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幼児教育に関する母親の意見
著者 杉村 健, 今井 靖親, 広瀬 康雄, 桶本 真也
雑誌名 奈良教育大学教育研究所紀要
巻 10
ページ 89‑96
発行年 1974‑03‑20
その他のタイトル Mothers' Opinions on Preschool Education
URL http://hdl.handle.net/10105/6294
幼児教育に関する母親の意見*
杉 広
村 瀬
健 今井靖 親料
康 雄 桶 本 真 也
(心理学教室)
本研究の目的は,へき地と都市部における幼児の母親が,幼児教育に関する次の4つの問題につ いて・どのような意見をもっているかを調査することであ乱
①将来,どのような子どもになってほしいか。
②保育園や幼稚園では,どのような保育が大切であるか。
③保育園や幼稚園では,文字や数をどの程度教えてほしいか。
④種々のしつけについて,保育園や幼稚園と家庭との分担はどうあるべきか。
方 法
調査対象 調査対象は,吉野郡大塔村大塔保育園,奈良市にある極楽坊保育園と奈良教育大学 附属幼稚園のそれぞれに在園している園児の母親である。表1は調査対象の内訳を示したものであ
る。母親の年令は,最低23才から最高45才まで分布しているが,表には平均年令を示した。
第1表 調査対象の入数と平均年齢 子どもの年齢
3 4 5 合 計
人数28211647
大 塔
年令3232333232
人数12313528106
極 楽 坊
年令3230323332 人数223271668
附 属
年令3132333232
¥ Mo t he r s,Opi ni o ns o n Pr e s c ho o1 Educ a t i o n
米¥Takes hi Sugimur a,Yasuchi ka Imai,Yasuo Hi ros e and Shi ny a Okemot o
(Pepartment of Psychology,Nara Uni versity of
調査貫目 表2は調査項目を示したものである。項目の作成にあたっては数回にわたる討議を行 ない,①については,沢田・青木(1970)と橋本・金井(1971),②については,坂元(1
964)と山下(1965),②については,四日市市立教育研究所(1972)を参考にした。① の内容は小・中学校の指導要録における}行 動および性格の記蹴に相当するものであり,②の内容
は幼稚園教育要領と保育所保育指針における.6領域 に相当する。③ま②と関係するもので,幼児 教育において以前から問題にされていることがらである。④の内容は,基本的生活習慣と社会性のし つけに関するものである。
表 2 調 査 項 目
①あなたのお子さまはどんな子どもに成長してほしいと思いますか。次の10 個のうちから望む順に3つだけ選び,□の中に1,2,3と書いてくださ
し・。
口健康や安全に気をつける子ども口すすんで工夫する子ども
口礼儀正しい子ども 口鶴(気分)椴定しψる子ども 口自主性がある子ども 口八と協力できる子ども
□責任感がある子ども 口寵蝋㈱正しくできる子ども 口根気強い子ども 口他人に迷惑をかけない子ども
②保育園(幼稚園)は次の6つの内容について保育しています。この中であな たが特に大切だと思うものを2つだけ選び,口の中に1,2と劃・てくだ
さい。
□健康(運動に興味を持ち・健康に気をつける)
口社会(社会の出来事に興味を持ち,望ましい態度を身につける)
口自然(数や図形に興味を持ち,生き物や自然に親しむ)
口言語(絵本などに興味を持ち・正しくことばを使い・話を理解できる)
口音楽(歌や楽器に興味を持ち,辮ちを身体の動きであらわす)
口図工(美しいものに興味を持ち,絵にかいたり,作ったりする)
③保育園(幼稚園)では,文字や数をどの程度まで教えてほしいですか。口 の中にO印をつけてください。
□教えないでよい 口数えないでよい 文
口読めるように 数□読めるように
字
口書けるように 口書けるように
④次のようなしつけは,主に保育園(幼稚園)で行なったらよいでしょうか。
それとも・家庭で行なったらよいでしょうか。⑳にならって○印をつけ てください。
一gO一
(⑳ あ
食 衣 手 こ 友仲 交き
身り約 他の
い
事 服
を と のの 東
用 の の
ぱ
く適ま を 入観
さ 作 着 洗 使
ちずま整 守
使 つ 法 脱 う
い とる のりわ頓 る へ切
保育園(幼稚園)で行なう
家庭で行なう ○
手続き 調査は,1973年10月26日から11月10日の間に実施した。それぞれの園に
出向いて調査内容を説明し.協力してもらった。調査用紙を園児に家庭へ持って帰らせ,母親に記 入してもらった。なお,調査用紙の上部には お母さま方へ として,お母さま方のご意見やご希 望を伺い,今後の幼児教育に役立てるものであるという趣旨を書き・母親の年令と子どもの年令・
性を記入する枠が設けてある。
結果 と 考察
子どもの将来 調査項目①については,望む順に臓立をつけるように求めたが,○印のみを記 入したものがいくつかあったので,煩位を用いた分析を行なうことができなかった。そこで・順位 を無視して,それぞれの特性が全体のうちの何人によって選ばれているかを調べ,その割合(%)
を算出した。したがって,10個の特性についてのパーセントの合計は300%になり・各特性を 選ぶ期待値は30%である。表3は上述のようにして算出した選択率を示したものである。
まず,国ごとに期待値からのずれをメ検定を用いて調べてみると,大塔保育園では責任感が有意
表3 子どもの将来についての選択率(%)
健 康
安 全
礼
儀
自 責 根 工 情 気 諸 強 安 生 任 性 感 さ 天 定
書 迷 意 惑 を の か
け 判
な 断 い
大 塔43218213659ユ帯36−49,1半6脚31838.6432
極楽坊32713.脇34642,3¥3378.7料13、榊一40,553.㈱一269
に高くて,工夫と情緒安定が有意に低かった。極楽坊保育園では善悪の判断と責任感が有意に高くて、
情緒安定,礼儀,工夫が有意に低く,また,附属幼稚園では自主性と善悪の判断が有意に高くて,情 緒安定,礼儀,工夫が有意に低かった。以上の結果から,へき地と都市部でともに親が望んでいない のは,すすんで工夫をする子どもと情緒が安定している子どもであるといえる。都市部では善悪を正 しく判断できる子どもが重んじられ,礼儀正しい子どもが軽んじられている。もちろん,このような 結果は他の特性との相対的な関係を示すものであって,絶対的なものではない点に注意しなくてはな
らない。たとえば,大塔保育園では。工夫する子どもや情緒の安定した子どもよりも責任感のある子ど もにしたいということである。
次に・各特性の選択率について3つの園の間に有意差があるかどうかを検定した。その結果,自主 2 2
佐(κ117.94,6∫=2, P<.01)と責任感(λ=14,49,.6/=2, Pく.01)
において,ともに1%水準で有意差が認められた。表3から明らかなように,自主性がある子どもに 育てたいという母親は,大塔保育園では僅かに13.6%しかいないが,附属幼稚園では過半数の52.
9%に達しているのであ乱これとは逆に・責任感がある子どもに育てたいという母親は・大塔保育 園では約60%にも達しているが,附属幼稚園では235%しかない。このように,自主性と責任感 とを3つの園を通じてみた場合,全く逆の関係になっているのは興味深いことであり,両方の結果を 関連づけながら読み取る必要があろう。3つの園を比べた場合,大塔保育園の母親がよりへき地的母 親であって・附属幼稚園の母親がより都市部的母親であるといえるならば,前者の母親は自主性より
も責任感を重視しているのに対して、後者の母親は自一主性を重視しているといえる。
保育内容 子どもの将来の最初の部分で述べたのと同じ理由で,各領域についての選択率を算出 した。表4はその結果を示したものであり,6領域のパーセントの合計は200%,各領域を選択す る期待値は33%である。
表4 保育内容についての選択率(%)
健 杜 自 唇 音 図
康 会 然一 語 楽 工
大塔56.出41.3
極楽坊
附 属
667料 21.0米
73.1→←汁 19.4半
217
448¥
537¥¥
609料
476景
38,8
8.7特
7−6料
6.㈱
109料 124料 90料
¥は5%水準,料は1%水準で期待値から 有意 こ離れていることを示す(ノ検定)。
一92一
期待値からのずれをみると,大塔保育園では健康と言語が高くて音楽と図工が低く,極楽坊保育 園では健康、自然,言語が高くて社会,音楽,図工が低く,また附属幼稚園では健康と自然が高く て社会、音楽,図工が低くなっている。3つの園で共通しているのは,健康が高くて音楽,図工が 著しく低いということである。音楽と図工は実際の保育において,かなりの時間を占めているが,
母親の関心は極めて低く,大切な保育内容であるとは考えていないのである。健康が大切であると 考える母親が多いことは健全であり,保育においては,これまでよりももっと重視すべきであろう。
3つの園の選択率の差を領域別に検定したところ,社会(72=8.66,6/=2,P<.05)
と自然(κし11.84,6∫ま2,戸<.01)に有意差が認められ,言語では僅かに有意水準に 達し捧かった(タ;5−39,a/=2,戸<・10)。表4からわかるように,社会と自然の結果 は大塔保育園と他の2つの国とでは全く逆の関係になっており,大塔保育園の母親は社会を重視し ているのに対して,極楽坊保育園と附属幼稚園の母親は自然を重視している。これは地域差を反映
しているものといえる。言語については大塔保育園が最も多く,附属幼稚園で健康が最も多いのと は,対照的である。なお,母親がある領域を大切であると考えたり,逆に大切ではないと考えると いうことは,その領域の保育が不十分であるのか,逆に十分に行なわれていることを反映している のかもしれない。
文字と数 文字と数をどの程度まで教えてほしいかという調査項目③の結果は,表5に示すと おりであ孔この表では,読めるようにと書けるようにの両方を希望した場合には,書字は読みを
表5 文字と数についての希望(%)
大 塔
教
え なし、
文 字 読 書
め け
る る
6,4 29,8 6 3.8
数
教 読 書
えめ け
ない る る
6.6 3α4
極楽坊 17,5 45.6 3a9 12,5 47.1
附属 359 48・4 15−7 28・1 53.1
π2検定 16.03
有意水準
4.55 2729 11.12
共栄 一 米半.
63.0 40.4 18.8 6.04 22.24
半半 ¥ ¥半
米は5影水準,料は1%水準で有意差あり(a/,2)。
前提としているので,書けるようにとして数えてある。表の下に,3国間の有意差をみるために行な ったπ2検定の結果が示してある。文字が読めるようにだけは有意になぢなかったが,その他はすべ て有意であって,文字と数はほぼ同じ結果を示している。したがって,文字と数をいっしょにして考 察することにする。
教えないでよいは。大塔保育園では僅かに数パーセントしかないのに対して,附属幼稚園では3割 にも達している。これに反して,書けるようにしてほしいは,大塔保育園では6割を越えているのに,
附属幼稚園では2割にも満たない。極楽坊保育園はほぼ両国の中間に位置づけられる。このように親 の希望の著しい相違は,どのように考えたらよいであろうか。小学校入学までに文字が読め,自分の 名前ぐらい書けるようにしておけばよいというのが,現在の常識であるようだが附属幼稚園の母親 は,その3割もがそれすら望まないのであろうか。彼女たちの子どもに絵本も読んでやらないのだろ
うか,また,家庭で全く文字や数を教えていないのだろうか。大塔保育園の母親は,その6割以上が 書けるようにと望んでいる。これには、小学校からの依頼で年長組では文字を書けるように訓練して いるという現実が反映しているのであろう。われわれが訪れたときも文字を訓練していたが,子ども たちは興味を持って,比較的長時間にわたって普いているのを見て,ここには現在の常識があてはま らないことを痛感した。この問題に関しては,現在の常識にとらわれず,前向きの姿勢でもって検討 する必要があろう。
しつけ 調査項目④については,保育園(幼稚園)で行なう方がよいと答えたもののみを取り上 げた。両方に○印がある場合もあったが,非常に少なかったので除外した。表6は,それぞれのしつ けについての選択率を示したものであ孔表の値を100から引いたものが,家庭で行なった方がよ いと答えた割合になる。表の下の方には,γ2検定の結果が示してある。
表6 保育園(幼稚園)で行ったらよいしつけ(%)
あ
し、
さ
食衣手こ仲交整約親
洗 と よ
つ事服いばし通領東
大塔61,920.96,837,270,595,285,411,970,5・5−a1
極楽坊 44,O 19.6 7,0 20,8 62,5 94,2 63,5 16,8 50,0 66.3
附属52,238,835.84a359,161,959,740,955,250.0
ノ検定 3,95 &36 28.2212,601,51 3a288.41 16,815,50 4.75
有意水準 ¥ 井半 半¥ 米¥ 共 キ¥
米は5%水準,料は1%水準で有意差あり (a/宮2)。
一94一
3つの園の間に有意差があったものだけについて考察する。食事の作法,衣服の着脱,手洗い,お よび身のまわりの整頓というような,いわば基本的生活習慣とよばれるものについて有意差があり,
これらはいずれも2つの保育園で低く,附属幼稚園で高い。もちろん,子どものしつけは家庭と園が 一体となって行なうべきものであるが,このような生活習慣まで幼稚園ですべきであると考える母親 が3割も4割もいるのである。これに対して,友だちと仲よくするとか約東を守る(後者は僅かに有 意水準に達しない)というような,園でなければできないようなしつけについては,基本的生活習慣 とは逆に,附属幼稚園の方が低いのである。交通のきまりは大塔保育園で最も多かった。これは,砂 利採集のダンプカーが1日に2〜300台も通過するという事情を反映しているのであろう。
要一 約
へき地の保育園(大塔保育園)と都市部の保育園(極楽坊保育園)と幼稚園(教育大学附属幼稚園)
に在園する子どもの母親について,幼児教育に関する意見を調査した。その主な結果は次のとおりで
ある。