38 生 産 と 技 術 第59巻 第3号(2007)
はじめに:
知識基盤社会を迎えるにあたって,大学院は質的 にも量的にも変化を期待される存在となってきてお ります.質的な面では,平成元年に大学院設置基準 における博士課程の目的・役割に従来からの「研究 者として自立して研究活動を行う能力」に加えて,
「その他の高度に専門的な業務に従事するのに必要 な能力」の涵養が付け加えられました.これは博士 課程修了者がアカデミック分野以外にも多様な分野 へ転進することを期待されるようになったことを示 しております.また,量的な面では,平成3年の大 学審議会の答申において「大学院の量的整備」が掲 げられ,博士課程修了者数は現在,図1のように平
成3年(1991)当時と比較して2倍以上となりまし た.
理工系修士課程に関しては,就職率は常時80%を 超えており,社会への円滑な移行がなされておりま す.しかし理工系博士課程に関しては,アカデミッ ク志向が強いといわれており
1),その就職率は図1 のように60%を下回り,就職先としても図2のよう
に教員(ほとんどが大学教員)や科学研究者(ポス ドクを含む)などのアカデミック関係の仕事に多く が従事する傾向にあります.
昨年度から,博士人材のキャリアパスの多様化支援 を目的として「科学技術関係人材のキャリアパス多 様化事業」が文部科学省から委託を受けた機関によ り実施されております
2).こういった取組みを首尾 よく機能させるためには,なぜ現在,博士人材が多 様なキャリアパスを歩まないのかという議論が喚起 されることが必要です.
今春,私は博士課程修了者,修了予定者を対象と して図3に示すアンケートを実施しました
3).この
博士課程修了者のキャリア意識調査
奥 井 隆 雄
*The study of post graduate mind on their career
Key Words:Diversity of career path,PhD student,Postdoc,knowledge-based Society
1976年1月生
大阪大学大学院工学研究科電子情報エネ ルギー工学専攻博士課程修了(2004年)
現在,セントラル硝子株式会社硝子加工 部アンテナ開発グループ,国立教育政策 研究所「理系高学歴者のキャリア形成に 関 す る 実 証 的 研 究 」 研 究 分 担 者 , 博 士
(工学) ,アンテナ工学,高等教育 TEL:090-2068-7441
E-mail:[email protected]
*
Takao OKUI
図1.理工系博士課程の修了者数および就職率の推移
(医学系は除く,学校基本調査報告書を元に作成)
図2.理工系博士課程就職者のうち専門的・技術的職業に就い たものの細目別内訳(医学系は除く,平成17年度学校基 本調査報告書を元に作成)
若 者
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相談者からの情報が役に立ったと回答している割 合がもっとも高いが,役に立った相談者として指 導教員を挙げた回答者は少ない.
・アカデミック就職者も企業就職者も多くがアカデ ミック就職者の割合の高い研究室に所属してい た.
・アカデミック就職者の進路相談者がほぼアカデミ ック分野の人間に限定されているのに対して,企 業就職者は企業の人間やアカデミックの人間など より多くの異なった環境の人間に進路相談をして いる傾向がある.
・アカデミック就職者も企業就職者も指導教員はそ の進路に好意を示している割合は高い.
・アカデミック就職者も企業就職者も大学・公的研 究機関以外の進路に対する抵抗感はそれぞれ 80%,60%であり高い傾向がある.しかし,抵抗 感を感じる理由についてはアカデミック就職者の 場合は「元々アカデミックを志向していた」とい う自分の志向に関する理由を挙げていたのに対し て,企業就職者の場合は「アカデミック以外に進 むことは負け組みと周囲から思われる」という自 分のおかれている環境を挙げるものが多かった.
以上のことから,博士課程は元々アカデミック志 向が強い人たちが進学してきており,研究がアカデ ミックにおいて評価される点,自分の周囲の人間も アカデミック志向である点などから,在学者のアカ デミック志向をより強化していく方向に作用してい るのではないかと考えられます.そのため,企業就 職希望に転じた場合には, 「アカデミック以外に進 むことが負け組みと周囲から思われる」環境はとて も居心地の悪いものとなります.
博士を揺さぶる:
アンケート結果から企業就職者の場合は幅広くい ろいろな人間に進路相談をしている傾向が見えてき ました.このことは企業就職者が進路を決める際に アカデミックキャリアとそれ以外で大きく揺れてい ることを示しています.キャリアパスの多様化のた めには,より視野を広げてキャリアを考えられるよ うにしなければなりません.そのために,意図的に 学生が抱いている将来の目標に対して,もっと自身 アンケートでは,博士課程における「研究テーマに
対する自己評価と他者評価」 , 「進路を考える上での 環境」および「自分の進路に対する周囲の評価」が,
「アカデミック以外の進路への抵抗感」 , 「博士課程 修了後の進路」に影響を及ぼすのではないかと仮定 をしております.特に進路を考える上で指導教員の 影響が重要なのではないかと考えました.
博士人材のキャリア開発についての議論構築のお 役に立てればと思い,このアンケート結果を通して 見えてきたことを,ここで報告させていただきます.
アンケート結果: