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母語話者のバリエーションをカートグラフィーで捉える:That痕跡効果とwanna縮約

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Academic year: 2021

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母語話者のバリエーションをカートグラフィーで捉 える:That痕跡効果とwanna縮約

著者 遠藤 喜雄

雑誌名 言語科学研究 : 神田外語大学大学院紀要

号 27

ページ 67‑77

発行年 2021‑03

URL http://id.nii.ac.jp/1092/00001758/

(2)

語 を る

藤 

(神田外語大学)

 本稿では、母語話者の文法性判断にみられる リエーションを考察する。

体的には、that 効果とwanna 約の先行研究を見ながら、これらの現

象に母語話者間で文法性の判断に リエーションがあり、そこに相関性があ ることを新たに指 する。そして、その リエーションが生じる要 をカー トグラフィーの文法モデルを用いて える。

キーワード:母語話者の判断、 リエーション、that 効果、wanna 約

 本稿では、母語話者の文法性判断にみられる リエーションを考察する。

体的には、that 効果(that -trace e ect)とwanna 約(w anna contraction)

の現象に関して母語話者間に文法性の判断に リエーションがある点を新た に指 する。さらに、これら現象の判断には相関性があり、それをカートグ ラフィー(the cartography of syntactic structures)の文法モデルを用いて える。本稿は次のように構成されている。まず、第1節で、本稿の となる カートグラフィーの みを する。次に、第2節と第3節で、that 効果 とwanna 約の2つの現象の先行研究をみながら、そこに母語話者間に文法性 の判断に関して リエーションがあることを指 する。さらに、その リエー ションをカートグラフィーの文法モデルを用いて統一的に える。最後に、第 4節で全体をまとめる。

 カートグラフィーとはthe cartography of syntactic structuresの略で、統語 構造(syntactic structures)を 図(cartography)のように に作成する

(3)

プロジ クトである。このプロジ クトは、1990年代に ーロッパにおいて Luigi RizziとGuglielmo Cinqueにより始められ、多くの言語で様々な研究成果 が発表されている。しかし、このプロジ クトにおいては、 別に統語構造 が しく記述されているわけではなく、そこにはある一定の方向性がある。そ こで、まず本稿の となるカートグラフィーの 的な考えを遠藤・前田

(2020)から文の左方 部を中心に する。

 Rizzi(1997)は、主語の前に する 一のCPという機能 について、

主にイタリア語の文頭への移動要 の語順制限をもとに、(1)のCPのカート グラフィーを提案した。

 (1) イタリア語の左方

ForceP Force TopP Top FocP Foc TopP Top FinP Fin IP I

(Rizzi(1997: 297))

ここで、Force Phrase(ForceP)とは、文が平 (declarative)か感 (exclamative)

かなどの文のタイプ(clause type)を表す階 である(Rizzi 1997: 283)。例 えば、(2)に見るように、平 節を選択するthinkは平 節のForcePを下

化し、 問節を選択するwonderは 問節のForcePを下 化する。

 (2) a. I think ForceP that he is innocent . b. I think ForceP what Mary bought . c. I wonder ForceP what Mary bought . d. I wonder ForceP that he is innocent .

また、Finite Phrase(FinP)は節の定形性に関わる。このFinPはCP領域の一番 下 に投 し、CPの 部にあるTP と に関連する。(3)に示すように、定形 のFinは定形のTPを下 化するが、非定形のFinは非定形のTPを下 化する。

(4)

 (3) a. I think ForceP that FinP Fin TP John is smart . b. I think ForceP FinP Fin TP to invite Mary . c. I aim ForceP FinP Fin TP to invite Mary . d. I aim ForceP FinP Fin TP John is smart .

カートグラフィーでは、指定部-主要部一 により、ある 性に対する

(criteria)を満たすという考え方をする。例えば、(4)に見るように、wh 問文では、 問の 性 を有する主要部Cが、同じく 性を有し、CP指定部 に移動するwh句とwh (wh-criterion)を満たす。

 (4) I wonder CP who C John likes .

指定部の要 と主要部の間で一 が生じると、(5)に見るように、その指定 部の要 はその場所で 結(freeze)して、さらに動くことができなくなる。こ の原理を、 結(criterial freezing)と (Rizzi(2006))。

 (5) a.Bill wonders which book C she read t . b. Which book C does Bill wonder

t C she read t

 (6) 結: を満たした句はその で 結される。

例えば、(5a)の文の表示では、 属節のC の指定部の で 結された結果、

(5b)のようにwhich bookがさらに主節に動くことにより 結に違 し非 文法性が生じる。以上のカートグラフィーの考えを 頭において、次に母語話 者間に見られる文法性の判断の リエーションがwanna 約とthat 効果に 在する点を新たに指 し、そこに見る リエーションをカートグラフィーの 文法モデルで統一的に えることを試みる。

 前節のCPのカートグラフィーの考えを 頭において、まず本節ではthat 効果の 本的な性質を概観する。次に、that 効果に関して母語話者間に文

(5)

法性の判断に リエーションがあることを新たに指 し、その リエーション をカートグラフィーの文法モデルで える。

 That 効果とは、(7a-b)の対比に見る様に、 文 識のthatに後続する 主語 からwh要 が文頭に移動した場合に、 文 識のthatがある場合に 非文法性が生じることを意味する。このthat 効果は、(7c)に見るように 主語の前の に 詞的要 が入ると文法性が される。

 (7) a.This is the man whoi I think ti will sell his house.

b. This is the man whoi I think that ti will sell his house.

c.This is the man whoi I think that, next year, ti will sell his house.

(Culicover(1991:10))

この文法性の はどの様なメカニズ で生じるのであろうか ここで重要な のは、主語の を認可するメカニズ である。Rizzi(2014)は、Rizzi and Shlonsky(2007)の主張を採用し、TP領域には主語-述部関係における主語 を認可するD-SubjPが投 すると 定する。

 (8) CP D-SubjP …… 1

通 、主語はD-subjの指定部に移動することで主語 (Subject Criterion)

を満たす。

 (9) CP D-SubjP   vP John VP left …

この に移動した主語Johnは 結を けるために、(7b)に見るように 移動することはできない。そのため、例えば(8)のように主語の前にthatが ない場合もでさえ移動が許されないと予 してしまう。

 (10) Whoi do you think ti will come (Rizzi(2006: 124))

(6)

このような 結の問題を解決する方 として、Rizzi and Shlonsky(2007)や Rizzi(2014)は、音形を たない名詞的なFin( Fin N)が 在すると 定し、

そのFinがD-Subjの主語の を主要部間で満たすと提案した。( なみに、名 詞的なFinはフランス語においては、iという形態 で 現される。より正確に は、英語の 文 識thatに対応するqueに英語の形式名詞itに相当するilが 合 してquiという形になる。この点の については、Endo(2007)や遠藤・

前田(2020)を参照されたい)

 (11) FinP Fin N D-SubjP D-Subj … who …           主語

これにより、主語wh句はD-SubjPの指定部に移動する 要はなくなるため、

結の影響を けることなくvP内に 生成された から 接CP領域へ 移動できる(skipping strategy)。

 (12) FinP Fin N D-SubjP vP who VP left …

(12)とは異なり、 属節にthatが生じる場合は、(13)に見るように主語wh 句の移動が不可能になる。このthat- 効果は、thatが生じる場合はD-Subjの

を満たさないと言い えることができる。

 (13) This is the man whoi I think that ti will sell his house next year.

(Rizzi(2014: 32))

 このthat 効果がカートグラフィーでどのように取り われるかを考察し よう。まず、Rizzi and Shlonsky(2006)は、thatがFin that の主要部に 成され、Forceへ移動すると考える。

 (14) ForceP Force FinP that that

(7)

ここで、名詞的なFinとは異なり、FinthatはD-Subjを認可しない。先に見た名 詞性を つFin Nとは異なりFinthatの主要部に 生成されたthatはForce主要 部へ移動し、名詞性を有さないthat主要部がFinthat-D-Subj間の を満たせな い。

         ×主語  (15) ForceP that FinP that

t

that D-SubjP

 次に、 that- 効果が 和される以下の 例を考察しよう。ここでは、that の間に付加詞が生じることにより、文法性が される(Culicover

(1993))。

 (16) This is the man whoi I think that, next year, ti will sell his house.

(Culicover(1991: 10), cf. Rizzi(2006: 32))

Rizzi は、このように付加詞が 在することにより生じる文法性の を説明 するために、Finという機能 を分解するというカートグラフィーの方 を 提案した。 体的には、次に見るように、付加詞がCP領域内でModPの 生じることによりFinの多重投 が生じ、付加詞の上 と下 の に2つの Finが生じる。

 (17) FinP ModP FinP

上 に するFinにはthatが生じることができる。そして、付加詞の下 に するFinは名詞性を (Fin N)、それが同じ名詞性を つ主語 D-Subj)を認可する。そのため、付加詞があると、that- の文に文法性の

が生じるのである。

 (18) FinP that that ModP adv FinP N Fin N D-SubjP

(8)

 実は、that 効果に関わる文の容認性の判断には、母語話者の間で リエー ションがある。Andrew Radford( 信)は、次の文において 文 識のthatの すぐ後に生じる要 がwh移動により されたwhoの であっても文法的で あると判断すると報告する。

 (19)This is the man who I think that will sell his house.

 インフォーマント調査を通して調べてみると、この の判断をする話者は少 数ながら確かに 在する。では、この少数派の話者は、どの様なメカニズ でthat の文を容認可能と判断するのであろうか。この点を見るために、付 加詞が 在することにより文法性が される 例(16)を い出そう。こ の 例では、付加詞が 在することにより、分 した付加詞の下 に るFinが名詞性を つため( Fin N)、それが同じ名詞性を つ主語 D-Subj)を認可する。そのため、付加詞があると、that- の文に文法性の

が見られる。この点を 頭に いて、本稿は次の提案をする。上で述べた少 数派の母語話者は、付加詞が 在することなくFinが名詞性を てる(Fin N)。

つまり、少数派の話者は、Finが に名詞性を てるため、それが同じ名詞性 を つ主語 ( D-Subj)を認可できる。その結果、主語wh句はD-SubjPの 指定部に移動する 要はなくなるため、 結の影響を けることなくvP内 生成された からCP領域へ主語 を 由せずに移動することがで きる。(その については、Endo(2018、 2021)を参照していただきたい。)

この様に文法における リエーションを機能 の性質に する考えは、

Borer(1984)やChomsky(1995)に ったものである。BorerやChomsky は言語間に見る文法の リエーションを機能 の性質に したが、本稿の 新しい点は、同一言語内に見る母語話者の文法性の判断の違いも機能 の性 質に している点にある。次節では、that 効果に見られる少数派の話者 が、さらにwanna 約においても多数派とは異なる判断をする点を見た後で、

その少数派の話者のthat 効果とwanna 約の文法性の判断には相関性があ ることを新たに指 する。

(9)

 Wanna 約の最も い研究は、Lako (1970)に見られる。(英語の 約現 象の なまとめとしては、Ito(2019)がある。)Lako はwantとtoの間にあ るのが、PROかwh要 が移動した後に す変項(variable)であるかにより、

wanna 約の可能性が異なると主張する。例えば、(30a)に見るようにwant とtoの間にあるのが、PROの場合にはwanna 約は可能であるが、wantとtoの 間にあるのが変項の場合にはwanna 約は不可能となる。

 (20) a. Whoi do you want PRO to meet whoi Who do you wanna meet

b. Whoi do you want ti to meet the president Who do you wanna meet the president

 また、Crain & Thornton(1998)は、子 の言語習得においてもこの違い が見られると主張する。そこでは、子 もwantとtoの間にあるのが変項の場合、

wanna 約の文を発話しないことを3 から7 (3 09 to 7 03)の子 を対象 にした実験で示した。

 しかし、Getz(2019)が指 する様に、Crain & Thorntonの実験には問題 がある。 らの実験では、子 が発話する前に大人が発する文がwantで終わっ ているため、wantの後ろにはポーズが生じる。子 はこのポーズを いて、

自分の発する文にもwantとtoの間にポーズを いて発話を行うため、wanna 約が生じない可能性がある。実際、Getzはこの点を 良して実験をしたところ、

約半数の子 が問題の文でwanna 約の文を発話したと報告している。さらに、

ukowski and Larsen(2011)はウイリア を った子 の発話 もwanna 約の 則性を つのかを調べようとしたところ、予備実験で の子 の約半数が問題の変項を つ文でwanna 約の文を発話したと報告して いる。さらに、大人の話者が問題の文で本当にwanna 約の文を発話しないの かについても 問が生じる。

 例えば、Andrew Radford( 信)は、(20b)のwantとtoの間にあるのがwh である変項でもwanna 約は可能であると報告している。インフォーマ

(10)

wanna 約が可能であることがわかる。さらに、この少数派の話者は、前節で 述べたthat 効果を たないという相関性を つ。以上の考察から、wanna 約については、母語話者の間には リエーションが見られ、実際は、want とtoの間にwh要 の が 在する場合wanna 約が生じない多数派と、そ れが可能とする少数派とに分かれる。では、この少数派の話者はどのような メカニズ でwantとtoの間にあるのがwh要 の である変項でもwanna 約が可能と判断するのであろうか。本稿は、that 効果と同じ 旨の提案を する。つまり、問題の少数派の話者は、名詞性を つFin( Fin N)を自由に 用いて主語 を満たすことができるため、そのFinが主語 ( D-Subj)

を認可できる。その結果、(21)に見るように、主語wh句はD-SubjPの指定 部に移動する 要はなくなるため、vP内に 生成された からCP領域へ wantとtoの間の主語 を 由することなく移動することができる(skipping strategy)。その結果、wantとtoの間にはなにも要 が生じないため、wanna

約が可能となる。

 (21) … w ant …FinP N Fin N D-SubjP TP

to

vP who…

一方、多数派の母語話者は、少数派の話者のように、自由に名詞的なFinを用 いることができない。つまり、多数派の母語話者の場合、 20 でもFinは動詞 性を つため、主語 D-Subj を認可できない。その結果、 22 にみる ように、主語wh句は主語 を満たすためにvP内に 生成された から D-SubjPの指定部に移動する 要が生じる。そのあとで、wh要 はCP領域へ移 動する結果、wantとtoの間には変項が生じ、wanna 約が 止される。(toの 意味と統合的な性質についてはMartin (2001)を参照されたい。また、wanna 約のより な 論については、Endo (2021)を参照していただきたい。)

 (22) … w ant …FinP V Fin V DP D-SUBJ TP T tovP who…

(11)

 以上、本稿では、that 効果とwanna 約に多数派と少数派の話者の間 で文法性の判断について リエーションがあることを新たに指 した。そし て、その多数派と少数派の話者の文法性の判断に違いをFinという機能 指定の違いに して統一的にとらえた。その については、Endo (2019、

2021)を参照していただきたい。

謝辞

 本稿の一部は、2017年9月にUniversity of urichで開催された ーロッパ言 語 学 会 大50回 大 会(50th Annual Meeting of the Societas of Linguistica Europaea)、2019年11月に北京語言大学で開催されたThe Third International Workshop on Syntactic Cartography 2019で発表内容の一部に加筆修正を加え たものである。有 なコメントをしてくださったAdriana Belletti、Marcel den Dikken、David Lightfoot、Andrew RadfordおよびLuigi Rizziに感謝の意を表す。

また、本研究は、日本学 会科学研究 研究(C)16K02639

(研究代表者:遠藤喜雄)と 研究(A)19H00532(研究代表者: 内充)

を得てなされている。

1 ここで、 の記号は主要部が発音されないことを示す。

2 ここでは、名詞性を つTは一 (Agree)の 作により名詞性を つFinにより認可される。

参考文献

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参照

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