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実践の全体像を捉える試み

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実践の全体像を捉える試み

著者 深谷 美枝

雑誌名 明治学院大学社会学・社会福祉学研究 = The Meiji

Gakuin sociology and social welfare review

巻 135

ページ 117‑143

発行年 2011‑03

その他のタイトル Spiritual Care by Christian Chaplains : A Research to Grasp the Whole Practice

URL http://hdl.handle.net/10723/769

(2)

──実践の全体像を捉える試み──

深 谷 美 枝 

1 目的

本論は,現代の日本におけるキリスト教専門職(以下,チャプレンとする)

の実践の全体像を実証的に捉える試みである(1)

我が国では,キリスト教系病院の病院チャプレンの働きについては,主とし てホスピス医師あるいはチャプレン本人の手により紹介されているのみで(例 えば藤井(2),柏木(3),下稲葉(4),森山(5),中島(6)),その実践があまり明ら かにされているとは言い難い。近年では自らもチャプレンである沼野(7)が比 較的体系だった研究を行っているが,その関心は主として医療チームの中の チャプレンの在り方に焦点化されている。

そのような研究状況の中,筆者は共同研究者と共に,国内のキリスト教系病 院のチャプレンへのインタビュー調査を継続して来た。2009年度末までの第一 次調査においては5病院(本論中A,B,C,H,I)の調査を実施した。本論が その着想を得たのは,B病院チャプレンの次のような語りである。

 「フルタイムで曜日によってやることが違ってしまうのですけども,必ずあるのは朝8 時半からの始業礼拝。その後はメールの返事を書きます。(中略)午後,原則,月木金と PCU(緩和ケア病棟),水曜日は女性の乳癌ですが,カンファレンスをやっているので,

30分から40分出ます。(中略)それが終わって,リクエストがある患者さんを訪問したり

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します。」

 「PCU でホームコンサートをやっているので,音楽のコーディネーターもしています。

(中略)月に2回隔週で金曜日にいろんなボランティアの人が来てホールで音楽会をやる のです。その中でお話か,説教をします。もう1回は月1度,パイプオルガンの30分間コ ンサートをやって,その中でお話をする。(中略)あともう一つは PCU でチャプレンアワー というのを月曜日にやっているのです。」

 「夕方,週に1〜2回は勉強会みたいなものが入るのです。それもターミナルケアだっ たりします。いろんな職種の人が集まって。そういう意味ではいろいろ勉強させてもらう ことが多い。昨日も私が専門の話を勉強会でしました。」

 「あとは看護大の授業があるときはチャペルアワー。土曜日は職員と卒業生の結婚式を ここでしているのです。またはお葬式をするなどのケースで,納骨だとか法事。土曜日は 大体そういうことで終わってしまう。あと,ここは教会があって日曜日に会衆が集まって 来るのです。」

Bチャプレンの実践は予想を超えて複雑多岐に亘っており,ソーシャルワー クで言えばマクロやメゾに当たる教育機関や地域,組織内の他専門職への働き かけも見られるようであった。その合間を縫って,ミクロに当たる患者や家族 への狭義のスピリチュアルケアが実践されている現実があった。敢えて表現す ることが許されれば,かなりジェネリックな実践があり(8),その中に,それ らの諸活動に支えられて,ミクロレベルの患者や家族への直接的なスピリチュ アルケアが存在しているという感触であった。

そこで筆者はチャプレンによる実践がマクロ〜ミクロに至る実践の広がりに おいて捉えられることを仮説とするに至った。この仮説を検証するために,

2010年度の第二次調査4病院のインタビューを実施し,データを新たに加えて 分析を試みる。

加えて,結果から副次的に論じたいのは以下の諸点である。

①チャプレンは牧師職でない他の職種でも代替可能か。現在様々な理由から 全国的に他職種をチャプレンとして配属したり,他職種を短期の養成トレー ニングの後にスピリチュアルケアワーカーとして配置したりすることが増加

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しているが,ジェネリックな実践のうち,代替可能なもの,そうでないもの は何か。

②宗教性のない病院で実践が可能か。前出の沼野は自らも非宗教系の病院に 勤務しつつ,国立病院へのチャプレン配置を希望すると書いている(9)。し かし,そのような病院で果たしうるチャプレンの実践の範囲はどのようなも のか。

③チャプレンの実践は非常勤や外注で可能か。非常勤化や外注化した場合,

どのような役割機能,実践上の制限があるか。

2 対象と方法

今回対象としたのはホスピスを持つ(緩和ケア医療を実践している)キリス ト教系病院9病院で,病院のプロフィールは以下のようである。地域的には首 都圏の病院7(東京4,神奈川3),関西圏の病院2である(以下,首都圏,

関西圏とのみ地域を表記する)。緩和ケア医療の実践にはいくつかの類型が存 在するので,以下に示しておく。

院内病棟型:病院内の一病棟としてホスピス緩和ケア病棟を持っている病院

院内独立型:病院の敷地内に,独立した建物としてホスピス緩和ケア病棟を持っている病院 完全独立型:ホスピス緩和ケアを専門とする病院

緩和ケアチーム型:緩和ケア診療加算を届出し,緩和ケアチームとしてもケアを提供して いる病院

方法は訪問によるインタビュー調査であり,逐語記録として起こし比較分析 している。

1 A病院(300床規模,内ホスピスは20床)

 院内独立型ホスピスで,首都圏に位置する。キリスト教プロテスタント系の病院で,福 祉施設や相談機関を多数持つ福祉法人の経営である。チャペルがあり,職員礼拝も行われ

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ているが総体的にクリスチャンの数はごく少数である。総体的にキリスト教系病院である ことの社会的認知度は弱く,雰囲気を求めて選択して入院して来る割合は低いといってよ い。チャプレンは法人全体を担当する専任が1名で,A教団所属の牧師職である。

2 B病院(500床規模,内緩和ケアは24床)

 緩和ケア病棟を持つ,院内病棟型ホスピスで,首都圏にある。キリスト教聖公会に属し,

敷地内に看護大学を持つ一大組織。病院内の礼拝堂は日曜日,教会としても使用されてい る。

 明治35年創立であり,「キリスト教病院」として全国的に有名であるが,幹部職員を含 め総体的にクリスチャンの数は多いとはいえない。小児病棟を除いて全個室であり,医療 の質を求めて全国から入院する方が多い。チャプレンは専任2名で,2名とも男性の聖公 会司祭である。

3 C病院(200床規模,内緩和ケアは20床)

 病院内に緩和ケア病棟を持つ,院内病棟型ホスピスで,地域的には首都圏に位置する。

キリスト教プロテスタントのC教団運営である。運営する教団は医療,社会事業,教育等 の実践活動に実績を持ち,全世界に病院,学校,福祉施設等を有している。

 敷地内に看護学校と教会を併設している。幹部職員を含めクリスチャン職員率が50%弱 と非常に高く,非クリスチャン職員の場合も殆ど運営教団系の看護学校等の卒業生である ため,宗教色が濃い。

 大正時代から現在地にあり,地元から大変厚い信頼を得ている。キリスト教病院として の「優しいケア,何かが他とは違う空気(チャプレン談)」を求めて遠方から入院する例 も多い。チャプレンは牧師科に専任が2名配属されており,2名とも運営教団の牧師であ る。

4 D病院(600床規模,内緩和ケア21床)

 病院内に緩和ケア病棟を持つ,病院内病棟型ホスピスで,地域的には関西圏に位置する。

キリスト教プロテスタントD教団に属する病院でホスピス運動の西の草分け的病院であ る。敷地内にチャペルがあり,職員礼拝も実施している。クリスチャン職員の割合は 12.3%であり,C病院程ではないが,他の病院よりは高いといえる。全人的医療を前面に 出しており,質を求めて入院して来る患者も多い。チャプレンは専任6名,牧師職2名で あるが,他スタッフも全員国内外の正規の神学教育を受けている。

5 E病院(200床規模,内緩和ケアは20床)

 病院内に緩和ケア病棟を持つ,病院内病棟型ホスピスで,地域的には首都圏に位置する。

キリスト教プロテスタントE教団の運営である。E教団は医療,社会事業等の実践活動に 長い実績を持ち,全世界に病院や福祉施設を有している。また,この教団に属するホスピ スはわが国におけるホスピス運動の草分け的存在の一つである。

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 敷地内にチャペルを有し,隣接して教会も有し,協力関係にあるが,総体的にクリスチャ ン職員は多いとはいえない。同教団の老人保健施設等福祉施設機関も併設されている。チャ プレンは専任2名が配属されていて,1名は牧師職であるが,他は教団の人事の方針で信 徒である看護職の者が任用されている。

6 F病院(22床)

 キリスト者の医師によって創設された,我が国唯一の独立型ホスピスである。入院によ るケアの他,在宅の緩和ケアも行っている。地域的には首都圏だが,郊外の豊かな丘陵地 に位置する。独立型であるため,他病院の緩和ケア病棟とは雰囲気が全く異なり,静謐な 時間とゆったりとした空間が保障されている。独立のチャペルはなく,多目的のホールで 礼拝等が行われている。

 チャプレンは非常勤のチャプレン1名で,経営主体とは直接かかわらない教団の牧師で ある。雇用契約上非常勤ではあるが,運営面では重要な役割を担っている。

7 G病院(150床規模,内ホスピスは25床)

 病院内に緩和ケア病棟を持つ,院内独立型ホスピスで,地域的には首都圏に位置する。

E病院と同じキリスト教プロテスタントE教団の運営である。また,当病院はこの教団に 属するホスピスの中でもわが国におけるホスピス運動の草分け的存在の一つである。

 敷地内にチャペルを持つ他,隣地に同教団の教会,その他幾つかの福祉施設を有してい る。総体的にクリスチャン職員は多いとはいえない。チャプレンは常勤チャプレン1名と 非常勤3名で,常勤者と非常勤2名は非牧師職である。

8 H病院(150床規模,内緩和ケアは25床)

 H病院は院内病棟型ホスピスで,関西圏に立地する。クリニック,老人保健施設等を持 つ医療法人の経営である。キリスト教プロテスタントで,チャペルを持ち職員礼拝を実施 しているが,総体的にクリスチャン職員はごく少数であり,キリスト教色は濃いとはいえ ない。チャプレンは専任1名,A教団牧師が勤務している。

9 I病院(150床規模)

 首都圏にある病棟内緩和ケアチーム型ホスピス(現在は停止中)である。カトリック に属する。社会福祉法人の経営で,同法人は二つの病院と二つの福祉施設その他を持つ。

海を望む風光明媚な場所に昭和4年に結核療養所として設立され,女子修道会によって長 らく宗教的な看取りがなされてきた。現在は修道会の影響は少なくなっており,クリスチャ ン職員も多いとはいえない。宗教的ケアは外部の神父によって主になされている。チャプ レンは介護職から転身したパストラルケアワーカー専任1名である。

(7)

3 結果

図1は調査対象となった9病院のチャプレンによる実践の全体を分析したも のである。→は働きかけの方向,□内は働きかけられる対象,線の太さは働き かけの強さを示す。例えば地域に対する働きかけは還元されて,患者や家族の サービス向上に役立つことを意味する。

図1

チャプレン 患者,家族

教 会

教育機関

組 織

管理職

他専門職

直接的ケア(スピリチュアルケア,宗教的ケア)

社会・地域

以下社会や地域,他機関との関連のレベルをマクロレベル,組織そのもの,

(8)

管理職,他職種への働きかけをメゾレベル,患者や家族への働きかけをミクロ レベルとしてそれぞれの働きかけを具体的に示す。

4 マクロレベルの実践

マクロレベルの活動は広く社会一般あるいは地域社会,関係諸機関に向けて のアクションである。チャプレンの実践活動ではマクロレベルの実践は総体的 に決して多いとはいえないが,ボランティアの育成,イベントの開催,当事者 活動の支援,地域へのスピリチュアルケアのサービス提供等が行われている。

また教会との関係づくり,教育機関との関係づくりも見られる。これらの諸活 動はスピリチュアルケアの社会への普及,キリスト教病院としての信頼感や認 知の獲得につながり,質の高いボランティアや看護師を得ることで入院患者や 家族に利益が還元される。

(1) 社会全般,地域との関わり

社会全般,または地域との関わりとしては様々な社会教育的な活動,病院ボ ランティアの養成訓練・コーディネート,地域へのスピリチュアルケアサービ スの提供を主として,それに当事者グループの活動支援,職能団体的活動が一 部に加わっている。

社会教育的な活動はコンサートの開催や講演会の講師としての出張,研究会 の開催などでなされている。

ボランティア・コーディネーターを兼ねているところでは募集や養成訓練,

コーディネート業務を担っている。

地域へのスピリチュアルケアサービスの提供は,遺族会の主宰や参加等を通 して,グリーフケアの提供がなされている。一義的には手を離れて当事者組織 となった後の活動支援を担っているチャプレンもいる。

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表1 社会全般,地域との関わり

病院名 有・無 活動内容 期待される結果

A病院 ①ボランティア養成プログラムの実施。

②ボランティアの:継続的教育訓練(傾 聴ボランティアへの会話記録スーパービ ジョン)。

③当事者グループの支援(年一度の追悼 会[自主運営]の礼拝を担当,グリーフ ケア委員会[自主運営]との連携)。

④地域へのスピリチュアルケアのサービ ス提供(死別遺族個別グリーフケア)。

地域からキリスト教主義病 院としての信頼と認知を獲 得,スピリチュアルケアの 普及,ボランティアの供給 を受ける。

B病院 チャペルコンサートの開催。 地域からキリスト教主義病 院としての信頼と認知を獲 得する。

C病院 ①ボランティア養成プログラムの実施。

②ボランティア・コーディネート。 地域からキリスト教主義病 院としての信頼と認知を獲 得,スピリチュアルケアの 普及,ボランティアの供給 を受ける。

D病院 ①年1回の伝道集会的コンサート。

②毎月1回ボランティアコンサートの コーディネート。

③ボランティアのための聖書研究会を開催。

③関西地区病院チャプレンの連絡会に参 加する。

①②③地域からキリスト教 主義病院としての信頼と認 知を獲得する。

④職能団体的な場として,

問題を共有化し,力を得る。

E病院 遺族会(年4回)の開催。 地域のニーズに応え,キリ スト教主義病院としての信 頼と認知を獲得する。

F病院 ①地域向きに研究会をする。

②講演の依頼に応じる。 キリスト教主義病院として の信頼と認知を獲得,スピ リチュアルケアの普及に貢 献する。

G病院

H病院 ①研究会,学会での研究発表。

②ボランティア養成プログラムの実施。

③ボランティア・コーディネート。

④地域へのスピリチュアルケアサービス 提供(グリーフケアの主宰)。

①学会でスピリチュアルケ アの実践について承認を得 る。

②③④地域から,キリスト 教主義病院としての信頼と 認知を獲得,スピリチュア ルケアの普及,ボランティア の供給を受ける。

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I病院 パストラルケア研究会の事務局を担当する。

(2) 教会との関わり

病院によって敷地内または隣地に教会との関わりを持つもの,地域の所属教 団の教会の支援を得ているもの,より広く所属教団以外の地域教会との関わり を持つものなどが見られる。

敷地内に教会を持つC病院の場合,チャプレンは最も密接な関係性を創り出 し,実践に必要な信仰的サポートを受け取ることが出来る。また入院患者が礼 拝に出て必要なサポートを受けることも出来る。C病院の敷地内の病院は患者 のために特別な,利用しやすい席を設けて,サポートを提供している。

隣地に教会がある場合には,病院内でかなり回数の多い礼拝の,メッセージ に協力して貰っていることが多い。

C病院とは対照的にD病院の場合には特定の関連教会を持たず,洗礼式や聖 餐式,葬儀等の純粋な宗教的ケアを外部に依頼している。

表2 教会との関わり

病院名 有・無 活動内容 期待される結果

A病院

B病院 チャプレンは病院内教会の主任牧師を兼

任する。 チャプレンは教会から信仰

的なサポートを受ける。

C病院 病院敷地内の教会と密接な協力関係を形

成する。 チャプレンは教会から信仰

的なサポートを受ける。

入院患者のための礼拝席を 教会が用意し,信仰的支え を提供する。

D病院 近隣の教会とのネットワーク作りをす

る。 入院患者の希望があった時

に,洗礼や葬儀等を近隣教 会が引き受ける。

(11)

E病院 隣地の教会,または広く都内の所属教団

教会との相互連携。 メッセージ担当や礼拝出席 応援等の支援を受ける。

F病院 チャプレンの所属教会との協力関係を作

る。 教会は病院への信仰的サ

ポートをする。

G病院 病院隣地の教会との協力関係の形成。 礼拝説教への協力をする。

H病院 病院関係教会との協力関係を作る。病院 長が教会役員。チャプレンは教会伝道師 を兼任する。

教会は病院への信仰的なサ ポートをする。

I病院 法人関係カトリック修道会司祭との協力

関係を形成する。 教会は病院への信仰的なサ ポートをする。

(3) 教育機関との関わり

調査対象となった幾つかの病院では教育機関との関わりを持っていた。

二つの病院では付属の看護大学を持っている。B病院ではチャプレンは教授 も兼任しており,看護大学の教員との関係を形成しつつ,大学におけるスピリ チュアリティ普及を図っていた。卒業生が同病院に就職してスピリチュアルケ ア実践の土壌を形成している。

C病院では主として実習教育に貢献している。看護学生は必ずチャプレン実 習を経験し,チャプレンの役割を理解することが求められる。看護学生の多く は同病院に就職するため,結果としてかなり直接的にスピリチュアルケア実践 の土壌を形成していることになる。

A,Dは非常勤講師等としてスピリチュアルケアの普及を図っている。

5 メゾレベルの実践

チャプレンの実践において,メゾレベルの実践活動が患者や家族への直接的 なケア提供と並んで,非常に大きな割合を占める。

組織への働きかけの大部分は病院組織全体,あるいは患者やスタッフのスピ リチュアリティの維持や増進のための活動に充てられている。この活動には礼

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拝の他,病棟の放送,機関誌への寄稿など,つまりチャプレンの側から見れば

「宣教」「伝道牧会」にかかわる諸活動の大部分が含まれる。

管理職への働きかけはそれほど多くはないが,幾つかの病院において見られ る。チャプレンの役割への理解を深め確立するほか,宗教的環境が保持され,

浸透すること,スピリチュアルケアが生み出される土壌が形成されることに貢 献していると考えられる。

他専門職への働きかけもカンファレンス,研究会での協働を通じて多くなさ れていた。このことも医療スタッフとの信頼関係が構築され,スピリチュアル ケアの視点が普及することに資していると考えられる。

(1) 組織への働きかけ

組織への働きかけの圧倒的な部分は,患者またはスタッフの礼拝の維持に占 められている。信徒がチャプレンであるIを除く全ての病院で,チャプレン自 身が礼拝の司会やメッセージを担当していた。また,かなりの病院でチャプレ ンは1日に複数回の礼拝メッセージを「こなす」現状もあった。しかし,礼拝 に対するスタッフや患者の参加は様々であり,かなりの温度差が印象的に見ら れる。

1) 職員の礼拝

クリスチャン職員率が50%弱のC病院では1日にあちこちで,礼拝または祈 りが行われている。以下はそれについてのCチャプレンの語りである。

 「チャプレンの役割は,患者さんのケアと職員の霊的なケア,また病院の霊性の維持だ と思っています。業務というと,朝,病院は職員礼拝で始まりますので,理事長や院長,

そのほかのドクター,病院のリーダーたちと,事務職員や検査課の職員,技師といった人 たちが集まりまして,毎朝そこにありますホールで月曜日から金曜日まで礼拝をして,仕 事を始めています。その礼拝を維持するのがチャプレンの一つの役割です。でも,メッセー

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ジはそれぞれいろいろな部署にお話をお願いするんです。これはとてもいいことだなと 思っています。今年は病院全体のテーマが『感謝』なんです。昨年は『祈り』でしたが,

今年は『感謝』というテーマでおりますので,こちらから皆さんに感謝していることを何 かお話しくださいといって依頼しています。7,8分ですが,礼拝の時間ですので,クリ スチャンでなくても必ず聖句を引用してくださいとお願いしているので,皆さんそれぞれ,

クリスチャンでない方は上司に聞いたり,仲間に聞いたり,聖書を教えてもらったりして,

『教えてもらったところを読みます』と言って,その方が祈るか,その方が祈れない場合 は私たちがかわりに祈って,皆でひざまずいて祈って,主の祈りをして一日を始めます。

それが15分間の礼拝です。」

 「この礼拝に来られない場合でも,それぞれの場所で礼拝していますね。例えば今日も,

私は8時から8時15分までこの場所にいて,8時15分からはクリニックの医事課の礼拝に 行って,そこで礼拝の話をして,その直後に今度はクリニックの看護部の礼拝に行きまし た。

 病棟の引き継ぎは必ず祈りで,読み物がありまして,それを読んでみんなでお祈りして 引き継ぎをすることになっていますので,病院全体があちこちでいつも祈っています。で すから,私たちは時々そういう場所に行って,あとは検査科や健康管理の部署とかにぱっ と手分けして行って,聖書を読んでみんなでお祈りすることをお手伝いしています。そう いう意味で礼拝が私たちの病院の基準です。」

C病院では手術の執刀時等,全てが祈りで始められることが基準になってい る。全体の礼拝に出られなくても様々な部署で礼拝が守られ,祈りがなされる。

チャプレンは常にそのアシスト役としてスピリチュアリティを維持するために 活躍している様子が窺われる。

C病院を例外として他ではそれほど職員礼拝の参加者は多いわけではない。

幾つかの病院,例えばB病院ではシフト勤務の関係等もあって礼拝参加者はほ んの数人である。

2) 利用者の礼拝

対照的に利用者礼拝の方は一定数の参加者があり,ニーズが存在するようで ある。以下はE病院のチャプレンの語りである。

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 「ここでは火曜日から金曜日まで,私たちは大体8時40分から9時まで,朝の集いとい うのがあるんです。それは一応全部の病棟が対象ですけれども,やはり出る方というのは 移動が可能な方とか,いろいろな形で15人ぐらいお連れしてきて,ラウンジといわれる部 屋に集まっていただいて,本当に聖書と,讃美歌とお祈りで,20分ぐらいの時間を過ごし ます。」

 「老人保健施設の利用者礼拝もありまして,お部屋にいらっしゃる方とかラウンジにい らっしゃる方をお連れして,今朝も100人の利用者のうち,18人ぐらいの利用者の方が参 加されました。熱心に出る方が多くて,クリスチャンでない方も,1日話を聞くと気持ち がすごく平安だから,出たいとおっしゃいます。」

利用者の礼拝では通常の教会の説教とは異なった,利用者の状況に合わせた 配慮の行き届いたものがなされている。あるチャプレンは説教自体を「利用者 との対話」と意味付けていた。

 「礼拝のメッセージというのは基本的にキリスト教の専門用語とかを使わずに,クリス チャンでない方が相手なので,その方々へのメッセージを考えるというのは,私にとって はやっぱりその方々との対話というようなものですよね。メッセージを語るということ自 体が私にとってその方々のニードとかその方々の生活状況なんていうことを,日ごろの自 分のケアや関わり合いの中から考えたことを聖書のメッセージの中に聞き取るというのが ずっと基本的にしてきたことなので。だから,ときには非常に時間がかかりますよね。ど の聖書の箇所を選ぼうかということだけでも悩みに悩んで。」(A病院)

その他,チャプレンアワー,バイブルアワーなどの名称での放送,機関誌に 信仰的なエッセイを寄稿するなど,あるいは様々なイベントで祈りをする役割 を引き受けるなどの役割を果たしていた。また礼拝とは別に小児病棟での教育 的な役割を担っているケース(D病院),お茶会や讃美歌の会,聖書輪読会な どを持つケースも見られた。

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表3 組織への働きかけ

病院名 有・無 活動内容 期待される結果

A病院 礼拝(場所−チャペル,月〜土,患者対象)。

礼拝の維持がチャプレンの役割であり,礼拝 説教はチャプレン以外にクリスチャン職員が 輪番で担当。患者のニーズに合わせた説教を 行う。チャプレンは法人全体の責任を負って おり,病院以外に老健,特別養護老人ホーム での礼拝を担う。

病院職員,患者におい てキリスト教主義病院 としての認知が深ま る。

スピリチュアルケアの 土壌が形成される。

B病院 ① 始業礼拝(チャペル,毎日午前8時半開 始,職員対象)。礼拝の維持がチャプレンの 役割である。

②チャプレンアワー(緩和ケア科,毎週月曜)

を持ち,患者にチャプレンの紹介をする。

③起工式礼拝を担当する。

④機関誌に寄稿する。

⑤音楽コーディネーターを担当する。ホーム コンサート(緩和ケア科,月2回)−コンサー トでのメッセージ説教と,聖歌の紹介,オル ガンコンサート(チャペル,月1回30分)−

説教と聖歌。

⑥病院職員や看護大学卒業生の結婚式司式を 行う(チャペル)。

病院職員,患者におい てキリスト教主義病院 としての認知が深ま る。

スピリチュアルケアの 土壌が形成される。

C病院 ①職員礼拝(チャペル,月〜金,職員対象)。

礼拝の維持がチャプレンの役割であり,礼拝 説教は様々な部署の職員が輪番で担当。その 他に様々な部署,医事科,看護部などでも礼 拝が行われており,そこでの礼拝説教を担う。

②バイブルアワー(毎日午前11時から30分間,

患者対象)。讃美歌を歌い,短い聖書の話を 行う。各部屋のテレビで放映される。

病院内の宗教的環境が 保持され浸透する。

スピリチュアルケアの 土壌が形成される。

D病院 ①毎朝の朝礼(礼拝)の準備と司会(8時半

〜 45分)を本館と分院と老健の3ヶ所で担 当。②キリスト教放送(1チャンネル)の管理と 普及。

③小児病棟で毎日(月から木まで)10時半か らお昼に入院している子供たちのケアのため の病院学校開催。

④病院スタッフ用の保育園での短いプログラ ムを担当。

病院内に全人的医療と いう法人理念が浸透す る。

スピリチュアルケア実 践の基盤を創り出す。

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E病院 ①朝の集い(患者礼拝)の開催(火〜金,8:

40 〜9:00)。

②老健の利用者礼拝の開催(月,水10:00よ り)。

③月3回水曜午後のホスピス礼拝(3:00よ り30分程度)。

④日曜礼拝の実施。

⑤スタッフ対象朝礼(礼拝)の実施(病棟,

老健)。

病院職員,患者におい てキリスト教主義病院 としての認知が深ま る。

スピリチュアルケアの 土壌が形成される。

F病院 火曜日に礼拝を持つ。 病院組織全体のスピリ チュアリティの維持。

G病院 ①チャペルタイム(原則的に水曜日と金曜 日),病棟礼拝(1−3病棟の各病棟におけ る礼拝,月,火,木)の主催。30分程度。

②音楽療法士によるミュージックタイムへの 参加(木)。

病院職員,患者におい てキリスト教主義病院 としての認知が深まる。

スピリチュアルケアの 土壌が形成される。

H病院 ①礼拝(場所−チャペル,月〜土,)。礼拝の 維持がチャプレンの役割である。

②カンファレンス開始30分前より,チャプレ ンのみチャペルで祈祷する。

③お茶会への参加。

④讃美歌の会への参加。

病院職員,患者におい てキリスト教主義病院 としての認知が深ま る。

スピリチュアルケアの 土壌が形成される。

I病院 ①礼拝(場所−チャペル,月1回,患者対象)。

ミサの管理がチャプレンの役割である(ミサ で使用する用具,司祭服などの管理)。追悼 ミサの管理も担当。チャプレンは法人全体の 責任を負っており,病院以外に重症心身障害 児施設,特別養護老人ホームでの礼拝管理を 担う。礼拝説教は同法人関係カトリック修道 会の神父が法人諸施設全体の礼拝を担当す る。チャプレンは司祭との連絡を行う。

②祈りの集い(聖堂講話室),聖書輪読会の 担当(患者対象)

病院組織全体のスピリ チュアリティの維持。

患者側から宗教的ケア への依頼が増える。

(2) 管理職への働きかけ

管理職に対しては共に祈って霊的サポートをするケース(C,D,E病院),

運営会議などで対等に発言する場を与えられているケース(E病院)が見られた。

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 「理念を浸透させるということが,私たちの責任の中にあると思います。ですから,例 えば,毎週1回は理事長と一緒にチャプレン2人が祈りの時間を30分ほどもっています。

理事長は非常に熱心なクリスチャンですし,必ず30分以上は祈りのときを持っています。

また,院長も事務長とか看護部長とか,それぞれ別々にチャプレンが彼らと時間を持って,

彼らの魂のケアをするようにしています。また,個人的な家族のこととかも含めて,やは り公人でありながら私人としての重荷もありますので,そういうことを一緒に祈れる場所 にしています。」(C病院)

 「チャプレンとは,いわゆる院長さんと並んでいるんですね。私は宙に浮いていると言 うんですけれども(笑),どうなんでしょうね。いわゆるどこでも自由に行けますし,病 院をどこへ行くことについても,何も制約はないんですね。どんな部署の申し送りにして も,今日,行きますよでいいんです。看護室のデータなんかでも,そこをちょっと見せて くださいというと,駄目と言われることはないですね。会議も一応私はここの運営会議と いう全体の,本当に偉い方しか出ないような会議にも,出るようにということでメンバー になります。本部の方から来る大きな会議,本当に実際的な方針を決めたりするような会 議にも,メンバーとして出るようにと言われています。教団の働きの中の,ここは宗教法 人ですので,その中のチャプレンの位置というのも法人の,ここにいる代表みたいな扱い なのです。」(E病院)

表4 病院管理職への働きかけ

病院名 有・無 活動内容 期待される結果

A病院 B病院

C病院 理事長,院長,事務長,看護部長などの 管理職と毎週1回30分以上の祈りの時間 を持ち,信仰的サポートを行う。

宗教的環境が保持され,浸 透する。スピリチュアルケ アの土壌が形成される。

チャプレンの役割が理解さ れ,確立される。

D病院 月曜日に早天祈祷会があり,管理職と共

に祈る。伝道部長だけが出席。 宗教的環境が保持され,浸 透する。スピリチュアルケ アの土壌が形成される。

チャプレンの役割が理解さ れ,確立される。

(18)

E病院 ①院長,看護部長他主な管理職の出席す る週例会(毎月曜)でのショート・メッ セージや祈り。

②病院の運営会議への出席。

③教団本部の会議への出席。

チャプレンの宗教的代表者 としての役割と地位の確 立。

スピリチュアルケアを実践 しやすい土壌の形成。

F病院 G病院 H病院 I病院

(3) 他の専門職への働きかけ

この活動においては医療スタッフ(医師,看護師)との対話を重視する(日 常生活に関する話題からケースに関する話題まで)こと,各病棟のカンファレ ンスへの参加,各種の勉強会や研修会,職員へのスピリチュアルケアが含まれ ていた。他職種との信頼関係が構築され,スピリチュアルケアの視点が共有さ れ,結果として協働する基盤が整備されることが期待されている。

表5 他専門職への働きかけ

病院名 活動内容 期待される結果

A病院 医療スタッフ(医師,看護師)との対話を重 視する(日常生活に関する話題からケースに 関する話題まで)。

チャプレンによる手術前の祈り,

臨終の祈りの依頼がなされる。

B病院 ①カンファレンス(緩和ケア科,月,水,金 午後30分間,水曜は乳癌専門)出席。入院患 者の紹介と病状の申し送りを受け,チャプレ ンの視点を提供する。

②ターミナルケア勉強会(多職種医療スタッ フ−医師,看護師,臨床薬剤師,ホスピスボ ランティア)に参加。週1,2回夕方。困難 ケースについての医療スタッフからの質問に 対して助言する。

医療スタッフとの信頼関係が構築 される。

スピリチュアルケアの視点が普及 する。

(19)

C病院 ①医師・看護師への信仰的サポート。

②電子カルテへの記録による情報共有。

③カンファレンス(ホスピス,月〜金午後12 時半から1時間)。入院患者の紹介と病状の 申し送りを受け,チャプレンの視点を提供す る。

①様々な場面へのスピリチュアリ ティの浸透。医師,看護師による 手術前,業務前の祈りが確立。

②③チャプレンとスピリチュアル ケアを協働する基盤が形成。

看護師や医師のスピリチュアリ ティ,スピリチュアルペインに対 する敏感さが醸成される。

看護師自身が,患者のスピリチュ アルペインを認知し受け止めつつ ケアを展開できるようになる。

D病院 ①春・秋の新人研修でのスピリチュアルケア の科目の講師を務める。

②病棟カンファレンスへの出席。

③スタッフへの個別のスピリチュアルケア。

①②スピリチュアルケアの視点の 普及または共有化。

③スタッフの自己洞察の深まりや エンパワーメント。

E病院 ①各病棟のカンファレンスへの参加。

②職員へのスピリチュアルケア。 ①スピリチュアルケアの視点の普 及または共有化。

②スタッフの自己洞察の深まりや エンパワーメント。

F病院 ①医師,看護師向けに様々な勉強会や研修会 をする。

②様々なカンファレンスへの参加。

医療スタッフとの信頼関係が構築 される。スピリチュアルケアの視 点が普及する。

G病院 カンファレンスへの参加。 医療スタッフとの信頼関係が構築 される。スピリチュアルケアの視 点が普及する。

H病院 ①カンファレンス(ホスピス,毎日午前8時)。

入院患者の紹介と病状の申し送りを受け,

チャプレンの視点を提供する。

②デス・カンファレンス(ホスピス,毎週1 回午後1時)。

③医療スタッフ(医師,看護師)との対話を 重視する(日常生活に関する話題からケース に関する話題まで)。

医療スタッフとの信頼関係が構築 される。

スピリチュアルケアの視点が普及 する。

I病院 ①カンファレンス(毎日)。入院患者の紹介 と病状の申し送りを受け,チャプレンの視点 を提供する。

②臨床パストラルケア教育研修センターと連 絡を取り,病院内での研修会の責任を担い,

職員へのスピリチュアルケアの普及に努め る。③医療スタッフ(医師,看護師)との対話を 重視する(日常生活に関する話題からケース に関する話題まで)。

医療スタッフとの信頼関係が構築 される。スピリチュアルケアの視点が普及 する。

(20)

6 ミクロレベルの実践

ミクロレベルの実践は患者や家族への直接の働きかけである。詳しくは別論 文で扱うため,幾つかのポイントからアウトラインを示すにとどめる。

(1) 患者へのスピリチュアルケア

1) チャプレンと患者が出会うシステム

患者への働きかけは主として部屋を訪問して面接することによって行われて いるが,全ての入院患者がチャプレンと面接することになっている場合(D,

E病院),手術前には全ての患者に面接するようになっている場合(C病院),

そのようなシステムがない場合(その他)とがある。この差は病院内における チャプレンの役割の認知度によるものであり,認知度が高く役割が確立してい る場合ほどチャプレンと一度は必ず関わるようなシステムが整えられている。

F病院は例外的に独立型ホスピスであるため,システムに頼ることなく,患者 と自由に相互作用出来る状況にある。

 「毎朝,出勤するとファクスで手術の患者さんのリストが送られてきていますので,手 術の前に間に合うように必ず全員を訪問して,お気持ちを伺ったり,機会があれば一緒に お祈りすることをしています。病棟から患者さんにお渡しする病棟の流れというのでしょ うか,手術の場合,この日に入院して,この注射をして,こういうふうに流れていきます という中に,チャプレンが来ますということもちゃんと書いてあるんですね。『この時点 でチャプレンがお伺いします』ということを書いていますから,割と待っている方もい らっしゃるんですね。その表を入院なさる方たちは隅々まで読みますので,お伺いすると,

『ああ,これですね。お待ちしていました』という方もいらっしゃるし,いい時間だと思 いますね。手術の前のちょっとどきどきした時間を一緒に過ごしています。」(C病院)

 「看護師さんがこの病院ではまず入院してきた患者さんに,ここにはチャプレンという 方がいらっしゃって,チャプレンとはと役目を書いた紙をお渡しするんですね。決して宗 教を押しつけるわけではありませんけれども,心の問題やいろいろなことについて,お話

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をする役目を持っていますっていう紙を,入院と一緒にお渡ししてくださるんですね。そ れで,入院なされば一応は,ごあいさつにひととおり病室訪問はして,最初は本当にごあ いさつだけですけれども。きっかけはそういう形でまずその人の様子を見て,そこでうち 解けられそうなら,どうぞと言ってくださると初めてでも20 〜 30分は話をできる人もあ りますし,長くなっても本当にきょうは,さようならぐらいしか言えない人もいらっしゃ いますけれどもね。」(E病院)

また訪室によって手術前の祈りや臨終の祈り,死亡して帰宅する際の祈り等 が行われている。

2) チャプレンは誰からスピリチュアルケアへのニーズをキャッチするか

チャプレンのスピリチュアルケアへのニーズのキャッチは表6のようなルー トであった。○はニーズキャッチの情報源となっているもの。◎は特に多いと チャプレン自身が言及しているもの,─は言及されていないものを示す。

表6 ニーズをキャッチするルート

チャプレン自身で 看護師 医師 本人や家族の申し出

A病院

B病院

C病院

D病院

E病院

F病院

G病院

H病院

I病院

チャプレン自身でという場合は巡回型の病室訪問や待合室,共同スペースで の何気ない日常会話の中からニーズをキャッチしたり,カンファレンスで必要 と思われたケースを自ら選んだりして訪室している。

(22)

看護師,医師等の場合,微妙にニーズをキャッチしてチャプレンに面接を依 頼したり,あるいは日常の対応に困って相談したりする形である。家族や本人 の場合には直接チャプレン室に来室したり,人づてに面会を申し込んで来たり する。

看護師から主に,というC病院はチャプレンの看護師に対する信頼感が強く,

スピリチュアルケアの視点が共有されているとチャプレンは感じている。逆に 周囲のスピリチュアルケアへの理解が共有が未だなされていないと感じている 病院(H,Iなど)ではスタッフからの依頼よりもチャプレン自らが日常的に 動き回り,生活場面でニーズをキャッチしている(せざるを得ない)状況があ るようである。

キリスト教病院であるという認知が比較的進んでいる病院では,患者本人や 家族が自ら進んで面会を申し出るケースも多い。

(2) 宗教的ケア

宗教的ケアには様々な定義があるので,ここでは宗教的ケアを個人に対して なされる宗教的純粋な儀式にまつわるケアのこととする。ここで取り扱うのは そのようなケアを各病院が行っているか,ということである。

チャプレンが牧師職の場合,殆どの病院では自ら洗礼式や葬儀等を行う。例 外は独立型のホスピスF病院と外部の教会に宗教的ケアは全面的に委ねている D病院である。

1) 洗礼式

一般的に誤解されるようには,キリスト教病院はキリスト教入信を勧めては いない。宗教色の強い病院でも洗礼式が行われるのは年に5件程度(C,D病 院)である。殆どの場合数年に1件程度である。

(23)

2) 葬儀

葬儀に関しては条件を付している場合(C病院)と付していない場合(A,

B,G,H病院)とがあり,更に積極的に行う場合(E病院)が見られる。

条件を付す場合は単なる葬儀所として教会を使用することをはっきりと断 り,洗礼を条件とはしないが,ある程度キリスト教の信仰と来世観を受け入れ ることを求める。洗礼に至るケースは多くはないが,患者は本人なりに神や信 仰を考える機会を持つことになる。付していない場合にはキリスト教葬儀です ることだけを条件にして,キリスト教信仰の理解を求めず,当面の本人の精神 的安定だけを目的とする。積極的に行う場合は葬儀を一つの伝道の機会として 捉えている。

7 考察

(1) スピリチュアルケアの統合性

仮説のように,チャプレンは患者や家族への直接的ケア以外に,組織の内外 において数多くの活動を行っている。それらの実践は総合的に見てスピリチュ アリティを普及し,またはスピリチュアルケアの視点を普及する目的を持った アクションであり,マクロからミクロまで幅広く総合的に行われていることが 理解される。その意味でチャプレンとは病院におけるスピリチュアリティの総 合的なオーガナイザーであるということが出来よう。

また,患者へのスピリチュアルケアの提供は,病院においてスピリチュアリ ティをオーガナイズする総合的なアクションの中で,それらのアクションに

「支えられて」存在している。つまり患者への働きかけとして単独で存在して いるのではないことが理解される。

スピリチュアリティを総合的にオーガナイズする働きも含めてスピリチュア ルケアと仮に定義することが許されるならば,今回見出されたことは「スピリ

(24)

チュアルケアの統合性」または「ジェネリック・スピリチュアルケア」と呼ぶ ことも出来るかもしれない。

しかしながらこのことはスピリチュアルケアの形成発展上,不思議なことで はない。元来スピリチュアルケアは教会牧師による信徒への魂の配慮であるパ ストラルケア(牧会)に,ドイツにおいて精神分析が取り入れられ(10),更に 米国においてロジャーズ心理学が導入されて形成されたものであった。病院に 場を移し,更に時代の変化と共に無宗教や他宗教の患者やスタッフに対象が拡 大するにつれ,スピリチュアルケアとして病院内外で意味付けられるものに なった。つまり総合的な伝道牧会のミニストリーがスピリチュアルケアの原型 として存在しているのである。

本論で見出されたことを敷衍すれば,現代日本のキリスト教病院における チャプレンのスピリチュアルケア実践は,時代を変え対象を変えても少なくと もその広がりにおいて,パストラルケア(牧会)としての原型を保持している,

ということになろう。

(2) スピリチュアルケア実践の「部分化」の問題

スピリチュアルケアが統合的なものであり,スピリチュアリティとスピリ チュアルケアの視点を普及する諸活動によって支えられているものであるとす れば,副次的な三点の問は仮説的にせよ,答えを見出すことになる。

1) チャプレンは牧師職でない他の職種でも代替可能か

ミクロなレベルでスピリチュアルケアを担うことは他職種であっても,ある 程度代替可能であるといえるだろう(ただし,患者や家族との相互作用の質が 異なることも見出されている(11)。しかし,他のレベルではかなりの差が出て くる。以下は対照的な二つの病院,クリスチャン率の非常に高いC病院の牧師 職チャプレンと,I病院のパストラルケアワーカーの実践の比較である。

(25)

表7 牧師職チャプレンと非牧師職チャプレンの実践の比較 C病院 牧師職チャプレン I病院 パストラルケアワーカー

マクロレベル ①ボランティア養成プログラムの実施。

②ボランティア・コーディネート。

③病院敷地内の教会と密接な協力関係を形 成。

④付属看護大学の実習教育。

①パストラルケア研究会の事務局担当。

②法人関係カトリック修道会司祭との協力 関係の形成。

メゾレベル

①職員礼拝(場所−チャペル,月〜金,職 員対象)。礼拝の維持がチャプレンの役割 であり,礼拝説教は様々な部署の職員が輪 番で担当。その他に様々な部署,医事科,

看護部などでも礼拝が行われており,そこ での礼拝説教を担う。

②バイブルアワー(毎日午前11時から30分 間,患者対象)。讃美歌を歌い,短い聖書 の話を行う。各部屋のテレビで放映される。

③理事長,院長,事務長,看護部長などの 管理職と毎週1回30分以上の祈りの時間を 持ち,信仰的サポートを行う。

④医師・看護師への信仰的サポート。

⑤電子カルテへの記録による情報共有。

⑥カンファレンス(ホスピス,月〜金午後 12時半から1時間)。入院患者の紹介と病 状の申し送りを受け,チャプレンの視点を 提供する。

①礼拝(場所−チャペル,月1回,患者対 象)。ミサの管理(ミサで使用する用具,

司祭服などの管理)。追悼ミサの管理も担 当。チャプレンは法人全体の責任を負って おり,病院以外に重症心身障害児施設,特 別養護老人ホームでの礼拝管理を担う。説 教は同法人関係カトリック修道会の神父が 法人諸施設全体の礼拝を担当する。チャプ レンは司祭との連絡を行う。

②祈りの集い(聖堂講話室),聖書輪読会 の担当(患者対象)。

①カンファレンス(毎日)。入院患者の紹 介と病状の申し送りを受け,チャプレンの 視点を提供する。

②病院内での研修会の責任を担い,職員へ のスピリチュアルケアの普及に努める。

③医療スタッフ(医師,看護師)との対話 を重視する。(日常生活に関する話題から ケースに関する話題まで)。

ミクロレベル ①手術前に全患者に面接するシステムの確

立。

②看護師からの面接依頼の多さ。

③宗教的ケアを自ら行う。

①全患者に面接するシステムはない。

②チャプレン自身でニーズを発掘。

③宗教的ケアは外部者に委託。

特にスピリチュアリティを普及させるメゾレベルの実践において,かなり異 なることが理解される。組織内のスピリチュアリティを普及させる実践,具体 的には礼拝を担当することがパストラルケアワーカーには出来ない。礼拝は見 てきたように参加者に合わせた対話的色彩を持つ故に,単なる一般的説教では ないから,ケアに直結したスピリチュアリティの普及が欠けることになる。ま

(26)

た管理職や医師等への信仰的サポートという働きかけは宗教的権威を持つが故 に成立していると考えられる。そのことはミクロレベルにおけるチャプレンの 役割確立の問題に密接に関わっている。つまり他職種で代替した場合には自ら 普及させたスピリチュアリティのバックアップなくして,狭義のスピリチュア ルケアを実践せねばならなくなること,宗教的権威を帯びない故に管理者や医 師と対等に立てないところから一定の活動の制限を受けることが見えるのであ る。

2) 宗教性のない病院で実践が可能か

宗教性のない病院ではスピリチュアルケアの視点の普及は図れるものの,ス ピリチュアリティの普及を図るメゾレベルの諸活動は全く出来ないので,組織 内で共有されたスピリチュアリティの全くないところでミクロのスピリチュア ルケア実践を行わなければならないことになる。またチャプレンは一専門職に なり,宗教的権威や象徴的機能を持たないので,管理職や医師への影響力はか なり限定されたものになるであろう。従って全患者に面接するようなシステム は成立しないと考えられる。

3) チャプレンの実践は非常勤や外注で可能か

調査対象となったF病院では非常勤1名であった。チャプレンがかなり常勤 的な働き方をしていること,役割としても独立型であるため確立されたものが あること,また22床と規模が相当小さいためか,一応一通り各レベルの実践が 見られているが,マクロやメゾの実践が他病院に比してやや弱くなっている。

規模が大きければこの傾向は増大する可能性がある。また,チャプレンを外注 した場合,ミクロの実践のみに限定され,他のレベルの実践は殆ど不可能にな るであろう。

参照

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