、地元に就職を希望する割合が全体の55.3%(前年比+2.7ポイント)を占めるな ど、給与水準が下がってもなじみのある環境で生活したいとする結果が現れている。ただ し、一方の学生サイドは、氾濫しすぎた就職活動の情報や、そのなかに紛れて地方企業の 情報がなかなか入ってこないこと、2~3年おきに変化する就職活動のスケジュールに翻 弄され、いったいいつ何をどのように行動すればよいのかといった指針がないことに苛立 ちを募らせてもいる[10]。

 さて、以下ではまず、主に「地元志向」(設問6)を中心に、学生の基本属性と調査の 全体像をみていきたい。 「地元志向」 (設問6)にいう「地元」とは、都市部や農村部など と関係なく、親の居住地周辺として調査を実施した。(その他の地域と比べたときの)自 分の地元への愛着という情緒的な部分もあるが、社会的ネットワークや実質的な生活サ ポートを受けやすいという想定が調査開始時にはあった。

 実際の調査の結果、地元での就職を希望する理由についての自由記述(設問9)では、

第一に、地元で生活すると経済的負担が少ないこと、第二に、社会的ネットワークの恩恵 が受けられることが挙げられた。前者は例えば、「地方企業は、都市部の企業に比べて給 与が安いが、そのぶん物価も安い」 。 「実家に住めば、家賃や光熱費は、ほとんどかからな いか、ゼロで済むこともある」という記述がみられる。後者では、「家族や古くからの友 人が近くにいる」「いざという時に、頼れる人が近くにいるという安心感」、逆に、「家族 や友人に何かあったときに、すぐに駆けつけることができる」 、 「時間的ゆとりが出来、趣 味や余暇が充実する」(家事のサポート等)といったメリットが挙げられている。その他 として、 「都心と比べて自然が豊富」 「地域との密着度が高く、治安が良い」などが理由と して挙げられた。

 

4.2 短期大学・四年制大学別にみた地元志向

 調査の結果、四年制大学に比べると、短期大学の地元志向が強いことが判明した。短大

に所属する155名の殆どがもともと高校卒業時点で県内進学を選んでいることもある。

(9)

       ここでいう地元志向として、設問8の就職       希望地(1:地元、2:首都圏、3:京阪神、

      4:海外、5:左記の4つ以外)を、地元とそ       れ以外の2つに分類している(以下同様) 。

図1 短期大学・四年制大学別の地元志向 4.3 男女別の地元志向

 女性のほうが男性より若干、地元志向が強いという結果となった。とはいえ、短大在学 者を除いた女性166人中では、地元就職を希望するのは80名約50%となり、前項目の短期 大学在学者の影響が強いことがわかる。男女差は無視して良いと思われる。

    図2 男女別の地元志向

 自由回答から強いて言えば、男性は「長男だから」「土地を継ぐため」等の回答は男性 に特有のものであり、女性の回答では「母の近くにいたい」「家族の介護」が目立った。

「地元への愛着のため」はどちらにも多く見られた。

4.4 学生時代の居住状態別にみた地元志向

 設問6の居住形態(1:親と同居、2:独り暮らし、3:寮・下宿、4:シェアハウス)に ついて、 「親との同居」 (1)と「実家以外での居住」 (2~4)の2つに別けた。結果は以下 のようである。

      図3 居住形態別の地元志向

地元52%

それ以外48%

四大(n=352)

短大(n=155)

地元72%

女(n=311)

男(n=196)

地元60%

それ以外40%

地元 55%

それ以外 45%

親との同居者

( n=266 )

191 74

地元 その他

実家以外の居住 (n=241)

134 103 地元 その他

(10)

 容易に予想できる通り、親と同居している学生は地元で就職したいという学生が多く、

親と同居していない学生は地元以外で就職したいという学生が多い。

 さらに、設問7の転勤の可否(1:転勤があってもかまわない、2:転勤は避けたい)に ついても整理してみた[11]。

図4 居住形態別にみた転勤の可否  

 ここで男女別に見ても、地元志向にあまり差はなく、似たような結果になった。ただ し、親と同居しており、地元で就職したいという意見の女子学生は、「地元が安心できる から」 、 「親の近くにいたいから」というように親との親密さを伺わせる理由が多かった。

これには、自身の結婚や出産時に親の近くにいた方が安心感を持てることや、親にもし何 かあった時にすぐに駆け付けられるというジェンダー的な理由が考えられる。

4.5 企業選びで重視することと転勤の可否

 企業選びをする際に重視することについて、全体的な結果として、男女ともに共通し て、「会社の雰囲気が合っていること」を重視することがわかった[12]。前項目の「転勤 の可否」とのクロス分析は以下のようである。

   

図5 転勤可の学生が企業に求める要素  図6 転勤不可の学生が企業に求める要素

親との同居者

( n=266 )

146 120

転勤可 不可

実家以外の居住 (n=241)

102 139

転勤可 不可

38%

自分が成長できる 環境がある

12%

能力や個性が生かせる 17%

知名度が高い 1%

給料がいい 7%

休日がしっかりとれる 20%

実力が正当に評価 され出世できる

1%

4%

転勤なし(n=240)

会社の雰囲気が あっている

会社の雰囲気が あっている 32%

自分が成長できる 環境がある

26%

能力や個性が 生かせる

19%

知名度が高い 0%

給料がいい 7%

休日がしっかりとれる 11%

実力が正当に評価 され出世できる

2%

総合職として女性が 活躍している

(男女平等)

総合職として女性が 活躍している

(男女平等)

3%

転勤あり (n=247)

(11)

 上記2つの図から、転勤があってもかまわないと回答した学生は、転勤を避けたい学生 に比べて、自分が成長できる環境を望んでいる「攻め」の姿勢が見て取れる。

 

5.出身地に就職を希望する人材の確保について

 さらに、自治体別に、 「出身地に本社のある企業に就職を希望する人材の確保につい て」詳しく掘り下げたい。とくに筆者のうち成田は勤務地の関係上、九州・四国の特性に 詳しいことから、以下のような分析過程を着想した。

(1) アンケート調査のうち比較的まとまりのあった「香川県出身者」「大分県出身者」

「福岡県出身者」かつ「希望する就職先の本社所在地がそれぞれの地元(親の居住地周 辺)にあること」を希望する者を抽出。

(2) それらの者が、質問番号11~12においてどのようなことを重要視するのかに着目。

 この絞込みから導出されるポイントは、地方に本社を置く企業が自社のエリアに興味の ある学生が求める要望をより的確に察知し、企業から学生への効率的な情報提供の方法を 探ることにある。

 この手順で分析した結果、以下(5.1) (5.2)に述べるようなポイントが導出された。

 

5.1 「香川県出身かつ地元就職希望者」「大分県出身かつ地元就職希望者」から見えてき た共通のポイント

 「香川県出身かつ地元就職希望者」 (以下《香川県》等と略して表記する)と《大分 県》は、質問番号11、質問番号12のいずれの設問においても似たような傾向を持っている ことが判明した。

 《香川県》《大分県》が重要視する就職先の選択理由としてともに同じ順序で1位に

「会社の雰囲気が合っている」 、2位に「休日がしっかりとれる」 、3位に「能力や個性を 活かせる」が入っている。会社の雰囲気については極端に多くの回答があったことから、

さらに筆者から何名かの学生に対して「雰囲気が合う」ということはどういうことかと補 足ヒアリングしたところ、概ね「社内の人間関係はよいか」「各種休暇はとりやすいか」

「自分の能力がその企業の仕事をするうえで過不足ないか」というものに集約された。

「能力や個性を活かせる」という選択肢は、在学中に取得した資格を就職後に活かすこと を想定したものや、学んできたことを業務で活かすことを想定して回答したものと思われ るが、現実的には就職後すぐに資格や机上の学びが業務に直結して活かせる機会はすぐに はなかなかなく、とりあえず「経験する」ことを通して経験から学ぶこともあるという事 実を教えておく必要があろう。

 《香川県》《大分県》両者の立場から求めたい支援策としては、ともに1位に「そもそ も就活とは何から手をつけていいものなのか教えてほしい」が入っており、2位以下の上 位に順位こそ違うものの「採用基準を明確化してほしい」「興味のある企業において、仕 事をするということ(顧客を応対する一連の流れ、業品・企画をつくる一連の流れなど)

を経験できる機会がほしい」が共通して入っている。

 このことから、地方の大学においては就活そのものの方法論が確立されておらず、その

(12)

背景としては、先輩から後輩へのノウハウの伝授が都会の大学に比べて劣る、OBとの接 触機会に恵まれない、方法論を教える人と巡り会えていないというハンデがこうした回答 結果に現れていると推測される[13]。また、採用基準に関して学生に補足ヒアリングした ところ「企業が求める人物像というのは、だれでも当てはまるような抽象的で大局的な人 物像が明示されることが多く、学生からすると漠然としすぎていてよくわからない」とい う趣旨の意見が集約された。せっかく履歴書やエントリーシートを提出していざ採用面接 までコマを進めても、「自社の求める人物像でない」として(いったん大量に募集してお いてふるいにかけるという工程をふむなかで)ふるい落とされる側に無用な禍根を遺す、

という現象も起きている。そういう工程を踏むくらいであれば、具体的な採用基準を明示 して、それに合った学生だけ受けにきてもらうというやり方があってもよい。極端にいう と、企業側から「今年欲しい学生はこういうタイプであるから、それ以外の人は時間も労 力も無駄になるので受けないほうがいい」と言い切ってしまうのである。これは一見する と不平等のようであるが、ある程度の受験者数を確保できていて削ぎ落とし段階での手間 に苦心しているような企業のケースであれば、採用基準を公表せずに学生に無駄な時間と 労力をかけさせるよりは効率的な方法である。

 以上のことから香川県、大分県の企業が学生に対してアピールする効果的な方法は、会 社の雰囲気が学生に伝わるような座談会イベントを企画し、人事部以外の社員と本音ベー スでの対話ができる機会を設けることである。本音ベースで社員と学生が懇談して学生が 知りたいことを質問できるようにし、会社の雰囲気や休日の取りやすさ、能力や個性がど のように活かせるかを確認してもらう場とすればよい。また、地方大学で頼るべきロール モデルが身近にいない学生に対しては、こうした機会をきっかけにして齢の近い若手社員 が就活の相談役になるなど、企業が学生のキャリア形成における里親になる仕組みがあっ てもよいだろう。

 今回のアンケート調査では《香川県》《大分県》から類似した結果が得られた。この結

果は、おそらく《香川県》《大分県》だけがたまたまこのような傾向というわけではない

だろう。それを証明するまでの材料は今回のアンケート調査だけでは手薄だが、例えば山

口県、愛媛県、宮崎県など大都市が存在しない条件が似た多くの地方においてもこの傾向

は当てはまるのではないかと推測され、そうであれば中堅規模の都市の企業は学生に対し

て同じような改善策を施してアプローチをすればよいこととなる。この点の精度を上げた

分析は今後の課題である。

(13)

5.2 「福岡県出身かつ地元就職希望者」から見えてきたポイント

 一方、《福岡県》では《香川県》《大分県》と顕著な違いが見られた[14]。重要視する 就職先の選択理由として「自分が成長できる環境がある」が2位にきている一方、《香川 県》《大分県》で2位だった「休日がしっかりとれる」が3位になっている。

 このことは、仕事以外の要素を重視する理由で地元就職を希望する者も一定数いる一方 で、仕事での成長を求めるのに福岡県の企業が適しているという「仕事そのものに対して 積極的な理由」で選択している者が多くいるといえる。

 《福岡県》にとって求めたい支援策にも特徴が出ており、「興味のある企業において、

仕事をするということ(顧客を応対する一連の流れ、商品・企画をつくる一連の流れな

(14)

ど)を経験できる機会がほしい」が1位に、「興味のある企業において、社長や社員に密 着できる機会(かばん持ち体験、営業同行等)がほしい」が3位に入っている。一方で

《香川県》《大分県》でともに1位だった「そもそも就活とは何から手をつけていいもの なのか教えてほしい」は2位になっている。

 《福岡県》の学生は、日常のキャリア形成支援がある程度得られており、一歩進んだ段 階の悩みが多いということがいえる。こうしたことから、福岡県の企業が学生にアピール する際に効果的な方法として、仕事の核となる案件の組み立て・遂行を体験できるような インターンシップ、社員同行、社長のかばん持ちなどを経験できる機会を設けつつ、そう したプログラムを通して学生が社風を認知できること、成長できる環境がその企業にある と思えることが必要である。つまり、単なる会社説明であったり、学生同士でワークに取 り組むような疑似体験をベースとしたインターンシップだけではなく、顧客応対や商品・

企画を作ることを通して実際にその企業の核となる仕事の流れを体感できるプログラムを 提供することがポイントである。

 以上、本調査から、タイトル通り、中国・四国・九州地方の大学生の就職活動につい て、基本的な属性と大きな傾向が見えてきた。要点をまとめると以下のようになる。

 地方都市に本拠地を置く企業が採用活動を行う際には、以下のような方針で学生と接点 を持つと互いにとってより効率的なあり方といえる。

(1)香川県、大分県のような中堅規模の都市を有する県を本拠地とする企業は、会社の

雰囲気が学生に伝わるような座談会イベントを企画し、人事部以外の社員と本音ベースで

の対話ができる機会を設けること。OBが少なかったりキャリア支援に恵まれなかったりす

(15)

る大学の学生に対しては、自社の若手社員を学生の就活の相談役とすること。また、採用 基準を具体的に明示して学生に知らせることである。さらに3節と結びつけていえば、地 元志向が強い学生は地元志向が弱い学生より、企業選びをする際に会社の雰囲気を重要視 することも判明している。この要因は、地元企業であればもともと知っていることも多 く、雰囲気が決め手となりやすいからであろう。

(2)福岡県のような大都市を有する県を本拠地とする企業は、恵まれたキャリア支援を 受けた学生の次の一手を求めるニーズに対応すべく、「顧客応対の流れ、商品・企画をつ くる流れを体感できるインターンシッププログラム」や「営業同行、社長のかばん持ちな ど現場を体感できるプログラム」を用意し、そのなかで学生自身がこの会社でやっていけ そうだという能力の過不足についての不安を解消するよう促したり、会社のなかで活躍で きる可能性を知らしめたりするとよい。

6.(海外勤務を希望する)グローバル人材の確保について

 日本社会の大前提となってきた内需主導型の経済成長・政策は、国際的な貿易自由化の 文脈において、再び、転換期を迎えている。また、アジア各国の中に位置づけた時の我が 国の人口構成、労働力の国際化からも、情報技術の浸透によるわれわれの生活の変化か らも、国際競争力の高いグローバル人材の育成・確保が急務であることは明らかである [15]。

 「日本再興戦略 -JAPAN is BACK-」(平成25年6月14日閣議決定)中の日本産業再興 プランに大学を含めてさまざまな施策が打ち出された。 「 『日本再興戦略』改訂2014」(平 成26年6月24日閣議決定)では、日本人・日本企業の海外進出を念頭に置いた「外へのグ ローバル化」に対して、 「内なるグローバル化」と表現されているが、出ていくばかりで はなく外国企業や外国人が日本国内で積極的に活動できる環境を整備するという点でも重 要である。

 ところが、現状を示すデータは、若者の「内向き志向」を示している。

   「2004年(平成16年)以降、海外へ留学する日本人学生の数は減少に転じている。ま   た、特に米国の大学に在籍する日本人学生数は大きく落ち込んでいる。さらに、新入   社員に対するアンケートでは、海外での勤務を希望しない者が増えているとの報告も   ある」 (グローバル人材育成推進会議、2012[16]) 。

日本人学生の海外留学者数の男女比もおよそ1対2であり、グローバル人材が社会で 十分に活用される仕組みが不十分で、むしろそうしたキャリアがマイナス方向に作用して いる状況が伺いとれる。果たして、本調査ではどのような結果が出るであろうか。

 4節では地方都市に本拠地を置く企業が採用活動を行う際に効率よく学生と接点を持つ

方法について述べてきたが、この節では海外に勤務を希望する学生が重要視している特徴

について掘り下げたい。今回のアンケート回答のなかでは、立命館アジア太平洋大学を中

心に海外勤務を希望する層が一定程度存在したことから、以下のような分析過程を着想し

た。

(16)

(1)アンケート調査のうち勤務地について「海外」を希望する者を抽出

(2)それらの者が、質問番号11~12においてどのようなことを重要視するのかに着目。

 

 この絞込みから導出されるポイントは、海外で活躍できる人材を求める企業が自社に求 める要望をより的確に察知し、企業から学生への効率的な情報提供の方法を探ることにあ る。

 この手順で分析した結果、以下に述べるようなポイントが導出された。

6.1 「海外勤務希望者」が求める就職先の選択理由

 「海外勤務希望者」が求める就職先の選択理由として、1位に「能力や個性を活かせ る」、2位に「自分が成長できる環境がある」、3位に「会社の雰囲気が合っている」と なった。

 裏返せば、出世や給料のような権威主義的なもの、休日の確保や男女間の平等性のよう な労働条件に関わるものはさほど重視されていないということである。

 この結果はある程度想定されたことではあるが、海外に出て活躍したいという願望のあ る学生は、自分の能力や個性を仕事のなかで発揮し、仕事を通して成長していきたいとい うアグレッシブさを持ち合わせているといえる。しかしその能力や個性を発揮するために は、能力や個性が潰されない社風が整っているという確認をしておきたいという要望がア ンケート結果から推察される。

 また「海外勤務希望者」の地域選択理由(自由記述)を大別すると「海外で活躍するこ とに興味関心があるという理由」「英語を中心に外国語を使う仕事に興味関心があるとい う理由」「日本の会社・縦割り社会になじめないとする理由」に大別された。海外勤務希 望者は、語学力や自信が卓越しているという強みがあるが、こうした学生を日本企業が確 保しようとする場合、外国語の必要とされる場面やスキルだけでなく、社風や働き方(個 人の能力が活かせる環境・社風が揃っていること)についての丁寧なアピールも必要と なってくる。

6.2 「海外勤務希望者」の求める支援策

 「海外勤務希望者」が求める支援策については、1位に「興味のある企業において、仕 事をするということ(顧客を応対する一連の流れ、商品・企画をつくる一連の流れなど)

を経験できる機会がほしい」、2位に「そもそも就活とは何から手をつけて良いものなの

(17)

か教えてほしい」、3位に「身近に相談できる人(キャリアカウンセラー等)がほしい」

となった。

 前節において《香川県》《大分県》両者の立場から求めたい支援策としてともに1位に

「そもそも就活とは何から手をつけていいものなのか教えてほしい」が入っており、《香 川県》においては3位に「身近に相談できる人」が入っていた。その背景として地方大学 は就職活動の方法論が未確立であること、先輩から後輩へのノウハウの伝授が都会の大学 に比べて劣る、OBとの接触機会に恵まれない、方法論を教える人と巡り会えていないと いうことを推察したが、本節におけるこれらの選択肢は、海外に勤務を希望する学生に とっては、その「具体的な条件下での情報が不足」という点で回答内容が質的に異なるも のと推察する。つまり、このことは「海外で勤務するために何から手をつけて良いのか」

「海外で勤務することについて身近に相談できる人がいない」という悩みと言い換えても よいのではないか。

 また、この質問の1位に「興味のある企業において、仕事をするということ(顧客を応 対する一連の流れ、商品・企画をつくる一連の流れなど)を経験できる機会がほしい」が 入っている。このことは、日本の地方都市に本社を置く企業の海外でのインターンシップ

(海外において仕事を行う一連の流れを経験できる)の機会がまだまだ不十分であること を表しており、よって海外で活躍できる人材を確保したい企業としてはこのあたりの要望 にタイムリーに応じていく必要がある。

6.3 本節のまとめ

 本節では海外勤務希望者の求める就職先の選択理由および求めたい支援策について論じ てきた。6-2節において「興味のある企業において、仕事をするということ(顧客を応対 する一連の流れ、商品・企画をつくる一連の流れなど)を経験できる機会がほしい」の要 望が最も多かったことと、6-1節での推察を足し併せれば、本節で検討する人材の特徴と して能力・個性を活かすこと、仕事を通して自己の成長を求めたいという願望が強い一方 で、自身の尖った能力・個性が職場で活かせるかどうか社風をしっかり確かめ、具体的に 働く流れを体験したいという思いが強いといえる。なかには個性が際立ちすぎて「日本に 馴染めない」というくらいの人材がいるかもしれないが、そういった者の長所を受け止 め、能力を活かしていく仕組み作りをしていく必要がある。

 また、アンケート結果を補足するべく海外勤務に興味のある学生(下関市立大学1年生

(18)

男子)にインタビューしたところ、企業に対する要望として「語学力が足りないかもしれ ないが、自分でも手が届く仕事であるという希望を持たせてほしい」という意見があっ た。海外で勤務をしたり、海外へ営業に行って交渉したりという仕事に対して、特別な能 力を入社前に有する必要はなく、手に届く範囲として存在することを知らしめてほしいと いうことだった。さらに深掘りすると、この意見の背景には「語学力が優れていることや 海外で活躍できることの前提として、学歴が高くなければいけないという固定観念を暗黙 のうちに感じている」とのことだった。しかし実際は、案件を当事者として仕立てる能力 こそ大事なのであり、語学力はそれに付随する位置づけのもの(手段・道具)である。先 行研究において服部が「ポテンシャルを測る指標として学歴が通用しなくなりつつある」

と指摘していたが、旧来のそうした指標に代わって企業は広く当事者意識の高い求職者と 接点を持つべきである。そういう意味でこれは示唆に富んだ意見ではなかろうか。

 このことから本節での要点をまとめると以下のようになる。

 海外で活躍できる人材を確保したい企業が採用活動を行う際には、以下のような方針で 学生と接点を持つと互いにとってより効率的なあり方といえる。

 

(1)語学力や個性を存分に発揮して海外で働きたいという熱意を持つ学生が、働く経験    (インターンシップ)を通して企業の社風(企業内にいる者からすれば当然とも    思っていることが、この種の学生にとっては独特なものに写ることもある)に馴染    めるかどうかを確認できるようにすること

(2)仕事を経験する機会を提供すること。海外での現地インターンシップを採り入れる    こと。

(3)海外での勤務経験のある者のうち現在日本在住の社員を学生とつながる場を設け、

   学生に自身の働き方をアピールし、個別面談などの機会を設け相談できる態勢とす    ること。

(4)許容できる範囲であれば、多少個性が際立つこと、国内志向の学生と比べてずれて    いることなどをいとわない。長所を見つけて活かす工夫をすること。

(5)中堅大学においても海外勤務を希望する者は一定数おり、学歴によるフィルタリン    グを行うことは企業サイドにとっての機会損失となる。

7.むすびにかえて

 自分のキャリア形成を考え、いかに働くかを検討している学生の目線からすると、6節 に検討した「グローバル人材」となって海外勤務することは、いっけん、5節に検討した

「地方創生」の方向で「地元志向」を持つことと逆のベクトルを持つかのように思われ

る。しかし、5節と6節を振り返りつつ、6節冒頭に指摘した「内なるグローバル化」の

視点を考え併せれば、今後の日本における業務は、国内/海外の単純な二分法では捉えき

れない。「内なるグローバル化」の進展によって外国企業や外国人の日本国内での活動が

活性化すれば、海外勤務希望者は必ずしも海外勤務でなく国内勤務であっても国際的な業

務に携わるという道もありうるし、「地元志向」で地元就職しても国際的な業務に携わら

ざるをえないこともあろう。

(19)

 3節で検討した採用学の観点も踏まえ、「地元志向」(5節)、「グローバル人材」(6 節)それぞれの採用について、調査結果から見えてきた企業への提案を提示した。特に、

両者に共通して、業務体験を伴うインターンシップ等、仕事を経験する機会を工夫するこ とで、不幸なミスマッチは減少しそうである。

 最後に、大学内部の事情について内省しておきたい。本調査結果をもとに、2016年11月 4日、筆者らは立命館アジア太平洋大学で開催された『アジア太平洋カンファレンス』に て本稿内容および今後の新卒採用のあり方についてパネル討論を行った。40名超の積極的 な聴講者から寄せられたいくつかの意見のなかでも、 「大学内のキャリアセンターの職員 が本当に社会の実態をわかっているのか」という他大学の内定済み学生ら複数による意見 があった。キャリアカウンセラーが学生に対して行うアドバイスが具体性を帯びておらず 通り一遍な対応に終始しており働くことの現実感を伝え切れていないとの指摘だ。また同 様に「学生への応対レベルの低いキャリアカウンセラーに対しては学生が信頼を置いてい ない」という辛辣な意見も寄せられた。

 またこれに対し別の聴講者からは、大学内のキャリアカウンセラーが企業に実習に出向 き、社会人(大学職員)でありながら学生のようにインターンシップを体験し、その現実 感を学生と接するなかで還元していく取り組みを行っている私立大学もあるとの発言がな された。

 こうした意見を総合し、このパネルディカッションの結論の一つとして、「キャリアセ ンター職員や進路支援担当の教員こそインターンシップするべきだ」という共通見解が生 まれた。実際に企業に来て、企業理念や仕事を応対する一連の流れ、利益を得られる仕組 みなどを学び、それを学生に伝えることで、リアルなものを得られる。 (確かに、人件費 やポストの制限、職務分掌、学内人事や待遇の格差など実務上の制約のため、難しい面も あるとはいえ、)もしもこうした取り組みが多くの大学において普及していけば、キャリ アセンター職員や進路支援担当の教員が触媒となって学生と地方の中小企業をより的確に つなぐこともでき、同時に、地域貢献や産学連携の糸口になる等、副次的な効用もあるの ではないか。

 本稿で指摘してきた学生のタイプ別の就職先選択理由、求める支援策を論じるうえで、

最も学生の身近な存在として大きな影響力を及ぼすのがキャリアカウンセリングの場であ る。多くの学生にとって、ふつうに学生生活を過ごしていればある程度の強制力をもって 一定時期になると就職活動の準備セミナーと称してキャリアカウンセラーの講義を一方的 に聴講する機会が来るだろう。まして大学という殻に閉じこもりがちで内向きの学生であ れば、「キャリアカウンセラーのような指導的立場にある人間の言うことは全て正しいも のであり事実である」というような尺度で情報を受容し、鵜呑みにすることすら珍しくは ない。そのような学生が多ければ多いほど、キャリアカウンセラーの発する言葉は意味が 大きく、その言葉の根拠としての経験はより豊富な経験と、時代の流れを捉えた適切な事 実認識が求められる[17]。

 よって、企業サイドもそのような取り組みを大学に持ちかけてみてほしい。本稿各節で

指摘してきたポイントを自社流にカスタマイズして試行し適合するように調整を重ねると

共に、キャリアセンター職員を「大学に籠もりっきりで企業の実体を知らない触媒」とす

(20)

るのではなく、きちんとした実体験に基づき学生と企業との調整役となるよう、現状の採 用活動を自社から(自社に会うようにオリジナルにカスタマイズして)変化させていくこ とが必要であろう。

 大局的にみれば、こうしたキャリアカウンセラーを有機的な触媒として利用する取り組 みが一般化すれば、地方大学の学生が地方の企業を知る糸口が増える。周囲の雰囲気に流 されて大企業を志向している学生のなかにも、実は中小企業において小回りの良さや柔軟 な社風を武器にして大胆な取り組みで活躍するタイプの人がいる[18]。学生に提供される 情報がより具体性を帯びたものであればあるほど、都会への人材流出が防げることにもな る。地方大学が昨今求められている地域への貢献や地方創生への取り組みとも一致した方 向性となり、地方大学が求められる役割の発揮にもつながるものといえよう。

著者紹介

         安倍 尚紀

         大分県立芸術文化短期大学 専任講師           /総合研究大学院大学 センター研究員  

         北尾 洋二

         株式会社ザメディアジョン・リージョナル 代表取締役 /内閣官房          地域活性化伝道師 /大分県立芸術文化短期大学 講師

         成田 誠

         株式会社日本政策金融公庫 高知支店 課長代理 農業経営アドバイザー /

         大分県立芸術文化短期大学 地域貢献研究会・客員研究員

(21)

脚注

[1] 同調査で「人手が不足している」と回答した企業の割合は、従業員数51~100人の企 業では60.6%、101~300人の企業では65.5%、301人以上の企業では73.3%と、従業員数 の多い企業ほど人手不足感があることが露わになっている。

[2] 採用の手段についていえば、都会の大企業に比べて地方の中小企業は人材確保の方法 が確立されていないケースが多く、人材紹介会社の仲介、就職サイトの活用、求人広告な どにより対応しているケースが多いが、いずれも効果に対してコストパフォーマンスの悪 さは否めない。採用に割り当てる人的資源についても、地方の中小企業の場合、経営者が 採用担当を兼ねるケース、一般的な業務を行いながら片手間で採用を担当するケース、人 事全般を担当する者が片手間で採用を担当しているケースなど様々で、採用にかけられる 時間にゆとりがなく、採用に関するノウハウの蓄積も少ない。

[3] APカンファレンス(AY2016 14th Asia Pacific Conference) 。パネルセッションにて、

【「地方創生」・「グローバル人材養成」を背景とした大学生・短大生の就職活動と企業の 採用活動 ~中四国・九州地方の大学生へのアンケート調査結果にもとづいて~】と題し て、報告とディスカッションを実施。40名以上、立ち見が出るほど満席となった。学会大 会の予稿集pp.108-109にしたがって、正確な情報を以下に記載しておく。

   『第14回アジア太平洋カンファレンス(APカンファレンス)』(立命館アジア太平洋大学、

     D棟F210教室)

  Panel Session 36 (D210) 2016年11月5日 17:45-19:15

  「地方創生」・「グローバル人材養成」を背景とした大学生・短大生の就職活動と企業の採用   活動~中四国・九州地方の大学生へのアンケート調査結果にもとづいて~

  Chair: 安倍 尚紀

 1) 安倍 尚紀 (Naoki Dn Abe) 大分県立芸術文化短期大学(日本)

   Title: 調査の全体構想と射程~大学教育・社会学の立場から~

 2) 北尾 洋二 (Yoji Kitao) 株式会社ザメディアジョン・リージョナル・内閣官房地域活性化    伝道師(日本)

  Title: 地方に本拠地を置く中小企業における効率的な採用活動の背景・有効策 ~採用側の    視点から~

 3) 成田 誠 (Makoto Narita) 金融機関課長代理・芸文短大嘱託研究員(日本)

  Title: 若者の「海外志向」「地元志向」「キャリア志向」~産業政策・経営の視点から~

(22)

 4)【※特別報告】 小島 健一 (Kenichi Kojima) 大分みんなのキャリア支援センター統括   Title: 大分県における芸短オープンカレッジ「お志事バイキング」、大分みんなのキャリア    支援センターの実践例と今後の方向性

  【学会日本語ページ】

   http://www.apu.ac.jp/rcaps/page/content0105.html/?

  【学会英語ページ】

   http://en.apu.ac.jp/rcaps/page/content0105.html/

  【共催】

 (株)ザメディアジョン・リージョナル    自分戦略デザイン大学

  芸短フェスタ2016「拡張現実による地域アーカイブズ構築(旧・東南アジア交流ウィーク)」

[4] ミクロな当事者視点による就職活動マニュアルや採用担当者用マニュアルは市場に多 く出回っている。が、データに基づいたマクロな視点による調査研究は多くなく、大学側

(就職指導教官やキャリアカウンセラー)の視点によって「学生にいかに理想の就職をさ せるか」という発想で書かれたものが多かった。ゆえに、採用する立場の企業が「どのよ うな手段を施せば自社の求める人材を確保できるか」という先行研究は少ない。本稿は、

企業側に立った採用のアドバイスとなりうる点で、従来のキャリア教育分野の論文にな

かった新規性がある。

(23)
(24)

[6] 『一橋ビジネスレビュー』の論文は、先行する『採用学』を受けて「科学的に」日本 企業の採用活動を分析すべく、⑴人事担当者から「革新的だと思う採用」を他薦してもら い、⑵革新的な採用機能を可能にする要因が何かを実証している。

[7] 上司への相談回数が多いケースでは革新が起きにくいという負の関連も紹介されてい る。

[8]「まち・ひと・しごと創生本部」(https://www.kantei.go.jp/jp/singi/sousei/) 第二次 安倍内閣は、 「地方創生」「人口減少の克服」を政策キーワードとして用いているが、これ らを達成するための「基本的視点」として、 「東京一極集中の是正」、「地域課題の解決」、

地域における就業機会の創出をあげている。

 「まち・ひと・しごと創生総合戦略-概要-」

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/sousei/pdf/20141227siryou4.pdf

(25)

[9] まち・ひと・しごと創生法に基づき、将来の大分県の姿を見据えた「大分県人口ビ ジョン」と人口ビジョンの実現に向けて、今後5年間の取組を盛り込んだ「まち・ひと・

しごと創生大分県総合戦略」を策定した。

 「まち・ひと・しごと創生~大分県総合戦略~」

 http://www.pref.oita.jp/soshiki/10112/jinkobijyon-sogosenryaku.html

[10] 加えて、受験する企業ごとに繊細な論理を作り込んで試験に臨んでも、一旦大量に 募集しておいてふるいにかけるという工程をふむなかで、圧迫面接や意図のよくわからな い問答、応募書類が言葉尻を捉えられて求職者が不快な感情を抱くほどの応酬で追い込む など、ふるい落とされる側に無用な禍根を遺すという現象もしばしば起きているというの が、筆者らの印象である。

[11] 聞き取りから判明したこととして、最初から夢や就きたい企業が定まっている学生 は、どの地域でも、転勤があってもかまわないと回答しているが、このような目標が定 まっていない学生は地元にこだわるという傾向がある。

[12] 「雰囲気」その他、選択肢の解釈については、以下、4節(4.1)にて詳しく検討す る。

[13] 但し、都会の大学-地方の大学という二分法について直ちに一般化することには警 戒する必要がある。前節3.2と 3.3に検討したように、大分県・高知県では短大在学者の 比率が多いことを踏まえると、2年間という在学期間や学生の属性について、少し割り引 いて捉えるべきだからだ。

[14] 先述の通り《福岡県》という表記は、 「福岡県出身かつ地元就職希望者」を指してい る。回答のほとんどが福岡大学・九州産業大学の在学生であることには留意しておく必要 があろう。

[15] より多くの報道番組が為替レートと株価をニーズある情報として扱いはじめたこと も、象徴的である。

[16] グローバル人材育成推進会議、2012年(平成24年) 6月4日、「グローバル人材育成 戦略」

http://www.kantei.go.jp/jp/singi/global/1206011matome.pdf 「グローバル人材」の育成 と、そのような人材が社会で十分に活用される仕組みの構築を目指して、2011年 (平成23 年)5月、新成長戦略実現会議の下に関係閣僚からなる「グローバル人材育成推進会議」

が設置された。

[17] ただし、フィールドは違えど、本稿のテーマについても、安倍・齋藤・成田(2014)

に述べた「お粥問題」を指摘しておくべきである。もしも、消化や栄養の吸収、食べやす さを徹底追求して、すべての食物が流動食・お粥になったらどうなるか。当の人間の側の 噛む力や消化能力は、どんどん衰えてしまうだろう。もしも急に、歯ごたえのある玄米を 食べていかざるを得なくなったとき、困ってしまう。

 これは、教育現場においては、次のようなサービス化をめぐる問題として置き換えるこ

とができる。テレビ業界の「ハーバード白熱教室」や池上彰氏のわかりやすい解説と軌を

一にして、挙証責任の転換がトレンドとなったのではないだろうか。すなわち、「努力し

ない学生が悪い」「勉強しないのは自己責任だ」といった伝統的で頑なな大学業界の言説

(26)

は、今や、「なぜ大学教員はプレゼンが下手で授業は面白くないのか」「徹底的に面白 く・わかりやすくすべき」というバックラッシュを受けた。この方向性自体はよいのだ が、この挙証責任の転換が度を越して激化してくると、過剰なサービス業化とそれに付随 する様々な要求が出てくる。このようにひたすらサービスを求めてきた立場の学生が、ひ とたび、社会に出て、社会人としてサービスを提供する側になった時、様々な立場の人た ちの意見を拾い集め、対応して案件を仕立てていけるであろうか。全く同様に、就職活動 に関わるサービス化についても、一面では、過剰にならないように警戒する必要があるだ ろう。就職活動期の苦労自体が学びとなる面も大きいからだ。

参考文献

安倍尚紀、北尾洋二、成田誠、2016、 「地方都市の中小企業における新規学卒者採用活動    のあり方に関する研究 ~中国・四国・九州地方の大学生へのアンケート調査結果    から~」 、情報処理学会研究報告『情報システムと社会環境』、Vol.2016-IS-135    No.7、pp.1-8.

安倍尚紀、齋藤周作、成田誠、2014、「大学生の就職活動と教育環境をめぐるいくつもの    パラドックス」『大分県立芸術文化短期大学研究紀要』 、第51巻、pp.85-104.

服部泰宏、2016a、 『採用学』 、新潮選書

  ――、2016b、 「採用機能の革新と連続性に関する実証研究」 、 『一橋ビジネスレビュー    2016年SUM. 64巻1号』 、東洋経済新報社 pp.8-22.

日刊工業新聞、2017、「なぜ山口大学は全国に貢献する教育機関になれたのか:岡学長に    聞く知財教育の成功モデル」 、『Yahooニュース 2017年2月12日 ニュースイッチ』

   (head lines.yahoo.co.jp/hl?a=20170212-00D10005-newswitch-soci)

 謝辞 2015年から本格的に開始した本調査に快くご協力頂いた皆様に、謹んで感謝の意

を表します。また、本研究の成果の一部はJSPS科研費 16H03705(基盤研究(B) 「市民社

会における記録とアーカイブズの意義に関する国際比較研究」(研究代表者・藤吉圭二追

手門学院大学教授)の助成によるものです。

(27)

Strategy for Job Hunting by University/College Students and Recruitment by Companies under the Context of

“Regional Revitalization”and“Keeping Globally Competent Human Resources”: From the Result of Social

Research in Chugoku, Shikoku, Kyushu District

NAOKI DN ABE, Ph.D  YOJI KITAO MAKOTO NARITA

The purpose of this paper is to analyze what strategy does university/college students adopt in their job hunting from the result of social research. At the same time we would like to extract effective solvency for companies located in local cities when they recruit the local students. Two scales “Regional Revitalization” and “Keeping Globally Competent Human Resources” provide important angles in this paper. In order to decrease unfortunate gap between students and recruiters, our survey focuses on expectations and support needed by students in the period of job hunting as same as adequate approach from companies side.

Keywords: Local Recruitment from the Region, Candidate for Working Overseas, Recruitmentology,

Internal Globalization

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