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予算管理 におけるス ラック形成傾 向の検討

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予算管理 におけるス ラック形成傾 向の検討

は じ め に

予算管理 において,各管理責任単位 に与え られる予算 は,予算編成方針 に基 づ く予算案の提示 と,全社的総合予算 を編成 するための相互調整 を経て設定 さ れる。それに続 く実施段階では,予算 は,管理者の行動の基準 と してその遵守 が予定 される。そ こにおいて暗黙の うちに仮定 されるのは,組織成員 と して予 算管理の対象 となる管理者 の目標 と組織 目標 の一致 である 管理者 は,組織 の 効率 を促進するように行動すると仮定 されているようである。 しか しなが らこ の ような仮定 は,かな らず Lも満 たされるとは限 らない。予算 は,公式的には 組織 目標 の実現のための資源配分の財務的表現であると しても,その編成ある いは実施 に際 しては,人 々の個人的利害が介入する。また個 々の組織単位の利 害 が働 くであろう。その結果,予算 は個人や組織単位間の コンフ リク トを反映 して,その間の資源獲得競争の色彩 を帯 びることになるであろう。 さらには組 織全体の効率 を犠性 に して,部 門の利益が追求 され,予算 は単 にその結果 と し

ての解決 を示 す にす ぎない場合 も考 え られ る。 この様 な現象 の一つ に予算 ス ラックが ある。予算管理の意図する目的 を実現するためには,予算 スラ ックが 有効 にコン トロールきれなけれ ばな らない。

この研究では,予算 ス ラックの形成 に作用 すると思 われ るい くつかの要因 を と りあげて,わが国の企業実務 のなかでそれ らの要因がどのように作用するか を検討 してみたい。予算 スラックに焦点 をおいた実証研究 と して,Onsi(1973) Merchant (1985)の研究が挙 げられる。本稿 では,得 られた結果 を彼 らの 結果 と比較検討することをも意図 している。彼 らの研究で用 い られたの とおよ

〔231

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232 37 1・2・3

そ同 じ測定尺度 を利用 して,比較可能 なデータを得 ることによって結果の解釈 と妥当性 をこの面か らも検証 したい。

Ⅰ 予算スラック

組織管理理論 における重要な概念の一つに,組織 スラックがある。組織 スラッ クは,組織の保有する余剰の資源であ り,基本的には経営管理者の自由裁量 に よって利用できる資源 である。CyertMarch (1963)によれば

,

組織 が利用 できる資源 と連合体 を維持するために必要 なペ イメン トとの差」 であ り,「 人 および小集団の目的の満足 に充当 される資源」である。 これは組織外部への 支給 と組織内部への支給 とに区別できる。たとえば株主への余分の配当 は,前 者 であ り,連合体のメンバーへの支給 は後者の例である。 ここで予算スラック とは後者 をいい,ある組織単位 に必要額 を超 えて配分 される予算である。 この スラックの具体的な現象形態 としては,典型的にはルーズな予算標準である。

あるいは予算流用や目的外充当などは多 くの場合スラック現象 に関係するであ ろう。

CyertMarchによれば,管理者 は,交渉の中で必ず しも意識的に組織 スラッ クの蓄積 を図るものではない。 これに対 してWilliamson (1972)のいう機会 主義的な自分 自身の利益の追求 を基本的な行動モデルとして前提 とすれば,管 理者 は,組織 目標 を追求するとともに,資源配分交渉 において自己の利益 につ ながる昇給,昇進,スタッフ人員の拡大などを意図的 に追求する。組織 目標 を 追求 しなが ら,個人 目標の満足 をも最大化するためには,組織環境 はス ラック を含んでいなければな らない。それゆえ管理者 は,意図的 に組織 スラックを形 成 しようと努める傾向 を持つ ことになるであろう。予算スラックの大部分 は,

このような意図的な交渉過程 の結果であると言 うことができる。

スラック現象 は,エ イジェンシ‑理論 においても中心的なものである。エ イ ジェンシー関係の中で,エ イジェン トは自分 自身の利害 に導かれて行動する.

環境の複雑性 ・不確実性,モニタリング ・コス トの制約 によって,エイジェン トは自由裁量の余地 を与え られる。エ イジェン トの行動が,プリンシパ ルの観

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予算管理におけるスラック形成傾向の検討 233 点か らもっとも望 ましい行動であるとは限 らない。彼 は, 自己の情報優位 を利 用 し,プリンシパルに提供する情報 を操作 して,その希望するとは異 なる行動 ルールをとろうとする。予算スラックは,そのような利害相反する行動の一種 である。エ イジェンシー理論 は,このような行動 を回避するための組織 メンバー 間の契約関係 に焦点 をあてる。

スラヅク形成傾向に作用する要因および仮説

スラック形成傾向とは,予算 スラックの形成 に対 して,管理者が持つ肯定的 な態度である。この傾向に作用するい くつかの要因を取 り上 げ,それ らの要因 との関係 について仮説の設定 を試みることにする。

スラック形成傾向に作用する要因と してまず指摘 されるのは,業績である 組織 は,業績 の良 いときには利用可能な機会 に手 をつ けず,また予備の資源 を 蓄積 して業績の悪化時に備 える。スラックの形成 を通 じて,組織 は,好況時に は業績 を低下 させ,不況時にはそれを改善する。スラックは, したがって組織 業績 を平準化 させる機能 を持 っている。(CyerトMarch,1963)

仮説 1 スラック形成傾向は,業績水準 とプラスの関係 を持 っている スラックの形成 に作用するもう一つの重要 な要因として組織環境の不確実性 がある。環境不覚実性 は,組織 の構造 と管理 プロセスを規定する主要な要因で ある。ス ラックの形成 もそれ に対す る組織 の反応 の一つで ある。 たとえば, Galbraith (1973,1977)は,組織 ス ラックが組織単位間の相互依存性 を緩和 する緩衝材 として機能 し,限 られた情報処理能力に対する負荷 を低減 させると 主張する。またThompson (1967)は,環境の不連続性 と変動性 か ら組織 の

テクニカル ・コアを保護するためにスラックが必要であるとする。

組織環境 を構成する次元の中でも最 も重要 なものは,テクノロジーである。

この次元 に関 して は, これ まで多 くの尺度 が展 開 されて きた。 ここで は, Perrow (1967)の分析 シェ‑マ を取 り上 げてみたい。 テクノロジーは,「 象材料 に働 きかけて,それを変換するプロセスである

とされる。 ここで対象 材料 とは,物的な意味での材料 のみでなく,人間, さらにはシンボルをも含ん

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234 37巻 1 ・2 ・3

でいる。Perrow は, タス クの特 性 を次の 二 つの 次分 類 す る。

(1) タスクが分 析 可 能 で あ る程 度 。

(2) 例外発生 の程 度 。 す な わ ち タスクの遂 行 に,そ れ に含 まれ る活 動 の 同質性の程 度 。

この 2次元の分 額 シ ェ ‑ マ は, 1次元 として のス クのル ー チ ン性 次元 に投 影I できるとする。

ルーチ ンな タス ク と は, 十 分 に確実 なテ ク ノロ ジー があ って; それ が本 質 的 には同 じ対象 材 料 に適 用 され る場 合で ある。処理 の方 法は一 定 して お り, あ ま り変化 しない。 これ に対 して , ノ ンル ーチ ンなタスク とい うの は,十 分 に確 立 されたテクノ ロ ジー が ほ とん ど存 在 しない場 合で あ方 法 は不 確 実 で あ りそ れが有効 に作 用 す るか 否 か は知 られ てい ない 。また象 材 料 が標 準 化 され て い ない,あるい は生 産 物 が個 別 の 受 注 品で ある などの由 に よ って 多様 な タス ク を遂行 しなけれ ば な らな い場 合 で あ る。

仮説 2 ス ラ ック形 成 傾 向 は, タ スク不確 実性 の度 に対 して プ ラス の関係 持 っ て い る 。

他方,予算 ス ラ ック の抑 制 要 因 と して組織 の持 つラ ック検 出能 力 が あ る。

スラックは, 必 要 額 を越 え る資 源 の超過 配分 であ り,一 種 の追 加 的 コス トで あ る。それゆえ そ れ が存 荏 しう る た め には,そ'存在上 位 管 理 者 が知 覚 で き な い状態 を必要 と す る (Jones, 1984)。 スラ ック検能 力 は, タ ス ク不 確 実 性 と業績 によっ て影 響 を受 け る で あ ろ う。

仮説 3 管 理 者 の ス ラ ック形 成 傾 向は,上 位管理の ス ラ ック検 出能 力 に対 て マ イナ ス の 関 係 を持 っ てい る。

予算は,一 定 期 間 に対 す る企 業 活 動の積極 的な構と共 に, そ の 間 の経 営 管 理者の業績評 価 の た め の基 準 と な る 。実 施活 動の後,予 算 を基 準 と した例 外 管理の手続きが と られ る。 この と き予算 の達 成を強調 し, そ の た め の圧 力 を生 じさせるよう な運 用 が な さ れ る場 合 に (Argyris,1953),予 算 実 施 を担 当 する管理者は, 予 算 編 成 の過 程 の 中 で,設定 され る算 水 準 を低 く抑 え ,達 成 の可能性 を高 め よ う とす るの で あ ろ う。

(5)

予算管理 におけるスラック形成傾向の検討 235 Onsi(1973)の実証研究 によれば,権威主義的な予算管理 システムの下 では, 管理者 は,予算スラック形成の要求 を持つ ようになるとされる。権威主義的予 算管理 システムとは,予算 目標 の達成 を トップマネジメン トが強調すると,管 理者 に知覚 させるようなシステムである。

予算管理 を行動的観点か ら検討するときに, もっともよく取 り上 げられてき たのが予算実施担当者の予算編成への参加である。参加の業績水準 および自己 の職務や組織 に対する態度 におよぽす効果が主 たる研究対象である。後者の態 度に及 ぼす影響 については,一般 に肯定的な結果が得 られている しか しなが らその業績 におよぽす効果 につ いて は意見 の一致 を見 ていない (Milani, 1975. Kenis,1979)。その理由の一つ は,参加がい くつかの概念 あるいは変 数か、らなる構成概念 であるためであろうと考え られる (BeckerGreen,1960) 業績 の対偶 であるスラック水準 に対する参加の効果についても一意的な関係 を 推測することは難 しいであろう。 ここでは,参加 を予算の設定 に際 して予算実 施担当者が自分の意見 を反映 させうる程度 と定義する そ してこの参加の内容 を実現する際の予算管理 プロセスにおいて生 じる上司 およびスタッフ部門との 相互作用あるいはコ ミュニケーションをも参加 に含めて考 えることにする。参 加 とスラック形成 との関係 に関する仮説 は,予算スラックに焦点 をおいた実証 研究 であるOnsi(1973)およびM。rhant(1985)の成果 に基づ いて設定 し てお く。彼 らは,予算スラックと参加 との間にマ イナスの関係 を兄 いだ してい る。その理由として予算編成過程への参加 によって生 じる共同決定が,積極的 な上下のコ ミュニケーションを生 じさせ,予算 スラックを必要 とす るような圧 力を意識 させない, したがって防衛反応 を低減 させるか らであると推測 してい

る。

仮設4 予算スラックを形成 しようとする傾 向は,上位管理者 による予算 目 標 の達成へ向けられる圧力とプラスの関係 を持 っている。

仮説5 予算スラック形成傾 向は,予算編成過程への参加の程度 とマイナス の関係 を持 っている。

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236 37 1 ・2 ・3

Ⅱ 研 究 方 法

昭和61 1月か ら3月 にか けて 「予算管理 の運用実態 に関する調査」 を行 っ た。調査対象 は,札 幌 ・東京証券取引所上場企業 と して, い くつかの企業 に調 査 への協 力 を依頼 した。その結果19社 の協力 を得 た。業産別の内訳 は,機械 (2 社 ),電気機器 (1社 ),化学 (5社 ),食品 (7社 ),鉄鋼 (3社 ),その他 (1

社 )である。調査方法 は,郵送法 に よる質問紙調査 である。回答 を得 たの は, これ らの企業 に所属 す る経営管理者153名 で ある。配 布 した質問紙 に対 す る回 答率 は69パ ‑セ ン トであった。企業別 の回答者数 は, 3名か ら21名 に渡 ってい る。回答漏 れな どの不完全 なものを除いた結果,以下 の分析 に利用 で きたのは 139名の回答 であった。

回答者 の属性 を平均値で示 す と,年齢43.8歳,勤続年数20.8年 ,現在 の職位 につ いてか らの年数3.6年 とな る。回答者の職位 は以下 の ようであった

次長 ,部長代理 お よび部長 20

課長 73

課長代理 19

係長 17

工場長 ,研究開発室長, その他 10

担当職能 は,製造 (47名 ),販売 (36名 )お よびその他管理職能 (56名 )であっ た。

測定尺度

以下 に取 り上 げる予算 ス ラ ック関連変数 は,すべて回答管理者 の知覚 に基づ いて測定 され る。予算 ス ラ ック形成行動 は,現実 の条件 に よるので はな くて, 知覚 され た刺激 に対す る回答者 の反応 である。

タス ク不確実性 Perrow (1967)の分析 シェ‑マが提 唱 され て以来 , それ に直接間接 に依拠 して多 くの実証研究 がな された。それにともなって タク不確 実性 の測 定尺 度 の検討 が行 われている。 ここで は, それ らの研究 の中か ら, Hage‑Aiken (1969)お よび VandeVen‑Delbecq‑Koenig (1976)の提 示 す

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予算管理 におけるス ラック形成傾向の検討 237 る尺度 に基づいて9項 目の尺度 を構成 した。 これ らの質問項 目は,回答管理者 の遂行する仕事の性質に関 して,その多様性,遂行過程の分析可能性 と予測可 能性,困難度,結果の明瞭性,問題解決のために必要 な思考時間の長 さなどを 尋ねている。回答 は,たとえば 「全 く単調」 か ら 「非常 に多様」 にわたる7 イ ン ト尺 度 上 で求 め る。 この尺 度 の信 頼 性 は,タ ロ ンバ ック信 頼性 係 数 (Cronbach α)で0.60である。 この値 は許容できる信頼性係数の下限値 で あるおよそ0.50か ら0.60の水準 を超 えている。

スラック形成傾 向 スラック形成傾 向の測定 は,Onsi(1973)によって展 開 された4項 目の質問 によって行 った。たとえばその一つ は,「自分 を守 るた めに,管理者 は確実 に達成できる予算 を提出する」 という質問である。 この質 問 に対 して,回答者 は,「全 く生 じない」か ら 「常 に生 じる」 までの10ポイン

ト尺度上で該当す る程度 を答える。 この尺度 の信頼性係数 は,0.55である。

スラック検出能力 上位管理者がスラックの存在 を検出 しうる能力について も,Onsi(1973)の開発 した3項 目の質問尺度 を利用 した。例 えば 「上司は, 十分 な情報 をもっていてどの部門の予算 に緩 みがあるかを知 っている」 という 質問である。 この尺度の信癌性係数 は,0.69である。

参加 仮説検定 のために, さらに参加の程度 を測定する尺度 と上位管理者が 予算 目標の達成 を重視する程度すなわち予算達成圧力 を測定する尺度 を必要 と する。 これ らの尺度 は,Swieringa‑Moncur (1974)が 「予算参加 が管理者行 動 におよぼす影響」 に関する研究で用 いた44項 目の 「予算関連行動」尺度 に因 子分析 を施 した結果 を利用 した。すなわちこれ ら44質問項 目の回答 データを主 因子法 によって 固有値1.0以上 の値 を持つ12の因子 を抽出 し, さらに直接 オブ

の知覚 は, これ らの因子 のうち,予算実施管理者の意見が反映 される程度 およ び上司 ・スタッフ部門との相互作用 あるいはコ ミュニケー ションの程度 を意味 すると解釈 される因子 を構成する質問項 目を用 いて測定 した。前者の 「意見の 反映」尺度 は,2項 目の質問か ら構成 される。たとえば 「新たな予算の編成 に 際 して,私が取 り入れたいと思 っている特別 な項 目についての意見が求め られ

(8)

238 37巻 1 ・2 ・3

る」 がその例 である。後者の 「コ ミュニケーシ ョン

尺度 は,5項 目の質問か ら構成 される

.

私 は, 自部門の予算 を上司 とともに編成 する」 などが卓の例 である。前者の尺度の信頼性係数 は0.71,後者のそれは0.66である。

予算達成圧力 上位管理者が予算 目標の達成 を強調する程度 に関する知覚 も同 様 に因子分析 の結果 と して得 られた因子 の中か ら,予算差異の釈 明要求 を示す と解 され る因子 を構成 する質問項 目を尺度 と した。 この尺度 は,たとえば 「 は,実際値 と予算 とを比較 した報告書 の提 出を求め られる」 という項 目を含む

6項 目尺度か ら成 る。 この尺度の信頼係数 は,0.75である。

予算意識 ・予算超過時の対応 因子分析 か ら得 られた因子 のうち, さらに予算 ス ラックと関係 する因子 を構成 する質問項 目を追加的 に取 り上 げた。それはま ず予算意識 と解釈 できる因子 である。 これ は予算 に対する積極的な態度 を意味 している。 この尺度 は 「私 は, 自部 門の予算 を達成す ることの重要性 を常 に意 識 している」 という項 目を含 む3質問項 目か らなっている。また予算超過時の 対応 を尋 ねる質問項 目をも取 り上 げた。 この尺度 は,業務 関係の数字 を操作す る程度,他勘定への振替,活動の停止 を必要 とする程度 を尋ねている。信頼係 数 は,それぞれ0.550.53である。

業績 スラックと回答管理者の担当する部門の業績水準 との関係 を検討する ために,他部門と比較 しての 自部門の業績 の程度,な らびに過去 3年間 におけ る業績 の平均成長率 を尋ねた。

Ⅳ 結果の分析

この研究で用 いた上述の測定尺度 の うち仮説の検定 に直接関係 するの は,莱

績 , タスク不確実性,スラック検 出能力,予算達成圧力お よび参加の各尺度 で ある。以下ではスラック形成傾 向の得点 とこれ らの尺度の得点 との相関 を見 る ことによって仮説 の妥当性 を検討す ることにする。

図表 1は,ス ラック形成傾 向と業績, タスク不確実性 およびスクラック検 出 能力 との相関である。

仮説 1においてスクラック形成傾 向は,業績水準が高 くなるに従 って強 くな

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予算管理 におけるスラック形成傾 向の検討

図表1̲ スラック形 成傾向 と業績, タ スク不確 実性,スラック検出 能力 との相関

スラック形成傾向 業績 :他部門 との比較 0.07 業績 :成意率 ‑0.08 タスク不確実性 0.09

239

ると仮定 した。また仮説2では,スラック形成傾向は, タスク不確実性 との関 係 において同様 にプラスの関係 を仮定 した。 しか しなが ら図表 1の結果 によれ

ばこれ らの仮定のいずれ もが支持 されていない。

仮説3では,上司のスラック検出能力は,スラック形成傾向とマイナスの関 係 を持つであろうと仮定 した。 この関係 を示す相関は,rニー0.05である。 こ の値 は仮説の妥当性 を支持できる水準 には達 していない。 しか しなが ら分布 を 検討 したところ,スラック検出能力 とスラック形成傾向との間には非線型の関 係が見 られた。 この関係 は,たとえばスラック検出能力の得点 をその平均値で 2分 して,平均値以上の得点 グループ (N‑71)と以下のグループ (N‑68) の各々について両者の相関を見 ることによって明 うかにできる。平均値 を超 え る得点 グル‑プの相関はr‑10.30(p≦0.01)であ り,それ以下の得点 グルー プのそれ はr‑0.13(n.S.)であった。 したがって上司のスラック検 出能力 が比較的高 いと知覚 されている場合 には, この仮説 は妥当すると解 される。

図表2は,スラック形成傾向と予算達成圧力および参加 との間に見 られた相 関 を示 している。

これ らの相関値 を用 いて,さきに述べた仮説 を検定 しよう。仮説4において 上司によって予算の達成 を求め られることか ら生 じる圧力,予算達成圧力 は, 部下 に防衛反応 を取 らせ,予算 スラック形成の誘因になるであろうと仮定 した。

この仮説 は,支持 される傾向にある。 さらに予算超過時の反応 に対 して もこの 予算圧力はプラスの有意 な影響 を持 っている。

また仮説 5において予算管理への参加が,その様 な圧力 を緩和 して,結果 と

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240 37 1・2・3

図表2 予算 ス ラック形成傾向 と予算 達成圧 力および参加 との間の 相関

ス ラック形成傾向 予算達成圧 力 0.13* 参加

意見の反映 0.17**

両側検定有意水準 ***p≦0.01

**p≦0.05

*p≦0.12

してスラック形成傾向 を弱めるであろうと仮定 した。 しか しなが ら実際の相関 は,仮説 と逆の符号 を持つ有意な値 を示 している6この ことは,仮説 を再検討 する必要 を示唆 しているようである。

以上がスラック形成傾向とこれに作用する諸要因との間に見 られる直接的な 相互関係の検討 に基づ く仮説の検定 である。ついで他の要因を媒介 とした間接 的な要因間の作用関係 を検討 してみたい。図表 3は,スラック形成傾向に作用 する要因である説明変数間の相関を示 している。

図表3 予算 ス ラック関連変数間の相関

1 2 ̲3 4 5 6 7 8

1.タスク不確実性

2.予算達成圧力 0.01

3.予算超過時の対応 0.05 0.22*** 4.予算意識 0.09 0.26***0.02

5.参加∴意見の反映 ̲ 0.16* 0.35***0.19** 0.27***

6.参加 :コミユニユケ‑シヨン 0.09 0.53***0.26***0.20** 0.24** 7.スラック検出能力 0.19** 0.18** 0.go o.07 0.04 0.14*

8.業績 :他部門との比較 0.01 ‑0.05 0.05 0.04 0.07 0.09 ‑0.27***

9..業績 :成長率 0.20**‑0.06 0.07 0.06 0.ll ‑0.05 0.07 0.17

両側検定有意水準 ***p≦0.01,**p≦0.05,*p≦0.10

これ らの説明変数間の相関を検討すると,たとえば予算達成圧力が高 い場合 には,予算実施担当管理者 に対 して予算編成過程への大幅な参加が認め られ,

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予算管理におけるスラック形成傾向の検討 241 そ してさらに上司のスラック検 出能力の増加 をともなっている。タスク特性 は, 参加 に対 してある程度の相関を持 ち,そ してすでにみたように参加 はスラック 形成傾向と関係する。要するにある説明変数がスラック形成傾向と直接的な相 関 を持たない場合でも,他の変数 を媒介 して間接的な影響 をおよぼす可能性 を 示唆 している。 このことを検討するためにステ ップワイズ重回帰分析 を段階的 に適用 してパス解析 を行 った。図表4は,その結果 を示 している。 ここで分析 結果 を簡明にするために参加尺度の下位尺度 を総合 して, これ らの尺度の得点 合計 を説明変数 と して回帰式 に入れている

図表4に要約 される因果的順序関係の中で, もっとも中心的な部分 は参加, スラック検出能力およびスラック形成傾向間の関係である。参加 は,スラック 形成傾 向 に対 して促進的影響 を持つ と同時 に,ス ラック検 出能力 を高 めてス ラック形成傾向を抑制する。予算管理への下位管理者の参加 は, この意味にお いて不安定 な力動的関係 をそこに含んでいる。予算スラック形成 に関する因果 系列のこの 部分 は,予算管理 における不断の葛藤 を反映 しているようである。

先の仮説検定では, タスク不確実性 は,スラック形成傾向との間に直接的な 関係 を持 たなかった。 しか しこの図表 では,参加およびスラック検 出能力のタ スク不確実性への回帰 は有意である。それゆえタスク不確実性 は, これ らの変 数 を媒介 して,スラックの形成 に間接的 に貢献 していると解 される。仮説 2は,

この意味において支持 されると解釈できるであろう。

スラック形成の要因として一般的 に指摘 されているのは,業績である 業績 の好調時にはスラックが形成 され,不調時にはそれを消費することによって組 織業績の平準化がなされるとされる。 このメカニズムは, この図では,スラッ

ク検出能力を媒介 として働 くようである。すなわち他部門 と比較 した自己の業 績 は,スラ′ック検出能力 とマイナスの関係 を持 っている 業績が高 くなるとス ラック検出能力は低 いと知覚 されている。 しか しなが ら業績成長率 は,検出能 力にプラスの貢献 をしている。成長率が高 くなるとスラックは検出 され易 いと 知覚 されている。成長率の高い組織単位 は,企業の戦略的観点か ら重要視 され, 管理的関心が集中 される傾向を持つ ことが考 えられる。

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242 37 1 ・2 ・3

図表4 ス ラック形成傾 向のパス解析

[注1 1.ステ ップワイズ回帰分析 は,前進 ・後退法 によって行 ったo回帰式に取 り込む, あるいは取 り除 く基準 となる係数の有意性水準はp‑0・15としている0

2.数字 は標準回帰係数である。

3.回帰係数の有意性水準 ***p≦0.01,**p≦0.05,*p≦0・10

4.スラック形成傾向とスラック検出能力との関係 は,逆U字の非線型であったo そのためスラック形成傾向 (Y)をスラック検出能力 (Ⅹ)に対 して多項式回帰 分析 を行い,つ ぎの回帰式を得た。

マ=2.328+1.311‑0.037Ⅹ 2(5≦≦30)

重回帰分析で得 られたスラック形成傾向の回帰係数 は,この多項式 によるY 推定値¥をスラック検出能力の得点に代入 して得 られたものである0

5.欠損値 をリス ト ワイズで取 り除 いたために,標本数は127名 となったo こ の欠損値 は,主 として業績変数 に関するものであるo

予算管理への参加 は,予算実施者のモチベーションを高めるといわれている。

予算意識 は,参加 と相 関 していた (r‑0.27,p≦0.01)。 しか しこのパ ス解 析 の結果 によればむ しろ上位管理者 による予算達成圧力によるところが より大 きいようである。 この予算意識 はスラック形成の他の変数 とは独立 している。

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予算管理におけ争スラック形成傾向の検討 243

Ⅴ 結果の解釈

スラック形成傾 向に対する上述の仮説検定結果の妥当性 を評価 するために, 既存 のス ラック形成要 因 を検討 する研究 の一つである,Merchant(1985) 得 た結果 と比較 してみたい。彼 は米国エ レク トロニ クス産業19社 の製造担当管 理者170名 を対象 と して,ス ラ ック形成傾 向の実証分析 を行 っている。 この対 象 は,われわれのそれ とは業種 と回答者の担 当職能 において異 なっている。そ れゆえ厳密な両研究の比較 はで きないのであるが, しか し本研究 で得 られた結 果の確か らしさを評価 す る手 がか りになるであろう。Merchant研究 は,そこ で利用 されている測定尺度が基本的 に本研究 における尺度 と同 じであるか らで ある。

Merchantの研究 にお'L,て も,おな じSwieringa‑M。n。ur (1975)の管理者 予算関連行動尺度 が利用 されている。彼 は, この尺度 を因子分析 して,い くつ か の下位尺度 を導 いている (Merchant,1981)。参加 の測定 に用 いたの は, 彼 が 「予算計画 に対する影響力」 および 「予算管理 に対す る自己関与」 と名付 ける因子 を構成する質問項 目である。われわれ も同 じ尺度 を用い,同 じ手続 き を取 ったが,因子負荷パ ター ンが相違 していた。前者 は,われわれの 「意見 の 反映」尺度 にお よそ一致 していたけれ ども,後者 は,われわれの場合 にば,独 立 した因子 を構成 しなかった。 それ ゆえ比較 のために参加尺寒 につ いては, Merchantの尺度 によってわれわれのデータを再構成 する。スラック形成傾 向, 予算圧力及 びス ラック検 出能力 に関する尺度 は,両研究 においてほぼ同 じであ

る。図表 5に結果の比較 を示 した。

両研究 で結果 に相違 がみ られるのは,スラ ック形成傾向 と予算達成圧力,予 算計画 に対する影響力および予算管理 に対す る自己関与 との相関である。他 は お よそ一致 している。 とくに上司のス ラック検出能力の他 の変数 との相 関は, 両研究でほぼ完全 に一致 している。

一致 していない結果■の うち,注 目されるの は,参加 とス ラック形成傾 向との 関係 である。Merchantの研究 では,参加 はス ラック形成 に抑制的 に作用する

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244 37 1・2・3

図表5 Merchantの研究 と本研究 との比較

1 2 3 4

1. ス ラック形成傾向

2.予算達成圧 力 0.18・i** (‑0.13)

3.スラ.ツク検 出能力 0.23*** ,0.34*'*

(0.05) (0.18)*:

4.予算計画 に対す る影響 力 ‑0.12* 0.09 0.08 (JO.10) (0.28)**‑* (0.04)

5.予算管理 に対 す る自己関与 0.21*** 0.38'** 0.27*** (0.30;**

*** ** ***

(注) 1.両側検定有意性水準 ***p≦0.01,**p≦0.05,*p≦0.10

§ p≦0.12 2.Merchantの回答者数は170名である。

3.カッコ内は,本研究のデー タによって計算 した相 関である。回答者数は139名 である。

のに対 して,われわれの結果では,有意 ではないが,む しろ促進的な作用 を伺 わせる。 この相違 をさらに検討 してみよう。

まず参加尺度 の妥当性 を検討する。彼の研究では,参加概念 を操作化 して 「 算計画 に対する影響力」 と 「予算管理 に対する自己関与

をその尺度 と した。

この うち 「自己関与

尺度の妥当性 に疑問がある。 この尺度 は 「私 は, 自部門 の予算差異 につ いて,不利差異 のみでな く有利差異 も調査 する」,「自部 門の予 算 を編成 するにさい して,多数の詳細 な項 目に注意 を払 うことが必要である」,

私 は個人的 に (自分 で)自部門の予算差異 を調査する」 の3項 目の質問か ら なっている。 この因子 の解釈名か ら察 して,彼 は,予算参加の結果 と して生 じ る部下 による予算受容 あるいは予算達成への動機づ けの程度 を参加の実質的内 容 と解 して参加 の一つの尺度 と したのであろう。 しか しなが らそれ らは,参加 事象 に直接関連す る質問内容 ではない。予算差異分析 を自発的に行 う程度 を尋 ねているにす ぎない。それゆえ この 「自己関与

尺度 は,予算達成圧力 あるい はス ラック検 出能力の下位尺度 と考 えうる余地 を持 っている。 「自己関与

度 とスラ ック形成傾向 とのマ イナスの相関 は,参加 よりもむ しろ予算達成圧力 あるいはスラック検 出能力の文脈の中で解釈 することができよう そ してこれ

(15)

予算管理におけるスラック形成傾向の検討 245 に関するわれわれの結果 との相違 は,スラック形成傾向と予算達成庄力との間 にマ イナスの相関およびスラック検出能力と予算達成圧力との間にある相対的 に大 きな相関に基づ けば,Merchantの対象管理者の当面するより'厳密な予算 の運用 (恐 らくは業績評価 に直接結 びつ く)によるものではないかと推測でき

もう一つの下位尺度 「予算計画 に対する影響力」は,参加概念 と矛盾 しない

Merchantの主張 する参加のス ラック低減効果があるとすれば, この要因 とス ラック形成傾向との間にある比較的小 さなマ イナスの相関で反映 されていると 考え られる。 しか しなが らこの関係 は,われわれのデータでは確認 できない。

組織成員 の行動 を統制するさいの管理 スタイルとして,次の三つが挙 げられ る (Dalton,1971)Oまず組織 コン トロール (organizationalcontrol)である。

これは組織の上位管理者の権限 を反映 し,組織の目標か ら導かれた,必要業績 達成水準の設定 に基づ くコン トロールである。予算 はその典型である。これに は公式的な業績評価が結 びつ く。つ ぎに共通 の行動基準 と しての集団規範 に対 する成員 のコ ミッ トメン トを通 じての コン トロールがある これは社会的 コン トロー)i,(socialcontrol)と呼 ばれ る。集団規範の支持 に対する報酬 は,隻 団の成員 と しての承認である。 さらに自己 コン トロール (selfcontrol)があ る。 これは自己の選択 した目標 と,その達成 によって生 じる心理的高揚 と達成 感 に由来する。組織行動の有効 な管理のためには, これ らの管理スタイルが相 互補完的な関係 を持たなければならない。予算管理 において参加が重要視 され てきたのは, これ らの社会的 コン トロールおよび自己 コン トロールとの結合が 意図 されたか らである。

また,組織 は,限 られた情報処理能力の制約の下で,環境不確実性 による情 報処理必要量の増大に対処 しなければな らない。そのために自己充足的組織単 位 を創設 し,また組織の比較的低 い階層 にいる人々の 自由裁量 を許容せ ざるを 得 ない。 この分権化 と権限の委譲 は,情報の偏在 をもたらすか ら予算管理 にお いて下位管理者の参加 を必然的に伴 うであろう。 この意味においても予算編成 過程 は,いうな らば本来高度 に参加的なプロセスである。

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参加 によって予算実施担当管理者 の意見が反映 され,予算が自己の目標 と し て受容 されるな らば,組織 コン トロー)I,としての予算の持つ圧力は軽減 される であろ う。Onsi(1973)は,彼 の実証 データに基づ いて,「参加 は,ス ラッ ク形成の必要性 を小 さくする. これは,参加が積極的なコ ミュニケーションを もた らし,ス ラック形成 を必要 と思 わせる圧力の下にないと感 じさせるか らで ある」 と主張 している。

しか しなが ら参加が常 にこの様 なスラック低減効果 につながると主張するの はあま りに楽観的すぎるようである。参加 に伴 う下位管理者の発言力は,自己 の利益 あるいはその属する組織単位 の利益の追求の方向に働 く可能性 を否定で きない。われわれの得 た結果 は, この ことを支持 していた。管理者 にとって予 算 は,業績評価基準であり,そ して組織資源の配分過程 での交渉 に関わってい

る。組織 目標 と個人 目標が完全 に統合 され,自己実現の欲求 あるいは内発的な モチベーションに動か されていれば,参加予算 による資源配分 は,自ずか ら組 織 にとっても最適解 となるであろう。 しか しなが ら様 々な制約 によって十分 な

その様 な統合 とモチベー シ ョンを得 るの は,多 くの場合 困難 で ある。 WiL liamsonの仮定するように個人が自己の利益 を追求 して,機会主義的 に行動す れば,なお参加予算 は,組織 にとって最適解ではありえない。結果 と して予算 は,さまざまな程度のスラックをその中に含 むことになる。下位管理者の観点 か らすれば参加がスラック形成傾向 とプラスの関係 を持つのがむ しろ自然であ

る。

しか しなが ら参加のスラック形成傾向に対する直接的な作用 は,促進的なも のであるとしても,参加がもっぱらこの方向に働 くわけではない。参加の現象 的側面である上司,その他のスタッフ部門 との接触 は,スラック検出の機会 を 与え, タスク不確実性 および業績 など他の要因と相互作用 しなが らスラックの 形成 に対 して間接的ではあるが,抑制的な影響 をおよぼ している。との ことは,

さきのパス解析 によって確かめ られたところである。

スラックの形成 に促進的な効果をおよぼす もう一つの要因は,予算超過時の 対応である。予算額 を超過 したときに,活動 を停止する,勘定の振替 をおこな

(17)

予算管理におけるスラック形成傾向の検討 247

う,あるいは数字 を操作 する程度 を意味 している。予算超過時にこの様 な行動 をとるほどスラック形成傾向は大 きくなる。そ してこの対応 は,予算圧力と比 例 している。予算 スラックは,予算編成時に形成 されるとともに,その後 では, 費 目の流用や予算数値の操作 を通 じて形成 される。 ここで注意 しなければな ら

ないのは,参加 と予算超過時の対応がプラスの相関を持 っていることである。

このことは,勘定の振替 あるいは数値の振作 が上司や予算関連スタッフの承認 の下で行 われていることを示唆 しているようである。予算 は予測値であ り,覗 実の正確 な写像 ではないか ら,その運用 は弾力的になされなければならない。

予算管理 において,予算の期中修正 および費 目流用の可否が問題 にされるので あるが, ここでのスラック形成傾向との関連 で推測すれば,それは望 ま しくな い結果 をもた らすか もしれない。期中修正 ・費目流用 は,予算の権威 を損ない スラックの形成 を促進するようである。

予算管理 は,基本的には各管理責任単位の資源の投入産出間の最適化 を図る ことにある。予算 スラックの存在 は,予算管理の観点か らすれば, 自らの機能 が十分 に発揮 されていないことを意味する。しか しなが ら別の観点か らすれば, スラックの存在 は必ず しも非難 されるべきものとは見なされない。予算 スラッ クは組織の潤滑油 とも考 えることが出来 る。スラックのあるものは,個人 目標 と組織 目標 との間の葛藤 を低減 させ,管理者 に自由裁量の余地 を与える。要 は ス ラックの内容 とその程度が問題 とされる。 Bourgois(1981)は,スラック の機能 と して次の四つを挙 げている。組織成員 を組織 にとどめるインセ ンテ ィ ブ,葛藤の解消, ワ‑クフローにおける緩衝 メカニズムおよび組織内における ある種の戦略的 ・創造的行動の促進要因である。 この様なスラックに対する肯 定的な解釈が組織論 においては一般的なようである。スラックは,組織 にとっ て追加的なコス トであるけれども,その低減 を試みるあま りに大 きな圧力は, コンフリク トを増大 させ組織の失敗 をもたらす ことがある。 したがって予算ス ラックの形成 は容認せ ざる′を得 ないと しても,重要 なことは,スラックの存在 とその程度 を可能 な限 り把握 して, トップマネジメン トがその水準 を最適 にコ ン トtjL‑)I,しうることにあるようである。SchiffLewin (1970)は,適宜 に

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組織の事情 に通 じた上級管理者 をして業務監査 を行 わせる,あるいは外部 コン サルタン トを導入するなどの手段 を構 じることを提唱 している。予算管理の観 点か らすれば,組織のスラック形成傾向を把握 していなければ効率的な資源配 分の計画 と統制 は不可能であるか らである。

ス ラック形成傾 向 は,予算実施担 当者 の予算 に対 す る態度 に関係 す る。

Onsi (1973)によれば,スラックの形成 に肯定的 な反応 を示 した管理者 は, 予算 に対 して消極的な態度 を示 した。予算 は,単なる会計用具 に過 ぎない,予 算設定 は単なるゲームに過 ぎないとする態度 を示 したのである。 このことを再 確認するために,予算管理の機能である計画,調整 および統制の各々につ いて, 回答管理者がどの程度 の有用性 を知覚 しているかを尋ね,スラック形成傾向の 得点 との関係 を検討 してみた。結果 として,計画機能 についてスラック形成 と の間に有意な相関 (rニー0.18,p≦0.05)を見 た。スラック形成傾向の高 い 管理者 は予算の計画機能 に対 して否定的な態度 を持 っている。予算編成 を単 な るゲームと受 け取れば,予算 による計画設定 は現実的な意味を持 たなくなるで あろう。

お わ り に

予算スラックの形成 とそれに関連するいくつかの要因を取 り上 げて, これ ら の間の関係 を検討 してきた。核心 となる関係 は,予算実施担当管理者のスラッ ク形成傾向と参加 および上司,あるいはスタッフ部門のスラック検出能力との 関係である。参加 は,スラック形成傾向を促進する 予算実施担当者の意見の 反映 は, この研究 では,スラック形成傾向を強めた。Horngren (1982)は, 予算 スラックにつ いてつ ぎの ように言 っている。「管理者の個人的 目標 (個人 的所得,スタッフの数,自尊心,パ ワ‑)は, しば しば 『交渉予算』 をもたら す。これによって,管理者 は,意図的に防衛手段 としてのスラックを形成する。

‑‑ このスラックの追求は,あらゆる組織 におけるすべての予算編成 に浸透 し ている。それに対処することは,ほとんどなされていない。‑‑ これ らの対処 の試みにもかかわ らず,スラックは依然 として予算管理における主要な未解決

(19)

予算管理におけるスラック形成傾向の検討 249 の問題 である」。われわれの得 たス ラック形成傾 向 と参加 との直接 的な関係 に 関する結果 は,Horngrenの この懸念 に一致 していた。

スラックの形成 に対 して抑制的に働 くのは,スラ ック検 出能力である。検出 能力が高 いと知覚 されている場合 には,スラ ック形成傾向 は低下す る。そ して 参加 は, このスラック検 出能力 とプラスの相関 を示 した。 この関係 は,相対的 に参加が予算実施者の意志 を反映する方向に働 くのか,あるいはス ラック検 出 の方 向に作用するのか,何れの方向に指向す るかによって,スラックの形成 に 対 して, どの ような関係 を持つかを決定するようである。そ して この決定 には

タスクの もつ不確実性 あるいは業績水準が関係 している。

ここで付言 しなければな らないのは,スラ ックが組織 に対 して持つ積極的な 意味である。 この研究 では,ス ラックの形成 という予算管理の裏面 にある事象 に焦点 を当てた。そのために参加 において現 れる個人の利害の追求 という行動 の側面が強調 され る結果 となった。 しか しなが ら参加がス ラックの形成 を促進 す ると して も,他方,それは組織 における自己 コン トロー)I/をも促進する。組 織成員の内発的なモチベー ションの重要性 は否定 できない。そ してスラックの 許容する成員 の自律性 は,その様 なモチベー シ ョンの生成 に不可欠 であること

も事実であろう。

参加のス ラック促進効果 あるいはス ラック形成傾 向とス ラック検 出能力 との 間 にみ られる非線型の関係 を考慮すれば,予算実施者 の自由裁量 を尊重 して, ある程度のスラックの存在 を容認 した予算管理の運用がな されているようであ る。 この ことは,おそ らくはこの研究 の主 たる回答者 である中間管理者 に対す る大幅な権限の委譲 を背景 と して,彼 らの立場か らする弾力的な予算の運用が な されていることを示唆 しているようである。

最後 にいままでの議論 の一般妥当性 に関 して,若干の留保 を述べ たい。まず この研究で調査対象 となった企業 は,協力の要請 に対 して好意的 に応 じた限 ら れた企業である.また回答者 は,その企業 によって選択 された管理者 亨ある。

この ような事情 は, ここで考慮 しなかった他 の要医が結果の分析 に交絡 してい る可能性 を認 めざるをえない。

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