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平成20年度調査研究報告書

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Academic year: 2021

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平成 20 年度調査研究報告書

甘草含有医薬品による偽アルドステロン症発症回避のための

新規マーカーの開発

名古屋市立大学大学院薬学研究科生薬学分野 調査研究者氏名 牧野 利明 〒467−8603 名古屋市瑞穂区田辺通3−1 TEL & FAX 052−836−3416

要旨 甘草含有製品による偽アルドステロン症の原因は、甘草含有成分が腎尿細管上皮細胞内に存在 する 11β−ヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼ(HSD)2 を阻害するためである。甘草による主要な 代謝物であるグリチルレチン酸(GA)は尿中には排泄されないことから尿細管上皮細胞には取りこ まれないものと予想され、尿中で検出できるモノグルクロニルグリチルレチン酸(3MGA)が真の原 因成分であるという可能性を明らかにするために、それら化合物のラット腎スライスへ取り込みに ついての実験を行った。しかし、GA および 3MGA は実験容器や腎スライスへの吸着が無視でき ないほど大きく、腎スライスへの取り込みとして測定された値は、その大部分が表面への吸着を評 価していることが予想された。実験系の改善することによる今後の検討が望まれる。 1、調査研究目的 OTC医薬品として汎用されている漢方製剤、生薬製剤には、カンゾウ含有製品による偽アルド ステロン症という副作用が知られている。その頻度は比較的高く、そのような医薬品が適応する訴 えを示す患者に対して薬剤師・登録販売者が勧める際には、必ず考慮するべき事項となってい る。 カンゾウ含有製剤による副作用である偽アルドステロン症は、甘草含有成分グリチルリチン(GL) の代謝物であるグリチルレチン酸(GA)が内因性のコルチゾルを代謝不活化する 11β−ヒドロキシ

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ステロイドデヒドロゲナーゼ(HSD)2 を阻害することにより、体内で過剰となったコルチゾルがミネラ ルコルチコイド受容体に結合することにより発症する、と言われている。しかし著者は、コリン欠乏 食飼育による非アルコール性肝障害ラットに GL を投与したときには、GL のもうひとつの代謝物で ある 3-モノグルクロニルグリチルレチン酸(3MGA)の血中濃度が増加していること、尿中へは GL の主な代謝物である GA はほとんど排泄されず、3MGA の排泄が増加すること、また、肝障害ラット の肝臓において血液中のさまざまな化学物質を胆汁へ排泄する役割を担う ABC トランスポーター のひとつである Mrp2 の発現が減少していること、3MGA は Mrp2 で胆汁排泄される可能性が高い ことを明らかにし(Makino et al. 2008)、カンゾウよる偽アルドステロン症発症の生体内での原因成 分は、これまで推定されていた GA ではなく、3MGA であることが強く示唆する結果を得ている。 そこで本研究では、その発症と血液中 3MGA 濃度の関連についての基礎的知見を得るために、 11β-HSD2 が生体内存在する部位である腎尿細管への GA、3MGA、GL の輸送特性を検討し、実 際に 3MGA が偽アルドステロン症の発症原因となりうるのかどうかの検討を行った。 2、調査研究方法 2−1 実験動物 Wistar/ST ラット(9週齢、オス)を日本 SLC より購入して使用した。 2−2 試薬

GL は Calbiochem (San Diego, CA)より、3MGA はナカライテスク(京都)より、GA は東京化成(東 京)より、ウシ血清アルブミン(BSA)は、シグマ(St. Louis、MO)より購入したものを使用した。その 他の試薬は特級のものを使用した。

2−3 腎スライスへの GL、3MGA、GA 取り込み実験

9週齢のラットをエーテルの過剰麻酔により屠殺し、腎臓を摘出した。皮膜を剥離後、組織切片 作成機(夏目製作所)を用いて、0.5 mmの厚さの切片を調製し、氷冷Incubation Medium(以下、

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IMと記載する。120 mM NaCl、16.2 mM KCl、1 mM CaCl2、1.2 mM MgSO4、10 mM リン酸緩衝液 pH 7.4)に浮遊させた。新しいIMで腎スライスを 10 分間インキュベートした後、IMを吸引除去し、 適当な濃度のGL、3MGA、GAを含むIMまたは 5% BSA含有IM(取り込み溶液)を添加した。一定 時間、37℃でインキュベートした後、取り込み溶液を吸引除去し、氷冷リン酸緩衝生理食塩水 (PBS、0.15 M、pH 7.4)で腎スライスを3回洗浄後、PBS中で超音波によりホモジナイズした。ホノジ ネート中のタンパク濃度は、BCATM Protein Assay kit(Thermo Scientific、Rockford、IL)を用いて

定量した。ホモジネート中のGL、3MGA、GAは、以下に述べるLC/MS/MS法により測定した。 2−4 GL、3MGA、GA の定量 標準液として正常腎組織ホモジネートに各化合物を溶解させたものを使用した。サンプルまたは 標準液 50 µLに、1:10 に希釈したスブチリシン(Sigma)を 10 µL加え、30 分 37℃でインキュベート してタンパク質を分解した。内部標準として、1 µg/mLパラヒドロキシ安息香酸(PHB、ナカライテス ク)エタノール溶液を 150 µL加え、激しく撹拌後、-20℃で、30 分インキュベートした。15,000 rpm、 7分間の遠心後、上清 80 µLをガラスバイアルに入れ、LC/MS/MSシステム(Waters Quattro Premier XE, Milford, MA)で分析を行った。カラムはInertosil ODS-3(50 x 2.1 mm、5 µm、GLサイ エンス、東京)を使用し、移動層には(A) 0.1%AcOH:(B) 0.1%AcOH in CH3CNを直線勾配で 50:50 (0 min) → 30:70 (6 min) → 15:85 (8 min) →50:50 (8.1 min) → 50:50 (15 min) の割合で 0.2 mL/minの流速を使用した。検出は、ESR(+) MRMモードで、GL、821.18→350.96、Cone 70V、 Collision 40eV;3MGA、645.14→84.65、Cone 65V、Collision 50eV;GA、469.13→525.31、Cone 80V、Collision 40eV;PHB、194.77→138.72、Cone 14V、Collision 10eVを使用した。ピークは、GL (2.4 min)、3MGA(5.0 min)、GA(7.4 min)、PHB(5.4 min)に得られ、PHBのピーク面積に対する GL、3MGA、GLのピーク面積をプロットした際、3化合物とも 12〜1000 nMの濃度範囲で良好な検 量線が得られた。

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ラット腎スライスに GL、3MGA、GA の 5% BSA 溶液を取り込ませたときの、濃度依存性および時 間依存性の結果を図2に示す。各化合物 5%BSA 溶液をラット腎スライスに添加したときの各化合 物の 10 分間取り込み量は、濃度依存的に増大し、1000 µM の濃度でも飽和は見られなかった。ま た、各化合物を 100 µM の濃度で一定時間インキュベートしたときの時間依存性試験では、添加 後5分間後で 120 分時の取り込み量の3分の 2 程度の取り込みが見られ、比較的早く飽和に至る ことが示された。また、いずれにおいても、3化合物の間で顕著な差は認められなかった。 4、考察 甘草による偽アルドステロン症の副作用発症の原因のメカニズムは、その含有成分グリチルリチ ン(GL)の代謝物が、腎尿細管細胞内に存在する 11β-HSD2 を阻害することによりコルチゾルの 分解が抑制され、それがミネラルコルチコイドレセプターを刺激することにより発症することが明ら かになっているが、その発症頻度は単なる摂取量と摂取期間によるという説(塚本晶子ら、2007) もある一方で、11β-HSD2 における遺伝子変異が原因であるという説(佐々木尚子ら、2008)や、 同じように甘草を摂取しているのに偽アルドステロン症を起こした患者と起こさない患者がいて、後 者においてのみ血中 3MGA 濃度が上昇していたことから患者側に何らかの特異体質が原因であ るという説(Kato H et al.、1995)もある。筆者はこれまでの研究から、ラット肝線維症モデルにおい て血中 3MGA 濃度が上昇することを見いだし、肝臓におけるトランスポーターMrp2 の機能異常時 にそのような状態となり、偽アルドステロン症患者で見られた現象と肝障害との関連が疑われるデ ータを得ている。また、血中 3MGA 濃度増加に伴い、尿中3MGA 濃度増加が観察された一方で、 血中 GA 濃度には変化がなく、尿中には GA はいっさい検出されなかった(Makino T et al、2008)。 偽アルドステロン症の原因となる 11β-HSD2 は、腎尿細管細胞内にある酵素であり、生体内では 尿細管上皮細胞内に入ることができる化合物のみが阻害することが出来ると考えられる。GA が尿 中からいっさい検出されなかったということは、GA は腎臓においては糸球体ろ過も尿細管分泌も されないことを意味する。GA はアルブミン結合率が 99.9%以上と非常に高いことから、単純な分子

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ふるいにより透過する糸球体基底膜を透過することが出来ないことは十分に説明できるが、尿細 管分泌もされないならば尿細管上皮細胞の血管側に発現しているトランスポーターの基質として GA は認識されないことが予想される。一方、3MGA もアルブミン結合率は 99.9%以上と高いが、尿 中から検出されたことから、3MGA は腎尿細管上皮細胞のトランスポーターに基質として認識され、 尿細管分泌により排泄されるものと予想される。このことから、何らかの特異体質により血中 3MGA 濃度が上昇すると、尿細管上皮細胞内に 3MGA が取り込まれ、11β-HSD2 を阻害することにより 偽アルドステロン症が発症することが考えられた。 そこで本研究では、ラット腎スライスを使用して、GL、3MGA、GA の尿細管分泌の比較を行った。 腎スライスを用いた薬物の取り込み実験は、尿細管上皮細胞の尿管側が閉じることから、血管側 から上皮細胞内への化合物の取り込みについて試験する際に汎用されている方法である(楠原 洋之、2003)。本実験を用いて期待されることは、GL および 3MGA には尿細管上皮細胞にそれら を基質として認識するトランスポーターにより取り込まれるが、GA にはそれがないため取り込みさ れないか、GL または 3MGA と比較して取り込み量が低いことである。 予備実験で GL、3MGA、GA を IM に溶解させて腎スライスに取り込ませたところ、GA が最も強く、 次いで 3MGA、GL という順でよく尿細管細胞に取り込まれるという結果が得られていたが、その順 番は脂溶性の化合物ほど細胞膜を透過しやすいという pH 分配仮説に従う当然の結果であった。 それら3化合物は血清アルブミンとの結合率が極めて高く、血液中から組織への化合物の移行で はトランスポーターを介して輸送されない限りは細胞膜を透過することは考えにくい。従って、血液 の組成に 5%アルブミンに化合物を溶解して、腎スライスへの取り込み実験を行った。しかし、結果 は予想と反して GL、3MGA、GA ともに、同程度に腎スライスに取り込まれるという結果が得られた (図1)。濃度依存性を評価する実験結果では、1000 µM まで直線的な取り込みが見られ、トランス ポーターで輸送される際の特徴である飽和現象は認められなかった。また、時間依存性を評価す る実験結果では、5 分間という短い時間で急速に取り込みが行われ、その後は緩やかに増加して

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ほぼ飽和に至るという結果が得られた。 本実験を行うにあたり、LC/MS/MS 分析条件を決定する上で最も困難だったのは、GA、3MGA、 GL のバイアルへの吸着をいかに回避するかであった。これら3化合物のアルブミン結合率が極め て高いことは前述したが、LC/MS/MS 分析のバリデーションを行う課程で、低濃度領域ではプラス チックバイアルへも吸着が無視できないことが明らかとなり、酸性下でガラスバイアルを使用するこ とによりそれを回避して安定して測定できる分析条件を開発したのだが、そのようなさまざまな物 質に吸着しやすいというそれら3化合物の性質は、腎スライスを用いた取り込み実験でも決して無 視できないものと推測された。すなわち、今回測定した GA、3MGA、GL の腎スライスへの取り込み 量は、実際には尿細管上皮細胞内に取り込まれた化合物を測定したのではなく、腎スライスの表 面に化合物が吸着しているものを測定しているという可能性が考えられた。その可能性を考慮す ると、濃度依存性実験でトランスポーター輸送の特徴である飽和現象が見られなかったこと、また、 時間依存性実験で 5 分間という短い時間でほぼ飽和に至るという結果が矛盾なく説明できる。従 って、腎スライスを用いた方法では、GA、3MGA、GL のようなアルブミン結合率が高く、さまざまな 物質に吸着しやすい化合物のトランスポーターを介した輸送を評価することは困難であると考えら れた。 従って、今後の検討として、腎スライスを用いた実験では GA、3MGA、GL の 11β-HSD2 を阻害 実験を行い、生体に近い環境でのそれら3化合物の阻害力価を測定するとともに、それらを輸送 すると予想される有機アニオントランスポーターの遺伝子を腎尿細管上皮細胞に組み込んだ時の 輸送実験を行い、そのメカニズムを明らかにする実験が求められる。 5、まとめ 偽アルドステロン症発症の原因としてグリチルリチンおよびその代謝物の腎尿細管上皮細胞へ の取り込みを評価したが、ラット腎スライスを用いた方法では測定が困難であることが明らかになっ た。今後、遺伝子組み替え細胞を用いた実験など、新たな方法による検討が求められる。

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6、調査研究発表 なし

7、引用文献

Kato H, Kanaoka M, Yano S, Kobayashi M. 3-Monoglucuronyl- glycyrrhetinic acid is a major metabolite that causes licorice-induced pseudoaldosteronism. J Clin Endocrinol Metab 1995;80:1929-33.

Makino T, Ohtake N, Watanabe A, Tsuchiya N, Imamura S, Iizuka S, Inoue M, Mizukami H. Down-regulation of a hepatic transporter Mrp2 is involved in alteration of pharmacokinetics of glycyrrhizin and its metabolites in a rat model of chronic liver injury. Drug Metab. Dispos. 36(7): 1438—1443, 2008

楠原洋之. 薬物トランスポーター、膜輸送の基礎から薬物動態・生理的役割まで(6)腎臓、脳(血 液脳関門、血液脳脊髄液関門)における有機アニオンの排泄メカニズムとしての Organic Anion Transporter (OAT)の役割(1). Drug Metab Pharmacokinet 2003;18:11-4.

佐々木尚子、西尾久英、高岡裕、李明鎮、中川加奈子、佐々木知啓、薄木成一郎、西本隆、平 井みどり.甘草による偽アルドステロン症発症に関連すると思われた遺伝子変異について.第 25 回和漢医薬学会大会講演要旨集 2008;93.

塚本晶子, 本間真人, 神林泰行, 木津純子, 幸田幸直. 芍薬甘草湯誘因性低力リウム血症発 現に及ぼす種々の併用薬の影響. 医療薬学 2007;33:687-97.

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O

CH

3

H

3

C

CH

3

COOH

H

3

C

CH

3

RO

H

GL R = glucUA-glucUA 3MGA R = glucUA GA R = H

図1 GL、3MGA、GA の構造式

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0 200 400 600 800 1000 1200 0 200 400 600 800 1000 GL 3MGA GA 0 40 80 120 160 200 0 20 40 60 éÊÇËçûÇ›éûä‘ÅiminÅj GL 3MGA GA

図2 GL、3MGA、GA の腎スライスへの取り込み

各化合物の 5%BSA 溶液をラット腎スライスに取り込ませた。 左:各化合物、各濃度の溶液をを 10 分間、腎スライスに取り込ませたときの濃度依存性実験 結果 右:100 µM の濃度の各化合物 5%BSA 溶液を一定時間腎スライスに取り込ませたときの時間 依存性実験結果

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Development of marker compound for pseudoaldosteronism by OTC drug containing licorice

Toshiaki Makino

Department of Pharmacognosy

Graduate School of Pharmaceutical Sciences Nagoya City University

3-1 Tanabe-Dori, Mizuho-ku, 467-8603 Nagoya, Japan Tel & Fax +81 52 836 3416

Abstract

The mechanisms of pseudoaldosteronism induced by OTC drug containing licorice was that some compounds containing licorice inhibit 11β-hydroxysteroid dehydrogenase (HSD) II which is in renal tubular epithelial cells. Since glycyrrhetinic acid (GA), the major metabolite of licorice compounds, is not eliminated into urine and is predicted not to be penetrated through tubular epithelial cells, 3-monoglucuronyl glycyrrhetinic acid (3MGA), which is another metabolite and is eliminated into urine, is estimated to be a true origin for pseudoaldosteronism by licorice. Then, we evaluated the uptake pattern of GA and 3MGA into rat kiney slice to identify the transporter that transport these compounds from blood into the inside of tubular epithelialil cells. However, these compounds highly adsorbed onto many substances, and we could not measure the true uptake of these compounds in tubular epithelialium. Further experiments are demanded.

参照

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