茨城大学教育学部紀要(教育科学)36号(1987)161−171
*
ゥ己準拠処理による精緻化が語の記憶に及ぼす効果について
林 龍平**
(1986年9月27日受理)
The Effects of Self−Referential Elaboration on Word Recognition Memory*
Rywhay HAYAsHI**
(Received September 27,1986)
Abstract
It is well known that a self−reference effect can be explained well in the framework of the elabolation model of human memory. However, it is not clear enough that what kind of cognitive structure(aself−schema or one s autobiographical episodic memory)schould be supposed as an underlying cogni一 tive structure t6 elaborate the to−be−remembered information. The present experiment was designed to study this issue. In this study, three kinds of person−reference tasks (self−reference, a favorite−friend reference, a disliked一 friend reference)and two kinds of non−person−reference tasks(semantic and phonetic) were used as the orienting tasks. In person−reference tasks,
subjects decided whether target words described the referred−person or not.
Furthermore, desirability of the content of the target word was manipulated.
Fifty college s亀udents participated. The result showed that a self−ref一 erence condition produced better memory than a disliked friend reference, a semantic condition and a phonetic condition. But there was no difference between self−reference and favorite−friend reference conditions. It was also found that there was a positive correlation between word desirability and favoriteness of the referred person. These results seem to suggest that a self−reference effect is due to the elal〕orative processing depending on one s general episodic memory structure rather than the specific cognitive structure like a self−schema.
*本研究で用いられた実験プログラムの作成,及びデーターの収集にあたっては,栗島理恵氏(昭和60年度 本学科卒業生)の協力を得た。
**茨城大学教育学部教育心理学科(Department of Educational Psychology, Faculty of Educa一
tion, Ibaraki University, Mito, Ibaraki 310.)
は じ め に
CraikとTulving(1975)は,それまでの処理水準説で重視されてきた符号化の質的違い(意味 か知覚か)のほかに,符号化の量的側面を考慮した精緻化の概念を提唱した。彼らによれば記銘材 料を意味的に処理することが,音韻的処理や形態的処理に比べて記憶成績を促進するのは,意味的符 号が他の符号に比べてより長く持続するからではなく,意味的符号が我々の知識構造を基礎とした 符号化であることによるとされた。すなわち,意味的処理とは,換言すれば外界に関して我々が持 っている豊富な一般的知識と記銘材料とを関係づける作業であり,これによって差異性に富み検索 手がかりの豊かな記憶表象が作られるために優れた記憶成績がもたらされるというのである。要す るに,記銘材料を他の既存知識と関係づけることで,符号化をより豊かで独自なものにする過程が精緻 化であるといえるだろう。我々は,普通,知識を体制化して保持しているので,情報を意味的に処 理すれば必然的に符号化に拡がりがもたらされることになるのである。
ところで,従来の多くの研究では既存の認知構造に依拠して処理が行われるとみなされ,その認 知的構造としては,一般的事実についての知識の集合である意味記憶構造が仮定されていた。しか し,我々が有する知識の中には,一般的事実の記憶の他にも自分及び親しい幾人かの人々が経験し た特定の出来事(エピソード)に関する記憶も含まれる。これは,前述の意味記憶に対してエピソ 一ド記憶と呼ばれ(Tulving,1972),意味記憶と同様によく体制化された形で保持されていると考 えられる。従って,精緻化の問題においてはエピソード的な知識に関連づけた精緻化処理も見逃す ことが出来ないであろう。
PackmanとBattig(1978)は7種類の異なった意味的処理課題について,その記憶成績を比較 し,語の好ましさ(pleasantness)についての判断課題が最も優れた成績をもたらすことを見いだ し,意味的処理における精緻化にもいくつかの質的差異のあることを示唆した。しかし,この結果 についてのもう一つ別の説明が,上述のエピソード記憶に依拠した精緻化の文脈の中で可能である と思われる。おそらく,語の好ましさ判断に類するような意味処理においては,語の純粋に意味的 な処理の他に,その語に結び付いた個人に特殊な過去の出来事(楽しかった,あるいは苦しかった ことなど)との関連で精緻化されることも可能であったであろう。そのため,語の好ましさ判断課 題では,特にエピソード記憶に基づく精緻化の効果と意味記憶による精緻化の効果が加算的に作用
したと思われる。
エピソード的知識に基づく精緻化処理の有効性は自己準拠効果(self−refbrence effect)に関す る研究からも支持される。これは,Rogersら(1977)によって見いだされたもので,被験者に各記 銘材料が自分にあてはまる内容を表しているか否かの判断をさせたとき,その記憶成績が意味的処 理もふくめた他の様々なタイプの処理での成績をはるかに上回るという現象である。その後,他の
いくつかの研究でもこの効果は繰り返し確認されてきており(Bower&Gilligan,1979;Keenan
過去経験に関する知識構造に記銘材料を関連づけて処理した結果であるとする点で一致している。し
かしながら,自己準拠効果の生起する機序については,細部においてまだ十分に明らかにされてい
るというわけではなく(Greenwald,1981),その一つとして,種々のエピソード的知識がどのよ
うに構造化されているかという点に関する問題が挙げられる。例えば,Rogersら(1977)やMark一
林:自己準拠処理による精緻化が語の記憶に及ぼす効果 163
us(1977)は,精緻化が依拠する認知構造として「自己(self)」にのみ関連する様々な過去経験が 集約されて,そこから抽象化された知識が体制化され,セルフ・スキーマ(self−schema)と呼ばれ る独自の認知構造ができあがると仮定した。これに対してBowerとGilligan(1979)は「自己」の みに特別な役割を仮定するのではなく,自己に関連の深い他者までも含めた広いエピソードについ ての知識が構造化され,それによって自己準拠効果を説明しようとした。この点に関し,Bowerと Gilligan(1979)は,認知構造内のエピソード的知識が自己と同程度に豊かであると思われる他者
(例えば母親)であれば,同じくらいの自己準拠効果が生じることを明らかにした。このことから,
彼らはセルフ・スキーマを特に仮定する必要がないとしている。さらにまた,KeenanとBaillet
(1980)も同様の親近性効果(familiarity effect)を報告し, Bowerらの考え方を支持している。
そこで本研究では,自己準拠処理が記憶に及ぼす効果を再度確認するとともに,この効果が自己 についての特殊なスキーマによるのか,それとも自己や自己も含めたより広いエピソード的な記憶 に関連する認知構造との関連づけによるのかを,さらに検討することにした。このため,本研究で は処理を方向づける課題として,自己準拠処理課題,親しい友人に準拠して処理する課題,意味処 理課題,音韻処理課題が設けられた。この内,親しい友人に準拠する課題ではその友人の好ましさ の程度も併せて操作し,好きな友人に準拠する場合と嫌いな友人に準拠する場合とを設けることに した。この他,記銘材料として用いた語の望ましさの次元も操作した。もし自己準拠効果がセルフ
・スキーマとの関連で説明されるものなら,自己準拠処理課題の成績が最も優れ,友人準拠処理課 題と意味処理課題の成績がそれに続き,音韻処理課題の成績が最も低くなるであろうと考えられる。
またこの場合,語の望ましさの効果は処理が準拠する友人のタイプに応じて異なることは無く,意 味処理課題にみられる結果と変わらぬものになるだろうと予想された。なぜなら,自己準拠効果が
自己のみに関する特別なスキーマによるものであるならば,友人に準拠した処理課題での精緻化は 意味処理課題の場合同様,語の一般的な意味的知識の構造にのみ従ったものになるはずだからであ る。他方,自己準拠処理効果がより幅広いエピソード的な知識構造に依るものならば,親しい友人 に準拠して処理する場合も,その友人についての特定のエピソードが想起されるので,自己準拠処 理課題と同程度の精緻化処理が行われるはずである。従って,この2つの課題間では記憶成績に差 は無いであろうと予想される。またこの場合,語の望ましさの効果は準拠する友人の好悪に応じて 異なるであろう。なぜなら,おそらく友人の好悪は過去においてのその友人に関してのエピソード の望ましさの程度の関数となることが予想できるため,エピソード的知識構造内の知識もそれに応
じて異なる体制化の形をとるだろうからである。
ところで,この種の課題では2つの異なる記銘材料が同じ水準で処理されたとしても,記憶成績 に差が生じることがある。例えば,意味的処理を方向づける文に対して一方の記銘材料は適合し
(質問文に対する答えが「はい」となる場合),他方が適合しない時(質問文に対する答えが「い いえ」となる場合)それぞれの記憶成績を比べると前者の方がはるかに優れることが知られている。
これは肯定語が否定語よりも符号化が拡がり,精緻化がよりいっそう進むためであるとされている。
この現象は適合性効果と呼ばれ精緻化説の一つの重要な依りどころとされてきた(Craik&Tulv一
ing,1975)。従って,本研究においても,各条件での質問文への被験者の判断のタイプも併せて考
慮することが必要であろう。
方 法
被験者:茨城大学の学生50名(男子17名,女子33名)が実験に参加した。平均年齢は20.3歳であ
った。
刺激材料:ターゲット語として36語の性格特性語を青木(197Dの表から選択した。その際出来 るだけ広範囲な性格特性が含まれるように留意した。これら36語の半分は青木の表において望まし い性格特性語とされたものであり,残り半分は望ましくないものとされたものであった。各語の音 節数は出来るだけ等しくなるように心がけた。この他に36語のディストラクター語及び,意味処理 課題と音韻処理課題で共通に用いられる36語の比較対照語を同じ表から選択した。各ターゲット語 と対応する比較対照語の組合せは,意味処理課題・音韻処理課題を通じて共通であった。ディスト ラクター語,比較対照語いずれについても半分の18語は青木の表で望ましいと評定された語,残り 半分の18語は望ましくない語と評定された語であった。また比較対照語セットを構成する望ましい 語,望ましくない語それぞれ18語のうちの各々半分つつは,対応するターゲット語と同じ意味ある いは同じ音節数を持つものであった。ただし,選択可能な刺激語数の制約上意味処理課題で同じ意 味の語であると判定されるべきターゲット語と比較対照語の対が必ずしも音韻処理課題でも同じ音 節数を持つ対にはなっていなかった。
実験計画:5×2×2の要因計画が用いられた。一つ目は,処理課題の要因で被験者間要因であ
った。その内訳は,(1)自己準拠処理 (2)友人(好)準拠処理 (3)友人(嫌)準拠処理 (4)意味処理 (5)
音韻処理の5種類の課題であった。各被験者は,これら5種類の課題のうちのいずれかを遂行した。
それぞれの条件での被験者数は10名ずつであった。条件毎での処理を方向付けるための質問文の内 容は以下の通りであった。すなわち(1)では被験者は提示されたターゲット語が自分に当てはまるも のか否かの判断を求められた。(2),③ではそれぞれ身近な友人の中で最も好きな人,あるいは嫌い な人を思い浮かべながら提示される各ターゲット語がその人に当てはまるか否かの判断が求められ た。(4)では各ターゲット語と比較対照語とが同じ意味を表す語か否かの,また⑤では同じ音節数を 持つ語か否かの判断が求められた。なお⑤の課題では,具体的に音節数をどのように数えるかが併 せて教示された。2つ目の要因はターゲット語の望ましさの程度(望ましい者vs望ましくない語)
の要因であり,3つ目は各処理条件での質問文に対する被験者の判断のタイプ(はいvsいいえ)
であった。これらは何れも被験者内要因であった。各処理条件で提示されるターゲット語は36語で,
その提示順序は被験者毎に無作為なものとした。さらに意味処理課題,音韻処理課題では各被験者 からの判断での「はい」と「いいえ」の数が等しくなるようにターゲット語と比較対照語との組み 合わせを操作した。しかしながら,自己或は友人準拠処理課題においては判断は原則的に被験者に よって異なるはずなのでこうした操作は行えなかった。
手続き:再認法による偶発学習課題が用いられた。従って被験者にはこの実験が問題解決と刺激
判断過程を調べるものであるという教示がなされ,後の再認課題を暗示するようなことがないよう 一 ヒに配慮した。実験は個別に行われ,刺激の提示及び反応時間の測定にはNEC−9801VM2型パー
ソナル・コンピューターが用いられた。反応はパーソナル・コンピューターのキーボードのテン・
キー上の指定されたキー(「はい」では1のキー,「いいえ」では2のキー)を押させることによ
って得た。実験は全部で3段階からなっていた。最初は記銘段階で,被験者は無作為に割り当てら
林:自己準拠処理による精緻化が語の記憶に及ぼす効果 165
れた各々の処理課題で各ターゲット語についての判断をおこなった。ここでの刺激提示の時間系列 は,最初約4s各処理課題に応じた質問文が画面中央に提示され,約3sの空白画面を経てターゲ
ット語がやはり画面中央に被験者の判断があるまで提示されて1試行が終了した。その際同時に,
画面最下段に反応のタイプ(「はい」か「いいえ」)と対応するキー(1か2)との関係が表示さ れていた。ターゲット語は被験者の反応があるまで提示され,ターゲット語の提示開始から被験者 のキー入力による反応までの時間が測定された。各処理課題での試行間間隔は約3sであった。と ころで本実験での時間関係の制御及び測定はプログラム上での入力待ちループの回数をカウントす ることで行われた。ちなみに予備的試行でループを1回繰り返すのに必要な時間を測定してみたとこ ろ,およそ2.5msであった。処理課題終了後,第2段階として10分間の介在課題が与えられた。こ れはパーソナル・コンピューター上で行われる一種の推測ゲームで,被験者には問題解決過程を調 べる課題であると告げられた。この後,引き続き第3段階として再認課題が実施された。ここでは ターゲット語,ディストラクター語各36語ずつが被験者毎に無作為な順序で一つずつ次々と画面の 中央に提示され,各語が最初の記銘段階で判断を求められた語のセット中にあったものか否かを
「あった」, 「なかった」の2件法で判断するように求めた。それぞれの反応は第1段階でと同様
「あった」が1のキーを,「なかった」が2のキーを押すことで行われた。刺激語は,被験者の反 応があるまで画面上に提示されていた。ここでの試行間間隔は約3sであった。
結 果
判断時間:それぞれの質問文に対する判断時間について被験者毎に語の望ましさの条件及び判断 のタイプの条件別の中央値を求めた。この値に基づいて被験者を通じた条件別の平均値を算出した ものがTable 1である。さらに各被験者毎の条件別の中央値を対数変換したものに基づいて5(処理課 題)×2(語の望ましさ)×2(判断のタイプ)の分散分析を行った。その結果,処理課題の主効 果(F(4,45)=3.01,p<.05),判断のタイプの主効果(F(1,45)=11.00, p〈.01)のそれ それが有意であった。また,処理課題×語の望ましさ(F(4,45)=2.71,p〈.01),処理課題
×判断のタイプ(F(4,45);338,p〈.05),及び処理課題×語の望ましさ×判断のタイプ(F
(4,45)−11.93,p〈.01)の各交互作用も有意であった。
Table l Mean decision times as a function of task conditions, word desirability and response types
Self Eavorite−friend Disliked−friend
Semantic Phonetic
reference reference reference
Yes No Yes No Yes No Yes No Yes No
Desirable 714.1 903.6 721.5 1249.4 1158.2 850.5 613.3 771.3 1187.8 1053.1
word
処理課題の主効果について,語の望ましさの条件と判断のタイプの条件とを込みにした各処理条 件間の比較をTukey法を用いて行った。その結果,音韻処理条件での判断時間が他の全ての条件の 判断時間よりも有意に長く,意味処理条件での判断時間が自己準拠処理条件を除く他の全ての処理 条件での判断時間よりも有意に短かったことが示された。さらに,自己準拠処理条件と友人(嫌)
準拠処理条件の各判断時間の間にも有意差が認められた。残る他の条件間には有意な差はなかった。
ちなみに処理条件毎の判断時間をその大きさの順に並べると,音韻処理条件:1171.7,友人(嫌)
準拠処理条件:953.3,友人(好)準拠処理条件:916.1,自己準拠処理条件:802.0,意味処理 条件:698.9であった。他方,判断のタイプの有意な主効果は,全体的にみて「はい」判断にかか
る時間が「いいえ」判断にかかる時間よりも短かったことを反映していた。
次に,有意となった各交互作用についてそれぞれ分析してみたところ,まず処理課題×語の望ま しさの交互作用については友人(好)準拠処理条件,友人(嫌)準拠処理条件の両方において望ま しい語の判断時間が望ましくない語に比べて有意に長かったのに対して(F(1,45)−10.89,p<.
01;F(1,45)=6.89,p〈.05),音韻処理条件では逆であったこと(F(1,45)−4.41,p〈.05)
が示された。残る他の2条件では語の望ましさの有意な効果はみられなかった。処理課題x判断の タイプの交互作用についてみてみると自己準拠処理条件,友人(好)準拠処理条件及び,意味処理 条件での「はい」判断の時間が「いいえ」判断にかかる時間に比べ有意に短かったことが示された
(F(1,45)=18.45,p〈.01;F(1,45)=4.50,p〈.05;F(1,45)=2433,p<.01)。残る 他の2条件では有意な差はみられなかった。最後に,処理課題×語の望ましさ×判断のタイプの交 互作用について分析してみると次のような結果が得られた。すなわち,友人(好)準拠処理条件で
は望ましい語について「はい」と判断するのにかかる時間が「いいえ」と判断するのにかかる時間 に比べて有意に短いのに対して(F(1,180)−8.09,p<.01),望ましくない語ではその逆の傾向 がみられた(F(1,180)−3.09,p<0.D。他方,友人(嫌)準拠処理条件では望ましくない語に ついて「はい」と判断する場合の時間が「いいえ」と判断する場合の時間よりも有意に短かった(F
(1,180)=4.13,p〈.05)。また各処理条件下での語の望ましさの単純効果を判断のタイプ別に 分析したところ,友人(好)準拠処理条件での「はい」判断は望ましくない語よりも望ましい語に 対して速くなる傾向が(F(1,180)−2.90,p〈0.1),他方「いいえ」判断は望ましい語よりも 望ましくない語に対して有意に速くなることが示された(F(1,180)−8.40,p<.01)。これに 対して友人(嫌)準拠処理条件では, 「はい」判断が望ましい語よりも望ましくない語に対して有 意に速くなることが示された(F(1,180)=4.71,p<.05)。他の処理条件における語の望まし さ,判断のタイプそれぞれの単純効果はいずれも有意でなかった。
再認成績:各被験者の条件毎の正反応率(ヒット率)を求め,これを被験者を通じて平均したも のをTable 2に示した。さらにこの被験者毎のヒット率に加えて虚報率にっいても併せて算出し,それ それをElliott(1964)の表にあてはめることで再認成績のもう一つの指標である4 値を各被験 者にっいて条件毎に求めた。これを条件別に被験者を通じて平均したものも併せてTable 2に示した。
耽
アの表を一見して明らかなように両方の指標による結果ともおよそ同じような傾向を示していたの で,ここでは再認成績の指標としてより妥当と考えられる4 値に基づいて分析した結果だけを報 告する。
得られた結果について判断時間の分析と同様に5×2×2の分散分析を行ったところ,処理課題の
林:自己準拠処理による精緻化が語の記憶に及ぼす効果 167
Table 2 Mean values of d and hit rates(in parentheses)as function of task condition亀 word desirability and response types
Self Favorite−friend Disliked−friend
・efere・ce reference 。eference S・m飢ti・ Ph・n・ti・
Yes No Yes No Yes No Yes No Yes No
Desirable 3.34 2。86 3.12 2.61 1B6 1.53 1.78 1B3 1.66 1.48 word (92.6) (82.2) (91.2) (77.8) (73.1) (65.7) (74.9) (71.4) (57。3) (53.6)
Undesirable 3.02 2.31 2.99 1.96 2.63 1.59 2.27 1.49 0.74 1.33 word (86.6) (77.7) (84.6) (64,2) (81.3) (57.2) (80,1) (60.4) (464) (64.6)
主効果(F(4,45)−6.65,p〈.01),判断のタイプの主効果(F(1,45)−18.21, p〈.01)及 び処理課題×判断のタイプの交互作用(F(4,45)−3.34,p〈.05)がそれぞれ有意であった。残 る他の全ての主効果及び交互作用は有意ではなかった。
判断のタイプの主効果は,各処理課題における質問文に記銘語が適合する場合(「はい」という 答えが得られる場合),その語の記憶成績が高かったことを反映しており,いわゆる適合性効果が 認められたと言える。処理条件の主効果について,語の望ましさ,判断のタイプの各条件を込みに
してTukey法により各条件間の比較を行ってみたところ,自己準拠処理条件と友人(好)準拠処理条 件での成績が他の3つの処理条件の成績のどれよりも有意に高かったことが示された(p〈.05)。
さらにまた,友人(嫌)準拠処理条件と意味処理条件での成績が音韻処理条件での成績よりも有意 に高かったことも示された(p<.05)。他方,自己準拠処理条件と友人(好)準拠処理条件との間 の差及帆友人(嫌)準拠処理条件と意味処理条件との間の差はそれぞれ有意ではなかった。ちな みに各処理条件毎の4 値は,自己準拠処理条件:2.88,友人(好)準拠処理条件:2.67, 友人
(嫌)準拠処理条件:2.09,意味処理条件:1.88,音韻処理条件:1.31であった。
処理課題×判断のタイプの交互作用について条件毎の単純効果を分析したところ,各判断タイプ における処理課題の単純効果がそれぞれ有意であった(「はい」判断では,F(4,90)−21.34, p
<.01;「いいえ」判断では,F(4,90)=&32, p<.01)。他方,各処理課題における判断のタ イブの単純効果について分析すると,自己準拠処理条件(F(1,45)−13.88,p〈.01)。友人(好)
準拠処理条件(F(1,45)−23.24,p〈.01)。友人(嫌)準拠処理条件(F(1,45)=18.39, p
〈.01),意味処理条件(F(1,45)=5.22,p<.05)では有意であったカ㍉音韻処理条件では有意 でなかった(F(1,45)−1.58)。判断のタイプに関するこれらの有意な単純効果は,音韻処理条 件を除いた他の各条件においては命名段階で「はい」と答えられたターゲット語の記憶成績が高か
った事を反映していたと言える。次に,判断のタイプ別に処理条件の効果をTukey法により比較し てみた(p<.05)。その結果, 「はい」判断においては自己準拠処理条件での成績が友人(好)準 拠処理条件を除く他の全ての条件の成績よりも有意に高かったことが示された。さらに友人(好)
準拠処理条件の成績は,意味処理条件及び音韻処理条件での成績よりも,また友人(嫌)準拠処理
条件の成績は,音韻処理条件の成績よりもそれぞれ有意に高かった。さらにまた,意味処理条件と
音韻処理条件との間にも有意な差が認められたが,これら以外の全ての条件間には有意な差はなか
うた。他方, 「いいえ」判断について分析すると「はい」判断の場合と同様に.自己準拠処理条件 の成績が友人(好)準拠処理条件を除く他の全ての条件の成績よりも高かったことが示された。し かしながら「はい」判断の場合とは異なり,残る他の条件間には有意な差は認められなかった。
考 察
本研究は,自己準拠処理による記憶の促進効果が自己についての特殊な認知的構造(例えばセル フ・スキーマ)との関連で説明されるのか,それとも,もっと広い範囲の対人的情報を含めた一般 的なエピソード的知識構造との関連で説明されるのかを検討した。このため本研究では,対人準拠 処理条件として,自己準拠処理条件の他に身近な親しい友人に準拠して刺激を処理する条件が設け られた。さらに,この友人準拠処理条件は好悪の次元で分けられ,記銘語の意味内容についてもそ の望ましさの次元で操作された。これは,もし自己準拠効果が自己以外の幅広い対象まで含めたよ
り一般的なエピソードの記憶を参照することに起因するものなら,比較的親しい人物,従ってその 人についての種々のエピソードが貯蔵されているはずの他者に準拠する場合にも,同様の効果が認 められるに違いないと予想されたからである。加えて友人の好悪の違いは,それぞれの人物に関す るエピソードの種類の好悪に反映されるだろうと考えられたので,処理が準拠する友人のタイプ
(好き,嫌い)によって記憶促進の効果の現れる記銘材料のタイプ(好,悪)も異なるだろうとも 予想された。
再認成績を分析した結果まず第一に明らかにされた事は,自己準拠処理条件での成績が,従来処 理水準説で最も記憶を促進するとされてきた意味処理条件での成績をさらに上まわっていたことで あった。すなわちこの結果は,これまでいくつかの研究で報告されてきているいわゆる自己準拠効 果を追認するものであったと言える。同時にまたこの分析から,対人準拠処理による記憶の促進効 果は親しい友人のうちの好きな友人に準拠して処理した場合にも,自己準拠処理の場合と同程度に みられる事が明らかにされた。このことから,自己準拠処理効果が自己に関する特殊な認知構造と
してのセルフ・スキーマ等によるものというよりも,個人に関する幅広い様々な出来事についての 記憶構造に依拠した処理によるものだとする考え方が概ね支持されたと言える。
しかしながら,嫌いな友人に準拠しな場合の成績を見てみると,音韻処理条件よりはよかったも のの,他の2つの対人的処理条件での成績より劣っており,意味処理条件での成績と変わらなかっ た。これは上述の結論に矛盾するというよりは,処理が準拠した人物についてのエピソード的知識 の豊かさの差を反映した結果と考えることが出来よう。確かに,実験にあたって何れのタイプの友 人準拠処理条件の被験者に対しても「あなたの身近で良く知っている親しい友人」を思い浮かべる ように教示がなされたとは言うものの,現実には一般的に嫌いな友人との相互交渉は,好きな友人 との交渉に比べて相対的にはるかに少ないことであろう。このため,当然嫌いな友人に関するエビ
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