著者 犬塚 裕樹
雑誌名 久留米大学コンピュータジャーナル
巻 30
ページ 42‑49
発行年 2016‑03‑01
URL http://hdl.handle.net/11316/526
進化した関数電卓の利用:シミュレーション計算 進化した関数電卓の利用:シミュレーション計算 進化した関数電卓の利用:シミュレーション計算 進化した関数電卓の利用:シミュレーション計算
犬塚 裕樹† Hiroki Inutsuka†
†久留米大学 医学部 看護学科 教授
†The School of Nursing,KURUME University.
Professor.
1. はじめに はじめに はじめに はじめに
数学はものの考え方の根幹をなしているため、数学を理解し扱えることは、広い分野で重要 である。特に、医療分野の研究では、ほとんどの領域で統計検定が駆使されている。統計検定 を正しく理解するためにはどうしても数学的な扱いに慣れていなければいけない。
コンピュータは、いろいろ問題を取り扱うことができるため、コンピュータをつかうことで、
数学になじむ機会をあたえてくれる。この意味でコ ンピュータはとても役にたつものである。コンピュ ータであるパソコンは短期間のうちに、計算速度、
およびデータ保存において高性能となり、驚くほど 広く世の中に普及した。データ処理はパソコンをつ かった統計処理ですませるようになった。コンピュ ータによって、単なる繰り返し計算の煩雑さから人 は解放された。また、四則演算ができる電卓は、家 電量販店で低価格で販売されている。「log」や「sin」、
「cos」の関数計算ができる、いわゆる関数電卓で さえも、同様に低価格で販売されている。じつはこ の中に多機能を搭載した関数電卓も混ざっている。
これこそは、パソコンよりも使い勝手がよい局面がある。
しかし、たくさんの機能が搭載され、いまやマニュアルなしでは簡単には操作できなくなっ た。そこで、電卓の利用を促したいという思いもあって、本稿では、関数電卓の操作について 説明をしようと思い立った。とても便利なのである。
電卓にはシャープやカシオなどの製品がある。ここでは、シャープの関数電卓「SHARP
EL-520F Pythagoras」を扱う。この電卓には、つぎの6つの計算モードがあり、さまざまな計
算が可能となっている。最初の計算時にこの「モード選択」をおこなう。
1.一般モード 2.統計モード 3.方程式モード 4.複素数モード
5.行列モード 6.リストモード
2. 一般計算 一般計算 一般計算 一般計算
加減乗除や関数計算は、一般モードでおこなう。まず、
[MODE]0 とキーをおして、一般モードに入る。
たとえば、ふつうの四則演算用電卓と同様に
45「+」285「=」
と入力して足し算の計算ができる。電卓では少しでもキー入 力の回数が減らせるように工夫がなされている。たとえば、
掛け算において、
2 ( 1 + 3 ) = の数学表記では、
2 × ( 1 + 3 ) =
という意味であるが、この電卓では数式と同様に「×」のキ ー入力は必要がない。つぎのように入力するだけでいい。
2 「(」 1 「+」 3 「)」 「=」
じつは、さらにこの場合、「=」の1つ前の「)」のカッコ
も入力しなくてもいいのである。これらのことに慣れてくるだけでも便利さを感じてくる。表 示を消すときには「ON/C」のキーをおす。
数値の記憶用の、記憶メモリーとして、「A」~「F」, 「X」,「Y」の8個の変数に割り当 てられている8個の記憶場所がある。これらの記憶場所に数値を記憶するには、「STO」のキ ーをつかう。記憶している数値をよびだすときには「ALPHA」または、「RCL」キーをつかう。
さらに、独立メモリーとして、「M」が用意されている。
一度、計算結果をだすと、その結果をつぎの計算で利用できる「連続計算」が可能である。
それには「ANS」キーをつかう。
10 + 5 =
と入力すると 15が表示される。この結果に8を加えるときには + 8 =
「ANS」 + 8 = 23
と計算結果が表示される。
また、この関数電卓は、以前におこなった計算式を呼び出す機能を備えている。これは、「マ ルチラインプレイバック機能」とよばれる。「▲」のキーをおすと、1 つ前に入力した計算式 が表示される。「2ndF」「▲」とおすと、記憶している最も古い式へジャンプする。
リスト計算とよばれる計算ができる。つぎのようなベクトル計算ができるのである。
(4 10 3)+(1 1 1)=(5 11 4)
リストどうしの加減乗除や、リストの各要素に対して関数値を求めることができる。この例 で説明しよう。
(1) まず、リストモードにするために、「MODE」5をおす。
(2) リスト編集画面を表示するために「▼」をおす。
(3) リスト大きさsizeを入力する。この場合は3。3を入力して「DATA」をおす。
(4) 3個の要素を入力する。
4 「DATA」 10 「DATA」 3 「DATA」
(5) 「ON/C」を入力して、リスト編集画面を終了する。
(6) 「MATH」2と入力すると、下の画面になる。
(7) 入力したデータをリスト名L1に保存するために0を入力する。
(8) 上記の(2)から(7)の手順を繰り返して、つぎのリストデータを入力する。これはリスト名 L2に保存しよう。
(9) 2つのリストL1とL2の各要素の合計を求めるために、「MATH」0を入力する。すると、
L1 L2 L3 L4 0 1 2 3
の画面になる。L1を指定するために0を入力する。するとL1が表示されるので
+ 「MATH」 00 = と入力すると、画面の表示は
L1 + L2
となっている。そこで「=」をおして、合計のリストを求める。
この他にも、リスト内の要素を大きさの順に並び替えたり、最大値や最小値を求めたり、さ らに、2つのリストをベクトルとみなして、内積や外積を求めることができる。
3. シミュレーション計算 シミュレーション計算 シミュレーション計算 シミュレーション計算
同じ式を使い、いろいろと入力数値を変えて計算結果を出力させたいときがある。このよう な状況に対処するために、この関数電卓には同じ式を繰り返し入力することなく、式を記憶さ せ、入力数値だけを変えて式の値を出力することができる機能がある。
計算例として、肥満度の指標であるBMI(Body Mass Index)を計算してみよう。体重と身長の 数値を入力するとIBM値が計算されるようにする。単位は体重が【Kg】、身長は【cm】とし た場合を計算しよう。体重と身長の変数をそれぞれXとYとする。すると、定義式はつぎの ようになる:
(A1) 入力データは下表のものである。
体重 身長
1 80Kg 165cm
2 60Kg 170cm
(1) まず、(A1) の計算式を電卓に入力する。
(2) 「一般モード」で計算をおこなうために、「MODE」0 と入力する。
(3) つぎのように定義式を入力する:
「ALPHA」 「x」 「÷」 「(」 「ALPHA」 「y」 「÷」100 「x2」 「2ndF」 「ALGB」
すると下図のように表示される。
(4) 入力数値データを入力する:画面で X の部分が点滅している。そこで
80「ENT」と入力する。
(5) 画面で Y の部分が点滅している。
165「ENT」とキーをおす。
(6) すると、以下のように画面上にBMIの 計算結果が表示される。
29.3847..
(7) つぎのデータを入力しよう。「2ndF」「ALGB」とキーをおす。
(8) すると、表示画面でXの部分が点滅している。そこで、60「ENT」と入力する。
BMI = X (Y /100 )2
(9) すると、画面でYの部分が点滅している。そこで、170「ENT」と入力する。すると、以 下のように画面上にBMIの計算値が表示される。
20.7612…
(10) 再度、入力データをいれるときのは、「2ndF」「ALGB」のキーを押す。
(11) 終了するときには、「ON/C」キーをおす。すると画面が消える。再度、式をつかうとき
には、「↑」を押せば、その式が表示される。ここで、式の編集作業ができる。繰り返し、
式の計算をするときには、「2ndF」「ALGB」のキーを押せばよい。
ある関数の概形を知りたい場合がある。その場合、独立変数の値を変数とおいて式を入力し、
独立変数のいくつかの値を入力すれば関数値が出力され、それをグラフ用紙にプロットするこ とでグラフの概形が描けるのである。
4. 統計計算 統計計算 統計計算 統計計算
複雑な統計計算をする際には、パソコンに搭載されている統計ソフトエウアを利用すればい いが、小さいデータ量の統計量を扱うときには、関数電卓を利用した方が便利である。
統計モードによって、つぎの7種類の統計計算ができる:1変数統計計算、1次回帰計算、2 次回帰計算、指数回帰計算、対数回帰計算、べき乗回帰計算、逆数回帰計算。
ここでは、1変数統計計算の場合について説明しよう。
(1) まず、「MODE」1 と入力して「統計モード」とする。
すると画面は右図のようになる。
(2) 「0」を入力すると「1変数統計計算」が可能となる。
(3) つぎのような計算がなされる。
x (標本xの平均値),
sx
(標本xの標準偏差)
σ x
(標本xの母集団偏差), n (標本数)
∑
x (標本xの総和),∑
x2 (標本xの2乗の和)つぎの例で説明しよう。まず、次の5個の標本値のデータを入力していくつかの統計量を計 算しよう。
10,7,8,5,5
(1) 「MODE」「1」「0」と入力して、「1変数統計計算」をおこなう状態にする。
(2) 10「DATA」7「DATA」8「DATA」5「(x,y)」2「DATA」と入力する。
ここで、「(x,y)」のキーをつかって同値の複数を同時に入力した。もし、5の値を4個入力
するときには5 「(x,y)」 4 「DATA」 とキーをおす。
(3) まず、標本数n を表示しよう。
「RCL」「n」と入力する。すると、以下が表示される。
n = 5
(4) x を表示しよう。「RCL」「x 」と入力すると、以下が表示される。
x = 7
(5)
∑
x を表示しよう。「RCL」「∑
x」と入力すると、以下が表示される。
∑
x = 355. 乱数発生機能 乱数発生機能 乱数発生機能 乱数発生機能
乱数を利用することで、さまざまな解析が可能となる。この電卓では、一様分布する疑似乱 数を発生できる。出力形式として、次の4種類が用意されている。
1. 一般乱数:一様乱数[0,1]の範囲の実数
2. ランダムダイス:1から6までの整数 3. ランダムコイン:0と1を発生 4. ランダムインテジャー:[0,99]の整数
利用例として「1. 一般乱数」の場合を説明し よう。一様乱数[0,1]の範囲の実数を発生する。
(1) 「2ndF」「RANDOM」「0」「ENT」をおす。
すると乱数が表示される。
(2) 繰り返し乱数を発生するためには、「ENT」
をおしていく。
(3) 終了させるときには、「ON/C」をおす。
つぎに、「2. ランダムダイス」を利用してみよう。これは、サイコロをふって1から6まで の値を等確率でだすことに対応している。
(1) 「2ndF」「RANDOM」「1」「ENT」をおす。すると乱数が表示される。
(2) 繰り返し乱数を発生するためには、「ENT」をおしていく。
(3) 終了させるときには、「ON/C」をおす。
その他の、「3. ランダムコイン」、「4. ランダムインテジャー」での乱数を発生させるときに は、上記の(1)で「0」の代わりに、それぞれ「3」と「4」をおす。
6. 物理定数呼び出し機能 物理定数呼び出し機能 物理定数呼び出し機能 物理定数呼び出し機能
この電卓は、多数の物理定数を記憶している。たとえば、下表のように光の速さ、プランク 定数など52個がある。
番号 名称 番号 名称
01 真空中の光の速度 10 プランク定数 02 万有引力定数 11 ボルツマン定数 03 標準重力加速度 28 アボガドロ定数 使い方はつぎのようにおこなう。真空中の光の速度の値を呼び出そう。
(1) 「CNST」をおして、表中の番号2桁「01」を入力する。
(2) 画面に定数「2.9979245…」が表示される。
7. おわりに おわりに おわりに おわりに
電卓やパソコンをはじめコンピュータはじつにおもしろい。コンピュータを使うことで多様 な問題をあつかうことができて、いろいろなことを追求するきっかけをつかむことができる。
人類はすごい利器を身につけた。
本稿の例でとりあげた肥満指数の定義は重要なことを示し ている。肥満指数は、体重が大きくなれば大きくなるだろう し、逆に身長が高くなれば小さくなる特性をもつはずなのだ から、一見
BMI ∝ 体重 / 身長
でよさそうである。しかし、BMIは身長に関しては自乗に反 比例するように定義されている。これはどういうことを意味
しているのか。このことは、生体でエネルギー産生をする際のシステムに関係しているだろう。
エネルギーを産生するためには、熱力学の法則が示しているように、生体から熱を逃がさない といけない。生体から熱を逃がすには、生体表面を介して作用するために、長さの次元の自乗 に反比例しなければならないのである。身体をしだいに大きくしていくと、生体内に蓄えられ ている熱量の増加に比較して、熱が逃がせなくなってくるので、身体の大きさには限界が存在
することが予想される。同じ熱い温度で、大きさの違う2個の団子を比較すると、大きい団子 の方が冷える速さが小さいことにも関連している。
参考文献 参考文献 参考文献 参考文献
[1] 関数電卓EL-520F取扱説明書 Pythagoras.