はじめに
この 3 月末、大阪大学を定年より 3 年早く退職し、
独立行政法人国立高等専門学校機構・鈴鹿工業高等 専門学校に校長として勤めている。早いもので三か 月が過ぎ、高専事情も徐々に分かってきた。鈴鹿高 専は国立高専の一期校として 1962 年に創立し、今 年で 50 周年を迎える。当初は、工業高校と工学系 大学との間に位置づけられる、中学卒業後の学生を 対象にした、5 年一貫教育による中堅技術者養成の 場としての役割を持っていたが、今では、卒業後も 2 年間にわたる専攻科への進学(修了すると大学卒 業と同等の資格を持つ)、また国立大学等への編入 学の道も開け、実践的創造的技術者の養成を目指す 多様なキャリアパスを用意した地位を築くようにな った。この高専においても、ご多分に漏れず、ソー ラー、バイオマス、小水力等の再生可能エネルギー に関する研究は盛んである。そこで本稿では、昨年 の 9 月、欧州の環境・エネルギーの先進地域を視察 する機会を得た経験をもとにエネルギー自立の村に ついて述べることにする。なお、私の専門分野は交 通計画、地域・都市計画であるので、専門的にみて も興味深い地域であった。
シンゲンのソーラーコンプレックス社
2011 年 9 月 10 日から 10 日間、全国の市町村から 派遣された 16 名の職員およびスタッフ 2 名、そし てコーディネーターの私の 19 名で、欧州の環境先 進地域であるストラスブール、フライブルク、チュ ーリッヒ、そしてボーデン湖畔にあるシンゲンとい うドイツの町を訪ねた。この町にはソーラーコンプ レックス社がある。社長のミューラー氏は 2000 年 に 20 人の株主により会社を興したが、現在では 700 人の株主を抱えるまでになっている。彼は 2030 年までに、ボーデン湖畔をエネルギー自立の地域に することを考えた。エネルギー自立とは、地域で消 費するすべてのエネルギーを地域で産み出したエネ ルギーでもって賄うという、いわばエネルギーの地 産地消である。
彼が偉い点は、会社を興すには資金が必要となる が、その資金のすべてを市民の出資によることを考 え、それを実行した点にある。彼の会社の理念に賛 同する人は多かろうが、それだけでは市民は出資し ない。銀行より高い利回りで出資したお金に利子が つくことが必要である。彼は人々の倫理観に訴える とともに、経済的な実利も保証したのである。
この会社は、エネルギーソースとして地中熱以外 は全部扱っている。2001 年に小学校の屋上に設置 したソーラーパネルによる発電 18 キロワットが最 初であるが、現在では 10 メガワット程度までその 規模を伸ばしている
ドイツの電力全量買取り制
わが国でもこの 7 月より再生可能エネルギーソー スにより発電された電力に対する全量買取り制が始 まった。この考えはドイツの仕組みを参考にしたも のであるが、ドイツでは、2000 年から導入されて いる。ソーラーの場合、わが国では 1 キロワット時
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Short Visit to Village of Energy Self-reliance in Europe
Key Words:renewable energy, renewable resources, self-reliance Village, Mauenheim, Europe
新 田 保 次
**Yasutsugu NITTA 1949年5月生
大阪大学工学部土木工学科卒業(1973年)
大阪大学大学院工学研究科土木工学専攻 修士課程修了(1975年)
現在、独立行政法人国立高等専門学校機 構 鈴鹿工業高等専門学校 校長 大阪 大学名誉教授 工学博士 交通計画、都 市・地域計画
TEL:059-368-1701 FAX:059-387-0338
E-mail:[email protected]
欧州のエネルギー自立の村を訪ねて
随 筆
表―1 エネルギーとお金の循環の before and after
Before After(2006 年)
□村の外部へ: 30 万ユーロ支出 【内訳】
・灯油 30 万リットル購入 (20 万ユーロ)
・50 万 kwh の電力購入 (10 万ユーロ)
■お金の収支:− 30 万ユーロ (ただし、村の運送会社に灯油運 送代 6000 ユーロは落ちる。)
□村の外部へ:支出なし
□外部から村へ:60 万ユーロの収入 【内訳】
・バイオマス電力の売電収入(60 万ユーロ)
□内部の循環:42 万ユーロ
①木質材を工場でチップ化し家庭に販売(5 万ユーロ)
②牧草等をバイオマス工場に販売(22 万ユーロ)
③バイオマス工場は家庭へ給湯(15 万ユーロ)
(バイオマス工場は発電もする:発電 60 万ユーロ(前掲))
■お金の収支:+ 102 万ユーロ
写真 1 ソーラーパネルを張った家々
42 円で買い取ることになったが、ドイツでは、57 セント(現在価格で約 60 円)から始まり、昨年 1 月では 29 セント(約 30 円)となった。そして今年 からはコンセントからの電力価格とソーラーによる 自家発電価格が約 22 セントと同等になり、今後は ソーラー価格の方が安くなるものと予想されている。
つまりこれからは買取り制の仕組みは不要となり、
市場に任せておけば自然と再生可能エネルギーにシ フトしていくことになる。我が国においても、この ような推移を狙っている。
マウエンハイム村の取組み
ソーラーコンプレックス社が手掛けたエネルギー 自立の村の一つに、マウエンハイム(Mauenheim)
村がある。その村の家々にはソーラーパネルが設置 され、美しい田園風景を醸し出している(写真 1)。
この村のエネルギーとお金の循環の before and af- ter を示したものが表− 1 である。以前は灯油と 電力の購入のために村の人は 30 万ユーロを使って いた。このお金は村に落ちずに、ほとんどすべてが 外部に支払われていた。灯油は北海か中東かはわか らないが、いずれにせよ国外から輸入され、電力も 村の外で発電されたものである。わずかに村に落ち ていたお金は、運送会社に支払われていた運送費程 度のものであった。
それが、バイオマス発電や給湯設備などを導入す ることにより、エネルギーを 100%自立する村に変 わった。さらに電力を売ることも可能になり、外部 から多額の収入を得ることができるようになった。
自立を超えて儲かる村に変わったのである。そして 雇用の場も生まれ、若者が外に出る必要もなくなっ てきた。このようにエネルギーの地産地消は地域で
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の雇用の場の確保、地域活性化にもつながるのであ る。
再生可能エネルギーを活用したまちづくり
私の古里は岡山のチベットといわれる吉備高原の 北のはずれの谷合に位置している。中学生の頃、町 の人口は最も多く 7000 人を超えていた。それでも 人口密度は 1 ヘクタール 1 人以下であったが、現在 では人口減少は続き 3000 人を切るようになっている。
同時に 3 人に 1 人以上が高齢者の超高齢化した町で もある。このような町は多くの限界集落を抱え、い つ集落が崩壊しても不思議ではない。全国各地にこ のようなところは多数存在するが、それらの将来に 思いを馳せるとき、先に述べたマウエンハイム村の ような取り組みはできないものかと思う。
私が住んでいる集落には製材所がある。この工場 は私が生まれたときにはすでに存在していたので、
もう 60 年以上は経っている。この間、国産木材の 輸入材への転換による製材量の大幅な落ち込みを経 験したが、倒産の危機を乗り越え、今も存続してい るのは立派である。最近では間伐材の製材やチップ 化で持ち直し、村の最大の雇用の場となっている。
このような製材所を核にバイオマス発電を行えたら と思っている。具体化するには多くの課題があろう が、もし実現できたとしたらエネルギーの自立の村 に近づけるし、何より雇用の場の確保につながり、
高齢化と人口減少に歯止めがかかるのではないかと 期待している。
新しいまちづくりに向けて必要なもの
私は交通まちづくりを専門としている。まちづく りを主に交通の面から行うものである。今回の欧州 視察においても、1990 年以降、目を見張る交通シ ステムのリノベーションが行われたストラスブール も訪ねた(写真− 2)。このまちは 1960 年代に全面 撤去した路面電車を一層進化した形で復活した。こ の路面電車は LRT と呼ばれるが、この LRT を軸に 車に依存しない、公共交通中心のまちに創り変えた のである。翻って、この 20 年間の日本を見ると、
歩道が広がる程度で、しかも自転車が混在した形で の歩道整備で、抜本的な交通整備はなされず、やは り車依存であり公共交通は衰退する一方である。知 恵と工夫がない。
なぜ、ヨーロッパでは チェンジ が起き、日本 ではそうはならなかったのかを考えることは重要で ある。チェンジの要件として、① ビジョン を明 確に打ち出すこと。②ビジョンを実現するための 要素とシステムに関する統合 技術 を開発するこ と。③チェンジに必要な 参加 および合意形成、
④ 財源 確保の仕組みを作り、そして⑤これらを 推進するための 法 制度を整備すること、である と思っている。ビジョン(V)、技術(T)、参加(P)、
財源(F)、法制度(L)の 5 つの面におけるチェン ジが必要である。エネルギー自立の地域づくりにお いてもそうであり、わが国におけるチェンジ、そし て発展を期待したい。
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写真 2 ストラスブールの中心部