モーションベースを用いた VR 酔いの抑制手法の検討
-回旋性視運動刺激に対して-
An examination of reduction VR sickness using motion platform -from the viewpoint of torsional visual motion stimuli-
1w163091-9 中村 駿也 指導教員 河合 隆史 教授 NAKAMURA Shunya Prof. KAWAI Takashi
概要: バーチャルリアリティ(VR)空間内で移動する時の現実感の向上のため、モーションベースに より前庭感覚情報を付与する方法がある。近年ではモーションベースを利用したVRコンテンツが 増加しているが、そのモーション設計はコンテンツ制作者の経験や感覚に依存し、ユーザー体験を 向上させる設計規則は不透明である。そこで本研究では、酔いを誘発しやすい視軸まわりに回転す るVR映像を対象に、その不快感を軽減するモーションベースの制御方法を実験的に検討した。そ の結果、モーションベース制御の提案手法が不快感を軽減するのに効果的であることが示唆された。
キーワード: 仮想現実、モーションベース、物理振動、眼球運動 Keyword: Virtual Reality, Motion base, Vibration, Eye movement
1 はじめに
モーションベースとは、VR 空間内で移動す る際に、人間の体全体を動かすことで前庭感覚 情報を付与し現実感を向上させるための装置 であり、アミューズメントでの利用が広がって いる。しかし、特にモーションベースの可動域 では再現が不可能な動きの視覚刺激における 適切なモーション設計は不透明で、研究が進ん でいない[1]。本研究ではそのような視覚刺激の うち、特に酔いを誘発しやすいとされる視軸ま わりの回転映像(回旋性視運動刺激)を対象に、
不快感を軽減する制御を実験的に検討した。
2 実験方法 2.1 実験条件
本実験では Injoy Motion 社製のモーション ベースを使用し、HMDはFOVE社製のFOVE を用いた。刺激映像はシリンダー内部を体験者 自身が時計回りに 60[deg/s]で回転する VR 映 像とした。回転時間は 20 秒間である。実験条 件はモーションベースが動かない条件(動きな
し条件)と、提案手法として、回転刺激中にモー ションベースが回転方向(右方向)に傾く条件 (正方向補償条件)と、逆方向(左方向)に傾く条件
(逆方向補償条件)の計3条件である。実験参加
者は健康な成人大学生20名である。
図1 実験刺激
2.2 評価指標
主 観 評 価 と し て SAM(Self-Assessment Manikin)を用いた。イラストを用いて、情動価 と覚醒度の2項目をそれぞれ9段階で答え、回 答者の感情尺度を測る質問紙である。
客観指標として、酔いと相関を持つ可能性が ある回旋性の眼球運動を用いた。実験中、回旋
性映像を観察することによる視運動性眼振と、
体傾斜による眼球反対回旋運動の2つの回旋性 眼球運動が発生することが予測され、その様子 を調べた。視運動性眼振には持続性の応答と一 過性の応答があり、それぞれの指標として眼球 回旋量の平均値と標準偏差を用いて解析した。
図2 視運動性眼振の例
3 実験結果
SAM のスコアに対し多重比較を行ったとこ ろ、情動価は動きなし条件に比べて、正方向補 償条件(p<0.01)および逆方向補償条件(p<0.05) において有意に高かった。覚醒度については、
条件間で有意差は認められなかった。
視運動性眼振の持続性応答成分についても 同様の解析を行ったところ、正方向補償条件に おいて、他の 2 条件より有意に小さかった (p<0.05)。一過性応答成分については、条件間 で有意差が見られなかった、
インタビューにおいて、モーションベースの 振動刺激が付加されることで不快感が軽減し たと多くの参加者が回答した。また特に正方向 補償条件では、自己回転感が強く臨場感がある とした意見が多かった。一方で、モーションベ ースが動く2条件のうち、どちらがより不快感 が軽減されるかについては個人差があった。
図3 情動価のスコアと眼球回旋量の平均値
4 考察
SAM の情動価から、提案手法により回旋性 映像の不快感が軽減されることが分かった。し かしそのメカニズムは、制御方向で異なること が示唆された。正方向補償条件では視覚と体性 感覚の不一致が軽減される。加えて、酔いと相 関を持つ可能性がある視運動性眼振の持続性 応答成分[2]の有意な減少も要因として考えら れる。また、体性感覚と視覚の身体感覚への影 響を扱った過去の研究では、視覚より体性感覚 が優位になることが報告されており[3]、逆方向 補償条件では、視覚情報の身体感覚への影響が、
より強い逆方向の体性感覚で打ち消される形 で、不快感が抑制されたと推測された。
5 まとめ
モーションベースを利用したVRコンテンツ において、回旋性の視運動刺激を観察する際、
モーションベースの回転方向またはその逆方 向への傾斜により、ユーザーの感情が快方向に 増進する事が分かった。ただし、より不快感を 軽減させる制御方向に関しては個人差が見ら れ、不快感が軽減されるメカニズムについても、
制御方向により異なることが示唆された。また、
特に回転方向に傾斜させた場合は、さらに臨場 感や没入感を演出できる可能性がある。
参考文献:
[1] 柏達晶ほか, “VR モーションベースによる 振動刺激の設計手法の検討”,人間工学会関 東支部 第49回大会講演集, B-2-2, 2019 [2] 氏家弘裕ほか, “視覚運動刺激による映像酔
いと回旋眼球運動”, 第18回生体・生理工 学シンポジウム論文集, pp.211-214, 2003.
[3] 橋本萌起ほか,” 没入型映像空間における傾 き知覚の分析 (3) -身体の傾きが与える影 響ついて-“, 情報処理学会第80回全国大会 講演論文集, pp.145-146, 2018