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政策科学と社会科学の課題

川 喜 多    喬

序      性についてのOECDの証明は十分ではない)。

1.政策科学化への要請       ,さて,今日,社会科学が専ら大学や大学付属の 近年,蕨科靴への要識もっと備力的々こ研究所で行なわれて・ る拷えるαま・「大学人」

sなって注目蝶めたのは,・ECDの報糖であ の観にすぎなv 〔P 27〕・社会科学は政府の部 る〔OECU I979〕。        局や研究獺,民間の非営利の研究団体さらには

この報鰭は「社会科学は政府による問題解 民間の営利の研究団体に於ても営なまれて・・る・

決の用具となり渓際の応用または応用可能性に このことが既に,事実上「蘇科学イヒ」した社会 基いて配の正当化をし鮒ればならなくなって 科学(者)を日々に離産して・・るのである・こ

きて・・る」〔P22〕としている.すなわち,旧来 うした各研究纈がコミュニケーシ・ンを醗に しばしばあったような(・)社会科学の「実用化の要 し,次のような灘での政策科学化を画るぺきで 請」に更に加えて(b)「政府への協力」が主張され  ある・とされる〔P43〕。

ているのである。       (1)社会科学による「計画化」

その理由とされているものは何か・一つには今    (a)社会の全体状況,内部葛藤,価値や期待 日の政府の側からの需要である。しかし同時にそ     の変化の診断

の政府の課題一「すべての産業社会に最近生じ   (b)政府の行為の生みだす諸矛盾にかんする ているある重要な変化」一は,同時に「社会変     警報

動」を対象とする社会科学の課題でもある〔P.17〕。   (c)中・長期的に意志決定者の緊急の関心事 勿論これだけでは・「理論的な」課題にとどまるこ    になるはずのことがらの研究

とがあるかもしれぬ。しかるに産業社会の成長と   (d)将来の政策課題の予測,分析 ともに社会科学も変質をとげてきているのであ   (2)(現行の)政策プログラムの評価 る。      ㈲ 「社会実験」

すなわちそれは,19世紀の「科学による啓蒙」   (4)「アクション・リサーチ」

一一 u理解」から,現代の「科学による経営(ex一

ploitation)」一「操作」への変化である〔P島17 2.政策科学の形成

,18〕・(かようにして「社会科学研究」と「社会   以上のごとき要請は,別段新しいものではない。

変動」との関係は・もはや認識主体一対象の関  ただこうした要請を受け入れる素地が,少くとも 係ではなく,行為主体一対象の関係に拡大されて  諸先進国の政府および学界に拡大していることは きている。)だからこそ社会科学は,その研究課  注目せねばならない。さて,むろん政策科学の源 題(「esea「ch problems)と政策課題(policy prob一 泉や系流には多くのものがあり,すべてを分析す 1ems)との関係を問われるのである(勿論ここま  る余紙はないが,今,実用化の世界での動きも含 での論理ならば,(a)「実用化の要請」のレベルに  め,改めて整理してみると〔上erner and 1」aswe11,

達するだけであろう。(b)「政府との協力」の必然  1951,Dror,1975〕

(2)

①第1次大戦において,経済学が資源動員の科  rest,『公共政策』Puhlic Pdicy,『社会経済計画 学化に貢献した。また心理学が「人的資源」の  科学』Socio−Economic Planning Sciences,『社会

「質」の測定(知能検査)に貢献した。このこと  政策』Social Policyなど)。

により・自然科学(軍備技術)のみならず,人文お   ⑦とくに社会学者の政策参加は1910〜30年代,

よび社会科学が政策(政治の延長としての戦争)  とくにルーズペルト時代(「社会調査」の発展は の世界に深く関るようになり,その「実用性」が  〔Alexander,1959〕),そして1960年代以後に顕著 政治家によって確認されることになる。なお,こ  である(例えば,1968〜72年にかけての四つの大 こで見落してはならないのは,経済学,心理学の  統領諮問委員会一「法制の強化と司法行政」「暴 いずれもが数量化手法の開発によって貢献してい  力の原因とその予防」「ポルノグラフィー」「人口 る点であり・この点でも自然(物理)科学との「接  増とアメリカの将来」一一)。

近」がはかられていることである。        本論はとくに近年,政策科学への期待と流行を

②とりわけシヵゴ大学のメリアムMerriamの精  生んだ背景,とりわけ国家機能の多様化と変化,      (注1)

力的な研究の貢献が大きい〔Merriam and Bames・ それを関連する社会構i造,社会問題の変化にかん 1924〕・彼は政策科学への指向性を強くもった  する議論を略し,専ら最近の欧米における研究の

「社会科学研究会議」(SSRC;The Social Science 成果の_部を曾張終的には「社会科学の可能なる R・・ea・ch C・un・il)を組織する.この繊に属し,灘」を論ずる形ぜ注3婁約したものである。

かつ社会科学の実用化への要請を強く訴えたR且  (注1)この歴史にみるかぎり,OECDの言う,①産 リンドの『何のための知識か』〔Lyn¢R・S・1939〕    業社会の成熟よりも,②戦争の大規模化,軍事 はあまりにも著名である。      技術の革新(「大砲」),③「福祉国家」の発展

③両大戦間には,ロックフェラー財団の助成に     (「バター」)が,政策科学成立の条件としては・

よる一連の研究と,この研究を通して「社会科学     先行する。

の方法」の革新が試みられる。〔例えばS.んRice  (注2)それゆえ・わが国における,例えば宮川公男

(edり,1931〕このように,伝統的な知識生産基地     氏の精力的な仕事に触れることはできない。

      (注3) それゆえ,「社会工学」や,純粋に技法的なである大学外で政策科学が発展する新しい慣行は

       ものには触れることはできない。戦後に更に強化される。ハドソン研究所,都市研

究所,ブルックリン研究所,未来研究所,ランド・

コ_ポレ_ションなどである〔Levie 1969 Diひ  第1章政策策と政科学 kson,1971〕       1.政策の定義

④第皿次大戦中の経済学者,社会学者,心理学   政策科学論において,政策i(Policy)という言葉 者の貢献はあまりにも有名である・       は多義的に用いられている。

⑤戦後は1951年のラーナーラスウェル編『政   ①ロスウェルは,きわめて抽象的に「行動を導 策科学』〔Lerner and Lasswell(ed・),1951〕を先  く原則群(a body of principles)」と定義したこと 駆とする50年代のラスウェルのパイオニア的な研  がある〔Rothwe11,1951〕。このような一般的な講 究,そして60年代半ば以後のドロアによる通俗化  義から,「政府の政策」ばかりか,「企業の政策」

の寄与が大きい〔Dror,1968,1969,1970,197】a, から「誰某の政策」まで用いられている。この定 1971b,1971c,1675〕。       義では「意思決定論」の系譜の貢献が参照される

⑥1970年の『政策科学』(Policy Scie鍛ces)誌の  べきであろう〔Allison,1971〕。

発行にみられるように,政策志向の雑誌の開花が   ②行為則の全てではなく,これを軍隊用語にな 70年代の特質である(『未来』Futures,『長期計画』 らって戦術一戦略に区別し,とくに戦略的な行為 Long−Range Planning,『公益』The Public Inte一 則を政策と呼ぶのは,ドロアほか,数多い・一一

(3)

川喜多:政策科学と社会科学の課題       3

「多くの場合・公共政策は一般的輪令(9・nera1(vi)細部にわたる躰的目標/斗㈱こおける目標 di「ectj…)を与えるものであり・主な行動の道す 設定,(・ii)積極的/聴的,(。iii)時間的選好。

・ じにそう細かな指示(d…il・d i・・t・u・ti・n・)を与え (注)他に政策概念については〔W・1・s,・976b〕,

るものではない。したがって公共政策は,すべて    〔Uliassi,1976〕などを参照。

の可能な状況に対応しうる詳細な意志決定群とい

う・ゲームの理論で言う『戦略』の定義と同一で  2.政策科学

はない。私の言う『政策』に近いものは,戦術と   政策科学は,通俗的には,しばしば政策提言の 対称的な意味で,一般的な行動指針として使わ  学に限定化されて考えられている。その原因の_

れる軍事的な『戦略』定義である」〔Dror,1973, つは,そこにおける政策定義の狭あいさにあるの pl4〕。       である。

③しかし,以上のような行為則の他に,それを   政策科学の役割を,いわゆる政策提言の機能に 生みだす源泉となった人の愛好する「価値」が政  限定することは,その提言の生かされる(あるい 策と呼ばれることもある〔Re瓦1976〕。こうし  は・というよりは多くの場合,無視される)文脈 た「価値」のデモーニッシュな性格が強調される  に対して無批判になりやすいことを意味する。そ と・政策はしばしば党派的精神,自己主張,エゴイ  れゆえ,レインの,「何もしないという選択肢を ズム等と結びつけて理解されることになる(「政  含めて・選択肢を研究することが政策分析の本質 策科学」とは「党派的精神(誰某の立場)に立っ  的な,それゆえ決定的な部分である」という見解 た科学」であるとの俗説も生じるわけである)。  〔La鵬197島P・71〕には安易には賛成はできない

④逆に,先に述ぺた行為則の所産が政策と呼ば  のである。

れることも多い。そしてしばしば,この意味での   「政策科学」について,ラスウェルの古典的な 政策は,公言された行為則と矛盾することが多い  研究は,次の三つの領域にわけている。①政策意 のである。      思決定内容(Policy)の研究,②政策意思決定過

⑤以上のような政策の理解は,政策形成(policy 程(Process)の研究,③政策遂行の研究。ドロア 一making)を行動に先立つ一一過的なものとみなす  〔Dror,1968〕は,②,③を「政策形成の知識」

ことになる。(したがってこの概念に立つ政策科  Policy−making knowledgeと呼び,①を「政策課 学観は・政策科学の関与する段階と政治の場で行  題の知識」Policy−issue knowledgeと呼んでいる。

政がその成果を実行する段階とを二分することに   ここでまたわれわれは,今一つの俗説を排して なる)。しかしな1粧らポリットらは,「政策とは意  おかねばならない。政策科学は,経済学,法学,

思決定と活動の過程である」ことを強調する〔Po一 社会学……といった先行する諸社会科学と同様に 11itt 6 4乙・1979〕(注)。       一分科(department)を形成するものではない。

ドロアは政策に更に二つの水準を区別している  もちろんこれらの諸学の分立もきわめて伝統的な

〔Dror・1971a〕。個々の政策と,個々の政策を開  ものであって,内部の諸学派,諸傾向の同質性が 発する際の基本線となる水準,前提。ガイドライ  他への異質性とともに明晰判明であるとはいいが

ン,一種の「マスター・ポリシー」,いわゆるメ  たいことがあるとしても,少くとも実際上はそれ ガポリシー(Megapolicies)である。メガポリシー  ぞれ別の対象領域をもってdisciplineをもたんと とは,例えば次の八つの基準の組みあわせからな  している。しかし政策科学のdisciplineとは,ま るものである一(i)純粋/混合,(ii)微細部分  さしく先行する諸科学の性格変化をもたらすこと の改良/革新,(iii)高リスク/低リスク,(iv)統  にあるのであり,したがって政策科学とは,(主 合的政策/一点突破的政策,(v)順次的に考慮さ  として)社会科学(群)のある機能を示す言葉で れる政策/あらかじめ予測期間を長くとる政策  あるといえよう。

(4)

ラスウェルらはその先駆的な業績〔Lerner and  ⑩「純純」研究/「応用」研究の区別の否定 Laswel1,1951〕の表題を「政策諸科学」(The Po  〔Rule,1978〕

licy Sciences)とした。しかしわれわれはその後の   ⑪時間のコストへの関心

発展の中で一つの政策科学(The Policy Science)  ⑫特別の技法(OR,線型,計画法,ダイナミッ が形成されつつあると考えるべきではないであろ  クプログラミング,コスト・ベネフィット・アナ う。政策科学は,つねに「政策諸科学」なのであ  リシス,PPBS,デルファイその他の予測技法,シ る。OECDの報告書も「さまざまの学問間にバラ  ステム分析その他)の活用

ンスのとれた発展」〔P.49〕を強調している。ま   ⑬政治家,行政マン,ブレイン・トラスト,大 たラスウェルも「政策科学的な視点」として④文  学研究機関その他の積極的交流

脈理解(contextual)の視点,⑤問題志向的な視   ⑭変動の計量と予測への関心〔Young(ed⇒,

点の他に,◎多方法を用いる(multi−method)視  1968〕

点をあげている〔Laswe11,1971, xiii〕。      ⑮動機の理解,しかし「巧言」への不信,行動

(結果)の重視

第2章 政策科学の特質と思想      ⑯不確実怯危険率の考慮一不完全な実現可

      育旨駐生(practicability) 〔Borch,1968〕1・政策科学の特質       ⑰変化への中心人物(集団)(political leverage)

政策科学の特質は,しかしながらそう明解では       の想定

ない。したがって要するに前節冒頭であげたごと       ⑬最善一最悪の両極端以外のさまざまのコース

ォ,対象によって定義される傾向も生じやすいの      の予想

である・しかしこうした不明解さは誕生して半 ⑲「欠醐コストの極少化」

世紀も立たぬものの常態といえよう。われわれは      〔Lerner and Lasswell,1951, p l l〕

むしろ,政策科学化を主張する人びとの見解の列       ⑳時代感覚(sense of time)〔ψ・6げ ・, P・10〕

挙をするにとどめよう。       ⑳世界的視野〔oρ.

①課題志向性(issues apProach)〔Handel,1955〕

②計画志向性(programmatic sense)〔Yarmolin・ 2.合理主義モデル

sky・1971〕。       政策科学の努力の一つは,意思決定のもっとも

③政治的実現可能性への配慮(political fヒasi一 合理的なモデルを発見することに向けられてい

bility)       る。

④多数の変数への波及効果および目標間のトレ   ラスウェルによる政策科学の古典的な定義は 一ドオフへの関心(system s apProach)〔Hoos,19 〔Laswell,1971,P・1〕,政策科学を「意思決定プロ 68〕      セスの知識」および「そのプロセスにおける知識」

⑤希少性の理解および費用/便益比較     としている。そしてその前者は・本来・個々の実

〔N三skanen鉱磁,1973〕      際の政策形成過程の観察からの一般化に依るもの

⑥政策過程へのフィードバック機構の内在化の  であるが,やがてこうした「記述モデノヒ」ではな 要求〔Klir and Valach,1967〕         く,「指示モデル」の構築が,独自に進められるよ

⑦「社会実験」(social experiment)の弓蚕調    うになる(descript三veなモデルとpredict董veなモ

〔Riecken and Boruch,1974〕      デルの差については,〔Ferguson・1975〕を見よ)。

⑧社会改良の可能性への信頼〔Uneberry and  ①ラスウェル自身は,知的局面(情報収集と処 Fowler,1967〕       理)一プロモーションー規範化一発動一応用一終

⑨学際性〔Charlesworth,1972〕。       了一評価にわけている〔op ciL, PP 18−28〕。

(5)

川喜多:政策科学と社会科学の課題      5

②エチオー二が(批判する側の視点から)分析  3.政策科学と改良主義

した例では〔Etzioni,1968, P.264〕,       政策科学を論ずる人びとの多くは,広く改良主

(a)情報処理(選択可能な複数の行動コースと,  義ないし漸進主義と呼びうる立場を選択してい その諸結果にかんする知識)一(b)計測(さまざ  る。「各ステップを特定化し,一歩一歩進む方法」

まの可能な結果の意義を,価値や手段などに照ら  (specialized step−by−step apProach〔Lompe,1968,

し解明)一(c)合意形成(目標の選択,結果と手  罫169〕),「細部の改良をつみあげる社会工学」

段の判別)一一(d)調査(適切な選択肢のグローバ  (piecemeal social engineering〔PoPPer,1963. PP.

ルな研究)こそは,「完全に合理的な人物」の行  259−265〕),「それぞれ別々に行なう小部分修正主 なうぺき方策である。       義」(d均ointed incremetalism〔Lindblom,1968〕)

③スコットとショアのより包括的な文献研究  などである。

〔Scott and Shore,1979, ch・3〕によれば,(a)課題   この立場をもっとも精力的に主張したのはリン の決定〔Rivlin,1971, PP.4−5〕 (b)課題の定義  ドブロムであろう。一「民主主義がその政策を 一(c)目的(goals),価値,目標(objectives)の  変更するのは,ほとんど常に,小部分での修正 明確化〔Lindblom,1968, P・12〕一(d)目標のハイ  (ineremental adjustments)によってである。政策 ラーキ組織化〔March and Simon・1958, P・137〕  はとんだりはねたりするように変るものではない 一・ie)可能なすべての手段のリスト・アップー一 (Policy does not move in leaps and bounds)。」

(f)各手段のあらゆる結果の目録作製一(9)結果の  〔Undblom,1963. p.344〕他にバイレー,オコーナ ランクづけ一(f)動員可能な財源・人材の評価  一などがこの立場の研究書を著している〔Bailey 一(9)費用計算  (h)以上のすべての情報を収集  and O℃onnor,1975〕。

しうるような制度化一(i)政策の実施一(j)成否   またシェットルによれば,政策研究者は次のこ の評価一一(k)フィードバック,ということになる。 とを頭に入れておかねばならぬ。〔Schoettle,1968,

P.151〕

しかしながうこうした「完全に合理的な人物な   ①およそ選択肢の選択は,所与の政治の世界の らば……」というモデルはエチオー二〔Etzioni・  中で,現状のごく一部分(限界領域,マージン)

1968・P2546 ρo∬加・〕ら多くの批判家を生んで  で行なわれることであるのがふつうであり,全体 いる。       の変更を求めるような選択はごく希れである。

ドロアは・政策科学に他に五つのモデルをあげ,  ②選択肢の数は限られている。その選択肢の意 合理主義モデルを相対化している〔Droち1968〕。  味は,現状に対する追加的(incremental)な,す 六つのモデルは次のとおりである。       なわちごく小さな変化である。

①純粋合理性モデルpure−rt三〇nality model    ③いずれの選択肢についても,そのあらゆる結

②経済的合理性モデルeconomically rational 果を見通し,評価することはできないことがふつ mode1       うである。すなわち限られた数の結果しか考察し

③順次的意思決定モデルsequent三a1−decision えないのである。

model       ④政策目標を所与とし,これに対する最適の政

④微細部分変動モデルincremental change 策手段の発見と考え続けることはできない。実際 mode1      の政策決定過程では,過程が進むにつれて,発見

⑤満足感充足モデルsatis尋ing mode1     された政策手段に適合するように,政策目標が修

⑥非合理性モデルextra−rational mode1    正されてくるのがふつうである。

この小論ではまず④を,次に⑥を概観するにと  ⑤同様に関連データの収集,分析を行なってい どめる。       るうちに,政策課題が再構成一修正されてくる。

(6)

⑥こうした結果,「政策」は一連の,多数の修正  く相対的に多いか少ないかである」ときには「知 を次々と加えられた選択(群)からなることにな  的な政策形成」の可能性は大きくなるであろう

る。       〔Burns,1956〕。

4.改良主義と政治的妥協       5・懐義主義の立場

しかし改良主義は,より「ラディカルな」人び   政治の世界の中での公共政策の研究にあたって との「全面対決政策」(politics of confrontation)  レインは「実証主義者の決定論的アプローチ」を や「対抗的制度化」(COUnter−inStitUt三〇naliZatiOn)  拒否し,「価値批判的アプロー一チ」を提案してい の主張からの批判を浴びることになる。そして実  る。それは政策科学において,各集団ごとの価値 際の政治の世界は,政策科学者たちの夢みるよう  とその対立を強調し・その価値の研究において に,科学者の説得によって動かされているのでは  「普通化認識法」よりは「個別理解法」を用い・

ないのである。科学的知識がより良き政策の決定  論理的分析よりは「物語り」「議論」「記述」「対 に役立ちうると信じられているが,実際には相互  話」「比喩」を用いようとするものである〔Rein・

の交渉は落胆に価するものである〔Rein,1976,  1976〕・またそれは人びとの希望を理解しながら・

PP 37−8〕。政治の世界の(科学者にとっては)「思  その幻想を直視させる点でP懐疑論的アプローチ」

わぬ」変動によって「非部分的な」修正政策が受  と呼ばれている。

け入れられることがある〔P.164〕。        この立場の公準は・要約すれば次の通りである。

ドロアもこの点を強調している一「政治的実   ①課題の最終的解決を信じないこと。一いか 現可能性(political feasibility)の予測が無視しが  なる公共政策も,目標は単一でも明確でもない。

ちなのは,克服しがたいことが明白な障害すら乗  多数あり,多義的で相互に対立している。いくつ りこえ,確率の低いことを達成するばかりか,明  かの目標の達成は他の達成を更に困難にする。ま らかに不可能なことをも達成する人間の献身的努  たこれらの目標への手段の最終的な発見にはほど 力の能力である」〔Dror,1969, P・279〕。     遠い状態にある。

しかし「非日常的な事件」の意義を認めること  ②政策(公約)ばかりか実際(Practice)にも関 は,その日常化を否認することと同じではない。  心を集中すること。一一政策決定に同意をえるた それどころか「非合理な行動」は,まさしく政治  めにも多義性(あいまいさ)は避けられない。真 の世界では日常的であるからこそ,その動機に  の合意がないところを日々の実践で,つまり行政

「共感しない」,外的な操作が政治の用具になるの  屋と現場の行動のところで具体化しているのであ である。こうした外的な操作において,少くとも  る。

今のところ,多くの政策科学者が合意しうるのは   ③政策を歴史的な視角から検討すること・一 天啓や「巧言令色」(noble gestures or f三ne words) 政策にかんする知識は・科学的な意味で蓄積性を ではなく「有意味な行動」(worth while action)  もたない。それは涯しない論争の的なのである。

が対象となるということである〔Rdn,1976,  あらゆる世代がくりかえし同一一の課題をとりあげ pll〕。       自分たちの世代の歴史的な,政治的,経済的,社

もちろん社会における価値観の分裂が深刻であ  会的現実の中でその再定義を試みる。

ればあるほど,すなわち政治が「対決の政治」の  ④正統的見解(Orthodoxy)を信じ込まぬこと。

様相を帯びるほど,政策科学の中での対話と合意  一完全主義からは離脱しなければならない。す に人びとを動員する可能性は小さくなるであろ  ぺての見解が不完全である。

う。逆に「対立する目標問に最良の妥協がなりた   ⑤「道徳批判家」としてアプローチすること。

ち.,…・人びとの選択も『あれか,これか』ではな  一人びとの間に,そして人びとと政策研究者と

(7)

川喜多:政策科学と社会科学の課題      7

の間に「共有の価値」があると思いこんではなら  第三は過度に,あるいは誤って政策科学化した ない。政策研究者の信念体系の押し売りを試みて  政策科学の現実への絶望ないし嫌悪である。

はならない。人びとは,そしてまた政策研究者も  ①利害関係者への過度の「奉仕」「代弁」によ 十分に知ってはいない信念体系をもち,またそれ  る科学の放棄。

に基いて行動している。      ②政策科学の「中立性」の擬装と隠された価値

⑥政策研究が政治に受認される過程を考慮する  判断。

こと。一政策研究の成果が受認されるのは,そ   ③「均衡」志向。現状維持ないし原状回復的提 の「アカデミックな知識」に由来するというより  言の優先。

は彼が他の(有力な)見解の代弁者または助言者   ④超理想主義的な政策提言。

として行動しているからであることが多いのであ   ⑤政策提言「以後」の分析放棄。

る。       ⑥政策科学者と政策決定者との「私的」結合。

⑦あまりにも流行的,センセーショナルな課題 第3章 政策科学の困難        設定・

       ⑧社会的課題と時の政策当局の課題との同一

P. 政策科学化への障害      視。

 政策科学化には次のような障害が考えられる       第四は政策決定者側の過度の期待(そして幻滅)〔Dr・r,1971b参照〕。      と秘密主義,あるいは御都合主義的利用などであ

第一には,政策科学固有の問題である。     る。

①利害関係者からの圧力・および逆に助成。   以上の諸困難のうち,とくに政策形成実施のい

②とくに政策決定者からの敵対あるいは金銭的  わば「入口」と「出口」に限って今少し論じよう。

援助。

③「実験」に供されるか否かの権限が政策科学  2. 政策需要測定の困難

側にないこと。      市場機構の活用が可能な場合と異なって,公共

④政策決定の伝統的密室悔および能率保持上 蘇の額の定義はきわめ灘しい(もっとも,

の密室性。       市場機構の活用が可能であるにもかかわらず,公

⑤政策決定の・そもそも非合理な,デモーニツ  共政策の対象となっていることは多いが)〔Brad一

シュな性格・       、h購1972〕。

⑥コントロー一ル可能な政策変数/コントロール   最も簡単な策は,要するに政策決定者がこれが 不可能な政策変数の他律的決定         需要であると定義するものを採用することであ

第二には・政策科学化する以前の科学の現実に  る。いささか良心的な策は,代議制民主主義の内 おける問題である。      外で「表明される」需要を考えることである。し

①希少性の考慮に慣れぬ完全主義。      かしながらかように需要が列挙されたとしても,

②現実の構成にかんする必然主義。      そして仮にその列挙が完全であったとしても,も

③理論とその理論を「実証」する主体(理論の  し動員しうる資源が希少であるならば(希少でな 対象)との関連への無知または無視の伝統。   い場合を想定し難いが),それら需要の間に優先

④次世代再生産の密室性。      順位を決めなければならない。

⑤社会的課題よりも「学問的課題」の優先。    この場合,主として二種類の基準が必要である.

⑥「専攻学科」内での名声への関心。および反  第一にその個人にせよ集団にせよ,共通にもって ジャ桝ナリズム。      いると信じられる各種の需要間のウェイトづけで

⑦「一般理論」への過度の志向と脱歴史主義。  ある。こうした需要の種類については,各種の試

(8)

みがある。一例えばスラックの①苦痛の防止②  る,という皮肉な見方を示しているロッシとライ 弱者の保護③個人及び社会の富の生産という抽象  トは〔Rossi and Wright・1977〕,政策評価論の批 的なもの〔Slack,1966〕から,バー一ペイの①食糧  判的なレビューを行なっている。

②住居③医療④教育⑤社会サービス及び環境サー  評価研究(evaluation research)とは,公共政策,

ビス⑥消費財⑦レクリエーション機会⑧近隣の住  およびその政策実施のために導入された行動計画 み良さ,近隣関係⑨交通の便〔Harve男1973〕な  の・実際化およびその影響を評価するために企画

どまで(最近の「社会指標論」などにみられるこ された・科学に基づく活動である〔B・・n・t・in and うした列挙項目の交通整理については,別稿を期  Freeman・1975〕・要するに評価研究の出発点は,

す)。しかしそれらをハイラーキに構成するため  ある政策が「うまく機能(work)する」かどうか の基準への合意形成はきわめて難かしい〔Jones, の問題である(以下この段落, Ross and w「ight Brown and】3radshaw,1978〕。よくされるように  の所説の要約)。そのためには,そもそも「うま

「絶対的需要」と「相対的需要」(派生的,二次的  くいく(機能する)」という言葉で何が意味されて 需要等)とを区別してみることも可能である。し  いるか,を十分知っていなければならない・いい かし実際には,いかなる「絶対的需要」も社会的, かえれば,その目標ないし成功の基準が十分はっ 歴史的な文脈で充足されることを要請されるので  きりしていなければならない。しかし政策の目標

第ゴ、はいかなる個人ない喋団の需要を充足 る(遇々,目標が鞭で示されたとしても,それ させるかという基準である。これについても合意  からの誤差の許容範囲はふつう示されてはいない 形成はきわめて難しい。       し・そもそもこうした数値で示されうる縢ま,

どちらについても住民(集団)によって異る見  より上位の目標にとって二次的・三次的とされて 解がある。また政府の見解も統一などはされてい  いることが多い一筆者)。そもそも政策が解決

ない。議会(議員),審議会(委員),部局,官僚  を目ざした課題があいまいである(か,あまりに などの間にも差異があり,また彼らの基準も時と  も遠大であるため,当面の目標は常に「一歩」と ともに変わる。実際には,多くは政治上の理由か  しては成功しうるものである一一筆者)ため,そ ら,基準の統一化が行なわれている。しかしなが  の評価は必ず的はずれのものになる・その原因の らそれを研究者が唯一のものとして採用すべき理  一つは・政策研究者が「操作可能な目標」を示す 由は明解ではなv・〔VickerM974〕。       ことは希で,政策当局が示す(示さない)ままで

個々の政策需要の必要性も計量は難かしい。コ  我慢しなければならないことにある。更に深い原 スト.ベネフィット分析の発展にもかかわらず,  因は・政策当局が・そもそも細部にわたる目標を その需要の充足のコスト,ベネフィットをすぺて  明確にしておくよりは・対立する諸政治勢力の多 明らかにし,しかも計量することは難かしい。そ  くにも合意可能な漠然たる・より上位の目標をか のうえ実際には計量が必要条件とされる場合です かげるにとどめ,実行の過程で個々に,さまざま ら,十分条件ではない。需要はその解釈と切り離  の要求を「バランスをとって」充足することを選 すことはできず,そして解釈は必らず政治的レト  ぶことが多いことにある・

リックを含むのである〔Jon鍋Brown and Brad一  政策評価研究の第二の困難は・それがいわゆる

      「現場」で行なわれるということにあり,ふつうそshaw,ψ.6ε彦., p.30〕。

の「現場」には参与観察研究が想定されていない,

3.政策評価の困難       研究に好都合な操作が不可能であることにある。

公共政策の事後評価研究の成長の理由は,まさ  さらにモニタリング・システムの創出は必ずしも しく政策が失敗するリスクがきわめて高い故であ  容易ではない〔Bennett and Llumsdaine(ed&)・

(9)

川喜多:政策科学と社会科学の課題       9

1975参照〕・第三にはその勲が通常のアカデミ に賛成しておく.社会政策の目標の多くは財政シ ックな論文の場合とは全く異なることにある。  ステムや企業の賃金ならびにフリンジ.ペネフィ

「政策に役立つ行動科学の文献は政策決定者に理 ットのシステムによって実現されているのであり 解しうる言葉で・また簡単に入手しうるコミュ  必ずしも伝統的な公共サービス機関によってはな ニケーション メディアに書かれねばならない」  されていない(しかも「公共サービス機関」を国

〔Droら1971b・P・159〕。複雑な統計手順やその結  家に限定はできない)。

果が「知的凡人」にわかるように翻訳されねばな   タウンゼントは「社会政策」を「社会が(社会 らない〔Rossi and Wrig比1977〕。第四には研究 の)構造における変動を阻止,延期, i導入し,管 終醐限が限られる〔C・1・m・璃1975Su・hm・・, 理(m・n・g・)する諸手段」とし,広義をこ理解す 196ZW醜1972b〕・第五にをま・ランダムにコン る.・・ささか抽象的であるが,「社会」とV、う言

トロールされた実験が望み薄であるから,その  葉に国家,地方政府,企業,組合その他の社会集 政策のネットの影響をとりだすことが難かしい  団を含めて考える多元論的国家一社会観の伝統に

〔Campb・11・・d S・・nl・担966⊃.第六には,以上 照らして理解する必要があろう.この意味での社 のこともあって,政策評価研究が党派的に利用さ  会政策は,ドイツ的伝統の中では,ゾチアル.ポ れることも多いのである〔Furneら1975〕。     リティー一クよりも,ゲゼルシャフツ・ポリティ_

クに相応するものであろう。これは社会政策を,

第4章 社会科学の課題と機能     「社会保障」を中心とする「市民にサービスないし 1.社会政策       は所得を供することによって・市民の福祉に直接

ステムの維持)をもって結果とすることはできな 済政策」から「社会政策」へと政策の扇を拡げる v㌔また逆に結果(例えばシステムの改良)を ことになり,かつその「社会聯」も「繍政策」

もって意図とすることはできない・③制度のもつ への補完物としての地働ら独立の地位へと蟻 多くの機能のうちの一つ(例えば社会紛争の回避)化することになるのである.既に紹介したOECD を「本質」とみなすことによっては一仮にそう  報告書でもこのことを強調している。すなわち,

断定する根拠があったとしても一他の機能の無  「狭義の社会政策」領域以外の政策領域でも「社会 意味性を説明したことにはならない。      的要因」(social factors)を無視しえなくなってい

今一つの通俗的な理解は・「社会政策」の主たる  る〔P23〕,と。

主体を国家に特定化するものである。これも上記

の「社会政策」概念の狭義化の所産であろう。筆  2.社会学の機能

者はタウンゼントの理解〔Townsend,1975,序文〕  タウンゼントは,以上のように定義された社会

(10)

政策と社会科学との分離を攻撃する〔qρ, 鵡,   ⑤政策形成をめぐる社会社会過程の理解。

PP・1−2〕。一「社会政策の研究とは……『応用  例えば,バウアーらの研究〔Bauer and Gergen された』科学ではなく,『純粋の』社会科学であ  (edの,1968〕

る。社会変動の理論の発展のためには,このよう  以上のごとき貢献は別段,社会学でなくても,

な研究が社会構造の研究と同様に必要なのであ  すべての社会科学において可能であることは改め る。」      て言うまでもあるまい。

しかしこうした社会学観は,伝統的なものの一  「われわれは自分の社会よりも自分の学問dis一 つである。アメリカ社会学の創始者の一人,ス  ciplineについてより多く知っている社会学者をあ モールはこの観念の源流の一つである。〔Small,  まりにも多く生産してきた」というエチオー二の 1905〕一「一般社会学」の目的は「世界をある  批判〔Etzioni,1965〕は,おそらく社会科学者の べき姿にするにはどうすれば良いか」にあり,そ  すぺてに妥当するであろう。しかしこれはまだ研 の一般形は,「民衆はいま,かような状態にある。 究の「対象」の転換を迫るものではあっても,「研 その主たる問題点はこれこれである。その他の諸  究の実用化」を迫るものではない。ましてや,こ 問題はこの主要問題に対し次のような副次的な関  の小論の中で注意しておいたように唯一の途が政 係にある。こうした事実からして,民衆の行動は  策当局との協調であるとの根拠は乏しい。にもか

これこれの方向に向けられねばならず,そうすれ  かわらず,この二つのステップを踏んで先に進ん ばあれこれの結果が約束できる」〔p655〕。    でいる同朋があることを現代の社会科等は無視で

こうした「実用化の要請」はアメリカの場合,  きないであろう。

しばしば政府にとっての実用性と同一視された。   ミルズ,ギュルヴィッチ,バーリッツ,グルド

「知的にすぐれたモデル」enlightened modelによ  ナーらの批判的見解の検討をはじめとするこれ以 って「政策当局者ないし専門家によって活用しう  後の作業は,次の機会に譲りたい(注)。

るようなさまざまなタイプの知識」を発展させ,  (注)拙稿「福祉政府と社会科学の課題」『茨城大学

「問題解決のための知的条件を創出」し,新しい    政経学会雑誌』41号,197aを参照されたい・

「制度創造(instit面on building)」に貢献する・と   参照文献

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④政策の事後評価への社会学的研究調査。−   Bauer, R A. and Gergen, K.(edの1968丁加

「社会科学の役割は,社会政策の形成にはなく,.  5加4/oメPo1勿Foプ〃瑠∫oπ, Free Pree.

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