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共通知識はいかにして成立するか 筒井 晴香

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Academic year: 2021

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共通知識はいかにして成立するか

筒井 晴香

立教大学文学部/日本学術振興会特別研究員(PD)

何事かが人々の間で公然と知られ、自明な周知の事柄となることは、ごく日常的に 生じる。例として次のような状況を考えてみよう。二人の人が同じテーブルにつき、

向かい合っている。テーブルの上には一本のろうそくがある。このとき、テーブルの 上にろうそくがある(p)ということは両者の間で公然たる事実であり、彼らはpとい うことを自明の前提としてコミュニケーションを行うことができる。ここで成立して いるのは、単に各々がpということを知っていることだけではない。ではこのとき、

何がどのように知られているのか。共通知識(common knowledge)あるいは相互知 識(mutual knowledge)概念は、この例で成り立っているような知識のあり方を捉え たものである。共通知識はコミュニケーションや共同行為等において重要な基盤を成 している。本発表では共通知識概念の定義に関する検討を行う。

共通知識のポピュラーな定義として、以下に挙げる「反復的定義」がある。(二者間 の場合)ABの間でpということが共通知識であるのは、以下の時その時のみ:A pを知っており、かつBpを知っており、かつABpを知っていることを 知っており、かつBApを知っていることを知っており、かつABAp を知っていることを知っていることを知っており…(以下、無限に続く)」。反復的定 義においては、無限個の相互的な高階の知識が各々の行為者に帰属される。この点は 定義の心理的妥当性に関し疑問を生じさせる。

上述のような無限性の問題に対し、どのような解決が与えられているか。有限階ま での相互的な高階の知識のみによって共通知識を定義づけるという案は、心理的妥当 性の面で現実的ではあるものの、ある事実が完全に公然と知られている状態を十分に 特徴づけることができない。他方、無限個の相互的な高階の知識の推論可能性によっ て共通知識を定義づける「共有環境定義」は、それなりに妥当なものとして広く受け 入れられている。この定義の眼目は以下のようなものである。人々が同一の環境を共 有し、かつ、知覚や推論、背景知識のあり方に関する一定の前提を満たす場合、彼ら は任意の階の相互的な高階の知識を推論によって導出することができる。このとき、

彼らは実際に無限個の高階の知識を明示的に持っているわけではないが、このような 状態こそが、人々の間で共通知識が成立している状態に他ならない。

本発表では共有環境定義を受け入れた上で、この定義に関する次の疑問点について 検討を行う。共有環境定義によれば、共通知識が成立するのは知覚や推論、背景知識 のあり方に関する一定の前提が満たされる場合である。では、これらの前提を妥当な ものとして認めることは、我々にとっていつ、いかなる場合に可能となるのか。共通 知識がいつ、いかなる場合に成立するかという問いは、結局のところこの点にかかっ てくる。

(2)

上の問いに対し、共通知識が成立する具体的な事例に着目することで以下が言える。

我々は、互いの知覚や推論、背景知識のあり方に関する積極的な証拠を見出し、それ に基づいて一定の前提を認めているわけではない。そうではなく、我々は否定的な証 拠がない限りにおいて、互いに、他者が標準的な知覚能力・推論能力・背景知識を持 ち合わせていることをデフォルトで仮定しているのである。この点からの帰結として 以下の二点を指摘できる。第一に、共通知識の成立において、特定の相手の知覚や推 論、背景知識のあり方について個別的・具体的に知ることは必ずしも必要ではない。

第二に、人間の標準的なあり方についての理解は社会文化的背景に依存するため、共 通知識の成立のありようも社会文化的文脈に依存することとなる。

最後に、さらなる課題として「知覚や推論、背景知識の標準的あり方に関する理解 の獲得の解明」「コミュニケーションが共通知識にもたらしうる影響の解明」の二点を 挙げ、本発表の締めくくりとする。

参照

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