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左心低形成症候群(HLHS:hypoplastic left heart syndrome)への対応

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日本小児循環器学会雑誌 13巻1号 82〜84頁(1997年)

〈Editorial Comment>

左心低形成症候群(HLHS:hypoplastic left heart syndrome)への対応

帝京大学小児科 柳川 幸重  治療困難であった多くの先天性心疾患の治療成績が飛躍的に向上しつつある現在においても,左心低形成症 候群(以下HLHS:hypoplastic left heart syndrome)の治療が,最後の難関の一つであることは多くの小児 循環器専門医・心臓外科医が認めるところである.わが国におけるHLHSの治療成績は,満足からほど遠く,

残念ながらその手術を勧めることをためらわせるほどである.その時点での患児本人の状態が良く,かつ両親 が手術を希望しない場合には,強くは勧めにくいのが多くの医師の本音であろう.

 手術成績の比較的良好な米国でも,HLHSの治療法には意見が分かれる.

 HLHSの管理に関しては,臓器移植が活発に行われている米国でも現在は三つの選択があり,統一された意 見はないようである.第1はNorwoodの手術およびその変法であり,第2はIL臓移植であり,第3は手術を 行わないという選択である1).本号に掲載された篠原らの論文「長期生存中の左心低形成症候群の4歳男児例」

は,両親の選択によりこの第3の道を選び,幸いにして比較的長期生存し得た例である.米国でさえも「手術 はしない」というこの第3の選択が残されているのは,第1,2の方法に如何に問題点が多いかの表れとも言

える.

 Norwoodの手術およびその変法の手術成績とその問題点:

 Norwoodの手術およびその変法の問題点を一言で述べれば,その歴史的な手術成績の悪さである.

 1989年1月から1995年6月までのHLHSの新生児50名の手術成績についてのBandoらの報告では,28名に はNorwood(第1期)の手術が勧められ,22名には最初心臓移植が勧められた.実際にはユ5名に心臓移植が行 われ,そのうち10名が生存したとされている.当初心臓移植を勧められ12口から42日間待っていたが,ドナー の得られなかった7名にもNorwoodの手術が行われた.心臓移植を計画されていた1名に対しては解剖学上 の理由からNorwoodの手術は行われなかった.したがって,結局Norwoodの手術は総計34名に対して行わ れたことになる.1年目での心臓移植患児の死亡率は18%(3/17)であるのに対して,Norwood手術の死亡率 は平均50%(17/34)であったと報告されていて,Norwood手術の手術結果は満足できるものではない.彼ら の分析では,Norwood手術の死亡率の危険因子としては,50分を越える長い循環停止時間,手術前のpH 7.20 未満のアシドーシス,4mm以上の大きな体・肺動脈短絡,2mm以下の小さな上行大動脈,僧帽弁閉鎖などが 上げられている.

 Norwood手術の手術成績はこの期間向一ヒし,1989〜1992年には36%であった生存率は1993年から1995年の なかごろには75%と大きく改善していると報告されているが,同時に心臓移植の成績も向上し1992年以来1名 も死亡していないという好成績である2}.つまり,ドナーさえ得られれば,心臓移植の方は,はるかに良い成績 ということになる.ただし,米国でも新生児の心臓のドナーを得ることは非常に難しいことは,心臓移植を計 画された22名中にもドナーが得られなかったためにNorwoodの手術の手術を施行された例が7名にのぼっ たことからも分かる.

 米国における心臓移植手術の問題点:

 一方,心臓移植手術にも問題が多いが,経験豊富な医療機関でのHLHSに対する心臓移植の成績は, Bando の報告のみならず,大変良いようである.Razzoukらの報告によると,1985年11月から1995年11月に至る10年 間に176名のHLHSに対する心臓移植手術が計画された.うち,8名には動脈管を開存させておくためのステ ントを置き,35名には心房中隔切開術を行ったが,34名(19%)は手術待機中に死亡した.しかし,残りの142 名には心臓移植を行うことができ,初期死亡は13名,後期死亡が22名であった,とされている3).

 手術成績は向上しているが,心臓移植後の管理はその時点で終了するわけではない.その後のサイクロスポ

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日小循誌 13(1),1997 83 (83)

リンの持続的な投与が必要とされ,血圧,けいれん,腎機能に注意した細かな経過観察が必要とされる.また,

定期的な心筋生検と冠動脈造影も必要である.ステロイドの投与は成長・発育が問題となる.また,新生児に これらの細かな管理に加えて,感染の危険も存在する.同時に,新生児の免疫機構に関しても未知の部分が多

い.

 直接的に問題となるのが,早期にドナーが得られるかどうかである.新生児に対しては当然小児の心臓が提 供される必要があるが,小児の「脳死」の判定は困難であるのでとくに難しい.これらは,小児における全て の臓器移植の問題点ではあるが,HLHSの時は時間的制約とともに,とくにその問題点が強く前面に出てくる

ことになる.

 この心臓のドナーに関する問題,心臓移植までの待ち時間の問題,移植後の問題点を扱った論文に関しては Webberらがまとめている4).米国におけるHLHSの外科治療の現在の問題点は, Norwoodの手術(変法も含 む)の手術成績が比較的良くなってきたこと,及び,心臓移植にまつわる上記の種々の問題点は未解決あるい はとりあえず解決不可能な問題点として残ることにある.

 わが国におけるHLHSの治療では,現在のところ移植という選択肢はない.手術に関しては佐野,井本,原 田らの工夫と報告などがあるが,手術成績は残念ながら満足できるものではない5)一一7).手術成績を左右する因 子に関しては,最近以下の論文がある.

 櫻井らはNorwood手術の1成功例とともに,本邦での82例の手術報告例を比較検討し,手術成功例では,

適度な大きさの心房中隔欠損があり,循環動態に破綻をきたすことなく,肺血管抵抗が低くなる時期まで待つ ことができた例では,手術時期は遅らせることができた.その結果,手術成績も良い結果となったと推測して いる8).また,星野らは,1983年4月から1995年8月に至る過去12年間に経験したHLHSの患児40例について 報告している.彼らの報告では,手術を行わなかった例は27名であり,そのうち1名は1年7カ月で生存中で あるが,これを除いた生存期間は平均28±32日であったとのことである.そして,手術非施行例での長期生存 の因子は,1.心房中隔欠損が4mm以下であること,2. ST低下がないこと,または,一過性であること,と

している9).

 これらの報告で共通しているのは,結果として循環動態の破綻を来すことなく比較的長期に生存し得たもの は,自然歴としての長期生存も可能であり,またその場合は手術結果も良い,ということであろう.端的に言っ てしまえば,はじめから状態が良く過ごせたものは,結果も良いし,はじめから状態が悪くなるものは,結果 も悪いと言うことになる.

 本号で篠原らの示した長期生存例では,動脈管も薬剤無しでも開存し得たものかもしれず,生存が医療の力 でなされたのか,結果的には自然歴に近いものなのかの判断は難しい.本論文の意味は,自然歴における長期 生存例の条件を推定したところにあり,その情報を今後のHLHSの管理やご両親への説明に役立てることに 意味があると言えるだろう.

      文  献

1)Moodie DS, Stillwell PC: Thoracic organ transplantation in children. The state of heart, heart−lung, and  lung transplantation . Clinical Pediatrics 1993;32(6):322−328

2)Bando K, Turrentine MW, Sun K, Sharp TG, Caldwell RL, Darragh RK, Ensing GJ, Cordes TM, Flaspohler  T,Brown JW: Surgical management of hypoplastic left heart syndrome . Ann Thorac Surg 1996;62(1):70   −76

3)Razzouk AJ, Chilmock RE, Gundry SR, Johnston JK, Larsen RL, Baum MF, Mulla NF, Bailey LL: Trans−

 plantation as a primary treatment for hypoplastic left heart sydnrome:Intermediate−term results . Ann  Thorac Surg 1996;62(1):1 7

4)Webber SA: Newborn and infant heart transplantation.[Review] . Current Opinion Cardiology l996;

  11(1):68−74

5)佐野俊二,紀 幸一,菅原英次,入江博之,青木 淳,中西浩二,田辺 敦,窪田武浩,高垣昌巳,三谷英信,井上  雅博,中村浩巳: 大動脈 肺動脈直接吻合によるNorwood手術 .日胸外会誌 1995;43(増刊):1426

6)井本 浩,角 秀秋,麻生俊英,塩川祐一,深江宏次,中野俊秀,三宅陽一郎,今坂堅一安井久喬: 左心低形成症  候群におけるFontan手術一Norwood手術およびBidirectional Glelm手術後の30 staged operation .日胸外会

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84−(84) 日本小児循環器学会雑誌 第13巻 第1号

 誌  1995;43(増干ij):1369

7)原田順和,竹内敬昌,長津正芳,後藤博久,里見元義,安河内聡,太田喜義. 左心低形成症候群(HLHS)に対す  るstaged Fontan手術 .日胸外会誌 1995;43(増刊)二1369

8)櫻井 一,玉木修治,原 修二,西澤孝夫,村山弘臣,田内宣生,西端健司,安田東始哲,小山富生,前田正信. 左  心低形成症候群に対するNowood手術一自験例および本邦報告例の検討一 。日胸外会誌 1995;43(増刊):1426 9)星野健司,小川 潔,北澤玲子,菱谷 隆,高橋一浩,山岸正明,中村 譲: 左心低形成症候群40例の検討一自然  歴・手術成績・長期生存の因子について .日児誌 1996;100(2):1427

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