九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
数値シミュレーションを援用した超音波深傷の欠陥 寸法評価精度向上に関する研究
前田, 正広
https://doi.org/10.15017/1654985
出版情報:Kyushu University, 2015, 博士(工学), 論文博士 バージョン:
権利関係:Fulltext available.
(様式2)
氏 名 :前田正広
論 文 名 :数値シミュレーションを援用した超音波探傷の 欠陥寸法評価精度向上に関する研究
区 分 :乙
論 文 内 容 の 要 旨
近年、コンテナ船の大型化に伴って甲板構造へ50mmを超える極厚板を採用することが多くなっ ているが、このような極厚板では靭性低下に伴う脆性破壊の発生が懸念されている。脆性破壊を防 止するには、き裂長さをその材料の靱性値と作用応力、使用温度から決まる限界長さ以下にするこ とが必要であり、実製品でそれを保証するために、初期溶接欠陥や疲労き裂の長さを高精度に測定 する技術の構築が望まれている。構造物の内在欠陥の検出には、主に放射線透過試験と超音波探傷 試験が用いられているが、大型構造物の検査や供用中の検査への適用を考えた場合には、被曝の問 題や検査の容易さから超音波探傷試験が利用されることが多い。超音波探傷試験では計測した波形 から欠陥の寸法評価を行っているが、欠陥の評価は検査技術者の豊富な経験と技量によるところが 大きく、欠陥の評価結果には大きなばらつきが存在するのが現状である。
本研究では、熟練者や専門家の経験を必要としない欠陥同定を高精度に行う手法の開発を目的と して、超音波伝播挙動を追跡できるFEA(有限要素解析)プログラムを開発し、実験結果と比較して 解析精度の検証を行うとともに、開発した解析プログラムを用いて、探傷時の波形やエコー高さな どから欠陥性状を精度よく同定する方法について様々な検討を行った。
第1章の緒言に続いて第2章では、超音波探傷の基礎として、欠陥の探傷方法および超音波探傷 の理解に必要な超音波の特性についてまとめた。
第3章では、超音波の伝播挙動を解析する超音波伝播挙動解析プログラムを開発し、その精度検 証を行った。開発した数値解析プログラムを用いると試験体内部の超音波の複雑な伝播挙動を把握 することができ、欠陥からの反射波形、その伝播時間、エコー高さについて計算結果が実験結果を 精度よく推定できていることを確認した。計算結果を用いて試験体内部の超音波の伝播挙動を可視 化することにより、超音波の伝播を視覚的に把握し、効率的に欠陥を検出、評価するための探傷条 件の検討が可能である。
第 4 章では、開発した超音波伝播挙動解析プログラムを用いて数値シミュレーションを実施し、
現在適用されている欠陥寸法測定法であるデシベルドロップ法や端部エコー法の適用性について検 証した。欠陥性状による反射波形の違いや使用する振動子のサイズ、周波数、屈折角等の探傷条件 の違いが探傷結果に与える影響を調べることは、探傷結果の信頼性向上に役立つと考えられる。し かし、欠陥寸法の推定精度が探触子の種類や欠陥サイズによってどの程度変化するかについての詳 細な情報は得られていないのが現状である。そこで、スリット状欠陥に対して探触子種類、欠陥性 状を変えて計算を行い、欠陥エコーがどのように変化するかを調べて欠陥寸法の推定を行った。そ の結果、周波数が高く、振動子幅が小さい方が小さな欠陥を検出できることを確認した。また、振 動子幅と同程度の欠陥までは精度よく欠陥長さを同定できるが、欠陥が振動子幅より小さくなると
欠陥長さを過大に評価することがわかった。
第5章では、超音波伝播挙動解析プログラムによる計算結果を援用して、超音波探傷試験におけ る欠陥からの反射波形から、精度よく欠陥性状の同定を行う方法について検討した。超音波探傷試 験で得られる波形形状、および欠陥エコー高さは欠陥の種類や性状との相関がある。欠陥性状が既 知である種々の欠陥に対して探傷試験を行い、実際の超音波探傷試験で得られた反射波の情報をこ れらと比較することにより、未知の欠陥性状を推定できる可能性が高い。しかし、この方法では既 知である種々の欠陥に対して探傷試験を行うため、多大な期間とコストがかかること、また判定を 行う技術者の修練度の差により判定結果が異なることが問題であった。そこで、技術者の経験を必 要としない高精度な欠陥同定を簡便、かつ迅速に行う手法として、計算結果を教師データとしたニ ューラルネットワークを構築し、欠陥性状の同定を行った。まず、構築したニューラルネットワー クを利用して超音波試験で取得した欠陥からの反射波形データから欠陥性状を推定し、それが実際 の欠陥性状とよく一致していることを確認した。また、従来の欠陥推定手法では過大に評価される 振動子幅より小さい欠陥についても、精度よく寸法推定が可能なことを示した。
第6章では、船体構造の定期点検時の非破壊検査を効率的に実施する方法を構築することを目的 に、塗膜が超音波エコー高さに及ぼす影響について調べた。供用中の構造物は防錆の目的から塗装 されている。塗膜上から超音波探傷試験を実施する場合,塗膜の厚さによりエコー高さが変化する ため、通常は塗膜をはがして検査が行われる。そこで、塗膜厚さが異なる塗膜付き試験体を作製し、
探触子種類を変えてエコー高さの計測を行うとともに、数値シミュレーション計算結果などに基づ いて、塗膜が超音波エコー高さに及ぼす影響について調べた。その結果、塗膜厚さによるエコー高 さの変化は塗膜内での超音波の多重反射による干渉と、超音波が塗膜に入射する際に生じる超音波 のモード変換により発生する波の伝播時間の差による干渉の両方が原因であることを明らかにした。
さらに、垂直探傷の場合には、塗膜内での超音波の干渉影響を減じることを目的に非干渉板を塗膜 と探触子の間に設置することで、塗膜影響をキャンセルできる可能性があることを示した。
第7章では、本論文における研究結果をまとめて総括とした。